ハサミゲージに関するJISの規定

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シフロキシン


 ハサミゲージに関するJIS規格の話

 細目次 ■寸法精度関係

■材質について

■焼き入れの問題





■寸法精度関係

 量産部品の生産において、ハサミゲージを使ってその仕上がり寸法を検証するという作業の持つ意味というのは、その生産部品の特定個所の寸法値が、その製作寸法値の許容値幅の最大値を超えてはおらず、同時に、その最小値を割り込んではいないということが現に保証されるということを意味する。
 ワークの製作寸法値の許容値幅というのは、ワークの生産数量全体において寸法のバラツキが一定の範囲内に収められているべきということであって、そのことによって部品としての「互換性」が保証されるということになる。
 このような、ものづくりのあり方を「限界ゲージ方式」といい、各部品の「互換性」を保証する大量生産方式を支える原理となっている。

 どの製造会社で、あるいは、どの工場で生産した部品であっても、それぞれの「互換性」が保証されたものであったならば、問題なく整合するということになって初めて、製造工程とその組み立て工程とが相互に分化独立させることが出来るということになる。

 大量生産方式を保証する「限界ゲージ方式」に対して、単品を作り上げる方式というものは特に規定されていない。Aという軸に対してBという穴を製作する場合、Aの軸径を先ず製作して、その軸径に合わせてBの穴径を加工するか、Bの穴径が先ず製作されてその穴径に合わせてAの軸径が製作されるか、その時々の事情による。

 ワークの製作許容値幅というものは、次の規格に定められている。
   JIS B 0401-1 -1998 第1部:公差、寸法差及びはめあいの基礎
   JIS B 0401-2 -1998 第2部:穴及び軸の公差等級並びに寸法許容差の表
 この規定に基づいて、ゲージの製作公差等が定められている。
  JIS B 7420 -1997  限界プレーンゲージ

 「限界プレーンゲージ」という指称名辞はこのJIS規定において初めて定められたもので、「(内径用)プラグゲージ」「(内径用)棒ゲージ」「(外径用)リングゲージ」、並びに「(外径用)ハサミゲージ」を包括する一般名詞とされている。
 ハサミゲージの製作に際しての製作公差は発注元から特に指示がなければ、このJIS B 7420 に準拠して製作される。

 JISの建前に基づくと、このJIS規定に準拠してゲージが製作される場合、製作されたゲージにJISマークを表示することができるはずなのだが、ハサミゲージに関しては、このJISマーク表示を認許するべき審査システムがまだないということで、表示はできないというのが現状である。(栓ゲージ等については、審査システムができているという話を聞いたことがある。)

 なお、JIS規格というものは、穴と軸との「嵌め合い」の関係を規定するもので、その「嵌め合い」のあり方に応じて、a〜zcの28段階に区分されている。25 h7 とか 32 g6 といった場合の[h][g]が基礎となる寸法許容差のゾーン表示になっている。軸用のハサミゲージの場合は英子文字で、穴用の場合は英大文字で表記される。内測用幅ゲージ(いわゆるキー溝幅ゲージ)の場合も、プラグゲージに準じて英大文字で表記されるのが一般である。

 一方、穴と軸との関係が厳密な嵌め合いの関係にない場合どうするかという問題が残る。

 一つには、このような場合に備えて、次の規格が用意されている。


 JMAS 4005:1998  JIS B 0401(寸法公差及び嵌め合いの方式)にない公差に          対する公差等級の決め方

 JMASとはJapan Precision Measuring Instruments Association Standard なのだが、日本精密機器工業会が定めた公的規格であって、ワークの寸法とその公差から公差等級を求め、その求められた公差等級に基づいて JIS B 7420 に規定する該当値に従ってゲージの製作公差が決まるという繋がりになっている。


 もう一つは、ユーザー(ゲージ発注元)が独自に定めたゲージの製作公差である。
 この場合、例えば、製作するべき軸の径が25±0.5であったとする場合、最大で25.50mmを超えることがなく、最小で24.50mmを下回ることがないようにしたいということだったとする。
 この場合、仮にユーザーからのゲージ製作公差の指示がなければ、JMAS 4005 でIT値を求めればIT15級ということが分かり、次に、JIS B 7420によると、
 通り側が  基準寸法 25.50 に対し、-0.0615/-0.0825  (25.4385〜25.4175)
 止まり側が 基準寸法 24.50 に対し、+0.0105/-0.0105  (24.5105〜24.4895)
ということになるから、特に通り寸法について言えば、ユーザーの見込みでは25.45mmに仕上がったワークは当然合格させるべき寸法であるはずが、このゲージでは、ワーク径が大きい(だから、不合格)ということになるだろう。
 こういう、いわば「思惑違い」が生じ得るから、充分に留意されるべき問題ではある。

 規格に関する問題として、残された問題は、現行JISでは、IT5級のゲージの製作公差が定められていないという点と、いわゆる「検査用」ゲージの規格が省かれているということがある。言い替えれば、現行のJIS規定は「工作用」ゲージに限定されている。


