三輪測範製作所 ハサミゲージ製作の技能世界

 はしがき
〓本編〓
■ハサミゲージ・案内
  ハサミゲージ案内
  JIS規格の体系 
  ハサミゲージの仕様 
  ダイス鋼製ハサミゲージ
  ステンレス鋼製ハサミゲージ
  キー溝幅ゲージ
■ラップ技法の技能と理論  
  ハンドラップ・概説
  遊離砥粒ラップ/湿式
  固定砥粒ラップ/乾式
  ラップ定盤の話
  ハンドラップの技法体系
■ブロックゲージの話
  ブロックゲージの話  
  ブロックゲージによる寸法検定
  リンギング現象
■熱処理について
  局部焼き入れの技法









シフロキシン


   はしがき



細目次 このサイトの目的

このサイトの構成

ラップ資材の調達




参考文献



このサイトの目的

 旧サイト(現在は、http://miwa-sokuhan.com/)では、日立金属(株)のSK工具鋼(SA1/SGT/YCS3/YG4)の薄板材の生産休止によって、ハサミゲージの素材を再検討しなければならないこととなり、同じく日立金属(株)の製造に係るダイス鋼(SLD)への転換を図ることとなった時点までの技術・技能についていろいろ論じたものでした。それ以降、早いもので、もう4年程になります。

 ワークの素材が変わるということは、それに適用するべき技術・技能が変わらなければならないということを意味し、ハサミゲージ製作技術としての「遊離砥粒ラップ/湿式」の技法が歴史的に確立されてきたところでしたが、焼き入れを施したダイス鋼(SKD11)に対してはほとんど実務的には通用しないため、「固定砥粒ラップ/乾式」の技法を確立することに向かいました。

 技能の転換ということは、実は、大変なことで、その転換が完遂できたか否かの判断は、従前技法である遊離砥粒ラップ/湿式の技法に依るSK工具鋼製のハサミゲージと、固定砥粒ラップ/乾式の技法によるダイス鋼製ハサミゲージの製作と、そのために必要な作業時間はほとんど変わらず、しかも、後者による方が品質レベルは遙かに向上しているという、これら2点で評価されるべきと思います。
 cBN砥石を使った固定砥粒ラップ/乾式の技法は、ダイス鋼製ハサミゲージにのみ対応可能な技法というものではなくて、従前のSK工具鋼製ハサミゲージの製作をも容易にするものですから、であれば、最初から固定砥粒ラップ/乾式の技法の習得に努める方が遙かに有利だと思います。逆に言えば、従前技法に固執し、あるいは従前技法の修得にのみ執着している限り、それは「行き止まりの見えた世界」でしかありません。

 このサイトでは、ハンドラップ技法をある程度習熟された技能者に対してだけでなく、これからこの世界を志そうとする若い世代に向けて、全体像が明らかになるように説明を試みています。残念ながら、固定砥粒ラップ/乾式の技法については、それを教授できる技能者はいないと思われますし、参考にすべき教科書も手引き書も学術的な論文も皆無な世界です。さまざまな問題に対して「自力で」試行錯誤を重ねていく以外には前へ進めない道ではありますが、しかしながら、遊離砥粒ラップ/湿式という技法を修得するよりもいっそう容易で確実な技能世界だと思いますから、チャレンジする意義は大きいと思います。

 そのために、本サイトでは、技法の全体像を明らかにするために、特に「道具」についての説明に重きを置いております。写真も増やしています。
 ハサミゲージ製作の世界というのは、機械力を駆使・活用しての仕立て上げということが全く不可能な世界ですから、徹頭徹尾「手業」による世界です。その「手業」の世界を包括的・体系的に解明し説明しようとするならば、この「道具」についての説明が不可欠です。もちろん、道具を駆使し活用するのは作業者の身体動作であり、その身体動作をコントロールするのはその身体能力であり、認識能力に基づくもので、何を認識し、その認識に従ってどのように身体動作のコントロールにフィードバックさせるか・・・ということになるのですが、こういった議論は今までなされたことは無かったように思います。

 本サイトでは、それぞれのテーマについて現在時点での到達水準を明らかにしていきます。

 なお、旧サイトの時点から固定砥粒ラップ/乾式の技法を確立できるまでのさまざまな試みについて、ブログ(http://ameblo.jp/sokuhan/)においてそのたびに公開してきています。「ゲージ屋の仕事」「ハンドラップの世界」のテーマで記事を重ねてきていますが、記述はHPでよりも当然詳細にわたっています。

