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荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・黄柏・黄連・甘草・桔梗・枳実・荊芥・柴胡・山梔子・地黄・芍薬・川キュウ・当帰・薄荷・白シ・防風・連翹
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱解毒
  • 適  合:間証、熱証、血虚、筋肉質で皮膚が浅黒く手足の裏に汗をかきやすいものの化膿性疾患

温清飲に四逆散を加え、さらに解表剤と排膿剤を追加した構成で、慢性あるいは反復性の化膿性疾患に使用する処方です。

柴胡清肝湯と非常に類似した処方で、苦味質で肝亢進による神経過敏・汗かきではないが手足に緊張性の発汗・血虚による皮膚新陳代謝の低下と炎症の繰り返しで皮膚が浅黒くなるなどの共通の特徴があります。

柴胡清肝湯は辛涼解表薬のみから構成されており、主に体幹部に症状が出ている場合に使用しますが、本処方は辛温解表薬も含有されており、食毒の影響が強く頭部や顔部に症状が出ている場合に適します。

鼻や耳における化膿性で慢性・反復性の疾患である、副鼻腔炎や中耳炎が対象になります。

また、ホルモンバランスが不安定な年齢のニキビにも効果的で、十薬と併用すると効力が高まります。(ただし、口周囲のニキビには効果がないと言われています)

症状を抑える目的ではなく、成長期の解毒体質(化膿や炎症を起こしやすい体質)を改善するために使用されることも多い処方です。

(解毒体質の改善には、幼少期は柴胡清肝湯・成人後は竜胆瀉肝湯が第一候補です)

同名で、耳疾患に使用する13味の処方や、鼻疾患に使用する14味の処方があります。(黄柏・黄連は含まれていないので、かなり性質が違います)

桂枝湯(けいしとう)

  • 構成生薬:甘草・桂枝・芍薬・生姜・大棗
  • 別  名:陽旦湯
  • 陽陰区分:太陽病薬
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:間~虚証、寒証、表虚証、汗が出て悪寒・頭痛するもの

傷寒(外からの病因=風によって発症する疾患の総称)論という漢方の教科書に相当する書物において、最初に記載されている処方で、様々な処方の源になっています。

甘草+生姜+大棗は自然治癒力を効果的に発揮させる組合せで、これを基本骨格とし、血流を促進する桂枝と芍薬を加えた構成です。

(甘草が過剰な防御反応を抑制し、生姜が自律神経の乱れを調整し、大棗がホルモン系の乱れを調整します)

風邪と表で闘っている時(ウイルスなどの侵入に対して、皮膚・粘膜の第一防御ラインで抵抗している時)に、非常に優れた効果を発揮します。

悪寒は体温を上げて免疫を賦活するための防御反応で、風邪に抵抗している証でもあります。

このタイミングで服用すると最も効果的で、市販の風邪薬では感じられない気持ちの良い効き目が実感できます。

悪寒を感じる前段階の、皮膚がピリピリ・ゾワゾワすると感じるタイミングであれば、1~2回の服用で風邪症状を出さずに治癒することが可能です。

ただし、表虚証(汗かき体質)に適する処方であり、汗をかきにくい体質の表実証には効果が不足します。

その体質の人であれば、もっと解表作用の強い葛根湯などが候補になります。

汗かきと言いましても、盗汗(寝汗)は陰虚の派生症状である場合が多く、桂枝湯では改善しません。

桂枝湯で改善する汗は表虚によるものですが、この目的で使用するのであれば桂枝加黄耆湯の方が適します。

また、悪寒や発汗があっても頻尿や胸苦しさ等の裏症状を伴う場合は太陽病ではありませんので、解表によって四肢を冷やしてしまうおそれがあり、使用してはいけません。

自然治癒力が十分に発揮できないほどに体力が低下した者には、効果が出ないばかりか、桂枝の作用でのぼせや胸焼けを起こす場合があります。

シナモンティーを飲んで不快な経験をしたことがある人には合いません。

虚がより強い人には香蘇散、寒が強い人には麻黄附子細辛湯を検討します。

症状が少し進み、悪寒が止んで熱を不快に感じるようになると、桂枝湯や葛根湯などの辛温解表薬ではなく、辛凉解表薬の方が適します。

以上より、汗をかきやすい体質で普通の健康状態にある人が、風邪をひいたかなと感じる頃から悪寒を感じる頃に服用すると効果的な処方が桂枝湯です。

漢方で風邪と言えば葛根湯を連想する人が多いですが、適する者が多いのは桂枝湯の方だと思います。

また、強い下剤を使用した後や大いに発汗した後で、気の上衝(のぼせ)が起こった場合にも桂枝湯は使われますが、これは特殊な使い方です。

桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)

  • 構成生薬:黄耆・甘草・桂枝・芍薬・生姜・大棗
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:虚証、表虚証、盗汗あるいは黄汗があるもの

桂枝湯に補気の黄耆を加味した処方で、体表部の衛気が補われることで、桂枝湯が持つ固摂(緩みを引き締める)作用が増強されます。

気虚による発汗を止める作用に優れますが、単なる陰虚や肝熱による盗汗(寝汗)には効果がありません。

また、自汗(体質的な多汗)を抑える効果はありませんので、多汗症であれば玉屏風散を検討します。

汗に関してだけではなく、主に使用されるのは皮膚疾患に対してです。

水泡や黄色希薄の分泌物を伴うような、ジュクジュクとした状態が続く皮膚疾患に適します。

急性・慢性を問わずに使用できますが、化膿したり糜爛にまで至っている場合には効果が及びません。

水イボのようなウイルス性疾患には使用しますが、細菌感染を起こしている場合には禁忌です。

また、炎症があまりに強い状態には、桂枝の血行促進作用が症状を増悪させる場合がありますので注意が必要です。

つまり、悪化するわけではないけれども、いつまでも治りきらないような皮膚疾患が対象となります。

黄耆建中湯と似た特徴ではありますが、桂枝加黄耆湯は陽病に使うのに対して、黄耆建中湯は陰病に使います。

他には、あせも・滲出性中耳炎・蟻走感や、表に湿邪が停滞して起こる黄疸にも使用されます。

荊芥・連翹を加味すると効力が強まるとされますが、エキス剤の場合には加味しても効果はあまり変わりません。

桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)

