細胞周期は、一つの細胞が二つの娘細胞を生み出す過程の周期です。
ゲノムDNAの複製と分配、細胞質分裂があります。
真核生物の場合は、複雑なので時間がかかります(間期が24時間、分裂期が1時間)。
ちなみに、原核生物の大腸菌では、間期が40分、分裂期が20分です。
しかも環境がよいと、20分で分裂します。(よくわかる分子生物学の基本としくみ。P.194)
細胞周期は、間期と、M期(分裂期)に分けられます。
間期は、さらにG1期、S期、G2期、に分けられます。
M期は、有糸分裂と、細胞質分裂によって構成されます。
有糸分裂では、姉妹染色分体が細胞の両極に分かれます。
細胞質分裂では、細胞質が分かれて、2つの細胞となります。
静止/老化 Gap 0 G0。細胞が周期から去った、または分裂を停止している休止期です。
間期
Gap 1 G1 :Gap 1では細胞は成長します。G1/Sチェックポイントで、次のDNA合成への準備ができているかが確認されます。
合成 S :この期間にDNA複製が行われます。S期チェックポイントで、DNA複製に不具合がないかが確認されます。
Gap 2 G2 :DNA合成から有糸分裂が起こるまでの間、細胞は成長し続けます。
G2/Mチェックポイントで、次のM期(有糸分裂と細胞質分裂)への準備ができているかが確認されます。
細胞分裂
分裂 M :この段階で細胞の成長は停止し、活動エネルギーは分裂に集中されます。
有糸分裂の途中M期チェックポイントで、完全な分裂への準備ができているかが確認されます。
間期: G1期、S期、G2期
M期(分裂期)
細胞周期の進行は、Cdk(サイクリン依存性キナーゼ)と、サイクリンというタンパク質の複合体によって制御されています。
Cdk/サイクリン複合体は、細胞周期を前に進めることから、細胞周期エンジンともいいます。
動物細胞では、複数のCdk/サイクリン複合体が細胞周期の進行に関わっています。
G1期からS期への進行には、 Cdk2/サイクリンE複合体、
S期からG2期への進行には、Cdk2/サイクリンA複合体、
G2期からM期への移行には、Cdk1/サイクリンB複合体
の活性が必要です(Cdk1はCdc2ともいいます)。
必要な時に、必要な複合体のみ活性化するために、
細胞内では、サイクリンの転写制御やユビキチン依存的な分解、
Cdkのリン酸化・脱リン酸化などの修飾による活性の制御、が行われています。
細胞周期チェックポイント チェックポイント
正常な細胞分裂を行うために、重要な時期で細胞周期の進行を正常に行えるかを監視するポイントがあります。
DNA未複製チェックポイント
DNAの複製が完了して分裂期へと進む準備が整っているかを監視しています。
DNAの複製が未完了であると、ATR(英)-Chk1依存的にM期への移行に必要なCdk/サイクリン複合体の活性化を阻害し、細胞周期を停止させます。
紡錘体集合チェックポイント
M期後期で、紡錘体の形成が正常で分裂期の後期に移行できる状況かをチェックしています。
紡錘体の形成に失敗していると、Mad2(英)が微小管と結合していない動原体依存的に活性化され、
分裂後期開始に必要なCdc20の活性を阻害し、染色体の分裂を停止します。
染色体分離チェックポイント
M期終期に、正常な染色体分配がなされたかをチェックしています。
染色体分配に失敗していると、Cdc2/Cyclin B複合体が活性を失わず、細胞質分裂に移れません。
DNA損傷チェックポイント
G1期、G1/S期、S期、G2/M期で働き、DNAに損傷も変異もない、正常なDNA合成を保障しています。
この機構は、ATM(英)/ATRなどが、DNA損傷を認識することによって活性化されます。
これが下流のChk1/2やp53、Baxなどを活性化して、
DNA修復やアポトーシス、老化することで、遺伝情報の喪失や細胞のガン化を防いでいます。
細胞が分裂し、生じた娘細胞が再び有糸分裂を開始するまでの期間、つまり細胞分裂(M期)と次のM期の間です。
細胞の成長、物質の吸収、生合成、遺伝情報と、全ての細胞小器官の複製、代謝など、細胞としての機能は、この時期に行われます。
