ラットマン/道尾秀介 読了 2007.9.28 (33冊目/年50冊目標)
季刊雑誌「ジャーロ」に連載された道尾秀介さんの480枚の最新作『ラットマン』を読了しました(来年1月光文社より刊行の予定です)。
大学を卒業して10年、学生時代のロック・バンド仲間4人が姉妹のドラマーを加えて卒業後もブースを借りて練習を続けています。そのもうすぐ閉鎖となるそのレンタル・ブースで事件は起きます。ギターを担当している姫川は、子どもの頃哀しい事件によって姉と病気の父を失いそれ以来母とも疎遠となっています。そうした主人公の生い立ちと深く関わって物語は展開していきます。
ラットマンとは「人の中では人に見えるがネズミの中ではネズミに見える騙し絵」のことです。ブースで起こった不幸な出来事は、事故なのか殺人なのか。人間心理の盲点を突いて巧みな筆致で物語を二転三転させて、最後はあっと言わせる結末が待ち受ける道尾ワールドは今回も健在です。道尾さんは、ミステリーを手がかりに「人間」を描きたいと抱負を語っていました。本作は、その点でも深みが増している気がします。
道尾さんは1975年生まれの31歳。『背の眼』でホラーミステリー大賞特別賞を受賞してデビューした3年目の新人です。その後『向日葵の咲かない夏』『骸の爪』を発表、昨年度は『シャドー』でミステリ作家が選ぶ「本格ミステリ大賞」を受賞しました。今年になって『片眼の猿』(携帯小説です)『ソロモンの犬』を発表しています。そして本作。目が離せない新進気鋭のミステリ作家と評されています。
推薦度★★★★☆
『夕張 破綻と再生』 読了 2007.9.27 (32冊目/年50冊目標)
保母武彦他著 自治体研究社 2007.2.10発行 138頁 1429円+税
目次 ○はしがき ○夕張問題とは何か ○夕張財政の現状と「破綻」の主な原因 ○夕張市の財政運営に問題はなかったか ○夕張市の再生のために(提言)
○夕張問題と地方財政改革・自治体再建法制 ○資料 夕張市財政再建の基本的枠組み案について
本書は4人が分担して緊急に書かれた夕張問題の分析・提言の書です。夕張市は石炭の町として栄え、石油へのエネルギー転換政策の下で次第に衰退していき、観光事業に将来を託したがうまくいかず、市財政まで破綻するという、激動を経験している市です。赤字再建団体の指定を受け、この4月から20年間の長きにわたる再建の道に踏み出しました。
特に市の財政破綻に関連して、「赤字隠し」「ヤミ起債」「放漫経営」等の「夕張たたきキャンペーン」が張られ、夕張自己責任論が横行しました。そして、住民にとって大変過酷な「夕張財政再建計画」は「第二の夕張になるな」と見せしめ効果を生みました。
夕張市の財政破綻の主な要因として、本書は3点を指摘しています。@炭鉱閉山後の処理負担 A観光・リゾート開発とその後の費用負担 B国の行政改革の地方への転嫁
炭鉱閉山処理では、炭鉱会社が所有する土地・住宅・病院を買取り、市営の住宅・浴場・水道・学校・道路などに583億円を費やした。そのための借金は332億円となり年20億円前後の償還を余儀なくされてきたといいます。標準財政規模の10倍となる負担です。
「炭鉱から観光へ」の転換のもとリゾート開発をめざしたが誤算となり、市はスキー場・ホテルを買取りました。
国の政策では「産炭法」が2001年失効となり、三位一体の改革と称した地方交付税の削減が追い討ちをかけました。
この3点をあいまいにしたまま夕張自己責任論を言うことは国や北海道の責任を免罪することになると本書は強調しています。
生きる/北野武 読了 2007.9.13 (31冊目/年50冊目標)
北野武著 潟鴻bキング・オン 2007.5.31発行 189頁 1500円+税
○病気(初めて対峙した病いの恐怖) ○絵(絵は排泄物? ヘタウマこそが究極) ○ギャンブル(俺の人生、そのものが博打) ○仮装(一生、お笑い 一生、着ぐるみ) ○教育(教育とは単なる立身出世の道具) ○処女作(始まりにその全てがある) ○動物(最大の愛情は、関わらないこと) ○
ヨーロッパ(熱狂的キタニストの巣窟) ○才能(必要なのは、才能がないことを見抜く才能)
目次のとおり、種々の顔を持つ著者が、種々のテーマについて縦横に語っている本です。一種独特の毒を持つ語り口ですが、話されている内容はまともで聞きやすいと思います。例えば、仮装。テレビの番組司会者として登場する時は「仮装」をして登場することが多い著者は、着ぐるみになることで素顔でない自分になれるといいます。照れ屋ということか。
