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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


               懲戒処分


                   兼業・二重就職

1.ポイント


(1)兼職・兼業を禁止する就業規則の規程は、

その職業が会社に職場秩序を妨害し、もしくは労務の提供に

格別の支障をきたす、たぐいの兼職・兼業である場合には

合理性を失わない。

(2)業務の内容によっては、労働者の兼職・兼業により

会社の対外的信用が傷つけられる場合があり、

そのような場合も、兼職・兼業の禁止は有効である


2.モデル裁判例

  小川建設事件 東京地決昭57.11.19 労判397‐30

(1)事件のあらまし

 営業所の事務員として稼動していた労働者が、

就業時間外である午後6時から午前0時まで、約11ヵ月の間

キャバレーのリスト係および会計係として勤務していることが使用者に発覚した。

そこで、使用者が、就業規則の規定

(「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われた時」)に基づき

通常解雇の意思表示をしたので、

労働者が地位保全の仮処分を申し立てた。

 労働者は、二重就職を禁止する就業規則の無効・

採用面接の際の使用者による事前許可の存在・

解雇権の濫用等を主張し、

一方の使用者側は、二重就職を禁止する就業規則の合理性と有効性・

採用面接の際の使用者の事前許可の不存在・

正当な解雇権の行使等を主張した。



(2)判決の内容

 労働者側敗訴

 法律で兼業が禁止されている公務員と異なり、

私企業の労働者は一般的には兼業が禁止されておらず、

その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになる。

労働者は、労働契約により一日のうち一定の限られた時間のみ

労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由な時間で

あることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、

特別な場合を除き、合理性を欠く。

しかしながら、労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復の

ため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供の為の

基礎的条件をなすものであるから、使用者をしても労働者の自由な時間の

利用について関心を持たざるをえない。

また、兼業の内容によっては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、

体面が傷つけられる場合もありうる。したがって、従業員の兼業の許否に

ついて、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮した上での

会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは

不当とは言いがたい。

本件労働者の兼業の職務内容は、使用者の就業時間とは重複していない

とはいえ毎日に及ぶものであって、単なる余暇利用のアルバイト域を

越えるものである。従って、当該兼業が使用者への労務の誠実な提供に

何らかの支障を来す蓋然性が高いと見るのが社会一般の通念であり、

事前に使用者の承諾が得られるとは限らないものであったことからして、

本件労働者の無断二重就職行為は不問に付して然るべきものとは認められない。



3.解 説

(1)従前の裁判例との違い

 本決定が出るまでの従来の裁判例は、おしなべて言えば、

兼職・兼業を懲戒事由とすることは肯定しつつも、その適用範囲を絞り、

あるいは、具体的影響の如何を問題とする傾向にあった

永大産業事件 大阪地判昭32.11.13 労民集8‐6‐807、

平仙レース事件 浦和地判昭40.12.16 労民集16‐6‐1113)。

本決定は、兼業制限規程の合理性に関し、その根拠として労働者の

自由時間利用が適度な休養に用いられるべく制約されていることを

明言せずに、逆に自由裁量に係ることを容認するがごとき理解を示す点が

特徴的である。

また、解雇の相当性についても、兼業の職務内容如何にかかわらず、

労働者が使用者に無断で二重就職したこと事態が企業秩序を

阻害する行為であり、使用者との契約上の信頼関係を破綻する

行為であるとしている。


(2)その他の裁判例

 兼職・兼業については、労働者が会社社長の実弟が設立した

競争関係にある別会社の取締役に就任したことにつき、

解雇当時、右従業員が競争会社の経営に直接関与していなかったと

しても、将来、直接関与する事態が発生する可能性は大きく、

経営上の秘密が競争会社に漏洩する可能性もあるからとの理由で

懲戒解雇が有効とされた

橋元運輸事件
(名古屋地判昭47.4.28 判時680‐88)、

会社が長時間労働による従業員の疲労度を軽減し、作業効率の向上を

図るため、組合の了承の下に、時間外労働及び休日労働を廃止し、

右手当に代わる特別加算金を支給している状況下において、

労働者が会社の再三にわたる警告にもかかわらず、勤務時間外に、

数回にわたり競争会社に就労したことは、懲戒解雇事由たる

「許可なく他に就業しないこと」の禁止に違反するとした

昭和室内装置事件( 福岡地判昭47.10.20 判夕291‐355)、

Y社の経理部長であるXが他方でA社の代表取締役としてY社の

取引先と取引をしていたことがY社側の知るところとなり、

釈明を求められたにもかかわらず出勤せず、鍵等の提出命令にも

応じなかったことを理由とする懲戒解雇が有効とされた

東京メディカルサービス事件
(東京地判平3.4.8 労判590‐45)等の

裁判例がある。

 また、比較的最近の最高裁判決として

聖パウロ学園事件(最一小決平12.9.28 労判794‐5) がある。

 これは、使用者から1年の試用期間経過後契約終了の通知を受けた

労働者が、使用者を相手として地位確認を争った別訴で一・二審共に

勝訴し使用者側が上告したところ、その上告中に使用者が使用者の

就労拒否により稼働の為に喫茶店を経営し始めた労働者の行為を

「二重就職」だとして懲戒解雇したという事案である。

 最高裁は、一・二審における使用者が就労を認めず

賃金も支給していなければ、就業規則所定の兼業禁止等の平常時の

労務管理規則を殊更持ち出して追い討ち的な解雇処分をすることは

就業規則の適用上、あるいは解雇権の濫用になり得るとの判断を

支持し、解雇を無効としている。



           










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