BY 月華美心  
Home
  ■ INDEX ■
  6月の雫
  HELP
  温かい朝
  初夏のシチュー
  そこに居続けるということ/battlefield
  そこに居続けるということ/cave
  生きていくということ/choice
  黄金色の陽
  leave me alone
  ブルーベリーの味がするT
  ブルーベリーの味がするU
  ブルーベリーの味がするV
  Time lag
  20010911
  〜my dear〜(20010901完結編)
  悲しみの海に降る
  悲しみの海に降る愛(完結編)
  5年2組の女の子
  恋人未満
  不透明な構図
  転嫁
  Hug〜ブルーベリーの味がする完結編〜
  くつ下
  スケープゴート(犠牲の山羊)
  視線
  不実
  102号室
 
 
 
  Let It Be
 

6月の雫



「仕事?あ、じゃ仕方ないね。身体は大丈夫なの?」
「無理しないで・・。うん。いつでも時間がとれた時に・・」
彼が罪悪感を抱えぬよう、私が依存的な女だと悟られぬよう、
なるべくあっさり言うのがコツ―

物わかりのいい女を演じるのに、実はもう疲れていた。
海外に進出しつつある彼の会社は、今まさに上場で、どんどん支店も増え続け、
流れに乗りまくっている。


京都で一緒に桜を見て以来、私達は会っていない。
会えない日々は信頼を奪い、不安を助長させる。
私以外の誰かの胸で、ほっと安らいでいるのかも。
もう、背中しか思い出せない・・。

“会いたい  とても会いたい  ねぇ 気が狂いそうなの私!”

口が裂けても言えない・・ 
いくつものハートブレイクから私は男に甘える事が出来ないでいた。

じとじとした梅雨の湿気が私の体にまとわりついてくる。
雨は嫌いじゃないけど、うっとうしい・・・!
傘をさすほどでもない、中途半端な小雨に打たれながら、
複雑な虚しさを抱いて駅に向かう。
電車の中での疲れた面々が本当に鏡に見えた。
まっすぐ家に帰る人達は皆、同じ顔をしている。
湿った溜息をついて、抜け出すように電車を降り、走った。

帰宅すると同時に携帯が鳴る。浩一からだ。

「もしもし・・・」
私の声は決してくもっていない。
「あ、ひとみ?今どこ?」
「え・・、あ・・友達んとこ・・」 
なぜ嘘をつく必要があるのだろう。
「友達んちかあ・・」
「どうしたの?」 思いっきり優しい声を出す。

「明日急に出張。早朝の早い便でN.Y。だから今日は帰れそうなんだ・・・」
「あ、じゃあ用意とか・・・忙しいね」  

何を言っているんだろう。

「しばらくあっち・・になると思う・・」
「え?あっち・・?」
「うん・・。あっち・・。」                                

もう限界 ―― 本当に気が狂ってしまう。


雨が強くなってきた・・。

彼のマンションに着いた頃、私はずぶ濡れの捨て猫状態になっていた。
ドアホンを押すのをためらっていた私を察してか、彼がドアを開ける。

「どうしたんだ?駅から電話くら・・・ぃ・・」

玄関先で髪の毛やタンクトップから雫をたらしながら、思わず彼に抱きついた。
昔流行った歌が頭の中でぐるぐるまわる。ぐるぐる・・・。

“アイシテル マサカネ ソンナコト イエナイ”

彼にもこのメロディーが伝わっているのか、黙って聞いてくれているよう・・・。
私達は会えなかった時間をゆっくり取り戻しながら、
ずっとそこで静かに抱き合っていた。
6月の雫が溢れ落ちてゆく。

“ アイシテル マサカネ  アイシテル  アイシテル・・・ ”

 

 

<まりんの処方>

自立の女性にありがちなシチュエーション。
我慢が限界に達した時に初めて素直になります。
遠距離のきっかけがなければ、彼女はいつまでたっても
ずぶ濡れになって会いに行くような女にはならなかったでしょう。
甘えたい自分を押さえて、平静を保って、クールな女を演じて、
いったい何が手に入るというのでしょうか?
結局は自立を装っていた自分の中にとても大きな依存が
隠されていた事に気づかされ苦しめられるだけです。
自分の中にある依存を嫌い、認められない女性は、
それを認めざるを得ない現状がやってきます。
甘えてもいい場所があるのなら、素直になりましょう。
本当の自立とは、そんな弱い自分をも受け入れる事が出来る人です。

お勧めエッセンスはタガーハキア/レッド・グレビリア

 

 

 
Copyright (C) 2001-2009 月華美心. All Rights Reserved.