しわの研究 (15)

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NO15

しわと心(終わりに)

紙に現れるしわは、千差万別であり、日常生活の中では一つとして同じものは無いといっていいであろう。

そしてそれは私達人間の表情にも似た、内なる力と外からの力による変化が見られるのであった。

内なる力とは、紙の材質と種類である。

柔軟性のあるものは外からの力をうまく受け流し、しわになりにくいゆったりとした表情をみせるし、硬い紙は、力をそのまま受け取って様々な表情をみせてくれる。

しわはまさに、紙の上に現れた力の痕ということが出来るのである。

私達人間から見ると、紙は単なる物質であり生き物ではないのであるが、しかしこれをもっと別の視点から見たら、紙のしわも人の心も実は同じ原理で動いているのではないかと思えることがある。
それがこの、力の痕跡なのである。
しわの表れから、その紙の上で動いたエネルギーの流れを推し量ることが出来る。これは紙が変化した歴史であり人生と同じものなのだ。

私の作品にしわを多用するのは、まさにこのしわが心と直結するのではないかという想いからなのは言うまでもない。

私は心を表現する手法として紙の箱を取り上げ、やがて直感的にしわを描き始めたのだったが、改めてこのようにしわを考えてみて、私の絵がしわに向かって行った理由が分かったような気がした。

心は複雑で千差万別の表れをみせる。
人のことは分からないし、理解することは難しい。
しかしその心もまた、エネルギーの流れであり、紙の実験で見てきたように共通の法則は必ずあるだろう。自分を否定されれば苦しく、認められればうれしい。
この共通の法則を理解することで、人は他人の心を推し量っているのである。

私達はますます心を深め、そこにある共通の法則を見出し、互いに理解しあわなければならないだろう。皮膚の色や言語の違い、宗教の違いなどは人間の実に表面的な現れに過ぎない。
心はもっと深いところで、誰もが理解しあえる場所を持っているはずであろう。
すべての人が幸せになる法則がそこにあると思うのである。

紙のしわから大層な話になってしまったが、
実のところ私は、物は利用するものではなく、共に生きていくパートナーと考えたいのである。

紙のしわには、まだまだ面白い発見があるだろう。

紙の上を力が伝わっていく方法や、そこに出来る爪あとのようなしわ、
折り紙に見られる幾何学的なたたみ込み、
時間があればそんな研究(遊び)もしてみたいと思う。





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