細胞壁・・・成分の起源は、タンパク質?糖?
細胞壁 : 植物の細胞壁、菌類の細胞壁、真正細菌の細胞壁、古細菌の細胞壁
参考 : セルロース、キチン、ペプチドグリカン、S層とシュードムレイン、ペリプラズム、ジアミノピメリン酸
細胞壁は、細胞膜の外側にある、細胞外マトリクスです。
主な役割は、防御、物質補給、細胞間連絡、等です。
植物の細胞壁は、主にセルロースからなります。
セルロースは、β-グルコース分子が、グリコシド結合により重合した、βグルカンです。
細胞壁には(細胞外)酵素が含まれています。
真菌類の細胞壁は、主にキチンからなります。
キチンは、主にN-アセチルグルコサミンとグルコサミンからなる、含窒素多糖高分子で、ムコ多糖です。
真正細菌の細胞壁は、主にペプチドグリカン(ムレイン)からなります。
ペプチドグリカンは、ペプチドと糖からなります。
古細菌の細胞壁は、主にS層とシュードムレインからなります。
S層は、糖タンパク質または単純タンパク質からなります。
シュードムレインは、真正細菌のムレインに似た、ペプチドグリカンです。
その他、メタノコンドロイチンという、動物の結合組織に似たものもあります。
細胞壁の成分は、
植物や真菌類では、糖です。
一方、原核生物では、
真正細菌のペプチドグリカンは、糖に加えてペプチドからできています。
更に、古細菌は、タンパク質が主のようですので、
成分の起源は、タンパク質でしょうか?
糖鎖を作る酵素は、タンパク質ですし・・・
ムレインのテトラペプチド鎖は、細胞膜に結合できるようになっています。
テトラペプチド鎖を構成する、主なアミノ酸は、l-アラニン、d-グルタミン酸、メソ-ジアミノピメリン酸(リシンの誘導体)、d-アラニン、と
D体(アミノ酸は、普通L体です。)のアミノ酸があるのは興味深いです。
更に、ペプチド伸長反応は、mRNA非依存的である所も興味深いですね(参考:非リボソームペプチド)。
一方、テトラペプチド鎖は、4つのアミノ酸しか結合していないので、
逆に、糖鎖を起点にペプチドがくっついている可能性もあり、糖の可能性も否定できませんが・・・
尚、ウイルスは、カプシドというタンパク質で覆われており、
ヘマグルチニン( HA )という、糖タンパク質を持つウイルスもあります・・・
原核生物には基本的に細胞壁を持っているので、細胞壁の起源は古いと思いますが、
そもそも、細胞壁が登場した理由は何でしょう・・・
単なる、細胞外マトリクスなのでしょうか、それとも、生命誕生に重要な役割があったのでしょうか・・・
謎は深まるばかりです。
植物や菌類、細菌の細胞にみられる構造で、
細胞膜の外側にある、細胞外マトリクスです。
動物細胞にはありません。
尚、一部の原核生物にも細胞壁がないものがあります。
古細菌では、
ユリアーキオータの、テルモプラズマ綱やテルモコックス属、
クレンアーキオータの、イグニコックス属、
真正細菌では、
モリクテス綱で、細胞壁がないものがあります。
細胞壁の主な役割は、防御、物質補給、細胞間連絡、等です。
細胞壁は、水、ナトリウムイオン、カリウムイオン、等を容易に通します。
植物の細胞壁は、構成が細胞の生長とともに変化します。
生長中の柔細胞
生長期終了後の材(ざい)
2つの細胞壁の成分はほぼ同じですが、構成する成分の比率がそれぞれ異なります。
細胞壁は、細胞の形状や大きさを決定していますが、
生長を必要としない材になると、より強い構造を必要とします。
生長中の細胞壁は、一次細胞壁という薄い細胞壁からなります。
また細胞と細胞の間には、中層という層があります。
生長終了後の細胞は、一次細胞壁の内側に、二次細胞壁という、2 - 3層からなる細胞壁を形成します。
また一次細胞壁と中層では、リグニンが沈着して物理化学的強度を向上させます。
一次細胞壁と二次細胞壁の主要な構成成分は、セルロースです。
