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柴葛解肌湯(さいかつげきとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・葛根・甘草・桂皮・柴胡・芍薬・生姜・石膏・半夏・麻黄
  • 陽陰区分:太陽・少陽合病
  • 治  方:辛凉解表
  • 適  合:実証、熱証、表実証、頭痛・鼻乾・口渇・不眠・四肢煩疼があるもの

構成としては、葛根湯と小柴胡湯を合体したものから、大棗・人参を除いて石膏を加えたものです。

麻黄・桂皮が表を温め、葛根・芍薬・甘草が筋の緊張をほぐし、柴胡・黄ゴンが炎症を鎮め、半夏・生姜で吐気を抑え、石膏が裏の熱を去る役割で、全体としては、表を温めて発散させて裏を消炎します。

表実証である者において、闘病症状が表と裏に混在している時期に使用する処方です。

表実証で寒気を訴える時期は、熱が高くても冷やすことを嫌がる悪寒時期で、風邪であれば葛根湯・インフルエンザであれば麻黄湯が適合します。

悪寒時期が過ぎると、熱を煩わしく感じるようになり、水枕や氷嚢で冷やすことを気持ち良いと感じるようになります。

表での闘病に敗れて第二防御ラインでの攻防に移る時期に相当し、辛温解表薬である葛根湯や麻黄湯よりも、辛凉解表薬の柴葛解肌湯の方が適しています。

闘病の舞台が完全に裏になってしまえば、大柴胡湯や小柴胡湯などの和解薬に切り替えますが、表での症状が残っている半表半裏の時期は、表も裏も対応する柴葛解肌湯が適合します。

間証の半表半裏には柴胡桂枝湯であり、虚証の半表半裏には参蘇飲であり、実証の半表半裏には柴葛解肌湯です。

インフルエンザのウイルスを撃退する力はありませんが、インフルエンザに伴う強い症状をも緩和する作用を持ちますので、風邪がインフルエンザか分からない時にも選択できる便利な処方です。

柴陥湯(さいかんとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄連・瓜呂仁・甘草・柴胡・生姜・大棗・人参・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:和解少陽、清熱化痰
  • 適  合:実証、熱証、湿証、陽病で胸部水滞によって様々な違和状態を呈するもの

小柴胡湯と小陥胸湯の合剤で、胸部に病邪が鬱滞して、咳・痛み・圧迫感や熱感がある場合に使用する処方です。

昔は肋膜炎に対して特効薬のように使用されていた処方らしいのですが、肋膜炎そのものを見かけることが少なくなった現在では、あまり汎用されてはいません。

厳格には、胸脇苦満に対応する小柴胡湯と結胸に対応する小陥胸湯の合剤ですから、両症状が併存する場合に適合となります。

しかし、両者の鑑別は簡単ではありませんので、雑な言い方をすれば、どちらか分からない場合にも使用します。

具体的には、熱性の呼吸器疾患が少し長引き、咳・痰だけでなく胸部痛や圧迫感などを併発している状態に使用します。(あくまで陽病薬ですので、陰病に陥っている場合には使用しません)

胸部の熱によって痰が切れにくいことが多く、この点だけを見れば陰液の不足と似てはいますが、全くの別物ですから間違えてはいけません。

他には、肋間神経痛や中焦部に発した帯状疱疹の疼痛緩和にも使用されることがあります。

熱や痛みが強い場合は、人参・大棗・甘草を枳穀・桔梗に変更した柴胡枳桔湯の方が適しています。

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

  • 構成生薬:桂皮・柴胡・生姜・大黄・大棗・人参・半夏・茯苓・牡蛎・竜骨
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:和解少陽
  • 適  合:実証、気滞、種々の神経症状が強く胸脇の痞えや腹部で動悸を感じるもの

小柴胡湯を源処方としており、弱い去風薬の甘草を強い去風薬の桂皮・茯苓・牡蛎・竜骨に変更した処方と考えられますので、上記の構成は正統ではないように思います。(適応は陽明病に近い少陽病ですので、大柴胡湯を源処方としているとの説もあります)

