DNA修復・・・失敗は進化のもと
DNAの修復機構 :一本鎖の損傷修復、二本鎖の損傷修復、SOS修復、複製後修復
参考 : 相同組み換え、フーグスティーン型塩基対
DNA修復は、DNAの損傷を修復するプロセスです。
DNAの損傷は、1細胞につき、1日当たり、5万〜50万回の頻度で発生するようです・・・多いですね。
そのため、複数の修復機構があります。
DNAが高度に損傷を受けた場合に、SOS修復が行われます。
この時、ワトソン・クリック型ではなく、フーグスティーン塩基対を形成することが多いです。
この塩基対は、DNA-タンパク質複合体の中でみられます・・・
一本鎖DNAは、一本鎖DNA結合タンパク質と結合しています・・・
更に、tRNAの三次構造でもみられます。
DNAとタンパク質の原初の相互作用は、フーグスティーン塩基対で行われたのでしょうか?(詳細不明)
尚、SOS修復は厳密ではなく、誤りが多いですが・・・
DNA修復の失敗は、基本的に有害ですが、進化の要因でもあります。
DNA分子の損傷を修復するプロセスです。
DNAの損傷は、細胞が持つ遺伝情報の変化や損失だけでなく、
その構造を劇的に変化させることで、コード化されている遺伝情報の読み取りに重大な影響を与えることがあります。
細胞にはDNA修復を行う機構が備わっており、これらをDNA修復機構(DNA修復系)といいます。
DNA分子損傷の原因は、
正常な代謝活動に伴うもの(DNAポリメラーゼによるDNA複製ミス)と
環境要因によるもの(紫外線等)があります。
DNA修復には、
定常的に働いているものと、
環境要因等によって誘起されるものがあります。
細胞の加齢に伴うDNA修復速度の低下や、
環境要因のよるDNA分子の損傷増大により、
DNA修復がDNA損傷の発生に追いつかなくなると、多細胞生物の場合、
細胞老化(不可逆な休眠状態)
癌化
のいずれかの運命をたどります
配偶子におけるDNA修復の失敗は、
継代における変異の原因となっており、
生物における進化の速度にも影響します。
修復機構は、高度に保存されており、
起源は、先カンブリア時代までさかのぼるようです。
この時代に増加し始めた酸素は、
好気生物にとって生存に必須な分子であると同時に、毒性をもつ分子であるため、
それによる損傷を抑制し、修復する機構が進化した、という説があります。
DNAの損傷は、DNA配列として運ばれる情報に変化をもたらすため有害ですが、
DNAの変異と組替えは、進化の主要な要因でもあります。
DNAの損傷は、細胞内における正常な代謝の過程でも、1細胞につき、1日あたり5万〜50万回の頻度で発生します。
損傷とは異なりますが、
ヌクレオチド塩基のプリン-ピリミジン間の適正な対合と、誤った対合の間での平衡は、高々1万〜10万倍の比率しかなく、
そのままでは、正確な遺伝情報をDNAにコード化するには、不十分です。
真核生物では、DNAは、細胞核と、ミトコンドリアに存在します。
核DNA( nDNA )は、
核内に存在し、ヒストンタンパク質に巻き付き、染色体を形成し、保護された状態で存在しています。
nDNAにコード化されている遺伝情報を読み出す必要がある場合は、
必要となった区間だけが解きほぐされて、読まれ、再び巻きなおされて、保護された状態に戻ります。
ミトコンドリアDNA( mtDNA )は、
ミトコンドリア内に存在し、ヒストンと複合体を形成せず、
単一または複数のコピーからなる、環状DNAとして存在しています。
ヒストンによる保護がないため、mtDNAはnDNAに比べて非常に損傷を受けやすくなっています。
加えて、ミトコンドリアは、内部で生産されているATPのために、非常に強い酸化的環境となっており、
mtDNAを更に損傷を受けやすいものにしています。
損傷の原因
細胞内に起因するもの
環境由来のもの
紫外線
波長の短い電磁波(X線やγ線)
ある種の植物毒素
損傷を受けたDNAの複製により、DNA配列が変化し、突然変異の原因となります。
損傷の形式
DNAの損傷は、DNAの二重ラセンといった二次構造よりも、
むしろ一次構造に影響を与えるものが多いです。
塩基の変化
塩基の酸化(8-オキソ-7,8-ジヒドログアニンの生成)
塩基のメチル化(7-メチルグアニンの生成)
塩基の加水分解(プリン塩基やピリミジン塩基の脱離)
