ハサミゲージの仕様について

〓本編〓
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  リンギング現象
■熱処理について
  局部焼き入れの技法






















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シフロキシン


 ハサミゲージの仕様について



 細目次   ●形状仕様寸法関係の規定

 ●ハサミゲージの防錆

 ●ハサミゲージの材質と防錆

 ●ハサミゲージの総焼き入れ

 ●ハサミゲージの面粗度

 ●超硬製ハサミゲージ

 ●寸法精度の仕立て上げ

 ●いわゆる「ゲージ図面」について 

    



形状仕様寸法関係の規定

 JIS B 7420 では、「付属書(参考)限界プレーンゲージの形状・寸法」の章立てで解説されているのだが、「これはあくまでも参考であって、規定の一部ではない」と注記されているように、形状仕様については必ずしも変更が許されないものではない。

 当方でのハサミゲージ製作に際しては、以下の点で形状寸法を補正している。
 形状全体のバランスの問題や、寸法規格値等の刻印打刻のための便宜に基づいている。

  片口板ハサミゲージ
     呼び寸法  10 〜 14  長さ(L) 60 → 65
            18 〜 24  長さ(L) 70 → 75
           24 〜 30  長さ(L) 80 → 85



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ハサミゲージの防錆

 ここで主に論述するのは「メッキ処理」の問題である。
 一般的に採用可能なメッキ処理の種類として、ニッケルメッキ、クロムメッキ、硬質クロムメッキ等が
指摘できる。

 ニッケルメッキの場合、年月の経過によりメッキの光輝性が失われるということがあり、また、メッキ層が軟らかなものであるために傷つきやすいという欠点がある。
 しかしながら、無電解ニッケルメッキをベースにその硬度を高める処理が開発された。その硬度は硬質クロムメッキに比べて遜色ない程なのだが、その硬化処理に際して焼き戻し温度以上の温度に長時間晒されるため、ゲージ本体に焼き入れ処理をしていた場合、その焼き入れ硬度というものは意味をなさなくなってしまう。また、無電解ニッケルメッキのメッキ層の厚さの均等性や厚さ寸法のコントロール精度については、ゲージ製作精度を下回るものであるから、メッキ処理だけでゲージを完成させるということは望み得ないことになる。

 クロムメッキの場合は、常温メッキであるから、ゲージの焼き入れ硬度が無に帰してしまうということはない。従前は、先ず銅メッキを下地に行い、次いでニッケルメッキを行い、最後にクロムメッキをして完成するという手順だったらしいのだが、現在は、銅メッキを下地に行うことはなく、ダブル・ニッケルメッキの上をクロムメッキするという方法によって、メッキ層全体の厚さの均一性が保たれるように考慮されている。
 メッキ処理をした場合、ゲージの測定面ではそのメッキ層を除却して寸法仕上げがなされるわけだから、ゲージ測定面は素材それ自体の表面であって、従って防錆については無防備であるということは言える。ただ、ゲージ全体の発錆の危険ということは解決されるわけだから、ゲージ測定部の部分だけの防錆に注意を振り向けるということになる。
 当方で、メッキ処理を行う場合というのは、基準寸法100mm以上のハサミゲージの場合で、その際には「サンド・ブラスト処理」を前処理としてなされるように手配している。
 「サンド・ブラスト処理」というのは、ワーク表面に研磨砥粒を吹き付けて凹凸を形成させる処理なのだが、これによってメッキ層とゲージ母材との間の密着性を高め、あるいはまた、ゲージを扱う場合の「滑り」が生起しにくいものになるよう心掛けている。

 硬質クロムメッキも、この場合はクロム単層メッキなのだが、同様にゲージ測定部のメッキ層は除却される。
 昔、同業他社さんの製作に係るゲージで、ゲージ測定部にメッキ層を残した仕立て上げがなされている例を見たことがある。
 この場合は、メッキ層の厚みを事前に考量して一旦寸法仕上げを行い、メッキ後に、メッキ層厚みを割り込むことがないように寸法仕上げをするという、つまり、寸法仕上げを2回するという方法である。硬質クロムメッキ層をWA砥石・砥粒でラップするというのはかなり困難な作業であり、また、メッキ業者さんの方でも期待通りのメッキ厚のコントロールができるか否かが決定的な決め手になるから、委託先の選定が難しい。
 あれやこれやで、出来上がったゲージはかなり高コストなものとならざるを得ない。