真核細胞の多くは大半の時間を間期に費やし、次の細胞分裂に備えます。
間期では、クロマチンは核膜に囲まれた細胞核の中に分散しており、個々の染色体を識別することはできません。
核小体は、核内構造のひとつとして確認できます。
紡錘糸はまだ観察されませんが、中心体は核周辺に観察されます。
各期は、細胞周期チェックポイントで完了が確認されてから次の期間へと進行します。
各期間と間期全体にかかる時間は、細胞の種類や生物の種類によって様々です。
哺乳類の成体の細胞では、間期は約20時間で、細胞分裂全体の約90%の時間を占めます。
間期の始まりで、M期が終わり、DNA合成が始まるまでの期間です。成長期ともいいます。
この期間中、M期では極めて低かった細胞の生合成活性が再び高まります。
G1期では、次のS期で必要とされる種々の(主にDNA複製に用いられる)酵素が合成されます。
また細胞小器官の合成も盛んで、関連する構造タンパクと、酵素が多量に消費されるため、細胞内の代謝が活発な期間でもあります。
S期に入る前にG1期を中断し、休眠状態のG0期に入る細胞もあります。
G1期の長さは様々で、同種の生物でも細胞によって異なりますが、24時間毎に分裂を繰り返しているような活発なヒトの細胞では、G1期に約9時間かかります。
G1期の終わりには、G1/Sチェックポイントがあります。
これはDNAに欠陥がなく、細胞の機能が正常なことを確認する一連の安全機構です。
機能的には、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)がこの役目を果たしています。
G1期CDKタンパクは、様々な遺伝子に対して転写因子を活性化します。
これらの遺伝子の中には、DNA合成タンパク質やS期CDKタンパク質に対応するものも含まれています。
G1期に続く、染色体DNAが複製される時期です。
S期では、DNAヘリカーゼが2重鎖DNAを開裂して1本鎖とし、
続いてDNAポリメラーゼが相補的塩基対を結合させることで2本の2重鎖DNAが生成されます。
DNA合成が完了し、全ての染色体が複製された時点でS期が終了します。
S期の間に細胞内のDNA量は実質2倍になります。
S期では、RNA転写とタンパク質合成の速度は非常に低いです。
しかし、ヒストンは例外的で、ほとんどのヒストンがS期に作られます。
中心体もS期に複製されます。
DNAの複製と中心体の複製は独立に行われますが、その進行には多くの共通の因子が関係しています。
細胞分裂に必要な細胞内の遺伝物質の複製は、S期で完了します 。
S期では、DNAの損傷が頻繁に起こりますが、複製の完了と共にDNA修復が始まります。
修復が不完全な場合は、S期チェックポイントで検知され、細胞周期が停止します。
この段階を通過すると、ほとんどの細胞は細胞周期を途中で停止しません。
DNA複製が完了してから、M期に入るまでの期間です。
G2期では再びタンパク質合成が盛んに行われ、主に有糸分裂に必要な微小管が作られます。
一般に間期の中ではG2期が最も短く、ヒトの細胞では多くの場合4〜5時間で終了します。
G2期にはG2/Mチェックポイントがあり、細胞がM期に進めるかどうか判断しています。
M期には、有糸分裂と、細胞質分裂が行われます。
有糸分裂は、ほとんどの細胞は約1時間で終了します。
有糸分裂は、前期・前中期・中期・後期・終期に分けられます。
前期では、染色体の凝縮(染色体凝縮)が起こり、この時期に染色体が顕微鏡下で観察されるようになります。
中期にはいると、核膜が消失し、染色体が赤道面上に並びます。紡錘体もこの時期に完成します。
後期では、セントロメア付近で結合していた姉妹染色分体が、紡錘体に引っ張られるような形で、分離し、極方向に移動を開始します。
終期では、分離を終えた染色分体が脱凝縮し、その周囲に核膜が再形成されます。
また、この時期から細胞質分裂が始まり、細胞分裂が終了します。
有糸分裂は、生物種によって異なる様式をとります。
動物細胞では核膜が一時消失する「開いた」有糸分裂を行います。
