ブロックゲージの話

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  ブロックゲージの話


細目次  ブロックゲージとは?

寸法基準として

測定機器類の管理基準として
 





ブロックゲージとは?

 日本での国産化は津上退助氏の率いる(株)津上製作所によって昭和12年から本格化されたものだったが、その詳細を知るための文献はなかなか行き当たらないでいる。それに対して、さまざまな経緯を含めて、(株)ミツトヨのブロックゲージ製作の取り組みについては、そのカタログにまとめられている。

 カタログNo.12016 『ゲージブロック物語 The history of gauge block』
         2012年10月:初版発行  発行:株式会社ミツトヨ

           文書はこちら→201407041534.pdf  [PDF]

 ブロックゲージの製作のためにはその寸法測定のための設備や測定機器類が必須であるのだが、それらも自主開発されたというのは驚嘆に値する。

 ブロックゲージの製作それ自体が、人手によるハンドラップから機械装置によるマシンラップへということについては、当然ながらそういう方向性になっていくのだが、その時点では、ハンドラップでブロックゲージを仕立て上げることの出来る技能者が存在していたということが物語られている。つまりは、ゲージ屋が戦後長らく「ブロックゲージ並みのゲージ測定面を仕立て上げる技能を追究する」ということを理想とし目標としてきたことには、単なる夢想したというのではなくて、実際の根拠があったということだったのである。

 当時のハンドラップ技能というのはどういうものであったのか、是非知りたいところではある。

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寸法基準としてのブロックゲージ

 ブロックゲージの寸法というのは、測定面の2面間の隔たりをいうのだが、その寸法値を支えているのが各測定面の平面度と面粗度、及び、2面間の平行度の正しさである。この隔たりは本体(母材)の両端面に設定されているのだが、ブロックゲージの測定面の母材に対する直角度は必ずしも保証されていない。ブロックゲージの規格を定める JIS B 7506 によると、「7.2 側面の直角度公差」で「90゜±10'」と規定されている(数値換算については、『表5 側面の直角度公差』を参照する)。
 ブロックゲージの直角度の乱れが測定結果に何らかの悪影響を及ぼすという事態は確かにあることだから、十分に配慮しないといけない。

 さて、ブロックゲージを寸法基準として使用する場合、その名目値が実測値と大きくは隔たっていない(一定の公差許容範囲内にある)ということが確証されていて初めて、個々のブロックゲージの名目値を組み合わせて寸法基準として実務に供される。この確証作業が「校正」である。

 校正の結果表示の方法として、何らかの公差許容範囲内に寸法値があるということを保証する方法と、ブロックゲージの測定ポイント(5個所)のそれぞれについてその実測値を一覧にして、その数値の評価は依頼者に委ねるという方法とがある。前者の場合でも各測定ポイントの寸法値を実測しているであろうから、校正作業としては同じで、その結果表示の仕方が違うということになりそうなのだが、結局、0.01μmのオーダーの桁での数値をどう見るかということになる。
 理屈の上では、0.01μmのオーダーの桁での数値の信頼性が保証されるためには0.001μmのオーダーの桁での数値が確定されていなければならないはずなのだが、この桁は「Å(オングストロームの桁)」であって、比較測長が可能であるとは言えないものであるから、必然的に、0.01μmのオーダーの桁での数値は確定的な数値にはなり得ずに「確率」でしか表現され得ない数値になるはずなのである。残念なことに、ここら辺りのことについては、説明されていない。

 普通に考えれば、校正結果値というのはその校正が行われた環境条件の下での数値であって、その数値が、私らの個別具体的な作業現場で再現されると見なせるわけではない。従って、よくよく注意を払ってのブロックゲージを基準としたワークの測定に際しては、0.1μmのオーダーでの精度は何とか再現できているというのが正当な判断ではあるだろう。

 なお、校正数値を得た場合の評価の問題として、ブロックゲージが新規に製作されて工場出荷時の校正証明書を得た場合、その校正証明書の数値を基点として、その後の一定期間経過後の定期校正時の校正証明書との数値比較を行って、
個々のブロックゲージの「経年変化」に基づく寸法変位を見積もり、あるいは、その間の使用機会を経るごとに進行する「磨耗・磨損」の状況を読み取るということがあって、この点が、日常的なブロックゲージの「保全管理」の手順と結びつく。一定の基準を逸脱したものについては、新しいブロックゲージと差し替えないと、ブロックゲージのセットとしての意義が失われてしまう。