 ゲージ屋の仕事に関心を持っていただける場合、「どういった機械設備で製作が行われているのか?」とよく質問されます。
 機械設備といっても、材料切断は「コンター・マシン」、成型は「フライス盤」、穴明けは「ボール盤」、焼き入れは「アセチレンガス+酸素のボンベ・セット」、平面研削は「平面研削盤」・・・といったところでしかなく、この設備体系ではおおよそ劣弱な金属加工業の設備体系でしかありません。金属加工業を営んでいる知人の話では「放電加工機(ワイヤーカット機)があれば望ましい」とされるのですが、私らにとっては、放電加工機で置き換えられる工程は極く限られたもので投資効果はあまり期待できず、帰って、その加工方法がもたらす弊害の解決に難渋することになりそうです。
 ゲージ屋の仕事、特にハサミゲージ製作の仕事というのは、機械力が全く適用できない、最終的な0.01mm〜0.02mmの仕上げ余地をハンドラップという手作業で仕立て上げていくという部分にありますから、その部分の技術技能とそれを支える道具立てがいかなるものかに関心が寄せられそうなものです。しかしながら、道具立てを見せられても、実際にその仕事を担っている作業者以外は全く評価・判断のしようもないですから、「見ても無駄、見せても無駄」ということになります。
 しかしながら、ハンドラップ技法の如何によって、例えば1日掛かりで1個のゲージを仕立て上げられるのがやっとというレベルから、1日で6個〜8個が仕立て上げられるというレベルまで、ハンドラップ技法の合理化・効率化の意味するものが大きいですから、{業としてのハサミゲージ製作」が以下になり立つかは、このハンドラップの世界のありように依拠します。
 従って、本サイトでは、ハンドラップの技法と、その技法を支える道具立てについて、共催に説明しています。
 現代の生産加工技術の趨勢もあって、いわゆる「機械ラップ」を説明した教科書・実務書は比較的多いのですが、ハンドラップ技法について解説した文献はありません。
 ゲージ屋がその技法について明らかにしてこなかったということもありますが、ラップ技術・技能の原理型がハンドラップにあるということが認識されてこなかったという点も大きく影響してきたと思います。ハンドラップ技法が極めて特異な職人技の世界のものと祭り上げられてきたということも言えそうですが、ハンドラップの技術・技法とその論理が「基本型」になるということは、私らの立場からするべき「証明問題」でありましょう。
 その「証明」に、意を尽くしたつもりではおりますが、どうでしょうか。

 更に、もう一つの問題が、仕立て上げられたハサミゲージの寸法精度の検証方法についてにあります。
 ハサミゲージの測定部というのは、基準面とそれに相対する段差面とで成り立つ直方体空間にブロックゲージを挿し込んで、その2面それぞれの平面度と面粗度、2面間の平行度と寸法値を検証していくものですが、言うまでもなく、これは三次元空間の有り様の検証であり、論理的には、ブロックゲージを使えばワン・パスで検証できるものです。
 これに対して、測長機や三次元測定機では、原理的に2点間距離を測定するものでありますから、三次元形状を二次元に読み替えて検定していくものですから、検定方法の独自性の違いが特有の問題を内在させるものです。その点は当然自覚的に解決されてきていることでありましょうから、私らゲージ・メーカーの側からどうこうとは言いにくい問題が生じ得ます。
 しかしながら、世間での評価はいろいろで、「このユーザーは三次元測定機で受け入れ検査を行っている(従って、受け入れ検査が非常に厳しい)、ブロックゲージを寸法基準にして製作しているようなゲージで、自信を持って受け入れ検査を合格すると言えるのか?」というわけです。
 50万円以下で購入できるようなブロックゲージと、非常に高額な三次元測定機とを比較すれば、三次元測定機での測定は圧倒的に正確無比のもので、その結果の信頼性はこれ以上ない無比のものであるとされそうなのですが、それぞれの測定原理が異なるわけですから、その測定原理の違いが測定結果地の意味の違いになってくるわけです。この点は決して看過してよいというものではありません。
 本サイトでは、このブロックゲージにカンする話題を積極的に取り上げています。


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このサイトの構成

 このサイトでは、ダイス鋼製ハサミゲージの製作のための技能世界を体系的に明らかにするという目的の下で、「経験知」と、それを顕現させた「ロジック」を明らかにしようとしています。何か新しい知見を主張しようと固執しているのではなく、従って、何か新しい技術・技能を開陳しようとするものではなくて、従前・旧来の技能に対して能く工夫された道具を活用すべきことを説明しています。ここで説明されている道具や欠こう手段というものはごく一般的に市販されているものばかりですから、それぞれで試行してみることは容易だろうと思います。

  SK工具鋼からダイス鋼へ、遊離砥粒ラップ/湿式から固定砥粒ラップ/乾式へ。

 スローガン的にはこのようなことになるのですが、例えば遊離砥粒ラップ/湿式の技法について、さまざまな文献なり資料に当たってみても、概念的な説明はなされていても、技能的な説明がなされたものは皆無です。機械ラップの世界ではこの遊離砥粒ラップ/湿式の技法が主流として広く採用されていますが、機械の使いこなしのノウ・ハウとして外部には秘匿されているようなことになっています。そのため、文献・資料を幾ら探索しても、「何も説明されていないのと同然」ということですから、ハンドラップの世界から見れば、今日の機械ラップ技能を理解して参考にするということがほとんど不可能です。

