BY 月華美心  
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20010911



夏の終りを信じられぬまま、知らない間に秋さえも通り過ぎ、
気がつけばこんなに寒い感覚が私を取り巻いていた。
もう、剥げたペディキュアを塗り直す必要もないのだと、
足を投げ出してベランダで爪を切る…。
冷たい…風。  夏はとっくに――終わっていた。

友梨の否定的なアドバイスを浴びていたのは、オープンしたてのハワイアンの
お店で、ピーチのスムージーに、ハマッていた頃だった。

「だから、やめときなって!だいたいそんな出会いでいい男いるわけないじゃん!きっとオタク系で、くら〜くて“もてない君”だよー。」
「やっぱそうかな〜?」
「そうだよ〜!メグ・ライアンの映画じゃあるまいし、
まっ100歩譲って相手役がトム・ハンクスに似てたとしても、
あたしゃ遠慮しとくわ。でもブラピかキアヌだったら考えるな〜。
あー智恵は、面食いじゃなかったっけね。」
「っていうか、本当にいい人そうなの。」
「メールだったら、どんな風にもなれるわよ。智恵だってとっくに
30過ぎてるくせに28とかいって、既に演じてるじゃない。」
「・・・・・」
「いやいや、責めてるわけじゃないのよ。このまま画面の向こうの王子様で
おいといた方が、幸せだって!」
「そうかな〜。」
「そう!」
友梨の言葉は、もう一人のわたしの声でもあった。

正直言ってろくな恋愛をした事がない。
私にとって苦い思い出は、きっと相手にとってもそうに違いなくて、
大きな痛手がないかわりに中途半端な傷の多さのせいで、
私はいつもズキズキしていた。
パソコンの中での恋愛は、そんな私にこれ以上傷を増やす事もなく、
純粋な幻想を拡げている。
1%のハッピーエンドに期待を寄せながら・・・。
抱えていた不安や弱さは、私も相手も現実で行き場を失っていて、
同じ秘密の場所で疲れを癒す事が許されていた。

有久とのメールのやり取りで起こりかけていた気持ちの高ぶりを、
ただの錯覚ではなく、真実と信じて疑わなかったのは、活字と共に運ばれてきた
“かすかな心の声”が聞こえたからだ。
私も同じサインを出していた。
静かで孤独な薔薇と鷹・・・互いにしか届かない声を交換していた。

        ―― タスケテホシイ ――

私たちを繋いでいたのは聞き逃さなかったこの“無音の絶叫”。
上手くいっていた。
そう・・ 上手くいっていた。
あの日まで――。

「シカゴに行く事が決まった。」
「シカゴ?」
「前から話があったんだけど、命が惜しくて躊躇してた・・・」
「え?何?どういう事?」          
  ―― じゃあもう惜しくないわけ・・?
「俺は勝ちに行く!」

善と悪に携わる有久の仕事は、彼の中の正義を披露するのに
完璧な舞台だった。
大きな事件ほど情熱が湧きあがり、彼は華麗な推理と調べ上げた
莫大な情報で悪を糾弾し、権力を誇った。
しかしその度に秘密の場所で絶叫していたのを私は知っている。

有久は戦いに夢中で気付いていない。
悪の中の善を見る事・・善の中の悪を認める事・・
そしてこの世に ――善も悪もないのだということを――。
戦いは己の中にのみ起こっているもの。
強さの中の弱さ、弱さの中から生まれる強さ。
ずっと野ざらしになっていたハートを見つけたのは私。
彼の叫びを聴いたのは私。理解できるのは私だけ。

「会いたい・・行く前に・・」

そう結ばれていた文字はきっと“さようなら”の意味。
わかっている・・何もかも・・・。
私は・・私に会いたかった。
「ええ・・私も会いたいわ・・」


オープンテラスから港が見えるそのレストランを指定したのは彼。
有久はここでよくキーを叩くと言っていた。
本当は・・どんな人なのだろうか?
友梨の言うように画面の向こうの王子様で終わった方が
良かったのかもしれない。
嘘で固めた全く架空の人物なのかもしれない。
あーでもそれを言うなら、ここに座っている私自身が“嘘”だ。
恐い・・・すごく恐い。
私は私に会うのが恐い。
止まっている貨物船が涙に沈みそう・・・。