読んでいて、彼の素顔は、実は映画監督なのだと思いました。従って、他の、番組司会者・俳優・作家・画家として登場する時は「着ぐるみ」なのです。面白い表現です。
憲法についても、あいまいさが大事で、単なる自衛隊なのにイラクまで行っているというあいまいな現状が日本の良さであって、「自衛隊は軍隊である」なんて言ったらもっと酷い所へ行かされる。言っては駄目。急に真面目になってどうするの。面白い表現です。
肩の凝らない楽しい読み物です。
推薦度★★★☆☆
蜃気楼(ミラージュ)読了 2007.9.3 (30冊目/年50冊目標)
下重暁子著 近代文芸社 1997.7.20発行 253頁 1500円+税
(目次)都会 ○口紅 ○踊る蛇 ○りんご時計 ○さよりの家 ○蝶ネクタイをしたワニ ○尺とり虫の幸せ
軽井沢(春から夏) ○舞踏会の客 ○きつつき合戦 ○小ねずみの冒険 ○小猿は百合が欲しかった ○むささびの夢
軽井沢(秋から冬) ○ベランダの影 ○虹色のハンモッグ ○鳴かないこおろぎ ○約束
千一夜の国 ○「開けゴマ」 ○夢掘人 ○ビブロスの魚 ○おしゃれなゲリラ ○ミラージュ
おわりに
著者の略歴 9年間NHKアナウンサー。退社後、エッセイ・評論・ノンフィクションなどの文筆業。
大人の童話の本です。現実の世界から扉を押して想像の世界に入り込んで出来上がる物語。著者が還暦にして書き下ろした20編の夢物語といってもいい。
個人的には著者が軽井沢で夏を過ごすようになって出合った動物の物語が好きです。狐が舞踏会に出る話、キツツキが音を競う話、ねずみが犬に乗る話、猿が百合の花を欲しがる話、むささびのジャンプ、熊が一服している話、子リスがハンモッグに乗る話、鳴かない大きなこおろぎの話、かもしかの訪問の話。
どれも上品な童話です。作者が軽井沢で見聞きしたものに違いありません。その時物語が生まれたのだと思います。
推薦度 ★★★☆☆
いのちのレッスン/新藤兼人 読了 2007.8.25 (29冊目/年50冊目標)
新藤兼人著 青草書房 2007.5.1発行 252頁 1500円+税
目次 ○人は「老い」ない ○家とは、家族とは、夫婦とは何か ○いかに食べ、いかに生きるか ○からだの中を通過したものを信じる
著者の新藤兼人さんは、明治44年(1912年)生まれです。現在95才です。インタビュの形で生まれてから現在に至るまでの道のりで起こったあれこれについて縦横に語っています。非常に読み易く構成されています。
映画のシナリオライターとしての出発、溝口健二氏に師事、最初の妻の死、初監督作品「愛妻物語」、音羽信子さんとの出会い、近代映画協会の設立、「原爆の子」監督、「裸の島」の受賞、「鬼婆」「ある映画監督の生涯」「午後の遺言状」「ふくろう」などを世に送り出す。
現在の生きかた、家と夫婦と男と女、いかに生きるか=粘るか、からだの中を通過したものを信じる、岡本太郎さんの一撃、愛とは誠実など、映画制作の合間の著者の生活も語っています。
95歳にして現役の映画監督であり、シナリオライターである新藤さん。短いセンテンスのひと言ひと言は、大変重みがあって、ストンと気持ちの中に落ち込む力があります。推薦の書です。
推薦度★★★★☆
「暮らす」技術 読了 2007.8.20 (28冊目/年50冊目標)
辰巳渚著 宝島社新書 2001.7.21発行 222頁 686円+税
目次 ○はじめに ○捨てたあとの豊かな暮らしとは ○楽しく暮らす考え方10か条 ○豊かに暮らす実践10か条 ○あとがき
『「捨てる」技術』と同じ著者の姉妹編です。「無理せず、背伸びせず、しかも楽しく、心豊かな、不通の暮らしこそが生きる喜びであり基本であるはず」と考える著者が、もう一度、身近な所から暮らしを見つめ直している本です。食べるもののところと、年中行事をするところに興味を引かれました。暮らすことに特別なことはありませんから当然のことかも知れませんが、前作と比べて当たり前の話が多いように思いました。
推薦度★★☆☆☆
ソロモンの犬/道尾秀介 読了 2007.8.13 (27冊目/年50冊目標)
道尾秀介著 文藝春秋社 2007.8.10発行 344頁 1333円+税
「別冊文藝春秋」に5回にわたって連載された「ソロモンの犬」が8月8日に一冊の本になって刊行されました。早速、高槻市内の書店で購入して読みました。
同じキャンバスに通う大学生4人が青春の香りを漂わせて繰り広げる物語。4人の共通の知人である博学の小学生である陽介が愛犬の紐に強く引かれたことが原因となって車に轢かれるという事件が起こります。この事件をめぐって、主人公・秋内の憶測と推理が、いろいろな方向へと発展して物語は展開していきます。愛犬はなぜ突然走り出したのか。偶然現場に居合わせた3人の友達は関係ないのか。同じ大学で教える陽介の母親や動物の行動に詳しい動物学者が登場します。青春特有の秋内の片思いは成就するかは読んでのお楽しみといったところです。
