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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


           

                 
 

                       整理解雇

1.ポイント


(1)整理解雇=経営上の理由による人員削減のための解雇については

@人員削減を行う経営上の必要性の有無、

A使用者による十分な解雇回避努力

B被解雇者の選定基準およびその適用の合理性

C被解雇者や労働組合との間の十分な協議

という4つの観点から、

解雇権濫用の成否が判断される。


(2)近年の裁判例においては、

使用者による被解雇者に対する再就職の支援などの、

解雇を前提とした不利益軽減措置の存在

、整理解雇の効力の判断においてどのように考慮するか

などの点が問題になっている。

2.モデル裁判例

  大村野上事件 長崎地大村支判昭50.12.24 労判242‐14

(1)事件のあらまし

 下着縫製品の製造販売業を営む

Y会社は、不況による減産等を理由として、

Xら29名を解雇した。

解雇の対象としてXらを選んだのは

、@共稼ぎであり解雇によって直ちに生活が不可能になるおそれがない

、A作業能力が著しく劣る、

B上司や同僚との協調性に欠ける、

との理由によるものであった。


 Xらは、本件解雇の無効を主張し、Yの従業員たる地位の保全を

求めて仮処分を申請した。



(2)判決の内容 


 労働者側勝訴

 整理解雇が権利濫用となるか否かは、

主として次の観点から考察してこれを判断すべきである。

@当該解雇を行わなければ企業の維持存続が危殆に瀕する程度に

差し迫った必要性があること、

A従業員の配転、一時帰休、希望退職募集等の労働者にとって

解雇より苦痛の少ない方策による余剰労働力吸収の努力が

なされたこと、

B労働組合ないし労働者(代表)に対し事態を説明して了解を

求め、人員整理の時期、規模、方法について労働者側の納得が

得られるよう努力したこと、

?整理基準及びそれに基づく人選の仕方が客観的・合理的であること。


 本件解雇については、一体何名の人員整理が必要であったか不明である上、

本件解雇後に任意退職者が出たことで人手不足になり労働者の

新規募集・採用を行っていることなどからすれば、

前示のような差し迫った人員削減の必要性があったとは

認められない。

仮に、人員削減の必要性が認められたとしても、

Yは親会社への配置転換や一時帰休、希望退職募集等の

努力を全くしていない。

また、Yは労働者側と人員整理の必要性等について協議を

することなく、解雇当日の朝礼の席上で人員整理についての

簡単な説明をしてXらにその場で抜き打ち的に解雇を通告

している。

このように、本件整理解雇は極めてずさんな人員計画から

安易に指名解雇という結論を導いたものであって、

以上の諸点を検討しただけでも

解雇権の濫用として無効といわなければならない。

3.解 説

(1)整理解雇の有効性の判断枠組み


 整理解雇= 経営悪化等の経営上の理由による人員削減のための

解雇についても、解雇権濫用法理((83)[解雇]参照)の下でその効力を

判断されることになる。

ここでは、他の解雇理由と異なり、解雇の理由がもっぱら使用者側の

事情に求められるという特殊性を考慮するとともに、

オイルショック後に大企業などで見られた雇用調整手法を反映する形で、

@人員削減を行う経営上の必要性の有無

A使用者による十分な解雇回避努力、

B被解雇者の選定基準およびその適用の合理性、

C被解雇者や労働組合との間の十分な協議、という、

モデル裁判例も挙げる4つの観点から解雇権濫用の成否を

判断する枠組みが、裁判例においてほぼ確立している

(こうした枠組みを採用することを明確に述べた最高裁判決は

存在しないが、原判決の結論を支持し、上告を棄却した例として


あさひ保育園事件 最一小判昭58.10.27 労判427‐63がある)。

 これら@〜Cについては、それぞれが整理解雇の独立した

有効「要件」なのか、あるいは解雇権濫用の成否という総合判断の

中で考慮される「要素」なのかが問題にされることがあるが、

近年の裁判例には、後者の考え方に立つものが多いようである

ロイヤル・インシュランス・パブリック・カンパニー・リミテッド事件 

東京地決平8.7.31 労判712‐85など。


 また、裁判例の中には、解雇事由の有無の判断基準として

@〜Bを挙げ、Cを(協議が十分でないことを)解雇の効力を妨げる事由と

位置付けるもの

東洋酸素事件 東京高判昭54.10.29 労民集30‐5‐1002)や、

外資系銀行における一部業務からの撤退を理由とする整理解雇の

事案において、@〜Cとは一部異なる独自の判断枠組みを提示するもの

(ナショナル・ウエストミンスター銀行(第3次仮処分) 事件 東京地決平12.1.21 

労判782‐23)なども、少数ではあるが存在する。



(2)各要素について

 1)人員削減を行う経営上の必要性

 モデル裁判例は、「企業の維持存続が危殆に瀕する程度に

差し迫った必要性」という高度の必要性を要求するが、

今日では、より緩やかに、経営上の合理的理由が認められれば

足りる(人員削減が経営状況打開のための唯一残された手段で

あることまでは要求しない)とする例が多い

ゾンネボード製薬事件 東京地八王子支決平5.2.18  労判627‐10 、

大阪暁明館事件
 大阪地決平7.10.20  労判685‐49 など)。

なお、経営上の必要性の程度があまり大きくない場合には、

解雇回避努力の要請が強化されるという考え方を述べる裁判例も見られる

(前掲ゾンネボード製薬事件ヴァリグ日本支社事件 東京地判平13.12.19 

労判817‐5など)。


 2)使用者による十分な解雇回避努力


 一般に、残業規制、配転・出向、新規採用の抑制・停止、

非正規従業員の雇い止め、希望退職募集などが挙げられるが、

何をもって十分な解雇回避努力と認めるかは、

個々の事案によっても違いがある。


 なお、近年の裁判例においては、企業内での配転等による

解雇回避を十分に期待できない事案などについて、

使用者が再就職支援等の被解雇者に対する打撃軽減

措置を採っていることを整理解雇の効力を判断する際に

考慮する例も見られる

(前掲ナショナル・ウェストミンスター銀行(第3次仮処分)事件など)。


 3)被解雇者の選定基準およびその適用の合理性


 被解雇者の選定に関しては、客観的な選定基準の

設定(この点で「適格性の有無」という基準の客観性を否定した例として、

労働大学事件 東京地判平14.12.17 労判846‐49)に加え、

当該基準の合理性が求められる。何が合理的な基準かは

、個々の事案ごとに判断されることになるが、一般的には、

懲戒処分歴や欠勤率等の会社への貢献度に基づく基準、

扶養家族の有無等の労働者の生活への打撃の程度を考慮した

基準などが考えられる。比較的最近の具体例としては、

53歳以上の幹部職員という基準の合理性を否定した、

前掲ヴァリグ日本支社事件などがある。


 4)被解雇者や労働組合との間の十分な協議


 労働組合との協議は、労働協約等に解雇協議条項が

存在しない場合にも信義則の観点から必要とされる。

また、労働組合の組合員でない労働者に対しても、

整理解雇の必要性、具体的実施方法等について、

説明し、理解を求める努力が必要とされる。



       








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