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滋陰降火湯(じいんこうかとう)

  • 構成生薬:黄柏・甘草・地黄・芍薬・知母・陳皮・天門冬・当帰・麦門冬・白朮
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清虐熱
  • 適  合:虚証、陰虚、燥証、腎の過労によって発熱・咳・口渇などを起こすもの

肺腎陰虚から陰液が欠乏し、陽気を抑制できずに熱の症状が出現する陰虚火動に使用する処方です。

主に上半身に症状を出す陰虚火動に使用し、下半身の症状がメインとなる場合は六味地黄丸を選択します。

陰液の不足による咳は、乾性で濃い痰を伴うことが多く、床に入って温まると強くなる傾向があります。

結核などの抗酸菌感染に伴う咳にも似たような特徴がありますが、感染症に伴う場合には実熱がありますので地竜エキスを併用します。

季節では、夏よりも冬に強い傾向がありますが、冷暖房の進化でこの違いは顕著ではなくなっているようです。

痰が切れやすく量が多い湿性の咳に使用すると、滋潤の作用で痰が増えて、より咳が強くなることがあります。

呼吸器疾患に限らず、陰虚火動が皮膚で起こっている老人性皮膚掻痒症にも使用します。

また、消渇にも使用しますが、陰虚による燥の場合が適応で、尿利減少を伴う渇には内に湿があるので使用してはいけません。

燥が強くて喉が極度に乾燥して痛むような場合は、甘草湯や桔梗湯よりも本方が適します。

咳を含めて麦門冬湯と似た性質で、肺以外の皮膚や大腸にまで枯燥が及んでいる場合は本方が適応になります。

また、麦門冬湯の咳は昼夜の区別がありませんが、本方は夜に強い傾向があります。(ただし、本方の咳は温まると強くなるもので、昼に出ないというわけではありません)

滋陰剤の刺激を緩和するために白朮・甘草・陳皮などの健胃生薬が配合されていますが、下痢傾向がある者や胃弱者にはあまり適しません。(このような者が服用する場合は、参苓白朮散を併用します)

滋陰至宝湯(じいんしほうとう)

  • 構成生薬:甘草・香附子・柴胡・芍薬・地骨皮・知母・陳皮・当帰・貝母・薄荷・麦門冬・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:調和肝脾
  • 適  合:虚証、熱証、陰虚、慢性の呼吸器疾患で体力低下や熱があり咳が出て発汗するもの

逍遥散より生姜を去り、香附子・地骨皮・知母・陳皮・貝母・麦門冬を加味して理気・滋陰の作用を増した処方で、虚熱を処理する力を高めています。

逍遥熱(不定期に起こる発熱やのぼせ)に類似した熱を発する肺結核に対応するように考案された処方です。

逍遥散よりも虚熱に対応する作用は強いので、逍遥散が無効な逍遥熱にも効果を発揮する場合があります。

また、虚火と呼ばれる虚労による発熱は、補中益気湯が第一候補とされていますが、それで効果がないケースに本処方が奏効することもあります。

発熱と熱性の咳が選択する場合の必須条件で、寒証には使用してはいけません。

作用が穏やかな生薬ばかりで構成されていますので、速効性はなく、効果発現までにはある程度の継続服用を要します。

陰虚による発熱や咳という点では滋陰降火湯も同様ですが、陰虚火動と言う症状が激しい場合に使用し、本処方は症状は強くないけれども慢性に陥っている場合が対象です。

ただし、滋陰降火湯を服用すると胃に負担を感じる場合には、本処方で代替するケースもあります。

四逆散(しぎゃくさん)

  • 構成生薬:甘草・枳実・柴胡・芍薬
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:調和肝脾
  • 適  合:間証、手足の冷えと胸腹部に重苦しさがあって気の乱れを伴うもの

柴胡+芍薬を中核とした肝気鬱結に対する基本処方で、ストレスによって気滞が起こっている場合は最初に考慮する処方です。

心下支結と呼ばれる腹証で、上部腹直筋の緊張と胸脇苦満が左右にあり、実虚では大柴胡湯と小柴胡湯の中間に位置する柴胡剤とされます。

しかし、経験上、小柴胡湯証よりも虚と思える人に適合者が多く、腹証が強いのは気滞が影響しているのではないかと思えます。

手足の冷えも鑑別のポイントとされますが、この冷えは寒証ではなく、裏熱によって表へ気や熱が出ない熱厥によるもので、温かい冷たいだけで判別できるものではありません。

厳格に考えると難しい処方なのですが、小柴胡湯証で鬱を伴う・あるいは四肢の寒がある場合、というアバウトな判断をしてもかなり適合します。

環境の変化によって体調が大きく変わるストレス性の変調においては、最初に検討するべき処方です。

神経症状を誘発する場合は、元々の内向的性格にストレスが加わって起こったものですから、興奮型ではなく抑制型の症状が主です。(興奮型の症状が主となる場合は、柴胡加竜骨牡蠣湯や抑肝散を検討します)

逆に、鬱々した気分が誘因となって起こった中焦臓器の不調にも効果が期待できます。

特に、ストレス性胃炎や胃潰瘍においては、ガスター等のH2ブロッカーに匹敵する効果があるとされています。

卵が先か鶏が先かの問題ですが、この処方はどちらにも効いてくれますので重宝です。

中焦臓器以外の疾患としては、慢性副鼻腔炎などの鼻閉疾患や、パーキンソン症候群にともなう振戦にも使用します。

また、芍薬甘草湯の構成も含んでおり、こむら返りなどの筋肉硬直にも有効ですし、ストレスによって痛む場所が移動する気痛にも使います。(この目的で使用する場合は、柴胡疎肝湯の方が効果的です)

四君子湯(しくんしとう)

  • 構成生薬:甘草・生姜・大棗・人参・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補気
  • 適  合:虚証、気虚、顔色が萎黄で貧血傾向があり疲労感が強く胃腸症状が強いもの

胃弱に働く4種の主薬(甘草・人参・白朮・茯苓)に、回復力を増す生姜と大棗を加味した構成で、君薬が4種入っていることから四君子湯と名付けられました。

病は胃から起こるので、昔は、健康を保つために君子(皇帝)が常用すべき薬とされていました。

主薬の構成は、人参湯の乾姜を茯苓に変更したもので、寒は弱いけれども湿が強い状況を想定しています。

具体的な適合場面を考えますと、胃弱な者が胃腸の炎症性疾患を起こし、体力低下に伴う水滞が加わっているケースです。

ただし、水滞が強くて胃腸機能の低下がある場合は、二陳湯との合剤である六君子湯の方が適します。

基本的な体力が低下しているために、食後に胃が張ったり眠くなることが多く、適合に記載した「胃腸症状が強い」とは闘病力の不足からくるものです。

胃腸疾患を対象に使用することが多いですが、胃気虚によって外傷後の腫れが引かない場合や、傷口が塞がらない場合にも本方を使用します。(表虚による場合は黄耆剤の適応です)

また、虚証の痔疾において、補中益気湯でも効果がない場合に有効な場合があります。

補気の代表的処方とされており、様々な補気処方の源にもなっています。

補中益気湯も有名な補気剤ですが、陽病を対象としており、本方は陰病が対象になります。

紫根牡蛎湯(しこんぼれいとう)

  • 構成生薬:黄耆・甘草・紫根・芍薬・升麻・川キュウ・大黄・当帰・忍冬・牡蛎
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:活血去鬱
  • 適  合:虚証、難治性のできものがあるもの

