二つの媒質の境界面や薄膜での光波の反射と透過に伴う位相のずれ


             ~  掲載論文の要約  ~


[1]  「世代を超えて伝播する間違い入試問題」 (1頁)      PDF 

 この文書は大学入試問題を作成する人たちへの要望書である。光の平面波が半透鏡の金属層で反射するときには位相がπだけずれ, 透過するときにはずれないと仮定することが多い。しかし, これらはどちらも間違っている。それゆえ, この仮定のもとに干渉計での干渉条件を書かせる入試問題は避けてほしい, というのがこの要望書の主旨である。間違っている理由は簡単で, この仮定を認めるとエネルギー保存則が成り立たなくなるからである。  (2010/06/06) 

[2] 「マッハ・ツェンダー干渉計での干渉条件(1)」 (7頁)  [789KB]      PDF 

  この論文は雑誌「パリティ」(19914月号)に掲載された懸賞問題に対する回答である。半透鏡として単なるガラス板(代用半透鏡)を用いた場合, 懸賞問題が提示した矛盾 [位相をπだけずらすフェイズ・シフターをマッハ・ツェンダー干渉計の経路に挿入すれば, 入射光が消えてなくなる] , ガラス板内での多重反射を無視するという前提条件に起因する。多重反射を考慮して,2つの観測点での光のエネルギーの割合F1 とF2 を厳密に計算すれば, F1 + F2= 1となる。また, 位相をπだけずらすフェイズ・シフターを経路に挿入すれば,  F1 =0, F2 =1 となる。すなわち, エネルギー保存則が成り立ち, 矛盾は生じない。ここで用いた計算手法はファインマンの経路積分を古典物理に応用したものである。 (2009/12/10) 

[3] 「マッハ・ツェンダー干渉計での干渉条件(2)」 (8頁)  [609 KB]      PDF 

 論文[1]の代用半透鏡の代わりに, ガラス板の片面に金属を蒸着した半透鏡(真正半透鏡)を用いても, 論文[1]と同じ結論を得る。
 まず
, 金属層に単色平面波が入射するとき, 複素表示で表した電磁場に対する金属層の両面での境界条件を解くことによって, 振幅反射率 r0 と振幅透過率  t0 を求める。その  r0  t0 から真正半透鏡の金属層での反射と透過による位相のずれを計算することができ, それらはガラス板の屈折率, 金属層の厚さと屈折率, および光の偏りと入射角に依存することが示される。
 つぎに, r0  t0 およびガラス板内での多重反射を考慮して, 真正半透鏡による振幅反射率 ρ と振幅透過率 τ を求める。さらに, ρ  τ を用いてマッハ・ツェンダー干渉計の2つの観測点での光のエネルギーの割合 F1  F2 を求める。金属層の複素屈折率が純虚数 ( - i n i ) であれば, F1 + F2 = 1 を満たし, 経路に位相をπだけずらすフェイズ・シフターを挿入すれば, F1 = 0 , F2 = 1 となることがわかる。 (2009/12/10)

 (訂正) この論文の表1のP偏光に関する数値を計算するプログラムに符号の間違いが見つかり, 計算をし直した。同じ表は「駿台フォーラム第21号」に掲載された論文にもあるが, その数値は間違いで, このホームページにある数値のほうが正しい。 (2012/11/05

[4] 「マイケルソン干渉計での干渉条件(1)」 (7頁)  [453KB]      PDF 

 論文[2]で用いた計算手法をマイケルソン干渉計に適用する。この論文では, 真正半透鏡の金属層の複素屈折率が純虚数 (i n i ) である場合に限定する。波連の長さが十分に長い平面波の場合, 検出器に向かう光と光源に戻る光のエネルギーの割合の和が1になることが示される。このとき, 光路差で表した検出器での干渉条件は, 大学入試問題の解答例などで正解とされる常識的な干渉条件とは異なる。また, 両者の一致はあり得ないことが証明されている。波連の長さが真正半透鏡のガラス板の厚さに比べて短い場合(ガラス板内での多重反射の影響を無視できる場合)には, 検出器に向かう2つの光の位相差 ΔD と光源に戻る2つの光の位相差 ΔS の差 ΔDΔS ±πになることが示されている。すなわち, 検出器で明るくなれば, 光源に戻る光は暗くなり, 逆も成り立つ。  (2010/03/29)

