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漢方をもっと身近に

西洋薬と東洋薬のハイブリットにより、
より効果的で安全な治療を。

大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)

  • 構成生薬:甘草・大黄
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:寒下
  • 適  合:実~間証、熱証、食後に吐気を伴い大便が秘閉するもの

主薬である大黄の刺激性を緩和するために甘草を配合した構成で、瀉下剤(排便を促す処方)の基本処方になっています。

大黄の主成分はセンナと同じアントラキノン誘導体で、大腸粘膜を刺激することで排便を促す成分です。

腸内細菌によって活性体となる成分ですので、腸内細菌の状態によって効果に多少の差があります。

植物性=穏やか、と思っている人が多いようですが、決して穏やかな便秘薬ではなく、骨盤内充血を助長しますので妊娠中や生理中には不適な薬です。

また、連用によって大腸黒皮症が起こったり、耐性によって効果が低下します。(本方には甘草が配合されていますので、連用によるこれら影響はかなり緩和されています)

大黄には瀉下作用の他に清熱作用もあり、裏熱を除く効果も期待できますが、寒が強い場合には適しません。(古典に食後に吐気を伴う場合に適すると記されているのは、吐気が裏熱によって誘引されるからです)

若い人が頓服的に使用するには問題はないと思いますが、虚証や寒証の人が便秘を治すために連用する場合には、麻子仁丸や潤腸湯などの他処方を検討すべきです。

ちなみに、タケダ漢方便秘薬や大正漢方便秘薬などの市販されている漢方便秘薬の大部分は、大黄甘草湯です。

腎不全による嘔吐・便秘には温脾湯が候補とされ、エキス剤では本方+人参湯+焙附子で代替えする方法があるようです。

また、本方単独でも、慢性腎不全における糸球体濾過を改善する作用が報告されています。

ただ、腎疾患がある者に甘草を配合する処方を使用して、良い結果を経験したことがないので、個人的にはお勧めしません。

大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)

  • 構成生薬:大黄・冬瓜子・桃仁・芒硝・牡丹皮
  • 陽陰区分:陽明病
  • 治  方:内廱
  • 適  合:実証、熱証、鬱血、回盲部に強い抵抗と圧痛があって便秘があるもの

活血作用+清熱作用を持ち、回盲部(右下腹)の鬱血によって派生する症状に使用する処方です。

昔は、虫垂炎による痛みに対して、鎮痛を目的によく使用されていた処方です。

虫垂炎の初期において散らすには有効ですが、化膿に至っている段階には適しません。

回盲部と限定しなくても、下焦の鬱血に熱証を伴っていて、桂皮配合処方(桂枝茯苓丸や桃核承気湯など)が適さない場合にも使用します。

下半身に溜まった血が炎症を起こしそうになった時、速やかに熱を取り・止血し・溜まった血を除いてくれます。

ただし、本方が適するのは動脈系の鬱血であって静脈系ではありません。

抗生物質や抗菌剤であまり効果がなく、慢性あるいは反復性の婦人科系・泌尿器系の炎症性疾患において、本処方によって強力に瀉下させることで奏効することがあります。

難治性の膀胱炎や尿路結石で排尿障害が強い場合は、一貫堂の竜胆瀉肝湯と併用すると騰竜湯の構成となって効果的です。

比較的強い瀉下作用を持っていますので、便秘にも有効ですが、鬱血に伴う場合のみを適応とします。

虚証や寒証には禁忌に近い処方で、大黄・桃仁を配合していますので妊婦にも使用不可です。

(虚証の場合は、大黄・芒硝をヨク苡仁に替えた腸廱湯を検討します)

他に意外な適応としては、足のウオノメを取りたい時にも使用します。

薬力が強いために適合できないケースもありますが、下焦の鬱血疾患において、西洋医学的な対応では十分な効果が得られない場合に活躍してくれる処方です。

大建中湯(だいけんちゅうとう)

  • 構成生薬:乾姜・膠飴・山椒・人参
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、寒証、胸苦しくて落ち着かず腸の蠕動を感じるもの

脾陽虚によって熱の産生が十分にできずに寒証となり、胃腹部に痛みや吐気があって食事ができず、無理に食べると腸がモコモコと動くように感じる状態に適する処方です。

腸の蠕動を感じるとは、腹部が痩せて弾力がないために起こる症状で、肥満タイプに適するものではありません。

少し適合を拡げて、虚弱で腸の蠕動が過剰に亢進し、痙攣性あるいは発作性の腹痛を起こす場合によく使用されます。

温裏剤ですので、温めて服用することが原則で、食事でも冷たい物を避ける注意が必要です。

乾姜・山椒ともに熱性刺激剤なので、熱証には使用してはならず、あまりに衰弱している者にはかえって胃腸の負担が増すことがあります。

消化器の手術後などで、癒着性イレウスを防止する目的で使用されることも多いのですが、証を無視して使用しているケースも散見されます。

腹痛が強い場合は芍薬甘草湯と、吐気が強い場合は半夏厚朴湯と併用します。

あまり長期連用に適した処方ではないので、症状が慢性化して継続的な服用が必要と思われる場合は、当帰湯を検討します。

また、本処方には下痢の適応はありませんので、同様な症状に下痢を伴う場合は附子粳米湯が適合します。(ただし、エキス剤がないので、人参湯や真武湯を組み合わせて対応します)

使用するケースは腸を対象とすることが圧倒的に多いですが、尿路結石の発作疼痛のような、泌尿器系の衰弱による痙攣性の痛みにも使用する場合があります。

同名で、甘草・膠飴・山椒・生姜・人参・半夏という構成の処方や、黄耆・甘草・桂心・芍薬・生姜・大棗・当帰・人参・半夏・附子という構成の処方があります。

大柴胡湯(だいさいことう)

  • 構成生薬:黄ゴン・枳実・柴胡・芍薬・生姜・大黄・大棗・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:和解少陽
  • 適  合:実証、みぞおちや胸脇の痞え感が強く便秘傾向があるもの

