一汁一菜の読書歳時記7  2007年1月〜

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目次  
 読書歳時記1  2000年4月〜2001年3月へ(45冊)
 読書歳時記2  2001年4月〜2002年3月へ(41冊)
 読書歳時記3  2002年4月〜2003年12月へ(13冊)
 読書歳時記4  2004年1月〜2004年12月へ(27冊)
 
読書歳時記5  2005年1月〜2005年12月へ(71冊)
 読書歳時記6  2006年1月〜2006年12月へ(71冊)


2007年1月映画をたずねて  □日本共産党  □先を読む頭脳  □生きざま死にざま  □映画学  □生活保護物語
    
2月田舎村長人生記  □ワルシャワの早い風
         
3月 片眼の猿 □大雪山のふもとから  □隠れ鬼/道尾秀介  □定年後  □負けるのは美しく
    
4月わが家の夕めし/池波正太郎  □対談 伊坂幸太郎&道尾秀介
     
5月数に強くなる
      
6月とても大切な愛/イ・ヨンエ  □「寅さん」のひとこと−下手な人生論より− □住民が主人公の地域づくり
         (兵庫4町長が語る)  □ 湖底の酸素はいま-びわ湖深底部酸素の動態をさぐる- □ラットマン(上)
        □日南海岸殺人事件
   
 7月 宮崎発・日本を変えんといかん  □羽生善治 簡単に、単純に考える □村が消えた−平成大合併とは
         何だったのか−  □カロリーオフ/竹内結子
    
8月 □後手という生き方/瀬川晶司  □となりのクレーマー □一億人のためのミステリー! □ソロモンの犬/道尾秀介
        □「暮らす」技術  □いのちのレッスン
    
9月 □蜃気楼(ミラージュ)  □生きる  □夕張 破綻と再生  □ラットマン


 


 

ラットマン/道尾秀介 読了 2007.9.28 (33冊目/年50冊目標)

 季刊雑誌「ジャーロ」に連載された道尾秀介さんの480枚の最新作『ラットマン』を読了しました(来年1月光文社より刊行の予定です)。


 大学を卒業して10年、学生時代のロック・バンド仲間4人が姉妹のドラマーを加えて卒業後もブースを借りて練習を続けています。そのもうすぐ閉鎖となるそのレンタル・ブースで事件は起きます。ギターを担当している姫川は、子どもの頃哀しい事件によって姉と病気の父を失いそれ以来母とも疎遠となっています。そうした主人公の生い立ちと深く関わって物語は展開していきます。

 ラットマンとは「人の中では人に見えるがネズミの中ではネズミに見える騙し絵」のことです。ブースで起こった不幸な出来事は、事故なのか殺人なのか。人間心理の盲点を突いて巧みな筆致で物語を二転三転させて、最後はあっと言わせる結末が待ち受ける道尾ワールドは今回も健在です。道尾さんは、ミステリーを手がかりに「人間」を描きたいと抱負を語っていました。本作は、その点でも深みが増している気がします。

 道尾さんは1975年生まれの31歳。『背の眼』でホラーミステリー大賞特別賞を受賞してデビューした3年目の新人です。その後『向日葵の咲かない夏』『骸の爪』を発表、昨年度は『シャドー』でミステリ作家が選ぶ「本格ミステリ大賞」を受賞しました。今年になって『片眼の猿』(携帯小説です)『ソロモンの犬』を発表しています。そして本作。目が離せない新進気鋭のミステリ作家と評されています。

推薦度★★★★☆


『夕張 破綻と再生』 読了 2007.9.27 (32冊目/年50冊目標)

保母武彦他著 自治体研究社 2007.2.10発行 138頁 1429円+税 


目次 ○はしがき ○夕張問題とは何か ○夕張財政の現状と「破綻」の主な原因 ○夕張市の財政運営に問題はなかったか ○夕張市の再生のために(提言) ○夕張問題と地方財政改革・自治体再建法制 ○資料 夕張市財政再建の基本的枠組み案について

 本書は4人が分担して緊急に書かれた夕張問題の分析・提言の書です。夕張市は石炭の町として栄え、石油へのエネルギー転換政策の下で次第に衰退していき、観光事業に将来を託したがうまくいかず、市財政まで破綻するという、激動を経験している市です。赤字再建団体の指定を受け、この4月から20年間の長きにわたる再建の道に踏み出しました。
 特に市の財政破綻に関連して、「赤字隠し」「ヤミ起債」「放漫経営」等の「夕張たたきキャンペーン」が張られ、夕張自己責任論が横行しました。そして、住民にとって大変過酷な「夕張財政再建計画」は「第二の夕張になるな」と見せしめ効果を生みました。
 夕張市の財政破綻の主な要因として、本書は3点を指摘しています。@炭鉱閉山後の処理負担 A観光・リゾート開発とその後の費用負担 B国の行政改革の地方への転嫁 
 炭鉱閉山処理では、炭鉱会社が所有する土地・住宅・病院を買取り、市営の住宅・浴場・水道・学校・道路などに583億円を費やした。そのための借金は332億円となり年20億円前後の償還を余儀なくされてきたといいます。標準財政規模の10倍となる負担です。
 「炭鉱から観光へ」の転換のもとリゾート開発をめざしたが誤算となり、市はスキー場・ホテルを買取りました。
 国の政策では「産炭法」が2001年失効となり、三位一体の改革と称した地方交付税の削減が追い討ちをかけました。
 この3点をあいまいにしたまま夕張自己責任論を言うことは国や北海道の責任を免罪することになると本書は強調しています。