出芽酵母などの菌類では、M期を通じて核膜は崩壊せず、細胞核の中で染色体が分かれる「閉じた」有糸分裂を行います。
一般に有糸分裂と細胞質分裂は、連続的に起こります。
しかし、真菌、変形菌などは1つの細胞に複数の核が存在する状態があります・・・
ヒトでも、白血球は多核ですが・・・細胞の定義上どうなるのでしょう?(更に、赤血球は無核です。)
更に、キイロショウジョウバエのある胚発生段階でも、有糸分裂と細胞質分裂が連続して起こらないようです。
G0期は、細胞分裂も分裂の準備も行われていないG1期が延長している状態とも、細胞周期から分かれた活動停止状態とも捉えられています。
また、神経細胞や心筋細胞などは、細胞分化後、細胞分裂を止めて成熟し、残りの寿命期間を本来の機能を発揮し続けます。
これらの細胞にとってG0期は、細胞周期外の非分裂状態にあることから、G0期は有糸分裂後とも言います。
細胞質分裂をしない多核筋細胞も、G0期にあると表現されます。
有糸分裂後という用語は、細胞の老化を示す際にも使われます。
多細胞真核生物における非増殖性細胞は、一般的にG1期からG0期に入り、
長期に、時には(神経細胞の場合などは)無制限にG0期にとどまることがあります。
完全に細胞分化した細胞のほとんどは、G0期に入ります。
細胞の老化は、子孫細胞が成長できなくなるようなDNAの損傷や劣化に反応しておこる状態で、アポトーシスの代替手段ともいえます。
各期のチェックポイント 細胞周期チェックポイント
G1期からS期に移行する際のチェックポイントです。
G1期DNAに損傷がないこと、
これからのDNA複製のためのヌクレオチドなどが十分あること、
細胞の大きさ、
がチェックされます。
多細胞生物では、増殖が許されているか、増殖が必要な細胞であるか、などもチェックされます。
p53、RbとRbのホモログが、この制御を司っているようです。
この制御がDNA損傷などで活性化すると、S期開始、即ちDNA複製が阻害され、細胞はG1期にとどまります。
酵母などで環境条件が良くない場合、または多細胞生物において細胞分裂が適当でない場合、G1停止が長く続くとG0期という休眠状態に入ることもあります。
G0期ではタンパク質合成が抑制され、細胞周期の進行に関わるタンパク質が一部分解されます。
S期のDNA複製の速さを制御し、DNA複製に不具合が検知された場合、複製を遅らせる機構です。
DNA損傷では、ヒトのATM蛋白質がこの制御に関与しているようです。
G2期からM期に移行する際のチェックポイントです。
この制御がDNA損傷などで活性化するとM期開始が阻害され、細胞はG2期にとどまります。
DNA損傷応答においては、ATRがそれ自身かまたは他の因子によって損傷を認識した後にリン酸化を受け、活性化されると、
ATRはChk1をリン酸化して活性化します。
活性型Chk1は、Cdc25Aのリン酸化をダウンレギュレートし、
リン酸化Cdc25AによるCdc2の脱リン酸化を阻害するため、
Cdc2は、高リン酸化された不活性な状態に保たれ、M期に進行せずに細胞周期が停止します。
DNA損傷認識後のATRのリン酸化に関わっている因子の詳細は不明ですが、
BRCA1が、DNA損傷に応答したG2/Mチェックポイントの制御を司っている可能性があります。
監視(チェック)期間は、S期からG2期にわたる比較的長い期間とされます。
M期(有糸分裂期)の途中にあるチェックポイントで、スピンドルチェックが行われます。
M期の細胞では、G2期までのステップで複製された対をなす染色分体が、互いにセントロメア付近でコヒーシン複合体によって架橋結合しています。
また、コヒーシンを切断するタンパク分解酵素セパラーゼが、セキュリンと結合することで不活性化された状態で存在します。
有糸分裂過程の次のステップとして、細胞の両極から伸びる紡錘糸(微小管)が、それぞれの染色分体のキネトコア(セントロメアの一部)に結合します。
一対の染色分体が対称になるよう、正しくかつ同時に、紡錘糸を介して細胞の両極に結合しているかどうかがチェックされます。
分裂後期の染色分体の移動に際しては、ユビキチンリガーゼであるAPC/Cが、Cdc20と結合して活性化することが必要となります。