「ちえさん?!」

背後から名前を呼ばれて身体が縮んだ。声が私をつかむ。
――神様!私幸せになりたいの。

振り向いて彼の瞳を捕らえた。
私達は多分・・・期待を裏切ってはいない。お互い――。ビンゴ!
有久はめちゃくちゃカッコ良かった。

背中を丸め、携帯の小窓に向かってちまちまメールを打っているような、
小さな男達にうんざりしていた私は、どっしりとした彼の余裕と、
うっとりするほど練りあげられた野望に、完全に魅了されていた。
明らかに女慣れしていると見られる小さな嘘と、見え透いた私への賞賛は、
かえって私を解きほぐし、会話を弾ませる。
笑い声と共に襲われる不安。
押し込めていた無音の絶叫は港のNoiseにかき消され、
助かりたかった籠の中の2人はもう助かりはしないのだと気付いて
刹那に委ねた。
その日から・・・何度か、彼の心臓の音を聞きながら――眠った。

「これから忙しくなる・・・」
その言葉を最後に彼からのメールが途絶えた。 
もう、シカゴに行ってしまったのだろうか?
それより・・生きているのだろうか・・・。

何も言わずに消えてしまったのは私の為ですか? あなたの為ですか?
誰と付き合うより、自分と付き合っていくことの大変さを私達は思い知った。
だからもう  会えないのかもしれない・・。

しばらくパソコンに逃げ込むのは辞めよう。
私が愛した人は一体誰だったんだろう?
久しぶりにTVをつけて、もう一つの画面の向こうに出会った。


   2001年9月11日
   プライドという名を掲げたまま、そのビルは包まれる炎に堪えていた。
   気高き鷹は最後まで意志を持ち、決して弱さを見せる事はない。
   寄り添うもう一つの“同士”は存在する価値の淋しさに堪えるに辛く、
   罰を受けるように尾翼に突き刺され泣いている。
   気高き薔薇は最後まで孤独を選び、永遠の自由を手に入れてゆく・・・。
   自らを痛めつけ、焼き尽くし、2つの塔は初めて悲鳴を上げて
   ――崩れていった・・・。


私は有久のことが忘れられない・・・・。

 

 

 

<まりんの処方>

そして…葛藤という戦争が始まったのですね。
崩壊された、ガレキの中で何を叫んでもいいと許しがでても 、
きっと彼は黙って目を閉じる事でしょう。
こういうタイプの人はあまりに優しくされたり、幸せを感じてしまうと、
いたたまれなくなって消えてしまいたくなるからです。
GETする方法があるとしたら、彼以上に大変な女になること。
わがままで、あばずれで、攻撃的で、破壊的で…
彼はきっと興味を持つでしょう。
自分が大変な人は、もっと大変な人を引き受けたがるものだからです。
こんな低レベルな恋愛ゲームの参加…望んでいますか?
こういった、共依存はお互いの成長をstopさせるだけです。
彼女は“忘れられない有久”に執着しているのではなく、
助けてあげられなかった無力な自分、傷つかない事を優先していた自分、
怖れの中に入って分かちあえなかった自分に執着しているのです。
前に進みたければ、そんな自分に気づき、癒す事。
そうすれば、もうこういうタイプに惹かれることはないでしょう。
もしも、彼への思いを、真実と呼びたいのであれば、
自ら去っていった彼の背中に、愛と信頼を送れるはず。
なんで?どうして?あれは何だったの?私はどうなるの?
そう感じるのなら、 それは、エゴイスティックな自己愛です。
崩壊の後に訪れるものは再生。ガレキの前でたたずんでいても、
戦いにいっても再生はされません。
愛と信頼そして新しいヴィジョンをもって、自分自身を創造してください。

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