BY 月華美心  
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}〜ブルーベリーの味がする V〜



「座って…いい?」
「えっ…あ…」
「ランチ・タイム?」
「あ…いえ…」
「待ち合わせ?」
「あ…」

――日本だったら無視して立ち去っている。

甘い香りにとろとろとしていたせいもあって、 動物がただ近寄ってきただけという
感覚が警戒の糸を溶く。
立ち上がれないでいた私は、その“らいおん”とベンチを共有する事になった。

「食べる?ほら!あの店の…ミートパイ」
「あ…ごめんなさい…ベジタリアン…」
「…そうーー。じゃ、こっちは?」
「ブルーベリー?…ええ、頂くわ」
「何か…あった?」
「どうして?」
「目に、涙をいっぱい浮かべてる…」
「えっ?目が何?ごめんなさい実はあまり英語わからなくて…」
「Chinese?」
「No...Japanese..」


こんな風に女の子に声をかけるのは始めてだ。
bronseみたいに動かないで一点を見つめていた彼女は、孤独のにおいが
プンプンして、 僕が声をかけなければ消え入りそうだった。
英語がわからないといってかわされてしまったけれど、
潤んでいたアーモンド色の瞳に嘘はなかった。

「backpacker?」
「ん…もう8年になる」
「8年!?」
「そろそろ終わらせたい」
「どこに、帰るの?」
「---帰るとこ…ないんだよなぁ…」
「え?」
「冗〜談!」
「アメリカだよ。来たことある?」
「カリフォルニアならー」
「Good!ロスなんだ!」


明るく接してくれた彼の中にカリフォルニアのようなサンシャインが
見受けられなかったのは、私の影?だから…?
会話の中の“lost”という単語が妙にひっかかった。

――迷う、見失う、当惑、負ける、

      破滅……

私には “帰る所がない“ と聞こえた。
その訳がぴったりときた。  

      だって…。


「何か宗教を持っているの?」
「いいえ、でも神は信じているわ。 なぜ?」
「vegetarianって…」
「んーー…うまく英語で説明できない…」
「単語でいいよ。興味がある。」
「OK!えっと〜…
  種 ―― 野菜・果実・木の実・私・収穫・出来る・食べる。
  卵 ―― 魚貝・私・採る・出来る・食べる。
  命 ―― 動物・私・殺す・出来ない・食べない。
「わかる?」
「・・・・・・・・・・」
「・・・」
「僕のおじさんは牧場をやってるよ。 世の中の人が皆vegetarianだったら…」
「食べたい人は食べたらいい。 いけないなんて言った?」
「種も卵も命だと思うけど…」
「えぇ、私もそう思うわ」
「storeに行けば肉は売ってる。僕等が殺すわけじゃない!」
「…何を怒っているの?ねぇ、それよりこのブルーベリー甘くておいしいわ」


何を怒っているんだろう…。
あきらかに違う思想は認め合うだけで解決するのに、
説得にかかろうとする自分がいた。
確かにこの国でうさぎやカンガルーを食す事に抵抗はあるけれど、
牛や豚は良くて、うさぎやカンガルーはダメだという線引きは
僕がしているだけだ。
彼女の選択に対しての怒りはどこからくるのか…
vegetarianを前にすると、腹がたち、罪の意識がよぎるのは、
僕の中で“命を奪って食らっている”という無意識の領域での
罪悪が騒ぐからだろうか?
旅を続けていると、自然や動物との共存と人間のエゴに混乱する。

  
  僕はまだ死にたくはない…


2つめのミートパイは、なんだかまずく、ブルーベリーは僕を癒した。
「どこを周ってきたの?」
「ヨーロッパやアジア」
「日本へは?」
「いや…まだ…。」
「いいところよ。」
「日本を離れて長い?」
「まだ、1年。」
「いずれ、帰るの?」
「帰るところなんてないわ。」
「え?」
「ジョーダン!ねぇ、名前を聞いてなかったわ。  私はMami」
「僕はJone。母親がジョンレノン好きでね。安易だろ?
まみには何か意味がある?」
「truth…(真実)」  

       Joneの顔が…止まった。

口唇の端にsugarの粉がついている。
私は、思わず手を伸ばし、逢ったばかりのその男の口唇に触れ…はらった。
ずっと昔から知ってるような、やっと逢えたような、
そんな感覚を持ちながら、とても自然な…しなやかな行為だった。

ねぇ、Jone私の存在は真実(truth)?
動物を殺せない優しい日本人だと思った?
いいえ、私は毎日毎日自分自身にナイフを突き立てていつもいつも
自分を殺しているわ。
ねぇ、Jone私が見えている?   まだ、ここに居る?
消えていないかな?
私は…生きている価値があるのでしょうか…

彼女の瞳からボロリと涙が溢れ落ちた。 
逢ったばかりのその女の頬を指でなぞり…拭った。
それからずっと僕達は静寂にたそがれた。
swanriverは、一定の流れを保ち、その日の夕暮れはバリに似ていた。
僕は真実を目の前にしている。
本物の真実に向き合うことが、こんなに恐いものだと、始めて識った。
僕が指先に感じた涙は、僕の裡でずっとずっと流れているものと同じだ。

   魂が…ユレテイル…

私達は 
   次に逢う約束をしなかった。
僕達は
  またどこかで、逢えるような気がした。

今でも帰る場所を探している。
    彼の事を思い出すと
   彼女の事を思い出すと
桟橋で嗅いだ甘い匂いと
 ―― ブルーベリーの味がする。

 

 

<まりんの処方>

お勧めエッセンス/フィロセカ
広い広い海の中で、出会うべく運命の二つの魂は
必ず統合される…
 

 

 


 
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