最も実に位置する柴胡剤で、陽明病にちかい少陽病を対象とし、中焦部での鬱滞が強くて現れる症状も強いものに使用します。

適合者は胸脇苦満が強く、腹部の膨満も伴うことも多く、ベルトや帯で締めることを苦痛に感じます。(胸脇苦満がない腹部膨満であれば大承気湯を、水滞による心・肺の負担から上腹部の緊張を起こしている場合は木防已湯を検討します)

瀉下作用のある大黄を配合していますが、清熱作用と昇降障害の緩和が目的で、単なる便秘を対象にはしません。

本来は排便の状態によって大黄の量を加減する処方なのですが、エキス剤では調整ができません。

エキス剤には大黄を配合していない大柴胡湯去大黄もありますが、人参を配合せずに大黄・枳実を配合しているのは、黄ゴン・柴胡の清熱作用を十分に発揮させるためでもありますので、去大黄では少し処方の性質が変わってしまいます。

運動をしていた者が運動を休止したことで起こる肥満は、新陳代謝能の低下が関係していることが多く、瀉下作用と代謝能向上を併せ持つ本処方をダイエットに使用することがあります。(肥満に使用されるビスラットゴールドが大柴胡湯です)

肩こりにも使用しますが、葛根湯が適応となる僧帽筋の凝りではなく、耳下から肩方向に凝る場合が対象です。(これは柴胡剤に共通です)

鬱血を伴う痛風には桃核承気湯や桂枝茯苓丸と併用したり、糖尿病には地黄剤と併用することがあります。

実熱証の腹満・腹痛では、小承気湯の構成を持たせるために半夏厚朴湯と併用します。

ただし、いずれも実証の場合のみです。

また、柴胡の刺激を緩和する甘草が配合されていませんので、胃疾患がある者には使用しない方がよいと思います。

西洋医学的な検討として、高脂肪食の摂取による総コレステロールやLDLコレステロールの上昇を抑制する効果が確認されています。

機序が私にはよく分からないのですが、ヘルパーT細胞を活性化することで抗原排泄を促進する作用が報告されており、アレルギー性疾患への予防的使用の有用性を示唆しているらしいです。

しかし、小柴胡湯と同じく、リウマチなどの免疫性疾患の初期においては、増悪させる場合があるので使用を控えます。

大承気湯(だいじょうきとう)

  • 構成生薬:枳実・厚朴・大黄・芒硝
  • 陽陰区分:陽明病
  • 治  方:寒下
  • 適  合:実証、便秘があって臍下不二・尿利減少するもの

便秘に伴って気の上衝(のぼせ等)がある場合に使用する処方で、三黄瀉心湯と調胃承気湯の中間に位置する昇降剤です。

胸腹部の痞えを除くことが主目的で、便秘は必須条件ではないのですが、少なくとも瀉下で苦情が出る者に使用してはいけません。

承気湯は、実腹満(便秘に伴う腹部膨満)を対象とした処方なのですが、実腹満や潮熱(陽明病に特有の潮の満ち引きのような発熱)に対しては調胃承気湯(あるいは小承気湯)をまず選択します。

虚腹満には、桂枝加芍薬湯や厚朴生姜半夏甘草人参湯が適応となります。

本処方の特徴とされる臍下不二(下腹部に力がない)や尿利減少は八味地黄丸と同じなのですが、腹部に鬱毒が充満して便秘や手足にむくみを起こしている場合に本処方を使用します。

簡単そうでなかなか難しい鑑別です。

大半夏湯(だいはんげとう)

  • 構成生薬:人参・蜂蜜・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:降気
  • 適  合:虚証、脾虚、食べると直ぐに吐いてしまうもの

慢性的な病気によって体が弱り、胃腸機能が不良になって吐気が強い場合に使用する処方です。

名前に大が付いていますが、小半夏湯よりも衰弱した状態に使用する処方で、実証にはほとんど効果がありません。

歴史的には、半夏湯(生姜・半夏)より後に登場した処方で、この処方ができてから半夏湯を小半夏湯と呼ぶようになったと言われています。

小半夏加茯苓湯およびその派生処方は痰飲(水滞)による吐気に使用しますが、本方は胃が弱って食べ物を留めておけない状態に適応します。(主薬が半夏ですので、水滞と無関係というわけではありません)

心下痞硬と呼ばれるみぞおち部の痞えを伴う場合に適します。

この処方は使用経験がありませんので、内容は全て伝聞です。

大防風湯(だいぼうふうとう)

  • 構成生薬:黄耆・甘草・キョウ活・牛膝・地黄・芍薬・生姜・川キュウ・大棗・当帰・杜仲・人参・白朮・附子・防風
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:去風勝湿
  • 適  合:虚証・寒証・気虚・血虚

十全大補湯の類方で、気血衰弱する者の慢性疼痛性疾患に使用する処方です。

虚が強い者で、下痢などにより更に体力が減じて歩けなくなった場合や、脚や膝が腫れて痛む場合に適合します。

膝が腫れ・脚は筋肉が落ちて骨だけになったように痩せて痛む(鶴膝風)が特徴とされますが、気血両虚がない場合は適合とはなりません。

夜間や冷えによって痛みが増す寒証に使用するもので、熱感を伴う腫れに使用してはいけません。(発赤や熱感を伴う場合は、桂枝芍薬知母湯を検討します)

変形にまで至ったリウマチ疾患の痛みの緩和や筋肉回復に有効な場合があります。

速効性はなく、効果を実感できるまでに時間を要します。

同じく十全大補湯の類方である独活寄生丸と似た適合で、いきなり本処方を使用するのではなく、附子を含まず不適合者が少ない独活寄生丸を先に選択すべきだと思います。

なお、ツムラのエキス剤は生姜→乾姜・白朮→蒼朮の構成です。

沢瀉湯(たくしゃとう)

  • 構成生薬:沢瀉・白朮
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:間証、湿証、心下に痰飲が滞ってめまいするもの