塩基の不正対合。DNA複製において、新しく生成されるDNA鎖上に不正な塩基が編みこまれるために生じます。
重複
脱アミノ化(シトシンからウラシルへ、または、アデニンからヒポキサンチンへの変化)
ヌクレオチドの挿入や欠失
類似塩基の取り込み
紫外線による、チミン二量体の形成
鎖の切断
電離性放射線による切断
核酸の骨格部分に取り込まれた放射性物質の崩壊
酸化的フリーラジカルの生成
架橋
同一鎖上の塩基対同士の架橋
対向する塩基対同士での架橋
タンパク質との架橋(ヒストン等)
DNAに加えられる様々な損傷に対応し、失われた情報を置き換えるために、様々な修復機構があります。
損傷によって変化し、失われた情報を修復するために、
損傷を受けていない方のDNAの相補鎖か、
姉妹染色体からの、情報を利用します。
損傷を受けたDNAは、細胞内で素早く検出することができるような形状に変化します。
特定のDNA修復に関連する分子は、損傷を受けた部位やその近くに結合し、
他の分子の結合や複合体の形成を誘導し、修復を可能にします。
関係する分子の種類と修復の機構は、以下の条件により決まります。
DNA分子の損傷の様式
細胞老化の状態
細胞周期のどの状態にあるか
DNA二重ラセンの一方の鎖への損傷には、様々なDNA修復の機構が存在します。
損傷の直接消去
特定の損傷様式に対して特化し、損傷を直接復元する修復機構です。
メチルグアニンメチル基転移酵素 ( MGMT ) :グアニンからのメチル基を除去します。
光回復酵素 (フォトリアーゼ) :紫外線照射等により生じたピリミジン二量体を、可視光の紫色や青色を利用して、修復します。
除去修復機構
損傷を受けたヌクレオチドを除去し、損傷を受けていない鎖の情報を元に修復する機構です。
塩基除去修復 ( BER )。
アルキル化(メチル化等)または脱アミノ化による損傷を修復する機構で、単一の塩基対に対する障害を修復します。
ヌクレオチド除去修復 ( NER )。複製後修復
紫外線によるものを含め、数十塩基対に及ぶ比較的大規模で、二重鎖を歪ませるような損傷に対して行われる修復です。
ミスマッチ修復( MMR。不正対合修復)。
DNA複製の際に生じた誤りの修正で、単一〜5塩基対程度の対合しない部位の修復を行います。
校正修復
DNA複製に平行して行われる、単塩基対のミスマッチ修復です。
大腸菌の場合DNAポリメラーゼにより行われますが、
ほ乳類では同様の機構なく、他の酵素によると考えられています。
この修復機構により、複製時に発生する不正対合は、1億から100億に1回の頻度に抑えられています。
一本鎖切断修復(単鎖切断修復)
酸化により生じた、DNAの一方の鎖のみの切断した部分を再結合させる修復です。
組換え修復
分裂する細胞にとって、DNA二重ラセンの両方の鎖が切断されてしまう、重大なDNA損傷です。
この障害を修復する機構には、
非相同末端再結合
の二種類ありますが、修復が不十分な場合も多いです。
相同組換えの場合、
切断部の修復の際に用いる鋳型として全く同一か、よく似た配列をもつゲノムを利用します。
この機構は、細胞周期において、主にDNAの複製中か、複製終了後に用いられると考えられています。
これは損傷を受けた染色体の修復が、新しく作成された相同な配列を持つ姉妹染色分体を利用することで可能になるからです。
ヒトゲノムでは繰り返し配列が多く、利用可能な同一な配列を多く含んでいます。
他の配列との間で交差して起こる組換えは、染色体の転座等、問題を引き起こすことも多いです。
この修復プロセスの機構は、減数分裂中の生殖細胞における、染色体交差の機構とほとんど同じです。
非相同末端再結合 ( NHEJ ) は、
損傷により生じた二つの末端をつなぐ機構ですが、
このプロセスではDNA配列がしばしば失われるため、修復が変異の原因となることがあります。
NHEJは、細胞周期のすべての段階で実行可能ですが、
主に、DNA複製前の、姉妹染色分体を利用した相同組換えが不可能な段階で起こります。
紫外線照射等により、高度にDNAが損傷を受けると、
これに対応するため、一斉に各種タンパク質の合成を始めます。
この反応をSOS応答といいます。
大腸菌では、
DNA修復に関わる多くの酵素は、
それをコードする遺伝子の上流にSOSボックスという配列をもち、