生きる/北野武 読了 2007.9.13 (31冊目/年50冊目標)

北野武著 潟鴻bキング・オン 2007.5.31発行 189頁 1500円+税


○病気(初めて対峙した病いの恐怖) ○絵(絵は排泄物? ヘタウマこそが究極) ○ギャンブル(俺の人生、そのものが博打) ○仮装(一生、お笑い 一生、着ぐるみ) ○教育(教育とは単なる立身出世の道具) ○処女作(始まりにその全てがある) ○動物(最大の愛情は、関わらないこと) ○ ヨーロッパ(熱狂的キタニストの巣窟) ○才能(必要なのは、才能がないことを見抜く才能) 

 目次のとおり、種々の顔を持つ著者が、種々のテーマについて縦横に語っている本です。一種独特の毒を持つ語り口ですが、話されている内容はまともで聞きやすいと思います。例えば、仮装。テレビの番組司会者として登場する時は「仮装」をして登場することが多い著者は、着ぐるみになることで素顔でない自分になれるといいます。照れ屋ということか。
 読んでいて、彼の素顔は、実は映画監督なのだと思いました。従って、他の、番組司会者・俳優・作家・画家として登場する時は「着ぐるみ」なのです。面白い表現です。
 憲法についても、あいまいさが大事で、単なる自衛隊なのにイラクまで行っているというあいまいな現状が日本の良さであって、「自衛隊は軍隊である」なんて言ったらもっと酷い所へ行かされる。言っては駄目。急に真面目になってどうするの。面白い表現です。
 肩の凝らない楽しい読み物です。

推薦度★★★☆☆


蜃気楼(ミラージュ)読了 2007.9.3 (30冊目/年50冊目標)

下重暁子著 近代文芸社 1997.7.20発行 253頁  1500円+税

(目次)都会 ○口紅 ○踊る蛇 ○りんご時計 ○さよりの家 ○蝶ネクタイをしたワニ ○尺とり虫の幸せ
軽井沢(春から夏) ○舞踏会の客 ○きつつき合戦 ○小ねずみの冒険 ○小猿は百合が欲しかった ○むささびの夢
軽井沢(秋から冬) ○ベランダの影 ○虹色のハンモッグ ○鳴かないこおろぎ ○約束
千一夜の国 ○「開けゴマ」 ○夢掘人 ○ビブロスの魚 ○おしゃれなゲリラ ○ミラージュ
おわりに

著者の略歴 9年間NHKアナウンサー。退社後、エッセイ・評論・ノンフィクションなどの文筆業。

 大人の童話の本です。現実の世界から扉を押して想像の世界に入り込んで出来上がる物語。著者が還暦にして書き下ろした20編の夢物語といってもいい。

 個人的には著者が軽井沢で夏を過ごすようになって出合った動物の物語が好きです。狐が舞踏会に出る話、キツツキが音を競う話、ねずみが犬に乗る話、猿が百合の花を欲しがる話、むささびのジャンプ、熊が一服している話、子リスがハンモッグに乗る話、鳴かない大きなこおろぎの話、かもしかの訪問の話。

 どれも上品な童話です。作者が軽井沢で見聞きしたものに違いありません。その時物語が生まれたのだと思います。

推薦度 ★★★☆☆


いのちのレッスン/新藤兼人 読了 2007.8.25 (29冊目/年50冊目標)

 新藤兼人著 青草書房 2007.5.1発行 252頁 1500円+税

目次 ○人は「老い」ない ○家とは、家族とは、夫婦とは何か ○いかに食べ、いかに生きるか ○からだの中を通過したものを信じる

 著者の新藤兼人さんは、明治44年(1912年)生まれです。現在95才です。インタビュの形で生まれてから現在に至るまでの道のりで起こったあれこれについて縦横に語っています。非常に読み易く構成されています。
 映画のシナリオライターとしての出発、溝口健二氏に師事、最初の妻の死、初監督作品「愛妻物語」、音羽信子さんとの出会い、近代映画協会の設立、「原爆の子」監督、「裸の島」の受賞、「鬼婆」「ある映画監督の生涯」「午後の遺言状」「ふくろう」などを世に送り出す。
 現在の生きかた、家と夫婦と男と女、いかに生きるか=粘るか、からだの中を通過したものを信じる、岡本太郎さんの一撃、愛とは誠実など、映画制作の合間の著者の生活も語っています。
 95歳にして現役の映画監督であり、シナリオライターである新藤さん。短いセンテンスのひと言ひと言は、大変重みがあって、ストンと気持ちの中に落ち込む力があります。推薦の書です。

 推薦度★★★★☆


 「暮らす」技術 読了 2007.8.20 (28冊目/年50冊目標)

辰巳渚著 宝島社新書 2001.7.21発行 222頁 686円+税


目次 ○はじめに ○捨てたあとの豊かな暮らしとは ○楽しく暮らす考え方10か条 ○豊かに暮らす実践10か条 ○あとがき


 『「捨てる」技術』と同じ著者の姉妹編です。「無理せず、背伸びせず、しかも楽しく、心豊かな、不通の暮らしこそが生きる喜びであり基本であるはず」と考える著者が、もう一度、身近な所から暮らしを見つめ直している本です。食べるもののところと、年中行事をするところに興味を引かれました。暮らすことに特別なことはありませんから当然のことかも知れませんが、前作と比べて当たり前の話が多いように思いました。