二種の利水剤のみから成る構成で、脾胃の水滞による動揺を鎮める処方です。

沢瀉は寒性薬・白朮は温性薬であり、陽陰や寒熱の区分にこだわらずに使用することができ、乾湿に注意するだけで他剤との併用も容易です。

代表的な対象症状はめまいで、他剤の効きにくい回転性のめまいや、神経性・耳性などの様々なタイプのめまいにも試用する価値があります。

シンプルな処方なので効果の発現は早く、急性のめまいであれば本処方を数日間服用するだけで改善できます、

ただし、水滞の体質そのものを改善する処方ではありませんので、慢性の場合は生活習慣の見直しを含めて対応しないと根本治療になりません。

耳鳴りにも有効で、持続性の耳鳴りには桃核承気湯と、心臓の拍動と連動する耳鳴りであれば苓桂朮甘湯と併用すると効果的です。

ただし、腎虚が関与するめまい・耳鳴りには効果がありませんので、滋腎通耳湯を検討します。

他には、乗り物酔い・メニエル病・てんかんなどにも有効例が報告されており、炭酸脱水酵素阻害薬の適応と似ているところがあります。

新薬でめまいに使用されるのは、ジフェニドールやベタヒスチンのような効果が判然としない薬しかありません。

めまいに関しては漢方薬の方が効果的であり、その中でも本方は第一選択にされる処方だと思います。

竹ジョ温胆湯(ちくじょうんたんとう)

  • 構成生薬:黄連・甘草・桔梗・枳実・香附子・柴胡・生姜・竹ジョ・陳皮・人参・麦門冬・半夏・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:清熱化痰
  • 適  合:虚証、熱証、湿証、気虚、虚証で胃腸障害があり咳や痰が出て安眠できないもの

胆寒を改善する温胆湯の竹ジョを増量し、黄連・桔梗・香附子・柴胡・人参・麦門冬を加味した構成です。

つまり、温胆湯の健胃・鎮静作用を増強し、肺部への消炎解熱作用を加えた処方です。

温胆湯は気・水が中焦で停滞して痰熱となっている状態に対応する処方で、本処方はより痰熱が顕著な場合に適応します。

風邪で小柴胡湯の適応時期を逸して、病邪が中焦に長く留まることで痰熱を誘因し、咳・痰や胃の不感感から睡眠に悪影響が及んでいるケースが代表的なものです。

文書にすると簡単なように思えますが、適合の鑑別はなかなかに難しいです。

痰熱は急性期に起こる状態ではありませんので、治療には少し時間を要することが多く、単なる風邪薬として処方するとクレームの元になります。

また、痰熱以外の症状に対しては、他処方の併用を要するケースが少なくありません。

痰熱による不眠や神経症にも有効ですが、源処方の温胆湯で対応できますので、高価な本処方を選択する意義はないと思います。

竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)

  • 構成生薬:甘草・粳米・石膏・竹葉・人参・麦門冬・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清気分熱
  • 適  合:虚証、燥証、風邪が治りきらずに痰が切れにくくて激しく咳こむもの

麦門冬湯の大棗を、熱性疾患による残熱を冷ます竹葉・石膏に替えた構成です。

風邪などの発熱性疾患で発汗し、解熱した後に脱水状態になって燥証を起こした場合に使用します。

津液が多い場合にはこのような状態になることは少ないので、津液が少ない傾向のある陰虚者や高齢者に使用するケースが多いです。

燥証に至った経緯に違いはあるものの、対応する症状は麦門冬湯と同じで、痰の粘度が上がることで切れにくくなり、激しく咳こみます。(気管支収縮を伴ったり長く継続する咳ではなく、出始めると激しいけれどもインターバルがあります)

口渇などの熱感が強い場合は、麦門冬湯よりもこちらを選択します。

白虎加人参湯の知母を竹葉に替え、肺に効かせるように麦門冬・半夏を加えた構成とも考えることができます。

よって、熱による津液欠乏から滋潤が必要な場合、すなわち軽い熱中症にも適応する処方です。

また、胃陰虚によって虚熱が生じて胃痛する場合にも使用することがあります。

治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・川キュウ・川骨・大黄・丁字・僕ソウ
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:活血去鬱
  • 適  合:間証、鬱血、気滞、打撲によって生じた障害があるもの

日本で創作された独自処方です。

血液循環を改善する川キュウ・川骨と消炎鎮痛に働く僕ソウが主薬で、打撲によって起こった鬱血を散らします。

大黄は血腫などの腫れの消退を早め、桂皮・丁字は理気によって気の高ぶりを鎮静するとともに、末梢動脈を拡張して血行促進の増強を計ります。

一般には打撲直後の急性期に使用しますが、古傷が痛むような陳旧性の打撲症状にも有効です。

ただし、陳旧性で患部に腫れや熱感がない場合にはあまり適しません。(附子を加味して使用する場合もあります)

川キュウ・川骨は内出血に伴う鬱血を改善するのに働き、それ以外の要因による鬱血には有効ではありませんので、内因性の鬱血性疾患には使用しません。

関節置換のような手術をした後に痛む場合は打撲ではありませんが、病態が同じですので有効です。

また、大黄は瀉火涼血の目的で配合されていますが、瀉下作用がありますので下痢傾向がある者には使用しません。(服用して下痢する場合も不適とされます)

鬱血が強い場合は通導散、気の高ぶりがない場合は桂枝茯苓丸も検討します。

治頭瘡一方(ぢずそういっぽう)

  • 配合生薬:甘草・荊芥・紅花・川キュウ・蒼朮・大黄・忍冬・防風・連翹
  • 別  名:大キュウ黄湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:疎散外風
  • 適  合:実証、やや便秘傾向があって首から上に湿疹が出るもの

小児の頭部湿疹を治すために創作された処方です。

名前に頭と付いていますが、頭部に限って使用する処方というわけではなく、分泌物が多くてカサブタを形成する皮膚疾患であれば使用できます。

血流が多くて皮膚の薄い部位で起こる症状ですから、頭部に多いことは間違いありません。

表部に病邪が留まり、上焦部に気・血・水の停滞傾向がある場合が適合になります。

升麻葛根湯の適合時期を過ぎ、まだ内に影響が及んでない時期ということになりますので、十味敗毒湯や荊防敗毒湯と同じ適合時期です。

間証でも使用は可能ですが、大黄を配合していますので下痢傾向がある場合には使用しません。

化膿している場合や血熱がある場合には適しません。

心・脾の血虚があって血熱によるのぼせから頭部湿疹を発症している場合は、加味帰脾湯を検討します。

知柏地黄丸(ちばくじおうがん)

