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二朮湯(にじゅつとう)

  • 構成生薬:威霊仙・黄ゴン・甘草・羌活・香附子・生姜・蒼朮・陳皮・天南星・半夏・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:去風勝湿
  • 適  合:間証、湿証、首から肩にかけて痛むもの

様々な除湿作用を持つ生薬を組み合わせた処方で、湿によって表部に痛みを起こしている場合に使用します。

二陳湯をベースにした構成になっており、痰飲体質者に適しますが、裏部の湿症状には使用しません。

外風の影響を受けやすい肩部の痛みに使用することが多いのですが、特に限定する必要はなく、他部位の神経痛などへも使用します。

ただし、坐骨神経痛などの下半身の痛みに使用することはほとんどありません。

血行を促進する作用はありませんので、理血剤を必要とする血行不良性の症状との鑑別が必要です。

雨が降る前に痛みが増すというような典型的なケースは少なく、湿による表症状の判別は難しいので、理血剤や理気剤で効果がないケースに検討することが多いです。

また、麻黄剤や附子剤が使用できない人の五十肩の場合も、選択対象になりますが、独活葛根湯のような切れ味はありません。

燥作用が強いので陰虚証の人には注意が必要で、天南星に堕胎作用がありますので妊婦には使用しません。

二陳湯(にちんとう)

  • 構成生薬:甘草・生姜・陳皮・半夏・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:燥湿化痰
  • 適  合:虚証、湿証、心下に水飲があってめまい・動悸・頭痛などを感じるもの

小半夏加茯苓湯に、健胃の作用を増強するために甘草・陳皮を加味した構成です。

源方の小半夏加茯苓湯と同様に、痰飲にのみ使用する処方ですが、胃部に炎症がある場合は本方を使用します。(胃痛がある場合は、枳実・縮砂を加えた枳縮二陳湯を選択します)

適合や注意事項は小半夏加茯苓湯と同じですが、胃への配慮をしたい場合には本方が適しますので、実際には本方を使用するケースの方が多いです。(逆に、小半夏加茯苓湯を選択するのは、甘草を使用したくない場合です)

主訴が吐気だけの場合によく使用しますが、つわりには甘草が含まれているので使用しません。

なお、吐いた後にスッキリする水逆タイプの吐気には、五苓散系の方が適します。

女神散(にょしんさん)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄連・甘草・桂皮・香附子・川キュウ・大黄・丁字・当帰・人参・白朮・檳榔子・木香
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:調和肝脾
  • 適  合:実証、気滞、のぼせ・めまいがあり時に種々の神経症状を伴うもの

血行不良でのぼせが強く、緊張性の神経症状を伴う場合に使用する処方です。

戦場において恐怖や失望から神経症を起こした場合に使用する安栄湯を、婦人病に活用して有効であったことから広まったとされますが、構成は安栄湯より若干変化しています。

肝・心・脾・肺に及ぶ清熱作用と、黄ゴン+黄連の瀉心作用がありますので、気の上逆や上衝する邪熱を清熱・降気によって解消する作用に優れています。

肝陽上亢のようなイライラの強い状態に適する処方です。

加味逍遥散と似た部分もありますが、より実証度が強く、発現する症状は逍遥性(不定愁訴とも呼ばれ、さまようように一定しない)ではなく固定性のケースに適合します。

内臓に虚弱がある者や汗かき体質者には使用しませんし、丁字に子宮収縮作用がありますので妊婦にも使用しない方がよい処方です。

名前から分かるように、産後の神経症や更年期障害など女性に使用するケースが多い処方ですが、ストレスによる脱毛・鉄分欠乏などによる爪の変形・肌の艶低下などでは男女ともに使用します。

顔が赤くなるほどにのぼせが強い場合は丁字を去る方が良いとされますが、エキス剤では対応できません。

なお、ツムラのエキス剤は、白朮ではなく蒼朮を使用し、大黄を含んでおらず、かなり性質が異なります。

人参養栄湯(にんじんようえいとう)

  • 構成生薬:黄耆・遠志・甘草・桂皮・五味子・地黄・芍薬・陳皮・当帰・人参・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:気血双補
  • 適  合:虚証、表虚、気虚、五臓が弱って体力が著減し筋肉痛・関節痛・息苦しさ・下痢などを伴って喉・唇の渇きや鬱があるもの

十全大補湯の川キュウを遠志・五味子・陳皮に入れ替えた構成で、適合は類似しますが、慢性的な脱水と肺機能の低下が強い場合に使う処方です。

表虚によって皮下や肺・胃腸などに水が停滞し、その水毒によって気・血ともに虚した状態ですが、生津機能が低下しているために皮膚などの表部は乾燥して脱毛が多くなります。

肺気虚によって、不眠・咽頭異物感・健忘などの神経症状を伴う場合も少なくありません。

完全な補剤なので速効性はなく、ゆっくりと回復させる処方なので、効果の発現には少し時間がかかります。

人参湯と名前は似ていますが無関係で、人参湯の特徴とされる心下痞硬はありません。

抗癌剤による白血球減少や胃腸機能の減弱を防止する目的で、併用されるケースがあります。(十全大補湯も同じ目的で使用されますが、呼吸器系には本処方を使う場合が多いです)

また、NK細胞の活性を高める作用や、抗体産生細胞の数を増加させることが確認されており、病で弱った免疫系を回復させる働きがあります。

補中益気湯と同様に、精子の濃度や運動量を高めますので、男性の不妊症治療にも使われる場合があります。

特殊な働きとして、嫌気的解糖系を促進することで、抗老化作用が期待できるとの報告があります。

漢方処方の中では比較的高価な処方ですので、本処方でなければならないというケースを除いて、第一選択として使われることは少ないと思います。

人参湯(にんじんとう)