 ブロックゲージのセットについて定期校正を行う際の、その「定期」のインターバルをどう考えたら良いかについて問題にされる。ISO9001 等における「測定監視機器等の管理」の問題なのだが、特にこの点についての規定が定められているわけではないので、ユーザーの側で何らかの原則に従ってこのインターバルを定めないといけない。
 当方の場合は、基準に用いているJIS 1級のいわゆる「検査用ブロックゲージセット」について、使用頻度の高いものは3年間で大体0.1μmの磨損が読み取れるので、3年に一度のインターバルで校正を行い、セットとしてJIS 1級のレベルが維持されるようにしている。このデータを得るためには、購入当初は毎年1回の校正を行った。リンギングさせてブロックゲージを使うのになぜ魔損していくかについては、面間を擦り合わせれば魔損するということは当然の事態なのだが、表面にキズが入れば、そのキズが刃物の作用をして、相互に魔損させていくというプロセスがあるわけである。キズが入っているからといって寸法に直ちに関係してくるというものではないのだが、ある程度のキズが入ったものは早めに差し替えないとその後に及ぼす悪影響が大きい。
 従って、定期校正のインターバルの設定は、ユーザーのブロックゲージの使用状況が大きく左右する。

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測定機器類の管理基準としてのブロックゲージ

 校正を受けて国家標準と結びつけられたブロックゲージは、その所管される作業所での寸法基準となって、ブロックゲージ以下の各寸法測定機器類の寸法基準となる。ごく日常的な光景であるから、そこに何の疑問もないということになりそうなのだが、そういう訳にはいかないことが多い。

 私らゲージ屋の場合は、寸法基準としてのブロックゲージは、JIS 0級のセットは当然に準備している。
 それは、0.1μmのオーダーでの寸法について問題が起こり得るという問題と、平行度の問題でJIS 1級では平行度検証にやや能力に不安が生じるという問題があるからなのだが、一般のメーカーでそこまでの寸法管理が要求されるという事例は稀だろうと思える。
 従って、ブロックゲージを用いて、例えば、マイクロメータを社内校正するという場合、社内基準としてJIS 0級のセットに基づかないといけないということがあったりということなのだが、それにも増して、0mm〜25mmの範囲内で5mm飛びに「校正」したときに、その指示標線(あるいは、デジタル表示値)がブロックゲージの寸法値と一致した数値を表示しているから、「このマイクロメータはJIS 0級の精度を持つものである」と「判定」されたりする。こういう発想があるから、マイクロメータでブロックゲージが「校正」出来るのではないかといった話になっていくのだが、こういう倒錯した状況というのは看過し得ない。

 測定機器類にはそれぞれ固有の「誤差要因」というものが固有されていて、例えば、20mmのブロックゲージの寸法値を正しく20mmと表示した(あるいは、読み取った)場合、その機器類の「誤差要因」がすべてキャンセルされて正当に測定されたと考えることは出来ないのであって、その機器類に固有された「誤差要因」並びに測定に伴う「曖昧さ」が積層してたまたまそのような測定結果を得たと考えなければならない。

 従って、校正されたブロックゲージを手掛かりにして、測定機器類の固有する「誤差要因」と測定に際して生起する「曖昧さ」をどう判断し評価していくかという点が、測定機器類の社内校正の課題ということになるだろう。ブロックゲージについて言えば、JIS 0級である必要は無くて、JIS 2級であっても、その違いは出てこないものである。

 ブロックゲージの別な活用法として、その平行度精度に基づくという方法がある。
 これは、例えば指針測微器(JIS B 7519)の場合、その測定台が磨損していては具合悪いので、ラップで手直し(仕立て直し)をするのだが、その手直しした測定台の測定面がブロックゲージ面ときちんと接着するかどうか、及び、その測定台面上をブロックゲージを滑らせた場合に、指針の「振れ」が現れるかどうかを判定して、当該指針測微器が正しくブロックゲージとの比較測長できる状態にメンテナンスできたかどうかを判定する。

 このことは、ダイヤルゲージを使う場合のコンパレータ台のメンテナンスと同じことである。
 
 測定台(コンパレータ台)の磨損状態を知るためには、普通は、オプチカル・フラットで判断するのだが、ラップでの仕立て直しに頑張り過ぎると、ブロックゲージ面とリンギングしてしまうようなことになるから、使えなくなる。
 比較測長の技能という面から言えば、測定台(コンパレータ台)の基準面というのは1μm〜2μmの凸R面に仕立て上げられるべきであるという意見があって、その意見に従えば、リンギング現象の発生はかなり禁抑されるし、測定結果も良好になる。つまり、基準面だからといってその平面度をあくまで追求するということは却って不具合が生じるということなのである。 
 
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