ラップ定盤の話

〓本編〓
■ハサミゲージ・案内
  ハサミゲージ案内
  JIS規格の体系 
  ハサミゲージの仕様 
  ダイス鋼製ハサミゲージ
  ステンレス鋼製ハサミゲージ
  キー溝幅ゲージ
■ラップ技法の技能と理論  
  ハンドラップ・概説
  遊離砥粒ラップ/湿式
  固定砥粒ラップ/乾式
  ラップ定盤の話
  ハンドラップの技法体系
■ブロックゲージの話
  ブロックゲージの話  
  ブロックゲージによる寸法検定
  リンギング現象
■熱処理について
  局部焼き入れの技法






 鋳物製ラップ定盤




 花崗岩製石定盤




 瑪瑙製石定盤




 石英板(定盤)




 燐青銅製ラップ定盤




 ガラス製定盤




 人白砥石





ダイヤモンド砥粒を練り込んだラップ定盤




 その裏面。
 素焼きの焼き物の表面にラップ層を塗りつけてある。



研磨シートのいろいろ



一般的にハサミゲージ表面を磨き上げるためのもの。
#80〜#400まで。




ステンレス鋼製ハサミゲージの表面の磨き上げに使用する。
#600〜#1000。
防錆効果が発現する。



以下のものは、いわゆる「研磨シート」として、つまり、カット・シート状で提供されている。
プラスティック・シートのものでは裏面に固定用に粘着糊が塗布されているものもある。

表面に塗布されている研磨砥粒は、ダイヤモンド砥粒を含め、各種のものが提供されている。



















#6000というと、何も苦労して#6000ラップを試みなくても良いではないかということになりそうなのだが、あくまで「磨き」のための研磨材であって、ラップ加工は出来ないものである。



     →ページの先頭に戻る








シフロキシン


 ラップ定盤について(付:研磨シート)


細目次  「ラップ定盤」の意味 

ラップ定盤の平面度

ラップ定盤・各論

研磨シート   

目立て定盤

【特論】●「定盤ラップ」の技法
   2015/06    追記

 



「ラップ定盤」の意味

 「ラップ定盤」というのは、ラップ作業をする際に用いるラップ能力を持つ定盤のことを意味するのだが、ラップする場合に用いる「作業定盤」のことである。
 定盤というものの一般的な目的用途として、例えば、基準平面を提供するという役割があって、検査台にする、基準台にする、といった目的に用いられ方をするのが一般的だが、特殊なものとして、「オプチカル・フラット」なども定盤のうちに分類できると言えば言える。

 使い方は、ラップ定盤を作業台上に据え置いて、その上面でワークを摺り合わせる。
 この場合、私らゲージ屋の場合では、ワークというのは焼き入れものがもっぱらで、ナマ材の場合というのはほとんど無い。従って、ナマ材の表面を定盤でラップするということはほとんど経験がないので、ここで述べていることがそのままナマ材表面に対するラップ技法に適用できるかどうかは分からない。

 定盤ラップの技法の出発点は「砥石ラップ」である。
 #400〜#800のGCやWAのブロック状の砥石を作業台上に置いて、ワークをその砥石面上で摺り合わせる。もちろん、このブロック状の砥石というものは事前に目立てを行って、砥石面を平面に仕立て上げておく必要はあるのだが、この際の目立て定盤の平面度が微妙に影響するから、注意を要する。

 この「砥石ラップ」の段階は、ワークの平面研削加工での加工痕を消除するという目的に沿うものである。
 平面研削盤での研削加工では、砥石での研削目が揃うと、光を一定方向に揃えて反射することになるから、見掛け上は、周囲の景色を映し出して微細な加工が仕上がっているように見える。しかしながら、存外にその研削目は粗いものであって、また、研削時に熱を帯びるからワーク表面が変性している場合があり、かつ、平面度が悪い(何ミクロンかは凹R面に仕立て上がっている)ので、その是正を砥石ラップで行うわけである。