  • 構成生薬:甘草・杏仁・桂枝・厚朴・芍薬・生姜・大棗
  • 別  名:桂枝加厚朴杏子湯
  • 陽陰区分:太陽・少陽合病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:虚証、表虚証、表症状の残る者が下痢して喘息様症状を呈する状態

桂枝湯に厚朴と杏仁を加味した処方で、桂枝湯の適合に加えて胸苦しさと弱い喘鳴がある場合に使用します。

太陽病において十分な発汗をしない間に下痢が起こり、変証して喘息様症状を発するようになった状態に対応する処方です。

表証が残る初期のみに適合し、本格的な喘息症状に対応する効力はありません。

喘鳴が強い場合は、麻黄附子細辛湯との併用を検討します。

下痢が主である場合は、葛根黄連黄ゴン湯の方が適する場合があります。

表証がある太陽病の状態は長くは続きませんので、本処方にピッタリの状況を見かけることはあまりありません。

むしろ、風邪をひくとすぐに咳や喘息を起こす者の初期用風邪薬として使用する方が多いです。

風邪に対しては桂枝湯と同等の効果を持っていますので、下痢や喘鳴が起こる前に服用することで、進行予防と風邪治療を同時に行うことができます。

ただし、解表+咳に対応するのであれば小青竜湯という選択もあり、明確な表虚があって麻黄剤が使用できないという場合を除けば、本処方を選択するケースはあまりないと思います。

桂枝加芍薬生姜人参湯(けいしかしゃくやくしょうきょうにんじんとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・生姜・大棗・人参
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:虚証、表虚証、寒証

桂枝湯の芍薬・生姜を増量して、人参を加味した構成です。

名前としては桂枝加芍薬湯の派生処方のようなイメージですが、太陰病薬ではなく太陽病薬で、桂枝湯の派生処方です。

汗が出て悪寒・頭痛するという桂枝湯証であって、心下痞・身疼痛・吐気などがある場合に適合します。

ただし、風邪の時に使用するよりも、一時的な体調不良によって起こった神経痛・筋肉痛や腹痛などの痛みに対して使用します。

慢性に推移している状態に効果はありませんので、初期で違和感を覚える程度の軽い時期に使用する処方です。

桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・生姜・大棗・大黄
  • 別  名:桂枝加大黄湯
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:実証、渋り腹で快便がなく腹部が張って腹痛が強いもの

桂枝加芍薬湯に瀉下作用を加えるために大黄を加味した処方です。

桂枝加芍薬湯は虚満と呼ばれる上腹部の張りを対象としていますが、本処方は上腹部に加えて下腹部にも張りがあって便秘傾向がある場合に選択します。

排便の状態は、桂枝加芍薬湯と同じく裏急重後(しぶり腹)が特徴的とされますが、過度に意識する必要はありません。

瀉下作用はそれ程強くありませんので、直腸性や結腸性の便秘に使用しても効果がないケースが多いです。

ストレスが関与する痙攣性便秘には適し、センナなどの刺激性便秘薬で腹痛を起こすけれども排便がないタイプには、試行してみる価値はあります。

特に、過敏性腸症候群の便秘型には第一候補となる処方です。

大黄には清熱作用もありますので、軽度の炎症性胃腸疾患にも使用が可能です。

ただし、あくまでも実証用の処方ですので、虚証には使用しません。

大黄そのものも刺激性の瀉下剤ですので、本処方が適合する場合でも恒常的に使用するのではなく、桂枝加芍薬湯をベースに使用して、排便の状況に合わせて大黄を増減する使用方法が望ましいと思います。

この使い方をするのであれば、本処方は必須ではなく、桂枝加芍薬湯と大黄末があれば対応できます。

桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)

  • 構成生薬:甘草・桂枝・芍薬・生姜・大棗
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、腹満・嘔吐して飲食が胃に収まらずに下痢傾向で時に腹痛するもの

構成は桂枝湯の芍薬を増量したものですが、桂枝湯の派生処方ではなく、芍薬甘草湯より派生した処方と考えられます。

建中湯類の源処方になっており、虚証太陰病の代表薬の一つです。

内臓平滑筋の痙縮に関連した疾患で、上衝の症状も併存している場合が主な適応です。

脾虚肝乗(脾虚があるところに肝気が脾気を乱すことで腹痛を誘発)が典型で、ストレスや疲労などの些細な原因で間欠的にひきつれるように痛むものに奏効します。

炎症が著しく強い場合や胃酸過多には適しませんが、腹痛を伴う急性胃炎に対しては、細かなことを気にせずに使用しても奏効するケースが多いです。

虚満と呼ばれる上腹部の張りが特徴的な症状とされ、便秘に伴って腹部が張る実満には使用しません。

下痢で排便後も便意を催すしぶり腹(裏急重後)には第一選択薬とされます。

明確な裏急重後でなくても、排便量が少なくて残便感が気になる状態に使用しても効果があります。

下痢に対して使用することが多いですが、自律神経を整える作用がありますので、副交感神経の不調で起こる過敏性腸症候群には便秘であっても使用します。(便秘が強い場合は、大黄を加味します)

下剤や下痢止め薬を服用してから腹痛を起こすようになった場合も、効果を発揮する処方です。

自律神経の調整作用は腹部以外にも働きますので、桂枝加竜骨牡蠣湯よりも穏やかではありますが、軽いうつ症状にも有効です。

腹痛が強い場合は芍薬甘草湯と、食欲不振を伴う場合は六君子湯と合わせて使用することがあります。

また、小柴胡湯と合わせると柴胡桂枝湯加芍薬となり、てんかんの治療に使用されます。

他には、紅参を加味すると、クローン病や潰瘍性大腸炎の症状緩和や予防に効果的との報告があります。

桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・生姜・大棗・白朮・附子
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表、去風勝湿
  • 適  合:虚証、表証、寒証、湿証、足が冷えて発汗傾向がある者の関節や神経の痛み

