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漢方をもっと身近に

西洋薬と東洋薬のハイブリットにより、
より効果的で安全な治療を。

麻黄湯(まおうとう)

  • 構成生薬:甘草・杏仁・桂皮・麻黄
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:実証、寒証、表実証、発汗しないために病邪が開散せずに苦しむもの

麻黄+桂皮の発汗散寒と、麻黄+杏仁の止咳定喘を目的とした処方で、甘草は薬味の調整と抗炎症の役割を果たします。

去風作用(抗アレルギー作用)は大青竜湯と葛根湯の中間くらいに位置し、漢方処方の中でも最強ランクに入ります。

表の実が強く、悪寒があって発熱するも発汗しないために、表での闘病症状が強く続く場合に適応となる処方です。

普通の風邪程度に使うことは少なく、インフルエンザや喘息などの症状が強い場合に使用を検討します。

タミフルなどのインフルエンザ治療薬が登場する前には、この処方がよく使われました。(今でも、漢方を好む人は服用されますが、もっと適合範囲の広い柴葛解肌湯を使用するケースの方が多いです)

温病や表虚証に使用すると、発汗過多によって虚脱を起こす場合があります。

また、虚証では動悸・血圧上昇・胸焼け・不眠などを起こしやすいので使用しません。

薬力をマイルドにしたい場合は、桂枝湯と併用します。(半量ずつの併用で桂麻各半湯、桂枝湯2/3+麻黄湯1/3で桂枝二麻黄一湯になります)

小児は麻黄剤に比較的強いので、成人よりも適合する場合が多いかもしれません。

夜尿症や寝ぼけの治療に使用されますし、喘息発作や強い鼻閉に頓服で使用することもあります。(大人の鼻閉には麻黄附子細辛湯を使いますが、小児には附子が適さないので麻黄湯が使われます)

麻黄の主成分であるエフェドリンには、膀胱括約筋を収縮させる作用があり、尿漏れを防ぐことで夜尿症を改善します。(夜尿症は膀胱括約筋とは無関係で起こる場合もあり、原因によって適合する処方が違います)

還魂湯という名の処方は気絶状態を回復させるもので、構成は麻黄湯去桂枝です。

麻黄湯にもこれに類する作用があり、小児の寝ぼけに使用するのは、この応用です。

麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)

  • 構成生薬:細辛・附子・麻黄
  • 別  名:麻黄細辛附子湯
  • 陽陰区分:少陰病
  • 治  方:扶正解表
  • 適  合:実証、寒証、湿証、少陰病で悪寒・発熱するもの

体機能が沈滞している者が最初から少陰を発症する「直中の少陰」に使用する処方です。

構成する生薬は全て温作用のある刺激薬で、怠けた機能にムチを打つように刺激を与えて機能回復させます。

虚証に使用すると、動悸・血圧上昇・胃部不快感や不眠などを起こすことがあり、内臓に持病がある者にも負担となる場合があります。

辛温解表の作用が強いので、陰を損なう場合がありますので、陰虚には注意が必要です。

また、熱証や乾証にも使用しません。

背中全体がゾクゾクするような寒に使用するのですが、寒の原因が外にある場合(外寒入裏)が対象で、陽虚などによる内因の場合(内生の寒)には効果がありません。

ある程度継続して服用する場合は、以上の証判定は重要です。

しかし、シンプルな処方で効果発現が速いために、温作用の増強を目的として他処方と短期的に併用したり、頓服的に使用するケースも多く、その場合はあまり証にこだわりなく使います。(熱証・乾証でないことは絶対条件ですが)

少陰病期のアレルギー症状には第一候補となる処方で、鼻閉に対する改善効果は特に優れていますので、寒が関与していれば少陰病に限らず陽病にも使用します。

悪寒と喉の痛みから始まるタイプの風邪をひきやすい者には、前兆段階から使用します。

治癒するわけではありませんが、冷えると痛みが増す頭痛や三叉神経痛にも有効で、帯状疱疹による痛みの緩和にも効く場合があります。

また、陽虚に風寒が加わったことで起こる肩や肘の関節痛にも有効です。(補陽作用も併せ持つ八味地黄丸も検討します)

外からの寒が増悪要因となっている疾患であれば使用を考慮してもよい処方で、上手く使用すれば治療の幅が広がります。

ただし、附子剤は小児に適しませんので、成人に限ります。

麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)