推薦度★★☆☆☆


ソロモンの犬/道尾秀介 読了 2007.8.13 (27冊目/年50冊目標)

道尾秀介著 文藝春秋社 2007.8.10発行 344頁 1333円+税


「別冊文藝春秋」に5回にわたって連載された「ソロモンの犬」が8月8日に一冊の本になって刊行されました。早速、高槻市内の書店で購入して読みました。

 同じキャンバスに通う大学生4人が青春の香りを漂わせて繰り広げる物語。4人の共通の知人である博学の小学生である陽介が愛犬の紐に強く引かれたことが原因となって車に轢かれるという事件が起こります。この事件をめぐって、主人公・秋内の憶測と推理が、いろいろな方向へと発展して物語は展開していきます。愛犬はなぜ突然走り出したのか。偶然現場に居合わせた3人の友達は関係ないのか。同じ大学で教える陽介の母親や動物の行動に詳しい動物学者が登場します。青春特有の秋内の片思いは成就するかは読んでのお楽しみといったところです。

 人が死んでその原因を追求する物語という筋は維持しながら、巧みに大学生の心理描写を組み入れて若者特有の会話とともに大学生らしい世界を作り上げています。多くはない登場人物全てが怪しく、物語の中で一度は犯人になりそうになるのが巧みで面白い。真犯人はマジックにかかってマア当たりません。物語とは直接関係ありませんが、秋内はロードレーサーの自転車に乗りアルバイトをこなし、京也はプジョーの自転車に乗っています。

 青春小説の香りが全体を流れて道尾作品の中ではライトな印象を受ける作品です。「道尾ワールド」の中にはいろいろな分野のミステリーがあっていいと思います。人間を描くのが彼の目的なのですから。

推薦度★★★☆☆


   一億人のためのミステリー! 読了 2007.8.7 (26冊目/年50冊目標)

友清哲 編集 ランダムハウス講談社 2004.4.15発行 111頁 952円+税

目次 ○4人の作家インタビュー ○ノッてる作家をチェック! ○いま注目の新人作家を探せ! ○ 私を育てたミステリー ○小説以外で楽しむミステリー ○あなたのミステリー大アンケート ○このミスの秘密 ○10行でわかるあの作家のこの一作 ○新人作家の華麗なる1日 ○私のミステリベスト3 ○ミステリー界を彩る名探偵の横顔 ○このミステリ−を読め ○伊坂幸太郎の現在 ○ウブ方丁との一問一答


 ミステリー作品とミステリー作家について色々情報を集めて編集してあります。ミステリー案内書です。この分野、未だ初心者の私の場合、知らない作家がほとんどで、初めて聞く名前ばかりでした。その中では「10行でわかるあの作家のこの一作」が参考になりました。古典的なものから現在のものまで、作家の代表作が紹介されています。「伊坂幸太郎の現在」は人気作家・伊坂幸太郎と彼の作品について物静かに語っています。

 発行が2004年ですので、3年前です。道尾秀介さんは未だデビューしていません。道尾氏の最新作「ソロモンの犬」刊行本が明日8月8日に発売になります。楽しみにしています。


推薦度★★☆☆☆


となりのクレーマー−苦情を言う人との交渉術− 読了 2007.8.4 (25冊目/年50冊目標)

関根眞一著 中公新書ラクレ244 2007.5.10発行 198頁 720円+税


○はじめに ○クレーマー物語(婚約指輪・60日の攻防・ヤクザとの対決・軟禁事件・婦人服売り場の怪事件・賞味期限・靴下問答・二人のクレーマー・被害額は2円) ○苦情社会がやってきた! ○クレーム対応の技法 ○あとがき

著者の略歴 1950年生 西武百貨店入社、お客様相談室長。03年退社。


 百貨店の苦情処理の目標は「再度来店してお客様になっていただく」と言いますから、目標は大変高い。行政の苦情処理の目標は「解決」すること、即ち、苦情の内容が解決するか、本人が納得するか、すれば目標が達成されます。少し、レベルが違う気がします。
 それにしても、本書で取り上げられている「クレーム」に対して何と徹底した対応をしていること。クレーマーに対しては徹底した対応が必要だが「お客さま」が上げた声は「ありがたい忠告」として、徹底して誠意を持って対応しています。金銭要求以外は、相手から言われたことを殆ど実行しています。
 教育や医療、行政に対する「クレーム」も激増しているとか。「ガラスを割ったのはそこに石があるから悪い」「子どもが怪我したら何であんな薮医者の所へ連れて行った」などという親の主張はもうどうにもならない「クレーム」です。ちょっと寂しい気がします。
 本書に、百貨店の看板を背負う社員の一貫した姿勢を見た重いがしました。頭が下がります。クレーマーに心当たりがある方、必読です。

推薦度★★★☆☆


後手という生き方/瀬川晶司 読了 2007.8.2 (24冊目/年50冊目標)