桂枝湯を鎮痛用に改変した処方で、朮と附子を加えることで湿と寒に対する作用を強めたものです。

歴史的には、桂枝加附子湯(桂枝湯証の人に麻黄剤などの強い発汗剤を使用したことで起こった壊病の対応処方)に朮を加えて作られました。

表証が残った状態で陰証と陽証が併発している場合が適応なのですが、あまり難しく考えずに、明確な陽実および陰虚でなければ使用することができます。

ただし、桂皮によってのぼせ・胃痛・胸焼け等を起こす人がたまにいますので、そちらの適合には注意しておいた方がよいかもしれません。

寒や湿で症状が悪化する関節痛・神経痛に使用することが多く、特に、天候が悪化する前日に症状が強くなる人の関節痛には効果的です。

また、悪寒や関節痛が強い虚証の風邪にも使用できます。

知覚麻痺や蟻走感などの表部の知覚違和にも使用します。

冷えは外寒入裏(外部の冷えが体を冷やす)による場合を適応とし、内生の寒(熱の産生が少なく冷える)では桂皮の散作用によって効果が出ない場合があります。

発赤を伴うような熱証の痛みには使用しません。(このケースには越婢加朮湯を検討します)

アルドースリダクターゼ阻害作用やソルビトール蓄積阻害作用が報告されており、糖尿病に起因する神経痛や感覚障害にも効果が期待できます。

胃内停水や尿利減少などの水滞症状が強い場合は、茯苓を加味した桂枝加苓朮附湯を使用します。

桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・生姜・大棗・牡蛎・竜骨
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:渋精止遺
  • 適  合:虚証、表虚証、気虚、のぼせて汗が出やすく不眠やイライラなどの神経症状があるもの

桂枝湯に鎮静のために竜骨と牡蛎を加えた処方で、虚証の神経衰弱症の初期に使用します。

陰陽双補・固精・補腎安神の作用を持ち、陰陽両虚・心腎不交を改善します。

特に適合するのは、神経の虚弱・過労によって泌尿器・生殖器・腸(下焦三臓器)が過敏・衰弱状態になっているケースです。

逆に、下焦に症状が出ていない場合は、芍薬を含まない桂皮甘草竜骨牡蛎湯が第一候補になります。(ただし、桂皮甘草竜骨牡蛎湯にはエキス剤がありませんので、本処方で代用することになります)

腹部症状を伴う自律神経失調症には第一選択となる処方で、地竜を併用すると効力がアップします。

本処方+地竜には勃起不全に対する効果もあり、バイアグラに匹敵するとの報告もあるようです。

勃起不全ではなくても、下焦に対する作用から性的な神経衰弱には第一候補となります。

神経系の作用以外としては、火傷に使用する救逆湯は、本処方の芍薬を蜀漆に代えた構成で、危急の時は本処方で代用します。

桂枝五物湯湯(けいしごもつとう)

  • 構成生薬:黄ゴン・桔梗・桂皮・地黄・茯苓
  • 別  名:桂枝桔梗湯
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:滋陰清熱・涼血降火
  • 適  合:間証、口中の疼痛とただれがあるもの

桂枝・茯苓が上逆した気を下すとともに浮腫を除き、黄ゴン・地黄がオ熱解消と止血に、桔梗が排膿に働きます。

全体として上部の熱を鎮め、口腔内の炎症を改善します。

口内炎・歯肉炎・歯槽膿漏だけでなく、歯の痛みや舌が荒れて痛む場合にも有効です。

局所に発生した口内炎は外用薬で対応した方が早く、本方が適するのは広範囲に及んで痛みや熱感が強い場合です。

甘露飲と似たような適応ですが、陰虚によって慢性に推移する甘露飲の適応とは異なり、本方は主に急性期に使用します。

愛飲家や入れ歯を常用している人の急性口腔内炎症に対して、第一選択となる処方です。

炎症には血熱が関与していますので、痛みなどは夜に強くなる傾向があり、歯茎から出血するケースも多いです。

また、口腔内の炎症だけでなく、顎下腺や耳下腺のリンパ腫痛・喉頭炎による喉の痛み・副鼻腔炎による鼻の腫痛にも効果があります。

便秘する場合は大黄・裏熱で口渇がある場合は石膏を加味するとされ、エキス剤で対応するには、大黄甘草湯や桔梗石膏を併用します。

常に出血を伴う場合は黄連解毒湯や三黄瀉心湯の併用を検討し、肝脾の熱が上逆して歯痛を強くしている場合は大柴胡湯との併用も考慮します。

なお、本方は地黄剤ですので、胃腸に負担を感じる人がたまにおられます。(この場合は六君子湯などを併用します)

桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・生姜・知母・白朮・附子・防風・麻黄
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:去風勝湿
  • 適  合:虚証、寒証、湿証、鶴膝風で患部に熱感があるもの

桂枝加朮附湯の改方で、大棗を去って、辛温解表の麻黄・防風と清熱の知母を加えた構成です。

適合は桂枝加朮附湯とほぼ同じですが、症状の強い場合に検討します。

寒や湿の影響で関節部に不調を起こし、それを我慢して酷使したことで、熱化から炎症を起こして腫れた状態が適応になります。

患部は炎症によって熱を帯びますが、体質としては寒湿痺なので、全身的な熱証には使用しません。

具体的には、四肢が骨だけのように痩せている者の関節や神経の痛みで、慢性疾患であるリウマチや変形性関節炎などの急性増悪期が該当します。

長期に使用する処方ではなく、温によって痛みが強くならない状態まで症状が緩和してくれば、桂枝加朮附湯や独活寄生丸などに変更を検討します。

虚証を対象としていますので、麻黄が負担となるケースもあり、不調を起こす場合には早めに上記処方に変更します。

桂枝人参湯(けいしにんじんとう)