 以上のメッキ処理に対して、いわゆる「黒染め処理」が求められる事例がある。
 「黒染め処理」というのは、ゲージ母材表面に化学的に四三酸化鉄層を形成させる処理のことである。メッキ処理の場合、そのメッキ層厚みはかなり大きなものになると言えるから、実は、その分、表面を丈夫に保つということも言えるし、あるいは、メッキ層が剥がれるということもあり得る。これに対して「黒染め」の場合、母材表面それ自体の化学変化であるから処理の前後を通じてゲージそれ自体の厚みは変わらないし、それなりには丈夫な被膜が形成されるものである。ただ、黒染め処理を行う場合でも、ゲージ測定部の測定面は黒染め被膜は除却されないと精度仕上げはできない。

 以上、要するに、メッキであれ黒染めであれ、表面処理を行っても、ゲージ測定面は環境雰囲気にそのまま晒される、従って、こまめに防錆油を塗布する管理が必須であるという事情は変わらない。


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ハサミゲージの材質と防錆

 JIS B 7420 で規定されているハサミゲージ材質は、「SK4相当もしくはそれ以上」とされている。実際に選択されるべき材質としては、SK4の焼き入れ硬度がHRc60〜62であるところ、SK5でも実質的にHRc60が可能ということでSK5材でも規定違反とは直ちには言えないと解釈され、SK3であれば焼き入れ硬度はHRc62〜64、SKS3ではHRc60〜62である。
 つまり、ハサミゲージの材質というものは、その可能な焼き入れ硬度との関連で規定されるものであり、何故焼き入れ硬度との相関で決まるかと言えば、その焼き入れ硬度がゲージ測定部の耐摩耗性を決定づけるという事情と結びつく。

 この間の事情を要約すれば、炭素工具鋼の鋼種区分はそこに含まれるカーボン量により、そのカーボン量の違いが焼き入れ硬度の違いに現れ、焼き入れ硬度の違いがその耐摩耗性を左右する、ということなのである。

 しかしながら、他方で、そこに含まれるカーボンによって発錆が誘発されるということだから、SK工具鋼をゲージ材料として使用する限りは、防錆の問題はどこまでも付きまとう。

 SKS材の場合は、SK材をベースにいてにクロム(Cr)もしくはタングステン(W)を添加したもので、SK工具鋼に対してある程度の耐銹性が認められる。

 防錆性を意識したゲージ素材の選択として、測定工具等に広く採用されているSUS420J2が可能である。
 SUS420J2は、マルテンサイト系ステンレス鋼で、13%クロム鋼。焼き入れ可能上限硬度がHRc56。焼き入れ硬度が低いから耐摩耗性に劣るというわけではない。
 他に、SUS440Cというステンレス鋼があって、この場合はステンレス鋼中最高の最高のHRc60以上の焼き入れ硬度を実現できるのだが、薄板が入手できないためにハサミゲージ素材としては実務性に欠ける。非常な難削材であるから、これを使ってハサミゲージ製作の技術・技能を確立しようと努力するよりは、ダイス鋼での将来を見通した方が信頼性は高いと思う。

 あるいは、別途の選択として、精密金型材として一般的なダイス鋼が選択できる。
 ダイス鋼の場合は多様な鋼種が製造されており、それぞれの材料特性が発揮されているようなのだが、ハサミゲージ素材として200mm/300mm幅の薄板剤が購入できるから便宜ではある。
 12%クロム(Cr)、1.5%カーボン(C)にバナジウム(V)が添加されたものであるため、防錆性に優れ、焼き入れ硬度はHRc60〜62(上限はHRc64か?)。但し、焼き入れ硬度が高い程好ましいとは言えない。