熱性の化膿性腫瘤が長引いて、虚証を呈するようになった状態に使用する処方です。

皮膚やリンパ節の腫瘤だけでなく、乳腺炎・乳癌・肺化膿症・虫垂炎・痔瘻などの昔では治療が難しかった疾患にも使用された処方です。

牡蛎・大黄が腫瘤を和らげ、紫根・当帰で炎症を鎮めて皮膚機能を回復し、忍冬・升麻が清熱および解毒します。

黄耆は補気・固表作用で、芍薬・川キュウ・当帰は補血作用で回復を促進します。

静脈系の血行不良によって栄養供給の悪化や抵抗力の低下を引き起こし、慢性化・難治化した腫れものが主対象となります。

活血によって湿熱を解消したり患部の機能回復を図る処方ですので、解表剤が適応となるような急性化膿性の皮膚疾患には適しません。

キュウ帰剤ですので、他の処方では効果がなく慢性化したことで虚証に陥って貧血や疲労感を誘発しているケースに試行する価値がある処方です。

ただし、虚証に使用する処方としては大黄の配合量が多いので、下痢や軟便には注意が必要です。

近年の研究において、紫根にピルビン酸キナーゼM2を阻害する効果が確認されています。

癌は解糖系が亢進していますので、この酵素を阻害することが抗癌に作用する根拠の一つかもしれないと考えられています。

滋腎通耳湯(じじんつうじとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄柏・香附子・柴胡・地黄・芍薬・川キュウ・知母・当帰・白シ
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補陰
  • 適  合:虚証、腎虚、血虚、腎が虚して難聴や耳鳴りがあるもの

血虚で上焦に熱が昇り、気の巡りが悪くなって起こった腎虚による耳鳴りや難聴に使用する処方です。

源処方の四物湯が補血で血虚に対応し、黄ゴン・黄柏・柴胡・知母が上焦の熱を鎮め、香附子・白シが理気作用によって気滞を散じます。

肝腎陰虚という状態に相当しますので、高齢者に多い聴覚不調が主対象となりますが、柴胡+芍薬による疎肝解鬱の作用もあり、ストレス性(心因性)の耳鳴りや難聴にも対応が可能です。

ちなみに、ストレス性の耳鳴りは高音域で発することが多く、気鬱が著しく強い場合は柴胡疎肝湯や加味逍遥散との併用も検討します。

低音域での耳鳴りで、腎虚が強い場合は六味地黄丸と、腎陽虚による冷えがある場合は八味地黄丸との併用も考慮します。

高血圧でのぼせ・頭痛などを伴う拍動性の耳鳴りであれば、釣藤散や還元清血飲が適合となりますし、加えてストレスが強い場合は柴胡加竜骨牡蛎湯が適合します。

耳鳴り・難聴などの聴覚の不調は、古方であれば八味地黄丸が第一候補となりますが、八味地黄丸は非常に広い範囲をカバーしており、聴覚に対しての効果は本処方が数段優れている印象があります。

加齢に伴って起こった聴覚の不調には、試す価値のある処方です。

ただ、経過が長い程に効果が低下する傾向がありますので、できるだけ早い時期に試用することをお勧めします。

また、まれに四物湯系の処方では増悪する耳鳴りがあり、この場合は補気剤の補中益気湯と補腎剤の六味地黄丸の併用を検討します。

滋腎明目湯(じじんめいもくとう)

  • 構成生薬:黄連・乾地黄・甘草・桔梗・菊花・細茶・山梔子・熟地黄・芍薬・川キュウ・当帰・灯心草・人参・白シ・蔓荊子
  • 別  名:腎気明目湯
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補陰
  • 適  合:虚証、血虚、腎虚、神経の酷使から腎が虚して血が少なく眼痛するもの

過労や加齢によって肝腎虚となり、血流が悪くなって眼に十分な栄養が届かずにかすみ・疲れ・痛みを起こした場合に使用する処方です。

補血の四物湯に補気健脾の人参・甘草を加えて肝血虚に対応し、黄連・桔梗・山梔子で上昇の熱を去り、白シ・蔓荊子・菊花・細茶で目の炎症を鎮めます。

後世方において白内障の治療に使用される代表的処方です。

古方では八味地黄丸が代表的処方とされますが、両者は微妙に違い、八味地黄丸が腎陽虚を対象とするのに対して、本方は腎陰虚に適しています。

難しく考えると選べなくなりますので、冷えがあれば八味地黄丸・ほてりがあれば滋腎明目湯にすれば大きな間違いはないと思います。

眼精疲労や視力障害にも使用し、源処方である四物湯には滋潤作用がありますのでドライアイにも使用します。

ただし、目に炎症性の症状がなくドライアイだけであれば、同じく四物湯の派生処方である十全大補湯という選択もあります。

眼底は腎に属する器官で、眼底出血を繰り返すようなケースにも有効です。

通常の目薬を使用するような目の不調であれば、大部分は本方で対応が可能です。

似たような目専門の処方として杞菊地黄丸があり、こちらは滋陰作用を優先したい場合に選択しますが、本方の滋陰作用で不足を感じるケースはあまりありません。

他に目によく使用する処方として、仮性近視のような成長期の視力低下では苓桂朮甘湯、炎症が強い実熱証の眼疾患では洗肝明目湯があり、こちらの状態は本方では時間がかかります。

アレルギー性結膜炎のような風熱証の眼疾患にも使用できますが、根治させる力はありませんので、充血や熱感を早く取るという補助的な役割になります。

効力増強をしたい場合の併用薬は、仮性近視であれば補中益気湯や建中湯類、老眼・視野狭窄・ドライアイであれば十全大補湯や四物湯、糖尿病性網膜症であれば還元清血飲や補陽還五湯、羞明や涙目であれば苓桂朮甘湯が候補になります。

難治性の眼疾患である加齢黄斑変性は、微小循環を改善する葛根黄連黄ゴン湯が第一選択となりますが、効果不十分な場合は本方+十全大補湯でじっくり治療することになります。

七物降下湯(しちもつこうかとう)

  • 構成生薬:黄耆・黄柏・地黄・芍薬・川キュウ・釣藤鈎・当帰
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:平熄内風
  • 適  合:間証、血虚、肝陰虚、疲れたりイライラすると血圧が上がるもの

大塚敬節先生が自らの治療のために昭和28年に創作された処方です。

血虚の基本処方である四物湯に、末梢血管を拡張する黄耆・副腎ホルモンの過剰分泌を抑える黄柏・自律神経の緊張を緩和する釣藤鈎を加味した構成です。

元が四物湯ですので、血虚があって疲れやすいという背景がありますが、血圧が上がる主要因の全てに対応しており、これといった自覚症状がないままに気がついたら血圧が高かったという状態に適しています。

肝陰虚から心身の影響で血圧が変動しやすく、拡張期血圧が高いという場合に適しています。(収縮期血圧が高い人は釣藤散を検討します)

実証でのぼせや興奮を伴う血圧上昇は瀉心湯の適合で、本処方には適していません。

頻尿や尿蛋白陽性などの腎に関連する症状がある場合に奏効することが多く、効果の発現も早いとされています。

高血圧だけでなく、脳動脈硬化症や老人性痴呆症の治療や予防にも有効です。

高齢で高血圧という人であれば、新薬の血圧降下剤を使用するよりも本処方を試用する価値は十分にあると思います。

地黄剤ではありますが、黄柏を配合していますので、胃への負担は比較的軽度です。

この目的で選択することはありませんが、本方は血虚生風証の薬なので、目や皮膚などの表部が乾燥・掻痒を起こしているケースにも対応できます。

柿蔕湯(していとう)

  • 構成生薬:柿蔕・生姜・丁字
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:降気
  • 適  合:間~虚証、寒証、気滞、しゃっくりが止まらずに苦しむもの