  • 構成生薬:乾姜・甘草・桂皮・白朮・人参
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、寒証、脾虚、頭痛・発熱・悪寒があって吐いたり下痢するもの

人参湯に解表の桂皮を加味した処方で、表熱裏寒という表に熱症状・裏に寒症状が同時にある場合に使用します。

表裏双解をする処方ですが、基本は人参湯なので、表症状があっても人参湯証でない場合は使用しません。(胃腸機能低下による食欲不振やみぞおちの痞えを確認します)

具体的な適合は、胃や腎の弱い人が体表部で頭痛や発熱などの炎症反応を起こしている場合です。

参蘇飲と似た適合ですが、参蘇飲は陽病の薬であって、表症状から進行して裏にも症状を出すような状態に使用し、本処方は陰病の薬で、元々裏症状がある状態に外風が加わって表症状を併発した場合に使用します。

人参・桂皮ともに胃酸分泌を促進する作用がありますので、胃酸過多のある人には胸焼けを起こす場合があります。

発作時に吐気や下痢を伴う慢性頭痛に奏効することが多い処方です。

桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

  • 構成生薬:桂皮・芍薬・桃仁・茯苓・牡丹皮
  • 別  名:催生丹、奪命丹
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:活血去鬱
  • 適  合:実証、鬱血、のぼせ傾向で臍左下に抵抗と圧痛があるもの

行気活血の代表的処方で、中焦~下焦の臓器における鬱血や、打撲などの外因性の鬱血がある場合に使用する処方です。

構成生薬から見ると、鬱血の原因を腎としている処方ですが、特に限定しなくても子宮などを含む下焦全般の鬱血に適合します。

中焦臓器である腸では、鬱血がある場合だけでなく、下焦部の鬱血によるスチール現象(鬱血部に血が集まり周囲での血流が悪くなる現象)で虚血に陥っている場合にも適合します。

本処方で便通が良くなることが多いですが、鬱血の解消による二次的なものであって、便秘薬として使用できるものではありません。

活血作用そのものは桃核承気湯や通導散の方が強く、症状が長引いている場合や鬱血に伴う便秘が強いケースではそちらを選択することが多いです。

本処方は活血だけでなく利湿や養血の作用を持っている点が特徴になります。

更に理気や健脾の作用も望む場合は、甲字湯を検討します。

生理痛や子宮筋腫に著効を示すことが多いので、婦人科系疾患には当帰芍薬散と並んで汎用される処方です。

ただし、当帰芍薬散は安胎作用があるために妊娠中にも使用される処方ですが、本処方は薬力が強い桃仁・牡丹皮を含みますので、妊娠中や虚証への使用は推奨されません。

のぼせを適合の判別症状の一つにしますが、血熱や湿熱によって起こっている場合には、桂皮の作用で熱証が強くなってしまうことがあります。(このケースには大黄牡丹皮湯や桃核承気湯を検討します)

また、のぼせ+足冷えという上熱下寒が顕著である場合は、温経湯も検討します。

他の使用用途として、打撲の直後に服用すると、内出血や痛みを緩和する効果があります。(この効果は場所を問わずに発揮され、鬱血の初期には他方よりも適しています)

湿証が強い場合は朮を、便秘が強い場合は大黄を、痛みが強い場合は附子を加味すると効力がアップするとされていますが、刻み生薬でしか対応できません。

西洋医学的な検証では、間脳下垂体の活性化によって卵巣の機能を改善し、黄体機能不全を治す作用が報告されています。

また、中性脂肪値(TG値)を優位に低下させる効果も確認されています。(総コレステロール値においては、低下の報告と不変の報告があります)

桂枝茯苓丸加ヨク苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)

  • 構成生薬:経皮・芍薬・桃仁・茯苓・牡丹皮・ヨク苡仁
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:活血去鬱
  • 適  合:実証、鬱血、鬱血しやすい者の肌荒れやニキビ

鬱血証の代表処方である桂枝茯苓丸にヨク苡仁を加味した構成で、鬱血に水滞が絡む場合に使用します。

肌荒れは鬱血より生じることが多いので、桂枝茯苓丸の単味でも効果がありますが、排膿消腫やイボ退縮に有効なヨク苡仁が加味されていることで、ニキビやしみなどを含む皮膚疾患への作用が増強されています。

脂漏性湿疹・毛孔性苔癬・扁平苔癬にも有効で、これら疾患には第一候補になります。

ヨク苡仁には筋弛緩作用もありますので、腹痛・生理痛や肩こりなどへの効果もアップします。

子宮筋腫には桂枝茯苓丸が汎用されますが、本処方の方がより効果的です。

ヨク苡仁が加わっていることによるマイナスはほとんどありませんので、本処方を代替えに使用しても大丈夫です。(保険適応では対象となる適応症が異なりますので、代替えに使用できない場合もあります)

当然ながら、虚証や虚血などの桂枝茯苓丸に適合しないケースには使用することができません

荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)

  • 構成生薬:甘草・桔梗・枳実・羌活・金銀花・荊芥・柴胡・生姜・前胡・川キュウ・独活・人参・茯苓・防風・連翹
  • 陽陰区分:太陽少陽合病
  • 治  方:扶正解表
  • 適  合:実~間証、熱証、皮膚疾患の初期で悪寒発熱して時に頭痛するもの

炎症性疾患の初期に使用する人参排毒散を皮膚専用薬に改変した処方で、十味敗毒湯の源処方にもなっています。

おできなどの化膿性皮膚疾患の初期に使用しますが、粘膜などの浅い部位であれば化膿が成立した場合でも使用することができます。

乳腺炎の初期やガングリオン(脂肪瘤)による炎症にも効果的です。

深部の化膿には、排膿作用を増強するために芍薬を加味しますが、エキス剤での対応は難しいので他方を検討します。

十味敗毒湯よりも解表・清熱作用は強く、患部に熱を帯びて赤く腫れている場合には本方が有効です。

腫れ物が上半身にある場合は食後服用、下半身にある場合は食前服用が効果的と記されていますが、その理由は不明です。(胃熱による影響を考慮したものかもしれません)