セルロースとは、d - グルコースがβ( 1→4 )結合で、分枝なくつながっている糖鎖です。
グルコースの数は、約2000 - 15000個とされます。
セルロースが構成する細胞壁繊維構造
1.セルロース分子 :グルコース約5,000個のポリマー
2.結晶性ミセル :セルロース分子が約40本、水素結合でまとまっている構造体、直径5nm
3.微繊維(びせんい) :結晶性ミセルが数個集まった構造、直径30nm
微繊維間には、
ミセル間隙 :幅1nm
微繊維間隙 :幅10nm
という空隙が存在します。
空隙には、
非セルロース系多糖類、ヘミセルロースマトリクスが満たされており、微繊維間の構造的強度を高めています。
リグニンは、生長期終了後の細胞壁に多くみられる、ポリフェノール化合物の重合体です。
生長中の細胞にも、わずかながらみられます。
高等植物の材に占める割合は、セルロース50%、ヘミセルロースとリグニンが、それぞれ25%程度です。
細胞壁には酵素が含まれています。
酵素は細胞膜外にあるため、細胞外酵素として扱われます。
主に細胞壁の構築や、物質の取り込みに関係しています。
真菌類の細胞壁は、キチン等で構成されています。
細胞壁の構成は、群によってやや異なります。
子嚢菌や担子菌の多くでは、キチン−グルカンが主成分です。
接合菌では、キチン−キトサン、
出芽酵母等では、マンナン−グルカンという特殊な構成も知られます。
真正細菌は、莢膜を含む細胞表層構造体の違いにより、
の二つに分けられます。
これらは、構造的に異なる細胞壁をそれぞれ持っていますが、
細胞壁の主要な構成成分は、ペプチドグリカンです。
尚、ペプチドグリカンは、一部の古細菌も所持していますが、分子構造が異なります。
真正細菌の細胞壁構成成分を、ムレイン、
一部の古細菌の細胞壁構成成分を、シュードムレイン、といいます。
ムレインは、ペプチド鎖と糖鎖からなる二種類の鎖からなります。 トップ
テトラペプチド鎖 :4つのアミノ酸がペプチド結合したもの
(細菌によって異なりますが、主なアミノ酸はl-アラニン、d-グルタミン酸、メソ-ジアミノピメリン酸、d-アラニン)
グリカン鎖 :N-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸が、交互にβ( 1→4 )結合している糖鎖
二種類の鎖は、以下の結合により、網目構造をとっています。
N-アセチルムラミン酸のカルボキシル基とl-アラニンの、アミド結合。
d-アラニンと、隣り合うテトラペプチドにおけるメソ-ジアミノピメリン酸の遊離アミノ基の、ペプチド結合。
つまり、グリカン鎖が平行に並んでおり、
N-アセチルムラミン酸に結合しているテトラペプチド同士が互いに結合し合い、
グリカン鎖に対して垂直方向への構造的強度を高めています。
またテトラペプチド鎖は、細胞膜側にも結合できるようになっており、
これで細胞膜と細胞壁の結合を、より強固なものにしているようです。
ムレインの構造は、
グラム陰性菌では、ほとんど共通していますが、
グラム陽性菌では、テトラペプチド鎖のメソ-ジアミノピメリン酸がジアミノ酸となっている等、多様性を持ちます。
グラム陽性菌の細胞壁
10〜100nmの厚さがあり、グラム陰性菌に比べてかなり厚いです。
細胞壁は、ムレインからなる複雑な微細構造を形成しています。
また細胞壁にはタイコ酸という、アルコールとリン酸基の化合物が含まれています。
グラム陰性菌の細胞壁
ムレインと、外膜という生体膜からなります。
厚さは10nm程度( ムレイン2nm、外膜8nm )で、
細胞壁中のムレインの占める割合は、グラム陽性菌に比べて極めて低いです( 5〜10 % 程度)。
ムレインは、グリカン鎖が1または2層からなる単分子層、または二分子層であり、
その外側に、タンパク質、脂質、リポ多糖からなる外膜が存在します。