  • 構成生薬:乾姜・甘草・白朮・人参
  • 別  名:理中湯
  • 陽陰区分:少陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、寒証、脾虚、気虚、嘔吐・下痢が激しく胃が冷えて喉が渇かず表証のないもの

苓姜朮甘湯の茯苓を人参に替えた構成で、寒によって胃腸や腎系の働きが弱った状態を回復させる処方です。

気虚の基本処方である四君子湯より茯苓を去り、裏寒に対応する甘草乾姜湯を合体させた構成でもあります。

つまり、冷え+気虚があって、その影響で湿が生じやすい状態が適応になります。

脾陽虚によって胃の消化機能が低下し、食物が残ったような痞え感があり、唾液分泌過剰や口内炎を起こしている者に適します。

胃腸症状は寒によるものなので、温めると緩和し冷やすと悪化します。

本処方は胃腸の動きを良くするとともに胃酸分泌を促進して消化機能を高めますが、胸焼けがある場合には適しておらず、胃腸機能低下+胸焼けがある場合には六君子湯系を検討します。(みぞおちの痞え感と胃酸過多がある場合は瀉心湯系の適応です)

排便は、腸管吸収の低下から下痢になることが多いのですが、腸蠕動の不調でコロコロの兎便状になることも少なくありません。

下痢でないから本処方の適応ではないと誤解しないようにしてください。

機能低下による下痢にしても、胃に起因する場合は本処方で良いのですが、腸に起因する場合は真武湯の方が適します。

排尿では、尿細管再吸収の低下から多尿となっている状態を、人参によるホルモン分泌刺激によって回復させます。

ただし、本処方を漫然と使用していると、人参・甘草の生津作用で浮腫を起こしたり、継続的な腎への刺激で腎虚に陥る場合があります。

温裏剤ですので、腹部の冷え・手足の冷え・冷えによる頻尿などという寒の症状によく使用しますが、脾陽虚による場合のみが適合で、動悸・自汗のある心陽虚や腰膝寒・夜間頻尿のある腎陽虚とは適合が違います。

嘔吐・下痢では五苓散が第一に思い浮かぶ処方ですが、五苓散は熱証で口渇を伴う場合に使用する処方なので適合が違います。

ただし、肝硬変が進行して、腹水・黄疸・浮腫・全身衰弱がある場合には、本処方と五苓散を併用する場合があります。

また、シャックリで、呉茱萸湯の苦味で気分が悪くなった者に用いて有効であったという報告があります。

排膿散(はいのうさん)

  • 構成生薬:桔梗・枳実・芍薬
  • 別  名:枳実芍薬散加桔梗
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:外瘍
  • 適  合:間証、粘痰や便に血や膿が混ざるもの

枳実芍薬散は胸腹部の張りと痛みに使用する処方ですが、桔梗を加味した本方は、源処方と違った使用をします。

枳実・芍薬が患部の緊張を緩和して、桔梗の排膿力を発揮しやすくしたもので、主薬は桔梗になっています。

具体的には、患部が緊張(腫脹)して発熱や疼痛を伴う化膿性の皮膚疾患が対象になります。

排膿しそうな状態を排膿に導く処方ですので、化膿していない場合や、排膿が始まって膿の排出がダラダラ続くような場合には使用しません。

化膿性疾患でも深在性には効果がなく、浅在性のみです。

化膿にまで至った歯槽膿漏に奏効することが多いです。

排膿を促進するために、原料末に卵黄を混ぜて服用するという方法もあります。

化膿が始まって膿汁が形成され、なおかつ排膿していない段階が適応になりますので、使用時期が難しい処方です。

しかも、化膿の原因に対応しているわけではありませんので、派生処方である排膿散及湯を選択した方が間違いは少ないと思います。

排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)

  • 構成生薬:甘草・桔梗・枳実・芍薬・生姜・大棗
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:外瘍
  • 適  合:間証、発赤・腫脹・疼痛を伴った表部の化膿性疾患があるもの

排膿散と排膿湯を合体させた構成で、化膿が成立しておれば時期を問わずに使用することができる処方です。

部位においても、皮膚や粘膜などの表部であれば、特に斟酌することなく使用することができます。

虚証に負担となるような生薬は配合されていませんので、実・間・虚のいずれの証にでも対症的な使用が可能です。

ただし、清熱の作用は強くありませんので、炎症に伴う熱がある場合は、荊防敗毒散を選択した方が良いかもしれません。

名前が示す通り排膿を促す処方であって、化膿性疾患の根本対応をしてくれるわけではありません。

治癒力がある人は排膿によって回復が早まりますが、治癒力の弱い人は回復に至らない場合がありますので、必要に応じて黄耆剤への切り替えが必要です。

排膿湯(はいのうとう)

  • 構成生薬:甘草・桔梗・生姜・大棗
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:外瘍
  • 適  合:間証、排膿しにくいもの

桔梗で排膿を促進し、甘草・生姜・大棗で体調を整えて自然治癒力を発揮させることを目的とした処方です。

桔梗湯の増強バージョンのような処方であり、喉だけでなく皮膚全般の化膿性疾患に使用することが可能です。

膿が濃厚で出にくい状態が対象で、排出口がない場合や患部の緊張が強い場合は排膿散が適応になります。(排膿散及湯であれば、これらの区別を考慮せずに使用することが可能です)

表虚によって排膿がいつまでも続く状態には本方が根本対応になりませんので、黄耆剤を使用します。

なお、ネットでは排膿湯と排膿散を混同して表示している場合もありますので、しっかりと確認しなければなりません。

私の知る範囲では、排膿湯のエキス製剤はなく、煎剤しかありません。

麦門冬湯(ばくもんどうとう)