  • 構成生薬:甘草・杏仁・石膏・麻黄
  • 別  名:麻黄杏仁甘草石膏湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:辛凉解表
  • 適  合:実証、熱証、湿証、口渇や発汗があり咳が出るもの

麻黄湯の桂皮を石膏に変更した構成で、表を温める作用を弱めて不快な熱を冷ます作用を強めた処方です。

太陽病初期の悪寒時期は過ぎ、病邪が裏に侵攻した半表半裏に適応となりますが、柴葛解肌湯よりも裏への侵攻がやや深く、呼吸器症状がメインでありつつ表症状も残存する場合に適します。

呼吸器疾患に限定したものではないのですが、麻黄+杏仁は定喘止咳の組合せで、新薬の咳止め薬に劣らない効果があるために、肺に対して用いられることが多いです。

ただし、熱証・湿証の咳が対象で、寒証や乾証の咳には使いません。

発作時に発汗があったり、夜に咳が強くなる喘息に奏効することが多いですが、夜に症状が強くなる特徴は陰虚でも起こりますので、この一点だけで選択してはいけません。

構成から考えると、咳以外でも、水滞のある者がアレルギー性の疾患を発症した場合に使用できる処方です。

具体的には、かぶれや虫刺され、蕁麻疹や薬疹、指の小関節における発赤疼痛、アトピー性皮膚炎などにも有効です。

特に、強いかぶれや毒性の強い虫に刺された場合は、消炎の塗り薬だけで治療するよりも、併用することで圧倒的に早く治すことができます。

また、血栓溶解の作用がありますので、痔核による腫れ・痛みの緩和や、下肢の血行不良に伴う痛みにも頓用します。(地竜エキスと併用することが多いです)

胃を保護する成分は配合されていませんので、長期に服用する場合や痰飲がある場合は二陳湯と併用し、五虎二陳湯として使用します。

麻杏ヨク甘湯(まきょうよくかんとう)

  • 構成生薬:甘草・杏仁・麻黄・ヨク苡仁
  • 別  名:麻黄杏仁ヨク苡仁甘草湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:間証、寒証、湿証、のぼせ気味で頭皮が乾燥しやすく諸関節が腫脹発赤して痛むもの

麻黄湯の桂皮をヨク苡仁に変更した構成で、風湿が皮膚に留まる状態を発汗によって発散する処方です。

水滞のある者が寒のストレスによって、神経痛などの表部の炎症性疾患を起こしている場合に適しています。

亜急性期に使用するとされる処方ですが、過度に冷やしたことで発症した表部の痛みなどは、時期を問わず使用して奏効します。

寒で痛みが増す帯状疱疹に対しても、痛みの緩和を目的に使用することがあります。

ただし、辛温解表剤ですので、炎症によって患部に熱を帯びている場合は、表の虚実によって適さない場合があります。

また、風湿が深部に侵攻して関節にまで及んでいる場合は、効果が及びませんので、ヨク苡仁湯などを検討します。(虚証で多汗傾向の場合は防已黄耆湯です)

腫脹や疼痛だけでなく、ハトムギの増強タイプとして、皮膚が硬くなるイボやウオノメ、手掌角化症のような強い肌荒れにも使用する処方です。

麻子仁丸(ましにんがん)

  • 構成生薬:枳実・杏仁・厚朴・芍薬・大黄・麻子仁
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:潤下
  • 適  合:間証、燥証、冷えがちで尿が近く便秘するもの

小承気湯に腸を潤す麻子仁・杏仁と、副交感神経を刺激して腸の動きを即す芍薬を加味した構成です。

枳実・厚朴・芍薬が交感神経の緊張による腸の蠕動運動低下を緩和し、麻子仁と杏仁が腸に水分を導いて便を軟らかくし、大黄の刺激で排便を起こします。

適合にある「冷えがちで尿が近い」とは、陰病体質である証で、少陽病薬に分類されていますが太陰病との境界近くに位置する処方です。(明らかに陽病である便秘には、大黄+芒硝の処方の方が適します)

高齢者や虚弱者において、腸の機能が怠けることで起こった便秘が対象になります。

裏部(腸)に燥がありますので便は固くコロコロした兎糞状になり、それが更に便通を悪くすることで便秘は慢性化します。

一時的な発熱性疾患の後に便秘を起こしたケースには有効ですが、表裏ともに燥である場合には腸に移動する水分が十分にありませんので、あまり効果が出ません。(表にも燥がある場合は潤腸湯を検討します))

