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清暑益気湯(せいしょえっきとう)

  • 構成生薬:黄耆・黄柏・甘草・五味子・陳皮・当帰・人参・白朮・麦門冬
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:清暑益気
  • 適  合:虚証、陰虚、気虚、夏バテによって胃腸機能が低下したもの

高い気温に長時間さらされて、風熱による陰液の欠乏と胃腸機能の低下が起こった気陰両虚に使用する処方です。

陰虚による虚熱に使用し、熱証に使用する処方ではありません。

同じく熱邪による気陰両虚で、熱感が弱くて動悸や息切れなどの循環器系症状を伴う場合は生脈散も検討します。

本処方は補中益気湯から柴胡・升麻を除いて生脈散を合わせたような構成で、両処方と同様な作用を持ちます。

疲労倦怠や胃腸機能の低下は補中益気湯にも当てはまる症状で、陰虚の症状が弱い場合は判別に迷うケースがあります。

胸脇苦満がなくて傷津によって口渇を訴える場合は本処方が適合します。

発汗・口渇や下痢を伴うことはありますが、尿利減少やむくみはありません。(尿利減少やむくみを伴う場合は、本処方ではなく五苓散系を検討します)

夏季の食欲不振程度の不調であれば、本処方よりも麝香正気散を選択します。

夏バテ以外では、夏風邪や夏季卵巣機能不全などの夏場に機能不調を起こす疾患にも使用することがあります。

夏季に使用することが多い処方ではありますが、高温・多湿の環境下で仕事をする人では、冬場でも適合するケースはあります。

気陰両虚があって精神的な要因で疲労倦怠感がある場合は、季節を問わずに使用します。

元方は、上記構成生薬に蒼朮・沢瀉・青皮・葛根・神麹・升麻を加えた十五味の処方で、同名で現存しています。(効果はマイルドでやや遅効性なので、慢性疾患を伴う場合や長期に使用したい場合に適しています)

清上ケン痛湯(せいじょうけんつうとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・菊花・羌活・細辛・生姜・川キュウ・蒼朮・当帰・独活・麦門冬・白シ・防風・蔓荊子
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:疎散外風
  • 適  合:間証、左右・偏正・新久を問わずに頭痛するもの

風を去り・気を巡らせ・上気を引き下げ・水湿を払い・頭部の血滞を巡らし・内寒をとる処方で、気滞・鬱血・水毒・寒による頭痛に使用します。

7種もの解表剤(菊花・羌活・細辛・生姜・白シ・防風・蔓荊子)によって鎮痛作用を発揮し、蒼朮・独活は去風湿・川キュウ・当帰は活血によって鎮痛に協力します。

筋緊張性頭痛だけでなく、鎮痛剤が効きにくい片頭痛(血管性頭痛)・群発頭痛・心因性頭痛などにも効果があり、くも膜下出血に伴うような特殊な場合を除けば、全てをカバーする便利な処方です。

特に、NSAIDsやトリプタン系などの頭痛薬を多用することで起こる薬剤誘発性頭痛においては、他に適当な薬がない状況ですので、本方は非常に重宝します。

川キュウ茶調散も似たような性質を持っていますが、本方より適応が狭く鎮痛効果が弱いので、限定したケースにしか効果がありません。

茶葉には気を発散する作用がありますので、本方においても熱くて濃い緑茶で服用すると効果が高まります。

血管拡張が関係している片頭痛(群発頭痛も関連が疑われています)においては、駆鬱血剤を併用すると効果が高まります。

具体的には、便秘がある場合では桃核承気湯を、ない場合は還元清血飲・補陽還五湯や地竜エキスを併用します。

また、湿が強くてめまいや小便不利がある場合は五苓散を、寒で痛みが増す場合は麻黄附子細辛湯を併用すると効果的です。

頭痛以外においても、寒冷で誘発される三叉神経痛・眼痛・歯痛など、首から上の様々な痛みに対して効果があります。

特に、帯状疱疹後神経痛では、効果的な薬がほとんどありませんので、首から上の部位であれば本方を試用する価値は十分にあると思います。

清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄連・甘草・桔梗・枳実・荊芥・山梔子・川キュウ・薄荷・白シ・浜防風・連翹
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱解毒
  • 適  合:実証、熱証、のぼせやすく赤ら顔で首から上に炎症性の湿疹ができるもの

去風解表の生薬(荊芥・川キュウ・薄荷・白シ・浜防風)と清熱解毒の生薬(黄ゴン・黄連・甘草・山梔子・連翹)を中心に、排膿の桔梗と理気の枳実を加味した構成で、化膿気味の炎症がある皮膚疾患に使用する処方です。