  • 構成生薬:甘草・粳米・大棗・人参・麦門冬・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:滋陰潤燥
  • 適  合:虚証、陰虚、燥証、のぼせと喉の違和感があって咳が強く痰の切れが悪いもの

半夏以外は全て滋潤の生薬で、陰虚に伴う燥証を回復させます。

半夏は燥性の生薬ですが、潤いが過ぎるのを防ぐとともに、気の上逆を下降させます。

ただし、この半夏を配合している故に、長期の連用には適していません。

胃・心の虚弱から起こったのぼせ(気の上逆)と、咽喉の不調(陰虚による燥)に使用します。

冬季や冷房中には乾燥が強くなりますので、症状が強くなることが多いです。

声帯の使い過ぎ・タバコの吸い過ぎなどで、咽頭にダメージがある者にも適します。(タバコによる咳には、清肺湯よりも効果的なケースが多いです)

陰虚によって痰が粘るようになりますので、それを切ろうとして激しく咳き込むことが多いですが、咳が必須の症状というわけではありません。

しかし、新薬の咳止め薬がほとんど効果がない、透析者の咳やACE阻害薬で誘発される末梢性の咳に有効な数少ない薬です。

子息と呼ばれる妊娠中の咳には、本処方以外に使用できる薬がありません。

地竜を加味すると咳への効果が延長します。

咳における鑑別は、継続的に出る咳ではなく、一旦出始めると顔が真っ赤になるまで強くなり、痰の量が多い湿性の咳ではなく乾いた咳で、昼夜に関係しません。

同様の咳が夜にだけ出る場合は滋陰降火湯を、燥があまり強くない(舌の乾燥がない)場合は蘇子降気湯を検討します。

マイコプラズマや百日咳などの長引く咳には、麻杏甘石湯を少し加えて五虎二陳湯の代用として使用する例もあるようですが、麻杏甘石湯とは作用が相殺される部分があり、加える量によっては効果が弱くなってしまう場合があります。

咳以外では、妊娠・心肥大・胃炎・肝炎などによって、横隔膜や迷走神経が刺激されて起こるシャックリに試用します。

コリン作動性ではない腺分泌亢進作用があり、唾液分泌が低下して起こる口腔内乾燥症や、涙液分泌が低下して起こるドライアイ症候群にも使用されます。

シェーングレン症候群には単独でも使用されますが、補中益気湯との併用が効果的との報告があります。

胃陰虚によって口渇や口内乾燥する者が胃痛を起こしたケースには、本処方に芍薬甘草湯を併用します。

便が固くなるタイプの便秘がある場合は、調胃承気湯と併用しますが、皮膚・大腸に燥が及んでいる場合は滋陰降火湯の方が適していると思います。

稀ではありますが、汎用によって血尿を起こした例が報告されていますので、長期に使用する場合は注意が必要です。

八味地黄丸(はちみじおうがん)

  • 構成生薬:桂枝・山茱萸・山薬・地黄・沢瀉・茯苓・附子・牡丹皮
  • 別  名:八味丸、八味腎気丸
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補陽
  • 適  合:陽虚証、寒証、湿証、口渇や夜間尿があって下腹部に力がないもの

水滞体質である者が、虚労や血虚によって下焦(下半身)に不調を来した場合に使用する処方です。

下焦の不調としては、腎と関連が深い排尿障害や精力減退を呈することが多く、同症状を訴えることが多い高齢男性に汎用します。

排尿は、膀胱の委縮による蓄尿機能の低下と、前立腺肥大による排尿機能の低下によって、少量で回数が増えることが多くなりますが、本処方は蓄尿および排尿機能の回復に働きます。

(尿量に関しては、糸球体の機能低下で減少する場合が多いですが、尿細管の機能低下で頻尿や多尿になることもあります)

また、造精機能が衰えたものを回復させる効果も確認されています。

以上のように適合は男性に多いのですが、男性専用薬というわけではなく、産後のむくみによって足腰が冷えて痛む場合や、老人性亀背で腰痛する場合などでは女性にも使用します。

しかし、本方には去風湿薬が入っていないために鎮痛作用は弱く、気虚・血虚や腎虚がある者の腰痛であれば独活寄生丸の方が効果的です。

補腎作用によって闘病力を回復させる場合や、生津作用によって乾燥性皮膚疾患に潤いを与える場合でも、男女の区別なく使用します。

ただし、本処方は小腹不仁と言う下腹部に力のない場合に適合しますので、男性であろうと女性であろうと、腹部に力のある人には使いません。

また、本処方は冷えがある腎陽虚に使用する処方であり、のぼせや火照りがある腎陰虚には使用しませんので、陽虚と陰虚の鑑別は大切です。(腎陽虚でも腎虚水泛であれば真武湯、腎陰虚には六味丸系の適応です)

吸気が苦しい喘息は腎虚が関与しており、畑違いのように思えますが本処方を使用します。(腎陰虚の場合は味麦地黄丸、痰飲がある場合は蘇子降気湯が候補になります)

構成生薬である地黄・附子・牡丹皮には、胃腸に刺激を与える場合がありますので、胃弱者や下痢傾向がある者には注意が必要です。

補足として、効力をアップさせる使用法を紹介しておきます。

前立腺肥大に使用する場合、実証では桂枝茯苓丸を、虚証では補陽還五湯を併用します。

夜間頻尿を目的とする場合は、地竜エキスと併用します。

半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)

  • 構成生薬:厚朴・生姜・蘇葉・半夏・茯苓
  • 別  名:四七湯、大七気湯、薬磨湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:行気
  • 適  合:虚証、気鬱、痰飲(湿証)、喉に異物感があり気分が塞ぐもの