アレルギー性の皮膚疾患においても、炎症が強くて化膿しやすい場合に使用します。

また、銀翹散に似た化痰止咳の作用を持っていますので、呼吸器症状を伴う風邪の初期にも有効です。

特に、化膿前の扁桃腺炎には著効があります。

エキス剤においては、少し構成生薬が違うものがありますが、性質は同じです。

桂麻各半湯(けいまかくはんとう)

  • 構成生薬:甘草・杏仁・桂皮・芍薬・生姜・大棗・麻黄
  • 別  名:桂枝麻黄各半湯
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:間証、寒証、表証

名前が示すとおり、虚証太陽病薬の桂枝湯と実証太陽病薬の麻黄湯を半量ずつの合剤にした処方です。

桂枝湯で薬力が足らずに軽快しない場合に使用する処方で、麻黄湯の作用を緩和にしたいという発想では使いませんので、桂枝湯加杏仁麻黄と考えた方がよいかもしれません。

解表力としては葛根湯に近いレベルですが、筋肉や節々に対する作用は弱く、皮膚に対しては強い傾向があります。

元が桂枝湯・麻黄湯ですから、風邪・扁桃炎・気管支炎などの呼吸器疾患に使用しますが、急性の蕁麻疹や湿疹にも奏効しますので、皮膚疾患にも有用な処方です。

突発性のかぶれや毒性の強い虫刺されには最初に検討しても良い程の処方です。

ただし、患部に熱を帯びている場合には適合しません。(熱証であれば麻杏甘石湯が第一候補です)

また、あくまでも太陽病の処方ですので、陽明病の症状である便秘や少陽病の症状である吐気がある場合には使用しません。

配合の割合を変えた変方として、桂枝湯に近い桂二麻一湯や、麻黄湯に近い桂一麻二湯などがあります。

堅中湯(けんちゅうとう)

  • 構成生薬:乾姜・甘草・桂皮・芍薬・大棗・半夏・茯苓
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、寒証、湿証

桂枝加芍薬湯と小半夏加茯苓湯を合体させ、温作用を増すために生姜を乾姜に変更した構成です。

桂枝加芍薬湯で治療すべき状態を放置して、炎症ではなく機能低下によって支飲(痰飲・胃内停水)を併発した場合に使用する処方とされています。

名前が示すとおり、中(腹部)が堅い状態に使用する処方で、虚証の寒証ですから虚満であって、便秘に伴う実満には使用しません。

具体的には、冷え性体質で慢性的な腹痛があって、腹直筋の緊張と胃内停水がある場合が適合になります。

芍薬の量は桂枝加芍薬湯より減じてありますので、腹痛に対する効果はやや弱く、痰飲の処理を優先させている処方です。

炎症性の胃腸疾患や胃酸過多のある者に使用すると、悪化させてしまう場合があるので注意が必要です。

甲字湯(こうじとう)

  • 構成生薬:甘草・桂皮・芍薬・生姜・桃仁・牡丹皮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:活血去鬱
  • 適  合:実証、鬱血

江戸時代に、戦の前線で使うことを考えて創作された約束処方の一つです。

戦場における精神的不調に使用すると記録されており、主にストレスから鬱血や鬱気を起こした場合に使用するものと考えられます。

構成は、桂枝茯苓丸に甘草・生姜を加味したもので、その性質や特徴も非常に似ています。

甘草・生姜ともに胸苦しさを解消するために加味されたものですから、桂枝茯苓丸に理気・健脾の作用を加えたい時に適します。

もう少し具体的に言いますと、桂枝茯苓丸の適応である鬱血があって、胸腹部に苦満を伴う場合や、苦満という程に顕著でなくてもストレスで神経過敏になっている状態です。

元が桂枝茯苓丸ですので婦人科系疾患に使用することが多いですが、痔核や脱肛を伴う痔疾にも使用します。

鬱血による痔核には乙字湯が、気虚からくる脱肛には補中益気湯が本流であって、本処方は両方の要因が絡む場合に選択します。

むくみが強い場合は適しませんが、桂枝茯苓丸の拡張バージョンとして使用できる処方です。

ただし、桂枝茯苓丸と同様に、桃仁・牡丹皮が負担となる場合がありますので、虚証には使用しません。

香砂六君子湯(こうさりっくんしとう)

  • 構成生薬:ジャ香・甘草・香附子・縮砂・生姜・大棗・陳皮・人参・半夏・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:理気
  • 適  合:虚証、気虚、湿証、胃弱で食欲がなくてみぞおちが痞えて疲れやすいものの各種胃腸症状

脾虚痰湿を治す六君子湯に、脾胃の気を巡らせるジャ香・香附子・縮砂を加味した構成で、気滞を改善する効果をアップさせた処方です。

気滞に伴う腹部膨満・もたれ・胃痛などに効果的で、温作用および除湿の作用も増強されていますので、吐気・下痢・胃内停水などの症状に対しても六君子湯よりも優れます。

芳香性健胃薬が理気の重要な役割を担っていますので、錠剤にしたり散剤をオブラートで包んで服用するよりも、香りを感じる服用方法にした方が効果的です。

食後に眠くなる人や、胃腸の動きが悪くてお腹にガスが溜まる人および移動性の腹痛がある人には試行する価値があります。

六鬱湯と似た構成になっており、沈滞性の胃腸症状を伴う鬱病に用いても効果が期待できます。

六君子湯よりもやや高価ではありますが、費用対効果から考えると本方が勝ると思われます。

慢性に推移して、もしも本方でも効果が不十分な場合は、半夏白朮天麻湯を検討します。

香蘇散(こうそさん)