瀬川晶司著 角川書店 ONEテーマ21新書 2007.3.10発行 196頁 686円+税


目次 ○後手にも強さがある ○プロには誰でもなれる ○プロの執念 ○トップに立つために ○プロとアマチュア ○将棋の未来 ○渡辺明との対談

 26歳で奨励会を卒業し、一端は将棋をやめて大学−社会人と歩みアマチュア将棋を楽しんでいた著者が、35歳にして60何年ぶりの特例措置として「プロ棋士試験」を受け、3勝2敗で見事プロ4段になりました。一躍注目されました。社会人からプロになったのは初めてということもあり、そういう道を歩んだプロ棋士がいるということが将棋界にとってプラスであると本書で語っています。その利点を生かすためにも、本人が強くなることやマスコミに呼ばれれば将棋の普及のために可能な限り応じること、を今心がけていると語っています。物静かに綴られた文章ですが、「瀬川流」と呼ばれる「守りの薄い将棋」をめざして精進したい、と決意が述べられています。渡辺プロとの対談は、片や20歳にして竜王位のタイトルホルダーとなるトップランナーで、著者は35歳にして4段という「遅咲き」のプロ。対照的な二人の対談ですが、プレッシャーの話、努力は報われる、一流とは紙一重、大舞台が大事、仲間からの信用の話など、面白い話題でした。


推薦度★★★☆☆


 カロリーオフ/竹内結子 読了 2007.7.24 (23冊目/年50冊目標)

竹内結子著 ぴあ株式会社 2006.4.12発行 173頁 1300円+税


 女優竹内結子さんのエッセー集です。「TVぴあ」に連載されたものが刊行されました(初のエッセー集「においふぇち」の続編です)。
 竹内さんは大変文章が上手です。「新感覚派」と呼んだらいいのか、日常に起きる「小さなできごと」が、タケウチ的感覚で、見事に再現されています。ものの感じ方に感心したりしながら楽しんで読み進むことができます。
 連載時の48本〜75本の28本と、未公開の5本、合計33本が収められています。時期的には2004年6月〜2005年7月に当ります。映画「いま、会いにいきます」の撮影・公開時期だったようです。それに「春の雪」の撮影と。
 蛇足ですが、この2本の映画で、2005年と2006年と連続して日本アカデミー賞・主演女優賞にノミネートされています(2004年の黄泉がえりを入れると3年連続)。日本を代表する女優さんほ一人です。
 プライベートで「入籍」という事件もあって一端はこの連載に終止符が打たれたようです。落ち着いたら、是非ともまたエッセーを発表してほしいものです。
 カロリーオフとは、続編としては少し分量が少なめなので「カロリーオフ」だそうです。映画撮影時の写真などが挿入されていて、見るだけでも値打ちがある本になっています。


推薦度★★★☆☆


村が消えた−平成大合併とは何だったのか− 読了 2007.7.19(22冊目/50冊/年)

菅沼栄一郎著 祥伝社新書 2005.11.5発行 220頁 740円+税

著者の略歴 1955年東京生 朝日新聞政治部記者 現北海道報道部

○はじめに ○新しい市町村が生まれた ○合併狂騒列島 ○住民自治の芽生え ○村が消えた ○村はどこへ ○分権の潮流


 今回読了しましたが、一年半位前に一度読んでいたことが読書録から分かりました。一年半で忘れるとは、ちょっと問題です。

感想等はこのページへ。


 羽生善治 簡単に、単純に考える 読了 2007.7.13 (21冊目/50/年)

羽生善治対談集 PHP研究所 2001.11.21発行 238頁


 その道の第一人者である3人と羽生善治さんとの対談集です。その3人とは以下のとおり。

平尾誠二さん‥‥神戸製鋼ラグビー部ゼネラルマネージャー。1963年京都生。伏見工業全国優勝、同志社大学3連覇、神戸製鋼7連覇。
二宮清純さん‥‥スポーツジャーナリスト。国内外で取材活動を展開。
金出武雄さん‥‥カーネギーメロン大学教授。ロボット工学の世界的権威。1945年兵庫県生。1980年アメリカへ。NASA先端技術諮問委員などを歴任。

 平尾さんとの対談での羽生語録。
○不利な状況では混沌とした局面をつくり勝機を見出す ○勝負どころを読む力は接戦でこそ養われる ○忘れることから新しい発想が生まれる ○斬新なアイデアは評価されないものの中にある ○情報は選ぶよりいかに捨てるか

 二宮さんとの対談での羽生語録。
○日本人に足りないのは決断のスピードと精度 ○型がないのが最強の型である ○相手に手を渡し相手の力を利用して反撃する ○序盤中盤は森を見て終盤の詰めは木を見る ○完璧に勝つよりも一手違いで勝つことに意味がある ○先入観、固定観念をもたない人間が強い

 金出さんとの対談での羽生(金出)語録。
○詰めの段階に入ったらコンピューターはプロ級 ○人間は計算できないことを直感・勘という ○50次元の美しいダンス−コンピューターは人間のわからないことがある ○将棋の可能性は世界中の分子の数より多い ○問題解決は抽象化して考えろ。細部にはとらわれるな ○2050年コンピューターの思考能力は人間とクロスする

 どの対談も棋士羽生善治の考え方がよく現れています。本当に柔軟に物を考えることができる人です。
 特に金出さんとの対談はコンピュータの世界の専門の話がどんどん出てくるのに棋士・羽生善治が話題についていって会話できるものと感心しました。柔らかい頭脳であることの証明です。


