中小企業診断士という名前はよく耳にしますが、実際のところ、どんな資格なのか詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
そこで、このページでは、中小企業診断士とはどんな資格なのか、そして、中小企業診断士になればどんな仕事ができるのかなど、資格の概要を詳しくご紹介していきます。
【監修者】 中小企業診断士 中井 一 2010年に中小企業診断士の資格を取得。企業内診断士として経験を積んだ後、2019年に独立を果たす。その他、行政書士、簿記1級、FP2級、キャリアコンサルタント等の資格も保有するなど資格試験に精通している。⇒監修者紹介 |
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【執筆者】㈱モアライセンス代表 大西雅明 |
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中小企業診断士とは?
中小企業診断士とは、経営コンサルタントとして唯一の国家資格であり、今、ビジネスパーソンに大人気の資格です。
中小企業診断士には独占業務がありませんが、この資格を取ることで、経営コンサルタントとして独立できますし、企業内でキャリアアップもできるなど、ビジネスパーソンとして幅広い選択肢が広がっていきます。
では、この中小企業診断士がどんな資格なのか、詳しくご紹介していきたいと思います。
- 経営コンサルタントとして唯一の国家資格
- 日本版のMBAとも呼ばれる
- ビジネスパーソンに大人気の資格
- 独占業務はないが経営コンサルタントとして独立できる
- 企業内でキャリアアップできる
経営コンサルタントとして唯一の国家資格
中小企業診断士は、中小企業支援法第11条に基づき経済産業大臣により登録される、経営コンサルタントとして唯一の国家資格です。
経営の診断と助言を行う高度な専門家
中小企業の経営の診断及び経営に関する助言を行う高度な専門家として、企業の意思決定や戦略立案実行に関する専門知識をもって、組織の成長と収益性の改善達成を支援することを、その業務の目的としています。
そして、成長戦略、マーケティングリサーチ、競合分析など様々な戦略的手法やフレームワークを用いて企業の現状を分析し、将来に向けて効果的な経営計画を立案していきます。
伴走型支援の担い手
また、立案後も計画の実行を成功させるために継続的に助言を行うなど、企業のパートナー的な存在です。
経済産業省は地域企業の経営革新を推進するため、伴走型支援を推奨しています。
伴走型支援は「傾聴と対話」を通じてクライアントとの信頼関係を構築し、当事者の「気づき」に基づき、組織の変革に向けて自ら行動を計画・実行する過程(プロセス)を支援するコンサルティング手法であるプロセス・コンサルティングの考え方を応用した支援方法です。
中小企業診断士は伴走型支援の担い手として注目されています。
日本版MBAとも呼ばれる
中小企業診断士は日本版MBAとも呼ばれることがあります。
MBAはMaster of Business Administrationの略で日本語では経営学修士号と呼ばれる大学院の修士課程を修了すると授与される「学位」であり、資格ではありません。
経営に関する幅広い知識が学べる点で共通
では、なぜ中小企業診断士が日本版MBAと呼ばれるかといえば、資格取得に必要となる学習内容が組織人事・マーケティング・生産管理・財務会計など中小企業の経営全般を網羅した内容となっており、一方でMBAの学習内容も大企業の経営全般を学ぶカリキュラムになっていることから、中小企業と大企業の違いはありますが、経営の根幹は企業の大小を問わず同じなので、どちらも「経営」に関する幅広い知識を学べる点で共通しているためです。
ケーススタディで学習する点で共通
MBAは大学院でケーススタディ中心の学習スタイルで、中小企業診断士の場合は独学でテキストや問題集に取り組むといったイメージを持っている方が多いかと思いますが、中小企業診断士試験も座学の知識で対応できるのは1次試験までです。
2次試験は事例問題ですので、合格できる確率を上げるためには予備校や勉強会などである程度のケーススタディを経験する必要があります。
さらに実務補修では指導員の指導のもと実際の中小企業に対する経営診断実務を実践することになりますので、経営に関する活きた知識を習得することができます。
養成過程でMBAや経営管理学修士号と同時に取得もできる
また、中小企業診断士試験の2次試験と実務補修が免除される登録養成機関の養成課程の中には大学院の修士課程修了の学位を与えられる課程もあり、MBA(経営学修士号)や経営管理学修士号を得ることができます。
近年、企業で働きながら自己啓発のために大学院に通い、MBAや経営管理学修士号と同時に中小企業診断士資格を取得する方も増えています。