 なお、SK工具鋼の場合のHRc60とダイス鋼の場合のHRc60とは、数字の上では同じ硬度値なのだが、その意味は違ってくるということは理解されないといけない。


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ハサミゲージの総焼き入れ

 リングゲージや栓ゲージなどでは、昔は高周波焼き入れ等によってゲージ測定面だけに焼き入れ処理を施すということがなされてきたわけなのだが、現在では、総焼き入れ処理が一般的であるらしい。

 ハサミゲージ(あるいは、板ゲージ一般)においても、総焼き入れが要求される場合がある。この場合に期待されていることは、一つは、ゲージ母材が柔弱であると考えられるところ、その材質強化のために総焼き入れを行う、二つには、総焼き入れを行った上でサブゼロ処理を併用すればゲージの寸法精度の狂い(「経年変化」指称されるようであるが)が禁抑され得る、といった点であることのようである。

 私がゲージ屋稼業に従事し始めた頃、板ゲージの焼き入れ処理に際しては、焼き入れ硬化が必要な部分に出来るだけ局限して求められるべき焼き入れ硬度を実現するということを叩き込まれたものである。
 つまり、焼き入れをしない部分は、材料特性として「球状化焼き鈍し」がなされていて非常に安定したものとされており、焼き入れ処理というのはその部分の内部応力の蓄積原因になるから、できる限り焼き入れ範囲が局限されないと経年変化の原因を抱え込むことになる。従って、焼き入れ硬化部分を可能な限り限定された範囲に留め、焼き入れ処理後に「焼き戻し」を丁寧に行うことによって、事後の経年変化原因が緩和・抑制される、というわけである。
 実際、局部焼き入れしたゲージについて、よく寸法変化がもたらされるという事例は、今まで経験したことはない。一般的にもそう理解されているはずなのである。

 熱処理を考える場合、研究書等では、ワークの基準寸法を25mmとするところから始まって、SK工具鋼の場合、その加熱から冷却の際の冷却速度が焼き入れ硬度をもたらすとされている。
 冷却においては、外辺部は急速に冷却されるが、ワークの芯部の冷却は遅行する。ワークの熱伝導率の問題に関わるのだが、ワークの外辺部においてマルテンサイト化が充分に進行したとしても、芯部にあっては、充分なマルテンサイト化が実現しないということになる。これがいわゆる「残留オースティナイト」問題の原因・理由になるだろう。
 ハサミゲージの場合、その板厚というものは4mm〜8mmだから、冷却の不均等さなり遅効性が大きく影響するということは考えにくい。

 従って、ハサミゲージの場合の総焼き入れというものは余り意味がないと思えるのだが、しかしながら、この問題に対するこだわりの原因・理由というものには、「総焼き入れゲージは《剛体》である」という誤解があるのではないかと思われる節がある。つまり、総焼き入れゲージにして、サブゼロ処理によって残留オースティナイトのマルテンサイト化を徹底すれば、それはもう未来に向けて寸法変化が生じない「剛体ゲージ」になるだろうというわけである。
 しかしながら、サブゼロ処理というのは、SK工具鋼の結晶レベルの問題であり、内部残留応力を解消する方法ではない。焼き入れに際して生じる素材の「曲がり」「捻れ」「反り」といった変形結果を解決するために、大きな力を加えて補正するとか、平面研削盤で平面を再仕立てをするとかの外部の力が加わることで、このことが将来的な寸法変位や形状変化の原因にはならないと考えることはできないだろうと思うのである。

 もちろん、総焼き入れハサミゲージにするべき理由なり利点というものがユーザー要求としてあるならば、その要求に応えるべき責務はメーカー側にあることは間違いないところなのだが。