推薦度★★★☆☆


宮崎発・日本を変えんといかん/東国原英夫 読了 2007.7.8 (20冊目/50/年)

東国原英夫(ひがしこくばるひでお)著 集英社 2007.4.20発行 189頁 952円+税


目次 ○県知事になって70日 ○今までの体制の空気 ○宮崎県ってどんなとこ? ○政治家への挑戦 ○そして知事選立候補へ ○マニフェストの意味 ○僕のマニフェスト再録


 宮崎県知事が収賄の罪で逮捕された時、福島県・和歌山県と現職知事の逮捕が相次いでいて、「いい加減にしてよ」というムードでした。そんな折に立候補した無所属のそのまんま東さん(本名・東国原英夫氏)。宮崎の空気が伝わってこない中で、泡沫候補だとばかり思っていたのが、ふたを開けてみると堂々の当選でした。

 前半は、当選してから行政の中に入って感じたことを率直に述べています。後半は政治家になるための準備期間と勉強のこと、そして選挙戦のこと。巻末にマニフェストが再録されています。知事選には、しっかりとした準備期間があって立候補したことを初めて知りました。

 ジョギングが好きで市民マラソンに出ていて、お笑いタレントの中ではスポーツマンというイメージでした。たけし軍団でのフライディ殴り込み事件と、団体で入った店に未成年が働いていて事情聴取を受けた事件とで、マスコミから集中攻撃を受けたことは覚えていますが、その潜伏期間中は、早稲田大学に編入試験を受けて、ずっと政治の勉強をしていたということです。

 宮崎県は山が深くて、平地が少ない所というイメージがあります(岐阜県のよう)。ただし、日南海岸という海を持っているのが強みです(岐阜に海はない・長良川のみ)。少し前に宮崎県へ旅行したこともあって、地名が出てくると、車で通った町だったりして親しみが持てました。

 東国春英夫氏が宮崎県を何よりも大事に思っている想いはこの本から伝わってきます。知事で成果が上がることを期待しています。

推薦度★★☆☆☆


 日南海岸殺人事件 読了 2007.6.28 (19冊目/50冊/年)

木谷恭介著 ハルキ文庫 2005.9.18発行 372頁 724円+税
初出1996年光風ノベルス


 宮崎のパチンコ店で銃声がする。目撃した桑野香津子は防犯課長の父に連絡する。その父が運動公園で殺害されて発見される。パチンコにプリペイドカードを導入したことによる偽造グループを巡る事件か。地元暴力団南川がマークされる。東京の板前が宮崎まで出てきて殺害される。事件は東京へ飛び火する。バブル時の借金王奥本が関わっているか‥‥。

 木谷(こたに)恭二さんの作品は初めてです。1927年生とありますから現在89歳です。今回の小説はタイトルが『日南海岸殺人事件』で、南九州旅行に行くところと場所が一緒だったのが選択理由です。
 1960〜70年代は九州の宮崎・鹿児島は新婚旅行のメッカでした。宮崎から青島・えびの高原・霧島・指宿のコースです。この前の旅行は丁度その反対のコースを辿りました。スタートが指宿でゴールが青島・宮崎でした。列車と飛行機の違いでしょうか。
 宮崎の地名が色々出てきて面白い小説でした。3人の女性の名前が出てきて絡んで頭の中でぐるぐる回ります。

推薦度★★☆☆☆


ラットマン(上)/道尾秀介 読了 2007.6.22

季刊『ジャーロ』(28号・2007.6)所収 道尾秀介著 前編(230枚)


 主人公虻川は高校時代の友人達とアマチュア・バンドを組んでいる。30代になった今も続いている。レンタル・ブースで練習している。ドラムは桂という女性。妹にひかりがいる。父の影響でドラムの腕は二人とも上級。虻川には小さい頃姉を亡くした記憶がある。それは父が亡くなった記憶とも重なっている。そのブースで事件が起きた‥‥。

 230枚の書き下ろしです。前編では事件が起こるところまで。表題のラットマンとは「一枚の絵」があって人物ばかりの中で見ると人間に見えるが、動物ばかりの中で見るとネズミに見えるという「騙し絵」のことです。今回の物語が語る騙し絵の全貌は現段階では(私には)不明です。
 興味を募らせていく場面展開が巧みで、思わず物語に引き込まれていきます。バンドや歌の専門用語や練習の様子は、著者が高校時代に実際にバンドをやっていた経験が生きていて臨場感があります。虻川の人間性が育まれた子供時代が繰り返し描写されることが事件とどう関わっていくのか。ひかりが好きなバンドの友人やブースのオーナーは何もないのか。興味が広がっていきます。後編が待ち遠しい。


湖底の酸素はいま-びわ湖深底部酸素の動態をさぐる- 読了 2007.6.20 (18冊目/50冊/年)

岡本巌編 酸素の会2007.5.13発行 106頁 1,000円


もくじ ○はじめに ○前編 酸素の季節変化 びわ湖の深呼吸 流入河川水の湖水中における挙動 酸素極小層の形成とその役割 溶存酸素量の経年変化 ○後編 エッセイ 酸素の会の歩み おわりに

 滋賀県の自主的な研究サークル「酸素の会」が5年間にわたってびわ湖の溶存酸素量の変化を追って研究してきた研究成果の報告集です(後編には参加者のエッセイも加わっています)。