人が死んでその原因を追求する物語という筋は維持しながら、巧みに大学生の心理描写を組み入れて若者特有の会話とともに大学生らしい世界を作り上げています。多くはない登場人物全てが怪しく、物語の中で一度は犯人になりそうになるのが巧みで面白い。真犯人はマジックにかかってマア当たりません。物語とは直接関係ありませんが、秋内はロードレーサーの自転車に乗りアルバイトをこなし、京也はプジョーの自転車に乗っています。
青春小説の香りが全体を流れて道尾作品の中ではライトな印象を受ける作品です。「道尾ワールド」の中にはいろいろな分野のミステリーがあっていいと思います。人間を描くのが彼の目的なのですから。
推薦度★★★☆☆
一億人のためのミステリー! 読了 2007.8.7 (26冊目/年50冊目標)
友清哲 編集 ランダムハウス講談社 2004.4.15発行 111頁 952円+税
目次 ○4人の作家インタビュー ○ノッてる作家をチェック! ○いま注目の新人作家を探せ! ○
私を育てたミステリー ○小説以外で楽しむミステリー ○あなたのミステリー大アンケート ○このミスの秘密 ○10行でわかるあの作家のこの一作 ○新人作家の華麗なる1日 ○私のミステリベスト3 ○ミステリー界を彩る名探偵の横顔 ○このミステリ−を読め ○伊坂幸太郎の現在 ○ウブ方丁との一問一答
ミステリー作品とミステリー作家について色々情報を集めて編集してあります。ミステリー案内書です。この分野、未だ初心者の私の場合、知らない作家がほとんどで、初めて聞く名前ばかりでした。その中では「10行でわかるあの作家のこの一作」が参考になりました。古典的なものから現在のものまで、作家の代表作が紹介されています。「伊坂幸太郎の現在」は人気作家・伊坂幸太郎と彼の作品について物静かに語っています。
発行が2004年ですので、3年前です。道尾秀介さんは未だデビューしていません。道尾氏の最新作「ソロモンの犬」刊行本が明日8月8日に発売になります。楽しみにしています。
推薦度★★☆☆☆
となりのクレーマー−苦情を言う人との交渉術− 読了 2007.8.4 (25冊目/年50冊目標)
関根眞一著 中公新書ラクレ244 2007.5.10発行 198頁 720円+税
○はじめに ○クレーマー物語(婚約指輪・60日の攻防・ヤクザとの対決・軟禁事件・婦人服売り場の怪事件・賞味期限・靴下問答・二人のクレーマー・被害額は2円) ○苦情社会がやってきた! ○クレーム対応の技法 ○あとがき
著者の略歴 1950年生 西武百貨店入社、お客様相談室長。03年退社。
百貨店の苦情処理の目標は「再度来店してお客様になっていただく」と言いますから、目標は大変高い。行政の苦情処理の目標は「解決」すること、即ち、苦情の内容が解決するか、本人が納得するか、すれば目標が達成されます。少し、レベルが違う気がします。
それにしても、本書で取り上げられている「クレーム」に対して何と徹底した対応をしていること。クレーマーに対しては徹底した対応が必要だが「お客さま」が上げた声は「ありがたい忠告」として、徹底して誠意を持って対応しています。金銭要求以外は、相手から言われたことを殆ど実行しています。
教育や医療、行政に対する「クレーム」も激増しているとか。「ガラスを割ったのはそこに石があるから悪い」「子どもが怪我したら何であんな薮医者の所へ連れて行った」などという親の主張はもうどうにもならない「クレーム」です。ちょっと寂しい気がします。
本書に、百貨店の看板を背負う社員の一貫した姿勢を見た重いがしました。頭が下がります。クレーマーに心当たりがある方、必読です。
推薦度★★★☆☆
後手という生き方/瀬川晶司 読了 2007.8.2 (24冊目/年50冊目標)
瀬川晶司著 角川書店 ONEテーマ21新書 2007.3.10発行 196頁 686円+税
目次 ○後手にも強さがある ○プロには誰でもなれる ○プロの執念 ○トップに立つために ○プロとアマチュア ○将棋の未来 ○渡辺明との対談