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ハサミゲージの面粗度

 ハサミゲージの寸法というものは対向する測定部の二面間の距離寸法をいうのだが、従って、その対向面それぞれの面粗度によって、寸法の意味が変わってくる。
 面の粗さというのはその表面の凹凸の「高さの差」を意味するのだが、通常、寸法というのはその凸部の先端間の寸法距離をいうわけだから、その凸部の先端が魔損すれば、そのことによって直ちに寸法の変位として現出してくる。
 ゲージの寸法がよく狂うとされる場合、@ゲージの仕立て上がりの面粗度はどれ位か?、Aゲージの焼き入れ部分の硬度その他の諸条件が満たされているか(耐摩耗性の評価)、Bゲージ母材に関して、内部応力の蓄積や偏在をどう見るか、C無意味な外力の付加の有無について、・・・という順番でその原因・理由を追跡していくのだが、この際にも、面粗度についての判断というものは等閑にされがちではある。

 言うまでもないことなのだが、ゲージの測定面の面粗度、言い替えれば表面凹凸が小さければ小さい程好ましいわけで、ゲージ素材が固有する耐摩耗性が十分に発揮されるべき条件の一つにもなる。

 ゲージの面粗度について、 JIS B 7420 は、「最大でも0.2μmRa」と規定されている(「解説」4.9)。

 ゲージ屋の実務的には、SK工具鋼・HRc60に対して、WA・#3000でラップ仕上げされていればクレームが付くことはないのだったが、#3000でのラップ痕を#6000で消除する場合、概ね1μm弱程の寸法の拡がりがもたらされる。旧JIS5級の製作公差が指定されたゲージを製作する場合、#3000で仕上げるということでは、少しく心許ない点があるわけである。


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超硬製ハサミゲージ

 私のところにも、年に1〜2回は照会があったりするのだが、その仕様条件というのが、@形状仕様はJISに準拠する、Aゲージ測定部に、超硬製のチップを貼り付ける、B母材部分の材質指定や熱処理の要否については特段の指示はない、というもので、単純に言ってしまえば、通常のJIS仕様ゲージの測定部焼き入れ部分を超硬製チップに置き換えたものと言える。

 論理的には、母材部分も含めて全体を超硬材で成形すべきことになるはずだが、その方法を採らない場合には、母材部分はSK工具鋼製の総焼き入れで、超硬チップの接合は「ロー付け」する、ということになろうかと思われる。接着剤を用いて接合すれば良いという意見もあったのだが、全く不適なことになるだろう。

 超硬製というものの考え方として、その「硬さ」が耐摩耗性を保証するという点に基づくものであるのだが、その「硬さ」故に、非常にゲージとしての仕立て上げが困難であるということに結びつくのだが、材料特性として、実はさほどの困難になるはずもないのである。

 超硬と言ってもいろいろな種類があるようで、いわゆる超硬材一般で確認したわけではないのだが、超硬材とは複合材で、超硬粒子を結合材で成形したものである。
 従って、超硬粒子に対して直接にラップ研磨しようとすれば非常な抵抗をもたらすだろうが、結合材の方にラップ研磨の作用を振り向ければ、言い替えると、結合材に働きかけて結合をばらけさせ、浮き上がった超硬粒子を毟り取るという方法で、簡単に研削できてしまうのである。最終的には、超硬粒子1個分の厚みで超硬粒子が剥き出しになるから、それに対してラップ研磨で仕立て上げるということになる。
 技法を言えば、ダイヤモンド砥粒を用いた遊離砥粒ラップ/湿式の方式で可能で、つまり、従前技法でダイヤモンド砥粒の粒度を使い分ければ良いだけのことになる。

 従前技法のスコープ内に超硬製素材に対するラップ仕立てが可能であるというわけだから、SK工具鋼製ゲージでは不都合な局面に対して超硬製が準備されるという過程は理解出来るのである。しかしながら、SK工具鋼から超硬へいきなり飛躍するのではなく、ダイス鋼製ではどうか、ハイス製ではどうか、といったことが検討されて然るべきなのだが、従前技法である遊離砥粒ラップ/湿式の技法ではダイス鋼やハイスへ対応できない。