また、大黄の配合量が多い処方ですので、あまりに虚弱な者には適しません。

腸の機能低下がある場合は、人参湯を検討してください。

兎便の後に軟便となるタイプは、気虚によって胃腸の動きが低下しているので、本処方よりも六君子湯や補中益気湯が適します。

余談になりますが、甘草を加味すると痙攣性便秘にも効果があるとの報告がありますが、エキス剤に甘草を足しても意味がありませんので、煎剤でしか対応できません。

味麦地黄丸(みばくじおうがん)

  • 構成生薬:山茱萸・五味子・山薬・地黄・沢瀉・茯苓・麦門冬・牡丹皮
  • 別  名:八仙長寿丸、麦味地黄丸
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補陰
  • 適  合:虚証、陰虚、腎虚

補腎陰の六味地黄丸に、肺を潤す麦門冬と咳を鎮める五味子を加えた構成です。

腎陰虚による影響で、肺や皮膚に症状が出ている場合が適応になります。

肺症状としては空咳・喘息・息切れなどで、やや慢性に推移して吸気に苦しさ伴うケースに使用します。

皮膚症状では、陰虚によるカサカサ・四肢の火照りなどの燥状態で、痒みを伴うことが多いです。

皮膚に関しては当帰飲子の適応と似ていますが、大きく分けると、当帰飲子は血虚による乾燥掻痒で、本処方は陰虚による乾燥掻痒です。

陰虚が対象ですから、適合者は高齢者に多いですが、若年者でも免疫抑制剤などの使用によって肺に不調を来している場合には使用します。

麻黄剤のように気管支拡張作用はありませんので、速効性はありませんが、腎陰虚に起因する喘息は根本治療になります。

なお、傷津が強い場合は、六味地黄丸と生脈散を併用すると、本処方に生津の人参を加えた構成になり、より効果的です。

間質性肺炎には根本治療とはなりませんが、他に効果的な治療法がありませんので、症状緩和の目的で試行してもよい処方だと思います。

木防已湯(もくぼういとう)

  • 構成生薬:桂皮・石膏・人参・防已
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:実証、熱証、湿証、小便不利でむくみがあって心窩部に強い抵抗と圧痛があるもの

腎臓機能の低下によって水滞が起こり、胸間部のリンパ流が悪くなって、心や肺に急迫性の症状を出している場合に使用する処方です。

実・熱・湿における急性期のみが適応で、臓器が虚した状態に使用すると副作用を出す可能性があります。(心や肺そのものの衰弱による場合は効果がありません)

浮腫に伴う心臓喘息には使用しますが、気管支への拡張作用や消炎作用はありませんので、気管支喘息には使用しません。

心・肺以外では、ネフローゼ症候群や浮腫などの腎疾患にも使用します。

みぞおち部が痞える心下痞硬は柴胡剤・瀉心湯や人参の適合とされる腹証ですが、本処方では心下堅満と呼ばれるもっと強くて範囲の広い抵抗や圧痛があります。(この腹証で虚証という場合は、茯苓杏仁甘草湯が適合となります)

食欲の低下はありませんが、胸部の浮腫によって食べると苦しくなり、量を食べることができないケースが多いです。

症例報告では、冠動脈硬化や潜在性心不全による夜間頻尿に奏効したとの報告があります。

利水作用を増強させる目的で、五苓散と併用する場合があります。

肺水腫に伴う咳が強い場合は、蘇子・桑白皮・生姜を加味した増損木防已湯を使用します。

浮腫性の心疾患や肺疾患に活躍する処方なのですが、鑑別は簡単ではありません。

ヨク苡仁湯(よくいにんとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・当帰・白朮・麻黄・ヨク苡仁
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:去風勝湿
  • 適  合:実~間証、湿証、関節の腫れや痛みが長引いているもの

麻黄加朮湯と麻杏ヨク甘湯を合剤にし、杏仁を去って芍薬・当帰を加味した構成で、源となっている処方の増強バージョンです。

関節の痛みや腫れが慢性となっており、附子剤でも効果がない場合に使用します。(桂枝加芍薬知母湯の一段階前といったイメージです)