 従って、特に「検査用」という指示がなければ、JIS規定に従っての「工作用」ゲージが製作され、IT5級に該当する公差の指定がなされたものについては、1997年改定以前のJIS規格に定める「工作用」ゲージが製作される。
 考え方の問題なのだが、現行JISの規定によって旧JISが全面的に置き換えられているとすると、IT5級のゲージや「検査用」ゲージについてはそれに該当するJIS規定がないわけだから、ユーザー(ゲージ発注元)の特別な指示が必要であるということになろう。そうではなくて、IT5級のゲージや「検査用」ゲージについては、それに該当する旧JIS規定がなお維持されていると考えれば、現行JIS規定の欠落部分を旧JIS規定で埋め合わせるということになるだろう。


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■材質について

 JISの規定によれば、ハサミゲージの材質は「SK4相当もしくはそれ以上」と定められている。
 具体的には日立金属(株)のYG4が採用されてきた。
 YG4を採用する場合、次項で説明するように、焼き入れ処理を行うとHRc60が実現される。別な言い方をすれば、HRc60の焼き入れ硬度が保証されるように作られた鋼種であるということなのである。HRc60の焼き入れ硬度に於いて、その材質として最高の性能品質が実現されるということである。

 SK4以上の鋼種として、SK3やSKS3が採用される。
 SKS3(日立金属(株):SGT)は、リングゲージや栓ゲージで採用されるべき鋼種としてJISに規定されているのだが、これは世情では「耐磨不変鋼」と指称されているように、焼き入れ歪みが比較的小さく、焼き入れ後の経年変化が比較的小さいと認められていることによる。ここで「比較的」と断っているのは、秋入れ歪みはやり免れがたいし、経年的な変化がないとは言えないからである。
 ハサミゲージでSKS3が採用される理由は、やはりSK4と比べて耐摩耗性に優れているとみなされるからで、SK4に対して3割程度の耐摩耗性の向上が図られていると評価されている。
 SK3(日立金属(株):YCS3)の場合、同じSK3種鋼といいながら、その焼き入れ硬度がHRc64に至るからで、ハサミゲージでの測定部のハンドラップ仕上げではかなりな労苦を強いられる。従って、SK3が要求された場合、むしろSKS3で製作するという判断がゲージ屋ではなされることになる。

 日立金属(株)が製造するSK工具鋼では、いわゆる「球状化焼き鈍し」がなされていて、素材としての形状安定性に優れ被加工性にも優れた材料であるから、ゲージとして製作される素材としては最も相応しいものであると言える。

 しかしながら、現実として、日立金属(株)では既にSK工具鋼(板材の場合。丸材については製造が継続されている)の製造から撤退されているから、従前通りの材料入手が出来なくなっている。


 他の製鋼メーカーによる代替製造がなされているのかどうかはよく分からないでいる。

 SK工具鋼製のハサミゲージという「原則」から離れて、別な鋼種が活用できないかが以前から問われてきていた。
 一つには、SK工具鋼はカーボン量が高いから、発錆を誘い込みやすい。 ゲージ測定面で発錆すればそのゲージは廃棄を免れないというのが原則であるから、ゲージの保管(保全)にかなり細心の注意が強いられる。
 二つには、幾らSGTが「耐磨不変鋼」と入ってみても、ゲージを適用すべきワークの材質や加工性状によっては、その耐摩耗性に不足するという事態があるということである。机上で考えると、ハサミゲージの測定部を、通り部はワークは通過し、止まり部で止まるという理屈であるから、ゲージ測定面とワーク表面が直接擦り合わされることはないと考えられそうなのだが、実際の使い方は、通り部を通過したワーク軸径に対して、止まり部で止まった状態で幾分押し込むような力を加えながら軸径に沿って半周回すという検定方法が採られる。ゲージの素材が柔弱であれば、止まり部を押し込んだ場合にそのままワーク軸径を掬い込んでしまうということになるし、半周回すことによってワーク表見とゲージ測定面が直接摺り合わされてしまう。「総焼き入れゲージ」というのはゲージ素材の「弾性」を小さくしようという目的もあるのだが、その素材の「耐摩耗性」に変わることがないから、根本的な解決や改善は果たしがたい。
 
 このような問題点を踏まえて、SK工具鋼以外にゲージに採用できる鋼種を考えた場合、耐摩耗性ということを考えれば刃物用に活用されている鋼種に着目して、耐銹性を考えるとステンレス鋼(SUS420J2)が、耐摩耗性と素材強度を考えるとダイス鋼(SKD11)が、その候補となる。
 これらの選択は、別段、JIS規定に違反するというものではない。

 鉄鋼材料の教科書等を参照すると、さまざまな鋼種が開発され製造販売されていることが分かるのだが、それらのどれでも一般消費者として購入できるかというと、必ずしも購入は容易ではない。受注生産であって、かなりまとまった量でなければ製造に応じてもらえないことはむしろ自明な事情であるだろう。
 板厚3mm〜8mm(1mmとび)程度の薄板材で、いわゆる「ゲージ鋼板仕様(幅:200mm/300mm、長さ2000mm)のものとして提供されるかどうかがハサミゲージ製作に当たっては必須の素材条件になる。鋼種の要件のみが問題になるのではない。



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■焼き入れの問題

  (書き掛け中)



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