転写 ・・・ 遺伝子から、RNAを合成する反応。

 

 

 転写 :開始、伸長、終結

 真正細菌の転写

 

 参考 :アボーティブ転写産物

 

 

転写とは、DNAの塩基配列(遺伝子)を元に、RNAが合成される反応です。

 

真正細菌古細菌は、細胞核がないので、細胞質中で転写を行い、

真核生物は、細胞核内で転写を行います。

 

転写されるRNAには、mRNAtRNArRNA等がありますが、

mRNA の情報が、タンパク質に翻訳されます。

(タンパク質に翻訳されないRNAは、ncRNAといいます。)

 

DNA上の転写範囲は、() の塩基配列により決まっており、この範囲を、転写単位(オペロン)、といいます。

 

転写には、開始、伸長、終結の過程があります。

 

転写産物は、RNAポリメラーゼにより合成されます。

真正細菌のRNAポリメラーゼは、単独で転写を始めることができますが、

真核生物は、様々なタンパク質が必要です。

 

真正細菌では、伸長がまだ終わっていなくても、ポリメラーゼから出てきた転写産物は、すぐに翻訳を開始できます。

 

RNAポリメラーゼも、転写を開始するには、約10ヌクレオチドの合成が必要です。

しかし、しばしばアボーティブ転写産物を放出して、最初から合成をやり直します(転写開始の失敗)・・・

DNAポリメラーゼによるDNA複製のように、プライマーゼを使わないのはなぜでしょうか?

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転写

開始

伸長

終結

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転写とは、DNAの塩基配列(遺伝子)を元に、RNA(転写産物)が合成される代謝過程です。

 

膨大な種類のタンパク質と、tRNA 等のRNAを、必要な時期に、必要な量を正確に合成します。

また、遺伝子(転写産物)の中には、特定のタンパク質に対応するものもあります。

 

遺伝情報に基づいてタンパク質を作ることを、遺伝子を発現するといいますが、

その前段階として、転写は重要です。

 

タンパク質を合成するために必要なmRNA の合成過程は、種によって非常に異なります。

 

原核生物では、mRNAを直接転写することができるのに対し、

 

真核生物は、転写で作ったRNA(一次転写産物pre-mRNA )に、スプライシング等の段階が必要です。

真核生物におけるmRNAを、特に成熟mRNA

成熟する前のRNAを、mRNA前駆体といいます。

 

また、転写から直接合成するRNAを、転写産物といいます。

 

転写には、開始、伸長、終結の過程があり、

また開始までに、様々な転写調節因子が転写の活性化や抑制に関わっています。

 

尚、クロマチン構造を通した転写制御機構もあります。

 

基本的な機構は全ての生物で共通していますが、各ドメインで違いがあります。

 

真正細菌は、細胞質中で転写を行い、転写機構も単純です。

 

真核生物は、転写を細胞核内でのみ行い、多数の酵素が関わる複雑な機構を用いています。

 

古細菌は、細胞質中で転写を行う点は真正細菌と同じですが、転写機構そのものは真核生物に類似しています。

 

転写産物は、RNAポリメラーゼにより合成されます。

この酵素はssDNAと結合すると、それと相補的なRNA鎖を合成します。

 

RNAポリメラーゼが結合する方を、鋳型鎖(転写鎖、() 鎖)、

もう片方は、非鋳型鎖 (非転写鎖、( + ) 鎖)、です。

 

転写産物が () 鎖と相補的であるので、その塩基配列は () 鎖に等しいため、

() 鎖が遺伝情報を保持しているといえ、コード鎖センス鎖)ともいいます。

 

 ()鎖は、アンチコード鎖アンチセンス鎖)といいます。

 

ただし、転写産物と() 鎖は、完全に同じではなく、

() 鎖におけるチミンは、転写産物でウラシルに置き換わっており、

DNARNAという違いもあります。

 