[5] 「マイケルソン干渉計での干渉条件(2)」 (7頁)  [607KB]      PDF 

 この論文では, 真正半透鏡の金属層の複素屈折率が n R i n i ( n Rn i )と表され, 金属層で光の吸収がある場合の干渉条件を考察する。
 まず, 金属の具体例として銀を考え, 金属層での振幅反射率 r 0 と振幅透過率 t 0 をもとにして, 半透鏡の条件( エネルギー反射率 R0 = エネルギー透過率 T0 )から, 金属層の厚さと反射や透過による位相のずれを求める。
 つぎに, このような真正半透鏡を用いたマイケルソン干渉計で, 補償板がある場合とない場合について, 検出器に向かう光と光源に戻る光のエネルギーの割合を数値計算で求める。その結果, 半透鏡のガラス板の厚さがある特定の値をとるときに, 検出器での干渉条件が「常識的な干渉条件」に一致することがあるが, 一般的には一致しないことが確かめられる。また, 金属層でのエネルギーの吸収率と補償板から光学系の外に出ていくエネルギーの割合も計算されている。 (2010/11/06)

[6] 「光の反射と透過に伴う位相のずれ(1)」 (13頁)  [650 KB]      PDF 

 空気と誘電体または空気と金属の境界面で光の平面波が反射と透過をするときの位相のずれ, およびエネルギーの反射率と透過率を求めるための式を, 電磁場の複素表示を用いて導出する。その式に基づき, 複素屈折率 n R i n i を持つ誘電体と金属の場合について数値計算をした結果, 次のことが分かった。 通常の光学ガラス( n R = 1.5 ~ 1.6 , n i10-3)では, 位相のずれはn i=0の場合とほとんど同じである。また,よく光る金属 n i =2.5 ~ 5.5 では,n R の値を 0 から 1 まで変化させても,位相のずれはほとんど変化せず,全反射の場合 n R= 0)の値と同じであるといってもよい。 (2011/04/12)

[7] 「誘電体の薄膜で作られた半透鏡と反射防止膜」 (9頁) [598KB]      PDF 

 誘電体の薄膜をガラス板に張り付けて半透鏡を作るとき, 誘電体の屈折率と薄膜の厚さが満たさなければならない条件を導き出した。その条件が満たされているとき, 入射角45°で入射した光波の反射と透過による位相のずれを数値計算で求めた。そのずれは屈折率に依存し, 一般的には π や0 ではない。また, 誘電体の薄膜が反射防止膜となるための条件を, 薄膜内での多重反射の影響を考慮して求めた。その条件が満たされているとき, 入射波に対する透過波の位相のずれは, ある特殊な場合を除けば, ±π / 2である。   (2014/03/12)/p>

[8] 「半透鏡での光の反射と透過による位相のずれ」 (6頁) [696 KB]        PDF 

 平面光波に対する金属面での境界条件を基にして,半透鏡の金属層での反射と透過による位相のずれと金属層の厚さを計算した。その結果,光の吸収がない場合,位相のずれは金属の消衰係数に依存し,πや0 といった定数ではないこと,および金属層の厚さは光の波長の数%程度であることがわかった。金属層で光の吸収がある場合についても同様の計算をしたが,普通の半透鏡では,吸収がない場合と比べて,位相のずれと金属層の厚さに大きな差がないという結果を得た。 (2015/3/26)

  

[補遺1] 「光の吸収がある場合の屈折の法則」 (4頁) [517KB]      PDF 

 高校の物理で学習する屈折の法則( n1 sinθ1 = n2 sinθ2  )は光の吸収がない媒質に対して成り立つ。以下に示すように, 光の吸収がある場合には入射角 と屈折角 の間に成り立つ関係式はかなり複雑である。その関係式に基づいて数値計算をした結果, 吸収がない場合の屈折の法則からのずれが目立つ程度になるのは, 媒質の吸収係数が大きく, 屈折波の検出が困難な場合であることが分かった。  (2012/11/05)