肝火上炎(ストレスなどの肝に負担がかかる事象によって、自律神経系が不調になる)で誘発される各種神経疾患に使用する代表的処方です。

原因は同じでも身体症状が主である場合は、大柴胡湯や小柴胡湯が候補になります。

柴胡剤に共通する特徴である胸脇苦満は大柴胡湯並に強く、特に右側で顕著です。

腹部における動悸は、柴胡桂枝乾姜湯でも特徴とされますので、本処方に特有の症状ではありませんが、自覚するレベルであれば本処方を選択します。

循環器系の症状が強い心火旺にも対応することが可能ですが、そちらへの第一候補は瀉心湯類で、肝の関与がない場合は本処方を使用しません。

男性不妊症には補中益気湯が使用されることが多いですが、実証で神経性の要因が強い場合は、本処方を試行することもあります。

脳内トリプトファン量を増加させるという研究報告があり、セロトニンの原料であることから抗うつ作用を期待させます。(脳内セロトニン量の増加が確認されているのかは不明です)

構成は薬局製剤のものを表記しましたが、各社のエキス剤には黄ゴンを含み、ツムラ製では大黄を配合していないなど、微妙な違いがあります。(文献では鉛丹を配合した構成もあります)

柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・カ楼根・乾姜・甘草・桂皮・柴胡・牡蛎
  • 別  名:柴胡桂姜湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:和解少陽
  • 適  合:虚証、熱証、みぞおちと胸脇に軽い痞えがあって臍付近に動悸を感じ疲れやすく首から上に汗をかきやすいもの

柴胡桂枝湯と名前が似ていますが、柴胡剤である以外の共通点はなく、虚証の陽病に使用する柴胡剤です。

小柴胡湯の虚証バージョンではなく、柴胡加竜骨牡蛎湯の虚証バージョンと考えた方が理解しやすい処方です。

構成に半夏を配合せずにカ楼根を配合しているので潤す作用を持ち、柴胡証に多い吐気を対象とせずに口渇を対象としている点に特徴があります。

口渇は虚証の熱性疾患によって体内水分が不足して起こるもので、発汗する場合でも全身ではなく首から上のみとなり、尿量も減少気味になります。(全身発汗する場合は補中益気湯を検討します)

虚証とは言いましても生来の虚弱ではなく、機能低下によって引き起こされたものを対象にします。

胸脇苦満は非常に弱くて自覚しない場合が大部分ですので、これを指標として選択しない方がよく、むしろ臍付近の動悸の方に着目した方が間違いが少ないと思います。

適合者は、緊張している時には一見元気そうに見えますが、帰宅して緊張が緩むとガックリと疲れるという者が多いです。

肝の高ぶりを抑えきれずに、弱い神経症状を呈する場合も少なくありません。

ただし、構成に芍薬を含みませんので、四逆散系のような抗ストレス作用は強くありません。

柴胡剤が適合となる肩こりは耳下から肩方向への凝りですが、本処方は若干異なり、背骨と肩甲骨の間の凝りに使用します。(場所は葛根湯系の適合と似ていますが、他の要因から区別はつきます)

実証ではなく、あまりに虚証でもなく、典型的な柴胡証でもないという、複雑な状態に使用する処方のように思えますが、「熱性疾患が慢性化しているけれども陽病に留まっている状態」に当てはめて考えると本処方の適合が見えてきます。

対症療法を繰り返すことでこのような状態に陥っている人は多く、本処方が適合した場合の効果は着目に値します。

柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・桂皮・柴胡・芍薬・生姜・大棗・人参・半夏
  • 陽陰区分:太陽少陽合病
  • 治  方:和解少陽
  • 適  合:間証、のぼせ・発汗傾向があり心下や胸脇に軽い痞えがあるもの

小柴胡湯と桂枝湯の合剤で、柴胡湯証であって発汗などの表症状がある場合に使用する処方です。

簡単に言えば、風邪初期における表の闘病時期を過ぎ、病邪が裏に入ろうとする時期で、発熱や発汗などの表症状が残存していながら呼吸器や消化器にも症状が出る時期に使用します。