DNA上の転写範囲は、() 鎖の塩基配列により決まっており、この範囲を、転写単位オペロン)、といいます。

 

細菌のDNAには数百のオペロンがあり、

真核細胞では数千のオペロンを持ちます。

転写

 

開始

転写における開始段階では、

まずRNAポリメラーゼ等、転写に関わる酵素が、DNA上の転写開始部位に結合します。

この部位は、オペロンの5'側末端であり、プロモーターといいます。

 

結合した各酵素は、複合体(ホロ酵素)を形成しますが、

この構造は順序だって変遷するため、開始段階は、更に3つに分けられます。

 

1段階

組み込んだDNAが二重ラセンのままの、閉鎖型複合体 PRc )です。

 

2段階

転写はssDNAでないと実行できないため、

プロモーターをほどいた開放型複合体 PR0 )と、

ssDNA領域の転写バブル(先端を解離点、後端を巻き直し点、といいます)を形成します。

 

3段階

転写産物の開始となる、10nt (ヌクレオチド)の合成を行います。

RNAポリメラーゼが初めて活躍するこの時期は、初期転写複合体といい、

伸長段階に向けてプロモーターから脱出します。

転写

 

伸長

本格的に転写産物の合成が行われます。

 

RNAポリメラーゼは、結合しているDNAの塩基を正確に識別し、

4つのリボヌクレオシド三リン酸 ( RNP ATPGTPCTPUTP )の中からそれと相補的なものを選びます。

 

そして、直前の開始段階で合成された短いRNA鎖の5'末端に付加します。

 

その後、RNAポリメラーゼと転写バブルは、次の塩基へと移動し、再びRNA鎖にRNPを付加します。

 

この反応には、進む方向が決まっており、RNA5'末端から3'末端へ、

逆平行の () 鎖にとっては、3'末端から5'末端へ向かいます。

 

通り過ぎたDNA再会合します。

 

これを繰り返してRNAは伸長し、転写産物が作られていきます。

転写

 

終結

終結は、RNAポリメラーゼが、遺伝子末端にあるターミネーターまで来ると起こります。

 

ターミネーターは、RNAポリメラーゼと協力しながら、

転写産物とDNAとの結合を切り、

RNAポリメラーゼからも、DNAからも解離させます。

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真正細菌の転写(大腸菌)

真正細菌の転写開始

真正細菌の転写伸長

真正細菌の転写終結

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基本的な機構は他の生物でも同じですが、細部は異なっています。

真核生物に比べて単純です。

 

開始段階における特に大きな違いは、

細菌のRNAポリメラーゼは、単独で転写を開始できますが、

真核生物は、プロモーターに結合するのにも様々なタンパク質を要します。

真正細菌の転写

 

真正細菌の転写開始(第1 - 4段階)

 

1段階

RNAポリメラーゼが、プロモーターを認識し、閉鎖型複合体を形成します。

この複合体のDNAとの結合は可逆的であり、平衡定数( KB )106109 M-1です。

 

2段階

閉鎖型プロモーター複合体を、開放型複合体に変換します。

DNAとの結合は不可逆的であり、反応速度定数( k2 )10-310-1です。

 

1段階から第2段階への変化は、異性化強い結合)といい、

融解は−11から3の短い領域で起きます。

 

異性化すると、

ホロ酵素のβとβ'サブユニットが、下流DNAを固定する、

σの領域1.150Å移動して、酵素の外側に出る、

等、ホロ酵素が著明に変化します。

 

ホロ酵素がDNAと結合していない時

領域1.1は、開放型複合体にある鋳型鎖の通り道をふさいでいます

これは、領域1.1DNAと同様に負に荷電しているため、正に荷電したホロ酵素の活性中心溝で、

擬態した分子として振る舞うためです。

 

移動による開放で、DNAが入れるようになります。

 

3段階

初期転写複合体となり、プロモーターに留まっている間に10ntを合成します。

 