26歳で奨励会を卒業し、一端は将棋をやめて大学−社会人と歩みアマチュア将棋を楽しんでいた著者が、35歳にして60何年ぶりの特例措置として「プロ棋士試験」を受け、3勝2敗で見事プロ4段になりました。一躍注目されました。社会人からプロになったのは初めてということもあり、そういう道を歩んだプロ棋士がいるということが将棋界にとってプラスであると本書で語っています。その利点を生かすためにも、本人が強くなることやマスコミに呼ばれれば将棋の普及のために可能な限り応じること、を今心がけていると語っています。物静かに綴られた文章ですが、「瀬川流」と呼ばれる「守りの薄い将棋」をめざして精進したい、と決意が述べられています。渡辺プロとの対談は、片や20歳にして竜王位のタイトルホルダーとなるトップランナーで、著者は35歳にして4段という「遅咲き」のプロ。対照的な二人の対談ですが、プレッシャーの話、努力は報われる、一流とは紙一重、大舞台が大事、仲間からの信用の話など、面白い話題でした。
推薦度★★★☆☆
カロリーオフ/竹内結子 読了 2007.7.24 (23冊目/年50冊目標)
え
竹内結子著 ぴあ株式会社 2006.4.12発行 173頁 1300円+税
女優竹内結子さんのエッセー集です。「TVぴあ」に連載されたものが刊行されました(初のエッセー集「においふぇち」の続編です)。
竹内さんは大変文章が上手です。「新感覚派」と呼んだらいいのか、日常に起きる「小さなできごと」が、タケウチ的感覚で、見事に再現されています。ものの感じ方に感心したりしながら楽しんで読み進むことができます。
連載時の48本〜75本の28本と、未公開の5本、合計33本が収められています。時期的には2004年6月〜2005年7月に当ります。映画「いま、会いにいきます」の撮影・公開時期だったようです。それに「春の雪」の撮影と。
蛇足ですが、この2本の映画で、2005年と2006年と連続して日本アカデミー賞・主演女優賞にノミネートされています(2004年の黄泉がえりを入れると3年連続)。日本を代表する女優さんほ一人です。
プライベートで「入籍」という事件もあって一端はこの連載に終止符が打たれたようです。落ち着いたら、是非ともまたエッセーを発表してほしいものです。
カロリーオフとは、続編としては少し分量が少なめなので「カロリーオフ」だそうです。映画撮影時の写真などが挿入されていて、見るだけでも値打ちがある本になっています。
推薦度★★★☆☆
村が消えた−平成大合併とは何だったのか− 読了 2007.7.19(22冊目/50冊/年)
菅沼栄一郎著 祥伝社新書 2005.11.5発行 220頁 740円+税
著者の略歴 1955年東京生 朝日新聞政治部記者 現北海道報道部
○はじめに ○新しい市町村が生まれた ○合併狂騒列島 ○住民自治の芽生え ○村が消えた ○村はどこへ ○分権の潮流
今回読了しましたが、一年半位前に一度読んでいたことが読書録から分かりました。一年半で忘れるとは、ちょっと問題です。
感想等はこのページへ。
羽生善治 簡単に、単純に考える 読了 2007.7.13 (21冊目/50/年)
羽生善治対談集 PHP研究所 2001.11.21発行 238頁
その道の第一人者である3人と羽生善治さんとの対談集です。その3人とは以下のとおり。
平尾誠二さん‥‥神戸製鋼ラグビー部ゼネラルマネージャー。1963年京都生。伏見工業全国優勝、同志社大学3連覇、神戸製鋼7連覇。
二宮清純さん‥‥スポーツジャーナリスト。国内外で取材活動を展開。
金出武雄さん‥‥カーネギーメロン大学教授。ロボット工学の世界的権威。1945年兵庫県生。1980年アメリカへ。NASA先端技術諮問委員などを歴任。
平尾さんとの対談での羽生語録。
○不利な状況では混沌とした局面をつくり勝機を見出す ○勝負どころを読む力は接戦でこそ養われる ○忘れることから新しい発想が生まれる ○斬新なアイデアは評価されないものの中にある ○情報は選ぶよりいかに捨てるか
二宮さんとの対談での羽生語録。
○日本人に足りないのは決断のスピードと精度 ○型がないのが最強の型である ○相手に手を渡し相手の力を利用して反撃する ○序盤中盤は森を見て終盤の詰めは木を見る ○完璧に勝つよりも一手違いで勝つことに意味がある ○先入観、固定観念をもたない人間が強い
金出さんとの対談での羽生(金出)語録。
○詰めの段階に入ったらコンピューターはプロ級 ○人間は計算できないことを直感・勘という ○50次元の美しいダンス−コンピューターは人間のわからないことがある ○将棋の可能性は世界中の分子の数より多い ○問題解決は抽象化して考えろ。細部にはとらわれるな ○2050年コンピューターの思考能力は人間とクロスする
どの対談も棋士羽生善治の考え方がよく現れています。本当に柔軟に物を考えることができる人です。
