ダイス鋼製ハサミゲージ

〓本編〓
■ハサミゲージ・案内
  ハサミゲージ案内
  JIS規格の体系 
  ハサミゲージの仕様 
  ダイス鋼製ハサミゲージ
  ステンレス鋼製ハサミゲージ
  キー溝幅ゲージ
■ラップ技法の技能と理論  
  ハンドラップ・概説
  遊離砥粒ラップ/湿式
  固定砥粒ラップ/乾式
  ラップ定盤の話
  ハンドラップの技法体系
■ブロックゲージの話
  ブロックゲージの話  
  ブロックゲージによる寸法検定
  リンギング現象
■熱処理について
  局部焼き入れの技法











ニゾラルシャンプージェネリック


 ダイス鋼製ハサミゲージ



細目次 標準製作ゲージの品質保

ダイス鋼製ハサミゲージの特質

ダイス鋼についてのカタログ資料

従前技法からの転換




■標準製作ゲージの品質保証

材料・材質
 日立金属(株) SLD ( JIS類似 SKD11 )

適用される仕様
 基準寸法50mm以下の角形ハサミゲージ  4T〜5T
 基準寸法50mmを超え100mmmmのC型ハサミゲージ  6T
 形状仕様については JIS B 7420 に準拠

測定部局部焼き入れ、低温焼き戻し
  フレーム焼き入れ 1,050℃
  低温焼き戻し 150〜200℃
  焼き入れ硬化 HRc58以上

ゲージ測定面仕上げ
  #6000〜#8000 cBN砥石による固定砥粒ラップ/乾式(ほぼ「鏡面」)
  #3000〜#4000 cBN砥石による固定砥粒ラップ/乾式(一般精密仕上げ)

ゲージの寸法値・平行度の偏差
  ±0.2μm以下  (JIS 1級のブロックゲージ・セットでの検定)

『検査成績票』を個別に添付


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■ダイス鋼製ハサミゲージの特質

 その特質の第1は、ナマ材の状態でも非常に丈夫な材料であるということにある。ナマ材の硬度をHRcで計測すると、HRc16〜18となっている。いわゆるSK工具鋼の場合では、ナマ材の硬度はHRcでは0以下で測定値としては出てこないから、硬度の差は歴然としている。
 この差はどういうところに現れてくるかというと、ブロックゲージでハサミゲージの寸法を検証する場合、一般のSK工具鋼製の場合にはその母材の「弾性」に影響されて、±0.5μmの寸法差がうまく読み取れない場合が生起するのだが、ダイス鋼製の場合は、そのような曖昧さに左右されることなく、±0.2μmの寸法差がきちんと読み込める。±0.5μmとか±0.2μmとか言ってみたところで些少なことだから、ゲージの精度条件を大きく左右するものではないだろうと評する向きもあるのだが、この点を無視して「鏡面」とか「リンギング」といった論点は成り立たないから、いっそう高精度なハサミゲージを需めるユーザーにとっては決して看過し得ない材料特性である。
 もちろん、改めて指摘するまでもなく、金型材料として旧くから採用されてきていた材料であるから、ハサミゲージの材料としての適否が更に問題になるということは有り得ないことである。

 その特質の第2は、焼き入れ処理した場合の耐摩耗性がSK工具鋼と比べて2〜3倍とされている。
 通例、工具鋼の耐摩耗性とは、その焼き入れ硬度によるとされ、焼き入れ硬度の高低はそこに含まれるカーボン量によるとされているのだが、ダイス鋼の場合は、SK工具鋼とほぼ同じHRc60の場合であっても、その硬さはマルテンサイトではなくてクロム炭化物の硬さであり、バナジウムの効用がもたらす耐摩耗性である。
 ハサミゲージが適用されるワーク加工物にクロム鋼その他の特殊鋼素材の比率が高まり、ハサミゲージの耐摩耗性への要求レベルが上がって来ている現在、旧前のSK工具鋼製では事態の改善が図れないことは言うまでもない。