水滞にストレスが加わって発症した関節の炎症性疾患で、長引いたことで血燥も併発しているものが対象となります。

急性期には水毒+血燥に至ることはありませんので、初期に使用する処方ではありません。

麻黄剤なので、心・胃の弱い者や汗かき体質の者には、原則として使用しない処方です。

血行促進の作用を持つ桂皮・当帰が配合されていますが、利水の効果を高めるために配合されたもので、血行不良を対象に用いることはありません。

石膏を加味すると続命湯に類する構成になり、範囲が広い関節炎症に対応できるとされますが、刻み生薬を煎じる場合の手法です。

エキス剤の場合は、石膏を加味しても無意味で、地竜エキスを併用した方が効力アップを期待できます。

なお、一般的ではありませんが、芍薬・瓜子・桃仁・牡丹皮・ヨク苡仁から成る、同名の処方が存在します。(こちらは駆鬱血剤です)

抑肝散(よくかんさん)

  • 構成生薬:甘草・柴胡・川キュウ・釣藤鈎・当帰・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:平熄内風
  • 適  合:間証、脾気虚、虚弱で神経過敏がある者がストレスによって発熱・興奮・痙攣などを起こすもの

歴史的には、小児の疳の虫を治療するために創作された処方で、小児のてんかん発作にもよく使われました。

源方には芍薬が配合されており(今日で言う抑肝散加芍薬)、神経症状が強い場合は黄連を、筋緊張が強い場合は厚朴を加味するとされていますが、エキス剤でこのような対応は不可能です。

現代では小児よりも成人に使うことが多く、特に興奮気味の症状が多い認知症に対してよく使用されます。

肝火上炎や肝陽化風と呼ばれる証で、感情が不安定で興奮しやすく怒りっぽい傾向がある神経疾患に使用します。

頭に血がのぼると表現するようなのぼせ症状には対応できません。(肝によるのぼせは加味逍遥散、心によるのぼせは三黄瀉心湯を検討します)

肝火上炎のみであれば柴胡加竜骨牡蠣湯などの柴胡剤が適応になるのですが、元に脾気虚がある場合は肝火を抑えることができずに感情変動が大きくなりますので、本処方を選択します。(本処方にも柴胡を配合していますが、主薬は釣藤鈎であり柴胡剤には分類されません)

睡眠障害にも有効で、脾気虚による入眠障害と肝火上炎による途中覚醒が両方あって、寝つきが悪く・寝ても浅い睡眠で悪い夢をよく見るタイプに適します。

また、夜間の歯ぎしりやこむら返り等の部分的な筋肉の緊張は、肝火によって起こることが多く、本処方が奏効することが少なくありません。

こむら返りには芍薬甘草湯を使用することが多いですが、夜間に限って起こる場合は本処方の方が適します。

特殊な例では、眼精疲労などのストレスによって起こる頭痛や、肝鬱の軽減で尿路結石の排出を促進する場合にも使用されます。

肝火の影響で胃に負担が及び、吐気や腹部膨満などの胃症状を併発する場合は、抑肝散加陳皮半夏を選択します。

抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

  • 構成生薬:甘草・柴胡・川キュウ・釣藤鈎・陳皮・当帰・半夏・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:平熄内風
  • 適  合:間~虚証、脾気虚、神経が昂りイライラして怒りっぽいもの

抑肝散に理気健脾の陳皮と燥湿和胃の半夏を加味した構成で、脾気虚に対す効果を高めています。

抑肝散と適応は同じですが、胃内停水や腹部の動悸などの胃症状がある場合は本処方を選択します。

抑肝散は興奮に対して使用するイメージで、本処方も興奮しやすい者に使用するのですが、気虚によって元気がない感じがする場合にも適応となります。

外部からのストレスによる過剰緊張によって、神経症状を出す者に適した処方です。

不都合な事の原因を外部に求めるタイプに適合し、何でも自分の責任にする取り越し苦労タイプには不向きとされます。(後者には温胆湯を検討します)

抑肝散よりもやや虚でも使用でき、健胃効果が悪い影響をもたらすことはないので、実質的には本処方を選択する場合の方が多いです。(陰液が不足している場合には注意が必要です)

左腹部の拍動が特徴とされますが、柴胡加竜骨牡蠣湯や柴胡桂枝乾姜湯でも似たような拍動を伴うことが多く、これのみで確定はできません。

腹部に緊張がない場合は、本処方の適応ではありませんので、釣藤散などを検討します。

肝気鬱+脾虚で胃腸症状が主である場合は、柴芍六君子湯を検討します。

六君子湯(りっくんしとう)

