シヤムの九天 
 
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故郷喪失
 

アユタヤの獅子
 
随風舎

 
 
 アユタヤ紀行

 石川虚舟 《シヤムの九天》
(写真作品)
  左は、ワット・ポーの「シンハー」   photo 2010.1. 2
 
 
 ⇒ マルセル・デュシャン 《九気の盛装》 
      (レディメイド, 1915/エッチング, 1964)
  九気とは「九天の気」、 「九気の盛装」 という名称は、
  シヤムの華やかなブティックの換気扇によく似合う。
 
 ⇒ マルセル・デュシャン 《九つの雄の鋳型》 
      (《大ガラス》1915-1923/部分)
 
 
 
熱帯とは言え、雨季を終えたバンコクの冬は、爽やかな風が心地良い。 冷房が肌寒い高架式市街電車BTSを中央駅・シヤム(SIAM、サイアムは英語読み)で降り、 駅北側の豪華なモール「Paragon」に入ると、 しゃれた店舗がディスプレーを競う。 高級店の入り口に中国風の一対の「獅子」、店内にシャム猫ではなく、 日本の白い「招き猫」。 華やかなタイ工芸品店では、さすが「シンハー」が迎える。
 
シヤム駅の南側は、元は大学のキャンバスであったという。 今は若者対象の華やかなブティックが軒を並べる。 その中に、10年前の駅開設時に建設された旧式の店舗が何棟か残る。 屋上ではブリキ製の大きな換気扇が、いくつも風を受けて回転する。 今やバンコクでは、ほとんどの施設に冷房機器が完備されており、ブリキ製換気扇が破棄されるのも、 時間の問題。現に同じ型の換気扇が、無残にも街角のゴミ箱の上に捨てられていた。
 
この型のブリキ製換気扇は、現在も、ヴェトナムの多くの市街地で稼働している。 ヴェトナム型は、よりふくよかな曲面であったように思う。 2008年5月にハノイ市を訪れた際、旧市街地の鍛冶屋街で、製作現場を眼にしたことがある。 実はこの種の換気扇を、以前から手に入れようと思念する。
 
その衝動は、マルセル・デュシャンの《九気の盛装》と題する 「レディメイドのオブジェ」に起因する。 それは20世紀初頭の欧米で、日常的に使用されていたブリキ製換気扇である。 「省エネ」による炭酸ガス削減が叫ばれるなか、この種のブリキ製換気扇は再評価されるべきであろう。