 耐摩耗性に秀でているということは、別な言い方をすれば、ラップ加工が非常に困難な材料であるということである。実際、旧前のハサミゲージの製作技法であるWA砥粒を用いた遊離砥粒ラップ/湿式の技法では全く歯が立たない。
 もっとも、ダイス鋼よりも硬度が高い超硬に対しては、この遊離砥粒ラップ/湿式の技法が十分に通用するので、SK工具鋼製には満足しないユーザーに対しては超硬製が提供されてきてはいる。技法の違いが歴然としているから、超硬製ハサミゲージの製作ができるゲージ・メーカーが、ダイス鋼製ハサミゲージを製作出来るかと言えば、直ちには出来るということにはならないだろう。

 その特質の第3は、ダイス鋼は言い替えると12%クロム鋼だから、非常に錆びにくい材料であると言える。
 ステンレス鋼の場合、13%クロムからステンレスと言える耐銹性を発揮するようになると言われているのだが、ダイス鋼の場合にもステンレス鋼と同じような傾向性を帯びると言えるような感触を持っている。
 いわゆるステンレス鋼の「自己修復性」の問題であって、ステンレス鋼の表面で防錆能力を発揮しているのが酸化クロム層なのであるが、この酸化クロム層が物理的に破壊された場合でも新たに生成される酸化クロム層で補充されるということを意味するのだが、ダイス鋼の場合も同じような傾向性を指摘できるのではないかと考えている。例えば、ブロックゲージをゲージの校正等に使用して表面に微細な傷が入った場合でも、当初は鮮明な傷も、経時的に徐々に薄れていくことが視認できるわけである。

 その特質の第4は、経済性の問題である。
 ユーザー(購入者)にとっては、丈夫で摩耗せず錆もせずに寸法変位もきたさない(形状安定性が秀逸)という利点があるのだが、ハサミゲージ・メーカーにとっても、適切な加工・仕立て上げ手段を準備することによって、SK工具鋼製の場合とほとんど変わらない製作効率が実現できる材料なのである。
 ダイス鋼製ハサミゲージの採用・購買によって、コストは劇的に下がる。
 
 従って、結論的には、SK工具鋼製ハサミゲージは、「終わった」のである。


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ダイス鋼についてのカタログ資料

 ダイス鋼製ハサミゲージを言う場合、それは日立金属(株)製の「SLD」という呼称名で流通しているダイス鋼の板材をいいます。JISの類似鋼種がSKD11という標準的なものですが、SLDにはSLDとしての特長があって、同一視して良いとは必ずしも言えないものです。

 ダイス鋼製ハサミゲージの製作に乗り出した当初は、以下の日立金属(株)の発行されているカタログ資料に全面的に依拠したものでした。
 簡にして要を尽くしての記述は、読み返す度に、何らかの示唆を与えてくれて、問題解決のために背を押してくれたものでした。

 SKS3やSK3といったSK工具鋼とダイス鋼やハイスといった鋼種との比較検討が良いと言えるる資料です。SK工具鋼とそれ以外のものとの違いがはっきりと把握できます。



 *注記*
 以前、ここで日立金属(株)発行のカタログ資料をPDF文書で掲載させていたのでしたが、容量が半端なく膨大なものでしたから、リンクを解除しました。
 その代わりと言ってはなんですが、日立金属(株)等のHPへのリンクを設けて、そこを参照していただくようにしました。行き届いた材料物性についての知見が得られます。なお、SLDは、製品種別(素材分類)は、「YSS冷間加工用工具鋼」と指称されています。


        日立金属(株)のHP      →http://www.hitachi-metals.co.jp/
        日立金属工具(株)のHP   →http://www.hitachi-metals-ts.co.jp/


 SLD(JIS:SKD11類似)についての詳細な資料になります。
 実務的には、専門書を参照するよりも適宜なものがあります。
 技能開発中は不断に参照しました。

 なお、ダイス鋼と一口にいってもいろいろな鋼種が準備されており、最高の金型用素材とされる「SLD−magic」や、」従前のフレーム焼き入れでの局部焼き入れを可能とする8%クロム・ダイスというものがあるのですが、残念なことに、ゲージ鋼板仕様では一般的な板材として販売されていないようです。従って、ゲージ鋼板仕様で鋼材店でいつでも購入できる素材というのは、SLDに限られてきます。




