石川虚舟
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石川虚舟 《 竜の血 》 2011
Bad Godesbergのライン河で多孔性の黒い溶岩を採集。
その石を「竜の血」に見立て、 ジーフリトの宇宙を宿らせてみよう。
下の薄赤色の石は、ライン河上流のフランス、アルザスの山で採集。
 
そのほかにも私はあの男についていろいろ知っております。
あの勇士はある時竜を退治しました。
彼はその血を全身に浴びて、 そのため肌が不死身の甲羅と化したのです。
どんな武器も彼を傷つけ得ないことが度々証明されました。
相良守峯訳 『ニーベルンゲンの歌』 100節(岩波文庫)
 
  雪が舞うライン望めば竜の岩  虚舟
 
 
 
 
Bad Godesbergのライン河沿いには、 ドイツの叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の主人公、 ジーフリトが通ったであろう旧街道の町並み。 小振りのGodesburg城には円筒形の塔。その上に旗が翻る。
     2010年のクリスマス当日に、城山に向かう。 前日の夕暮れ、ホット・ワインを飲む群集で埋まっていた広場に、 もはや人影はない。広場近くに教会の尖塔が聳える。教会の建物は赤煉瓦と「黒い石」の合体。 ボン市周辺に火山湖が散在し、多孔性の「黒い溶岩」が削られ、建物の玄関や公園のモニュメントに使用される。
     雪深い小道を登ると、教会の鐘の音が軽やかに鳴り響く。 城壁内は凍結していた。ライン河対岸を望むと七つの峰が連なり、 その右端にジーフリトが竜を退治し、返り血を浴びたという「竜の岩山」。 「返り血」とは溶岩なのであろう。
     「低い土地」オランダ出身のジーフリトは「竜」を退治し後、 ライン河をさらに遡る。 ライン河は、ローレライから「竜の岩山」まで、岩肌の多い谷間を流れる。 「竜の岩山」から10キロ程上流、レーマゲンの対岸に玄武岩の絶壁。 護岸工事に最適の大きさに崩壊する。 ライン河の岸を保護する玄武岩、つまり「竜の甲羅」か。
     クリエムヒルトの住む城はヴォルムスにあったとされるが、そこは広大な盆地。 ライン河中流一帯の建物は、多孔性の黒い溶岩と薄赤色の泥岩が併用される。 ライン河上流のフランス、アルザス地方ではその薄赤色の泥岩を産し、ストラスブールやドイツのフライブルグで、その石が主たる建築材として使用されている。
 
ジーフリトはヴォルムスで暗殺され、「虚」(Lichtung)と化す。そして新たな絵巻が東の大地へと展開する。