痰飲(消化器系を中心とする水滞)の代表処方である小半夏加茯苓湯に、理気剤である厚朴と蘇葉を加えた構成です。

痰飲のある者が気鬱を併発した場合や、逆に、気鬱によって津液の流れが停滞して痰飲を起こした場合に使用します。

梅干しの種が喉に引っかかったように感じる梅核気が特徴的な症状とされますが、これは肝鬱と痰飲が合わさって生じる痰気結鬱によるもので、本処方に特有の症状というわけありませんので注意してください。

特に、更年期における梅核気であれば、逍遥散を先に検討します。

(梅核気は、どの処方であっても地竜エキスを併用すると、通陽通絡が促進されることで、回復が早くなります)

喉症状に咳や嚥下障害を伴う場合は、蘇子降気湯を検討します。

胃弱や腎虚がある者の神経性疾患に対しては、鎮静剤のような働きを示しますが、実証にはあまり効果がありません。

食後に動悸を起こしたり、動悸を感じる時に尿意を催すタイプや、就寝のために横になると動悸を感じる発作性の心悸亢進症に適することが多いです。

むかつきがあるが吐かないというケースに奏効することが多く、それと関連があるのかは不明ですが、胃カメラ検査において、バリウムを服用すると気分が悪くなる者に適合者が多いとの報告もあります。

頸椎の摩耗によって起こる症状(腕の痛み・痺れ・震えや背中の不快な冷感など)に奏効するケースがあり、ムチウチ後遺症などにおいて有効な治療法がない場合は試す価値があります。

心に不調があって麻黄剤が使用できない者の呼吸器疾患に、柴胡剤と本処方を合剤にして代用することがあります。(小柴胡湯との合剤である柴朴湯がこの例です)

肝鬱に伴う花粉症は一般的に香蘇散を使用しますが、鼻症状が痰飲に起因する場合は本処方を使用します。

他には、脳の前頭前野・線条体・視床下部前葉のドパミン代謝を抑制する作用が報告されています。

パーキンソン病の治療に有効な程の作用ではありませんが、老年性パーキンソン症候群の進行予防には多少有効かもしれません。

半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄連・乾姜・甘草・大棗・人参・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:調和脾胃
  • 適  合:間~虚証、湿証、様々な胃腸症状があって陽病の状態でみぞおちに痞えがあるもの

胃の亢進や炎症によって心に苦情を呈しており、胃腸に停水がある場合に使用する処方です。

停水症状としては、腹鳴がある・ガスが多い・吐気がある・お腹が張る・食欲がないなど多岐に及び、人によって現れる症状も様々です。

主薬は半夏で、湿を乾かす作用ですから下痢傾向がある場合に使用し、便秘(痙攣性便秘を除く)には使用しません。

脾胃不和を改善する処方ですので、悪心嘔吐という上逆の症状と下痢という下降の症状が同時に発しているものも治します。

瀉心湯類に共通することですが、心火旺(自律神経の過剰興奮)や外因ストレスによる心下痞硬(みぞおち付近の痞え)を伴うことが多いです。

本処方では、三黄瀉心湯の適合のように心火旺が前面に出た興奮性の症状を呈することはほとんどありませんので、ストレス性を重視した方が的確かもしれません。

外からのストレスに対して鋭敏に反応する胃腸疾患に適しており、特に過敏性腸症候群には第一候補とされます。

小半夏加茯苓湯と併用すると、半夏瀉心湯加茯苓になり、胃内停水が強くて不眠や動悸を伴う場合に効果が高まります。

口腔疾患にも有効で、舌炎・扁平苔癬・口内炎・毛舌症などに使用されます。

間証のしゃっくりに対して、生姜を併用して有効な場合があります。

鑑別ポイントとしては、本処方が適合する心下痞硬は胃酸過多タイプで、胃酸分泌が少ない機能低下による場合は陰病なので人参湯類の適合です。

同様な症状で心下痞硬がない場合は、胃苓湯を検討します。

黄連を柴胡に・乾姜を生姜に変更すると小柴胡湯の構成になり、胃腸への作用は類似するものがあり、胸脇苦満がある場合は、柴苓湯を含めて検討します。(みぞおちを圧して痛みがある場合は柴胡剤の適応です)

半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)

  • 構成生薬:黄耆・黄柏・乾姜・生姜・神麹・蒼朮・沢瀉・陳皮・天麻・人参・麦芽・半夏・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:治風化痰
  • 適  合:虚証、寒証、湿証、脾虚、胃腸が弱くて食後に眠くなりやすく動悸やめまいがするもの

源処方は六君子湯で、元々の健胃作用に神麹・麦芽を加味して消化を促進させ、黄柏・沢瀉で利水し、天麻で頭痛やめまいを改善します。

痰飲によって胃内停水する者が、内感・外感によって気の乱れを起こし、頭痛やめまいを発する状態に使用します。

専門用語で言えば、脾胃気虚に痰濁上擾を伴うものです。

実~間証であれば苓桂朮甘湯を使用する状態で、その虚証バージョンと考えれば理解しやすいと思います。

体が重だるいという状態を特徴としますので、この症状確認は必須です。

頭痛や吐気は、痰飲によって誘発されためまいに随伴するもので、根底に痰飲がない場合には効果がありません。

湿証ではあるものの、排尿異常や多汗といった水症状はほとんどなく、胃腸系の痰飲が主です。

脾胃虚があって消化不良気味なので、食後に眠くなりやすい特徴がありますが、眠気に限らず症状全般が食後に強くなる傾向があります。

血虚ではありませんが四肢に冷えを感じる寒証で、熱証がある場合は100%本処方の適合ではありません。

冷たい物を食した後に下痢となり、同時にめまいを起こした場合には最適です。(下痢だけでめまいがない場合は参苓白朮散です)