  • 配合生薬:黄柏・山茱萸・山薬・地黄・沢瀉・知母・茯苓・牡丹皮
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補陰
  • 適  合:陰虚証、湿証、虚熱があるもの

六味地黄丸に黄柏と知母を加えた構成で、虚熱に対して知母が清熱し黄柏が補助します。

六味地黄丸も虚熱に使用しますが、それを強化したもので、虚熱に対しては第一選択される処方です。

虚熱による症状としては、のぼせ・火照り・目の乾燥・口渇・排尿時の熱感・不眠などがあり、夜間に強くなる傾向があります。

また、自律神経が興奮気味になりますので、イライラや高血圧を引き起こす場合もあります。

女性の更年期障害だけでなく、火照りなどの熱感やイライラを伴う男性の更年期症状にも使用されます。

あくまで六味地黄丸の派生処方ですので、胃弱者や下痢気味の人には適しません。

調胃承気湯(ちょういじょうきとう)

  • 構成生薬:甘草・大黄・芒硝
  • 陽陰区分:陽明病
  • 治  方:寒下
  • 適  合:実証、熱証、発汗剤使用後に便秘と熱が残るもの

構成としては大黄甘草湯に芒硝を加えたもので、芒硝が便を軟らかくするために少ない大黄の量でも効果があります。(便秘に伴って気の上衝がある場合には、本処方の方が適します)

単なる便秘薬として創作されたものではなく、発汗によって表熱が解消された後に裏熱が残り、胃腸の働きに不調を起こしている状態を改善するための処方です。

小承気湯や大承気湯には甘草を配合していないのに本処方では配合しており、裏熱が津(体内の潤い)を損なうことを防止してくれますので、発熱時でも使用することが可能です。

ただし、悪寒に伴って発熱がある場合は、太陽病期なので承気湯は使用してはいけません。

承気湯類の中では最も薬力が穏やかで、便秘が顕著でなくても、宣降作用を目的に使用することも多い処方です。

宣降とは、横隔膜付近が壁のようになり、上半身と下半身が別の状態となっているものを、上下の流れを良くして解消することです。

承気湯や瀉心湯は、大なり小なり宣降の作用を持っていますが、本処方は構成がシンプルなので、他の処方に少し足すという使い方がしやすいです。

古書に陽明病でうわごとを発する場合に使用すると記載されていますが、そのようなケースに直面したことがないので効果の程は不明です。(うわごとの原因となっている熱を下すことで解消すると推察されます)

ただし、発汗過多の亡陽(陽の力が著しく損なわれた状態)によってうわごとを発する場合は柴胡桂枝湯が適応です。

また、歯痛・歯肉の腫れ・口臭などの口腔内のトラブルは、便秘が増悪要因になっていることが多く、継続する場合や繰り返す場合は本処方を使用することがあります。

釣藤散(ちょうとうさん)

  • 構成生薬:甘草・菊花・橘皮・生姜・石膏・釣藤鈎・人参・麦門冬・半夏・茯苓・防風
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:平熄内風
  • 適  合:間~虚証、湿証、肝陰虚、もの忘れが多く明け方に頭痛や肩こり等に苦しむもの

肝・脾の弱い人の神経症で、頭痛・肩こり・めまい等の愁訴が多い場合に使用する処方です。

肝陰虚によって気が鬱滞し、神経が一種の過敏状態となり、不眠・神経緊張・夜間頻尿などを伴うことが多く、高じれば抑肝散証のような興奮症状を起こす場合もあります。

抑肝散との鑑別は腹直筋の緊張で、腹部に緊張がある場合は抑肝散系を検討します。

神経過敏に伴う高血圧症に奏効することが多いですが、構成に活血作用を持つ生薬が含まれていませんので、必要に応じて還元清血飲を併用します。

脳動脈硬化に対しては第一選択となる処方とされています。

しかし、何をもって脳動脈硬化と判定するのかは難しく、もやもやする・スッキリしない等の頭部に不定愁訴がある場合は候補に入れておくべき処方です。

頭痛・肩こりなどの表症状は、モーニングサージのように血圧が高くなる時に強くなる傾向があり、このことが脳動脈硬化の影響なのかもしれません。

構成から見て、釣藤鈎の鎮静作用をメインとしていますが、虚弱な体質を改善していく処方であり、本治には多少の時間を要します。

派生症状は比較的早期に改善することが多いものの、その段階で中止すると再発するケースが多いので注意が必要です。

また、基本構成は二陳湯ですので、痰飲と無関係という場合には効果がない可能性があります。

西洋医学的な検証もされている処方で、脳底動脈の血流不全に伴う耳鳴りには桃核承気湯と併用すると効果的であるとか、脳のセロトニン受容体に対する作用があるとか、脳虚血による記憶障害への改善効果がある等と報告されています。

(蝸牛角に起因する耳鳴り・難聴には無効だとも報告されています)

猪苓湯(ちょれいとう)

  • 構成生薬:阿膠・滑石・沢瀉・猪苓・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病(一部に少陰病の適応もあります)
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:間証、熱証、湿証、発熱で口渇し水を飲んでも尿量が少ないもの

下焦部の邪熱によって、水や気の流れが悪くなった状態に使用する処方です。(上焦部の邪熱によって尿利減少する場合は、五苓散の適応です)

漢方の利尿剤とも言える処方ですが、熱証・湿証である場合にのみ使用します。

よく使用されるのは、膀胱炎や尿路結石に対してです。

排尿機能の低下から尿量減少と熱による尿の濃縮によって、尿路系の粘膜が炎症を起こして排尿痛や血尿を生じた状態を回復します。

ただし、細菌性の膀胱炎には対応できる力はありませんので、細菌性では抗生物質を併用するか五淋散を選択します。

尿路結石に対しては結石排出や止血の作用に加えて、尿中へのシュウ酸排泄を抑制する作用によって結石の成長を多少なりとも防ぎますので、第一候補となる処方です。(五淋散も尿路結石に使用しますが、排出促進作用だけです)