荊芥連翹湯と似た構成であって、適応も似ていますが、のぼせの傾向が強く、上焦によって首から上の症状が強い場合に限定されます。

造血系の生薬が配合されていないのは、のぼせや充血を悪化させないためと想像されます。

内臓は弱くないけれども亢進しやすい体質で、頭や顔部に炎症を起こして化膿することもある場合に最適な処方で、ニキビに対して最初に考慮する処方です。

風や熱が悪化要因になっていますので、温めたり美食によって悪化する傾向がある場合に適します。

顔部であれば皮膚に限らず、麻黄剤で悪化あるいは無効の鼻疾患や歯肉疾患にも有効です。

ただし、顔以外の表部にも症状がある場合は、十味敗毒湯や荊防敗毒湯を選択した方が良いと思います。

熱感が強い場合は石膏を、化膿が強い場合はヨク苡仁を、便秘がある場合は大黄を加味します。(エキス剤の場合は、桔梗石膏・ヨクイニン・大黄甘草湯を併用します)

便秘がある場合に大黄を加味しないで服用していると、病邪の排泄が進まずに症状が悪化する場合があります。

また、服用開始した時に、一時的ですが症状が悪化したように見えるケースも少なくないので、事前に説明しておく必要があります。

清心蓮子飲(せいしんれんしいん)

  • 構成生薬:黄耆・黄ゴン・甘草・地骨皮・車前子・人参・麦門冬・茯苓・蓮肉
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清臓腑熱
  • 適  合:間証、陰虚、気虚、排尿痛・残尿感・尿の混濁などがあり胃腸障害があって気分が沈むもの

四君子湯を改変した構成となっており、気虚・陰虚に伴う虚熱の状態に使用する処方で、胃腸虚弱の傾向がある者が心の過労によって起こった不調に使用します。

ストレスなどの神経緊張や疲労時に症状が強くなる傾向があります。

利水剤が多いので、気虚を伴う泌尿器系の疾患に使用することが多く、脾虚証なのに体の弱りから熱を帯びてきた状態が対象です。

他にも、下痢が続くような腸疾患や婦人の帯下にも使用します。

回復不良で症状が遷延化しているケースを対象としていますので、補剤を多く配合しており、急性で炎症の強い状態には適していません。

心の虚労によって精神症状を伴うことが多く、膀胱炎のような単純な炎症性の泌尿器系疾患であれば、五淋散や猪苓湯などの他処方を検討すべきです。

更年期障害が下半身に出現したようなケースを含めて、心因性膀胱(過活動膀胱:神経過敏からやたらと尿意を感じる)に奏効することが多いです。

酒色が過ぎて上焦が盛んになり、下焦が虚して発症した排尿異常や精力減退にも使用します。

糖尿病にも効果があり、八味地黄丸よりも虚の場合や、地黄剤で胃腸の負担を感じる場合に選択します。

心火の旺盛と腎陰の欠乏に起因する心腎不交は、一般に六味丸などの地黄剤にて対応しますが、脾気虚があると地黄が負担となるために本処方を選択します。(心腎不交による不眠や皮膚の痒みであれば黄連阿膠湯です)

ストレスや過労によって下焦に不調を訴える点で、適応は桂枝加竜骨牡蛎湯と似ていますが、神経症状は顕著ではなく、胃腸虚弱の傾向があってやや症状が長引いている場合に本処方が活躍します。

逍遥散適合者が下半身に症状を呈している場合にも検討する処方です。

清肺湯(せいはいとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・桔梗・杏仁・五味子・山梔子・生姜・桑白皮・大棗・竹ジョ・陳皮・天門冬・当帰・貝母・麦門冬・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱化痰
  • 適  合:虚証、熱証、湿証、肺陰虚

痰が多くて咳が出る肺陰虚で、湿熱性の呼吸器疾患に使用する処方です。

肺に弱い過労熱がある慢性呼吸器疾患で、津(体内水分)の減少による粘稠痰や便秘傾向がある場合に適合となります。

よほどの虚弱者でない限り、簡単に肺陰虚にはなりませんので、急性期に使用することはほとんどありません。

肺の湿を除くことが主作用で、湿が減少すれば痰や咳も減りますが、二次的な作用であって痰の生成を抑制する効果はありません。(津と湿を混同しない注意が必要で、津への配慮を怠れば効果は低下します)