耳石系障害による良性の発作性めまいに有効との報告はありますが、メニエル病にはほとんど効果がないようです。

起立性低血圧症や本態性低血圧症に優れた効果があり、適合要因に低血圧が関与する可能性が高いです。

陰天時に症状が悪化しやすい傾向もあります。

他に、脾虚によって風邪などから水様の後鼻漏が続く場合には、本方をしばらく服用すると止まります。

二陳湯に白朮と天麻を加味した構成の同名処方があります。

白虎加桂枝湯(びゃっこかけいしとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・粳米・石膏・知母
  • 陽陰区分:陽明病
  • 治  方:清気分熱
  • 適  合:実証・熱証・燥証

裏熱を解消する白虎湯に、気の上衝を鎮める桂皮を加味した構成です。

熱性病で激しく発熱し、頭痛や節々の痛みなどを併発する場合に使用します。

昔はマラリアの治療に使用されたと記録されていますが、もちろん、マラリア原虫を退治する力は持っておらず、随伴する症状を緩和する目的です。

白虎湯類なので、使用は裏熱から口渇や生津障害を起こしている場合に限定されます。

陽証で、皮膚が乾燥するアトピー性皮膚炎において、上気が強い場合に検討します。(根本対応ではなく症状緩和が目的です)

しかし、アレルギー疾患で裏熱が激することは少なく、あまり選択するケースは多くないと思います。

白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)

  • 構成生薬:甘草・粳米・石膏・知母・人参
  • 別  名:化斑湯
  • 陽陰区分:陽明病
  • 治  方:清気分熱
  • 適  合:実証、熱証、燥証、裏熱が津液を傷つけて多量に発汗し口渇があるもの

過剰な内熱を取り去る白虎湯に、不足した津液を作らせる人参を加味して効果を高めた処方です。

熱中症や急性発熱性疾患、あるいは長期に発汗や発熱が続く炎症性疾患によって、体液が欠乏した時に使用します。

炎症性疾患において過剰に発汗や瀉下したことで、熱が裏に結び、裏熱が津を損ねる場合にも使用します。

水分を補給しても津の機能が損なわれていますので、発汗や利尿によって燥が改善しない状態に適し、単なる保水薬ではありません。(発汗を伴わない場合は、証が違う可能性が高いです)

燥なのに排尿が減少しないのは、抗利尿ホルモンの分泌不足が関係しており、排尿が多いことから燥ではないと判断してはいけません。

裏熱の処理が主作用であり、発汗以外の表証を伴う場合は一般に適応とはならないのですが、裏熱によって熱厥となり、四肢の冷えや悪寒を伴う場合は使用します。

糖尿病に伴う口渇にも使用され、唾液分泌を促進すると共に、唾液ペプチドを介してインスリン分泌を促進する作用もあると考えられています。

抗精神病薬による口渇を抑制する目的や、シェーングレン症候群による口渇にも使用されるケースがあります。

また、口腔の炎症によって痛み・腫れが起こった場合に奏効します。

白虎湯系の中では最も使用される処方です。

白虎湯(びゃっことう)

  • 構成生薬:甘草・粳米・石膏・知母
  • 陽陰区分:陽明病
  • 治  方:清気分熱
  • 適  合:実証、熱証、燥証、脱水による口渇が強いもの

石膏が腎の熱を去り、知母が肺・胃の熱を去り、粳米が生津することで渇を治める処方です。

熱によって生津機能が低下を来した場合が適応で、飲水しても津(体内水分)にならずに発汗・排尿してしまい、水分補給のみでは対応できない場合に使用します。(尿が出ない場合は猪苓湯も検討します)

一般には、急性発熱性疾患や熱射病によって津が欠乏した場合に使用します。(慢性疾患によって津が欠乏した場合は、白虎加人参湯の方が適します)

裏熱によって熱厥を起こし、口渇はあるのに悪寒や手足が冷えるケースでは、本方くらいしか対応できる処方がありません。

熱型としては陽明に属しますが、瀉下剤でも発汗剤でもなく、傷寒では少し特殊な処方です。

中国の四聖獣の名を冠する程の処方ですが、西方の砂漠のような気候風土で汎用される処方であり、海に囲まれた日本では活躍するケースは多くありません。

糖尿病によって口渇が起きるのも津の不足によりますので、昔は糖尿病にも使用されたこともあるようですが、根本対応にはなりません。

病邪が表裏にまたがって内外の流通が阻害されることで起こる「三陽の合病」にも使用する処方ですが、それほど頻度は高くありません。(三陽の合病には、小承気湯・桂枝甘草竜骨牡蛎湯・梔子鼓湯なども使われます)

白虎湯系を使用する場合は、圧倒的に白虎加人参湯を選択することが多く、あえて白虎湯を使用するケースは稀だと思います。

茯苓飲(ぶくりょういん)

  • 構成生薬:枳実・生姜・陳皮・人参・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:虚証、湿証、胃部にもたれや痞えがあって食後に苦しまずに吐くもの

虚証用の健胃生薬と鎮痛生薬を組み合わせた構成で、痰飲に胃酸過多を併発している状態を回復させる処方です。

症状はほぼ胃に限局され、尿利減少の傾向はありますが下痢はないケースに適合します。

胃下垂やストレス性の消化機能低下などの体質的に痰飲を溜めやすい者に適合者が多いですが、飲食による水分摂取過多が続いて、胃内が湿で満たされた場合にも使用します。

湿によって胃の動きが鈍くなり、腸への流動が遅延することで食欲が低下するとともに水気のものを戻しやすく、気満(ゲップ)も多くなります。

余剰な水を吐くので、苦しむことはあまりなく、吐いた後はかえってスッキリします。

以上より、本処方を使用する状況では、水分の過剰な摂取を控える注意は不可欠です。

なお、水気のものを戻さない状態では、六君子湯系が適合することが多いので、嘔吐の有無は重要な鑑別ポイントになります。

逆流性食道炎において、下部食道の刺激によって咳が出る場合は、嘔吐の有無に関係なく本処方が第一候補になります。

ただし、構成生薬は穏やかな種類ばかりで、苦味に抵抗がない者(苦味質)は虚証でない可能性が高く、効果を実感できないこともあります。

茯苓飲加半夏(ぶくりょういんかはんげ)