ビジネスパーソンに大人気の資格
このように、企業で働きながら大学院に通い、MBAと同時に中小企業診断士資格を取得する方も増えてきています。
ビジネスパーソンが取得したい資格第1位
これは、中小企業診断士資格が経営コンサルタントのための資格であると同時に企業内で活用できるビジネススキルとして注目をあびており、ビジネスパーソンの人気が高まっているためです。
日経新聞社と日経HRの共同調査(2016年)によれば、ビジネスパーソンが新たに取得したい資格ランキングでTOEICや簿記などの資格を抑え、中小企業診断士資格が堂々の1位でした。
人気の理由@:ステータスが得られる
理由は色々考えられますが、まず中小企業診断士資格のもつ「ステータス」が挙げられます。
中小企業診断士資格は、社会人が働きながら取得できる資格の中では、社会保険労務士資格などと並び上位にランクされているため、取得することで一目置かれる存在となることができます。
人気の理由A:企業内で活用しやすい
次に、経営全般の知識が身に付くなど、企業内で活用しやすい点があげられます。
TOEICや簿記など他の人気資格を見てもわかる通り、取得してすぐ企業内で使える資格の人気が高いわけです。
中小企業診断士資格はもちろん中小企業で働くビジネスパーソンにとって企業経営を理解するために有効な資格であり、経営を担う役員や上級幹部社員にとっては役立つ資格ではありますが、大企業で働くビジネスパーソンにとっても有効な資格です。
人気の理由B:転職・独立でアピールできる
また、転職や独立を考えているビジネスパーソンにとっても、自分自身が経営全般を理解していることをアピールすることができる資格であることも人気の一つとなっています。
特に、経営コンサルタントとしての転職や独立を考えている場合には、自分自身の能力を証明できる資格となります。
では、これから中小企業診断士資格を取得し、経営コンサルタントとして独立する場合、企業内でキャリアアップする場合のメリットについて見ていきましょう。
独占業務はないが経営コンサルタントとして独立できる
中小企業診断士資格に独占業務はありませんが、経営コンサルタントとして独立することが可能です。
経営コンサルタントとして独立するためにコンサルティングファームで経験を積む方も居ますが、中小企業診断士の登録者には中小企業診断士のネットワークもあり、このネットワークを活用すれば経営コンサルタントの経験がなくても独立できます。
中小企業診断士は商工会議所など中小企業支援機関の行う支援業務の担い手としての側面があり、一定の需要がありますので、中小企業診断士のネットワークがあれば、中小企業支援機関に登録することで、先輩の中小企業診断士の助けを借りながら経営相談や経営診断の業務を請け負うことができるからです。
中小企業診断士のネットワークを開拓するために最も有効な手段は各都道府県の中小企業診断協会に所属することです。
単に所属するだけでは人脈は開けませんので、協会の主催する研究会などに所属して先輩の中小企業診断士との交流を深めることが重要です。
中小企業診断士には独占業務がなく、仕事を探すことに苦労することは先輩の中小企業診断士も経験してきていることであり、親身に相談に乗ってくれる先輩も多いと思います。
ただし、独立後すぐには経験も浅いため、十分な収益をあげることが難しいことが予想されますので、生活に必要な貯蓄が十分でない場合には、副業で中小企業診断士の活動をするなど、事前に経験を積む工夫をした方が良いかもしれません。
企業内でキャリアアップできる
中小企業診断士資格は、経営コンサルタントとして独立するほか、企業内でキャリアアップを目指す場合にも有効です。
大企業の場合、機能が細分化されているため、経営全般を理解できる部署は経営企画室などに限られているのが実情です。
従来から、大企業でキャリアを積んで、ある程度以上のポストに就くためには、複数の職場を経験して会社の全体像を把握するなどゼネラリストであることが求められることになります。
一方で、大企業のビジネスパーソンとして成果を上げるためには、細分化された機能のスペシャリストであることが求められるため、キャリアアップの過程で、求められることの変化を経験することになります。
このときに、中小企業診断士の資格取得の学習をしていれば、経営の全体像や関係するステイクホルダーについて理解できますので、自分自身に求められることや環境変化にも対応できるようになります。
また、大企業の場合、関連会社に出向して経営幹部を経験することが、その後の本社でのキャリアアップに連動するケースなどもあり、関連会社は中小企業である場合も多いため、中小企業診断士資格がダイレクトに企業経営に役立つことになり、キャリアアップに直結します。
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中小企業診断士の仕事内容は?