結石の排出や鎮痛には、芍薬甘草湯と併用すると効力がアップします。

ネフローゼにも使用しますが、単独使用よりも柴胡剤との併用が望ましいとされています。(ステロイド剤の使用例では効果が劣るとの報告があります)

口渇は水分の不足で起こったものではなく、炎症によって腎の機能が低下して尿量が減少し、排泄されない塩分が過剰になって起こったものです。

よって、飲水しても排尿はあまり増えないという特徴があります。(口渇で飲水すると尿が増え、口渇が鎮まらない場合は白虎湯系を検討します)

下焦部の炎症では潜血や下血を伴う場合もあり、長引くと血熱を発して、手足の火照りや不眠・イライラなども併発することがあります。

少陰病において、少陰熱化によって熱証の下痢が続き、脱水状態になった場合にも使用すると古典に記載されていますが、今では輸液の点滴によってこのような状態になるケースはほとんどないと思います。

他には、熱湿証の皮膚疾患で、消風散でも悪化するケースに有効な場合があります。

また、同証のアトピー性皮膚炎には、黄連解毒湯と併用すると効果的です。

なお、弱いながら堕胎の作用がありますので、流産しやすい体質の妊婦には使用しない方がよい処方です。

猪苓湯合四物湯(ちょれいとうごうしもつとう)

  • 配合生薬:阿膠・滑石・地黄・芍薬・川キュウ・沢瀉・猪苓・当帰・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:虚証、熱証、湿証、虚血、口渇・尿利減少はあるが発汗傾向はなく皮膚が荒れるもの

猪苓湯に虚血対応の四物湯を合わせた処方で、貧血やホルモン不足が関与する尿路系疾患に使用します。

炎症性の強い症状はないのだけれど、出血傾向があって、いつまでもスッキリせずに長引く場合に適合します。

皮膚の荒れは血虚によって起こることが多く、明らかな出血がなくても血虚のシグナルとなります。

四物湯による血行促進作用はありますが、基本構成は猪苓湯ですので、明らかな寒証には使用しません。

冷えによって誘発された膀胱炎様症状(尿路不定愁訴)には使用しますが、寒が継続している場合には地黄丸系や苓姜朮甘湯などを検討します。

適合領域が狭いのであえて備蓄しておく必要はなく、必要時には猪苓湯と四物湯を併用して代替えする方が効率的です。

条件に合致した場合の効果は、なかなかのものです。

通導散(つうどうさん)

  • 構成生薬:甘草・枳実・紅花・厚朴・蘇木・大黄・陳皮・当帰・芒硝・木通
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:活血去鬱
  • 適  合:実証、熱証、気滞、鬱血、みぞおちや腹部に抵抗と圧痛があってのぼせ・便秘が強く尿が出にくいもの

大承気湯に活血を目的に甘草・紅花・当帰を加えた加味承気湯をベースとし、更に蘇木・陳皮・木通を加えた構成で、後世方で唯一の駆鬱血処方です。

炎症や打撲で生じた鬱血が、便が通じないことで腹部の膨満症状や上気症状を誘発した場合に適応となります。

紅花・蘇木・当帰には子宮筋の調節作用がありますので、生理不順や生理痛などの婦人科系症状にも有効です。

熱証の気滞・鬱血を対象としており、古方の桃核承気湯と似たような性質を持つ処方です。

本処方は活血+理気+利湿+養血の作用、桃核承気湯は活血+温陽+清熱の作用であり、血熱がある場合は桃核承気湯が適応となります。

実証女性の脂肪太りには、防風通聖散よりも瀉下作用が強い本処方が効果的です。

強力な駆鬱血作用によって、リンパ液の滞留も改善しますので、腎系の不調ではないむくみにも効果が期待できます。(利水作用を有する生薬は木通のみなので、利尿作用は強くありません)

交通事故や打撲の初期に使用すると、鬱血を解消して症状の回復を早くできます。(ただし、急性期を過ぎて症状が残る場合は、治打撲一方などに変更した方がよいです)

他には、アトピー性皮膚炎において、ステロイド剤を使用すると抑えられるけれども中止するとぶり返す痒みがある場合に、本処方が奏効することがあります。

また、痛風には本方と防風通聖散を併用すると発作を抑えられます。

瀉下作用はかなり強力ですので、妊婦や虚証には使用しません。

なお、熱証ではない寒証の気滞鬱血には、キュウ帰調血飲第一加減を選択します。

定悸飲(ていきいん)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・呉茱萸・白朮・茯苓・牡蛎・李根皮
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:降気
  • 適  合:間証、湿証、奔豚するもの

苓桂朮甘湯に降気の呉茱萸・李根皮と安神の牡蛎を加えた構成で、苓桂朮甘湯証であって動悸やのぼせの強い場合が適応になります。

歴史的には、牡蛎奔豚湯(甘草・桂皮・牡蛎・李根皮)を元にして、江戸時代に日本で創作された処方です。

奔豚(豚が走り回るような勢いで気が臍付近から上へ突き上げ、激しく動悸して呼吸も絶え絶えの状態)に対応する代表処方とされています。

奔豚に使用する処方には苓桂甘棗湯もありますが、もっと症状が強い場合に適合します。(他方では効果がない動悸、という判断をすれば分かりやすいかもしれません)

奔豚は、日頃から不安や緊張が強くて不眠傾向があり、小さな物音でもビクッとする人に起こりやすいです。

苓桂朮甘湯と同じく夜型人間で、朝が弱く夜更かししがちという特徴もあります。

典型的な奔豚でなくても、全身発汗・息苦しさ・喉の閉塞感・顔面紅潮・のぼせなどが突発的に起こるケースや、ヒステリーやパニック障害のような状態にも有効です。

ただし、この程度であれば苓桂甘棗湯でも対応できることが多く、本方を使用するのは牛刀で鶏を割くような感があります。

本方が最も活躍すると思われるのは、強い動悸を鎮めたい場合と双極障害(躁鬱病)を体質面から治療する場合でしょう。

水の関与がなく、心臓神経症による動悸であれば、柴胡加竜骨牡蛎湯や柴胡桂枝乾姜湯などの適応です。

桃核承気湯(とうかくじょうきとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・大黄・桃仁・芒硝
  • 別  名:桃仁承気湯
  • 陽陰区分:陽明病
  • 治  方:活血去鬱
  • 適  合:実証、熱証、鬱血、神経が鎮静せずに下腹部に痛む物が生じたように感じるもの