外膜に存在しているリポ多糖は、リピドAという複合脂質と、様々な糖を含む多糖からなります。
また、グラム陰性菌は、外膜と内膜(細胞壁と細胞膜)の間に、ペリプラズム空間という空隙があります。
この空間には、生体エネルギーや物質取り込みに関する多くの酵素があるようです。
植物や真正細菌のものと極めて性状が異なります。
細胞表層構造物質は、多岐にわたっていますが、
主に、S層と、シュードムレインです。
シュードムレインとメタノコンドロイチンは、グラム陽性に染まります。
シュードムレインは、細菌の細胞壁、
メタノコンドロイチンは、動物の結合組織に類似します。
S層:クレンアーキオータ門及びメタノコックス綱、アルカエオグロブス綱、テルモコックス綱、メタノミクロビウム綱、ハロバクテリウム綱のほぼ全て、Picrophilus
シュードムレイン:メタノバクテリウム綱、メタノピュルス綱
その他
メタノコンドロイチン :Methanosarcinaとその近縁種
シース :Methanospirillus、Methanosaeta
外膜 :Ignicoccus
ヘテロ多糖 :Halococcus
グルタミニルグリカン :Natronococcus
細胞壁を持たないもの :Thermoplasma及びFerroplasma、Acidiplasmaの全種、Thermococcusの一部菌種、Thermogymnomonas acidicola等
分子式 ( C6H10O5 )n で表される炭水化物(多糖類)です。
多数のβ-グルコース分子が、グリコシド結合により直鎖状に重合した、βグルカンです。
植物細胞の細胞壁と繊維の主成分で、天然の植物質の1/3を占め、地球上で最も多く存在する炭水化物です。
自然状態では、ヘミセルロースやリグニンと結合して存在します。
セルロースは非常に安定で、
冷水にも、熱水にも溶けません。
酸や塩基にも強い抵抗性を示します。
デンプン(α-グルコース分子が重合。ラセン状)と異なり、
ヨウ素デンプン反応を示さず、
水素結合により、シート状になっています。
生合成
グルコースより合成されます。
セルロースシンターゼは、細胞膜上に存在します。
UDP-グルコース生成までの反応経路は、グリコーゲンの生合成経路と同じです。
キチン(ポリ-β1-4-N-アセチルグルコサミン) 菌類の細胞壁
分子式が( C8H13NO5 )nの、直鎖型の含窒素多糖高分子で、ムコ多糖です。
節足動物や甲殻類の外骨格(外皮)、軟体動物の殻皮の表面等、多くの無脊椎動物の体表を覆うクチクラや、
キノコ等菌類の細胞壁の主成分です。
キチンは、N-アセチルグルコサミンだけでなく、
グルコサミンも構成成分とする多糖です。
N-アセチルグルコサミンとグルコサミンの比は、約9:1とされます。
構造は、セルロースと類似の構造ですが、
2位炭素の水酸基がアセトアミド基になっています。
即ち、N-アセチルグルコサミンの1,4-重合物です。
その構造から、セルロースに似た特性を示します。
分子間、または分子内で形成される強固な水素結合により、
明確なガラス転移点や融点を示さず、加熱により分解します。
ほとんどの溶剤に溶けません。
真正細菌の細胞壁の、主要物質で、ペプチドと糖からなる高分子です。
構造保持に重要で、細胞質の浸透圧に対する耐久性や、細胞の形態、強度を保持します。
増殖時の細胞分裂にも関わります。
ペプチドグリカンの構造は、菌種によって異なりますが、
グラム陽性の黄色ブドウ球菌では、
N-アセチルグルコサミン( GlcNAc )と、N-アセチルムラミン酸( MurNAc )という2種のアミノ糖による、交互の繰り返しを単位とし、
ペンタグリシンを架橋としたL-アラニン - γ-D-グルタミン - L-リシン - D-アラニンのテトラペプチドが、リシンに結合しています。