気の巡りを整えて横隔膜の痙攣を改善する柿蔕に、胃腸を温めて機能回復する生姜と丁字を加えた処方で、しゃっくりに使用する代表的な方剤です。

古方および民間療法では、柿蔕を単独で使用していたようですが、加味方である本処方の方が効果的です。

消化器系癌の術後や抗癌剤治療によって誘発されるしゃっくりは頑固で、芍薬甘草湯や呉茱萸湯では効果がないケースが多く、本処方がよく使用されます。(芍薬甘草湯は筋弛緩作用で、呉茱萸湯は胃を温める作用でしゃっくりにも使用される処方です)

陰陽や虚実にこだわらずに使用できますが、温めて機能を回復する働きですから、寒証や虚証に適している処方です。

もしも、熱証や実証に使用する場合は、半夏瀉心湯を併用します。

他には、空えずきを伴うような激しい咳に対して、胸苦しさを除くために頓服的に使用する場合もあります。

食欲不振やお腹の冷えにも有効なのですが、六君子湯や人参湯・大建中湯などの他に適した処方がありますので、本処方を使用することは少ないです。

胃酸分泌を促進する場合がありますので、消化性潰瘍や逆流性食道炎がある人には注意が必要です。

四物湯(しもつとう)

  • 構成生薬:地黄・芍薬・川キュウ・当帰
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補血潤燥
  • 適  合:虚証、血虚、貧血傾向があって皮膚が荒れてカサカサするもの

血虚(血液・ホルモンの不足)に対する基本処方で、様々な派生処方の元になっています。

本処方も、元をたどればキュウ帰膠艾湯から導かれたもので、出血以外の様々な疾患にも使用するために、加味ではなく阿膠・艾葉・甘草を去ったものです。

出血に使用しないわけではありませんが、切り傷のような一時多量の出血ではなく、微小な出血が継続することで発した貧血や血行不良が適応になります。

黄連解毒湯とは対照的に、血液凝固能が低下したような状態に適し、自覚的に出血と思わない場合も少なくありません。

皮膚が荒れてカサカサするとは肌膚甲錯とも表現され、血虚が続いたことで起こる血燥の症状で、四物湯系の処方に共通した特徴です。

この皮膚症状は非常にゆっくりと進行しますので、顕著ではないことも多く、本人も体質的なものと思って気にしていないこともあります。

顔面に変化が現れやすいのですが、化粧によって隠れてしまいますので、この点だけで判別するのは少し難しいと思います。

鎮静作用もあるとされていますが、副次的な作用であって、鎮静を目的にした使用はしません。

昔は婦人の聖薬とも称された処方で、婦人科系疾患が対象になることが多いです。

また、しもやけや肝斑などの皮膚疾患にも使用します。

しかし、派生処方を使用するケースの方が圧倒的に多く、本処方を選択するのは不調の原因が肝血虚に限定される場合くらいしかないと思いますが、シンプルな構成なので適合した場合の効果発現は早いです。

ただし、胃弱の人には胃もたれを起こす場合があり、処方変更できないのであれば茯苓飲と併用します。

炙甘草湯(しゃかんぞうとう)

  • 構成生薬:阿膠・桂皮・地黄・炙甘草・生姜・大棗・人参・麦門冬・麻子仁
  • 別  名:腹脈湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:気陰双補
  • 適  合:虚証、陰虚、燥証、動悸・息切れがして時に脈が結滞するもの

動悸に用いる桂枝甘草湯(甘草・桂皮・生姜・大棗)に、滋潤作用のある薬味を加えた構成です。

心・肺の虚弱者が炎症性のストレスを受けて陰液が不足し、動悸や胸苦しさを呈する場合に使用する処方です。

陰液の不足は津の減少にまで及んだレベルが対象で、皮膚枯燥・口渇・四肢煩熱・便秘などを併発することが多いです。

燥証が強いので、外見上はあたかも実証症状のように見える場合も少なくありませんので、鑑別に注意が必要です。(実証陽病の動悸には、桃核承気湯を検討します)

一般には疲れやのぼせが強く、動悸や息切れなどの循環器系の症状を伴うことも多いです。

症状が強い場合には、結脈や代脈と呼ばれる不整脈を起こすこともあり、徐脈性の不整脈には使用できる薬がほとんどありませんので、漢方薬を知っている医師が使用するケースもあります。(効果や安全性から考えて生脈散の方が適するケースが多いのですが、こちらは保健適応外です)

それほどに激烈ではなくても、疲れると動悸がして眠れない上焦の虚にも使用します。

甘草ではなく炙甘草を使用しているのは、胃もたれの防止と、甘草サポニンの肺への作用を減弱するためで、肺の虚弱者という背景があるものの、呼吸器系疾患には原則として使用しません。

バセドウ病も動悸などの似たような症状を呈することが多いので、本処方を使用するケースがあります。(男性よりも女性の方が効果的との報告があります)

ただしバセドウ病は、抗甲状腺刺激ホルモン受容体の抗体を産生することで、甲状腺機能が亢進する疾患ですので、本処方で根本治療ができるわけではなく、あくまでも対症療法です。

失血による貧血が著しい場合にも類似の状態になることがあり、このケースにも使われることがあります。

消化器の虚弱者には基本的に使用しないのですが、地黄で胃がもたれる場合には、本処方を半量にして半夏厚朴湯を併用します。

服用して下痢する場合には、麻子仁を乾姜に代えるとよいとされていますが、エキス剤では対応できません。

芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

  • 構成生薬:甘草・芍薬
  • 別  名:去杖湯
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:調和肝脾
  • 適  合:間証、気血不和による腹痛や筋脈の攣痛があるもの

非常にシンプルな構成で、漢方の鎮痛剤として証によらず頓服的に使用されることが多い処方です。

甘草は末梢神経の興奮を鎮める作用があり、芍薬の中枢神経抑制作用を助けるために配合されていると考えられます。(しかし、芍薬だけで本処方が持つ作用を発揮することは不可能なので、他の作用も関係しているようです)

筋弛緩作用と痛覚中枢抑制作用があり、筋弛緩剤+鎮痛剤のような効果を発揮します。

骨格筋にも平滑筋にも弛緩作用を発揮しますので適応は広いのですが、内臓下垂などの筋弛緩性の症状がある場合は使用してはいけません。

筋過労やギックリ腰による腰痛や、こむら返りなどの末梢性の筋痙攣には有効ですが、てんかんなどの中枢性の筋痙攣には効果がありません。

筋緊張に対応する様々な処方の源になっていますので、成分が重複する処方が多く、併用する場合には注意が必要です。

特に、甘草の配合量が多いために、腎虚がある者では偽アルドステロン血症が起こりやすいので注意が必要です。

筋肉の不調に血行不良が加わっている場合は、地竜エキスを併用します。

寒が強くない指先の痺れには、芍薬甘草湯合地竜を一度は試行すべきです。(寒が強い場合は、当帰四逆湯を検討します)

陰虚証で悪寒があり、痛みが強い場合は芍薬甘草附子湯の方が適します。

アロマターゼ抑制作用が確認されていますので、閉経後の女性に使用する場合は、その影響に留意した方がよいかもしれません。

変わったところでは、高テストステロン血症を示す多嚢胞卵巣症候群にも有効との報告があります。

十全大補湯(じゅぜんだいほとう)

  • 構成生薬:黄耆・甘草・桂皮・地黄・芍薬・川キュウ・当帰・人参・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:気血双補
  • 適  合:虚証、気虚、血虚、脾虚、全身倦怠・疲労感が強く血色が悪いもの