平時は恒常的に発現しているLexAというリプレッサーがここに結合し、転写が阻害されています。
RecAが、DNA損傷に応じて生じる、一本鎖DNAに結合することで活性化すると、
LexAの自己プロテアーゼ活性を亢進し、細胞内のLexAの濃度が減少し、DNA修復酵素が発現します。
このようにして合成されたDNA修復酵素により行われるDNA修復を、SOS修復といいます。
尚、SOS応答は、多くの細胞に認められる反応です。
SOS応答により誘導されるDNAポリメラーゼは、
大腸菌では、ポリメラーゼW、ポリメラーゼXがあります。
これらは普段複製を行っている複製ポリメラーゼと違い、3' - 5'エキソヌクレアーゼ活性(校正機能)を持ちません。
また、SOS修復のために誘導されるDNA修復は、
通常の塩基とは立体構造の異なる損傷塩基に対して塩基を挿入する必要性から、
複製ポリメラーゼと比べ、塩基対を形成する活性部位がゆるい構造となっており、
フーグスティーン塩基対等を形成することも多いです。
このため、SOS応答により誘導されるDNAの修復は、誤りが多いものとなります。
SOS応答により、環境の変化に伴い、多量に発生したDNA損傷を、迅速に修復することができます。
同時にゲノムの変異をもたらしますが、
これは長期的には、環境に適応した新しい変異株の発生をもたらすことで、有利に働くとされます。
Rad51に依存する経路
Rad6 に依存する経路
テンプレートスイッチ
紫外線照射により生じる塩基二量体は、ヌクレオチド除去修復 ( NER )によって修復します。
しかし、NERのみでは紫外線による損傷の一つである、シクロブタン型ピリミジン二量体( CPD )を完全に取り除くことは難しく、
損傷発生から24時間経っても、転写を受ける領域、受けない領域に関わらず、ゲノムに多くの損傷が残っているようです。
そのため、複製や転写の途中でポリメラーゼが損傷に遭遇し、反応が完了できないこともあり、非常に有害です。
特に紫外線損傷は、生物が日光の下にいる以上、常に発生するため、
複製や転写を行う際に、紫外線損傷がDNA上に残っていても、なんとか複製・転写を無事に完了させることが必要です。
生物は、こうした危機から自らを防御するため、
転写に共役した修復( TCR )と
複製後修復( PRR )、という機構をもっています。
TCRは、RNAポリメラーゼが損傷に遭遇した時に、
NERが活性化されて、転写反応進行中の鋳型鎖から速やかに損傷を除去する機構です。
PRRは、修復のための機構ではなく、
DNAポリメラーゼが損傷に遭遇し、複製フォークが停止した時に、
通常の複製反応とは異なるいくつかの経路によって損傷の存在する塩基の複製を行い、複製をひとまず完了させる機構です。
ゲノムに残存した損傷は、後から別の機構により修復されます。
PRRは、
相同組み換え( HR )により複製を行う経路( Rad51に依存する経路)と
更に後者は、無傷の姉妹鎖を使って複製を行う経路(テンプレートスイッチ)と
損傷が残っているDNA鎖を鋳型に、強行的に複製反応を進める経路( TLS。損傷乗り越え複製)があります。
TLS以外の経路では、損傷のないDNA鎖を鋳型として複製を行うため、本質的に無謬(むびゅう)ですが、
TLSは、損傷DNAを鋳型にして複製を進める性質上、誤謬が生じやすいため、
普段の複製時には機能しないように厳密に制御されています。
Rad6依存的な経路では、
無謬性の複製が行われるか、
TLSによる誤りがちな複製が行われるかは、
PCNAの翻訳後修飾によって制御されています。
Rad6 - Rad18依存的に、164番目のリジン残基がモノユビキチン化されると、TLSが行われ、
その後Rad5依存的に、ポリユビキチン化が行われると、テンプレートスイッチによる無謬性複製が行われます。
損傷乗り越え複製 ( TLS ) 複製後修復
TLSは、損傷塩基を鋳型に強行的に複製を行う機構です。Rad6 に依存する経路
これを担っているタンパク質群には、
ユビキチン化関連酵素や、
PCNA(増殖細胞核抗原。DNAのクランプとして働きます)、
Yファミリーポリメラーゼがあります。
Yファミリーポリメラーゼ
Rev1
脱塩基部位に対してシトシンを1つ挿入できますが、伸長はできません。
ポリメラーゼη