中小企業診断士の仕事内容を理解する前に、中小企業診断士には、”独占業務がない”ということを認識しておく必要があります。
いわゆる”士業”と呼ばれる弁護士や司法書士、行政書士などには、法律上その資格者にしかできない業務、つまり”独占業務”が定められていますが、中小企業診断士には、根拠法である「中小企業支援法」に、そういった独占業務が定められていません。
しかし、中小企業診断士には法的な独占業務はありませんが、中小企業基盤整備機構、商工会議所、信用保証協会、都道府県等の中小企業に対する専門家派遣や経営相談、及びそれら中小企業支援機関のプロジェクトマネージャーの募集などに、中小企業診断士が条件となっている場合もありますので、実態として独占的な業務があることも事実です。
このように、中小企業診断士は中小企業支援機関の行う支援業務の担い手としての側面もあります。
コンサルティングそのものは中小企業診断士でなくとも行うことができますが、中小企業支援機関に専門家として登録して前述の公的な経営支援業務に加われること、経営コンサルタントとしての信用力が向上すること、中小企業診断協会に所属することで中小企業診断士のネットワークを活用できることなどのメリットが存在します。
また、中小企業診断士の業務は、企業という幅広いフィールドで事業計画立案、マーケティング支援、人事業務、財務業務、生産業務、店舗業務、IT業務、補助金活用など多岐にわたります。
以下では中小企業診断士の資格を活かし、中小企業診断士として活躍できる業務についてご紹介していきます。
- 経営コンサルティング(民間業務)
- 経営改善計画書・経営診断書の作成
- 公的業務
- 研修・セミナー講師
- 本や出版物・WEB記事への執筆活動
経営コンサルティング(民間業務)
中小企業診断士の中心的業務は、やはり経営コンサルティングです。
経営コンサルティングの役割は、組織内の強み、機会、潜在的なリスクを特定し、経営改善を目指してアドバイスを行うことです。
中小企業診断士は、多くの場合、複数の業界における豊富な経験を持っていると期待されますので、業務や実務の理解から、業績に悪影響を与えている可能性のある根本的な問題の特定と対処まで、組織の総合的な評価を任されています。
また、ビジネスの現状を詳細に評価することで、プロセスを通じて、組織が望ましい結果を達成するために設計された是正措置計画や戦略を策定・実行するための指導、支援、客観的なアドバイスを提供します。
中小企業診断士の資格者は、多岐に渡る分野の知見をもちつつ、現代の流れ・企業動向・人材を見極めながら経営のアドバイスができる能力が必要になってきます。
経営改善計画書・経営診断書の作成
中小企業診断士の業務として、各種申請書類の作成がありますが、特に、経営改善計画書や経営診断書の作成は、重要な業務のひとつです。
経営改善計画書とは、経営上の課題を改善するための計画書で、業績の悪化した企業が、金融機関に返済スケジュールの変更を依頼する場合や新規の融資を依頼する場合などに提出が求められる書類です。
また、経営診断書は、産業廃棄物の許可申請の際に、資金不足等によって不法投棄を発生させるような企業ではないことを証明するための書類で、営業実績や財務状況が一定の要件を満たさない場合に提出が求められます。
経営改善計画書は、税理士や中小企業診断士のサポートを受けて作成することが一般的ですし、経営診断書は、自治体によって、中小企業診断士や公認会計士が作成しなければならないといった制限が設けられていますので、これらの書類作成は、中小企業診断士の重要な業務となっています。
公的業務
中小企業診断士は、国や地方公共団体、中小企業基盤整備機構、中小企業支援センター、商工会議所・商工会などの公的機関から、「窓口相談」や「専門家派遣」といった委託業務を担っています。
窓口相談は、公的機関が中小企業の経営者や起業家向けに設置した相談窓口において、経営相談員として相談にあたる業務です。
相談窓口では、集客や営業、財務面の相談、人事面の悩み、IT・システムの活用、法律的な問題まで多岐にわたる相談が寄せられます。
専門家派遣は、公的機関の依頼に応じて、中小企業診断士などの専門家が企業を訪問し、経営上の課題に対して必要な支援を行う制度です。
独立した中小企業診断士は、このような公的業務の委託を受けることで収入を安定させることができます。
研修・セミナー講師
中小企業診断士は、その専門的知識と経験を活かして、企業研修やセミナーなどで、経営やマーケティング、マネジメント、ITの活用など、様々なテーマで講演を行っています。
このような研修の講師をすることで、知名度を上げ、信頼を獲得することができますので、今後の仕事の依頼にも繋がっていきます。
本や出版物・WEB記事への執筆活動
中小企業診断士としての専門知識や経験を活かして、執筆活動をされる先生も多くいらっしゃいます。
出版・自費出版
本の出版は、出版社から声をかけられ出版するものから、自主企画での電子書籍出版など、やる気さえあれば執筆し、出版することが可能です。
ただし、本の内容がしっかりしていないと、レビューで低い評価がついた場合などは、逆にリスクとなる可能性もありますので、その点には注意が必要です。
WEBへの記事投稿
企業のオウンドメディアやブログなど、インターネットメディアにおける執筆は、書籍の出版よりも機会は多くあります。
記事コンテンツの執筆や監修など、中小企業診断士の知見が活かせる業務が増加してきています。
こういった執筆活動は、得られる報酬だけでなく、中小企業診断士としての信頼性獲得に繋がる活動ですので、積極的に行っていきたい業務です。
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