調胃承気湯に局所の鬱血を去る桂皮・桃仁を加えた構成で、上衝(のぼせ)を治す桂枝甘草湯の性質も持った処方です。

鬱血に熱症状を併発あるいは熱によって鬱血を起こした状態で、便秘や気の上衝が強くなっている場合に適合します。

桂枝茯苓丸と似た特徴および適応ですが、鬱血を血行促進で解消するのではなく、活血+瀉下によって解消する処方で、慢性化したものや強めの症状にも対応できます。

鬱血部位で区別すれば、桂枝茯苓丸が毛細血管であるのに対して、本方は動脈~毛細血管をカバーしています。(静脈系であれば当帰芍薬散が適合します)

のぼせ症状は、頭痛・めまい・耳鳴り・肩こり・動悸・不眠・健忘・てんかん・ヒステリー・神経過敏・高血圧など多岐に及びます。

表証に対して瀉下剤は適しませんので、頭痛・肩こりがある場合は表証と上衝症状の鑑別は大切です。(鬱血に起因する症状は夜に強くなる傾向があります)

足は冷えて頭はのぼせるという「冷えのぼせ」を訴える場合も多いですが、寒証には使用しませんし、桂皮を含むので強い熱証にも使用しません。(寒証の冷えのぼせには、キュウ帰調血飲第一加減や温経湯を検討します)

腹証は左下腹部の圧痛と紹介されていることが多いですが、これは右下腹部の圧痛を特徴とする大黄牡丹皮湯と区別するための言い方で、本処方をはじめとする駆鬱血剤では、左右を問わず臍の周囲に圧痛がある場合が多いです。

本処方の瀉下は中焦を対象にしており、上焦の瀉下であれば三黄瀉心湯・下焦の瀉下であれば調胃承気湯を検討します。

炎症に伴う小便不利(排尿障害)にも有効とされますが、この目的で使用するのであれば下焦に作用する大黄牡丹皮湯の方が適しています。(機能低下による小便不利には使用してはいけません)

桂枝茯苓丸と同様に打撲による疼痛にも効果があり、打撲後の腰痛には本処方が奏効することが多いです。

他には、脳動脈の血流を促進させることから、難聴に対しても使用されます。

特に、突発性難聴の初期であれば、下痢する程の量を頓服して有効な場合が少なくありません。(初期にしか効果がありません)

鬱血を解消する力が強く、様々な方面で使用されますが、桃仁・大黄という作用の強い生薬を配合していますので、虚証には適合しませんし、妊娠中にも使用しません。

当帰飲子(とうきいんし)

  • 構成生薬:黄耆・何首烏・甘草・荊芥・地黄・疾葱子・芍薬・川キュウ・当帰・防風
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:平熄内風
  • 適  合:虚証、陰虚、血虚、皮膚に変化はないが痒みがあるもの

構成は、四物湯に滋陰作用のある黄耆・何首烏を加え、更に去風のために甘草・荊芥・疾葱子・防風を加えたものです。

血虚に加えて内風によって表部の炎症反応(痒み)を起こしている場合が適合となり、血燥によって患部は乾燥していることが多いです。

代表的な適合疾患は、高齢者の皮膚掻痒症や乾燥性皮膚炎です。

また、目も表部ですので、ドライアイや目の痒みにも使用します。

清熱作用のある生薬は配合されていませんので、患部が熱を持つような炎症が強い皮膚疾患には不適ですし、解毒作用のある生薬も配合されていませんので、化膿性皮膚疾患にも使用しません。

陰虚による四肢のほてりを伴うことはありますが、炎症による熱感ではありません。

陰虚による症状は夜に強くなる傾向があり、患部の痒みも昼間よりも夜間に強く感じます。

滋潤を企図した処方であって、利水や利湿の作用はありませんので、湿証体質や湿性の症状には適合しません。

症状は表部に限局され、全身的な陰液不足がある場合や裏部へも症状が出ている場合は、六味地黄丸や八味地黄丸を検討します。

血虚が高じて血熱に至り、冷やすと症状が軽快する場合には、黄連解毒湯と併用するか、温清飲への変更を検討します。

胃弱がある人はもたれる場合があり、必要に応じて補中益気湯・六君子湯・人参湯などを併用します。

滋陰作用によって症状が緩和しますので、効果の発現には少し時間を要し、生活改善も効果に影響してきます。

理由は不明ですが、抗ヒスタミン剤と併用しない方が有効率が高いとの報告があります。

当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・生姜・大棗・当帰
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、表虚、気血両虚、貧血傾向で疲労しやすく下腹部が痛むもの

桂枝加芍薬湯に当帰を加えた構成で、建中湯適合者であって下腹部臓器の血行不良が強い場合に使用する処方です。

当帰芍薬散と似た適応ですが、気虚+血虚でより虚が強く、胃弱でむくみはないが冷えによる痛みが強い場合に本処方を選択します。

生理末期や終わった後、あるいは出産後に腹痛や腰痛が続く場合にも適します。

桂枝加黄耆湯にも近い性質で、適合者はのぼせ感や発汗などの軽い表症状を伴うことが多いです。

婦人科系疾患だけでなく、汗かき体質の出血性疾患に対しての候補にもなります。

特に、虚証の脱肛や痔核で、排便後に痛みが強い場合に使用します。(実証の場合は甲字湯です)

腹筋に力のない者が立ち仕事をして、背筋に負担がかかって腰椎の両側が痛む場合にも効果があります。

衰弱が強い場合は膠飴を、出血が続く場合は地黄と阿膠を加味すると効果が高まるとされます。

エキス剤で対応するのであれば、ブドウ糖やキュウ帰膠艾湯を併用します。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・呉茱萸・細辛・芍薬・生姜・大棗・当帰・木通
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温経散寒
  • 適  合:虚証、寒証、血虚、虚証で手足がひどく冷えて食欲がなく気分が沈むもの