声枯れを起こしたり、痰に血が混ざる咳にも使用しますが、このような状態には麦門冬湯が第一候補であり、本処方はあまり強い症状には対応できません。

また、陰虚火動で夜に症状が強くなる呼吸器疾患では、滋陰降火湯を検討します。

麻黄剤や柴胡剤が使用できない者のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や気管支喘息にも使用されます。

使用してはいけないというケースはほとんどなく、誰に対しても害を起こすことは少ない処方ですが、それに比例するように作用は穏やかで速効性はありません。(実証の人では効果が実感できないことも少なくありません)

喫煙者の咳を対象にしたダスモックという市販薬がこの処方で、安全性が高いことから不特定多数に販売するには適した薬だと言えます。

また、ホノミ漢方のヒューゲンも本処方を元にした薬で、呼吸器疾患のベース薬としてよく使用されます。(ホノミ漢方は随症薬と随病薬の2種を併用しますので、単純に本処方だけの作用ではありません)

悪い処方ではないのですが、個人的にはこれで効くのか?と疑問に思う処方であり、虚証であってじっくりと時間をかけてもかまわないという人でない限り、推奨するケースはほとんどありません。

折衝飲(せっしょいん)

  • 構成生薬:延胡索・桂皮・紅花・牛膝・芍薬・川キュウ・当帰・桃仁・牡丹皮
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:活血去鬱
  • 適  合:間証、血虚、オ血、下腹部の一点に刺すような痛みがあるもの

桂枝茯苓丸から茯苓を去り、紅花・牛膝・当帰・川キュウ・延胡索を加えた構成で、活血・補血・理気の作用を増強した処方です。

鬱血によって腰や下腹部に炎症を起こし、痛みが強い場合に使用します。

活血に作用する生薬を多数配合しており、血行促進効果は漢方処方中トップクラスです。

桂枝茯苓丸の適合よりも痛みが強くてのぼせが弱いケースに適し、また、湿の関与はほとんどありませんが、補血作用によって血虚も改善しますので、当帰芍薬散の薬効も合わせ持っています。

生理の4~5日前から服用しておくと生理痛を大幅に軽減できる程の効果があり、生理痛には第一選択となる処方です。

また、生理不順・静脈瘤・子宮筋腫などにも有効です。

ただし、桃仁・牡丹皮は薬力が強い生薬ですので、虚証には適しませんし、牛膝には堕胎作用がありますので妊婦にも使用しません。

高温期を上げる作用があり、無排卵性月経による不妊症に対して、排卵を誘発する目的で使用する場合もあります。

自律神経失調症にも効果があるのですが、こちらは他にも適した処方が多数ありますので、本処方をあえて選択するケースは少ないと思います。

洗肝明目湯(せんかんめいもくとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄連・甘草・桔梗・菊花・羌活・荊芥・決明子・山梔子・地黄・シツ藜子・芍薬・石膏・川キュウ・当帰・薄荷・防風・蔓荊子・連翹
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱解毒
  • 適  合:間証、実熱証、眼に充血・腫れ・疼痛があるもの

温清飲の変方で、風熱による眼病に使用する処方です。

当帰・川キュウ・芍薬・地黄(四物湯)で血を巡らし、黄ゴン・黄連・山梔子(黄連解毒湯去黄柏)+桔梗・石膏・薄荷・連翹が上焦の熱を去り、羌活・荊芥・防風で表を温散し、菊花・決明子・シツ藜子・蔓荊子が目の消炎に働きます。

辛温解表剤を配合しているのは、風熱に変化する外邪の風寒にも対応するためで、肝負荷による内因の熱だけでなく外因性の風熱にも有効な処方になっています。

実熱証が対象となりますので、かすみ目や疲れ目ではなく、炎症性疾患である結膜炎・ものもらいや緑内障などによる充血・腫れ・疼痛に使用します。

花粉症で目を取り出して洗いたいというケースや、目やにで瞼が開かないというケースに活躍します。

ベーチェット病の眼症状で乾燥や痛みを訴えるケースに有効との報告があります。(ベーチェット病が治るわけではありません)

それほど激烈な症状でなくても、コンタクトレンズの装着による負荷や、慢性的なドライアイによる眼の不調にも使用します。

ただし、肝腎虚の関与があって清熱よりも滋陰を要する眼病には、滋腎明目湯や杞菊地黄丸の方が適します。

川キュウ茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)

  • 構成生薬:甘草・羌活・荊芥・香附子・川キュウ・茶葉・薄荷・白シ・防風
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:疎散外風
  • 適  合:間証、のぼせ気味で頭や鼻がスッキリしないもの