 「びわ湖の深呼吸」という言葉があるそうです。深呼吸とは、普段は酸素が少ないために弊害が出ている所も含めて、年に一度、酸素が供給されることによってびわ湖全体の水がよみがえる様を命名したものです。言い得て妙な命名です。これはきっとびわ湖を守る女神の仕業に違いありません。
 このびわ湖の深呼吸=びわ湖深部も含めて酸素が供給される仕組みを解明しようというのがこの酸素の会の研究テーマです。

 解析すべきデータは、滋賀県が定点測量点として設置している竹島付近水深90m地点の自動測定局のデータです。湖面から2mおきに75m地点まで36ポイントについて一日2回測定しているとのこと。この一年分のデータ(1998年度)が研究対象です。酸素・水温・濁度の3項目で約8万。これに流入河川データを含めて10万余。

 そのデータ解析から「深呼吸」の仕組みに迫っています。研究成果をここで紹介したいのですが、本書を読んで確認してください。

推薦度★★★☆☆


住民が主人公の地域づくり(兵庫4町長が語る) 読了 2007.6.14 (17冊目/50冊/年)

兵庫県自治体問題研究所編 2007.3.17発行 115頁 1000円


目次 ○住民が主人公の自治体・地域づくりと民主的首長(岡田知弘) ○住民が主人公を貫いた25年間(山田兼三) ○情報を公開しみんなで考える町づくり(島田正義) ○解同の支配から住民自治と笑顔を取り戻した黒田庄町(東野敏弘) ○10ヶ月の革新町長(奥村忠俊)


 本書は、兵庫県自治体問題研究所が企画した4町長によるシンポジウム「住民が主人公の地域づくり−第一人者が勢ぞろいの公開シンポジウム」(2006年12月23日開催)で話された内容を元にして、改めて原稿を依頼してまとめたものです。
 4町長が語る内容はどれも実践的で内容に富んでいます。山田氏は町長、島田氏は教員−議員−町長、東野氏は教員−町長、奥村氏は議員−町長−議員、という経歴です。山田町長の話はすでに
2冊の本があって読んでいましたので、内容を反復することができました。上水道・下水道、歯科センター、子ども歌舞伎、ひまわり祭りなどの話が印象的です。福崎町は、もちむぎ食品センターの使途不明金が3.6億円もあったことが驚きです。職員への訓示@住民に親切にA研修するB町民こそが主人公だからいのち・くらし・人権を大切には普遍性があります。黒田庄町は不公正な同和行政で混乱した町政を立て直すにはこの人しかいない、と白羽の矢が当たって町長に。町民に開かれた町政をめざして行政無線、福祉送迎車、若者マンションなどを進めたとのこと。出石町は合併が決まったあとの11ヶ月を町民の不利益払拭に奮闘したこと、台風被害でその道も半ばだったことが述べられています。

 4人の話はいずれも町民の視線で、町民の顔を浮かべながらの行政という目に見える行政が行われました。それが素晴らしい。行政の担い手たる職員にしても同様の気持ちでしょう。四町のうち「平成の大合併」によって福崎町以外は合併して町名がなくなったことは大変残念です。

推薦度★★★☆☆


 「寅さん」のひとこと−下手な人生論より− 読了 2007.6.9 (16/50/年)

吉村英夫著 河出書房新社 2006.7.20発行 239頁 1500円


もくじ 1心がまっすぐになる「寅さん」のひと言 2自分を取りもどす「寅さん」のひと言 3確かな絆に気づく「寅さん」のひと言 4もっと深く人を愛せる「寅さん」のひと言 5また明日から頑張れる「寅さん」のひと言 6生きる勇気がわく「寅さん」のひと言

 「男はつらいよ」全48作の中なら、素敵な「寅さん」の言葉を選び出した台詞集とでもいうべき本です。著者が全脚本を読んで、著者が選んだテーマごとにシーンを抜き出して、コメントをつけて紹介をしてくれています。脚本というのは言葉遣いが映画と同じだから、臨場感があります。あった、あったと「名場面」を思い出すことができます。

 それにしても人生論とも呼ぶべき「いい言葉」「いいシーン」が沢山詰まっているのを再発見しました。大学の教授でもない学者でもない「フーテンの寅さん」の口から発せられる言葉だからこその魅力があります。

 神戸の大震災後、避難所の人たちに「神戸映画センター」を中心に映画上映のボランティアをしたとき、子どもたちは『となりのトトロ』大人には『男はつらいよ』が圧倒的に喜ばれたという話が載っていました。その上映会の数250〜300回。寅さん映画には心を癒し、励ましてくれる何かがあるということ。映画が復興に役立つなんて素敵な話です。

推薦度★★★☆☆


とても大切な愛/イ・ヨンエ 読了 2007.6.1 (15/50/年)

イ・ヨンエ(李・英愛)著 二見書房 2002.6.25発行 190頁 1500円+税

目次 1ちいさな自画像 2とても大切な愛 3地球村の隣人たち 4ヨーロッパ旅日記

 イ・ヨンエさんが初めて出したエッセイ集。2002年のワールドカップ共同開催に合わせて日本で翻訳本が発行されました。韓国では2001年4 月発行です。イ・ヨンエさんといえば『チャングムの誓い』の主役。その「チャングムの誓い」が韓国で放送が始まったのが2004年9月からですから、この本は、国民的女優となる以前のイ・ヨンエさんの素顔を著した本です。