当帰四逆湯に呉茱萸と生姜を加味し、胃アトニーの回復作用と血行促進作用を強めた処方です。

(当帰建中湯に呉茱萸・細辛・木通を加味し、大棗を増量した処方とも考えられます)

血管が細くて脈も弱く、血行不良によって体の末端ほど寒症状が強く、特に足は夏でも冷える場合に適合します。(全身的に夏でも冷える場合は本処方ではなく附子剤の適応です)

血虚体質に寒冷刺激が加わって、末梢の血管が収縮して冷えが起こります。

ただし、外気に対する体温調節機能の低下も関与している場合は、気温の高い時期には暑がるというケースもあります。

また、生まれ持って冷え性という人は、寒が不調の原因だと意識していない場合があり、自覚的な主訴だけでなく他覚的な観察も重要になります。

妊娠中絶や帝王切開などで、下焦に手術を受けたり傷を負った女性に本処方の適合者が多いです。

女性の腰痛・子宮脱・月経困難などにおいて、冷えると痛みが下腹部から腰や足に波及する場合や、冷えによって増悪する坐骨神経痛に効果的です。

腹部はガスが溜まって膨満感を起こす虚満で、冷えると悪化する慢性的な腹痛を伴う場合もあります。(足で冷やされた血液が腹部臓器を冷やします)

しもやけや凍傷にも使用しますが、動脈性の血行不良による場合だけで、鬱血による静脈性の場合は駆鬱血剤を選択します。

寒による気の鬱滞から、軽い自律神経失調のような症状を呈することもあります。

作用の増強や作用時間の延長を図りたい時は、地竜エキスと併用します。

胃アトニーではなく炎症性の胃酸過多がある場合は、胃酸分泌を亢進して胃の調子を悪くすることがありますので注意が必要です。

また、基本的には温服しますが、陰寒が極めて強い場合に温服すると吐気を催すことがあり、この場合には冷服します。

当帰四逆湯(とうきしぎゃくとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・細辛・芍薬・大棗・当帰・木通
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温経散寒
  • 適  合:虚証、寒証、手足や下腹部が冷えるもの

桂皮・細辛・芍薬・当帰で血管を拡張して、木通が心を賦活して血流を改善するための処方です。

血行不良は内臓の虚弱に伴うもので、皮膚血管が細くてほとんど見えず、脈も弱い傾向がある者が対象になります。(実証の鬱血に伴う血行不良に対して使用してはいけません)

尿利減少の傾向もありますが、腎機能の低下ではなく、腎血流量の減少によるものです。

冷えによる腹痛で附子剤が使えない場合に重宝する処方です。

ただし、血行不良を起こす体質は内に原因がありますが、体感する冷えは外寒入裏による場合で、産生熱量が少ない内生の寒には適しません。

しもやけに奏効し、慢性頭痛や蟻走感にも有効な場合があります。

効果を高めたい場合は生姜湯と併用するという手法もありますが、派生処方である当帰四逆加呉茱萸生姜湯を選択した方が確実です。

現実には、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を第一選択として、胃酸過多などの要因でそれが使用できないケースに本処方を選ぶことが多いです。

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)

  • 構成生薬:芍薬・川キュウ・沢瀉・当帰・白朮・茯苓
  • 別  名:当芍散
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:調和肝脾
  • 適  合:虚証、寒証、湿証、鬱血、血色が悪く足腰が冷えて月経障害があるもの

活血作用+利湿作用によって体全体の滞りを解消する処方で、湿が熱を奪ったり気血の巡りを阻害している冷えや鬱血がある場合に使用します。

もう少し具体的に言いますと、貧血や女性ホルモン不足などの血に不調がある者、または生殖器や泌尿器に不調がある者が、冷えや尿利異常を起こし、時に腹痛を伴う場合に使用します。

キュウ帰剤ですので、鬱血は静脈系である場合に適合し、動脈系や毛細血管の不調による場合は適合しません。

胃腸系の不調に伴う腹痛には効果がありませんし、胃腸に疾患を抱える者には適合しない場合が多いです。(白朮芍薬散の代用として、過敏性腸症候群に使用するとの文献がありますが、あえて選択する処方ではないように思います)

虚証なので紛らわしい場合がありますが、血行不良は虚血ではなく鬱血による場合のみが適合で、この点だけはしっかりと確認しておく必要があります。(虚血には四物湯系の適合です)

元は、婦人・妊婦の専用薬として創作されたもので、圧倒的に女性に使用するケースが多く、妊娠子宮を安定させる作用もあるので妊娠中でも使用します。

脳下垂体に作用して卵巣の機能を改善し、黄体機能不全を回復させる効果がありますので、不妊症の漢方療法においては、必ず最初に考慮される処方です。

最近は、晩婚化による卵子の機能低下・冷房による強い冷え・過度のダイエットなどによって難治性の不妊症も増えていますが、本処方が有効であったという報告も少なからずあります。

婦人科系疾患以外では、脳の側坐核におけるドパミン・セロトニンの代謝を抑制する作用から、軽度のパーキンソン症候群やうつ病の治療にも使われるケースがあります。

また、鼻粘膜の充血を解消する湿証の駆鬱血剤として、小青竜湯などと併用してアレルギー性鼻炎の改善効果を高めます。

他には、鬱血という証以外で共通点がないのですが、桃核承気湯と併用することで、静脈の鬱血を去って動脈流を良くして耳鳴りを治療するという使い方もあるようです。

若い女性の婦人科系疾患において、虚証・鬱血・湿証があれば必ず候補に入る処方ですし、湿証の駆鬱血剤として活躍する分野も広い処方です。

当帰湯(とうきとう)

  • 構成生薬:黄耆・乾姜・甘草・桂皮・厚朴・山椒・芍薬・当帰・人参・半夏
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、寒証、血虚、みぞおちから胸中にかけて突き上げるような痛みがあるもの

