警察部隊の装備車両−3(装甲車編)

警察部隊は元来から装甲車を装備していましたが、第2次大戦の開戦後には装甲車/戦車部隊の拡大に伴い、占領地区で捕獲した各種の装甲車を装備しました。


ドイツ・オーストリア・チェコ製装甲車

1.ダイムラーDZVR警察用装甲車 (Pol.-Sonderkraftwagen Daimler DZVR)
SonderWagen for Polizeizwecke Daimler

 1924年から1928年にかけて合計33両が製造された警察用装甲車で、シュタイヤーADGZ装甲車の登場まで主力重装甲車として使用され、1939年のダンツィヒ占領にはまだ現役として出動しているようです。その後は随時引退してゆきますが、戦闘可能なあらゆる車両が動員されたベルリン攻防戦では再び警察部隊に編入されました。
 ベルリンの旧総統官邸の正面玄関前に放棄された車輌がGP12月号別冊「ベルリン攻防戦U」のP89とP114に掲載されています。

増強警察装甲車小隊「ベルリン」−1両?


2.シュタイヤー装甲車 (Panzerkraftwagen Steyr)
ADGZ装甲車 Panzerwagen ADGZ
 オーストリア製の8輪装甲車で、1935年からシュタイヤー社で生産されオーストリアの治安警備隊や陸軍に27両が配備されましたが、1938年のドイツによるオーストリア併合によってこれらの車輌はドイツに軍接収されました。1941年になって親衛隊から(警察用として)25両の追加発注があり、1942年に引き渡されましたので全生産数は52両(資料によっては51両)で、そのうち50両が治安警察部隊で「Panzerkraftwagen Steyr」(シュタイヤー装甲車)と呼ばれて使用されました。 グランドパワー誌2000年7月号に解説記事があります。
 シュタイヤー装甲車は次の各部隊で使用されました。

警察装甲車大隊第1増強警察戦車中隊−6両(?)
第2警察戦車中隊−6両
第3警察戦車中隊−6両
第4警察戦車中隊−6両
第5警察戦車中隊−6両
第6警察戦車中隊−6両
第13増強警察戦車中隊−6両


3.シュコダ装甲車 (Panzerkraftwagen Skoda)
PA−U装甲車/OAvz.23装甲車

 1924年から1925年にかけてチェコスロバキアのシュコダ社で生産された4輪装甲車で、試作型の2両を含めて12両が生産されました。1927年にウィーン警察に3両が売却され、残りの9両は1937年からチェコ警察で使用されたようです。
 ドイツによるオーストリア併合によりウィーン警察の3両は警察部隊に編入されましたが、チェコ警察の9両については不明です。

第16警察戦車中隊−2両


4.タトラ装甲車 (Panzerkraftwagen Tatra)
OAvz.30装甲車

 1933年から1934年にかけてチェコスロバキアのタトラ社で陸軍向けに生産された6輪装甲車で、武装として機銃2丁を搭載しました。全部で51両が生産されましたが、1939年2月に10両がチェコの地方治安警察に譲渡されたのを始め、ドイツによるチェコ併合により18両はスロバキア軍に編入、9両はルーマニア軍に譲渡、残りの14両はドイツ軍に接収されました。
 このうちチェコ地方警察に譲渡さけた10両が治安警察部隊に編入されたようです。

第14(増強)警察戦車中隊−3両


オランダ製捕獲装甲車

5.オランダ製装甲車 (Panzerkraftwagen Hollandisch)
Pzkw.L202(h)L181/M36装甲車 Pzspw.L202(h)
 L181重装甲車は1935年から1936年にかけて12両が生産されたスウェーデン・ABランズベルク社製の重装甲車で、ドイツ・ダイムラーベンツ社製のシャーシに装甲ボディーをかぶせ、37ミリ砲1門と機銃3挺を搭載していました。  オランダ陸軍は12両すべてをM36装甲車として採用し、この12両によって第1装甲車騎兵中隊が編成されました。また、ドイツ・ビューシング社製のシャーシを使用した改良型のL180はM38装甲車としてやはり12両が採用され、第2装甲車騎兵中隊が編成されました。M36とM38の外見は非常に良く似ており、M38の方が若干全長が長い程度でした。
オランダを占領したドイツ軍はこの装甲車を接収しましたが、実際に何両が使用されたか詳細は不明です。

