渋滞のイライラは、国を違えても同じだった。
私は友人から買ったミニ・クーパでの通勤に見切りをつけ、船に変えた。
あ〜、どうしてもっと早く気がつかなかったんだろう・・・。
こんなに贅沢で気持ちがいいのに。
河のほとりの景観は、絵画のように美しい。
散歩する老夫婦やジョギングに一息つく若者、駆け回る犬、
よちよち歩きの幼子と、それを見つめる瞳が本当によく似合う。
Jetty周辺の光景は、私の心のファインダーを騒がせ喜ばせた。
都市を廻り込むことで、一時間以上にも及んでいた通勤時間は、
船を使い、河を横断することにより半分になった。もちろん渋滞なんかない。
私は浮いた時間を芝生の上で過ごしたり、桟橋を歩いたり、
時にはジョギングに混じる事もあった。
普通、朝早くからこんなに和んでしまうと、もう会社には行きたくないと
思うものだと思っていたのに、早起きの充実は一日の元気の源になるのだと
知り、驚いた。
swan riverと呼ばれるその河は、西オーストラリアの動脈であり、
その名の通り白鳥や黒鳥が優雅に泳いでいて、河の大きさやせせらぎの
波並は湖を思わせた。
景色の色が毎日微妙に違う、そんな朝に私は飽きなかった。
その日、前日の大雨のせいで河は少し濁っていたけれど、
空気はいつになく澄んでいた。
濡れた芝生には寝転ばず、朝日が乾かしてくれた木製のベンチに座り、
仲睦まじい白鳥を眺めながら、私は“みにくいあひる”を想っていた。
美しい光景や平和な情景に見入ると哀しくなるのはなぜだろう・・・。
数々の日本での暗い影に陥る。
あひるは どう転んだって あひるだ ・・・・
こう心に想う時、自分がどんな顔をしているか、私は知っていた。
誰にも見せない、見せたくない一人きりの時だけにする表情。
私しか知らない私・・・。
swan riverを見つめつづけた。
いつも利用する船が桟橋を離れてCityに向かって動き出す。
顔見知りになったboatmanが私を見止めて不思議がる。
目があって我に返り、“今日は仕事サボり!” という思いで大きな×を
腕で描いておどけると、彼は親指を立てて私に突き出し、大げさに笑った後、
スピードを上げた。
一緒になって笑い手を振ると、涙が込み上げてきた。
船が小さくなってゆく・・・。
一人ぼっちだ・・・
私はしばらくたたずんでいた。
南の街とCityをつなぐ船が何度か往復を成し、太陽が頭上に昇りきり、
影がもっとも小さく私を表現した時、周辺が甘い匂いでいっぱいになった。
目を閉じてその匂いを思い切り吸い込む。
ベリー・・・系?
ストロベリーほど甘ったるくなく、クランベリーほど頬を刺さず、
ラズベリーほど深みはなく、きっと・・・ブルーベリー・・。
そういえば近くにパン屋さんがあったっけ・・・ そろそろ帰ろうかな・・
ブルーベリーのパンでも買って・・
どんどん強くなるその甘さは、私を子供に還らせ、無邪気というオーラでくるみ、
笑みを呼んだ。
ずっと目を閉じたまま敏感になった嗅覚、私は甘い匂いを十分感じ、
包まれていた。
全てを信じていたあの頃を懐かしみながら、心の傷を撫でながら、
アヒルを想いながら悲しみを幸せに切り替えながら、ブルーベリーの甘さに酔う。
甘い、本当に甘い香り・・・。
なんだかとても優しい調べが流れ込んできて、まるで血液が犯されたかの
ように体中に甘い液体が流れ、気が遠くなってきた。
そのまま眠りこけそうになりながらも、近づいてくるエンジン音に促されて、
私はゆっくりと目を開けた。
仕事をサボった昼下がり、swan riverを背景に、
ブルーベリーの香りに包まれながら
私達は――
・・・・
――出会った。
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