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寸法精度の仕立て上げ

 ハサミゲージは「限界ゲージ方式」すなわち「穴」と「軸」との嵌合(はめあい)に基づく互換性を保証するものであるから、「軸」は規格の定めの範囲内で小さく、「穴」は規格の範囲内で大きく、それぞれ製作されると確実な嵌合が保証される。
 つまり、外径用のハサミゲージは、その製作公差の最小値で仕立て上げられるべきなのである。
 ハサミゲージの製作公差の最小値で仕立て上げられるということは、その製作公差に含まれている「摩耗しろ」を最大のものとすることを意味し、ゲージの摩耗という観点からは、 JIS B 7420 で規定されているゲージの「摩耗限界」に至るまでの寸法差が最大になるから、最も長寿命なゲージに仕立て上がるということになる。

 従って、ゲージの摩耗の問題を検討するに際して、ゲージの素材材質がどう、焼き入れ状態がどう、といったことが問われる場合、更に一歩踏み込んで、ゲージの仕立て上げ寸法関係がどうなっているかが問われないといけない。

 この点については、改めて言うまでもなく、昔から意識されてきた問題で、ハサミゲージ製作に際しての「製作マナー」であるとされてきた問題である。


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いわゆる「ゲージ図面」について

JIS規格型標準ハサミゲージの場合

 よく需要先から「ゲージ図面」を示されて見積依頼なり製作依頼がなされるのだが、その「図面」なるものをよく見れば、JIS7420 B 1997 の「付図」にあるハサミゲージの仕様図なのである。であるならば、わざわざ図面を作成する必要もなく、単に「JIS7420 B 1997 の「付図に依るべし」と言えば良いだけのことなのである。個々の取引事例ごとに図面を作成することが不要となるように、JISで標準仕様を例示してくれているわけだから、それを活用しないという手はない。
 しかしながら、JISの標準仕様というものは、同じくこのJISで規定している標準材質「SK4相当もしくはそれ以上」というものを前提に定められているものであるから、これよりも劣弱な材料を採用する場合、このJISの標準仕様で充分かどうかは別に検討されなければならない。JIS仕様に従って充分大丈夫だということが確証されて初めてその素材が採用できるわけで、不都合が生じた場合は、ゲージ・メーカーの側にその見識が問われかねない。

 「ゲージ図面」で指示される場合に、その「特記事項」として表面処理が定められる場合がある。そもそもSK工具鋼は、その焼き入れ硬度がそこに含まれるカーボン量によって決まってくるものであって、そのカーボン量が発錆を誘引するという関係にあるから、ハサミゲージについて「防錆」の問題はかなり大きな問題になり得る。
 防錆のために「黒染め処理」が求められる場合が多い。
 但し、幾ら「黒染め処理」(あるいは、メッキ処理)を施した場合であっても、ゲージ測定面ではその表面処理が除却されるから、防錆という観点からは徹底したものではない。従って、ゲージ測定面に対しては防錆油の塗布を欠かさないという保全管理が強調されるのだが、なかなか充分には行き届かない問題になっている。
 従って、この問題を解決するためには、表面処理を不要とする素材、すなわち、ステンレス鋼(SUS420J2)ないしダイス鋼(SKD11)を採用すればよいという結論に至る。

 ダイス鋼(SKD11)をハサミゲージの素材に採用するというのは、「防錆」の観点だけにとどまらず、「耐摩耗性」の観点からも勧められる。
 SK工具鋼製ハサミゲージの測定面の仕立て上げはWA砥粒ラップの技法に依るのだが、そのラップ痕というものは鋭利な凹凸を呈しており、言うなれば微細な「刃物」となっている。これに対して、ゲージが適用されるワークの側(軸状のワーク)の研削・研磨もWA(もしくはセラミック)の研削砥石でなされるわけだから、このワーク表面も鋭利な「刃物」状の凹凸を呈している。それらが交互に擦り合わされるのだから、相互に魔損されていくことになる。
 従って、SK工具鋼製ハサミゲージについて、焼き入れ硬度がHRc60のものよりもHRc62のものの方が耐摩耗性に秀でているとか、いっそHRc64くらいの焼き入れ硬度が実現できないか?等といった論議は噴飯もので、耐摩耗性がSK工具鋼(SKS3)に対しておおよそ3倍の性能があって、しかも表面の面粗度の仕立て上げがcBN砥石で行われる場合、WA砥粒やダイヤモンド砥粒の砥粒形状が鋭利な三角形であるのに対して、cBN砥粒の形状は立方体と言って良いから、それによる仕立て上げ面はなだらかなものとなっている。