  • 構成生薬:甘草・生姜・大棗・陳皮・人参・半夏・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:理気
  • 適  合:虚証、気虚、湿証、顔色が悪く食欲が無いかあっても食べられないもの

脾虚に使用する四君子湯と、痰飲に使用する二陳湯を合体させたもので、胃腸の動きが低下して水が溜まったように感じる状態を回復させる処方です。

代表的な理気剤で、ストレスによって胃の機能が低下する者に適しています。

胃酸過多のような機能亢進タイプには不適ですが、機能低下タイプであれば、原因を問わずに使用しても全く無効というケースはほとんどありません。

少陽病薬なのですが、少陰病において真武湯や四逆湯の薬力に耐えられない程に胃腸機能が低下している場合に、本処方が奏効することがあります。

胃腸疾患に対するカバー域が広く、非常に重宝する処方です。

胃腸疾患だけでなく、脾虚による心配性や眠りが浅い場合にも有効で、理気剤として他領域の疾患にも使用します。(ただし、湿の関与がない場合は四君子湯の方が適しています)

派生処方もあり、胸脇部の圧迫感や腹痛がある場合は柴芍六君子湯、みぞおちの痞えと鬱気分が強い場合は香砂六君子湯を選択します。

派生処方ではありませんが、補中益気湯も四君子湯を源とする類似処方で、肝の不調があって倦怠感が強い場合はこちらを検討します。

竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・山梔子・地黄・車前子・沢瀉・当帰・木通・竜胆
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱解毒
  • 適  合:実証、熱証、湿証、皮膚が浅黒く手足に発汗があって尿路系の異常があるもの

竜胆・甘草・山梔子・黄ゴンで肝の解毒機能を高め、車前子・沢瀉で尿利を良くし、木通・当帰・地黄で肝や下焦の鬱血を除く構成です。

五淋散の清熱作用を強化し、発散解表を加味したような処方ですが、利湿の作用は強くありません。

急性~亜急性の下焦部炎症によって湿熱を生じ、肝の負担が増大して解毒機能が十分に発揮できない状態に使用する処方です。

具体的には、尿路や陰部の炎症性疾患において随伴症状が強い場合で、痛みを伴う尿道炎・膀胱炎や尿路結石などが対象になります。

帯下を伴う子宮内膜症には第一選択となる処方ですし、膣カンジダ症で痒みが強い場合の症状緩和にも使用します。

下焦の炎症によって便秘傾向になることもありますが、二次的な症状ですので便秘を対象に使用することはありません。

骨盤内の炎症によって尿路系に異常を来すこともあり、虚実が類似して便秘傾向が強い場合は大黄牡丹皮湯も念頭に入れておく必要があります。

本処方の選択条件は湿熱と肝火で、肝の高ぶりでよく見られる上気や神経質な傾向は顕著ではありませんので、判別に注意が必要です。

虚証には使用しませんし、実証においても長期連用する処方ではありません。


同名で構成の違う処方がいくつかあり、中医学では柴胡と芍薬が加わります。

最も有名なのは温清飲から派生した一貫堂の処方で、成人の解毒体質(炎症や化膿を起こしやすい体質)を改善する目的で汎用されます。

ちなみに構成は、黄ゴン・黄柏・黄連・甘草・山梔子・地黄・芍薬・車前子・川キュウ・沢瀉・当帰・薄荷・防風・木通・竜胆・連翹です。

こちらは実証に限らず使用しますし、下焦の疾患に限らず、アルコール性肝炎やストレス性肝炎などにも使用します。

同名で保険適応疾患も同じですが、構成や適合が違う処方が併存していますので、間違えないようにしてください。

苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)

  • 構成生薬:乾姜・甘草・杏仁・五味子・細辛・半夏・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温化寒痰
  • 適  合:虚証、寒証、湿証、疲れやすく顔色が悪い者で咳の力が弱くて薄い痰や鼻水が出るもの

脾陽虚によって痰飲が生じ、肺に停滞することで喘鳴・咳・呼吸困難などを起こしている場合に使用する処方です。

痰飲が表の方へ溢れて、血虚性のむくみを誘発する場合もあります。

小青竜湯の構成生薬を胃弱者向けに変更したもので、適応は類似しています。(下焦の湿に咳が加わった時に使用する腎著湯:苓姜朮甘湯加杏仁が源処方とも考えられます)