・警察連隊「ミッテ」第10重装備中隊の装甲車小隊−2両
警察装甲車大隊第1増強警察戦車中隊−3両(?)
第14(増強)警察戦車中隊−3両


6.オランダ製クルップ装甲車 (Panzerkraftwagen Krupp,Hollandisch)

 クルップ社で試作された警察用装甲車L2H43のシャーシを流用して、1933年から1934年にかけてオランダのWilton-Fijenoordで製作された装甲車で、当初は東インド諸島(インドネシア)のオランダ軍に配備される予定で3両が作成されました。この計画は最終的にキャンセルされ2両はブラジルに売却され、残りの1両がオランダ占領と同時にドイツ軍に接収されました。
 その後どのような経緯を経たかは不明ですが、戦闘可能なあらゆる車両が動員されたベルリン攻防戦では警察部隊に編入され、旧総統官邸の正面玄関前でDZVR警察用装甲車とともに放棄された写真が残されています。

増強警察装甲車小隊「ベルリン」−1両


フランス製捕獲装甲車

7.パナール装甲車 (Panzerkraftwagen Panhard)
パナール178装甲車 Pzspw.P204(f)
 25ミリ砲を搭載し最大で20ミリの装甲を装備した優秀な装甲車でしたが、1934年から1940年のドイツ軍によるフランス侵攻までに360輌が生産されたにすぎませんでした。1941年6月の時点で190輌のバナール178装甲車がドイツ軍に使用されました。そのうちの34輌は鉄道用車輪を装備して鉄道警備用車両に改造されました。
 警察部隊では約30輌が次の各部隊で使用されたようです。

第7警察戦車中隊−6両
第8警察戦車中隊−6両
第9警察戦車中隊−6両
第10警察戦車中隊−6両
第11警察戦車中隊−6両


ロシア製捕獲装甲車

8.ロシア製軽装甲車 (Leichter Panzerkraftwagen Russisch)
BA-20装甲車 Pzspw.BA202(r)

 1936年から1939年頃まで生産されたBA−20は、GAZ−M14輪トラックをベースにヴィクシスキー工場で開発されました。車体装甲は従来のFAI装甲車の6ミリから10ミリに強化され、武装として機銃1丁を搭載しました。1938年からは無線機を改良し無線手を含めて乗員を3名としたBA−20Mが登場しました。全生産数は1000両以上になると思われます。警察部隊での詳しい使用状況は不明です。


9.ロシア製軽装甲車(Leichter Panzerkraftwagen Russisch)
BA-64/64B装甲車 Pzspw.BA64(r)

 1941年からゴーリキー自動車工場で新規開発中の4輪駆動多用途車GAZ−64をベースに開発され、乗員2名、車体装甲は最大10ミリ、武装は機銃1丁の軽装甲車として生産されました。1943年からはベースがGAZ−64のホイールベースを延長したGAZ−67になるなど改良され、BA−64Bとして本格的に量産され1946年までに3500両程度が生産されました。

第5増強警察戦車中隊


10.ロシア製重装甲車 (Schwerer Panzerkraftwagen Russisch)
BA-3,BA-6,BA-10装甲車 Pzspw.BA203(r)

 BA−3装甲車は1934年にGAZ−AAA6輪貨物トラックのシャーシに装甲車体とBT戦車やT26戦車と同様の45ミリ戦車砲(1932年型)を搭載した当時としては最も強力な装甲車でしたが、貨物トラックのシャーシを改造なしに使用したため、サスペンションの破損やへたりなどのトラブルが発生しました。そのためサスペンションの強化、車体重量の軽減、ギヤ比の調整により路外性能を向上させたBA−6装甲車が1935年から登場しました。1936年にはさらなる重量軽減とエンジンを強化したBA−6Mが登場し、1938年ごろまで生産されました。
 一連の6輪重装甲車シリーズの決定版として登場したのがBA−10装甲車で、1938年から1941年頃まで生産されました。車体や砲塔の更なる軽量化が図られ、45ミリ戦車砲(1934年型)や新型ペリスコープを搭載し、最も代表的なソ連装甲車として第2次大戦を戦い抜きました。またフィンランド軍に捕獲された車両は1950年代まで現役で使用されたそうです。

第5増強警察戦車中隊−3両(1944年3月改編以降?)
第12増強警察戦車中隊−6両?


