BY 月華美心  
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Time lag



機体が雲を突き抜け、走行を保ち始めた頃、
笑顔と共にやっと飲み物が運ばれてきた。
さっきから、ずっとドキドキして、喉が渇いて仕方がない。
だって、小夜子先輩ったら急にドタキャンして私を一人にするんだもの・・・。
知らない国に一人で観光なんて…私、そんなにたくましくない・・・。
そりゃ〜日本だったら、電車に乗ってフラっとどこかに行く事だってあるけど、
飛行機だって初めてなのに、この不安・・もうーどうしよう!!
もう もう、小夜子せんぱ〜い!!
私は、オレンジジュースを手にして、雲に向かってブツブツ呟いていた。

―― 「あの・・・」
日本語に反応して、通路に立っている気配に顔をふり向ける。
“!!”
私は一瞬にして胃に潰瘍が出来そうなくらい驚いた。
「愛・・ちゃん・・・?」 更に驚いた声で名前が呼ばれる。
そこには、5年前よりも、ずっと洗練されていた正宗がいた。

私は “誰だっけ”っと言う感じでちょっとしかめた顔をして見せ、
昔の男友達を思い出してたぐりよせるふりをしながら、息苦しさを隠した。
「覚えてない!? オレ…。」

―― 忘れるわけがない!正宗、正宗、ふられた後も何千回何万回って、
あなたの、名前を呼び続けたか・・。
忘れる為にあなたを悪者にするしか方法がなくて、その罪悪感からどれほど
苦しめられてきたか・・。

正宗、正宗・・ 
膨らんだ思いは私の心の奥底にぎゅうぎゅうに押しやられているわ。
化石のように固まって次の恋に進めないでいる。
或いは進まないことで、あなたに、復讐しているのかもしれない。
・・・私はもう恋などできない淋しい女なのだと・・アナタノセイだと・・・

隣に座っていた英国人が、正宗と私を交互に見ながらうなづき、
立ちあがってここに座れと彼を促した。
正宗はためらいもなくその英国人に小さな礼をし、私の側に腰をおろした。
「こんにちは」
やっと思い出したというような表情をしてみせて、私はわざとらしく照れて挨拶を交わした。
間近で見ると口惜しいほどいい男になっている。
私はと言えば…
彼から“惜しいことをしたな”と思われる程いい女になっている自信はなかった。

「変わらないね…愛ちゃん」    ―― 烙印を押される。

記憶に鍵をかけ、思いきりおどけて、
「 え?やっぱり?」っと、本当に全く変わらないあの頃のキャラのまま、
舌をだした。

「何?ひとりなの?」
「うん」  
元気良く返事をして、小夜子先輩の事はあえて言わなかった。
「香港へは入るの?それとも乗り継ぎ?」
「あ…取材で・・」
「取材?」
私はちっとも変わっていないと言う雰囲気をたたえたまま、
実は今のりにノッていて成功していることを匂わせ、彼に伝えた。
「今ね、ライターの仕事をしているの。っていっても卵なんだけどね、
レストランの紹介とか人物のインタビュ―とか・・
でー今回は香港事情の取材で、これから一人で・・」
「愛ちゃん・・やっぱり変わってないね。」
私の嘘が大きくなるぎりぎりのところで、正宗は口を挟んだ。
「なんだか嬉しいよ。」
“・・・” 記憶の蓋が鍵に抵抗して、ガタガタしている。
「いい子だよな〜本当に・・・」

複雑な怒りが込みあがってくる。
激怒に近いかもしれない。 感情がからみついて動けない。
―― じゃぁーどうして?どうしてふったのよー!
怒りの分子達が5年の歳月を返せと騒ぎ立てる前に大人ぶって微笑んだ。
「何言ってるんですか〜もう!昔のことですよ。」
表情を変えずにいることが、精一杯だった。    

