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        個別労働紛争解決基準としての労働判例シリーズ


         

                 解雇  



                              解雇の社会的相当性

1.ポイント


(1)解雇は、客観的合理的理由社会通念上の相当性

認められなければ権利濫用により無効になる。

(2)就業規則や労働協約が定める解雇事由に

該当する場合であっても

使用者は当然に労働者を解雇できるわけではなく、解雇が

権利濫用にならないかどうかが問題になる。


(3)解雇の理由となった労働者の行為が軽微なものであり、

当該理由をもって解雇を行うことが過酷に過ぎる場合や、

他の労働者の取扱いとの均衡を欠く場合には、

社会的相当性を欠くものとして解雇は無効となる。


(4)社会的相当性の判断に際しては、

労働者に有利な事情が広く考慮される

2.モデル裁判例

  高知放送事件 最二小判昭52.1.31 労判268‐17

(1)事件のあらまし


 原告労働者Xは、放送事業を営む

被告Y会社のアナウンサーであった。

昭和42年に、Xは2週間の間に2度、宿直勤務の際に寝過ごしたため、

午前6時からの定時ラジオニュースを放送できず、

放送が10分間ないし5分間中断されることとなった。

また、Xは2度目の放送事故を直ちに上司に報告せず、

後に事故報告を提出した際に、事実と異なる報告をした。


 Yは、上記Xの行為につき、就業規則15条3項の

「その他、前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」との

普通解雇事由を適用して

Xを普通解雇した。

Xは解雇の効力を争い提訴した。



(2)判決の概要 


 労働者側勝訴


 Xの行為はYの就業規則15条3項所定の普通解雇事由に該当する。

しかし、普通解雇事由がある場合にも、

使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとに

おいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上

相当なものとして是認することができないときには、

当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になる。


 Xの起こした放送事故はYの対外的信用を著しく失墜するもの

であるが、しかし他面、本件事故はXの過失によるもので悪意ないし

故意によるものでないこと、先に起きてXを起こすことになっていた

ファックス担当者が2回とも寝過ごしており、事故発生につきXのみを

責めるのは酷であること、放送の空白時間はさほど長時間とはいえ

ないこと、Yは早朝ニュース放送の万全を期すべき措置を講じていない

こと、Xはこれまで放送事故歴がなく平素の勤務成績も悪くないこと、

ファックス担当者は譴責処分を受けたに過ぎないこと、

Yにおいて過去に放送事故を理由に解雇された例がないこと等の

事実に鑑みると、Xに対し解雇をもってのぞむことは

いささか過酷に過ぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、

必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと

考えられる余地がある。

従って、本件解雇を解雇権濫用とした原審の判断は正当である。


3.解 説

(1)解雇権濫用法理

 2003年の労働基準法改正で新設された

同法18条の2は、解雇は客観的合理的理由と社会通念上の相当性を

欠く場合には、権利を濫用したものとして無効とする、

と規定している。

この規定は、それまで判例法理の形で存在していた解雇権濫用法理と

呼ばれる解雇制限法理を労基法の条文の中に取り入れたものである。


 労基法18条の2が設けられるまで、わが国においては、

民法上の解雇自由原則(627条1項)を前提として、

特定の理由による解雇の禁止や、解雇の手続に関する

解雇規制の条文が設けられていた((81)[解雇]参照)が、

裁判所は、より広汎な解雇制限法理として、

権利濫用禁止の法理(民法1条3項)を用いて

解雇の効力に大幅な制限を加える

解雇権濫用法理を確立していた(最高裁判決における法理の確立は

昭和50年の日本食塩製造事件 最二小判昭50.4.25 民集29‐4‐456で

あるが、下級審裁判例においては、より早い時期から確立した法理であった)。

労働基準法18条の2は、日本食塩製造事件(前掲)で最高裁が

定式化した解雇権濫用法理の文言をほぼそのままの形で

労働基準法の条文に取り入れたものであり、

内容的にも、それまでの判例法理をそのまま条文化したものと解されている。


(2)解雇権濫用の判断枠組み


 労働基準法18条の2の下で解雇が有効になるためには、

解雇について

「客観的合理的理由」と

「社会通念上の相当性」の

存在が必要になる。

前述したように、労働基準法18条の2は、

それまで判例法理の形で存在していた解雇権濫用法理をそのまま

条文化したものであるため、これらの文言の解釈に当たっては

解雇権濫用法理に関する従前の判例法理が先例としての意義を

有し続けることになる。


 解雇の「客観的合理的理由」については、

@傷病等による労働能力の喪失・低下、

A能力不足・適格性の欠如、

B非違行為、

C使用者の業績悪化等の経営上の理由(いわゆる整理解雇。(85)[解雇]参照)、

Dユニオンショップ協定に基づく解雇

(但し一定の制限がある。

三井倉庫港運事件
 最一小判平元.12.14  民集43‐12‐2051 参照)、などが

これに該当する。

一方、「社会通念上の相当性」の判断においては、

当該事実関係の下で労働者を解雇することが過酷に

過ぎないか等の点が考慮される。



(3)解雇の社会的相当性の具体的判断


 モデル裁判例は、最高裁において解雇権濫用法理が

確立された後、比較的早い時期に出された最高裁判決であり、

解雇の効力を厳しく制限する同法理の特徴を示した

判決として有名であるが、その判断の特徴は、解雇の社会通念上の

相当性(社会的相当性)に関する判断に顕著に表れている。

すなわち、本判決は、本件におけるXの行為は就業規則上の

解雇事由に該当し、かつ、Xの側に非があるとする一方で、

労働者側に有利な事情を多数列挙して最終的には

Xを解雇することは過酷に過ぎ、社会的相当性を欠くとして

解雇を無効としている。こうした判断は、少なくとも労働者の

過失行為が問題になった本件のような事案においては、

労働者に有利な事情を最大限に考慮する裁判所の姿勢を

示すものといえる。


 関連する裁判例としては、勤務終了後に酒気を帯びて、

同僚の運転するバスに乗車するため停留所以外の場所で

バスを停止させ、運行に遅延を生じさせたことを等理由と

するバス運転手の解雇につき、遅延の程度がさほど大きくない

こと、自己の非を認めて反省する態度が見られること、

バス運転士として24年間勤務し無事故賞等の表彰歴があること、

再就職の容易でない中高齢者であること、

当該会社・同業他社に置いて同様の行為で解雇された例が

見られないこと等から解雇の社会的相当性を否定し、解雇権

濫用の成立を認めた

西武バス事件(東京高判平6.6.17 労判654‐25、最三小判平7.5.30 労判672‐15)

などがある。









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