グラム陰性の大腸菌では、
リシンのかわりにmeso-ジアミノピメリン酸がついています。
ペプチドのアミノ酸配列と全体の構造は、細菌種間で多様ですが、
多くは、各々のMurNAcに、短いペプチド鎖( 4 - 5 残基)が結合しています。
ペプチドグリカン層の厚さは、
グラム陽性菌で 20 - 80 nm、
グラム陰性菌で 7 - 8 nmで、
陽性菌の方が、非常に厚いです。
ペプチドグリカンの生合成では、
糖タンパク質の生合成で糖鎖のキャリアーとして働くドリコールリン酸の代わりに、
C55ポリイソプレノールが、キャリアーとして働いています。
まず、細胞質中で、短いペプチド末端のD-アラニンに、
もう1分子のD-アラニンが結合した UDP- N-アセチルグルコサミン( GlcNAc ) と UDP- N-アセチルムラミン酸( MurNAc )が合成されます。
続いて、細胞膜の酵素によって、疎水性の中間体が合成されます。
糖鎖が重合し、グリシル-tRNAからグリシンが5個結合し、ペプチド部分が架橋して、D-アラニン1分子が遊離します。
このペプチド伸長反応は、mRNA非依存的な、ペプチドシンターゼにより触媒されます。 非リボソームペプチド
架橋構造が作られることで、強固な3次元構造の層を形成します。
S層とシュードムレイン 古細菌の細胞壁
S層
ほとんどの古細菌の細胞壁は、S層そのものが細胞壁になっています。
S層の構成成分は、糖タンパク質または単純タンパク質です。
熱に対して極めて高い安定性を示しますが、浸透圧に対しては極めて感受性が高いです。
S-層は、1本のペプチドの先から、4本のペプチドが放射状に出ている立体構造を示しており、
放射状のペプチドが、隣り合うS-レイヤーのペプチドと結合し、縦横の構造的安定性を高めています。
軸となるペプチドは、細胞膜と結合しています。
放射状のペプチドの下部は、擬似ペリプラズム空間を形成しており、
真正細菌と同様、プロテアーゼ等、栄養分の細胞内輸送に関する酵素がみられます。
グリカン鎖とペプチドの化合物という点で、ペプチドグリカンの一種ですが、
真正細菌の有するムレインとは、以下の点で異なっています。
グリカン鎖 N-アセチルグルコサミンと、l-タロサミニュロン酸がβ( 1→3 )結合したものからなります。
(ムレインでは、N-アセチルムラミン酸がβ( 1→4 )結合しています)。
グルコサミンの全てまたは一部が、ガラクトサミンになっています。
ペプチド d-アミノ酸を持ちません(主なアミノ酸としてグルタミン酸、アラニン、リシン、全てl型)。
l-タロサミニュロン酸のカルボキシル基とアミド結合している点は、ムレインと同じです。
ペプチドとグリカン鎖の結合様式が似ているため、ムレインと同じ網目状構造を取ります。
厚さは15〜20nm程度です。
ムレインと生合成系は異なります。
グラム陰性菌でみられる、細胞膜(内膜)と細胞外膜の、2枚の生体膜に囲まれた空間で、
細胞の全体積の40%に達することもあります。
内膜の外には、ペプチドグリカンでできた、薄い細胞壁があります。
栄養素の保持、輸送、フォールディング、分解から、
ペプチドグリカンの生合成、電子伝達まで、
様々な機能に関わるイオンやタンパク質等を含んでいます。
ペリプラズムは、ATPを含まないため、ここに存在する酵素はATPに依存しない機構で作用します。
尚、グラム陽性菌は、脂質膜は一重で、細胞外膜が存在しないため、
細胞膜と細胞壁の間の領域は、inner wall zone ( IWZ ) といいます。
リシンのε-カルボキシ誘導体である、アミノ酸です。
ある種の細菌の細胞壁に特徴的なものです。
グラム陰性菌の細胞壁を構成する、NAM-NAG鎖のペプチド結合でみられます。
欠乏すると、成長はするものの、細胞壁の新しいプロテオグリカンが形成できなくなるようです。