名前のとおり、十の成分が効果を十分に発揮して大いに補養する処方で、全身的な虚に使用します。

血虚を改善する四物湯に、脾虚を改善する四君子湯を合体した八珍湯が源で、表虚を改善する黄耆と桂皮を更に加味した構成です。

帰耆建中湯に地黄・人参・白朮を加味した構成でもあり、皮膚・粘膜の炎症が治まらずに、いつまでもジュクジュクする状態にも適します。

一般的には、大病や出産などで大いに体力を消耗してしまい、虚弱となってしまった状態を回復させる時に使用します。(一時的な過労による疲労感には、本処方は向いておらず、ビタミンB剤の方が適します)

疲れると症状が強くなる諸病に適し、横になりたい眠いと訴えることが多いです。

ただし、疲れると食欲が低下する場合は、本処方ではなく補中益気湯の適応ですので、食欲の確認は重要です。

事故および手術や出血性疾患によって、出血量が多くて血虚と体力低下が併発している状況では、本処方が第一候補になります。

貧血にも良く使用する処方ですが、時に地黄が胃腸系に負担となる場合があり、このタイプの者には帰脾湯を選択します。

また、本処方は一般的な肝血虚を対象としていますが、不安や不眠などの精神症状を伴う心血虚では帰脾湯を使用します。

和痛作用もあり、虚弱者の骨・関節・筋肉の痛みやこわばりにも効果があります。(体力回復よりも痛みを優先する場合は大防風湯を検討します)

腸管での鉄分吸収を助ける作用と、骨髄細胞を活性化する作用が確認されており、鉄欠乏性貧血や再生不良性貧血の治療を補助します。

直接的および補体を介して間接的に食細胞を活性化する作用や、マクロファージに作用して抗体産生を増強する作用が確認されており、免疫能を高める効果も期待できます。

体力低下を抑え、白血球の減少を抑える目的で、抗癌剤と併用されるケースも少なからずあります。

十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)

  • 構成生薬:甘草・桔梗・荊芥・柴胡・生姜・川キュウ・独活・茯苓・防風・僕ソウ
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:扶正解表
  • 適  合:実~間証、熱証、湿証、患部が湿性で化膿する傾向があるもの

古くからの処方ではなく、後世方の人参排毒散を元にして皮膚病専門薬として作られた荊防敗毒散から、華岡青洲が更に改変して創作した処方です。(類似する薬効の生薬を省いたものと思われます)

表部血管を拡張して発汗・発散させる去風薬と、消炎・解熱・鎮静・解毒に働く清熱解毒薬組み合わせた構成で、表の風熱証に対応する処方です。

急性の皮膚疾患においては、炎症によって患部が赤く隆起していることが適合の条件で、赤味がなかったり隆起していない場合はあまり効果がありません。

また、化膿性皮膚疾患の初期症状を治療・緩和する処方ですから、膿汁が生じてしまった段階には適しません。

外部からの刺激で誘発・増悪するアトピー性皮膚炎や蕁麻疹には、急性や慢性の区別なく使用します。

頭部のかぶれや脂漏性の皮膚疾患には、最初に試すべき処方です。(この疾患に対しては源処方である荊防敗毒散はあまり適しません)

病邪が体表部に留まっている状態にのみ使用し、内臓に及んでいる場合には使用しません。

胃弱者や虚弱者を考慮した処方ではありませんので、虚証には使用しない方がよいと思います。

清熱作用は源方より弱くなっており、熱証が強い場合には荊防敗毒散を選択した方が効果的です。

症状が顔部に限局され、のぼせ感が強い場合は清上防風湯も検討します。

胸脇苦満があって発疹がなく、背中・腰・大腿部などが痒い老人性掻痒症にも奏効する場合があります。

便秘がある場合は大黄を、鎮静効果を強めたい場合は石膏を加味しますが、エキス剤で対応するのであれば、大黄甘草湯や桔梗石膏を併用します。

水虫にも使用すると書物には記されていますが、白癬菌を退治する力はなく、炎症による痒みや化膿を抑える目的であり、外用剤が進歩した現在では使用することはないと思います。

潤腸湯(じゅんちょうとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・枳実・杏仁・厚朴・地黄・大黄・当帰・桃仁・麻子仁
  • 別  名:潤腸丸
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:潤下
  • 適  合:虚証、陰虚、血虚、体力がなく皮膚が乾燥して潤いがなく便秘するもの

麻子仁丸から芍薬を除き、黄ゴン・甘草・地黄・当帰・桃仁を加えた構成で、潤燥作用を増強した処方です。

麻子仁丸よりもう一段階虚に位置する処方ですが、人参湯が必要な程に機能低下がない状態に適合します。

つまり、血虚・陰虚で潤いがなくなっている者の便秘が主対象で、兎便と呼ばれるコロコロとした便であることが多いです。

センナなどの刺激性下剤では腹痛を起こす者で、腸の機能そのものには衰弱がない場合に適します。

体質としては寒がりなのですが、腸は陰虚によって熱状態にあり、冬季や寒で増悪する便秘にはあまり適しません。

胃弱ではもたれる場合があり、妊婦には堕胎の可能性があるので、使用しない方がよいと思います。

小陥胸湯(しょうかんきょうとう)

  • 構成生薬:黄連・瓜呂仁・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱化痰
  • 適  合:実証、熱証、湿証、胸部が満ちて痛むもの

湿があるところに熱性の病気を起こし、結胸と呼ばれる胸部の痞えや痛みに使用する処方です。

熱性疾患の影響で、吐息が熱っぽいことが多いです。

湿の発生原因となっている胃部の炎症を黄連で抑え、湿による咳・痰・吐気を半夏が鎮め、瓜呂仁が解熱・鎮痛します。

胸部の閉塞感は必須症状で、胸痛・食量減少・腹鳴・下痢や気鬱を伴う場合も少なくありません。

狭心症に伴う胸部症状や肋間神経痛にも使用されますが、それほど広い効能を有しているわけではなく、結胸にのみ対応していると考えた方がよい処方です。

結胸は胸脇苦満と判別しにくいことが多く、断定できない場合は小柴胡湯との合剤である柴陥湯を選択した方がよいかもしれません。

触らなくても胸部の痛みを自覚する場合には、大陥胸湯(大黄・芒硝・甘遂)が適応とされますが、かなり強力な瀉下剤ですので、誰にでも使用できる処方ではありません。

胸部の痛み・閉塞感に呼吸捉迫を伴う場合は、茯苓杏仁甘草湯も検討します。

生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄連・乾姜・甘草・生姜・大棗・人参・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:調和脾胃
  • 適  合:間~虚証、湿証、半夏瀉心湯の適合でげっぷや下痢するもの

半夏瀉心湯の乾姜を減らして、生姜を加味した構成です。

半夏瀉心湯よりも、胃腸系における自律神経の作用を増強した処方です。

諸注意事項は半夏瀉心湯と同じく、炎症性あるいは機能亢進性の胃腸疾患で、下痢傾向があって呑酸・曖気を伴う場合に適合となります。

ただし、多くの場合は半夏瀉心湯で対応が可能で、本処方を選択するケースはそれほど多くありません。

小建中湯(しょうけんちゅうとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・膠飴・生姜・大棗
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、脾陽虚、肝陰虚、貧血傾向で疲れやすく腹痛が頻発して時に鼻血が出るもの