 
特殊型ゲージの一般事例

 旧く歴史のあるユーザーの見積・発注図面が示される場合、現行JIS形状仕様ではなくて、それ以前の旧い仕様図で示される場合がある。仕様としての違いは、基準寸法区分がそれぞれより細かく設定され、全体形状がスリムなものとなっている。これは、ゲージ鋼板の幅(200/300mm)と長さ(2000mm)から無駄なく切り出せるように考慮されたものと考えられるのだが、現状仕様から見れば、幅が小さい(ゲージの「脚幅」が小さい)ため、現行JIS仕様に読み替えて製作にあたるべきことになる。但し、その仕様がそのユーザー独自の必要判断に基づくものである場合は、ゲージ・メーカーの側で勝手に読み替えることができないことになるから、その点を先ず確認しなければならない。
 通例、現行JIS仕様に拠るということが踏まえられていれば、「基準寸法」とその「公差」が指示されればゲージは製作可能となる。ただし、「ゲージ製作公差」についてはユーザーが独自に設定されている事例が少なくはないから、JIS B 7420 によらない場合には、製作公差表を呈示されないと実際の製作はできないことになる。

 ハサミゲージというと、軸用の限界ゲージ仕様にとどまらず、いろいろな用途目的に従って、独自な形状仕様が定められるべき事例が少なくはない。
 そのような場合、ユーザーの側から要求事項を図示したゲージ図面が呈示されることになるのだが、原則的には、そのユーザー呈示の図面に従っての見積・製作が行われることになる。ただ、そのユーザー呈示の図面が他のゲージ・メーカーによる図面がそのまま転用されたものであった場合、その図面に依れば何か不都合が生じるものであって、「お前のところではどう設計するか?」の暗黙の照会の意味が込められていたり、あるいは、その他のメーカーが提示した見積価格に不満があるために「この図面通りに製作するとして、お前のところでの価格見積はどうか?」という問い掛けの意味が込められていたりして、そんなユーザー側の「内意」を読み取ることに困惑することがあったりする。

 いろいろと「ややこしいこと」が生じがちな場合、当方から「承認図」を作製して提出するようにしている。

 ハサミゲージというのは軸外径を検定するためのものだが、その軸径の真円度を検定するためのものとしてリングゲージが求められる場合も多い。その逆の場合、すなわち、内径検定用の栓ゲージの場合、内径の真円度を検定する栓ゲージに替えて、薄板材を用いて内径検定用の板ゲージを製作する場合も珍しくはない。板ゲージの場合は、原則的に2点間距離寸法の検証という意味が込められ、それに対して、リングゲージや栓ゲージは3次元での形状検定用ゲージであると解することができる。

 内径用の栓ゲージで、その基準寸法が大きなものについては、その重量軽減の目的で「平型栓ゲージ」が JIS B 7420 で規定されているのだが、それでも、外径用円筒研磨盤で研削加工ができるようにかなりな厚さが求められている。JIS仕様では、それでも重量が過大なのである。
 このような場合、板ゲージ屋は6mm以下の薄板材での代替ゲージの製作を試みる。
 3次元形状のものの寸法検定には同じく3次元形状のゲージをあてがわなければならないというのは、いわば「型屋さんの発想」なのであって、板ゲージ屋の発想では、3次元形状のワークの検定要素寸法を2次元に読み替えてゲージ仕様を考案するというのが作風となっているから、この発想の違いというものによってコストの軽減やゲージの取り扱いの簡便さとかの好結果をもたらすのである。



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