 言うまでもなく、ハンドラップの世界における遊離砥粒ラップ/湿式の技法は、この方法による以外にはハサミゲージの製作はできないという判断がなされて、それ故にこそ外部に対しては秘匿されてきました。しかしながら、この方法による以外には他の方法・手段はないと、だれが決めたのか?ということが問われます。
 つまり、他の可能性に対して目を塞ぎ、遊離砥粒ラップ/湿式のハンドラップ技法にあくまで固執して来たために、おそらくは技法として繊細に洗練されてきた結果、困難極まる技法に成り果ててしまった結果、技能の承継それ自体が著しく困難となり、あるいは、ゲージ製作の効率化や改善によるコストダウンができなくなっているようです。
 
 こういった現状を踏まえて、ダイス鋼製ハサミゲージの世界へ、固定砥粒ラップ/乾式の世界へ、道を拓こうとしています。

 学術論文をものにしようとは考えていません。
 また、原理的なロジックを明らかにしたいと考えており、実際の技能の修得や実現について、多くをその技能者の「努力」に期待しております。なぜならば、ここで説明されている技能というものは、あくまで「私の場合」という属人的なものであって、他の技能者の場合どうなるかについてはおおよそ私が想定することができません。「原理的なロジック」がどのように実践されどのような結実をもたらすか、それぞれの場での実践例を積み重ね集積されるべきことと考えます。

 左側の欄に写真を集め、右側の欄(メイン)に記述するというスタイルは、記事のコピーを容易にするための私なりの配慮です。
 左にリンク表を設け、それぞれの記事にジャンプされた場合、そこに「細目次」を設けています。できるだけ記述項目(論題)をきめ細かく設けようとしているのですが、そのために、各記事簡での記述の重複ということが避けられません。煩瑣に感じられるかも知れませんが、ご容赦願います。


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ラップ資材の調達

 このサイトで特に説明している「固定砥粒ラップ/乾式」の技法は、さまざまな道具によって駆使されるものですが、それが「特殊な」「独自な」「オリジナルな」ものではなく、一般的な市販品を使っています。ともすれば、特殊な技法は特殊な道具でなければ実現出来ないと主張されがちですが、あくまで、一般的に入手可能な資材に基づいて技法を組み立てていくということが肝要なことだと考えております。
 しかしながら、ハンドラップの世界の場合、必要とされるものはごく少量でありながら、その種類はかなりな広範囲に及ぶということになるのですが、このような購買需要に対して、うまく対応してくれる購入先というものになかなか出会えません。

 私の場合は、幸いに、その購入先に出会えたのでした。

 〒920-2153
 石川県白山市日御子町ホ7-115
       ヒカリエス   代表: 木村 光紀  
   (T) 050-1293-2245      (F)076-272-3930
    (携帯) 090-7083-9434
   E-mail  kimura2015mitsunori@yahoo.co.jp


 本サイトで摘示しているラップ資材について、上記宛にご照会されれば、ほとんど入手可能です。
   WA/GC/C 角砥石 cBN砥石 ボロンカーバイト砥石 人白砥石
   WA/GC/C 各砥粒   cBN砥粒   ダイヤモンド砥粒
   その他のラップ用資材

   その他広範にわたる研磨材について、当然、取り扱っておられます。


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参考文献 (2016年8月・ページ追加)

 別ページに、新たに「参考文献」のページをまとめた。
 ゲージ屋の技術・技法を習得していくためには必読必須の文献を紹介するという意味ではなくて、私自身の自学自習のために購読してきた単行本を掲記したものである。従って、学問という意味では、決して、網羅的・系統的・体系的な学習を積み重ねてきたものとは言えないものではある。
 従って、この分野での基本文献等が欠落しているとか、学ぶべきことが学ばれていないという指摘は受けざるを得ないし、どうでも良いようなものをわざわざ掲記するまでもないだろうという批判も出てくるだろうと思う。

 しかしながら、街場の片隅でひたすら自助努力で技能の研鑽を積み重ねていこうとする自営職人の立場では、こういった努力を積み重ねていく以外に道はなかったということも事実なのであって、このような「舞台裏」を開けてみるのも、何かの役に立つのかも知れない。

 中学生の頃はいわゆる天文少年であって、天文学(宇宙物理学)の本には親しんできたのだったが、結局、量子力学的世界観に行き着いてしまう。
 同じようなことは、仕事のためとわきまえて「金属学」の書籍に馴染んでくると、その面白さに没入してしまって、ここでもやはり量子力学的世界観の豊穣な世界が広がっていることが分かる。
 卑近な職人暮らしが量子力学的世界と「地続き」であると言うと、「何を大仰で勿体つけた言い方か!」と顰蹙を買ってしまいかねないのだが。

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