桂枝加芍薬湯に膠飴を加味した構成で、胃腸系の疾患で体力回復が必要な虚が強いケースに使用する処方です。

適合者には倦怠感があり、特に手足の重だるさを訴えることが多いです。

脾陽虚のために基本的に冷え性で、トイレの回数が多いですが、肝陰虚があるために動くと火照って暑がる場合もあります。

ただ、本処方は温裏回陽剤ですので、冷えが悪化要因となっている状態に使用します。

腹痛は脾虚によって肝気が虚に乗じて脾気を擾乱して発するもので、慢性的に反復してひきつるように痛みます。(些細なストレスや疲労が誘因となります)

腹直筋の緊張が特徴的な症状とされますが、筋力の不足によるもので、冷えと重なって膨満を起こす場合もあります。

小児の神経過敏による疾患や夜尿症に汎用され、裏寒のある体質改善にも使用する処方です。

夜尿症では、腹部から膀胱の筋緊張が強く、昼間から頻尿の傾向がある場合が適応になります。

特に何もしていないのに鼻血が出るような、小児に多い「衄」という出血に対応し、鼻に限らず目・耳・口・舌からの出血しやすい状態を改善します。(外科的な対応が必要な出血ではありません)

仮性近視にも使われますが、眼に直接作用するのではなく、体調を整えて回復させるもので、初期にしか効果はありません。

構成としては桂枝湯の類方ですので、最初から太陰病に近い症状を出す風邪に用いても効果はあります。

膠飴が胃酸分泌を刺激する可能性がありますので、炎症性の胃腸疾患や吐気・胃酸過多がある者には適さない場合があります。

元々に浮腫がある者や、本処方を服用して浮腫を起こした場合は、補気建中湯を検討します。

変則的ですが、大建中湯と合わせて、虚証寒証の虚満や腹痛を伴う便秘症に使用するとの報告があります。(合剤を中建中湯と称するそうです)

小柴胡湯(しょうさいことう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・柴胡・生姜・大棗・人参・半夏
  • 別  名:三禁湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:和解少陽
  • 適  合:実~間証、みぞおちや右胸脇に痞えがあって首や肩がこることがあるもの

中焦(横隔膜付近)部位の疾患で、中焦から上焦(上半身)にかけて症状が出ている場合に使用する処方です。

少陽病薬の代表的処方で、単独使用ばかりでなく他処方と併用して使用されることも多く、陽病の慢性疾患において汎用される処方です。

基本的には実証の薬ですが、麻黄や附子のような強い作用の薬味は配合されていませんので、間証にも使うことができます。

ただし、長期服用する場合は、柴胡が脾胃に負担をかけたり半夏が陰液を損なうことがありますので、間証においても注意が必要です。

肝臓疾患に効果的な西洋薬が無かったことから、昭和後期には漢方処方中1位の使用量がありました。

しかし、証を無視して虚証や陰病にも使用されたケースも多く、間質性肺炎という重篤な副作用が散見されるようになり、医療用医薬品としての使用は激減しました。

証の判定さえ正しければ起きない副作用ですので、薬の責任ではなく保険制度および使い方の問題です。

不幸な過去がありましたが、漢方で肝臓疾患と対峙する時は、今でも最初に考慮する薬ではあります。

中焦に所属する臓器は肝臓だけでなく、胃・胆嚢・膵臓なども含みますので、これらの疾患にも使用する処方です。

柴胡剤の適応を判定する際の特徴とされる胸脇苦満とは、一番下の肋骨の内側あたりに張りがあって圧迫すると苦しいという症状です。

しかし、この症状を自覚する人は稀で、何かの拍子に圧迫を受ければ感じるという程度の人が多く、触診をせずに問診だけで聞きだすことは難しいです。

肩の凝りにも特徴があり、柴胡剤が適合するのは、首の後ろから腕方向に硬直する場合です。(首の後ろから肩甲骨~背中にかけて硬直する場合は、葛根湯系の処方が適合します)

とは言いましても、肩こりの原因にも様々ありますので、これだけで判定できるわけではありません。

他には、口に苦味を感じる・空えずきがある・手の平などに部分的な汗をかく・背中の中央部が張る、などの事項を総合的に判断して適合を判定します。

これがあれば絶対という項目がないので、経験のない人には難しいでしょうが、特徴的な項目がいくつかありますので、ある程度漢方に慣れてくると柴胡剤の適合判定はそれほど苦労しません。

あとは、数ある柴胡剤の中からどれを選ぶかという鑑別で、その際の比較基準となる処方が小柴胡湯です。

漢方処方の中で、最も西洋医学的な研究がされている処方で、一部だけですが列記します。

  • 内因性ステロイド分泌促進および代謝阻害により、通常量でプレドニゾロン6mgに相当する抗炎症効果がある
  • B型慢性肝炎におけるe抗原の陰性化を促進させる
  • 末梢血単球を活性化してインターロイキン1やインターロイキン6の産生を促進する
  • 線維芽細胞の増殖を抑制する
  • メチルグアニシンの産生を抑制する

柴胡剤の中核となる生薬は、言うまでもなく柴胡です。

サイコサポニンと呼ばれる成分が重要な働きをし、この含有量は産地によってかなりの差があります。

国産よりも中国産の方が品質が良いとされる生薬が多いのですが、柴胡はミシマサイコと言う国産品種が最もサイコサポニンの含有量が多く、良品とされています。

しかし、一時の乱獲によって絶滅危惧種に指定される程の状況で、柴胡剤の需要をまかなうことは不可能です。

栽培されているほぼ全ては、特定の漢方薬メーカーとの契約によって納品されますので、新規参入メーカーが入手することは不可能に近い状況です。

葛根湯などの処方は、どのメーカー品でも大きな差はないようですが、柴胡剤はメーカーによって効果に差があると感じるのは、使用生薬の品種の違いかもしれません。

小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・桔梗・柴胡・生姜・石膏・大棗・人参・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:和解少陽
  • 適  合:実証、熱証

名前が示す通り、小柴胡湯に桔梗と石膏を加味した構成です。

日本で創作された処方で、小柴胡湯の適合証であって炎症や熱感が強い場合に使用します。

具体的には、喉の痛みがある場合や、熱性の咳がある場合および発熱が強い場合が対象となります。

ただし、少陽病期で強い喉の痛みを起こすケースはほとんどありませんので、後者の症状に使用することが大部分です。

石膏は長期に服用するのに適した薬味ではありませんので、炎症や熱感が低減すれば小柴胡湯に変更した方が望ましいと思います。

発熱や痛みを伴う中耳炎にも使用されますが、第一選択とされる葛根湯加桔梗石膏が使用できない場合や、やや慢性に推移している場合です。

葛根湯と併用して柴葛解肌湯の代用として使用していたことがありますが、柴葛解肌湯のエキス剤が登場しましたので、今ではこのような使い方をすることはありません。

小承気湯(しょうじょうきとう)

  • 構成生薬:枳実・厚朴・大黄
  • 陽陰区分:陽明病
  • 治  方:寒下
  • 適  合:実証、腹部が満ちた感じがして便秘があるもの

調胃承気湯と似た位置づけの処方ですが、裏熱の除去や排便を主目的とする場合は調胃承気湯で、胸腹部の痞えを主目的にする場合は本処方を選択します。

大承気湯より芒硝を除いた構成で、便秘の程度が緩和な場合に適合します。

ただし、承気湯ですので実証の便秘が対象で、瀉下作用が緩和だという理由で虚証の便秘に使用してはいけません。

正直に言いますと、この処方でなければと思うような便秘に遭遇したことがありません。

便秘を主訴とする人には、排便促進が穏やかすぎて不満でしょうし、腹部膨満であれば他の処方でも対応が可能です。

病邪が表裏にまたがって停滞し、流通が悪くなった三陽の合病(太陽病+陽明病+少陽病)で、発汗によって精神不安を起こした場合にも使用するとされています。

医者や薬が少なかった昔にはこのようなケースもあったのかもしれませんが、今では見られない状態のように思えます。

余談ですが、刻み生薬の場合において、大黄を最後に入れて煎じると厚朴三物湯になります。

小青竜湯(しょうせいりゅうとう)