上気(のぼせ)によって気が頭部に溜まり、頭痛・めまい・鼻づまり等のスッキリしない状態を発散させる処方です。

特定臓器の虚弱や不調によるものではなく、気の停滞は上焦部のみで中焦部にはないので裏症状は出ません。

よって、裏症状を伴う場合は、本方の適合ではありません。

頭痛は筋収縮性よりも血管性(片頭痛)が対象で、発作時に服用しても鎮痛剤のような効果は実感できませんが、継続服用することで発作が減少する予防効果があります。

血管性以外の頭痛や痛みが強い場合は、清上ケン痛湯を選択すべきです。

頭痛だけでなく、気が鬱滞しやすい受験生の風邪に用いても効果があります。(症状が裏に及んでいない場合のみです)

麻黄のような強力な解表剤ではないので、比較的安心して使用できますが、胃弱者には少し負担になることがあります。

千金内托散(せんきんないたくさん)

  • 構成生薬:黄耆・甘草・桔梗・金銀花・桂皮・厚朴・川キュウ・当帰・人参・白シ・防風
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:外瘍
  • 適  合:虚証、表虚、皮膚にいつまでも治りきらない化膿性疾患があるもの

膿を醸成して押し出す托方の処方で、全体の虚を補気作用で回復する黄耆・人参、表虚を改善する黄耆・桂皮、血流を促進して肉芽形成を促進する当帰・川キュウが中核を成しています。

桔梗・白シは排膿の促進に、防風は解表・去風に、厚朴は理気に、金銀花は清熱に働いて補助します。

膿の排泄も傷の修復もなかなか進まない表虚証に使用する処方で、発赤や熱痛のある初期段階や、元々回復力が旺盛な実証には適合しません。

化膿の初期段階では荊防敗毒湯や十味排毒湯が、排膿促進のみを期待する場合は排膿散及湯が、肉芽形成のみを目的とする場合は帰耆建中湯が第一候補になります。

虚証の痔瘻や褥瘡(床ずれ)が代表的な適合疾患で、他には、食事制限や過労によって気血両虚となった者の化膿性皮膚疾患や、膿が出る慢性の中耳炎や副鼻腔炎などにも使用します。

抗生物質が存在しなかった時代では重宝された処方だと思います。

今でも、黄色期の褥瘡には回復を促進するための適当な薬が他に存在しませんので、本処方が活躍します。(この処方を知っている医師や看護師が非常に少ないことが残念です)

効力を高めるには反鼻を併用すると言われますが、食事で良質な蛋白質を摂取すれば反鼻を加味しなくてもかまいません。

疎経活血湯(そけいかっけつとう)

  • 構成生薬:威霊仙・甘草・羌活・牛膝・地黄・芍薬・生姜・川キュウ・陳皮・当帰・桃仁・白シ・白朮・茯苓・防已・防風・竜胆
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:去風勝湿
  • 適  合:虚証、関節の腫れや痛みで特に左側の症状が強いもの

経・血を活性化することで風湿を除去する処方で、血行の阻害などにより経絡の働きが乱れて関節部が痛むものに使用します。

もう少し具体的に例示しますと、酒や美食によって悪血(血行障害による滞血)や水毒(循環していない湿)の傾向がある者が、過労や外感によって神経痛や関節痛を発症した場合です。

経絡が関与する場合は朝の動かす前に症状が強く、血が関与する場合は朝よりも夕に症状が強いとされますが、本処方はどちらにも対応しています。

適合で左側にこだわっていますが、昔から血の疾患は左半身に多いとされるためで、右側には効果がないというわけではありません。

右足と左足の静脈走行に違いがあり、左足静脈は直腸を経由して門脈に入るという迂回経路をとるので、もしかするとこれが関係しているのかもしれません。

下肢静脈瘤には、本処方かキュウ帰調血飲第一加減が第一候補に上がります。

坐骨神経痛のように腰に不調があって足に痺れや痛みがある場合や、体・下肢関節の屈伸に不調がある場合は、最初に考慮すべき処方です。(肝・腎の不調が関与している場合は独活寄生丸を検討します)

また、風寒・血虚血オに対応している処方ですから、寒がある状況での打撲や捻挫にも優れた効果があります。

痛風は風寒湿から熱化してオ血を生じた状態ですので、本処方が最適です。

ただし、熱化による痛みが甚だしいリウマチのような疾患では、温によって痛みを強くする可能性がありますので注意が必要です。(清熱作用のある桂枝芍薬知母湯を検討します)