 子どもの頃は洞窟探しとプロレスごっごが大好きで、活発な女の子だったとのこと。高校生の時に「女学生」という雑誌のカバーモデルに応募して一回掲載されました。大学はドイツ文学を専攻、ゲーテ・リルケ・ハイネ・ヘッセなどの作家たちへの憧れがありました。大学生の時、チョコレートのCMに初めて出演。続いて化粧品のCMで「酸素のような女」というコピーがつきました。大学卒業後の進路を迷った末にタレントの道を進む決心をしました。

 音楽ではベートーベンの「月光の曲」に惹かれてピアノを習い始め「ソナタ悲愴」などで緊張の糸をほぐしています。どのジャンルの音楽も好きとのこと、クラシック・ジャズ・ヒップポップ・テクノ・韓国の歌謡曲・国楽まで。ジャケットのモデルになって販売収益金の2%を得て、そのお金は釜山の療養所で心臓病に苦しむ子どもたちの手術費に寄附したとのこと。ようやく社会の一員として役割を果たしているという気持ちとともに。

 本のタイトルになっている「とても大切な愛」は韓国のテレビ番組のタイトルでその司会を担当したとあります。視聴者から恵まれない子どもたちへの寄附を募る番組でした。

 日本占領下の韓国で抗日運動の先駆者、イ・ミンクのことを調査したことに触れています。

 イ・ヨンエさんの愛読書は2冊。一冊目は「無所有」(法頂和尚)。いつ読んでも新鮮で感謝する気持ちを新たにするといいます。二冊目は「ノルウェイの森」(村上春樹)。日本で700万部売れた本が韓国でも愛読されていることに驚きをもちます。

 尊敬する映画人としては、チャールズ・チャプリンとオードリ・ヘップバーンの二人。ユニセフの親善大使として救援活動に加わったヘップバーンの、加齢したが凛とした表情に女優として見習いたい人格があるといいます。

 あとは映画『JSA』への出演やヨーロッパの旅の記録などが収録されています。

 著者がどういう生い立ちでどんなことを考えながら女優への道を進み現在に至っているかを知るのに非常によくできた本です。


推薦度★★★☆☆


 数に強くなる 読了 2007.5.22 (14/50/年)

岩波新書1063 畑村洋太郎著 2007.2.20発行 220頁 740円+税


目次 はじめに 1数に強くなる 2数の感覚をみがく 3数の声を聞く 4数を使う おわりに

 数(かず)が表わすのは、@種類であり、A狭い意味の数であり、B単位である、といいます。例、りんご三個。この数と数量を使用して世の中を表現することで豊かになる世界があるという話から始まります。数学の入門書ではなく、生活の中で直感で数を使うことに慣れようと呼びかける本です。肩の凝らない本で、一気に読むことができます。


推薦度★★☆☆☆


対談 伊坂幸太郎&道尾秀介 (小説宝石・2007・5月号) 読了 2007.4.23

 『小説宝石』の2007年5月号に、『ミステリーの気鋭対談 伊坂幸太郎&道尾秀介』の記事が見つかりましたので、早速購入して読みました。

 「当代人気作家のお二人がご自身の創作に対する姿勢を大告白。執筆スタイルや家庭環境など、色々と共通点も多かったりするんです。」とイントロダクションにありました。

 二人の対談は初めて、とあります。35歳と31歳、気鋭の作家です。
 道尾さんはとにかく小説で描きたいのは人間。ミステリーというスタイルを利用すると人間の感情がうまく描けるからで、スタイルには全くこだわっていないといいます。高校時代は本とは別世界の「ロック音楽」の中にいた、とあります。
 その高校時代、髪を金髪に染めて、手から鎖をジャラジャラ垂らして、ジーパンで、実家に帰って来た姿をなつかしく思い出します。

 中身を全て公開することはできません。詳しくは本を読んでください。伊坂幸太郎さんが、全く飾らない、実直な話を語っていることが大変印象的でした。伊坂さんの作品もしっかり読んでみます。


わが家の夕めし/池波正太郎 読了 2007.4.6 (13/50/年)

池波正太郎著 講談社 2003.4.15発行 269頁 1700円+税

 作家・池波正太郎さんのエッセー集です。本にまとめられていない51本、S44年〜S49年に発表されたものを集めています。

 多様な分野での話題がありますが、やっぱり旅とグルメと映画の話が私は一番面白い。鬼平犯科帳執筆の時期でもあります。他に、新撰組や西郷隆盛、徳川吉宗、近藤勇、真田幸村、彰義隊など歴史に関する話もかなり詳しく述べています。

 気軽に楽しんで読めるエッセーばかりです。


推薦度★★☆☆☆ 


負けるのは美しく 読了 2007.3.29 (12/50/年)

児玉清著 集英社 2005.9.10発行 285頁 1600円+税

目次 ○名もなき雑魚として ○忘れ得ぬ監督、俳優たち ○スクリーンからブラウン管へ ○素顔のままで ○天国へ逝った娘


 月刊雑誌『すばる』に、2002年5月号から2005年4月号まで、「ちちんぷいぷい玉箒」のタイトルで連載されたものをまとめて、刊行したとありました。全部で38本の文章が載っています。俳優・児玉清さんが歩んだ道と考えたこと、家族のことが非常に上手な文章で綴られています。