  • 構成生薬:乾姜・甘草・桂皮・五味子・細辛・芍薬・半夏・麻黄
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表、温化寒痰
  • 適  合:実~間証、寒証、湿証、水滞に外邪が入り鼻水が出て発熱・咳などを発するもの

元処方は麻黄湯で、杏仁を乾姜・五味子・細辛・芍薬・半夏に変更し、温作用と利水作用を強めた処方です。

元が麻黄湯ですから実証薬なのですが、心や胃に持病がなければ間証にも使うことができます。

水滞体質(水はけが悪い者)に風邪(外からの病因)が加わり、表部(皮膚および目・鼻・喉などの粘膜)や肺部に闘病症状を出す状態に使用します。

逆に、表部・肺部が風邪に侵されて水滞症状を引き起こす場合にも使用します。

咳にも有効なので呼吸器疾患にも使用しますが、太陽病薬であり湿性の咳のみが対象で、乾性の咳が長く続くような疾患には適しません。

悪寒があって咳も出るというケースは麻黄湯も候補の一つですが、湿が強い場合は本処方の方が適しています。

多くは単独使用ですが、胸苦しさを伴う時には半夏厚朴湯と、脾胃が弱い場合は蘇子降気湯と併用して使用します。

最も使用されるのは、鼻風邪やアレルギー性鼻炎で、この2疾患においては最初に検討する処方です。

温める作用が強い処方なので、寒で症状が強くなる場合に適します。

葛根湯加川キュウ辛夷も似たような性質の処方で、大きく分けると、鼻閉が主であれば葛根湯加川キュウ辛夷を、鼻水が主であれば小青竜湯を選択することが多いです。

寒が強い場合は麻黄附子細辛湯、湿が強い場合は当帰芍薬散を併用すると効力が増します。(麻黄附子細辛湯との併用では、麻黄が重複するので量に注意が必要です)

全ての者に使用できる処方ではなく、虚証には使いませんし、麻黄剤が合わない者(服用すると足の冷え・のぼせ・動悸・不眠などが起こる者)にも使えません。

また、悪寒(寒を嫌う)には適しますが、悪風(外気を嫌う)には適しません。

悪風は苓甘姜味辛夏仁湯や玉屏風散などを検討することになります。

西洋医学的にも研究されている処方で、鼻腺細胞に対する抗コリン作用が確認されており、鼻水症状においては抗ヒスタミン薬に近い効果があるとされています。

抗コリン薬や抗ヒスタミン薬は口渇や眠気を起こす可能性がありますが、小青竜湯はそのような症状を誘発しません。

鼻炎においては西洋薬に比肩する処方だと思います。

小青竜湯加石膏(しょうせいりゅうとうかせっこう)

  • 構成生薬:乾姜・甘草・桂皮・五味子・細辛・芍薬・石膏・半夏・麻黄
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:実証、湿証

小青竜湯に石膏を加味した構成で、基本的な適合は小青竜湯と同じですが、悪寒ではなく熱感がある場合に使用する処方です。

小青竜湯証ですから寒さを嫌う体質なのですが、炎症が強くて口渇や熱感の方が優位となっているケースが対象となります。

水滞体質であることが必須条件で、水滞と無縁の場合には麻杏甘石湯を検討します。

小青竜湯は間証でも使用が可能な処方ですが、本処方は原則として実証に使用します。

個人的なイメージとしては中途半端な処方で、小青竜湯と小青竜湯合麻杏甘石湯の中間的な位置にあり、この2者のいずれかでほぼ対応ができます。

よって、本処方を選択するケースはほとんどありません。

小青竜湯合麻杏甘石湯(しょうせいりゅうとうごうまきょうかんせきとう)

  • 構成生薬:乾姜・甘草・杏仁・桂皮・五味子・細辛・芍薬・石膏・半夏・麻黄
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:実~間証、粘い痰が多い咳が出て喉の渇きがあるもの

名前が示すとおり、小青竜湯と麻杏甘石湯を合体させた処方です。

単純に小青竜湯と麻杏甘石湯を混合したものではなく、小青竜湯加杏仁石膏という構成にしたものです。

両処方のエキス剤を併用することは、重複する麻黄の量が多くなり過ぎて危険ですのでしてはいけません。

小青竜湯も麻杏甘石湯も源は麻黄湯で、小青竜湯は温作用と利水作用を強めたもので、麻杏甘石湯は温作用を弱めて清熱作用を強めたものです。

寒・熱の両方に対応できると言えますが、作用が相殺される部分もありますので、善悪の双方を考慮して選択すべき処方です。

具体的な適合を考えますと、水滞体質がある者が肺部で炎症性疾患を患い、やや慢性化して口渇などの熱感があって、痰が切れにくくて咳込む状態です。(痰の切れにくさは陰虚ではなく肺熱による場合です)

麻黄剤ですから、虚証や陰病に陥っている場合には使用しません。

そこそこ体力のある者が、長引く咳をしているけれども寝込むほどではない状況において、ピッタリとは言えないかもしれませんが、外れることの少ない処方です。

ただし、痰の色が黄色~緑色をしている場合は、荊防敗毒散などの排膿剤を選択する必要があります。

小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)

  • 構成生薬:生姜・半夏・茯苓
  • 別  名:半夏加茯苓湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:燥湿化痰
  • 適  合:虚証、水滞、痰飲・悪心・嘔吐・胸郭腫満などによって胃に何も収まらないもの

制吐の基本処方である小半夏湯に茯苓を加味した構成で、吐気にめまいや動悸を伴う場合に使用する処方です。(小半夏湯にはエキス剤がないために、現実にはめまいや動悸がなくても本方を使用することが多いです)

根本は、胃アトニーや胃酸過多からの不消化物を処理し、胃からくる嘔吐・めまい・動悸などを解消する処方です。

悪阻(つわり)に汎用されますが、痰飲(水滞)による場合のみが対象となり、肝機能低下やめまいから起こる吐気の場合には効果がありません。

痰飲によって起こるめまいには使用しますが、めまいによって起こる吐気には使用しませんので、この鑑別は大切です。

独特な臭気がありますので、吐気が激しい時は温服(煎剤を温かい状態で、あるいはエキス剤を湯に溶くか湯で服用)せずに、少しづつ冷服(煎剤を冷ますか、エキス剤を水で服用)します。

なお、裏寒の強いつわりは、本方の適応ではなく、人参湯を考慮します。

また、本方は自然治癒力がある場合に使用し、虚が強くて腹力がほとんどない者の吐気には、乾姜人参半夏丸を選択します。

半夏の配合量が多い処方ですので、陰液の不足が強い場合には注意が必要です。

燥湿化痰薬ですので、基本的に滋潤薬とは併用しません。

本方から派生した処方として、半夏厚朴湯・二陳湯・半夏白朮天麻湯・釣藤散・参蘇飲などがあります。

消風散(しょうふうさん)

  • 構成生薬:甘草・苦参・荊芥・牛蒡子・胡麻・地黄・石膏・蝉退・蒼朮・知母・当帰・防風・木通
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:疎散外風
  • 適  合:実証、熱証、湿証、加皮・充血・掻痒が強くて夏に悪化傾向がある湿性の皮膚疾患