少し専門的に表現すれば、表の闘病で発汗が過ぎ、津液が失われて裏の抵抗力が低下し、少陽の症状を出すようになった時に使用する処方です。

表虚による発汗ではなく闘病による発汗なので、全身からの発汗とは違い、ほぼ上半身に限定した発汗が特徴です。

風邪の少陽病期は解表させると望ましくないので、表症状がなくなり発熱も寒熱休作(発作的に発する熱)から寒熱往来(寒気と発熱が交互に起こる)となるなど、完全に少陽病となった段階には適しません。

腹証は、胸脇苦満+上部腹直筋緊張なのですが、それほど強くなく、患者さんが自覚するケースはほとんどありませんので、問診で確認することは難しいです。

合剤にしたことで柴胡+芍薬の構成となり、小柴胡湯や桂枝湯には無かった抗ストレス作用が発現します。

風邪の中期に対応する処方(柴葛解肌湯や参蘇飲も参照してください)として重宝しますが、この抗ストレス作用を生かした使用においても重要な位置にある処方です。

てんかん・多動症・ヒステリーなど、発作的に発症する精神神経疾患において、奏効例の報告が多数あります。

また、小柴胡湯よりもやや虚に位置する柴胡剤として、肝臓・消化器・呼吸器などの中焦の疾患や腎臓疾患にも使用されます。

他には、アレルギー疾患・仮性近視・滲出性中耳炎・小児夜尿症などにも使用します。

小児のアレルギー疾患に対しては、蜂蜜を併用すると小柴胡湯+小建中湯の構成となり、体質改善効果が高まるとの報告があります。

特殊な例として、熱中症などで発汗過多を起こし、亡陽から意識が朦朧となった場合に本処方を使うとの記録があります。

非常に多岐にわたって使用される処方で、調べていると思わぬところでも使われることを発見します。

柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄柏・黄連・瓜呂根・甘草・桔梗・牛蒡子・柴胡・山梔子・地黄・芍薬・川キュウ・当帰・薄荷・連翹
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱解毒
  • 適  合:間証、熱証、血虚、苦味質で神経過敏の傾向があるもの

温清飲に表部の炎症を鎮める牛蒡子・薄荷・連翹を加え、排膿を促す桔梗・甘草を加え、清熱解毒を高める柴胡・瓜呂根を加えた構成です。

原初の処方は温清飲とは関係なく、黄ゴン・甘草・桔梗・柴胡・山梔子・川キュウ・人参・連翹の構成だったらしいですが、源処方とされるものが他にもあり、今の構成は近世になって日本で創作されたものです。

構成生薬から考えると、熱証・血虚だけでなく、気滞・血鬱・痰湿にも対応している処方です。

扁桃腺が腫れやすいアデノイド体質と呼ばれる小児の粘膜系虚弱に対して、第一選択となる処方です。

構成としては温清飲の派生処方ですから、血熱を伴う慢性皮膚疾患にも適します。

また、喉や肺がウイルスなどに侵された場合にも使用しますが、解表作用は強くありませんので、急性の皮膚疾患には適しません。

苦味質とは苦味にあまり抵抗がない者のことで、本処方はかなり苦い薬なのですが、適合する者には継続可能な味に感じます。

逆に、本処方を服用して苦味を強く感じる者には適合しない可能性が高く、無理に飲ませるよりも、十全大補湯や小建中湯に変更を検討すべきです。

本処方に限らず、漢方には味覚の相性があり、とても飲めない味に感じる処方は適合しないことが多いです。

神経過敏は肝亢進によるもので、癇が強くてストレスで悪化しやすい傾向があり、手足に緊張性の発汗がある・くすぐったがり屋といった特徴があります。

乳児の夜泣きや癇の虫は、肝の発育が遅いために負担がかかって起こるもので、原理は同じですから、服用が可能であれば効果が期待できます。

長期服用では体質によって冷やし過ぎることがあり、脾虚を伴う場合や服用して下痢を起こす場合は、補中益気湯と併用します。

また、アトピー性皮膚炎のように症状が長期化している疾患において、なかなか体質改善効果が得られない場合は、桂枝茯苓丸などの駆オ血剤と併用します。

構成生薬の牛蒡子には子宮収縮作用があり、薄荷には乳汁分泌抑制作用があります。

エキス剤であれば影響は軽微だと思いますが、妊婦・授乳婦の人には使用しない方がよい処方です。

柴胡疎肝湯湯(さいこそかんとう)