特に金出さんとの対談はコンピュータの世界の専門の話がどんどん出てくるのに棋士・羽生善治が話題についていって会話できるものと感心しました。柔らかい頭脳であることの証明です。
推薦度★★★☆☆
宮崎発・日本を変えんといかん/東国原英夫 読了 2007.7.8 (20冊目/50/年)
東国原英夫(ひがしこくばるひでお)著 集英社 2007.4.20発行 189頁 952円+税
目次 ○県知事になって70日 ○今までの体制の空気 ○宮崎県ってどんなとこ? ○政治家への挑戦 ○そして知事選立候補へ ○マニフェストの意味 ○僕のマニフェスト再録
宮崎県知事が収賄の罪で逮捕された時、福島県・和歌山県と現職知事の逮捕が相次いでいて、「いい加減にしてよ」というムードでした。そんな折に立候補した無所属のそのまんま東さん(本名・東国原英夫氏)。宮崎の空気が伝わってこない中で、泡沫候補だとばかり思っていたのが、ふたを開けてみると堂々の当選でした。
前半は、当選してから行政の中に入って感じたことを率直に述べています。後半は政治家になるための準備期間と勉強のこと、そして選挙戦のこと。巻末にマニフェストが再録されています。知事選には、しっかりとした準備期間があって立候補したことを初めて知りました。
ジョギングが好きで市民マラソンに出ていて、お笑いタレントの中ではスポーツマンというイメージでした。たけし軍団でのフライディ殴り込み事件と、団体で入った店に未成年が働いていて事情聴取を受けた事件とで、マスコミから集中攻撃を受けたことは覚えていますが、その潜伏期間中は、早稲田大学に編入試験を受けて、ずっと政治の勉強をしていたということです。
宮崎県は山が深くて、平地が少ない所というイメージがあります(岐阜県のよう)。ただし、日南海岸という海を持っているのが強みです(岐阜に海はない・長良川のみ)。少し前に宮崎県へ旅行したこともあって、地名が出てくると、車で通った町だったりして親しみが持てました。
東国春英夫氏が宮崎県を何よりも大事に思っている想いはこの本から伝わってきます。知事で成果が上がることを期待しています。
推薦度★★☆☆☆
日南海岸殺人事件 読了 2007.6.28 (19冊目/50冊/年)
木谷恭介著 ハルキ文庫 2005.9.18発行 372頁 724円+税
初出1996年光風ノベルス
宮崎のパチンコ店で銃声がする。目撃した桑野香津子は防犯課長の父に連絡する。その父が運動公園で殺害されて発見される。パチンコにプリペイドカードを導入したことによる偽造グループを巡る事件か。地元暴力団南川がマークされる。東京の板前が宮崎まで出てきて殺害される。事件は東京へ飛び火する。バブル時の借金王奥本が関わっているか‥‥。
木谷(こたに)恭二さんの作品は初めてです。1927年生とありますから現在89歳です。今回の小説はタイトルが『日南海岸殺人事件』で、南九州旅行に行くところと場所が一緒だったのが選択理由です。
1960〜70年代は九州の宮崎・鹿児島は新婚旅行のメッカでした。宮崎から青島・えびの高原・霧島・指宿のコースです。この前の旅行は丁度その反対のコースを辿りました。スタートが指宿でゴールが青島・宮崎でした。列車と飛行機の違いでしょうか。
宮崎の地名が色々出てきて面白い小説でした。3人の女性の名前が出てきて絡んで頭の中でぐるぐる回ります。
推薦度★★☆☆☆
ラットマン(上)/道尾秀介 読了 2007.6.22
季刊『ジャーロ』(28号・2007.6)所収 道尾秀介著 前編(230枚)
主人公虻川は高校時代の友人達とアマチュア・バンドを組んでいる。30代になった今も続いている。レンタル・ブースで練習している。ドラムは桂という女性。妹にひかりがいる。父の影響でドラムの腕は二人とも上級。虻川には小さい頃姉を亡くした記憶がある。それは父が亡くなった記憶とも重なっている。そのブースで事件が起きた‥‥。
230枚の書き下ろしです。前編では事件が起こるところまで。表題のラットマンとは「一枚の絵」があって人物ばかりの中で見ると人間に見えるが、動物ばかりの中で見るとネズミに見えるという「騙し絵」のことです。今回の物語が語る騙し絵の全貌は現段階では(私には)不明です。
興味を募らせていく場面展開が巧みで、思わず物語に引き込まれていきます。バンドや歌の専門用語や練習の様子は、著者が高校時代に実際にバンドをやっていた経験が生きていて臨場感があります。虻川の人間性が育まれた子供時代が繰り返し描写されることが事件とどう関わっていくのか。ひかりが好きなバンドの友人やブースのオーナーは何もないのか。興味が広がっていきます。後編が待ち遠しい。