去風薬(防風・荊芥・蝉退・牛蒡子)+清熱薬(石膏・知母・苦参)+利湿薬(木通)+養血潤燥薬(当帰・胡麻・地黄)の構成で、患部に赤味や熱感があり痒みが強い湿疹に使用する処方です。(甘草は調整薬です)

利湿作用の生薬と潤燥作用の生薬が配合されているのは、表の湿と裏の燥に対応するためです。

利湿の作用はやや弱いので、効果が実感されるまでに少し時間を要します。

腎系の炎症と血行不良から血熱を生じている者で、老廃物の排泄が十分にできずに体内貯留したことで起こった皮膚疾患が対象です。

腎の不調と血熱によって比較的強い口渇があり、暑い時期や暖房などによる加温で症状が強くなり、分泌物が多くて痒みが強い傾向があります。

血熱があっても腎系に不調がない場合は、温清飲系を検討します。

また、血熱でなくて心火旺盛によって熱感が強い場合は、症状を増悪させることがありますので、鑑別に注意が必要です。(この場合は清熱利水の猪苓湯が候補になります)

真菌や細菌感染が疑われる慢性・湿潤性の皮膚疾患においては、本方が第一選択となります。(適切な外用薬と併用します)

かぶれ等の紅斑においては、麻杏甘石湯と併用すると速効があり、日光性皮膚炎では本方単独でも効果があります。

風(外因)の関与がある場合のみが適応で、内因による場合は他方の適応になりますので、必ず確認してください。

基本的には実証向の処方なので胃弱者には使しない方が良く、虚証では黄耆剤を検討した方が良いと思います。

熱証が弱い場合や長期連用する場合は、石膏を減じた方が望ましいのですが、エキス剤では調整ができません。

升麻葛根湯(しょうまかっこんとう)

  • 構成生薬:葛根・甘草・芍薬・生姜・升麻
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛凉解表
  • 適  合:間証、熱証、頭痛・悪寒・発熱があり発疹が出るもの

名前に葛根湯が入っていますが、源処方の芍薬甘草湯に解表と解熱のための葛根と升麻を加えたもので、葛根湯とは直接の関係はありません。

病邪が表に留まっているものを解表によって解消する処方で、解表作用は葛根湯と同程度の力があり、風邪の初期にも使用できます。

麻黄を配合していないので胃や心が弱い者にも使え、桂皮がないのでのぼせやすい人にも使いやすい処方ですが、温作用はかなり弱いので、悪寒が強い寒証には適しません。

筋弛緩作用に優れますので筋緊張性頭痛に有効で、温作用が弱いので血管性頭痛にも使用することができます。

風邪の初期において、鼻や喉に症状が出る前で頭痛が強いというケースでは、第一選択にしてもよい処方だと思います。

歴史的に見れば、風邪用の処方として創作されたのではなく、皮膚疾患を内攻させずに発散させる目的で作られました。

ただし、解表作用を升麻に委ねていますので、発赤程度の初期に使用する必要があります。

麻疹や風疹などのウイルス性疾患で、発熱から発赤が始まった段階で服用を開始すれば、罹病期間を短縮できる可能性があります。

皮膚疾患に使用する場合は、解表によって一時的に増悪したように見える場合があり、説明が不十分だと苦情が出ますので注意しましょう。

生脈散(しょうみゃくさん)

  • 構成生薬:五味子・人参・麦門冬
  • 別  名:麦味参
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:気陰双補
  • 適  合:虚証、気虚、陰虚、脾虚、汗かきで心・肺の気陰両虚があるもの

体内の水分が不足状態となる傷津の基本処方で、肺熱から肺の気虚・陰虚となり、心気にまで影響が及んで脈が微弱になった状態を回復させます。

脾虚体質である者が、夏の湿熱や過労によって更に機能低下を起こし、食欲減退・疲労倦怠・息切れなどを呈する場合が適応になります。

具体的には、気津両虚である夏バテや熱中症、肺の気陰両虚による長引く咳、心肺の気陰両虚による動悸・不整脈などが対象です。

人参で補気し、麦門冬で生津し、五味子で収斂することにより汗を止め、陰液の喪失を防ぐことで気陰両虚を改善します。

陰液減少による症状としては、口渇・鼻中乾燥・火照り・空咳などで、体を動かすことで症状が強くなる傾向があります。

喉の使い過ぎで声枯れやイガイガするケースや、COPDの初期症状にも有効です。

夏バテや熱中症においては、熱邪による身体の熱感が強い場合や脾気虚の症状が主であれば清暑益気湯を検討します。

循環器系は心気虚の症状として、動悸・息切れ・不安感を起こすことが多いですが、胸痛や脈の結代を起こす場合もあります。

狭心症や心筋梗塞などの血栓性疾患が関与する場合は、単独では対応できませんので、還元清血飲と併用します。

また、全身的な気虚が強い場合は補中益気湯と、腎陽虚が症状を強めている場合は真武湯と、腎陰虚を伴う場合は六味丸(咳を主訴とする場合は味麦地黄丸)と併用します。

熱ではなく湿によって同様な症状を呈している場合は、六君子湯系あるいは平胃散系の処方を検討します。

逍遥散(しょうようさん)

  • 構成生薬:甘草・柴胡・芍薬・生姜・当帰・薄荷・白朮・茯苓
  • 別  名:八味逍遥散
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:調和肝脾
  • 適  合:虚証、血虚、心虚、血虚者が過労により発した血の道症

四逆散の枳実を薄荷に替え、理気・理血の薬味を加えた構成で、ストレスによって体調を崩しやすい者に適した処方です。

逍遥とはうろつき回るという意味で、適合者は訴える症状が二転三転する場合が多いです。

肝鬱(ストレス)を元とした血虚・心虚から派生した各種症状が対象となりますが、特にのぼせを伴う精神性疾患が主対象です。

肝虚による疏泄不全が脾虚による気血津不足を生み、気血津不足が肝血・肝陰の不足をもたらし、肝血虚が疏泄不全を増悪するという悪循環が根底にあります。

血虚の過労によって、虚熱(処理できない不要な熱)による口渇・火照り・寝汗などの熱感を起こしますが、実熱証ではありません。

のぼせは、気滞によって上方への気血の供給が不足し、上焦に熱がこもってしまったものです。

上衝によるのぼせ程には強くなく、逍遥熱とも称される不定期に起こるのぼせで、午前よりは虚労が増す午後に強くなる傾向があります。

上焦の熱感に対する作用は強くなく、中焦の理気・清熱・活血・利湿によって肝脾不和を改善する処方ですので、効果の発現には多少の時間を要します。

気滞による肝鬱と血虚は当帰芍薬散にも当てはまる証で、肝鬱が強い場合は本処方を、寒湿痰飲がある場合は当帰芍薬散を選択します。

また、脾虚が強くて肝に影響を及ぼしている場合は、柴芍六君子湯を先に検討します。

加味逍遥散の源処方なのですが、加味は気滞から熱化した状態に使用する処方で、適合証はかなり違います。(現代人では、加味逍遥散の適合者よりも本処方の適合者の方が多いと思います)

辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・山梔子・升麻・辛夷・石膏・知母・麦門冬・百合・枇杷葉
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清臓腑熱
  • 適  合:実証、熱証、鼻閉が強く濃い膿が溜まり喉が渇くもの

肺・鼻部の炎症によってのぼせ・熱感や頭部の不快感を起こしている場合に使用する処方です。

消炎解熱作用が中心であって、辛夷には通竅の作用がありますが直接に排膿を促す程の作用はありません。(必要に応じて、桔梗を加味するか、桔梗石膏エキスを併用します)