  • 構成生薬:甘草・枳実・香附子・柴胡・芍薬・青皮・川キュウ
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:調和肝脾
  • 適  合:間証、四逆散証で気鬱や痛みが強いもの

肝気鬱結の基本処方である四逆散に、川キュウ・青皮・香附子を加えて理気や鎮痛の効果を高めた処方です。

四逆散の増強バージョンですので、ストレスに起因する幅広い症状に対応でき、特に痛みを伴う疾患においては本処方の方が効果的です。

胸脇痛・腹痛・膵炎や胆石に伴う疼痛・脾湾曲症候群(大腸のガス貯留による左上腹部痛)などの中焦部の痛みはもちろんとして、肋間神経痛や生理痛などにも使用されます。

中焦が壁のような状態となり、気が下降できずに上へ突き上がり(衝逆)、これによって誘発される肩の強張りを伴う痛みや筋緊張性の頭痛にも有効です。

また、気痛には正気天香湯が有名ですが、本処方にもそれに勝る効果があり、痛む場所が遊走する場合には検討に値する処方です。

四逆散の派生処方ですから、熱厥による四肢冷感も選別ポイントではありますが、冷えが顕著でなくとも気鬱・ストレス・痛みの3つが揃えば適合する場合が多いです。

名前は似ていますが、柴胡清肝湯とは全く別の処方で、関連もありません。

柴芍六君子湯湯(さいしゃくりっくんしとう)

  • 構成生薬:甘草・柴胡・芍薬・生姜・大棗・陳皮・人参・半夏・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:理気
  • 適  合:虚証、気虚、湿証、四逆散の証にて胃虚を兼ねるもの

脾虚痰飲の六君子湯に柴胡・芍薬を加味した構成で、胃腸機能の低下に胸脇苦満や腹痛を伴う場合に使用します。

四逆散+六君子湯に近い構成になっており、肝鬱脾虚が対象となります。

肝気鬱から脾胃に影響が及んだ場合で、抑肝散加陳皮半夏と似た状況ですが、本方は神経の緊張症状が弱く脾虚が強い場合に選択します。

(心気虚による心配性や不安感が併存する場合は、加味帰脾湯を検討します)

柴胡+芍薬には抗ストレス作用がありますので、外因によって腹痛や腹部膨満などの胃腸系トラブルを訴える人には、常に候補となる処方です。

心下痞と胸脇苦満の双方に対応しようとした処方ではありますが、効果が相殺される部分もありますので、漫然と選択してはいけません。

(胸焼けなどの胃酸過多症状が強い場合は、人参が入らない方が良いので四逆散を選択します)

柴胡は基本的に胃弱に適した生薬ではありませんので、胃弱を前提に選択せずに、小柴胡湯や四逆散で胃腸に負担があるケースに使用した方が間違う危険性は低いと思います。

肝鬱と脾虚を同時に対応しようとした処方であり、便利ではありますが相容れない部分もありますので、それを理解した上で使用せねばなりません。

柴朴湯(さいぼくとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・厚朴・柴胡・生姜・蘇葉・大棗・人参・半夏・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:和解少陽
  • 適  合:実~間証、気鬱、痰飲、肩こりや咽の異物感があって喘鳴・咳・胸脇苦満があるもの

構成は小柴胡湯と半夏厚朴湯を合わせたもので、昭和初期に創作された比較的新しい処方です。

小柴胡湯の行気と除湿を増強させた働きがあるので、小柴胡湯加厚朴蘇葉茯苓と考えた方が理解しやすいかもしれません。

柴胡証であればあまり虚実にこだわらずに使用が可能な処方で、慢性ではあるけれども陽病に留まる呼吸器疾患が対象になります。

小柴胡湯の特徴である胸脇苦満は選択における絶対必要条件ですが、半夏厚朴湯の特徴である喉の異物感は出ない場合が少なくありません。

(胸脇苦満は患者さんが訴えなかったり自覚しないことも多いので、問診だけで判別する場合には注意が必要です)