小青竜湯の裏処方とも呼ばれ、甘草に注意すれば妊娠中でも使用が可能です。

鼻風邪や花粉症などで、麻黄剤が心や胃に負担となる場合や、足の冷えが強くなる場合に選択することが多い処方です。

虚証・陰病ですので悪寒や発熱などの表症状はほとんど出ません。

むくみがない場合は杏仁は不要なのですが、エキス剤では抜くことができませんので、そのまま使用します。(甘草によるむくみを処理してくれますので、全く無意味というわけではありません)

腎陽虚によって足の冷えや下肢の脱力感が強い場合は、蘇子降気湯も考慮します。

苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)

  • 構成生薬:乾姜・甘草・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温化水湿
  • 適  合:間~虚証、寒証、湿証、胸に軽い動悸と頻尿があり腰が冷えて下半身がむくみ気味のもの

寒湿が下焦に滞留した場合に使用する処方です。

腎の衰弱によって腰から下に冷えや鈍重感があり、希薄な尿を頻回に出す場合が適合します。

腎虚ではないために、口渇や手足の火照りなどの派生症状はありません。(腎虚による場合は、八味地黄丸などの補腎剤を検討します)

湿は中焦にはないため、吐気や食欲不振などの胃腸症状はなく、下焦の湿によって腰が冷えて頻尿になるのが特徴です。

冷えを強く訴える人が多いですが、血の不調による冷えではないので、冷たい部分だけあるいは全身を温めてもあまり意味がありません。

腎の不調による冷えですので、腎臓付近を温めることと、塩分摂取を控えることが効果の一助になります。

腰の冷えだけを見れば五積散の適応と類似していますので、排尿状態を考慮することが大切です。

冬だけ起こる小児の夜尿症にも使用しますし、大人になっても治らない夜尿症には反鼻と併用して使用する場合があります。(尿失禁とは違います)

冷えが強くて痺れにまで至っている場合は附子を併用するとされていますが、エキス剤で対応する場合は真武湯を少し加味します。

苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・大棗・茯苓
  • 別  名:茯苓桂枝甘草大棗湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:温化水湿
  • 適  合:間証、表陽虚、湿証、臍下の動悸が上に突き上げて苦しむもの

奔豚(豚が走り回るように感じる激しい動悸)に対して使用する処方です。

動悸に対して頓用されていた桂枝甘草湯に大棗・茯苓を加味した構成で、継続服用ができるように改編したとも考えられます。

適合者は、不安感が常にあってイライラしやすい傾向で、動悸はヒステリー様のように突発的で、下腹部から喉の方へ突き上げるように感じ、時に失神してしまう程に強い場合もあります。

発汗による表陽虚と、表の水分不足を裏から補充する動きによって上衝が起こるとされていますが、この鑑別は非常に難しいです。

水滞によるのぼせ症状の強いものと見た方が分かりやすく、時として吐気や神経症状を伴う場合もあります。(神経症状を主とする場合は、瀉心湯が適応です)

苓桂朮甘湯と構成が似ており、適合にも類似性がありますが、本処方の方が顔が赤くなる程にのぼせ感が強く、めまい・立ちくらみのような症状は顕著ではありません。

苓桂朮甘湯で効果がない動悸に使用するケースが多いですが、薬効の強い生薬を配合しているわけではありませんので、水滞があって強い動悸を訴える場合は、最初から使用しても問題はありません。

特殊な使用方法ですが、腹直筋の緊張を伴う胃腸疾患において、小建中湯で効果がない場合に本処方が効果を発揮することがあります。

苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・白朮・茯苓
  • 別  名:茯苓桂枝白朮甘草湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:温化水湿
  • 適  合:間証、湿証、心下の水毒が胸に突き上がりのぼせ感があって立ちくらみのあるもの

胃の虚弱から胃内に湿が溜まり、上焦(上半身)に各種ののぼせ症状を呈する場合に使用する処方です。

痰飲(湿の一種)が頭部に突き上がると頭痛・めまい・涙目・耳鳴り等を起こし、胸部を衝くと動悸や咳嗽を起こすので、対応する症状は多岐に及びます。

特にめまい・動悸に対して使用することが多いのですが、水滞に起因している場合でないと効果がありませんので、症状のみで選択してはいけません。(気の不調から同じような症状を呈する場合があります)