紡錘体が正しく形成されると、Cdc20の阻害タンパクであるMad2がCdc20との結合から外れ、APC/Cと結合します。
活性化したAPC/Cによって、セキュリンがユビキチン化され、
プロテアソーム依存的に分解されることでセパラーゼが活性化し、
染色分体間を架橋するコヒーシンが切断されます。
これにより、染色分体は紡錘体極へと移動が可能となります。
染色分体が両極から伸びた微小管と等しく結合していない間は、
オーロラキナーゼなどのスピンドルチェックポイントタンパクの監視によって、APC/Cの活性化が阻害され、染色分体の分離を抑制します。
76個のアミノ酸からなるタンパク質で、異常タンパク質の分解、DNA修復、翻訳調節、シグナル伝達など様々な生命現象に関わります。
進化的な保存性が高く、すべての真核生物で、ほとんど同じアミノ酸配列をもっています。
原核生物では、古細菌は一部ユビキチンをもつものが発見されていますが、真正細菌には存在しません。
標的タンパク質に対するユビキチンの付加は、ユビキチンシステムと呼ばれ、3つの酵素、
ユビキチン活性化酵素 (E1)、ユビキチン結合酵素 (E2)、ユビキチン転移酵素(ユビキチンリガーゼ) (E3) によって行われます。
標的タンパクのリシンの側鎖のアミノ基と、ユビキチンのC末端のグリシンがアミド結合することで、一つ目のユビキチンが付加され、
更にそのユビキチンの中のリシンの側鎖に次のユビキチンが付加する、ことを繰り返してポリユビキチン化されます。
ユビキチンには7つのリシン残基があり、どのリシンと結合するかによって、ユビキチンの機能が異なります。
ポリユビキチン化されたタンパク質は、プロテアソームというプロテアーゼによって分解されます(ユビキチン−プロテアソームシステム)。
標的タンパク質に結合してプロテアソームに取り込まれたユビキチンは、脱ユビキチン化酵素(DUB)によって基質から除去され、再利用されます。
新生タンパク質の約30%は、フォールディングが異常なタンパク質(ミスフォールドタンパク質)とされます。
ユビキチン化は、ミスフォールディングタンパク質や、不要になったタンパク質を細胞から除去するために重要です(タンパク質の品質管理)。
異常なタンパク質は、まず、hsp90等の分子シャペロンが修復を試みます。
修復が不可能な場合、小胞体から細胞質に輸送されてユビキチン化を受け、プロテアソームによって分解されます(小胞体関連分解(ERAD))。
また、サイクリン-CDK複合体のユビキチン化は、細胞周期の制御に重要な役割を果たしています。
他のタンパク質分子が正しい折りたたみ(フォールディング)をして、機能を獲得するのを助けるタンパク質です。
多くのシャペロンは、温度が上昇した時に発現されるタンパク質(熱ショックタンパク質 (Hsp))です。
これは、タンパク質のフォールディングが熱によって重大な影響(変性)を受けた場合に、そのタンパク質の折りたたみを制御します。
ほとんどのタンパク質はシャペロンなしでも折りたたまれますが、一部にはシャペロンを必須とするものがあります。
大部分のシャペロンは正常に機能するためにATPのエネルギーが必要ですが、詳細は不明です。
タンパク質は、正常な状態では分子の外側に露出しているアミノ酸残基のほとんどが親水性ですが、
フォールディングのほどけた(アンフォールディング)、またはミスフォールディングタンパク質では、疎水性アミノ酸残基が露出しています。
シャペロンは、これらの疎水性アミノ酸残基によってそのタンパク質を認識します。
疎水性アミノ酸残基が露出したタンパク質は、凝集する傾向があり、凝集したタンパク質は細胞にとって非常に有害です。
シャペロンはこのような凝集も防ぎ、細胞を守る働きがあります。
真正細菌で機能するシャペロンには、GroEL(グループI型シャペロニン)があります。
このシャペロンは、コシャペロン(シャペロン補助因子)GroESの共存によって正常に機能します。
GroELとGroESは、シャペロニンとコシャペロニンとも言います。