3段階のRNA合成は、伸長段階と比べ、複雑な過程を経ます。

ほとんどの転写はアデニンから始まりますが、合成された直後にこれを支えるのはDNAとの2本の弱い水素結合だけです。

このためホロ酵素は1番目と2番目のリボヌクレオチドを、次に来るNTPが反応できる状態で固定します。

 

尚、開始段階で10nt以上のRNAが合成されますが、

しばしばホロ酵素はアボーティブ転写産物を放出して、最初から合成をやり直します(転写開始の失敗)。トップ

この過程を繰り返さなければ、次の伸長段階へと移れません。

 

4段階

転写産物の先駆けが十分に長くなると、伸長段階に移行するために、ホロ酵素の立体構造が変化します。

この過程を、プロモータークリアランスといいます。

4段階から伸長開始までの時間を、プロモータークリアランス時間といい、短くても12秒はかかります。

 

10nt以上RNA合成に成功すると、

RNAポリメラーゼは、プロモーターを脱出して伸長段階へ突入します。

 

合成されたRNAは、ホロ酵素内部で塩基対を形成し、長くなるとRNA出口通路から外へ出ます。

また、ホロ酵素とプロモーター間の結合は全て切断されます。

ホロ酵素のσサブユニットも、本体との結合が弱くなります。

脱出に当たり、ほどかれたDNAが巻き戻り、同時に転写バブルが2224ntから1214ntに縮みます。

 

この過程が、

RNAポリメラーゼ - プロモーターと、

コア酵素 - シグマサブユニット間の結合を切断するのに必要な、自由エネルギーを供給します。

真正細菌の転写

 

真正細菌の転写伸長

伸長段階で、DNAは、開放型複合体の時と同様にホロ酵素内を通ります。

 

RNAポリメラーゼβとβ’サブユニットの間に、DNAの下流域が入り込み、

入り口で分離して別々の通路を移動します。

 

その後、ホロ酵素の背で、二重ラセンを再構成します。

 

基質のリボヌクレオチド三リン酸も専用の入り口から入ります。

 

鋳型鎖と塩基対形成しているのは、伸長中の3’末端の 8 - 9nt だけで、

他のはがれた部分はRNA出口通路から外へ出ます。

 

転写バブルの大きさは、伸長段階を通して一定で、

ホロ酵素は1bp(塩基対)ほどくと同時に、後方で1bp再会合させます。

 

DNAのような二重ラセンの高分子を酵素がほどく時、ねじれて大きなひずみができる問題があります。

このひずみは、DNAスーパーコイル(DNA超ラセン)といいます。

 

DNA複製にも同じ問題は生じます。

これらのひずみを解消するのが、トポイソメラーゼです。

 

RNAポリメラーゼは、転写中しばしば16秒、一時停止します。

時には後戻りすることもあり、転写の平均的な速度は遅いです。

理由として、

アテニュエーションや翻訳が失敗して転写を中断しなければならない場合に、より遅い翻訳に合わせるため、

一時停止が、真正細菌の終結における第一段階であるため、

等とされます。

 

RNAポリメラーゼは、転写産物の塩基配列に誤りがないかの校正を、2種類の方法で行います。

 

1. 加ピロリン酸分解校正

間違って付加したリボヌクレオチド三リン酸を、活性部位の逆反応で除去します。

この反応は、3'末端から二リン酸を奪うので、付け直しも行います。

間違った塩基対は、正しい塩基対より活性部位に長く留まるため、逆反応を受けやすくなります。

 

2. 加水分解校正

1個以上のヌクレオチドの距離を引き返し、間違いを含む塩基配列を切り離します

 

加水分解校正とともに伸長自体を促進する、Gre因子があります。

この因子は伸長反応を効率よくし、転写の難しい所で停滞させないようにします。

 

伸長段階でホロ酵素に加わり、伸長と終結を助ける、Nusタンパク、というタンパク質群もあるようです。

 