  • 構成生薬:枳実・生姜・陳皮・人参・半夏・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:虚証、湿証、胃もたれがあって吐気が強いもの

茯苓飲に半夏を加味することで、燥湿作用と制吐作用を増強した処方です。

性質や適合条件は茯苓飲と同じですが、のぼせや吐気が強い場合には本処方を選択します。

当然ながら、痰飲(胃内停水)がない場合は使用しません。

茯苓飲と茯苓飲合半夏厚朴湯の中間のような処方で、通常はこの2処方で対応できますので、本処方を選択するケースはほとんどありません。

茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)

  • 構成生薬:枳実・厚朴・生姜・蘇葉・陳皮・人参・白朮・半夏・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:虚証、湿証、気虚、喉やみぞおちに痞えがあって食後に苦しまずに吐くもの

名前が示すとおり、除湿健胃の茯苓飲と理気燥湿の半夏厚朴湯の合剤です。

湿に起因する胃疾患に使用する処方で、合剤によって適応範囲が広くなっており、痰飲によるほぼ全ての状態に対応できます。

ただし、カバー領域が広くなっているだけで、効力がアップしているわけではありません。

茯苓飲との違いは、痰飲(胃内停水)があることは同じですが、痞えを感じる部位が胃よりも広い場合に適合します。

茯苓飲・半夏厚朴湯ともに虚証用の処方であり、実証に使用しても効果はほとんど期待できません。(実証でこのような痰飲が多い状態になることはまずありませんが)

燥作用はかなり強いので、陰虚がある者への長期使用には注意が必要です。

痰飲の対して使用して外れる可能性は低い処方ですが、費用対効果が良いとは言えませんので、茯苓飲で対応ができないのか再考してから選択すべき処方だと思います。

茯苓沢瀉湯(ぶくりょうたくしゃとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・生姜・沢瀉・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:虚証、湿証、胃内に停水があって口渇・吐気があるもの

五苓散の猪苓を甘草・生姜に変更した構成です。

甘草が配合されていますので、全身的な水滞には使用せず、胃部に限局された場合に使用する処方です。

五苓散と同様に口渇・めまい・のぼせ感などがあり、茯苓飲のように胃の停滞感や水気のものを吐く場合に適合します。

痰飲は茯苓飲で対応できますが、表証には効果がありませんので、痰飲+表証というケースが適例です。

また、五苓散では痰飲が十分に改善されないというケースにも、本処方が適します。

単純な胃内停水が主対象ですが、幽門部に狭窄があって、それに起因する胃の停滞的な症状にも使用します。

なお、食道の痙攣やポリープ等による狭窄で嚥下障害を起こし、口渇・嘔吐を伴う場合は利膈湯を検討すると文献に記載されています。(残念ながら、この処方の委細は知りませんし、使用経験もありませんので、コメントができません)

分消湯(ぶんしょうとう)

  • 構成生薬:枳実・香附子・厚朴・縮砂・生姜・蒼朮・大腹皮・沢瀉・猪苓・陳皮・灯心草・白朮・茯苓・木香
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:芳香化湿
  • 適  合:間証、湿証、中満して鼓腸するものおよび脾の不調にて腫満飽悶するもの

五苓散+平胃散より、桂皮・甘草・大棗を除き、理気剤である枳実・香附子・縮砂・大腹皮・灯心草・木香を加えた構成です。

厚朴・陳皮にも理気作用があり、大腹皮・灯心草には利水作用もありますので、源処方よりも理気・利水の効果が増強されています。

これらの構成から、気を巡らせることで食物の停滞を解消し、尿利を付けて水滞を改善する処方だと分かります。

もう少し具体的に言いますと、腹部膨満やみぞおちの痞えがあり、便秘傾向がある者のむくみが対象です。

腹水貯留も水滞のある腹部膨満ですので、当然に対象となりますが、初期の緊張を保っている状態が対象となります。

肝硬変に伴う腹水では、小柴胡湯と併用して使用します。

注意すべきことは、甘草・大棗が除かれていますので、甘草+生姜+大棗の自然治癒力を発揮させる基本構成は失われており、虚証への使用は想定されていないようです。

必ずしも実証である必要はありませんが、虚証の水滞や腹部膨満である虚満には、本処方ではなく補気建中湯が第一候補になります。(指て圧して抵抗がないものや凹がすぐに戻らないものは虚満・虚腫です)

適合に記載のある「脾の不調」とは、脾気虚ではなく、機能不全によって水湿が停滞している状況で、曖気(ゲップ)・呑酸(酸っぱいものがこみ上げてくる)があって空腹時よりも食後に苦しさが増す傾向があります。

平胃散(へいいさん)

  • 構成生薬:甘草・厚朴・生姜・大棗・陳皮・白朮
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:芳香化湿
  • 適  合:間証、湿証、痛みは強くないが胃がもたれて時に張って苦しいもの