  あれから、私あの会社すぐに辞めました。  
  その後、海外留学でもしようかと手続きしてたらばかばかしくなっちゃって、 
  そのうち、何もする気がおこらなくて、ぶらぶらしてました。  
  8キロ痩せて体力もなくていつも寝てました。 
  人生ってなんだろうなんてガラにもない事、考えました。 
  何か知的な資格でも持って、しっかりしようと思いつつ、 
  でも、それがなんになるんだろうかと無意味の渦で溺れてました。  
  喜びも、悲しみも、楽しさも、淋しさも無意味という渦で感じなくなりました。  
  だって… 
  正宗のいない世界なんて・・・。  
  こんなに、私を苦しめて・・嫌いよ。正宗なんて嫌いよ。  
  いい娘だなんて、よして。何も知らないくせに! 
  そんなに、やさしい目で見ないで・・・  
  あなたを攻撃できなくなる・・。あなたのせいにできなくなる。 

  ―― 泣いちゃいそう…


「正宗さん、相変わらずステキですよね。」
出来るだけ軽く、余裕をもたせて言った。
初めて見る正宗のスーツ姿はとても、遠い。
もう、彼とは終わったのだ。この人は終わった人なのだ。

再会の途端、私の中で新たな認識が訪れた。
正宗は確実に成長している。道を創っている。
あの頃の正宗はどこにもいない・・・。
忘れたくても忘れられなかった愛しい人はもう・・・いないのだ。

「正宗さんこそ、仕事?」
会話が過去に引き戻されないように社交辞令に似た口調で話した。
私達はとめどなくくだらない近況を報告し合い、
本当に交わしたかった会話を無視して、2時間近くを過ごした。

シートベルトのサインと共に思い出の蓋に手をかけたのは正宗の方だった。
それはとてもそっと・・そして、優しく・・・

「Time lag って知ってる?」
「タイム・・ラグ?」
「ちょっと、おとぎ話として、聞いてくれる?」
「うん」
「真実の愛を持ち合う二人なのに、時のいたずらのせいで、
恋人であるはずの二人の時間や思いがズレちゃうんだ。」

私達の会話はどこに行こうとしているのだろう・・・。

「例えば…僕が人生に絶望していて、その頃の恋人がとてもピュアで
まっすぐな娘だったとしたら、苦しいズレが生じると思わない?」

   ―― 正宗?人生に絶望していたの?

「こんなオレなんかって、思うよな」

   ―― ねぇ、独りで抱えていたの?

「人によって、時間の流れ方…違うんだよなぁ。」

   ―― そういえば、私の時計は動いてない。

「今の僕なら、愛ちゃんと楽しめそうだけど・・」


何も言えなかった。言葉が出てこなかった。
私今でもあなたが好きなんです。なんて言えなかった。
だって、いま絶望の最中なの。
こんなに、素敵になってるあなたに対して“こんな私なんて・・・”って気分よ。

正宗・・ 私達はずっとズレているの?

「―― 時のズレは、いつか重なる?」
「真実で、あれば・・・」


香港の夜景が見えてきた。
濡れたまつ毛の向こうで宝石がキラキラしている。
正宗はこのままイタリアに行くらしい。
私の中で留まっていた彼を解放しよう。

流れ込んできた新しい風は、とても心地よかった。

 

 

<まりんの処方>

人間関係や、事件のせいにして、成長できない自分に
言い訳をしている人は少なくありません。
自分が止まってしまってる原因を手放せば、必ず次のステップが踏めます。
恋愛に於いては、自分自身を受け入れることが出来て初めて相手を
受け入れる事ができるので、まずは自分の事を好きになってください。
自分を嫌うと、“こんな、私なんか…”っていうところにハマっちゃいます。
無価値感や、罪悪感の強い人は、前に進めない自分を“忘れられない人”
のせいにして、いつまでもそこに留まる傾向があるのですが、
そんな人って魅力的でしょうか?
一度全てをクリアにして、自分を磨いてみて下さい。
誰が見ても、あなたが魅力的であれば、奇跡の再会があっても余裕ですよね!
恋愛なんて、いつでも終わりにできるし、いつでも始まったりもするんです。

おすすめエッセンスはタガー・ハキア/ウィステリア

 

 

 

 
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