 ラップの目的が研削痕を消除するということであれば、この段階で作業は完了するのだが、そこからもう一歩進んで、ラップ砥粒を用いての「砥粒ラップ」を行う。
 #1500前後の砥粒を用いて、石定盤を用いてのラップ作業だと、その加工原理が理解しやすい。石定盤の素材は花崗岩なのであるが、花崗岩というのは長石と石英と雲母から組成されており、表面の凹凸が比較的大きい。組成粒子の結合が比較的緩いからラップ油が表面に浸潤しやすく、また、ラップ砥粒がその凹凸に嵌り込みやすい。従って、ラップ効力が大きい。
 定盤ラップ(いわゆる機械ラップの場合も同じことなのだが)の原理として、定盤上のラップ砥粒が加圧力によって破砕され、そのラップ砥粒の切り刃が次々と再生されてラップ力を発揮するという説明が教科書等でなされるのが一般的だが、それだけではない。
 定盤面上の凹に嵌り込んだ砥粒が固定砥粒としてラップ能力を発揮すると同時に、ワークの運動によって、ラップ面でワーク表面が定盤上に嵌り込んでいる砥粒を「吸い上げる」「巻き上げる」という作用を生じて、砥粒の「交替」が図られる。このことを実証するのは簡単なことで、焼き入れた鉄鋼材料を平滑に仕立てたものをラップ定盤とし、焼きを入れたワーク表面をラップしようとすれば、大変な労苦を伴いながらもラップ加工にならないことが分かる。
 従って、石定盤によるラップ加工の効率は非常に大きい。
 なお、花崗岩製の石定盤というものは非常に固いものだと理解されているようなのだが、ラップ砥粒にWAやGCの砥粒を使う場合は非常に磨損しやすい。従って、始終その表面の平面度を是正しなければならないのだが、平面研削盤でGC#60の丸砥石で簡単に研削できるし、同じくGC砥石で平面の面粗度と微妙な平面度を再加工することで足りる。

 ワーク表面を#3000程度による面粗度に仕立て上げる場合は、石定盤と同じ原理を発揮する鋳物を使う。
 一般的にはこのレベルでの仕立て上げで充分なはずなのだが、ラップ痕が認められるようでは不味いということで、いわゆる「鏡面ラップ」を求められることがあるようである。ラップ定盤の材質とラップ砥粒の組み合わせでの工夫が必要となる。遊離砥粒ラップ/湿式の技法での解決は難しいかも知れない。



                        先頭に戻る→



ラップ定盤の平面度

 定盤の平面度は精確な程望ましいという「決め込み」がありそうで、いわゆる「三面合わせ」で仕立て上げないといけないように語られるのだが、それほどに精確な定盤面が必要な局面というのは限られている。
 考えてもみて欲しいのだが、定盤面の「歪み」や「うねり」「捻れ」「曲がり」の高低差が、そこで使用するラップ砥粒の粒径以上であったなら、ワーク表面にまで砥粒の切り羽が届かないとうということが起きかねないから、ワーク面に対するラップ作用が不均等になって、ワーク面をうまくラップできない。
 従って、定盤面の高低差はラップ砥粒の粒径以下でなければならず、また、その程度な平面度でラップ作用は発揮され得るのである。

 定盤を「三面合わせ」で仕立て上げようとする場合、その表面粗さはどの程度のものになるかを考えてみたい。
 
 あまり微細に仕立て上げることを考えると、面間の加工油とか加工水分が粘着成分になったりして、精確な当たり具合が計れない。従って、「キサゲ」とか「シカラップ」と呼ばれる技法で定盤面を仕立て上げていくのだが、それは、定盤面の凸の先端が全体として先端点を結ぶ仮想平面に正当に当たっているかどうかで判断される。具体的には、1平方インチ当たり何点以上の当たり点があるかどうかで判定されるのだが、定盤面の当たり点以下の部分がどういうようになっているかは判定されない。ただ、定盤面上の凹凸の高低差がある程度以下にとどまっている必要はあるのだが。

 ここで扱うラップ定盤の場合は、三枚合わせの技法では非常に難儀なことになるから、単品ごとに平面を仕立てていく。
 この場合、いわゆる「透き見」での進捗度判定で足りる。


                    先頭に戻る→



ラップ定盤・各論 

 鋳物製定盤の場合は、GC丸砥石での平面研削盤で平面仕立てをする。
 平面研削による定盤平面というのは非常にラフなものになるから、#400〜#1500程度なGC砥石(角砥石)で研削痕を消除するように研磨する。その後に、適用すべきラップ砥粒の種類と粒度のものをラップ油とともにアルカンサス砥石で擦り込むように定盤面をラップし、表面に残存したラップ油とラップ砥粒を払拭して準備が終わる。
 おおむね#3000のWA砥粒での定盤ラップの用途に適合するのだが、つまりは、焼き入れしたSK工具鋼製ゲージのハンドラップ仕上げが#3000のWA砥粒ラップ/湿式であるから、定盤とワークの関係を上下転換したものに等しい。

 花崗岩という石定盤の場合も鋳物製と同様にGC丸砥石で平面研削する。
 研削感触としてはスカスカなもので、「固い物体」であるとは言えない。
 この石定盤を活用するのは、cBN砥石の#400〜#1500程度の粗い粒度のものの目立てに使う。仕立て上げが粗いものであるから、#60のGC砥石で研削したままの状態でも不都合はない。

 同じく石定盤の例として、石英製定盤を考えた。
 非常に良好な結果をもたらす定盤に仕立て上げられるのだが、致命的な欠陥として、岩石としての結合が緩く、よって砕けやすい。
 いつかどこかで然るべき石英製定盤を入手したいと考えている。