胃の自律神経の乱れから消化不良を起こしている場合に使用する処方です。

胃内に停滞する食毒と水毒を、等しく平にするという意味で命名されました。

一般に、過食やストレスなどの外部要因によって胃腸の機能不全を起こしている場合に使用し、脾虚などの内部要因による場合は六君子湯系を選択します。(ちなみに、六君子湯との合剤は養胃湯で、胃弱者が食べ過ぎで苦しむ場合に適する処方です)

本処方は自然治癒力を発動させる体力がある者に使用するもので、それほど作用の強い生薬を配合しているわけではありませんが、胃弱が著しい者には通常は使用しません。

過食によって下腹部が痛み、便が出ると腹痛が止むタイプの下痢に適します。

特出する作用はないので特徴は乏しいのですが、作用のバランスが良いので広い範囲に使用することが可能で、救急箱の常備薬とするには適しています。

夏風邪に汎用される正気散の源処方にもなっています。(平胃散に半夏とカッ香を加味したものが不換金正気散で、他にも派生処方が多数あります)

ツムラ・コタロー・テイコクなどのエキス剤は、白朮に代わって蒼朮を使用しており、特有の臭いを不快に感じる者には適合しないことが多いです。

防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)

  • 構成生薬:黄耆・甘草・生姜・大棗・白朮・防已
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:虚証、湿証、気虚、表虚、太り気味で皮膚にしまりがなく発汗や風で寒気を感じ腰から下が重だるいもの

衛気の不足による表虚に風湿が加わった状態に使用する処方で、排尿機能が正常に機能せずに外臓部に水分が滞り、浮腫・身重感・疼痛などがある場合が適合します。

朮で表部の不要な水分を血管に移動させ、黄耆で表部血管の働きを促進し、防已で利水するという構成になっています。(甘草・生姜・大棗は自然治癒力発揮の基本構成です)

表部の水滞症状であるむくみや多汗はありますが、裏の水滞である胃内停水はなく、上衝による頭痛やめまいはありません。

腫れや痛みは腰から下の部位が中心で、関節部分に水滞が及び、俗に関節に水が溜まるという状況では第一候補になる処方です。

晴天よりも雨天に症状が強くなる傾向がある場合に適します。(湿よりも寒で症状が悪化する場合は、桂枝加朮附湯を検討します)

ただし、表部の水滞があっても実証で無汗体質の場合は、本方ではなく麻杏ヨク甘湯が適合します。(両者の適合は麻黄湯と桂枝湯の関係に似ています)

また、水滞が皮膚部のみで関節にまで及んでいない場合は、防已茯苓湯や黄耆建中湯を検討します。

脂肪太りではなく水滞に起因する肥満、俗に言う水太りにも汎用される処方です。

実証の水滞の場合は九味檳榔湯を使用しないと効果が出ませんし、冷えを伴う場合は連珠飲も候補になります。

日本は湿度の多い地が大部分であり、水は脂肪よりも重いので、脂肪太りか水太りか分からない場合は、まず水太り用の処方を試すべきです。

他には、肺気虚を改善する作用がありますので、玉屏風散のように花粉症などのアレルギー疾患に対する予防効果があります。

水滞を発する根底要因には、気虚風湿や気虚湿困などの気虚が関係していますので、補中益気湯のような補気薬を併用すると効果がアップします。

腹痛を伴う場合は芍薬を加味しますが、エキス剤での対応では芍薬甘草湯を少し併用します。(甘草が多くなると、それがむくみを誘因する場合がありますので量に注意が必要です)

下痢傾向がある胃弱者や、陰虚証には使用しない方がよいです。

防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)

  • 構成生薬:黄ゴン・滑石・甘草・桔梗・荊芥・山梔子・芍薬・生姜・石膏・川キュウ・大黄・当帰・薄荷・     白朮・芒硝・防風・麻黄・連翹
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:解表攻裏
  • 適  合:実証、熱証、腹部が膨満して肩こり・便秘・鼻閉などの症状があるもの

瀉下剤である調胃承気湯を根源処方として、発汗解表の荊芥・生姜・薄荷・防風・麻黄・連翹、清熱解毒の黄ゴン・桔梗・山梔子・石膏、行血の芍薬・川キュウ・当帰、利水の滑石・白朮を加えた構成です。

毒を体外に排出する力が不足している状態に対して、解表と瀉下を同時に行う処方です。

作用の強い生薬が配合されていますので、虚証には適しませんし、臓器の機能低下がある場合には使用しません。

特に、解毒の中核臓器である肝臓は丈夫であるという前提で処方構成されていますので、肝に問題がある場合には使用してはいけません。

ナイシトールやコッコアポなどのコマーシャルの影響で、肥満症専用薬のように思われていますが、病邪が鬱滞している状態を改善する処方であり、肥満は鬱滞の結果に過ぎません。

高血圧・動脈硬化・肩こり・のぼせ・蓄膿症・湿疹・吹き出物なども、病邪の鬱滞によって起こる可能性がある症状です。

このような状態に陥るのは、胃や肺に実熱があり、食欲が旺盛であるのに排泄が伴わないためで、便秘がある美食家ということになります。(下痢傾向の者や菜食主義者に本方の適合者はいません)

肥満ではない者のダイエットに適する処方ではありませんので、間違えないようにしてください。

腹部膨満がある脂肪太りは対象となりますが、女性の場合は通導散も考慮し、胸脇苦満やストレスがある場合は大柴胡湯・虚証には五積散を検討します。

食毒過多によって起こる夜尿症にも使用する場合があります。(甘えん坊で虫歯が多く・歯型が小さいなどの特徴があり、高脂肪の食事をした後におねしょをする傾向があるタイプです)