湖底の酸素はいま-びわ湖深底部酸素の動態をさぐる- 読了 2007.6.20 (18冊目/50冊/年)
岡本巌編 酸素の会2007.5.13発行 106頁 1,000円
もくじ ○はじめに ○前編 酸素の季節変化 びわ湖の深呼吸 流入河川水の湖水中における挙動 酸素極小層の形成とその役割 溶存酸素量の経年変化 ○後編 エッセイ 酸素の会の歩み おわりに
滋賀県の自主的な研究サークル「酸素の会」が5年間にわたってびわ湖の溶存酸素量の変化を追って研究してきた研究成果の報告集です(後編には参加者のエッセイも加わっています)。
「びわ湖の深呼吸」という言葉があるそうです。深呼吸とは、普段は酸素が少ないために弊害が出ている所も含めて、年に一度、酸素が供給されることによってびわ湖全体の水がよみがえる様を命名したものです。言い得て妙な命名です。これはきっとびわ湖を守る女神の仕業に違いありません。
このびわ湖の深呼吸=びわ湖深部も含めて酸素が供給される仕組みを解明しようというのがこの酸素の会の研究テーマです。
解析すべきデータは、滋賀県が定点測量点として設置している竹島付近水深90m地点の自動測定局のデータです。湖面から2mおきに75m地点まで36ポイントについて一日2回測定しているとのこと。この一年分のデータ(1998年度)が研究対象です。酸素・水温・濁度の3項目で約8万。これに流入河川データを含めて10万余。
そのデータ解析から「深呼吸」の仕組みに迫っています。研究成果をここで紹介したいのですが、本書を読んで確認してください。
推薦度★★★☆☆
住民が主人公の地域づくり(兵庫4町長が語る) 読了 2007.6.14 (17冊目/50冊/年)
兵庫県自治体問題研究所編 2007.3.17発行 115頁 1000円
目次 ○住民が主人公の自治体・地域づくりと民主的首長(岡田知弘) ○住民が主人公を貫いた25年間(山田兼三) ○情報を公開しみんなで考える町づくり(島田正義) ○解同の支配から住民自治と笑顔を取り戻した黒田庄町(東野敏弘) ○10ヶ月の革新町長(奥村忠俊)
本書は、兵庫県自治体問題研究所が企画した4町長によるシンポジウム「住民が主人公の地域づくり−第一人者が勢ぞろいの公開シンポジウム」(2006年12月23日開催)で話された内容を元にして、改めて原稿を依頼してまとめたものです。
4町長が語る内容はどれも実践的で内容に富んでいます。山田氏は町長、島田氏は教員−議員−町長、東野氏は教員−町長、奥村氏は議員−町長−議員、という経歴です。山田町長の話はすでに2冊の本があって読んでいましたので、内容を反復することができました。上水道・下水道、歯科センター、子ども歌舞伎、ひまわり祭りなどの話が印象的です。福崎町は、もちむぎ食品センターの使途不明金が3.6億円もあったことが驚きです。職員への訓示@住民に親切にA研修するB町民こそが主人公だからいのち・くらし・人権を大切には普遍性があります。黒田庄町は不公正な同和行政で混乱した町政を立て直すにはこの人しかいない、と白羽の矢が当たって町長に。町民に開かれた町政をめざして行政無線、福祉送迎車、若者マンションなどを進めたとのこと。出石町は合併が決まったあとの11ヶ月を町民の不利益払拭に奮闘したこと、台風被害でその道も半ばだったことが述べられています。
4人の話はいずれも町民の視線で、町民の顔を浮かべながらの行政という目に見える行政が行われました。それが素晴らしい。行政の担い手たる職員にしても同様の気持ちでしょう。四町のうち「平成の大合併」によって福崎町以外は合併して町名がなくなったことは大変残念です。
推薦度★★★☆☆
「寅さん」のひとこと−下手な人生論より− 読了 2007.6.9 (16/50/年)
吉村英夫著 河出書房新社 2006.7.20発行 239頁 1500円
もくじ 1心がまっすぐになる「寅さん」のひと言 2自分を取りもどす「寅さん」のひと言 3確かな絆に気づく「寅さん」のひと言 4もっと深く人を愛せる「寅さん」のひと言 5また明日から頑張れる「寅さん」のひと言 6生きる勇気がわく「寅さん」のひと言
「男はつらいよ」全48作の中なら、素敵な「寅さん」の言葉を選び出した台詞集とでもいうべき本です。著者が全脚本を読んで、著者が選んだテーマごとにシーンを抜き出して、コメントをつけて紹介をしてくれています。脚本というのは言葉遣いが映画と同じだから、臨場感があります。あった、あったと「名場面」を思い出すことができます。
それにしても人生論とも呼ぶべき「いい言葉」「いいシーン」が沢山詰まっているのを再発見しました。大学の教授でもない学者でもない「フーテンの寅さん」の口から発せられる言葉だからこその魅力があります。