 同様に石定盤の例としての瑪瑙(めのう)製定盤
 「瑪瑙製乳鉢」というのをネット見て、これで乳鉢が作れるというのなら、ラップ定盤に仕立て上げることは出来るのではないかと、作って貰った一品。
 かなりの程度、超微細で超精密な表面仕立て上げが必要なのだが、定盤表面が摩滅した場合の表面手直しの方法に苦慮している。GCで簡単に手直しできるというわけにはいかない。

 燐青銅製定盤は、分厚い燐青銅板材は高額になるから、ここでは3mm厚の燐青銅板材を10〜13mmの鉄板に貼り付けたものを使っている。
 燐青銅を平面研削をするのは難しいから、GC角砥石で平坦になるように研磨加工する。
 この使い方の目的は、ダイヤモンド砥粒1〜3μ粒径のものを定盤表面に擦り込んで、言い替えれば、ダイヤモンド砥粒を定盤面上に刺さり込ませて、その砥粒の切り羽でワーク表面をラップする。
 非鉄金属材料のラップ定盤というのは、まぁ、いろいろなものが可能なのだろうが、銅製ではダイヤモンド砥粒の保持力が弱く、錫や亜鉛製はどうか、アンチモンも使えるのではないか、真鍮やアルミも使えないかの話も聞いたりするのだが、いずれも砥粒の「保持力」に難があるはずなのである。
 燐青銅製定盤によるダイヤモンド砥粒1μm粒径でのラップで、超硬製パーツの一面ラップの目的が容易に完遂できたから、素直に考えた方が好結果を招く。

 ガラス製定盤も考えた。
 一応形として作って貰ったのだが、使えない。
 なぜ使えないものになるのかという問題があって、その解決の目途が立たないというのも落ち着きが悪いものなのだが、ラップ工具・定盤には元々使えないものというべきかも知れない。

 ラップ定盤のラップ力を、表面凹凸の凹穴にに転がり込んだラップ砥粒の研磨力と理解した場合、表面凹凸が作れる素材であれば何でもラップ定盤に仕立て上げることが出来るという結論に赴きそうだから、超硬製ラップ定盤とかセラミック製ラップ定盤というものも可能かも知れない。しかしながら、それらを実際に作ってみようということにならないのは、表面凹凸の凹穴がラップ力の決め手になるということは、定盤素材の材質は何でも良いというわけであって、ただ、ラップ砥粒の保持力さえ確保されれば良いということになるから、この点が材質選択の条件となる。超硬やセラミックといった「硬さ」は全く必要ではなくて、人白砥石製ラップ定盤で充分ということに至っている。ただ、人白製砥石の製作可能な大きさが市販形状で上限だということが残念ではある。

 定盤という明確な形状でなくても、砥石をそのまま据え置いてワークをそのまま砥石面で摺り合わせるということは普通に行われている。
 WA砥石やGC砥石はどこででも用意されているものと言えるが、インデァ砥石の場合も 同様である。
 インデァ砥石は金型屋さんがよく使っておられるのだが、固く成形されているA砥石で、潤滑作用をする油分を内含しているから、型崩れすることなく研磨力が持続するから信頼性が高い。


 最後に、ダイヤモンド砥粒を練り込んだペーストを素焼きの焼き物のベースに塗布した乾式のラップ定盤。GC砥石で表面成形できるとされている。
 練り込まれているダイヤモンド砥粒は#2500相当であるという。
 固定砥粒だから、ラップ滓が表面に粘着する。


                   先頭に戻る→



研磨シート

 いわゆる「研磨布」とか「ペーパー」と私らは指称しているのだが、いろいろな種類がある。

 適当な大きさに切って定盤等の平面上に固定し、その面上でワーク面を研磨する(摺り合わせる)という方法、固定したワーク面に対して板棒状の工具にシートを貼って摺り合わせるという方法・・・等のいろいろな活用法がある。
 
 総じて言えば、定盤ラップの技法が遊離砥粒ラップ/湿式であるところ、研磨シートは固定砥粒ラップ/乾式であるから、ワーク研磨面の面粗度を改善するあるいは、機械加工等で生じた切削・研削痕を消除するということは十分に可能であるのだが、研磨滓がシート表面に固着し積み上がっていくから、研磨力が直ぐに減殺される。


                   先頭に戻る→



目立て定盤

 遊離砥粒ラップ/湿式で用いる人白砥石製のラップ工具、あるいは、固定砥粒ラップ/乾式で用いるcBN砥石製のラップ工具の表面仕立ては、ラップ定盤を用いる。ラップ定盤を用いての遊離砥粒ラップ/湿式の技法で砥石表面をラップする。
 従って、遊離砥粒ラップ/湿式の技法に習熟していないと、砥石の目立てということがうまくいかない。



                   先頭に戻る→




【特論】●「定盤ラップ」の技法

 定盤ラップの論理と技法について、別ページでやや詳細に論じています。

      特論ページへ→



                   先頭に戻る→