上焦ののぼせ+中焦の水滞+下焦の虚が鑑別のポイントで、みぞおち付近を温めると気分が良いという者に適します。

また、精度はあまり高くありませんが、早起き型よりも夜更かし型の生活をしている人の方が適するようです。

本処方が適するめまいは陽証ですので、起立時に感じることが多く、横になっていても感じる陰証のめまいには適しません。(陰証では真武湯や半夏白朮天麻湯を検討します)

普段は元気な人が大量の発汗や嘔吐・下痢の後にめまいを起こした場合には、本処方が第一候補になります。

地竜エキスや黄連解毒湯と併用すると効果が高まりますが、虚証では不調を訴える場合があります。

本処方の証に加えて、下腹部に力がない・手足が火照る傾向がある場合は、腎虚が関係している可能性があり、八味地黄丸などの保腎剤を検討します。

四物湯との合剤が連珠飲で、脳循環障害や眼精疲労・視力低下・飛蚊症などの眼科系疾患に使用します。

また、地黄剤で胃に負担がある人の白内障に、本処方を代替えで使用する場合もあります。

胃の水滞から上半身へ様々な症状を引き起こしている場合に重宝な処方で、腎虚の鑑別さえしっかりしていれば虚実を厳格に区別しなくても使えますし、漢方薬の中でも比較的切れ味が良い処方です。

苓桂味甘湯(りょうけいみかんとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・五味子・茯苓
  • 別  名:茯苓桂皮五味甘草湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:温化寒痰
  • 適  合:虚証、湿証、気逆、手足が冷えて顔が赤くなるもの

古典では、青竜湯の誤用によって、水と気の流れに不調を起こした場合に使用する処方と記されています。

苓桂朮甘湯の白朮を五味子に変更した構成で、のぼせ・頭冒(頭に何かが被さっている感じ)への効果を高め、咳を鎮める作用もあります。

本方の適合者は、むくみ傾向で足が冷え、上気によって顔や唇が赤いという特徴があります。

黄連解毒湯のように頭に熱がこもるとか、桃核承気湯のような鬱血による冷えのぼせとは違い、飲酒した時のような赤ら顔です。(唇はタラコのようです)

気や水は上へ向かうので、気の上衝によってのぼせだけでなく、喉の痞え感や軽度のヒステリー・ノイローゼのような神経症や、滲出性の中耳炎によって耳の閉塞感を起こす場合にも使用します。

梅核気のような喉の痞え感は半夏厚朴湯が第一候補とされますが、足の冷え・のぼせ・むくみがある場合は本方が適します。

耳に水が入ったような閉塞感は本方が第一候補ですが、発熱や痛みを伴う炎症性が強い場合には対応できません。

咳にも有効と述べましたが、喘息や肺炎のような咳には対応できず、風邪の後で咳だけが残る場合や空咳が対象になります。

ただし、大部分は麦門冬湯や竹葉石膏湯が有効ですので、本方は四肢の冷えと動悸があって気の上衝で咳が誘発されている場合に限定して使用します。

おもしろいことに、歯痛にも使用されていたと報告されています。

麗沢通気湯加辛夷(れいたくつうきとうかしんい)

  • 構成生薬:黄耆・葛根・甘草・羌活・山椒・生姜・升麻・辛夷・蒼朮・大棗・独活・白シ・防風・麻黄
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:益気昇陽、去風寒湿
  • 適  合:間証、湿証、寒証、鼻塞が甚だしく嗅覚に障害を起こしているもの

風寒湿を発散する羌活・独活・防風・蒼朮・麻黄・山椒に、鼻塞を通じる辛夷・白シと、脾気虚を回復する黄耆・甘草・生姜・大棗、解表や肺気の上衝に働く葛根・升麻を組み合わせた構成です。

鼻づまりに使用する代表処方である葛根湯加川キュウ辛夷から桂皮・芍薬・川キュウを去り、表虚を回復する玉屏風散と合わせ、白シの加味で鼻塞への効果を高め、さらに解表生薬・温補生薬を追加した処方です。

清熱作用はほとんどありませんので、熱感を伴う蓄膿症に使用する辛夷清肺湯や血熱のある鼻疾患に使用する荊芥連翹湯の代りにはなりませんが、熱証以外の要因による鼻閉に使用することが可能であり、その効果は秀逸です。