また、あまり効果的な治療法がない脂肪瘤ですが、本方と小柴胡湯の併用で有効な場合があります。

他には、糖尿病性腎炎で尿蛋白が多い場合は本方と竜胆瀉肝湯を併用し、痛風には本方と防風通聖散を併用します。

補気建中湯(ほきけんちゅうとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・厚朴・沢瀉・陳皮・人参・麦門冬・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:虚証、湿証、むくみ傾向で腹部の膨満や腹水があるもの

四君子湯と平胃散を合わせ、黄ゴン・沢瀉・麦門冬を加味し、利水を阻害する甘草を除いた構成です。

虚満を対象とする建中湯類の中で、最も湿の関与が強い場合に適応となる処方で、脾虚・湿滞による腹部の膨満や腹水に使用します。

(水滞実満には本処方では効果がなく、分消湯や木防已湯を検討します)

水滞によって、浮腫・尿利減少・疲労感・食欲不振などの症状を伴うことが多いです。

中焦部位の水滞を主とする場合に適しますが、それ以外の部位である場合は他処方を検討します。

小建中湯や補中益気湯の使用によって浮腫が起こった場合や、水滞が増悪した場合には本処方が適応となります。

腹水には五苓散を使用するケースが多いですが、虚が強い場合には効果がなく、本処方が活躍します。

腹水でなくとも、虚腫と呼ばれる指で押しても凹みが戻らない浮腫には、五苓散系は適さず、本処方が適します。

腹水や虚腫は急激に利水すると体調が悪化することが多く、本処方の効果もゆっくりです。

補中益気湯(ほちゅうえっきとう)

  • 構成生薬:黄耆・甘草・柴胡・生姜・升麻・大棗・陳皮・当帰・人参・白朮
  • 別  名:補中医王湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:理気
  • 適  合:虚証、気虚、脾虚、疲れやすく口角に薄い泡のような唾が溜まるもの

柴胡を配合した処方ですが小柴胡湯の派生処方ではなく、四君子湯の加味方で気虚を対象にしています。

気虚から全身的な機能の沈滞が起こっている場合で、寝汗をかきやすく疲労感が強いですが陰病ではない状態に使用します。

特に、肝と胃腸の不調に適し、気虚と脾虚があって、肝に影響が及んでいる陽病には最初に考慮する処方です。(肝と心に不調がある場合は柴胡桂枝乾姜湯を検討します)

なお、内臓の自律運動を増強する作用があるため、腎機能障害などの機能低下に起因する疾患にも使用します。

また、慢性的な基礎疾患を持つ者が、急性炎症を併発し、発汗による解表ができない場合にも使用する処方です。(吐気や下痢・腹痛などの消化器症状を主とする場合は、参苓白朮散も検討します)

持続的なストレスによって心身が疲弊して微熱が出る場合や、力仕事の翌日に発する筋過重による微熱にも適します。

冬に症状が強くなる四肢の火照りは三物黄ゴン湯の適応ですが、夏に症状が強くなる虚証の陽気下降による四肢の火照りは本処方を検討します。

脾虚からの微熱によって口渇を起こしたり、口内炎や味覚鈍麻を起こした場合にも有効です。

気の昇提によって、気や筋を引き締める作用があり、腹圧性尿失禁や膀胱下垂などの筋力低下による疾患にも使用します。

升麻+柴胡の構成は乙字湯と同じで、痔疾の脱肛状態を回復する作用を持ちますが、作用は穏やかで乙字湯が使用できない場合に使用します。

他に、尿道括約筋が弱く、尿漏れを起こすタイプの夜尿症にも使用します。(このタイプでは、体育が苦手・姿勢が良くない・食事が遅いなどを伴うことがあります)

精子の活動を高める作用も確認されており、男性不妊症には最初の考慮する処方です。

リンパ球の増加作用やNK細胞活性を高める作用で、細胞性免疫の低下を回復する効果もあります。

肝に不調がない場合は六君子湯系を、血虚を伴う場合は十全大補湯を検討します。

熱中症などの熱邪による気陰両虚は清暑益気湯が適合しますが、本処方と生脈散を併用すると代替えできます。

速効性はありませんが、悪化するケースはほとんどなく、重宝な処方の一つです。

補陽還五湯(ほようかんごとう)

  • 構成生薬:黄耆・紅花・芍薬・地竜・川キュウ・当帰・桃仁
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:活血去オ
  • 適  合:虚証、気虚、しびれや筋力低下があって軽い尿漏れをするもの

脳梗塞などによる半身不随を回復する目的で創作された処方です。

四肢の回復だけでなく、言語障害や尿失禁にも有効です。

続命湯と似た適応ですが、本処方は虚証で症状が軽い場合に適応になります。

構成は黄耆の補気作用を中核とし、紅花・芍薬・川キュウ・当帰・桃仁が活血に、地竜が通経絡に働き、気を高めてオ血を除く目的になっています。

気虚オ血による血流障害や筋力の低下に対して、脳梗塞後に限らず広く用いることができ、効果も悪くありません。(気血両虚によるオ血の場合は、キュウ帰調血飲第一加減の方が適します)

ただし、黄耆の配合量が多い処方ですので、肝気旺盛の肝鬱においては精神症状が強くなってしまう場合があります。

証が違うので、選択するケースはほとんどないと思いますが、もしも肝鬱がある者に使用する場合は、四逆散などの疎肝処方との併用を検討します。

ムチ打ち症などの頚椎疾患においては、疎経活血湯と併用すると著効を示すことが多く、一度は試す価値があります。

小児麻痺後遺症にも有効で、補腎を要する場合は六味地黄丸と、補心を要する場合は桂枝加竜骨牡蠣湯と、補脾を要する場合は補中益気湯と併用して用います。

脳梗塞後遺症と考えるとなかなか使用するケースはありませんが、気虚オ血の改善剤と考えると、様々な麻痺や神経機能の低下に活躍できる処方です。

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