みぞおちの痞えである心下痞がある場合には、一般に使用しません。

心の不調などの理由で麻黄剤が使えない呼吸器疾患において、代替薬として使用するケースもありますが、長期的に体質改善による治療を目的に使用するケースの方が多いです。

喘息などの炎症性疾患において、ステロイド剤の減量を目的として使用されることもあります。(喘息発作の緩解には効果が及びません)

小児喘息はアレルギーの関与が大きいので、一般的には神秘湯が第一選択となりますが、麻黄剤が使えない場合は本処方が候補になります。

半夏厚朴湯と同じく、地竜を加味すると効果が延長します。

炎症が強い場合や便秘を伴う場合は、大柴胡湯+半夏厚朴湯にする方が効果的です。

柴苓湯(さいれいとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・桂皮・柴胡・生姜・大棗・沢瀉・猪苓・人参・半夏・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:和解少陽
  • 適  合:間証、湿証、胸脇に張りがあって尿利減少・口渇がありむくむもの

小柴胡湯と五苓散の合剤で、柴胡証がある水滞症状に使用する処方です。

小柴胡湯は気虚気滞熱証・五苓散は痰湿水滞寒証ですので、気の使い過ぎやストレスによる気滞によって気虚(疲れ)が強くなり、甘い物や冷たい物を過食して起こった不調に適する処方と言えます。

ただし、柴胡証+水滞であれば必ず本処方というわけではなく、虚実や他の要因によって、大柴胡湯+五苓散・加味逍遥散+五苓散・補中益気湯+五苓散なども使用します。

四君子湯や小半夏加茯苓湯の構成を内包していますので、様々な胃腸疾患に対応が可能です。

水滞症状は五苓散と同じで、湿の判別さえ正しければ虚実に関わらず使用が可能ですが、あくまで陽病薬なので陰病には使用しません。

炎症による熱を伴うことが多いのですが、体温計で測れる熱ではないことも多く、肝火として現れる場合もあります。(熱がない場合は、胃苓湯も検討すべき処方になります)

慢性腎炎にも汎用され、ネフローゼにおけるステロイド剤の減量を目的に使用されることも多い処方です。

病院などでは、胃腸系疾患よりも腎臓系疾患に使用される頻度の方が高いかもしれません。

西洋医学的な解析も進んでいる処方で、報告事例を列記します。

  • 肥厚性瘢痕の赤みを除く作用に優れる
  • 妊娠中毒症に有効
  • 糖尿病性腎症におけるBUN・血清クレアチニンの上昇を抑制する
  • 急性炎症における肉芽形成抑制作用がある
  • 慢性炎症における組織の繊維化を抑制する作用がある

三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄連・大黄
  • 別  名:瀉心湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清臓腑熱
  • 適  合:実証、熱証、頭に血が充満しているように感じるもの

実証で便秘傾向がある者が、胃の不調から心へ苦情を呈している場合に使用する処方です。(下痢傾向の場合に本処方は適しませんので、半夏瀉心湯を検討します)

黄連解毒湯の増強バージョンのようなイメージで、より実証度が強く症状も強い場合に適応になります。

心火旺によって不眠や興奮性の神経症状を伴うことが多いです。(時として幻覚を見ることがあると古書に記載されていますが、そこまでの症状は見たことがありません)