  • 構成生薬:甘草・香附子・生姜・蘇葉・陳皮
  • 陽陰区分:太陽病
  • 治  方:辛温解表
  • 適  合:虚証、気鬱、平素から胃腸が弱く気分が沈みがちなもの

虚弱者が、風(外因)によって表症状や気の乱れを起こしている場合に使用する処方です。

穏やかな理気剤で、気鬱だけでなく気虚にも使用が可能です。

軽度の神経症で、胸部に不快な痞えがあるのを発散させます。

構成生薬は穏和なものばかりで作用は強くなく、実証に使用しても効果は実感できません。

小児の風邪に使用されることが多い処方ですが、気鬱者の風邪初期に使用しても効果があります。

胃腸の働きを整える作用がありますので、桂枝湯でも胃に負担がある者には、本処方が適します。

また、蘇葉には安胎作用がありますので、妊婦の風邪にも使うことができます。

風邪ばかりではなく、蘇葉には魚肉の食中毒を解毒する作用がありますので、その延長として、サバなどの青魚や蟹・海老で起こった蕁麻疹にも使用します。

それ以外の皮膚疾患にはほとんど使用しませんが、他剤無効の蕁麻疹に使用して奏効した報告例が少ないながらあります。

神経性の腹痛に対して、柴胡剤や建中湯で効果がない例に、本処方が有効であったという報告もあります。

特殊な例としては、附子剤や地黄剤を継続服用していると薬煩を起こす場合があり、その状態を解消するために本処方を使用します。

気痛(患部に異常がないのに痛む)には柴胡疎肝湯を使用することが多いのですが、柴胡証でない場合は本処方と地竜エキスを併用します。(正式には烏薬と乾姜を加味して正気天香湯にするのですが、エキス剤では対応できません)

厚朴生姜半夏人参甘草湯(こうぼくしょうきょうはんげにんじんかんぞうとう)

  • 構成生薬:甘草・厚朴・生姜・人参・半夏
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:降気
  • 適  合:虚証、胸腹部が張って吐気がするもの

制吐の基本処方である小半夏湯(生姜・半夏)に、甘草・厚朴・人参を加味した構成です。

吐いたり下したりした後もスッキリせずに、腹部の張りと痛みがあって、吐気がある場合に使用する処方です。

腹部はガスや食物の停滞によって張って苦しく、それによって食欲がなく、食べても吐いてしまうケースに適します。

これは明らかに虚満で、便秘に伴う実満には使用しません。(実満の場合は瀉心湯類の適合です)

元々、胃下垂などの胃腸機能低下のある者において、暑気あたり・食中毒・外科的侵襲などを受けた後に使用することが多いです。

ただ、他の処方でも代替え可能な場合も多く、どうしても本処方でというケースに直面したことはありません。

汎用される処方であれば、構成生薬を並べただけの名ではなく、独自の名称が付けられていたはずですので、重要度はあまり高くない処方だと思われます。

杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)

  • 構成生薬:菊花・枸杞子・山茱萸・山薬・地黄・沢瀉・茯苓・牡丹皮
  • 別  名:杞菊地黄湯
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補陰
  • 適  合:虚証、腎虚、肝腎の疲労で目がかすんだり痛んだりするもの

腎陰虚の代表処方である六味地黄丸に、滋補肝腎・明目の枸杞子と清肝熱・明目の菊花を加えた構成で、肝腎陰虚に使用する処方です。

腎の虚労が肝に影響を及ぼし、肝の同族である眼に症状が出ている状態に対応します。

歴史的には、仮性近視や複視などの小児の眼疾患を対象にしていたようですが、徐々に適応が拡がっていきました。

今では、目の酷使によって視力減退・かすみ目・眼精疲労・ドライアイ・眼の痛みや充血などを起こしている場合や、老人性白内障・飛蚊症に使用します。

ルテインの配合量が多い処方ですので、この成分も眼症状改善に一躍かっているようです。

眼疾患に第一選択される滋腎明目湯と似た性質を持っていますが、本処方はやや滋陰に比重を置いており、抗炎症(清熱)の作用は弱い傾向があります。(清熱を最優先するのであれば、洗肝明目湯を選択します)

本処方は腎虚に眼症状を伴うケースに使用し、腎虚がない場合には効果がありませんので、腎虚の鑑別は重要です。

目だけではなく、六味地黄丸と同様に、排尿障害・むくみ・四肢のほてりにも使用できます。

めまいと言うより頭部のふらつきにも使用しますし、肝陰虚・肝陽上亢による血圧の不安定にも使用します。

古文には、「肝・肺の虚熱に起因する視力減退を治す」とありますが、肺熱の関与が私にはよく分かりません。

五虎湯(ごことう)

  • 構成生薬:甘草・杏仁・石膏・桑白皮・麻黄
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:辛凉解表
  • 適  合:実証、熱証、湿証、口渇・発汗・呼吸困難があって咳が激しいもの

麻杏甘石湯に桑白皮を加味した構成で、鎮咳作用を増強した処方です。

五匹の虎が暴れ回るような激しい咳に対応する処方として命名されたようです。

麻杏甘石湯の適合に順じますが、湿証がやや強く、咳が激しくて喘鳴がある場合に選択します。

顕著な痰がある場合は二陳湯と合わせ、五虎二陳湯として使用します。

実証解表の麻黄剤ですので、虚証には使用しませんし、あまり長期連用もしない方がよい処方です。

症状が落ち着き熱証が改善されれば、小青竜湯加杏仁などに変更を検討した方がよいかもしれません。

成人よりも小児の方が麻黄剤不適合者が少ないので、本処方も成人よりも小児の気管支喘息に使用するケースが多いです。

ただし、本処方は肺熱+痰飲の咳に使用するもので、肺寒+痰飲である場合は苓甘姜味辛夏仁湯の適応です。

柴朴湯などの体質改善処方をベースに使用し、発作時に本処方を頓服的に使用するという使い方もあります。

牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

  • 構成生薬:桂皮・牛膝・山茱萸・山薬・地黄・車前子・沢瀉・茯苓・附子・牡丹皮
  • 別  名:加味腎気丸、済世腎気丸、牛車八味丸
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:補陽
  • 適  合:虚証、陽虚、腎虚、尿の出が悪く時に下半身がむくみ下半身の力が弱いもの

