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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


                         普通解雇

                               



                    労働者側の事情を理由とする解雇

1.ポイント


(1)労働者側の事情を理由とする解雇には、

傷病等による労働能力の低下を理由とする解雇、

能力不足適格性欠如を理由とする解雇、

非違行為を理由とする解雇などがある。


(2)上記いずれの場合にも、

解雇の効力は、解雇権濫用法理の下

就業規則上の解雇事由該当性

解雇理由の合理性

解雇の社会的相当性等を

審査することで判断される。


(3)使用者は、

教育訓練配置転換等の手段で

解雇を回避する努力をしなければならないとする裁判例が多い。



2.モデル裁判例


  セガ・エンタープライゼス事件 東京地決平11.10.15 労判770‐34

(1)事件のあらまし

 原告労働者Xは、大学院卒業後Y会社に就職し、人事部での採用事務、

人材開発部での社員教育業務、

企画制作部での外注管理業務、

開発業務部でのアルバイト従業員の雇用事務・品質検査業務等に

従事した。

この間、Xは業務遂行上問題を起こして

上司に注意されることや、

業務に関して顧客からYに対して苦情がなされることがしばしばあり、

Xの勤務成績査定も低いものであった。

その後、YはXを

特定の業務がない「パソナルーム」に配置し、

退職勧告を行ったがXが応じなかったため、

就業規則19条1 項2号の

「労働能率が劣り、向上の見込みがない」との

普通解雇事由を適用して

Xを解雇した。

Xは、解雇の効力を争い仮処分を申し立てた。



(2)判決の内容 

 労働者側勝訴(解雇の無効を認め、Yに賃金の仮払いを命じた)


 XがYの従業員として平均的な水準に達していなかった

からといって、直ちに本件解雇が有効となるわけではない。

Yは、就業規則19条1項2号の「労働能率が劣り、向上の見込みがない」に

該当するとして本件解雇を行っているが、

同号に該当するといえるためには、

平均的な水準に達していないというだけでは不十分であり、

著しく労働能力が劣り、

しかも向上の見込みがないときでなければならない。

 YはXに対し、更に体系的な教育、指導を実施することで

その労働能力を向上する余地もあったといえる。

また、Yは、雇用関係を維持すべく努力したが、

Xを受け入れる部署がなかった旨の主張もするが、

Xが面接を受けた部署への異動が実現しなかった主たる理由は

Xに意欲が感じられないなどといった

抽象的なものであることからすれば、

Yが雇用関係を維持するための努力をしたものと評価することはできない。


3.解 説

(1)労働者側の事情を理由とする解雇

 解雇権濫用法理の下での解雇の客観的合理的理由

((83)[解雇]参照)の中で、

?傷病等による労働能力の喪失・低下、

? 能力不足・適格性の欠如、

? 非違行為は、

解雇の原因が主として労働者側に存在するタイプの解雇理由である。

これらはいずれも普通解雇の理由となりうるものであるが、

?については、就業規則等で定められた懲戒事由に該当する場合、

懲戒解雇の対象にもなりうる。


 これらの理由に基づく解雇の効力を解雇権濫用法理の下で

判断する際の枠組みは、

事案に多様なヴァリエーションが存在することもあって

判例上必ずしも確立しておらず、個々の事案ごとに

解雇理由の重大性や改善の余地、使用者の対応のあり方など

が総合考慮されることになる。

裁判例の中には労働者が使用者に対する誹謗中傷を行った事案において、

「信頼関係の破壊」を合理的な解雇理由と認めた例もある

学校法人敬愛学園事件 最一小判平6.9.8 労判657‐12)。



(2)能力不足を理由とする解雇


 モデル裁判例は、労働者の能力不足を理由とする解雇について、

解雇の根拠となった就業規則上の解雇事由の妥当範囲を限定する

解釈を行い、

本件のXは同規定に該当しないとして解雇を無効としている。

労働者の能力不足を理由とする解雇においては、

使用者による当該労働者の能力が不足しているとの

評価の妥当性が第一に問題となるが、

一般に、裁判所はこの点に関する

使用者の評価に違法・不当な点がないとしても、

そのことから直ちに解雇の合理的理由・社会的相当性を

肯定して解雇を有効とすることには消極的である。



モデル裁判例も、Xの能力評価が低位のものであったことは認めつつも、

労働者の能力が全体の中で相対的に低位であるというだけ

では就業規則上の解雇事由に該当するといえないこと、

使用者は解雇回避(雇用維持)のために

労働者の能力向上を図るための努力が求められること

等に言及して、前述の判断を導いている。


 類似の裁判例として、

労働者に技能発達の見込みがないことを理由とした解雇につき、

当該労働者の低査定は不当といえないとしつつ、

同人の業績不振の原因としては

会社自体の業績不振や同人の配置のあり方等の事情も指摘できること、

同人が過去に担当した業務の中には問題なく遂行できるものもあったこと、

低査定者に対する処遇としては降格もあり得たこと

等を理由として解雇事由該当性を否定した

森下仁丹事件
(大阪地判平14.3.22 労判832‐76)、

使用者による売上目標の設定に十分な具体性がないこと

等を理由に、労働者に解雇事由に相当する著しい成績不良が

あったとはいえないとして解雇を無効にした

日本オリーブ(解雇仮処分)事件(名古屋地決平15.2.5 労判848‐43)等がある。


 一方、労働者の能力や適格性に重大な問題があり、

使用者が教育訓練や配置転換等による解雇回避の努力をしても

なお雇用の維持が困難である場合には、解雇は有効と認められる

三井リース事件 東京地決平6.11.10 労経速1550‐23など)。

また、高度の職業能力を有することを前提として中途採用された

労働者が期待された能力を発揮しなかった事案においては、

使用者に求められる配転等の解雇回避努力の程度が軽減される

など、能力不足・適格性欠如を理由とする解雇の有効性は、

通常の労働者の場合よりも肯定されやすい傾向が見られる

フォード自動車事件 東京高判昭59.3.30 判時1119‐148

ヒロセ電機事件 東京地判平14.10.22 労判838‐15など)。



(3)傷病を理由とする解雇


 傷病による労働能力の欠如・

低下を理由とする解雇については、

当該労働者の労働能力が職務遂行が不可能な程度にまで

低下していたかが第一に問題になるが、

近年の裁判例では

更に、業務内容の変更による雇用維持の客観的可能性や、

使用者がこうした雇用維持の可能性を検討していたか

等の事情を問題にする例が多い

(結論として解雇を無効にした例として

全日本空輸(退職強要)事件
 大阪高判平13.3.14 労判809‐61、

中川工業事件
 大阪地決平14.4.10 労経速1809‐18など。


解雇を有効にした例として福田工業事件 大阪地決平13.6.28 労経速1777‐30など)。












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