古細菌には、シャペロニンに相当するものとしてHSp60(グループII型シャペロニン)が存在しますが、
GroESに相当する補助因子を必要とせず、GimCという因子が補助的に働くようです。
真核生物では、細胞本体に古細菌と相同のシャペロニンを持ち、
オルガネラに真正細菌と相同のシャペロニン(GroELに相当、GroESもあります)を持ちます。
その他、GroEとHsp40を補助因子として必要とするHsp70というシャペロンが、全ドメインから発見されています。
GroEL/GroESシャペロンは、以下のように機能します。
GroEL/GroES 複合体は、樽のような構造をしており、その中へ露出した一連の疎水性アミノ酸部分を取り込みます。
初期段階では、シャペロン複合体の内部は疎水性が高いです。
タンパク質分子(または一部のドメイン)が、この樽の中で正常にフォールディングすると、内部は親水性に変化し、
これによってフォールディングしたドメインは、シャペロン外の水中に放出されます。
このサイクルは何度も繰り返されますが、疎水性・親水性変化にはGroEL/GroESのコンフォメーションの変化が必要で、
そのエネルギーは、ATPの加水分解により供給されます。
尚、成熟タンパク質分子には存在しませんが、タンパク質自身の正しいフォールディングに必須で、
フォールディング後にプロテアーゼによって切除されるような部分を持つタンパク質が多く知られており、この必須部分は分子内シャペロンといいます。
p53遺伝子 細胞周期チェックポイント G1/Sチェックポイント
癌抑制遺伝子の一つで、ヒトのp53遺伝子は、第17番染色体短腕上(17p13.1)に存在します。
p53は進化的に保存されており、昆虫や軟体動物にも存在しています。
p53タンパク質は、転写因子として働き、多くの遺伝子群の発現に関与し、多彩な機能を持ちます。
損傷を受けたDNAの修復タンパク質の活性化、
細胞周期の制御、
DNAが修復不可能な損傷を受けた場合や細胞がガン化した時アポトーシスを誘導、などに関わります。
p53遺伝子は、悪性腫瘍(癌)において最も高頻度に異常が認められています。
癌抑制遺伝子の一つで、網膜芽細胞腫の原因遺伝子として発見されました。
細胞周期がS期へ移行するのを抑制している他、多くの癌の発症に関与しています。
ヒトのRb遺伝子は、13q14.1-2に存在し、
Rbタンパク質(pRb)をコードしています。
Rbタンパク質の機能は、リン酸化によって制御されています。
このタンパク質自身はDNA結合ドメインを有しておらず、E2Fなどの転写因子を介してプロモーターに結合します。
このタンパク質は細胞周期の調節に関与しており、G1期における細胞周期の回転を抑制します。
転写因子であるE2Fの転写活性化ドメインに、Rbタンパク質が結合することでE2Fの活性を抑制することも知られており、
Rbタンパク質の転写調節作用において重要な役割を果たしています。
E2Fとの結合は、細胞周期依存的であり、
G1/S期とG2/M期では、Rbタンパク質がサイクリンD-CDK4/6の働きを受けて高度にリン酸化されているため、E2Fと結合できない状態にあります。
G1期前期では、Rbタンパク質は脱リン酸化されているためE2Fと結合可能であり、
E2Fにより支配される遺伝子(サイクリンA、サイクリンE、CDK2など)の転写を抑制します。
癌抑制遺伝子の一つで、17番染色体長腕のセントロメアに近い17q21.32領域に存在します。
BRCA1遺伝子の変異により、乳癌や卵巣癌を引き起こします。
BRCA1遺伝子の転写産物であるBRCA1タンパク質は、核内で大きな複合体を形成し、相同性による遺伝子の修復に関わっています。
BRCA1は、DNA損傷時のシグナル伝達において重要な役割を持つことが知られており、
細胞周期に依存したリン酸化を受ける他、DNA損傷に伴ってリン酸化を受けます。
リン酸化されたBRCA1は、RAD51などのDNA修復蛋白と協調してDNA損傷を修復します。
尚、RAD51は、DNAのらせん構造を解きほぐし、DNAの相同性を利用した損傷したDNAの修復を助けます。