八味地黄丸に牛膝と車前子を加えた構成で、八味地黄丸と同じく腎陽虚に対応した処方であって、下焦症状の強い場合が適合になります。

下肢、特に膝付近に痛みや痺れなどの症状がある場合は、八味地黄丸よりも本処方が適します。

弱いながらアルドース変換酵素阻害作用が確認されており、糖尿病に伴う神経障害にも使用します。

抗コリン様作用によって、副交感神経の過剰興奮による頻尿や過活動性膀胱、および切迫性尿失禁に有効ですし、八味地黄丸と同様に前立腺肥大に伴う排尿障害にも改善効果があります。

蓄尿障害か排尿障害かによって、大部分の薬は一方を改善・一方を悪化させますが、本処方はどちらにも対応が可能です。(ただし、蓄尿障害改善は一時的作用ですし、排尿障害改善は継続服用で発現する作用です)

基本的な使用方法や注意事項は八味地黄丸と同じですが、寒剤の比率が少し多くなっていますので、陽虚が腎以外に及んでいる場合には注意が必要です。

妊婦に適合となる人はいないと思いますが、牛膝には堕胎の作用が報告されていますので、妊娠中には使用しません。

呉茱萸湯(ごしゅゆとう)

  • 構成生薬:呉茱萸・生姜・大棗・人参
  • 陽陰区分:太陰病
  • 治  方:温裏
  • 適  合:虚証、寒証、陽虚、脾虚、嘔吐や下痢をして手足が冷えて悶え苦しむもの

陽虚のある者が脾虚となり、自律神経の乱れから頭痛・立ちくらみ・煩躁などを起こし、二次的に嘔吐する時に使用する処方です。

機能低下の状態に使用する処方であって、機能亢進状態には使用しません。

胃酸過多で胸焼けを起こしやすい体質の者に使用すると、胸焼けが強くなってしまいます。

適応となる吐気は、胃の水滞に寒が加わって起こったもので、胃下垂などの上腹部の膨満が元としてあるケースが多いです。

吐気よりも下痢や四肢厥冷が主である場合は、四逆湯を検討してください。

脾胃虚寒に伴う食欲不振には人参湯を使用することが多いのですが、本処方も温作用が強いので有効です。(冷えると悪化し温めると緩和する胃痛も脾胃虚寒によるもので、効果があります)

慢性頭痛においても、冷えが強くて発作時に吐気を伴う場合に適合します。

緑内障に伴う頭痛や腰椎麻酔後頭痛にも有効との報告がありますが、寒や脾虚などの条件が揃った場合のみと推測されます。

寒は、熱産生が低下する内生の寒であって、外の冷気が体内を冷やす外寒入裏には適合しません。

中焦部の寒によって起こった突発性のしゃっくりにも有効な場合がありますが、肝炎などの疾患によって誘発されるしゃっくりにはあまり効果がありません。(柿蔕湯や橘皮湯を検討します)

呉茱萸には強い苦味と匂いがあり、この味や匂いを著しく不快に感じる者には、適さない場合が多いようです。

五積散(ごしゃくさん)

  • 構成生薬:甘草・桔梗・枳実・桂皮・厚朴・芍薬・生姜・川キュウ・大棗・陳皮・当帰・半夏・白シ・白朮・茯苓・麻黄
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:解表温裏
  • 適  合:虚証、上半身は火照り・下半身は冷えてあちらこちらが痛むもの

五つの病を起こす原因(気・血・痰・風・寒)が、積み重なるように起こっている場合に使用する処方です。

実証では五積の状態になることはないので、虚証の処方です。

構成は複雑で、気毒に対応する枳桔湯、血毒に対応する当芍散、痰毒に対応する二陳湯、風邪に対応する桂枝湯、寒邪に対応する麻黄加朮湯に、食毒に対応する平胃散も加えて合体したものです。

エキス剤における構成はメーカーによって若干違い、ツムラは白朮の代わりに蒼朮を使用し、コタローは枳実ではなく枳殻を使って乾姜・蒼朮も加味し、テイコクは乾姜が加わります。

適応は非常に広いのですが効果の発現は遅く、無効例は少ないけれども著効と呼べる例も少ない処方です。

基本的に貧血傾向があって血流不足から冷えを感じますが、気・風によるのぼせによって上半身(特に頭部)にほてりを感じる場合に適合します。

桃核承気湯の適合である上気による冷えのぼせや、当帰芍薬散の適合である鬱血による冷えとは少し異なりますので、鑑別に注意が必要です。

温めると症状が軽快する神経痛・関節痛や、外風によって下半身が震えるようなケースに適します。

臓腑の中寒は理中湯(人参湯)・経絡の中寒は五積散と言われるくらい寒と関連が深い処方です。

冷えや痛みが強い場合は附子を加味すると効力がアップします。

低体温に起因する高齢者の幅広い不調には、体温を上げる作用によってカバーしますので効果的です。(地竜を加味すると血流が良くなり効力がアップします)

ただし、風寒に起因する症状であれば本処方で良いのですが、風寒湿に起因する下半身の痛みや痺れは独活寄生丸を選択します。

下半身の冷えによる夜間頻尿には単独でも有効ですが、補中益気湯を併用するとなお効果的です。

表裏とも寒湿証で、食べないのに太るという虚証の肥満症や、感冒性胃腸炎・腹痛などにも使用する処方です。

黄体機能不全や低体温による不妊症の治療に使用することもある処方ですが、子宮筋の収縮作用がありますので、妊娠確認後は継続しない方が良いです。

五物解毒湯(ごもつげどくとう)

