BY 月華美心  
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Hug (ブルーベリーの味がする〜完結編)



ショーウィンドウに立ち止まり、“それ”に見とれて思いを馳せたことはなかった。
ずっと一人で生きてきたまみにとって、誰かと共に歩んでいくというシナリオはなかったから。
しかし今、“それ”が自分の身にまとわれている。
タイトなシルエット、シルクであしらわれた小花が裾に咲き、品よくパールが散らばった、とてもシンプルなデザインのドレスが。

じっとイスに座っているだけで事は運ばれた。
メイクが施され、華やかに髪がカールされ、アクセサリーがつけられると
ドレスは更に映え・・・。
まみはまるでショーウィンドウを眺めるように鏡の中のお人形を見つめていた。
そしてこんな日を迎えても、ひとりぼっちを感じている自分を哀れんだ。
何がどうなれば満足のいく思いと平穏を得られるのだろうか。
いつになったら私は私を好きになれるのだろうか。
相変わらず心にあるのは不安と迷いといつもの愚痴。

結婚をしたがっている佐智子の顔が浮かんだ。
妬んでいるだろうか・・・私を。
結婚生活の上手くいっていない瑶子の顔が浮かんだ。
どうせ長く続きっこないと思っているだろう・・・私なんか。
離婚したばかりの由美の顔が浮かんだ。
面白くないのではないだろうか・・・私が。
いつまでも男を恐がっている美由紀の顔が浮かび、未亡人になった真梨の顔が浮かび、耐える母の顔が浮かんだ。

     結婚って・・・何?


上手くいかなかった昔の男たちの顔が浮かび、それが全て自分のせいであったことを再び思い出し、苦い思いがこみあげてきた。

私の夫となる人は今別室で何を思いどんな気持ちなのだろう。
後悔はないのだろうか。私でいいのだろうか。
未来への自信のなさに鳥肌が立った。

「泣くにはまだ早いですよ。」
「そうですよ、せっかくのメイク、崩れてしまいますよ。」
コーディネーター達が慣れた笑顔で声をかけてくる。
「二人だけで式なんて・・・いいですよねー。」
「ホント、私もこういうのがいいなあ。親戚とか面倒だし、
誰を呼ぶとか呼ばないとか・・あーもー・・・」
胸をかきむしる彼女たちと一緒に笑った。
笑うという事を思い出させてくれた。

「まみさんの旦那さんになる人ってさっきの外人さんですよね?」
器用に編み込んだ髪にピンをさしながら彼女は言った。
「どこで知り合ったんですか?」
もう一人の彼女がメイク道具を片付けながら聞いてくる。
「南の島・・・」
それだけ答えると、
「ひゃあ――ステキ――。私も南の島で恋におちたい―!」
などと二人はきゃっきゃとはしゃいだ。
「運命だったのかしら」
と目を見開いて彼女たちを茶化すと、
「きゃー運命ですって――!!」と更に彼女達は騒ぎ立てる。

愛とか神とか口にするのが恥ずかしいくらい、運命なんて言葉も恥ずかしくて
茶化すしか表現の仕様がなかったけれども、正直他に例える言葉がなかった。
運命だったのだ。

出会うべくして出会い、なんとなくまた会えそうな予感があったから、
次の約束もしなかった。
予感は的中し、本当に私達は再会。 一瞬驚きはしたものの、
二人の気持ちに何の障害もなく、全てを受け入れ合う心地良さがやってきた。
しかし、やがてそれは幸せという形ではなく、恐れという形となってまみを困惑させた。
幸せの状態に慣れていないまみは、この幸せが果たしていつまで続くのかという不安を抱く事の方が妙にしっくりくる。

国際結婚という事実を把握できなかった両親を責めはしたものの、反対された現状に“あぁやっぱりうまくいかないのだ”と、いつものあきらめと戯れていた。
洞窟の中でごそごそしている私に彼ははしごを投げかけ言った。
“まみ、幸せになるのは僕らだ。”
その時、ずっと囲われていた鳥が生き生きと空を舞うように体中に拡がり、
自分が幸せを選ぶのに自分ではない他の誰かを説得する必要など
ないのだと教えられた。
まみが自分自身の中から解放された時、両親はあっさりと折れた。
そしてまた新たな恐怖に見舞われているのである。 幸せという・・・。

「Mami!」
時間をもてあましたJoneが入ってきた。
ドレス姿を見た瞬間、息を飲んでたじろぐJoneのかわりにまみは言った。
「It's so beautiful !!!?」
Joneは照れながら、それは僕のセリフだと言って、耳たぶから零れ落ちそうな
パールピンクのピアスにkissをした。
とびきりの笑顔で迎えたはずなのに、
「What's the matter?(どうしたの?)」とJoneに見抜かれる。
Joneはほとんど日本語が話せない。
どうせ南の島で暮らすのだから必要がないと首を振り、
その代わりまみのつたない英語を一生懸命理解してくれた。
いつしか言葉以上に感覚的な感情の方を敏感に察知し合うようになり、
時々それが二人に嘘を許さない。

“どうしたの?”と問われて鼻の奥のあたりがツンとなった。
「10時からですから・・・」  彼女たちは気をきかせて部屋を出ていった。

「マリッジブルーは終わったんじゃないの?」
買って来たブルーべリーパイを頬ばり、ハラハラとこぼしながらJoneは呑気に
イスに腰掛けた。

何をどう繕ったってバレてしまう。まみは正直にJoneに伝えた。
孤独である事、自信がない事、100%喜んではいない両親の事、
昔犯した罪から逃れられない事、様々なことが不安である事、
そして今、恐くて恐くてたまらない事を・・・。

Joneは今さら何を言っているんだと言わんばかりに肩をすくめ、まみにパイをすすめる。
まみは口紅がとれてしまうからいいと、子供の駄々のように突き返した。
やってしまってからまた落ち込む彼女に、彼はいつものペースで巻き込み始めた。

「孤独?まみのそこが好き。
自信がない?まみのそこが好き。
両親を思い、自分を罰し、いつも不安で恐がっているまみが好き。
パイを突き返す、まみが好き。  どう?」

JONEは立ち上がって続けた。

「まみに内緒で日本語を少し覚えたよ。
  ボクヲ ミツケテクレテ アリガトウ
  ケコン デキテ アリガトウ
  イショニ ワラウ アリガトウ
  アイヲ シッタ アリガトウ
  マミノ イミ シンジツ
  ボクハ アイシテルヨ トテモ トテモ・・・」

 

ふんわりと 優しい Hug・・・。

覚えたての言葉と共にまみは包まれた。
不安や迷いでパンク寸前だった心は、感謝の言葉で一掃される。
これほどまで日本語が体に沁み入ったことはない。

まみが恐怖にエネルギーを注いでいる間、Joneはそれを解く呪文を
ずっと練習していたのだ。
   

   アイシテルヨ  アリガトウ


突き返したブルーベリーパイを一口かじってまみは謝った。

静かで優しいHugの後、恐れを超えた愛を見た。
まみはJoneの口唇の端についたsugerを人差し指で払い、
Joneはまみの目尻の雫を親指でぬぐった。あの日と同じ。
二人の口の中に甘い味が拡がり、それは甘い笑顔となった。


  イッショニ ワラウ  アリガトウ

 

 

 

<まりんの処方>

今回はハッピーエンドバージョンなので処方はありません(^。^)
あえてエッセンスを飲むならば、チャクラエッセンス
Gratefulness(感謝の気持ち)

 

 

 

 

 
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