イタリア製捕獲装甲車

11.イタリア製AB41装甲車(Panzerkraftwagen Italienisch(AB41))
AB41装甲車 Pzspw.AB41 201(i)
 イタリアがスペイン内戦での経験を元に開発した近代的装甲車AB40の発展型で、1941年から1944年までの間に約650両が生産されました。20mm機関砲の武装に加えて前後の操縦席、4輪独立懸架4輪操舵という非常に凝った機構を備えていました。
 イタリアの降伏により接収された車輌が治安警察部隊にも配備されましたが、何両が配備されたかは不明です。

第14増強警察戦車中隊−3両
第18軍管区高級SS及び警察指導者司令部中隊の戦車小隊−?
SS警察連隊「ボーゼン」第1大隊所属の装甲車小隊−?


12.イタリア製ランチア装甲車(Panzerkraftwagen Italienisch(Lanzia))
ランチアIZM装甲車 Pzspw.Lanzia IZM(i)

 1917年から1919年の間にランチアトラックのシャーシを利用して生産された旧式装甲車で、イタリアの降伏により接収された車輌が治安警察部隊にも配備されましたが、何両が配備されたかは不明です。

SS警察連隊「ボーゼン」第1大隊所属の装甲車小隊−?


13.リンチェ装甲車 (Panzerkraftwagen Lince)
Pzspw.Lince 202(i)

 ダイムラー・スカウトカーのコピー車両として計画されたものの1943年9月のイタリア降伏までには完成せず、計画はドイツ軍に引き継がれました。1944年から300両の生産が予定されましたが、1945年の終戦までにおそらく129両が完成し、主として後方での連絡用車両として使用され治安警察部隊にも配備されましたが、何両が配備されたかは不明です。

第14増強警察戦車中隊−4両


14.イタリア製10型装甲車 (Panzer10(Ital.))
TL37装甲兵員輸送車 TL37 250(i)

 1942年にフィアットAS37トラックのシャーシを利用して生産された装甲兵員輸送車で、10名の兵員を輸送することができました。150両が生産され一部はバルカン方面のイタリア軍部隊で使用され、1943年9月のイタリアの降伏により36両が接収されました。
 警察部隊では最低2両が使用されたようですが、配備部隊などの詳細は不明です。


 その他
15.火炎放射車両 (Flamm-Panzerwagen)
Sd.kfz.251/16
 Sd.kfz.251装甲兵員輸送車に火炎放射器と700Lのガソリンタンクを増設した火炎放射車両で1943年1月から生産され、第13増強警察戦車中隊に2両が配備されていました。

第13増強警察戦車中隊−2両
 


16.鉄道警備用軽装甲車両(Leichter Schienennpanzer)

第14(増強)警察戦車中隊


参考資料
「世界の戦車1915-1945」(大日本絵画 1996)
「月刊Panzer 2000年1月号 ソ連・ロシア装甲車史(6)装甲車の黄金時代-4」
「月刊Panzer 1999年12月号 ソ連・ロシア装甲車史(5)装甲車の黄金時代-3」
「月刊Panzer 1999年11月号 ソ連・ロシア装甲車史(4)装甲車の黄金時代-2」
「月刊Panzer 1999年10月号 ソ連・ロシア装甲車史(3)装甲車の黄金時代-1」
「月刊グランドパワー 1995年9月号 特集:第2次大戦のフランス軍用車両」
「月刊グランドパワー 1995年8月号 特集:第2次大戦のイタリア軍用車両」
「Panzerfahrzeuge und Panzereinheiten der Ordnungspolizei 1936-1945」(Podzun 1999)


2001.1.10 新規作成
2001.1.13 一部追加
2001.6.1 参考資料に資料を追加、gif画の更新、内容の一部訂正
2016.4.22 リンクを追加、修正

http://www.eonet.ne.jp/~noricks/