交感神経の過剰興奮による症状で、それを瀉下(便を出す)によって解消させるのが本処方です。

症状は強い上気によって首から上(上焦)を中心として現れ、中焦や下焦が主である場合は他瀉心湯の適応になります。

昔は、刀傷を受けた時の止血と鎮静に、頓服で使用されていたようです。

今でも、興奮してなかなか止血しない外傷の出血や鼻血に用いて効果があります。

興奮による一時的な血圧上昇を抑える効果もありますが、平常の血圧を下げる効果はありませんので、降圧剤としては使えません。

胃酸過多による胸焼けやみぞおちの痞え感に有効ですが、機能低下にるよみぞおちの痞えは人参湯系の適応で、本処方を使用してはいけません。

飲酒前に服用しておくと、二日酔いの予防効果が期待できます。

胸部に膨満感がある場合は、瀉下してはいけませんので、使用しません。

大黄黄連瀉心湯という名の処方も同じ構成ですが、こちらは煎じ薬ではなく振り出しで使用します。(同名で大黄・黄連という構成の処方もあります)

酸棗仁湯(さんそうにんとう)

  • 構成生薬:甘草・酸棗仁・川キュウ・知母・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:滋養安神
  • 適  合:虚証、心陰虚、心身が疲れて些細なことが気になって眠れないもの

神経質で日頃から動悸を感じやすい人が、過労によって神経が昂って不眠となる場合に使用する処方です。

虚労から心肝血虚を誘発し、それによって神気が不安定となって不眠となるケースが適合します。

虚労は身体的疲労に起因する場合は本方の適応ですが、精神疲労に起因する場合は帰脾湯が第一候補になります。

名を冠している養心補肝の酸棗仁が主薬で、利水健脾の茯苓が協力して鎮静作用を発揮します。

滋陰清熱の知母は上焦の熱を除き、活血行気の川キュウは血行促進で体を温め、ともに鎮静の作用を増強して深い眠りに導きます。

対象は虚弱者の心陰虚による睡眠障害で、丈夫な人に多い心火旺や肝火上炎による不眠には効果がありませんので鑑別が重要です。

陰虚ですから布団に入ると火照りを感じることが多く、その不快感が入眠を妨げる一因にもなります。

虚弱な者が昼夜のリズムが崩れる生活を続けて不眠となったケースや、仕事からリタイアして昼夜の区別が少ない生活となった高齢者の不眠に適合する場合が多いです。

疲れるとかえって眠れないタイプの入眠障害によく使用しますが、寝ても浅い眠りで夢をよく見るタイプの熟眠障害にも使用します。

また、寝汗は夢との関連が深く、神経が衰弱している者の寝汗にも使用します。

陰虚が強い場合は、六味地黄丸と併用します。

胃弱者にも使用できますが、胃内停水(痰飲)がある場合は温胆湯を先に検討します。

なお、酸棗仁には子宮興奮作用がありますので、妊婦には使用しない方がよいと思います。

漢方の睡眠剤とも言われている処方ですが、不眠に対応する処方は数多くあり、証が適合しないと効果がありませんので、安直に選択すべきではありません。

三物黄ゴン湯(さんもつおうごんとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・苦参・地黄
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱去湿
  • 適  合:間証、陰虚、足に不快な火照りがあるもの

陰液の不足から虚熱を発している状態を、補陰と清熱を同時に行うことで解消する処方です。

元は産褥熱に対応するために創作された処方のようです。

陰虚火旺と呼ばれる不要な熱を処理できずに残留した熱で、体温計で計測できる熱ではありません。

陽気の過剰によって火照る実熱とは違い、出血が続くことで火照る血熱とも異なります。(実熱には補中益気湯、血熱には温清飲が適合します)

足の火照りが最も顕著な症状ですが、陰虚火旺によって不眠や自律神経失調を誘発する場合や、湿熱下注によって膿疱症や陰部掻痒などをもたらすこともあります。

乾燥傾向で夜に痒みが強くなる皮膚疾患も、陰虚火旺で起こることが多い症状です。

湿熱によって陰液を損なうタイプのアトピー性皮膚炎には、黄連解毒湯との併用が効果的です。

火照りに関してはかなりの速効性がありますが、補陰の力はそれほど強くありませんので、根本治療には陰を労わる生活を励行することも重要です。

胃弱者には負担となる場合がありますので、使用はお薦めしません。

その他の適応としては、産後や生理中に起こる微熱や火照り、結核に伴う熱感、水虫・タムシやトリコモナスによる痒みなどがあります。

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