紫外線によって生じる、シクロブタン型ピリミジン二量体( CPD )を、唯一正確にかつ効率よく乗り越えられ、
その他の損傷塩基も、多くは正確に乗り越えられることから、
正確なTLSを行うために必須なポリメラーゼと考えられています。
ポリメラーゼι
Polηのパラログ。
( 6-4 )光産物のような、かさ高い損傷を、低効率ながら乗り越えられることが示唆されています。
また、塩基除去修復( BER )に関わっていることが示唆されています。
ポリメラーゼκ
CPDは乗り越えられないものの、
4-OHEN-dCのような、かさ高い損傷を、誤りながらも乗り越えられます。
ポリメラーゼζ
Bファミリー。
Rev3、Rev7のヘテロ二量体であり、
誤って塩基対を形成した末端からヌクレオチド鎖の伸長を行ってしまうことから、変異の固定に関わっている可能性があります。
相同性があるDNAの間で行われる、染色体の組換えです。
減数分裂の過程で、染色体の乗換えに伴うのが普通ですが、
体細胞分裂での乗換えに伴うものもあります。
相同組換えを触媒するのは、組換え酵素(リコンビナーゼ)という酵素です。
大腸菌を含む真性細菌においては、
RecAというリコンビナーゼが、
相同組換えを介して、DNA修復や外来DNAの取り込みに関与しています。
リコンビナーゼは、細胞にとって重大な障害である、DNAの二本鎖切断の修復に重要です。
大腸菌では、
電離放射線やDNA複製の失敗によってDNAの二重鎖が切断されると、
RecBCDという、ヘリカーゼとヌクレアーゼの複合体により、その末端の認識・消化が行われ、一本鎖DNAが生じます。
通常、生体内の一本鎖DNA領域は、一本鎖結合タンパク質 ( SSB ) によって保護されていますが、
RecBCDの働きにより、一本鎖DNA上にRecAタンパク質が配置されます。
その後、RecAタンパク質が、SSBを除去しながら、一本鎖DNA上に重合・伸長することにより、
右巻きラセンのヌクレオプロテインフィラメントが形成されます。
その後RecAフィラメントは、染色体上の相同領域を探して、組換え反応を行います。
酵母やヒトを含む真核生物では、
2種のリコンビナーゼが知られています。
Rad51タンパク質は、体細胞分裂と減数分裂での相同組換えに必要です。
Dmc1タンパク質は、減数分裂時の相同組換えに特異的に機能します。
相同組換えを介した修復が行われる際は、
ヘリカーゼとヌクレアーゼによって、一本鎖領域が生じ、
更に、一本鎖DNA結合タンパク質 ( RPA ) によって安定化されます。
その後Rad52タンパク質等の、組換え触媒タンパク質が、
一本鎖DNA上でRPAを除去し、Rad51を配置することで、
最終的にRecAと同様のヌクレオプロテインフィラメントを形成し、相同組換え反応を起こします。
塩基対のパターンの一つで、2つの核酸塩基が、主溝に面した2本の水素結合によって結合します。
ピリミジン塩基のN3位から供与された水素の受容体が、プリン塩基のN7位となっています。
(ワトソン・クリック型塩基対では、プリン塩基のN1位。)
フーグスティーン型塩基対は、DNA-タンパク質複合体の中に見出されます。
フーグスティーン型、ワトソン・クリック型の一方しか認識できないタンパク質もあるため、
分子間相互作用によって、片方が安定化された結果と考えられます。
DNAと配列特異的に相互作用するタンパク質は多いです。
核酸とアミノ酸の1対1相互作用は、発見されませんが、
DNAの歪みを認識することで、塩基配列を認識するタンパク質があるようです。
例えば、AまたはT塩基の連続により、副溝の幅が狭まり、
負電荷が集中することで、タンパク質のアルギニン残基により認識されるようになります。
三重構造
ワトソン・クリック塩基対に、もう一つの塩基対がフーグスティーン配座で結合することで、
DNAは、三重鎖構造( poly ( dA )・2 poly ( dT ) )、( poly ( rC )・2 poly ( rC ) )をとることができます。
tRNAの三次構造でもみられます。
四重構造
グアニンに富んだDNA・RNAは、グアニン四重鎖( G4 - DNA・G4 - RNA )という構造をとることがあります。
これには短いスペーサ配列を挟んだ、4つのグアニントリプレットが必要で、
4つのG塩基が平面上に並んで、フーグスティーン結合します。