神戸の大震災後、避難所の人たちに「神戸映画センター」を中心に映画上映のボランティアをしたとき、子どもたちは『となりのトトロ』大人には『男はつらいよ』が圧倒的に喜ばれたという話が載っていました。その上映会の数250〜300回。寅さん映画には心を癒し、励ましてくれる何かがあるということ。映画が復興に役立つなんて素敵な話です。
推薦度★★★☆☆
とても大切な愛/イ・ヨンエ 読了 2007.6.1 (15/50/年)
イ・ヨンエ(李・英愛)著 二見書房 2002.6.25発行 190頁 1500円+税
目次 1ちいさな自画像 2とても大切な愛 3地球村の隣人たち 4ヨーロッパ旅日記
イ・ヨンエさんが初めて出したエッセイ集。2002年のワールドカップ共同開催に合わせて日本で翻訳本が発行されました。韓国では2001年4
月発行です。イ・ヨンエさんといえば『チャングムの誓い』の主役。その「チャングムの誓い」が韓国で放送が始まったのが2004年9月からですから、この本は、国民的女優となる以前のイ・ヨンエさんの素顔を著した本です。
子どもの頃は洞窟探しとプロレスごっごが大好きで、活発な女の子だったとのこと。高校生の時に「女学生」という雑誌のカバーモデルに応募して一回掲載されました。大学はドイツ文学を専攻、ゲーテ・リルケ・ハイネ・ヘッセなどの作家たちへの憧れがありました。大学生の時、チョコレートのCMに初めて出演。続いて化粧品のCMで「酸素のような女」というコピーがつきました。大学卒業後の進路を迷った末にタレントの道を進む決心をしました。
音楽ではベートーベンの「月光の曲」に惹かれてピアノを習い始め「ソナタ悲愴」などで緊張の糸をほぐしています。どのジャンルの音楽も好きとのこと、クラシック・ジャズ・ヒップポップ・テクノ・韓国の歌謡曲・国楽まで。ジャケットのモデルになって販売収益金の2%を得て、そのお金は釜山の療養所で心臓病に苦しむ子どもたちの手術費に寄附したとのこと。ようやく社会の一員として役割を果たしているという気持ちとともに。
本のタイトルになっている「とても大切な愛」は韓国のテレビ番組のタイトルでその司会を担当したとあります。視聴者から恵まれない子どもたちへの寄附を募る番組でした。
日本占領下の韓国で抗日運動の先駆者、イ・ミンクのことを調査したことに触れています。
イ・ヨンエさんの愛読書は2冊。一冊目は「無所有」(法頂和尚)。いつ読んでも新鮮で感謝する気持ちを新たにするといいます。二冊目は「ノルウェイの森」(村上春樹)。日本で700万部売れた本が韓国でも愛読されていることに驚きをもちます。
尊敬する映画人としては、チャールズ・チャプリンとオードリ・ヘップバーンの二人。ユニセフの親善大使として救援活動に加わったヘップバーンの、加齢したが凛とした表情に女優として見習いたい人格があるといいます。
あとは映画『JSA』への出演やヨーロッパの旅の記録などが収録されています。
著者がどういう生い立ちでどんなことを考えながら女優への道を進み現在に至っているかを知るのに非常によくできた本です。
推薦度★★★☆☆
数に強くなる 読了 2007.5.22 (14/50/年)
岩波新書1063 畑村洋太郎著 2007.2.20発行 220頁 740円+税
目次 はじめに 1数に強くなる 2数の感覚をみがく 3数の声を聞く 4数を使う おわりに
数(かず)が表わすのは、@種類であり、A狭い意味の数であり、B単位である、といいます。例、りんご三個。この数と数量を使用して世の中を表現することで豊かになる世界があるという話から始まります。数学の入門書ではなく、生活の中で直感で数を使うことに慣れようと呼びかける本です。肩の凝らない本で、一気に読むことができます。
推薦度★★☆☆☆
対談 伊坂幸太郎&道尾秀介 (小説宝石・2007・5月号) 読了 2007.4.23
『小説宝石』の2007年5月号に、『ミステリーの気鋭対談 伊坂幸太郎&道尾秀介』の記事が見つかりましたので、早速購入して読みました。
「当代人気作家のお二人がご自身の創作に対する姿勢を大告白。執筆スタイルや家庭環境など、色々と共通点も多かったりするんです。」とイントロダクションにありました。
二人の対談は初めて、とあります。35歳と31歳、気鋭の作家です。
道尾さんはとにかく小説で描きたいのは人間。ミステリーというスタイルを利用すると人間の感情がうまく描けるからで、スタイルには全くこだわっていないといいます。高校時代は本とは別世界の「ロック音楽」の中にいた、とあります。