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従前技法からの転換

 通常のSK工具鋼製ハサミゲージについて指摘される問題点として、@材質として柔弱な側面がある。A耐摩耗性に満足しきれない。B発錆が防止できない。といった諸点がありました。
 しかしながら、JISの規定ではハサミゲージの材質について「SK4相当もしくはそれ以上」とされているところ、SK3ないしSKS3で製作されていれば必要かつ充分な材質で製作されていることになり、また、これらに替わりえる材質はないということもあって、SKS3が指定されたりもしているのが現状ではありました。その「改善」として、総焼き入れゲージとするとか、ゲージ母材面を黒染め処理するとかの「ユーザー要求事項」が受け入れ条件とされてきたりもしています。このような付加処理が求められた場合、ゲージ・メーカーの側から言えば、これらの付加処理やその処理に伴う技法上の手間暇は製作コストになりますから、そのコストに見合うだけの価額が補償されれば、別段、「できません」という理由はないことになります。

 ゲージ・メーカーの側からの発想では、ゲージの価額というものはコストの積み上げで決まるというのが基本的なスタンスですから、ゲージ・メーカ側のコスト意識と、ユーザー側からのコスト削減の要求との間での「溝」は深いものがあります。
 この「ジレンマ」の解消のためには、SK工具鋼製にこだわることを止めて、別異な素材の採用を検討すべきではありました。
 日立金属のSK工具鋼(ゲージ鋼板仕様の薄板材)製造からの撤退という事態を承けて、ダイス鋼製への転換に踏み切らざるを得ないこととなりましたが、このことは、ゲージ業界にとって(ユーザー・サイドにおいても)「逆風」ではなくて、改善・改革のために背中を押す「順風」と言えば言えるでしょう。

 ダイス鋼の機械加工に際しては、従前のSK工具鋼に対してと全く同じに対応できます。コンター・マシンによる「切断」、ボール盤による「穴開け」、グラインダーによる「研削」、フライス盤による「切削」のそれぞれに関しては、加工スピードを低速にするということで処理可能です。ただ、ダイス鋼の耐摩耗性が大きいせいもあって、刃物の等の「摩耗」「ヘタレ」は大きくなることはやむを得ません。平面研削盤による研削の場合は、SK工具鋼の場合はWA砥石(もしくは、いわゆるセラミック製砥石)を使いますが、ダイス鋼についてはGC砥石を使えば研削可能で、cBN砥石を使わないと研削できないというわけではありません。但し、そのワーク(ダイス鋼製ハサミゲージ)が総焼き入れされていて、その焼き入れ硬度がHRc60もしくはそれ以上という場合、GC砥石で研削可能かどうかは分かりません。

 大きく違ってくるのは、「焼き入れ」とラップ加工技法です。
 「焼き入れ」については、ハサミゲージの場合、測定部に対する局部焼き入れが最も便宜で、」勝、必要充分な処理であるのですが、SK工具鋼に対するそれと全く同じというわけにはいきません。SK工具鋼に対しては、言わば「瞬間芸」によってHRc60の焼き入れ硬度は確保されるのですが、ダイス鋼の場合は、その材料物性によって独自な技法が求められます。
 その「独自な技法」というものはどういうものだるか?が難題で、普通でも、フレーム焼き入れに関して丁寧に解説した熱処理教本というものはありませんから、ワークを加熱する、冷却するというプロセスを一つ一つ解析する以外には無くて、その意味では、全くの「職人芸」になります。続にいう「経験と勘」に依ります。
 この点に関しては、いろいろな考え方や実践例が成り立つでしょうから、「これで決まり」といった一義的な技法が成り立つものであるのかどうか、未だに解決できていない難問であり続けています。
 もう一つの「ラップ加工技法」については、本サイトの「固定砥粒ラップ/乾式」の技法を解説したページを参考して下さい。この点に関しては解決済みです。


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