BY 月華美心  
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悲しみの海に降る



正確に刻まれていくリズムと生温く心地よい暗闇の中で
私とマリアの脈が重なる
平和で安全で愛という海の中の緒にしがみつき
私はこの世に生まれいづることを拒んでいた

私を呼んでいるのは誰?私を必要としているあなたは誰?
私はここが好きなの
しがみつき しがみつき 
けれど それ以上の何かが私を引きずり出しに来る
繋がりのベッドから私を引き剥がしに来る
―― 恐い 止めて 行きたくない
しがみつく手は裏腹に ゆっくりと離れて・・・

神様が遠ざかってゆく・・
神様が遠ざかってゆく・・

見えなくなってあきらめて泣いた
悲しくて 哀しくて 泣いた
“おぎゃー”と泣いた   ―― 誕生の時・・・

ひとりぼっちが始まった季節外れの積雪の時



「こんな所で良かったかな?」
「あーもう充分ですよー」
「あんまりお店知らなくて…小雪ちゃん和食好きだって言ってたからー」
「すいません。なんだか気を遣わせてしまって…」

石畳の奥を行くと小さな小洒落た庭園があり、その向こうに安っぽくなく、
かといって敷居の高さも感じさせないとても和んだ平家造りの引き戸が見えた。
山崎さんは今まで会ってきた男性とは全然違う誠実さで、
私をエスコートしてくれている。

ひそやかな少女のあこがれのような想い。
女子学生と生徒会長のようだと自分の歳を忘れ、ひとりうつむいて笑った。
仲間達はそれぞれに結婚の選択と家庭の繋がりの中で成長を遂げている。
私はその間、何の為に生まれてきたのか、いったいどこへ向かえばいいのか、
存在の役割や価値の重さを計る事にひとり時間を費やしてきた。
流されてただ、身を預けただけの過去の遊戯は、 無力の確認と憂鬱の調節、
そして罪悪感の蓄積となるばかりで、 真実の愛の体験とは程遠かった。

愛するということ、愛されるということ、
この世で一番大切なテーマだと悟った時からそれは恐れに変容している。
そんな私が山崎さんに近づく事に背中を押したのは、 その頃の溜息の力。
しぼられて、しぼられて、もうほとほと独りぼっちに疲れていた。

山崎さんは優しい。
穏やかで寛容で微笑みが自然だった・・とても哀しい微笑みだけど・・・


「落ち着ける店で良かった。いいとこだね。」
「さっきの先付け、菊菜の香りがすごかったですよ。」
「あれはハウスじゃないよなぁ。きっと無農薬かなんかでこだわってそうだ。」
「あっ そういうのお好きですか?」
「やっぱり、自然はおいしい!僕はね嘘が嫌いなんだ。
いろんな意味でこの世は紛い物が多すぎるよ。
まっそのへん追求すると人に嫌われちゃうからね、黙ってるけど・・・」

二人で笑った。 嫌みなくいい人が滲みでている。
私の目の前にこんなに“出来あがった人”がいる。  
私はこの人が好き。好きだと思う。もっと好きになりたい。
ずっと好きでいたい。だから誘った。
好きだと思うのに、そう言い聞かせたり、確かめたり、
虚しさに蓋をしなければならないのは、
他にこの思いを表現する方法があるからなのだろうか?

色んな思いが錯誤していた。
心惹かれているから一緒にいたいと思うのか、焦りからの錯覚か、
理解者を求めているだけなのか、一人でいられないから誰でもいいのか、
“二人でいる”という意味や意義を唱えるのに思考が駆け回り、
“ただ・・・いる”ということができない。
きっともっと愛は自然で簡単なものだと思うのに――

私はいつも様々な形の積み木を用意しては相手の心に積んでいく。
いびつに積み上げられていく、今にも崩れそうなそのオブジェを
いつでも破壊できる槌の準備もしながら・・・。

この人は誰なのだろう。

二人でいるとよく笑った。
笑いの後、胃の奥の方での冷えた感覚を味わわない為に更に笑った。
可笑しくも楽しくもない時間の中で、時々見え隠れする彼の目元の翳りと
憂鬱だけは拾った。
上手く過去の痛みをかわして武勇伝を語る時だけ貴方は嘘吐き。
彼はここにいる私を見ていない。
いつも空虚にいる事を隠して優しさをくれている。
そこが私を追い駆けさせているのだけれど・・・。

私は山崎さんを追いかけている。
彼が背を向けているから追いかけている。
追いかけても追いかけてもきっと彼は振り向かないから好きなのだ。
私を見られなくて都合がいい。あなたは自分の痛みで精一杯に違いないもの。
恋とも呼べぬ片道の芝居は、発展のしようもなく、愛に育て上げるまでもない。
すぐ側に好きな人がいるのに―― こんなに 遠い。
ひとりぼっちと変わらない。

わたしは何者なのだろう。


「小雪ちゃん時間大丈夫?」
「あ・・・全然。」
「映画でもみよっか?」
「わー嬉しいです〜」

わたしはなぜこんなに醒めているのだろう。


山崎さんは気づかずに悲しみの海をどんどん拡げている。
私が溺れないよう優しさのボートを用意して・・・
そのボートに乗せられて私はどこに連れていかれるのだろう。
行き着いた先で彼と向き合った時
私は彼に何を理解してもらいたい?
私は彼に何を知ってもらいたい?
私は彼に何を共有してもらいたい?
私を知られていいというの?

もしも落ちてしまったら、小雪は溶けてしまいます。
悲しみの海は冷たすぎます。

「小雪ちゃん、先出ててー」
建付けのいい引き戸がスムーズに開けられて、彼は笑顔で私を促した。
既に万札が店員に渡されている。
「ありがとうございます。ご馳走様です。」
快くご馳走になって、レジから視界を外した数秒後、ガチャンと小銭が
プラスティックケースに落ちる音がした。
山崎さんが寄付をしたんだと思った。
「小銭、邪魔になるんだよね。」
小声で店員と笑っている様が伺えた。
その飾らない自然さが私を苦しめる。

優しい人に愛されて、温かい抱擁の中で眠り、 穏やかで静かな安住の地を
ずっと求めていた。

ここにある。ここにある?
ここにあるから、恐いのです。
やがてあなたは、私の世界で凍りつく。
きっと、凍りつくに違いないから・・・。

「山崎さん、ごめんなさい。今日はやっぱり帰ります。」



   外は 小雪が・・・降っていた。

 

 

 

 

<まりんの処方>

こんな話を聞いたことがあ ります。
人が感じる“悲しい”という感情は、
生まれる時繋がっていた神様と離れ離れになってしまった、
或いは見捨てられてしまったという悲しみだと・・・。
寂しさも然りです。
この思いが強い人は、とても根深くて顕在意識上では理解しがたいもの。
でも、ここが、罠です。
人は生まれた後も神と繋がっていて、
それを確認し楽しむ為に人生があり、また神の元へ還っていくだけ。
その魂は生を成した時より輝きを増して…。
世の中に不必要なものなどありません。
人は生まれるべくして生まれてきたのです。
このシンプルさを悟って、悲しみの海の水面で考える事を辞め、
何が自分を輝かせその輝きをどこで照らせばいいのかに、
焦点をあてると方向の転換ができるのではないでしょうか?
「生まれてきてごめんなさい」
その浮遊する無意識は、神が認めない懺悔です。
悲しみの海を見つけたら、愛を降らせましょう。
奪うための愛ではなく、ただ与えるだけの愛。
そうしたらあなたにも聞けるはず・・・
神は愛する人の口唇を借りてこういいます。 
「僕の為に生まれて来てくれてありがとう。」

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