- 構成生薬:黄ゴン・甘草・柴胡・生姜・大棗・人参・半夏
- 別 名:三禁湯
- 陽陰区分:少陽病
- 治 方:和解少陽
- 適 合:実~間証、みぞおちや右胸脇に痞えがあって首や肩がこることがあるもの
中焦(横隔膜付近)部位の疾患で、中焦から上焦(上半身)にかけて症状が出ている場合に使用する処方です。
少陽病薬の代表的処方で、単独使用ばかりでなく他処方と併用して使用されることも多く、陽病の慢性疾患において汎用される処方です。
基本的には実証の薬ですが、麻黄や附子のような強い作用の薬味は配合されていませんので、間証にも使うことができます。
ただし、長期服用する場合は、柴胡が脾胃に負担をかけたり半夏が陰液を損なうことがありますので、間証においても注意が必要です。
肝臓疾患に効果的な西洋薬が無かったことから、昭和後期には漢方処方中1位の使用量がありました。
しかし、証を無視して虚証や陰病にも使用されたケースも多く、間質性肺炎という重篤な副作用が散見されるようになり、医療用医薬品としての使用は激減しました。
証の判定さえ正しければ起きない副作用ですので、薬の責任ではなく保険制度および使い方の問題です。
不幸な過去がありましたが、漢方で肝臓疾患と対峙する時は、今でも最初に考慮する薬ではあります。
中焦に所属する臓器は肝臓だけでなく、胃・胆嚢・膵臓なども含みますので、これらの疾患にも使用する処方です。
柴胡剤の適応を判定する際の特徴とされる胸脇苦満とは、一番下の肋骨の内側あたりに張りがあって圧迫すると苦しいという症状です。
しかし、この症状を自覚する人は稀で、何かの拍子に圧迫を受ければ感じるという程度の人が多く、触診をせずに問診だけで聞きだすことは難しいです。
肩の凝りにも特徴があり、柴胡剤が適合するのは、首の後ろから腕方向に硬直する場合です。(首の後ろから肩甲骨~背中にかけて硬直する場合は、葛根湯系の処方が適合します)
とは言いましても、肩こりの原因にも様々ありますので、これだけで判定できるわけではありません。
他には、口に苦味を感じる・空えずきがある・手の平などに部分的な汗をかく・背中の中央部が張る、などの事項を総合的に判断して適合を判定します。
これがあれば絶対という項目がないので、経験のない人には難しいでしょうが、特徴的な項目がいくつかありますので、ある程度漢方に慣れてくると柴胡剤の適合判定はそれほど苦労しません。
あとは、数ある柴胡剤の中からどれを選ぶかという鑑別で、その際の比較基準となる処方が小柴胡湯です。
漢方処方の中で、最も西洋医学的な研究がされている処方で、一部だけですが列記します。
- 内因性ステロイド分泌促進および代謝阻害により、通常量でプレドニゾロン6mgに相当する抗炎症効果がある
- B型慢性肝炎におけるe抗原の陰性化を促進させる
- 末梢血単球を活性化してインターロイキン1やインターロイキン6の産生を促進する
- 線維芽細胞の増殖を抑制する
- メチルグアニシンの産生を抑制する
柴胡剤の中核となる生薬は、言うまでもなく柴胡です。
サイコサポニンと呼ばれる成分が重要な働きをし、この含有量は産地によってかなりの差があります。
国産よりも中国産の方が品質が良いとされる生薬が多いのですが、柴胡はミシマサイコと言う国産品種が最もサイコサポニンの含有量が多く、良品とされています。
しかし、一時の乱獲によって絶滅危惧種に指定される程の状況で、柴胡剤の需要をまかなうことは不可能です。
栽培されているほぼ全ては、特定の漢方薬メーカーとの契約によって納品されますので、新規参入メーカーが入手することは不可能に近い状況です。
葛根湯などの処方は、どのメーカー品でも大きな差はないようですが、柴胡剤はメーカーによって効果に差があると感じるのは、使用生薬の品種の違いかもしれません。