清熱作用によって寒証の鼻閉は悪化する可能性がありますので、熱証であることの確認は重要です。

虚熱にも有効なのですが、虚証には長期に使用する処方ではありません。(炎症性・潰瘍性の胃腸疾患があると胸焼けや嘔吐などを起こす場合があります)

感染性の副鼻腔炎には効果的ですが、アレルギー性の副鼻腔炎には効果が弱いようです。

鼻病で熱証や疼痛が強い場合には本処方が適応となります。(重症の場合は小柴胡湯を併用します)

鼻茸にも有効で、ヨク苡仁を加味すると効果が速くなりますし、越婢加朮湯との併用で効力がアップします。

アラキドン酸カスケードのリポキシゲナーゼを抑制する作用が確認されており、抗ロイコトリン薬のような効果も期待できるのかもしれません。

参蘇飲(じんそいん)

  • 構成生薬:葛根・乾姜・甘草・桔梗・枳実・前胡・蘇葉・大棗・陳皮・人参・半夏・茯苓・木香
  • 陽陰区分:太陽少陽合病
  • 治  方:扶正解表
  • 適  合:虚証、痰飲、風邪で発熱・頭痛があって胃が膨満して吐気を伴うもの

二陳湯から派生した処方で、痰飲体質者の風邪薬として創作された処方です。

名前が示すとおり、人参と蘇葉が君薬で、胃弱者の去風に適します。

解表薬なのですが、健胃・排膿・理気・鎮吐の作用を持つ生薬が配合されていますので、内に影響が及んでいる場合にも使用か可能です。

葛根湯に対して柴葛解肌薬が、桂枝湯に対して柴胡桂枝湯があるように、香蘇散に対して本処方があると考えると理解しやすいと思います。

風邪に随伴するほぼすべての症状に対応が可能で、安全性が高く服用してはいけない証はありませんので、持病がある人や高齢者では常備薬にしてもよい処方です。

ただし、作用は強くありませんので、実証の人には効果に物足りなさを感じることが多いかもしれません。

解熱剤やトローチを状況に応じて併用するという使い方もできます。

神秘湯(しんぴとう)

  • 構成生薬:甘草・杏仁・厚朴・柴胡・蘇葉・陳皮・麻黄
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:降気
  • 適  合:実証、気鬱、実証で咳と喘鳴が激しいもの

抗アレルギー作用を有する様々な生薬を組み合わせた処方で、気管支喘息に対する標準処方の一つです。

抗アレルギー作用は漢方処方中でもかなり強い方で、鎮咳・去痰・消炎のバランスが良く、神秘的な程の効果があることから命名されたようです。

急性の発作時には麻杏甘石湯や五虎湯が適応となり、本処方は亜急性の呼吸器疾患で喘鳴や呼吸困難を伴う場合に使用します。(石膏が配合されておらず、熱証は強くないので発汗や口渇はありません)

主な対象は肝気鬱に伴う咳で、神経質な傾向はありますが、症状はほぼ呼吸器に限局されます。

麻黄剤ですので、体力があって無汗および内臓に虚がないことが適合条件で、陰病や虚証には使用しません。(麻黄が使用できない場合には柴朴湯を検討します)

真武湯(しんぶとう)

  • 構成生薬:芍薬・生姜・白朮・茯苓・附子
  • 別  名:玄武湯
  • 陽陰区分:少陰病
  • 治  方:温化水湿
  • 適  合:虚証、寒証、湿証、小便不利・四肢が重だるく痛んで下痢するもの

中国四聖獣の一つである玄武の名を冠するほどの中核処方で、人参湯と並んで少陰病の代表処方とされます。(皇帝の名と重なるために真武湯と改名されました)

歴史的には、桂枝去桂枝加白朮茯苓湯から甘草・大棗を除き、附子を加えて創作されたと思われます。

裏寒によって水が不調となり、めまい・下痢・むくみや倦怠感などを起こす場合が適応になります。

裏寒は内生の寒によるもので、明らかに外寒入裏の場合は麻黄附子細辛湯や四逆湯を選択します。

温裏は助作用であって、水分の偏在を解消するのが主作用です。

めまいは雲の上を歩いているような感じで、時に座っていても感じます。(起立時のみのめまいは陽証であることが多く、苓桂朮甘湯を検討します)

めまいという自覚がなく、つまずきやすいと訴えるケースもあります。

下痢は尿や汗による排泄不良を補うための対応でもあり、水様で排便後に苦情を伴うことはなく、腹痛はあっても軽微です。(鶏鳴下痢と呼ばれる早朝の下痢や、食直後に下痢するケースが多いです)

水分の停滞部位によっては、小便不利や下痢はなく吐気がある場合や、偏在によって燥証と見える部位があるので注意が必要です。

熱や痒みのない蕁麻疹、特に寒冷蕁麻疹に奏効する場合があります。

発汗剤の誤用や過用によって、虚脱を誘発したケースにも使用することがあります。

処方がシンプルなので効果発現は早いのですが、刺激によって心・腎の機能を回復させる処方なので、機能亢進タイプに使用してはいけません。

腎陽虚には八味地黄丸が代表処方とされますが、腎虚水泛であれば本処方を使用します。

また、長期連用に適した処方ではありませんので、回復がある程度進めば、処方変更を検討すべきです。

附子剤ですので、原則として小児には使用しませんし、心に器質的疾患がある場合には特に注意を要します。

気虚・陰虚を併発し、倦怠感や動悸が強い場合は、生脈散を併用します。

胃弱者には人参湯と併用するか、人参湯加茯苓を選択します。

参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)

  • 構成生薬:甘草・桔梗・山薬・縮砂・人参・白朮・茯苓・扁豆・ヨク苡仁・蓮肉
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:気陰双補
  • 適  合:虚証、気虚、陰虚、胃腸虚弱で下痢するもの

陰病の補気剤である四君子湯の4種の君剤(甘草・人参・白朮・茯苓)をベースにし、収斂止瀉(下痢止め)に働く山薬・蓮肉を加え、縮砂・桔梗を加味して理気作用を増強し、山薬・扁豆・ヨク苡仁・蓮肉が陰を補います。

脾胃気虚による慢性的な下痢が対象となります。

下痢が長期に続くと陰液が不足して脾陰虚となり、口や唇が乾く状態になりますが、本処方は脾陰虚にも対応できます。

胃腸機能の低下に伴う下痢ですので、口内炎・胃炎などの炎症症状や腹痛はなく、便は水様で臭いもありません。

胃腸の水滞によって食欲不振や、すぐにお腹が膨れる傾向があり、食べると下痢になるというケースに適しています。

地黄を含む滋陰剤である六味地黄丸や滋陰降火湯などの服用によって起こった下痢や、真武湯でも効果がない慢性の下痢にも有効な場合があります。

また、下痢ばかりではなく、風邪において悪寒・発汗がなく脾虚から食欲がなく疲れから発熱している状態にも使用します。

小児に多いタイプで、成人あれば補中益気湯の適応となる風邪です。

倦怠感と食欲不振がある大病後の疲労や、少し食べただけで胸が痞えるという状態も適応となります。

特殊なケースとしては、脾虚による虚熱を抑える作用から、ベーチェット病の症状悪化を防ぐ効果も期待できます。

肺気虚にも対応できますので、長引く咳や風邪をひきやすい状態を改善する目的でも使用が可能です。

女性の帯下にも使用するとされていますが、これには他にも適した処方がありますので、本処方が登場するケースは少ないと思います。

また、脾胃陽虚による夜尿症は小建中湯の適応ですが、脾胃気虚による夜尿症には本方が適応になります。

頭痛やめまいを併発している場合には、半夏白朮天麻湯も検討します。

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