
漢方では、健康な体はバランスがとれていて諸事うまく回転しており、病気ではバランスが崩れて流れに澱みができていると考えます。
注目するバランスにはいくつもあるのですが、最も基本的で重要とされるのが「陽」と「陰」です。
専門的な解説は難解ですから、簡単な表現をしますと、陽は活動に必要な熱を作る力で、陰は余分となった熱を冷ます力です。
自動車に例えれば、陽はエンジンであり、陰はラジエターです。
ラジエターだけでは車は動きませんし、エンジンだけではすぐにオーバーヒートしてしまいます。
双方が揃うことで長距離走行が可能となるように、体内でも陽と陰がバランスを保つことで体調を維持しています。
陽陰バランスの崩れは、大きく分けて4つのタイプに分けられ、自己判断できる場合が多いので典型例を紹介します。
陽実型:熱の産生が過剰で熱感があります。活動時にのぼせや身熱として感じることが多く、口渇を伴うことも少なくありません。風呂でのぼせやすく、暑がりで冬でも厚着をせずに冷たい物を好む傾向があります。
陽虚型:熱の産生が少なく全身的に冷えを感じます。冷え性の人の多くはこのタイプで、冬や冷房に弱く、温かい物を好む傾向があります。熱量が少ないので疲れやすく、無理がききません。
陰実型:冷ます力が強くて冷えを感じやすいのですが、手足などの末梢部に限られます。必要な熱は産生されているので活動に支障はなく、病的な感じはありません。陰は上げにくい力なので、非常に少ないタイプです。
陰虚型:冷ます力が弱く熱感があります。陽実型の熱とは違い、安静時に末梢部の火照りとして感じます。弱い口渇やのぼせを伴うこともあり、少しの無理でオーバーヒート状態になってしまいます。高齢者に多いのですが、生活の不摂生や睡眠剤の長期服用でも陥ることがあります。
陽陰は漢方の基本中の基本で、上記の型によって全く対応が異なります。
熱の多寡だけをみると、陽実と陰虚は同じですが、前者は陽を下げ、後者は陰を上げる対応が必要です。
慢性病の多くは、陽虚か陰虚ですが、どちらを高めるかで選択する処方は全く違います。
陽と陰が共に崩れる場合もあります。
同じように強く、あるいは弱くなると、奇妙なバランスがとれて、あまり症状として表に出てきません。
俗に虚弱体質と言うのは陽虚+陰虚で、健康な人よりも低い位置でバランスをとっている状態です。
余力が少ないので、少しバランスが崩れただけで大きく体調を崩すことになります。
「気」・「血」・「水」という語句も漢方ではよく出てきます。
陽や陰の力を全身に巡らせるのに必要なもので、この流れを非常に重視します。
やや正確さを欠きますが西洋医学的に表現しますと、気は自律神経の流れです。
血は血液およびホルモンの流れ、水は水分の流ればかりでなく代謝系全般を含みます。
気・血・水は個々に単独の存在ではなく、相互に影響し合う関係があります。
例えば、自律神経失調で血圧が上がったり便秘になったり、更年期障害では女性ホルモンの減少が神経に影響を及ぼして不眠やイライラを起こす、といった関係です。
これらの影響で少々複雑になる場合もありますが、表面的な症状に惑わされずに真の原因を見つけることに役立つことが多いです。
同じ病気でも症状に違いを生じるのは、流れの具合や影響の度合いが違うからで、これらを追及していけば証にたどり着きます。
西洋医学的な病名が付く前の段階において、気血水の流れが体調の変化を教えてくれることがあります。
「物事に集中できない」・「汗が滝のように流れる」、これだけの症状では病気の範疇に入らないとされることが多いでしょう。
漢方では、これら症状は気や水の流れが乱れているとして治療の対象になります。
初期段階で対応することで、本格的な病気を防ぐことは漢方の得意分野です。
西洋医学には、陽陰や気血水と同じ概念がありませんが、似たようなものに恒常性(ホメオスタシス)があります。
神経性調整機構と液性調節機構によって、体内環境の大きな崩れを防いでいるというものです。
神経性調整機構とは自律神経が担っており、漢方で言う気と似たものです。
液性調節機構とはホルモンなどの体内物質が担っている仕組みで、漢方で言う血に近いものです。
水に相当するものがないことが、西洋医学と漢方の違いの一因になっているのもしれません。