単純な鼻閉による嗅覚障害だけでなく、脾胃虚によって気血や肺気が鼻に至らないことによる嗅覚異常にも対応が可能です。

ただし、鼻閉を開通する作用は優れますが、元となる寒湿証を解消する作用は強くありませんので、体質を含めた治癒を望む場合には、真武湯・桂枝加朮附湯・防已黄耆湯あるいは五苓散系の処方と併用した方が良いと思います。

脾虚が顕著な場合には、補中益気湯も候補になるので頭の片隅に置いておきましょう。

その他、鼻茸・鼻血・副鼻腔炎に伴う鼻痛などにも有効で、鼻病に関しては非常に適応が広い処方です。

ヒスタミン遊離抑制作用も確認されており、鼻閉だけでなくくしゃみや水洟が出る花粉症などにも効果が期待できます。

連珠飲(れんじゅいん)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・地黄・芍薬・川キュウ・当帰・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:補血
  • 適  合:虚証、湿証、血虚、貧血傾向で動悸・めまい・息切れを伴うもの

温化水湿の苓桂朮甘湯と補血の四物湯を合わせた構成で、江戸時代の本間棗軒が創作したと言われています。

水の流れが悪くて停滞する水毒と、血の不足による循環不全に対応します。

苓桂朮甘湯証で貧血を伴うケースが対象として考えられますが、地黄によって胃腸に負担を感じる人が少なくありません。

四物湯に理気剤を追加して増強した構成になっていますので、四物湯証に水毒を伴うケースを対象とした方が間違いがありません。

動悸・めまい・息切れ・耳鳴りなどの症状は、血・水どちらの要因でも起こりますので、本方は両方をカバーしている便利な処方です。

古典には「婦人の百病を治す」と記されており、血虚からホルモンバランスに変調をきたすと自律神経にも影響が及びますので、更年期障害にもよく試用されます。

ただし、逍遥散系ほど気への作用は強くなく、イライラ・不眠などの症状がある場合は適しません。

冷えおよびむくみには奏効することが多く、この両者が併発している場合には有望な処方です。(逆に、どちらもない場合は適合ではありません)

多汗や下肢のむくみがある水太りには防已黄耆湯を使用しますが、このように明白な水滞がない水太りに本方が有効な場合があります。

ダイエット目的でなくても、体内の不要水分を掃く効果はありますので、うれしいおまけになることが多いです。

他には、脳血管系の疾患や眼科系の疾患にも使用されます。

適合としては脾虚痰飲証になりますが、眼精疲労・視力低下・涙目をはじめ、他剤ではあまり効果のない飛蚊症に有効な場合があります。

苓桂朮甘湯のエキス剤と四物湯のエキス剤を混合して連珠飲としているケースが散見されますが、本当の連珠飲の薬効とは少し違いますので注意しましょう。

六味地黄丸(ろくみじおうがん)

  • 構成生薬:山茱萸・山薬・地黄・沢瀉・茯苓・牡丹皮
  • 別  名:六味丸、腎気丸、地黄丸
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補陰
  • 適  合:陰虚証、湿証、陰虚による熱が下焦に及んでいるもの

八味地黄丸から温剤の桂皮と附子を除いた処方で、小児の腎虚に使用するために創作された処方のようです。

腎陰虚の代表処方であり、下腹部に力がなく夜間尿が多いことに加えて、不要熱を冷ます力が弱くて夏に虚熱・冬に手足のほてりを感じる者が対象となります。

陰虚による熱が不調の元となっているものを陰虚火動と言い、下半身に症状を引き起こしている場合は本処方が、上半身に症状を引き起こしている場合は滋陰降火湯が適応になります。

主薬である地黄と沢瀉は腎に働きますので、腎の不調に対して使用することが多いですが、山薬・茯苓は脾に山茱萸・牡丹皮は肝に働きますので、中焦までカバーする力を持っています。

血虚によって発熱する場合は、他に付随する症状がなければ、本処方が第一選択となります。

他の使い方としては、脊髄反射が鈍いことによる夜尿症の治療、骨芽細胞の活動期間延長による骨粗鬆症の治療、他剤無効における舌痛症の治療、精子数や精子運動率が低いことによる男性不妊症の治療などがあります。

また、湿熱傷陰のアトピー性皮膚炎においては、黄連解毒湯と併用して奏効するケースが多いです。

傷津が強い場合は、生脈散と併用します。

地黄・牡丹皮は胃腸に負担をかける場合がありますので、胃弱者や下痢気味の者に使用する場合は注意が必要です。

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