  • 構成生薬:金銀花・荊芥・十薬・川キュウ・大黄
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:疎風清熱、清熱解毒
  • 適  合:実証、熱証、便秘傾向で皮膚疾患を起こしやすいもの

風熱による皮膚疾患がスッキリと治癒せずに、裏熱を生じて遷延化している状態に使用する処方です。

具体的には、増悪・軽快を繰り返すアトピー性皮膚炎などで、熱邪による影響で患部が暗赤~紫色を呈する例に適します。

熱邪を排出することで効果を発揮しますが、去風作用は弱く、熱邪の産生そのものを抑制することはできませんので、この対応を怠ると根本治療にはなりません。

表裏双方から熱邪を排出する働きがありますので、痒みなどの症状においては、比較的早く効果を実感できます。

ただし、清熱の生薬が多いので寒の著しい者や、表虚および下痢傾向のある者には適しません。(排便の状況によって大黄の量を調節します)

慢性皮膚疾患を体質改善で治療する柴胡清肝湯と、対症療法薬である抗ヒスタミン剤の中間に位置するような処方で、これが利点でもあり欠点でもあります。

去風作用のある処方または体質改善処方と組み合わせて使用することが、効果的な使用方法だと思います。

補足:ドクダミ(十薬)は民間生薬として活用されることが多い成分ですが、漢方処方にはあまり使われてはいません。本処方は十薬を配合している数少ない処方の一つです。

五淋散(ごりんさん)

  • 構成生薬:黄ゴン・甘草・山梔子・芍薬・当帰・茯苓(別構成もあるので、下段を参照してください)
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:清熱去湿
  • 適  合:間証、熱証、頻回に尿意はあるが出が悪くて残尿感や排尿痛があり血や膿が混ざるもの

五淋とは、尿が出渋る熱淋・膏淋・血淋・石淋・砂淋の五つに対応する処方という意味です。

尿路の炎症が続いてスッキリせず、何度もトイレに行くのだけれども少ししか尿が出ない状態に使用します。

膀胱炎や尿道炎に使用する代表的な処方で、痛みや熱感が強い急性炎症だけでなく、抗生物質を使用すると症状が消えるけれども中止すると再燃するという慢性炎症にも効果的です。

また、尿路結石に関係する石淋や砂淋もカバーしており、石の排出を促進することで症状を緩和します。(結石の生成を防ぐわけではありません)

よほどの虚証でない限りは服用が可能で、長期継続もできますが、寒剤が優位になった構成ですので寒証には連用しません。

黄ゴン・甘草・芍薬・当帰には、子宮機能を調整して流産を防止する作用がありますので、妊娠中でも服用が可能です。

心因性膀胱(過活動性膀胱)は炎症ではなく神経過敏から起こる頻尿ですので、本処方は適応外で、清心蓮子飲などの他処方を検討します。

黄ゴン・滑石・甘草・山梔子・地黄・芍薬・車前子・沢瀉・当帰・茯苓・木通という構成の同名処方があり、コタローやツムラのエキス剤はこちらです。

竜胆瀉肝湯の竜胆を滑石・芍薬・茯苓に変更した構成で、表に作用する薬味を除いて下焦に特化した処方になっています。

この構成処方は温剤の配合比率が高まっていますので、上で紹介した適応に加えて、冷えによる膀胱炎症状にも対応が可能です。

疲れると尿の色が濃くなったり濁る場合は血虚によるもので、四物湯がベースになっている本方が適します。

また、尿路疾患だけではなく、卵巣や卵管などの障害や腫れにも効果があります。

五苓散(ごれいさん)

  • 構成生薬:桂皮・沢瀉・猪苓・白朮・茯苓
  • 陽陰区分:少陽病
  • 治  方:利水滲湿
  • 適  合:間証、湿証、嘔吐や下痢があり頭痛などの表症状があって喉が渇いて水を欲するもの

水滞に対応する猪苓散(猪苓・白朮・茯苓)に、頭痛やめまいなどの表症状にも対応可能なように桂皮・沢瀉を加味した構成です。

胃腸や組織内に湿があって、利水しないことで循環する水分が不足し、口渇や尿量の減少を引き起こしている場合に使用する処方です。

口渇は単純な乾燥によるものではないので、飲水しても胃腸の滞水を悪化させることになり、嘔吐や下痢を引き起こすことになります。

本処方が適合する嘔吐は、吐いた後に割とスッキリというタイプで、ムカムカが残るタイプは本処方ではなく小半夏加茯苓湯や半夏厚朴湯の適応です。

湿以外の随伴症状は、上焦部の邪熱によるもので、めまい・頭痛・耳鳴りなど上半身に出やすい傾向があります。

本処方は基本的に湿を掃かせるだけの作用しかなく、湿そのものを作らせなくする作用はありません。

胃腸内への停水を抑える働きを加味したい時には、平胃散を併用する必要があります。

しかし、合剤を除けば除湿の作用は最強クラスで、効果発現も早く全ての臓器に対して有効です。

陽病である点と裏湿の鑑別さえ正しければ、他の証を気にせず使用することが可能ですので、湿証である場合は必ず候補に入る処方です。

特に、冷たい飲料を過剰に摂取して起こった急性の不調であれば、最初に考慮する処方です。

発汗解表薬の誤使用で起こる発汗過多による口渇や、甘草やインスリンで誘発される浮腫に用いても効果があります。

ステロイド剤の副作用防止に、小柴胡湯との合剤である柴苓湯がよく使われますが、本処方単独でも効果は確認されています。

また、昼間に尿量の少ない夜尿症にも使用されます。

吐気・下痢・頭痛などの症状が同じであっても、寒証で水を欲しない場合は人参湯の適応です。

夏季に発症した吐気・下痢・頭痛で、口渇はあるが尿量の減少やむくみがない場合は、清暑益気湯を検討します。

表部に症状がなく、のぼせ傾向がある者には、桂皮を去った四苓湯の方が適合します。

本構成に人参を加えたものを春沢湯と言い、生津作用も欲しい場合に選択します。

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