BY 月華美心  
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不実



高いビルの淵に立って、 空を歩くように足を前に進めると真っ逆さまに
風が滑った。
落ちていく肉体に抵抗するとピクンと身体が我に返る。
悪い目覚め…。
重く苦々しい気持ちのまま身を起こすと、
まるで地面に叩きつけられたみたいに体が痛い。
もつれた髪の毛に指を入れ、かきあげた感触が今までとは違った。
「そっか…髪…切ったんだっけ――」
短い髪を無理にくるくるとからめとってみた。

潔い決心なんて私にはこれくらいの事――。
思いきって仕事を辞めるより、独りで傷心の旅と洒落るより、
想い出と共に伸びていった髪をバッサリと切り落とす事で断ち切れた。

断ち切れた?
朝っぱらから、こんなに涙が溢れているというのに…
寂しさや悲しさは大きければ大きいほど遅れてやってくる。
あれから、もう何日が過ぎたのだろう。

 
「色々考えて…こうした方が君の為だと思って…」
目の前に鍵を差し出されて、自分が束縛の中で安心し切っていたのだと
初めて気がついた。
突然に鎖を解かれても何処へ行っていいのかわからない。

「君の為って…ご自分の為なんじゃないですか?」
はがゆさが泥沼へと導いていく。
「きついな。だけど君だってこのままでいいとは思ってないだろ?
まさか、僕と結婚を望んでたとか?」

かつて痺れるような吐息を吹きかけてくれた同じその口元から、
こんな切り裂くようなセリフを聞こうとは――
腹立たしさで何もかも彼の妻にぶちまけてやりたい衝動にかられた。
ずっと保ってきた平静と優越が、裏切りによって剥がれていく。

「なんだか、いやな終わり方ですね。」
「いい終わり方なんてあるのかな。」

言葉を発する度に嫌みの掛け合いになった。
日々の少しずつのズレに目を瞑る事で、結果大きな歪みとなる。
彼が妻と犯した過ちのように――。
 
「二人の間で起こった事は必ず五分五分さ。二人が発端なんだからね。
浮気してる僕が7とか8で、されてる妻が3とか2とか
そんなふうに比重が偏るって事は絶対ない。罪の度合いは全く等分さ。
悪い事をしているっていう気は全然ないよ」

あの頃、淡々と語る彼を寂しい人だと同情が募った。
彼の持論に妙に納得をし、こんなふうに彼を追いやった妻に怒りさえ感じた。
私の方が愛している、私の方が愛されている。
身を守る為、私は何度も何度も自分に言った。

溺れている時は、息を継ぐのがやっとで何も見えなくなる。
あの時の私は波より渦を求めていた。
誰も助けてくれなくともいい。放っておいてくれていい。
もがいていれば、何も考えなくていいもの…。
苦しくて苦しくて沈みかけた時、見かねて彼が引き上げたのだと思う。
“別れ”という手段で――。

「家へ、戻られるんですか?」
「もう、芝居を仕切れなくなってね。」
「当に、バレていたはずだわ。」
「だからこそ、罪の比重が偏り始めたんだ。なんだか可哀想になってきてね。」
「私は、可哀想じゃないの?」
「君は又、結婚しなくてもいい都合のいい男を捜せばいいじゃない。」

彼の中に眠る非情や冷酷を癒せないまま終りが来てしまったのだと
無力を自覚した。
私とあなたは何がフィフティ・フィフティなの?罪or罰?
あなたの持論で言えば、関係性が三人の場合、感情はどう分配されるの?
孤島から出ていった彼は振り向いて私に向かって言った。

「一人と一人と一人が一人に還るだけだよ。」

多分二度と彼は私の元へは帰って来ないだろうし、
家へ帰っても妻の心には戻らないだろうと思った。
私は行き場のない人の目を知っている。
能力も自信もエネルギーもない男に居場所なんかあるわけがない。

不実は苦しみを感じ始めた時から生き地獄。
神の御前で一生妻を愛し、敬い、守りますと誓った男を、
手に入れた時点でその男は大嘘吐きとなる。
疑いから幕が開け信頼など欠片もなくて、
みんな大嘘つきとじゃれた結果がこの様。
なんて私に似合う形だろう。


        
       愛なんか…。

 

 

 

<まりんの処方>
   
人はそれぞれに事情があって今の現状を選んでいます。
不倫の末に幸せになる例もありますので、その形を否定はしません。
ただ、このままではいけないという気持ちを何年も抱きながら
フラフラと人生を歩んでいくのはどうだろうかというところです。
心の視界の届く領域で、悲しんでいたり苦しんでいたりする人がいるのを
知りながら、それを無視してその上に幸せを築けるでしょうか。

不倫という形は、タブーを打ち破るという心理から、SEXに通じています。
SEXに於いて罪悪感の強い人はSEXがタブーとなるので、
不倫によってそのタブーを打ち破ったという事で満足を得ます。
しかしこれはSEXをタブー視する事に問題があるのであり、
不倫という形にすり替えてタブーを打ち破ったとて
何の解決にもなりません。
要は本当の意味で相手と向き合い、
心の受け入れ(=愛し愛されるという身の受け入れ)ができてこそ、
SEXへのタブー視の問題が解けるのです。
幼い頃、両親からあれはいけないこれはいけないと制限が多かったり、
厳しく育てられたりした方なんかに多くみられるケースです。
不倫には逃げ道や罠がいっぱいあります。
あなたが幸せの支柱を築こうとしているのであれば、
今の相手がふさわしいかどうか見極めてみてはいかがでしょう。
心を開くのは自らです。

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