血行促進作用に優れますので滞血による痛みには効果的ですが、湿による症状には効果が弱く、血行不良に伴う二次的な場合にしか使用しません。(関節部に水が溜まるような状況では、他処方を検討すべきです)

夜に痛みが強くなるのは滞血の特徴ですが、痛みが強い場合は本方単独よりも還元清血飲などのオ血対応薬を併用します。

なお、寝違えによる痛みには、本処方の倍量と地竜を頓服すると奏効するケースがあります。

慢性的な腰痛や、ぎっくり腰を繰り返すような場合は、腎虚が加わっていることが多いので、八味地黄丸などの併用を検討します。

アルドースリダクターゼ阻害作用・ソルビトール蓄積阻害作用は桂枝加朮附湯に次ぐ強さで、糖尿病性神経痛にも効果が期待できます。

牛膝の配合量は少ないものの、通経作用がありますので、妊婦には使用しない方がよいと思います。

続命湯(ぞくみょうとう)

  • 構成生薬:甘草・杏仁・桂皮・生姜・石膏・川キュウ・当帰・人参・麻黄
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:通陽活血
  • 適  合:間証、中風によって運動障害や言語障害を呈するもの

十全大補湯より下方に作用する黄耆・地黄・白朮・茯苓などの滋陰薬や燥湿薬を除き、麻杏甘石湯と生姜を加味した構成です。

桂皮・川キュウ・当帰が血流を改善して麻痺状態を回復し、麻黄・石膏が利水作用で浮腫を解消し、人参・甘草・生姜の補気作用によって胃腸機能を高めて回復を促進します。

杏仁は止咳・去痰の作用で、言葉のもつれを改善するとともに、誤嚥の予防にも役立ちます。

表や上方での熱・湿の停滞、気血水の循環不良、気陰産生低下に対応する作用があり、様々な慢性疾患を治療するためのベース処方としても活用できます。

脳梗塞によって血流障害がある者に適しますが、高血圧症で頭痛・めまい等がある者や、麻痺性の四肢運動障害・顔面神経麻痺にも使用します。

運動障害では二関節に及ぶ障害に使用するとされ、これは麻痺範囲が広いという意味であって、一関節の範囲での麻痺に使用しないというわけではありません。

効力をアップさせたい時には地竜エキスを併用します。

ただし、腎気に作用する力は弱いので、陰血を巡らせたい場合には滋腎剤と併用しなければなりません。

虚証が強い場合や症状が軽い場合には、補陽還五湯も検討します。

蘇子降気湯(そしこうきとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・厚朴・紫蘇子・生姜・前胡・大棗・陳皮・当帰・半夏
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:降気
  • 適  合:虚証、腎陽虚、足の冷え・顔ののぼせがあり息苦しいもの

腎陽虚のために陽気が不足して気が下に降りず、気や痰が肺や喉に停滞するものを回復する処方です。

足の冷えは腎陽虚によるもので、この腎陽虚がない場合は適合しません。

のぼせは顔のほてり程度である場合も多く、のぼせと実感しないケースも少なくないので、あまり重視しない方が良いかもしれません。

肺での気・痰飲の停滞によって、痰が切れにくく咽の閉塞感が起こります。

痰を喀出しようとして咳も起こりますが、この咳よりも肺気が塞がれたことによる吸気障害の方が苦しく、喘息に似たような呼吸困難をもたらします。

若年者に多い気道過敏によって気管支が収縮する喘息とは違い、腎虚による高齢になってから発症する息が十分に吸えないタイプの喘息様症状です。

麻杏甘石湯のような麻黄剤が無効である喘息や、虚証で使用できない場合に候補になる処方です。

木防已湯を使う程でもない、あるいは使えない心臓喘息にも使用します。

痰が切れにくいと言う点では麦門冬湯の適合に似ていますが、燥証で痰の粘度が増して切れにくいわけではなく、痰の量が多くて排出しきれずに残る状態です。

また、本方は半夏厚朴湯の変方でもあり、梅核気などの食道神経症があって咳も出るというケースでは、本方を選択します。(半夏厚朴湯は行気剤であり、本処方は降気剤です)

麦門冬湯や半夏厚朴湯と同様に、地竜を加味すると効果が延長します。

咽の不調は咳だけでなく、嚥下に問題がある場合にも使用します。

重度の誤嚥には効果が及びませんが、高齢者が喉に違和感を訴えて軽症の嚥下障害がある場合には試す価値のある処方だと思います。

口内炎や歯肉炎だけれども熱証がない場合は、甘露飲ではなく本処方が適します。

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