その高校時代、髪を金髪に染めて、手から鎖をジャラジャラ垂らして、ジーパンで、実家に帰って来た姿をなつかしく思い出します。
中身を全て公開することはできません。詳しくは本を読んでください。伊坂幸太郎さんが、全く飾らない、実直な話を語っていることが大変印象的でした。伊坂さんの作品もしっかり読んでみます。
わが家の夕めし/池波正太郎 読了 2007.4.6 (13/50/年)
池波正太郎著 講談社 2003.4.15発行 269頁 1700円+税
作家・池波正太郎さんのエッセー集です。本にまとめられていない51本、S44年〜S49年に発表されたものを集めています。
多様な分野での話題がありますが、やっぱり旅とグルメと映画の話が私は一番面白い。鬼平犯科帳執筆の時期でもあります。他に、新撰組や西郷隆盛、徳川吉宗、近藤勇、真田幸村、彰義隊など歴史に関する話もかなり詳しく述べています。
気軽に楽しんで読めるエッセーばかりです。
推薦度★★☆☆☆
負けるのは美しく 読了 2007.3.29 (12/50/年)
児玉清著 集英社 2005.9.10発行 285頁 1600円+税
目次 ○名もなき雑魚として ○忘れ得ぬ監督、俳優たち ○スクリーンからブラウン管へ ○素顔のままで ○天国へ逝った娘
月刊雑誌『すばる』に、2002年5月号から2005年4月号まで、「ちちんぷいぷい玉箒」のタイトルで連載されたものをまとめて、刊行したとありました。全部で38本の文章が載っています。俳優・児玉清さんが歩んだ道と考えたこと、家族のことが非常に上手な文章で綴られています。
児玉さんといえば、「アタック25」の名司会者であり、NHKの「ブックレビュ」の司会者でもあります。博学なイメージが強いのですが、そのとおりでした。1934年生まれとありますから、72歳。文章にその年輪がしっかり反映されています。
学習院大学のフランス文学専攻で、大学院一歩手前で、妙な縁から俳優の道に入って、冷やかしのつもりが、終生の職業となったといいいます。その過程で扱われているエピソードも、失敗談・怒られ話などが比較的沢山盛られていて、「なにくそ」のファイトがにじんできていて、面白い内容でした。(最終章の娘さんの記事だけは、読むのが辛いくらい児玉さんの落胆と哀しみが伝わってきます。)
表題が「負けるのは美しく」とは、何とも変わったタイトルですが、児玉さんが俳優業を生き抜く上でのモットーだそうです。どういう意味かはあとがきにあります。児玉清という俳優のひととなりを知るのに絶好の本です。
推薦度★★★★☆
定年後−豊かに生きるための知恵− 読了 2007.3.23 (11/50/年)
加藤仁著 岩波新書 2007.2.20発行 236頁 740円+税
○はじめに ○ひとりの旅だち ○仕事を創る ○たのしむ、学ぶ ○家族を見つめる ○地域社会に生きる ○終の住処 ○おわりに
タイトルに引かれて購入した本。著者も団塊世代で、今まで3,000人以上の人と会ってインタビューしたとのこと。それが、目次のように分類されて紹介されています。
沢山の事例を紹介しているため、一つの事例紹介が短くなっています。突込み不足の感が残ります。私としては、事例を絞って一件についてもっと詳細に紹介して欲しかった気がします。読み流した本。
推薦度★★☆☆☆
隠れ鬼/道尾秀介(小説すばる07年4月号)読了 2007.3.20
道尾秀介さんの短編ミステリー「隠れ鬼」が「小説すばる07年4月号(総力!ミステリー短編特)」の巻頭を飾っていました。早速、購入して読了しました。
私は遠沢印章店を継いで生業にしている。母のアルツハイマー型痴呆が5年ほど前から始まって、今は介護と仕事の毎日を過ごしている。そんな母がある時、色鉛筆と白紙の紙を用意して絵を描き始めた。画用紙には緑色の尖った葉を沢山描き、そして薄緑色の点を散りばめて。それは母が「知っているはずのない」光景だった‥‥。
道尾さんの短編は、ネット時代のショートショート以外では初めて読みました。母のボケと父の自殺があって、母と父と私と別荘と出来事とが絡まりあう展開。笹が何かを象徴する役割を果たしています。丁寧な描写とともに物語の展開が巧みで、最後まで一気に読ましてくれます。
本人が語っている2007年の予定をみると
@片眼の猿(新潮社)刊行 2007.2.24
A別冊文芸春秋 「ソロモンの犬」連載中
Bジャーロ(光文社)春・夏号 「ラットマン」(仮)前・後篇掲載予定
C東京創元社アンソロジー企画 時期未定 等が進んでいるとのこと。
今年も、道尾秀介さんから目が離せません。
|