[補遺2] 「対称な半透鏡での反射と透過による位相のずれ」 (4頁) [332KB]      PDF 

 対称な半透鏡に平面光波が入射して,そのエネルギーの半分が反射し, 残りの半分が透過するとき, 透過波に対する反射波の位相のずれは±π/2 となる。光を吸収しない金属箔の場合には, エネルギー反射率とエネルギー透過率が等しくなくても, 透過波に対する反射波の位相のずれが, S偏光ではπ/2 , P偏光では-π/2になることが証明されている。        (2012/11/05)

[補遺3] 「誘電体板による平面光波の反射率と透過率の導出について」 (4頁) [322KB]      PDF 

 誘電体板に入射した平面波の複素振幅に対する反射波と透過波の複素振幅の比は2通りの方法で計算できる。どちらで計算しても結果は同じであることが吸収のない誘電体板の場合について確かめられている。また, 入射波に対する反射波と透過波の位相のずれ  を求めるときに必要な位相の基点についても論じられている。  (2012/12/14)

[補遺4] 「境界面での反射と透過によって光のエネルギーが失われないための条件」 (6頁) [556KB]      PDF 

 論文[5]の3頁に,k 1 が実ベクトルであれば,S偏光の場合,k2x が複素数であっても,R + T = 1 ・・・が成り立つが,P偏光の場合,が成り立つのは,k2 が実ベクトルのときと,k2xR=0 のとき(境界面で全反射するとき)と,k2yR=0 のとき(境界面を垂直に透過するとき)に限られる」と書いた。その証明をここで行う。    (2013/08/23

[補遺5] 「薄膜による光波の振幅反射率と振幅透過率の導出」 (6頁)      PDF 

 薄膜に入射した平面光波の振幅反射率と振幅透過率は薄膜の厚さと屈折率, 基板の屈折率, および入射波の波長と偏りと入射角に依存する。その関係を表す式を境界面での電磁場に対する境界条件に基づいて導出する。これらの式は3領域2境界面での光波の反射と透過を論じるときの出発点となる。 (2014/04/08)

  

[解説記事1] 「半透鏡での反射による位相のずれはπではない(1)」 (7頁) [344KB]      PDF 

 単なるガラス板を半透鏡として用いたマイケルソン干渉計での平面光波の干渉を考える。ガラス板内での多重反射を考慮して, 入射光のエネルギーに対する検出器に向かう光のエネルギーの割合 F D と光源に戻る光のエネルギーの割合 F S を計算し, エネルギー保存則 F D + F S = 1 が成り立つことを示すF D = 1 または 0 として導き出した検出器での干渉条件の式は,ガラス板の厚さが 0 の極限で,入試問題の解答例などで正解とされる常識的な式と一致する。この極限では,入射波に対する反射波の位相のずれは ± π / 2,透過波の位相のずれは 0 となる。 (2014/03/06 

 この解説記事は「パリティ」2013年3月号に掲載された。 

[解説記事2] 「半透鏡での反射による位相のずれはπではない(2)」 (6頁) [313KB]      PDF 

 ガラス板上の金属層に入射した平面光波の振幅反射率 r と振幅透過率 t を電磁場の境界条件から導出する。その r t を用いて, 金属の複素屈折率が2.5i5.5iと表される2つの場合について, 半透鏡となるための金属層の厚さを数値計算で求める。また, 入射波に対する反射波と透過波の位相のずれも計算されており, π 0ではないことが示されている。 (2014/03/06 

 この解説記事は「パリティ」2013年4月号に掲載された。

  

[総括1] 「半透鏡での位相のずれに関する問題点の発端と結論」   ~筆者の回想を中心として~         (11頁) [431KB]      PDF 

 半透鏡での反射と透過による位相のずれに関する間違いは, 大学入試問題や一般書籍に数多くみられる。それらを俎上に載せて, 筆者がこの問題に関わるようになった経緯と結論を述べる。  (2015/03/28)



  TOP PAGE     NEXT