RNAポリメラーゼが途中で転写をやめる場合があります。

原因の多くはDNAの損傷ですが、

これに出会うとそこから先の転写を続行できない上に、

停止すれば他のポリメラーゼも妨害してしまいます。

 

これに対処するため、TRCFが、停止したRNAポリメラーゼを発見すると

ヌクレオチド除去修復タンパク(エンドヌクレアーゼ Uvr ABC)を招集し、RNAポリメラーゼをDNAから離します。

 

RNAポリメラーゼは、修復タンパクを損傷に近づけるようにすることもあります。

これを転写と共役した修復といいます。

真正細菌の転写

 

真正細菌の転写終結

RNAポリメラーゼが遺伝子配列の転写を終了しても、反応は終わりません。

転写を確実に終了するために、

遺伝子配列の下流に存在する逆方向反復配列が、転写された時、RNAポリメラーゼに干渉します。

この配列を写し取ったRNA領域は、

補塩基同士を結合させて、ステムループ構造 (ヘアピン構造)を作り、転写が終結します。

 

大腸菌の終結方法

ρ非依存性終結

ρ依存性終結

 

真正細菌の転写終結

 

ρ(ロー)非依存性終結

mRNA3'末端側に、DNAとの連続したA - U塩基対 が作成されます。

この結合は弱いため、自然にmRNADNAから離れていきます。

同時にコア酵素もゲノムDNAから離脱します。

 

この場合の(内因性)ターミネーターは、

タンパク質の補助なしで、独自でRNAポリメラーゼに作用し、転写産物を解放させます。

この塩基配列は、

20nt 逆位反復領域と、

そのすぐ下流にある約8nt の、アデニン高含有領域で構成されます。

 

逆位反復領域と相補的なRNAは、ヘアピン構造を形成する特徴があり、転写終結の原動力となります。

 

尚、転写終結に必要なものの詳細は不明ですが、

転写産物と極端に弱い塩基対形成する配列と、

一時的に転写を停止させる何かのようです。

真正細菌の転写終結

 

ρ(ロー)依存性終結

ρ因子というタンパク質が、

逆方向反復配列を転写されたRNAに形成された、ステムループ構造の5' 側に結合し、

mRNAと鋳型DNAの塩基対を破壊して、転写が終結します。

 

ρ因子は、全て同じサブユニットから構成された六量体で、一部が切れた環構造をしており、

転写産物とDNAとの二重ラセンを通します。

 

サブユニットは、全てRNAと結合する部位を持ちます。

 

ρ因子は、DNAの転写終結部位の上流にある、ρ因子結合部位で転写産物に結合します。

この配列は、60100ntで、シトシンを多く含みます。

このρ因子結合部位を転写することで、

実際に迎え入れるrut Rho utilization )部位という配列が、RNAに現れます。

 

ただし、リボソームと結合し、を受けているものとは結合できません。

 

真正細菌では、転写と翻訳は連携しており、

伸長がまだ終わっていなくても、ポリメラーゼから出てきた転写産物は、すぐに翻訳を開始できます。

そのため、遺伝子やオペロンの末端を過ぎても転写が続き、翻訳されない転写産物のみにρ因子が集結します。

 

6つのサブユニットは、全てATPアーゼです。

この活性により、必要以上に長くなってしまった転写産物に結合した時、

エネルギーが供給されて、回転しながら5’から3’へと進みます。

ターミネーターのヘアピン構造形成で停止したRNAポリメラーゼに追いつくと、転写産物を放出させます。

 

その他、ρ因子はRNA - DNAヘリカーゼ活性を持つようですが、終結過程の詳細は不明です。

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参考

アボーティブ転写産物

転写開始段階で10nt以上のRNAが合成されますが、

しばしばホロ酵素はこれに満たないRNAを放出して、最初から合成をやり直します(転写開始の失敗)。

 

この時、放棄された転写産物を、アボーティブ転写産物といいます。

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