寒や血虚に起因して、中焦に気や湿が停滞して痛みを発する場合に使用する処方です。

温裏作用がメインですが、黄耆や人参などによる理気作用も重要です。

機能の低下によって、胸部から上腹部にかけて発作性の強い痛みや痞え、および圧迫感などがあり、冷えによって症状が増悪する傾向がある場合に適します。

大建中湯の変方で、腹部での適応は類似しますが、慢性に推移している場合は本処方が適合することが多いです。

昔は狭心症発作に伴う痛みに使用されていたようですが、ニトロ系薬のように速効の冠拡張作用はありませんので、頓服使用してもあまり意味がありません。

冷えると痛みが増す肋間神経痛にも使用されます。

寒の影響が強い場合は附子を加味すると効果アップしますが、元から熱性刺激薬が配合されていますので、炎症性疾患や発熱性疾患には過剰な刺激となってしまう場合がありますので注意が必要です。

軽い胸部痛を反復する者の予防や、慢性的な発作性腹痛には適した処方です。

当帰貝母苦参丸(とうきばいもくじんがん)

  • 構成生薬:苦参・当帰・貝母
  • 別  名:帰母苦参丸
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱去湿
  • 適  合:間証、熱証、血虚、妊娠中に尿が出にくいもの

オ熱を処理する苦参が主薬で、湿を捌く作用のある生薬は配合されていません。

腎の機能不全などは起こしておらず、炎症性あるいは一時的な不調に対して、それを元に戻すことで二次的に排尿させる処方です。

つまり、腎の炎症による熱を鎮めて、自然に排尿できるようにする処方です。

軽い膀胱炎様症状が対象で、尿の混濁まで至っている状況にはとても対応できません。

五淋散も妊娠中に服用が可能な処方であり、もっと効果に優れますので、本処方を選択するケースはほとんどないと思います。

当帰養血膏(とうきようけつこう)

  • 構成生薬:阿膠・黄耆・甘草・地黄・芍薬・川キュウ・当帰・党参・茯苓
  • 別  名:婦人宝
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補血
  • 適  合:寒証、血虚

補血・活血の当帰を主体とした処方で、地黄は滋陰・補腎・補血に、芍薬は和営・止痛に、川キュウは活血化オに、阿膠は補血・補陰・止血で当帰の働きをサポートします。

黄耆・甘草・党参・茯苓には健脾益気の作用があり、気血両虚による諸症状を緩和・治療します。

具体的には、更年期障害に伴う諸症状や貧血・不妊症などに使用します。

本処方は温める作用が強いので、冷え症そのものや冷えに起因する症状にも優れた効果があります。(熱に伴う症状には適しません)

当帰芍薬散と似た方位ですが、当帰の配合量は本処方の方が遥かに多いので補血目的であれば本方を選びます。

ただし、利湿作用は弱いので、むくみがある場合は当帰芍薬散を選択します。

独活葛根湯(どっかつかっこんとう)

  • 構成生薬:葛根・甘草・桂皮・地黄・芍薬・生姜・大棗・独活・麻黄
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:実証、寒証、突然に四肢が動かし難くなるもの

葛根湯に、去風寒湿の独活と補血滋潤の地黄を加味した構成です。

葛根湯も肩こりに使用されますが、より適応を特化した処方で、頸肩腕症候群や胸郭出口症候群には優先して使用します。

寒および湿によって血行が悪くなって起こる痛みや凝りに適し、項から背中にかけての凝りで、肩は固く冷えや湿気で増悪する場合に最適です。

みぞおちに痞えがあって肩こりを伴う場合は、葛根黄連黄ゴン湯を検討します。

なお、頸筋から肩にかけての横方向の凝りで、ストレスで悪化する場合は柴胡剤、昼間よりも夜に凝りが強くなって揉むと痛みが増す場合は、駆鬱血剤の適応です。

傷寒に使用するわけではありませんので、無汗などの葛根湯証にあまりこだわる必要はありませんが、胃弱には適しません。

地黄による滋潤作用によって、実・虚や熱・寒が緩和され、長期使用も可能になっていますので、五十肩へは最初に検討する処方です。

また、痛みや凝りではなく、上腕が重だるくなって動かし難く感じるものにも使用します。

独活寄生丸(どっかつきせいがん)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・牛膝・細辛・地黄・芍薬・生姜・秦キュウ・川キュウ・桑寄生・当帰・党参・杜仲・独活・茯苓・防風
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:去風勝湿
  • 適  合:虚証、寒証、湿証、気虚、血虚

疎経活血湯の通経絡に補肝腎の作用を加えたような処方で、疎経活血湯+十全大補湯の薬性を持っています。

気血不足から筋骨の防御力が低下して、寒や湿が入り込むことで痛みや痺れを起こしている状態を回復させます。

虚弱者の寒湿痺が対象で、雨天の前日あるいは当日に症状が強くなる場合や、冷えると症状が強くなる場合に適します。

温性の生薬を多数配合していますが、附子や乾姜などの強く温める生薬はなく、冷え性を改善する程の力はありません。

風寒湿ではなく、風寒によって下半身の痛みや痺れを起こしている場合には、五積散を検討します。

腎虚あるいは肝腎虚に対応する薬味を含みますので、高齢者の腰背痛に第一選択となりますが、高齢者でなくても、膝や腰に負担のかかる職業の人や冷所・水回りでの仕事の人にも使用します。

筋の不調は曲げられるけれども伸ばせない・骨の不調は伸ばせるけれども曲げられない傾向があり、本処方は双方に対応していますので、関節の屈伸に支障がある場合には試用する価値があります。

また、本方は骨格を強くする作用がありますので、高齢で腰が曲がる者には、腹筋の力を回復させる小建中湯と併用することで対応します。

筋の緊張が強い場合は芍薬甘草湯を、陽虚が強い場合は桂枝加朮附湯を、関節に水が溜まっている場合はヨクイニンを併用します。

人参湯と併用すると、苓姜朮甘湯の薬性も加わることになり、寒に対応する力が増します。

治せるわけではありませんが、脊柱管狭窄症の症状緩和にも効果が期待できます。

地黄剤ですので、長期服用では、脾虚が強い人には六君子湯などのサポートが必要な場合があります。

出産後に子宮が空虚となり、それに乗じて寒湿邪が侵入して起こる腰痛・脚痛や足の脱力感にも有効です。

適応分野は広いのですが、冷やすと気持ちが良い炎症性の熱がある場合には適合しません。

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