シアムの九天
 
ジム・トンプソンの家
 
運河をゆく
 
故郷喪失
 
  アユタヤの獅子 
 
随風舎

 
 
 アユタヤ紀行

 中国風の獅子  
「ジム・トンプソンの家」にて
  photo 2010. 1. 4

  この獅子には、タイ・シルクの風貌がある。
  ワット・ポー(涅槃寺)ではシンハーとともに、
  上とほぼ同型の中国風獅子が置かれている。
 
 
 
タイ・シルクのブランド「JIM THOMPSON」は、 米国人ジム・トンプソン(1906-1967?)のデザインに始まる。 建築家であった彼は、ノルマンディー上陸作戦に従軍。その後、 情報将校としてタイに派遣され、退役後はタイに永住、事業を起こす。
 
シアム中央駅から徒歩で15分、 大通りから逸れ、運河に突き当たる袋小路を行く。 その奥まった静かな佇まいに、「ジム・トンプソンの家」がある。 整備された庭園に熱帯林が繁る旧住居は、私設博物館になっている。
 
北側は運河に面し、以前は舟で出入りした。 古い民家を運河の対岸から、さらにアユタヤからも移築し、 母屋や庭師の住まいとした。 母屋はチーク材の高床式構造で、二軒の民家を接合している。 開放的なリビングは涼しげで、冷房機を嫌い、書斎に取り外した跡がある。 タイの大地に融和する生活である。
 
母屋の一室に、「ベンチャロン焼き」と呼ばれる陶器が展示されている。 アユタヤ王朝が、17世紀に中国へ技術者を派遣し製作させたものである。 その中に、アユタヤで発掘された「古伊万里」の大きな鉢が一点。 ジム・トンプソンは、それらの文様を使ってタイ・シルクにプリントした。 その当時の木版が、別室に保存されている。
 
床下のホールでは、アユタヤで発掘された一対のシンハー、 さらに一対の「中国風獅子」が、意味ありげに東西から睨む。 彼のデザインの源泉は、タイとその周辺にとどまらず、本をただせば 中国や日本にも行き着く。日本のデザイン界が見過ごしてきた世界である。