相手はとっくに電話を切っているのに、私は受話器を握り締めたまま
震えが止まらなかった。
セリフがこだまする。

「悟　が　死んだ　」
「・・・・！！」　　　

声にならない驚きがこみ上げる。

――　と同時に不届きな声がした。　　

　“　・・・　いいナ　・・・　”

「発見されたのは昨日らしいんだけど、死後１週間経っていたらしい。」
隆文の声に力がない。

「どうして１週間も？」
「誰も気がつかなかったんだって。　ドアには鍵がかかってたし、
ただ、この暑さだろ・・
悟、窓を開けていたらしくって　そこからの悪臭で・・・」

泥酔し、ロフト式のベットから落ちて頭を打ってしまったという。
腐敗した悟の映像が広がり、嘔吐と悪寒が走る。
なぜか同じように腐敗し、悪臭を放つ自分の肉体が重なった。
体中の皮膚が逆立ち、パキパキと割れる。

本当に事故だったのか・・・

私も隆文もお互いの真意を察しながら、あえて議論はせず電話を切った。

神様は何を基準に人を生かし、人を召すのだろう？
私が今ここにいることに　なんの意味があるというのだろう？
なんだか悟が羨ましかった。
恐怖に解放され、孤独に解放され、無力から解放される。
１週間前、彼は仲間内全員に電話をかけていた。
何かほのめかすのでもない、いたって明るい電話。
あの時から彼は　無意識に覚悟していたのだろうか？
この世から　いなくなるということを・・・。

私はあからさまに死をほのめかす者を信じない。
「もう死にたいよ」
そういう奴に限って　火事場から一番に飛び出してくるんダ。
生に執着があるからこそ　死にたいという“意思”が沸く。
“意思”があるうちは　コントロールもできるということであり、　
つまりは止める事ができる。
死をアピールする事　既に助かっているようなものなのだ。
じゃ、甘えないで生きればいい！

本当の恐れとは・・・

コントロールできない何かが向こうからやってくるような感覚。
それはとてつもなく大きな高波に飲みこまれそうな瞬間が、
常に目の前にある光景に似ている。
その恐怖を知り得る者は　決して　“死にたい”　などと口にしない。
口に出してしまうと　さらわれてしまうことを知っているから・・・。
体が震え、呼吸が浅くなり、意に反して感情のない“何か”に吸いこまれて
いくような、自分ではない、他の“何か”に突き動かされるような・・。
人はその恐怖に絶えられなくなって、死を選択するのではないかと思う。
上手く隠し　助けてと言えず・・・
――　悟のように・・・

あれから１１年が経っている。
友人の子供は中学生になろうというのに　私は　といえば・・・

めちゃめちゃ働いて働いて時を止め、転落という名を借りて無気力に時を止め、
もう何年も足踏みをしている。
相変わらず高波は側にあり　生死を考えている。

だけどなんだろう　　この頃の穏やかさは・・・
あきらめてしまったのだろうか―　　いや　違う　
疲れてしまったのだろうか―　　とも違う

私は受け入れるということを学んだのだ。　　

生きるということ。　
死ぬということ。

生命の寿命に逆らわないことに観念したのだ。

腐敗したミイラを手放し　私は永い永い眠りから目を覚ました。

太陽のまぶしさを知る。
月の輝きに魅了される。
街は動き　人は成長していく。季節は巡り　木々や花々も生きている。

一人で登る山は苦しくとも、仲間を賛同すれば
頂上の歓喜を分かち合える事も知った。

生きてこそ――。

恋をしよう！

人に　自然に　全ての万物に！
私はこの世の終幕を　高良かに笑い声を立てて閉じたい。

恋をしよう！！

<まりんの処方>

生きるということを選択するのなら“生きて”下さい。
見、聴き、嗅ぎ、味わい、感じて、
肉体があることに感謝して下さい。
人との繋がりが人を成長させます。
そして、恋は人をとても活き活きとさせます。
恋をしよう！！

お勧めエッセンスはエンジェル・ソード/サンシャイン・ワトル