 児玉さんといえば、「アタック25」の名司会者であり、NHKの「ブックレビュ」の司会者でもあります。博学なイメージが強いのですが、そのとおりでした。1934年生まれとありますから、72歳。文章にその年輪がしっかり反映されています。

 学習院大学のフランス文学専攻で、大学院一歩手前で、妙な縁から俳優の道に入って、冷やかしのつもりが、終生の職業となったといいいます。その過程で扱われているエピソードも、失敗談・怒られ話などが比較的沢山盛られていて、「なにくそ」のファイトがにじんできていて、面白い内容でした。(最終章の娘さんの記事だけは、読むのが辛いくらい児玉さんの落胆と哀しみが伝わってきます。)

 表題が「負けるのは美しく」とは、何とも変わったタイトルですが、児玉さんが俳優業を生き抜く上でのモットーだそうです。どういう意味かはあとがきにあります。児玉清という俳優のひととなりを知るのに絶好の本です。

推薦度★★★★☆


定年後−豊かに生きるための知恵− 読了 2007.3.23 (11/50/年)

加藤仁著 岩波新書 2007.2.20発行 236頁 740円+税

○はじめに ○ひとりの旅だち ○仕事を創る ○たのしむ、学ぶ ○家族を見つめる ○地域社会に生きる ○終の住処 ○おわりに


 タイトルに引かれて購入した本。著者も団塊世代で、今まで3,000人以上の人と会ってインタビューしたとのこと。それが、目次のように分類されて紹介されています。

 沢山の事例を紹介しているため、一つの事例紹介が短くなっています。突込み不足の感が残ります。私としては、事例を絞って一件についてもっと詳細に紹介して欲しかった気がします。読み流した本。


推薦度★★☆☆☆


隠れ鬼/道尾秀介(小説すばる07年4月号)読了 2007.3.20

 道尾秀介さんの短編ミステリー「隠れ鬼」が「小説すばる07年4月号(総力!ミステリー短編特)」の巻頭を飾っていました。早速、購入して読了しました。

 私は遠沢印章店を継いで生業にしている。母のアルツハイマー型痴呆が5年ほど前から始まって、今は介護と仕事の毎日を過ごしている。そんな母がある時、色鉛筆と白紙の紙を用意して絵を描き始めた。画用紙には緑色の尖った葉を沢山描き、そして薄緑色の点を散りばめて。それは母が「知っているはずのない」光景だった‥‥。

 道尾さんの短編は、ネット時代のショートショート以外では初めて読みました。母のボケと父の自殺があって、母と父と私と別荘と出来事とが絡まりあう展開。笹が何かを象徴する役割を果たしています。丁寧な描写とともに物語の展開が巧みで、最後まで一気に読ましてくれます。

 本人が語っている2007年の予定をみると

@片眼の猿(新潮社)刊行 2007.2.24
A別冊文芸春秋 「ソロモンの犬」連載中
Bジャーロ(光文社)春・夏号 「ラットマン」(仮)前・後篇掲載予定
C東京創元社アンソロジー企画 時期未定
 等が進んでいるとのこと。

 今年も、道尾秀介さんから目が離せません。
 



大雪山のふもとから(ある山村の四季と暮らし) 読了 
2007.3.15 (10/50/年)

白滝地区林産協同組合編 農産漁村文化協会出版 2006.9.30発行 146頁 1200円


もくじ ○まえがき ○白滝村の春 ○白滝村の夏 ○白滝村の秋 ○白滝村の冬 ○白滝村年表他


 本をまとめたのは渡辺嵩彦さんで、1944年生・北海道大学農学部卒業後、白滝地区林産協同組合に入り、1981年独立。その後2003年に再度白滝地区の再生を目指して同協同組合の理事長に就任した、とあります。
 白滝村(H17年で人口1152人)は、H17年に3町1村が合併して遠軽町になり、白滝村が消えたこともあって、何とか村の文化と伝統を残しておきたいという思いが伝わってきます。
 四季折々の生活と労働、祭り、お祝い事、事件などが昭和23年生まれの子どもを設定して彼が小学6年生の時の一年として、子どもの視線で優しく語られています。
 春では、学校の様子(1年生は3人、6年生は2人の学校、昭和15年で40名の在校生、昭和39年に廃校)、春の山菜(フクノトウ・ヤチブキ・アイヌネギ・コゴミ・ウド・タラの芽・ワラビ・ゼンマイ・フキ・タケノコ・ネマガリダケなど)採り、鎮火祭(昔山火事があったのでその祭り)、春の運動会(一家総出)。
 夏では、遺跡の発掘、台風、麦の刈り入れの話が出ています。
 秋では、ジャガイモの収穫とデンプン工場、熊を捕まえる話、ハッカを栽培して抽出する話。
 冬では、薪木の伐採と運搬、山入り、卒業の話が出てきます。
 はし折りましたが、私が送った小学時代と重なる部分が沢山あって懐かしく読みました。
 もちろん本書は厳しい自然の北海道の開拓村の話ですので、学業よりも労働に重点が置かれた少年時代だったのではないか、と思います。

推薦度★★★☆☆
 


片眼の猿(one-eyed monkeys)/道尾秀介 読了
 2007.3.7 (9/50/年)

道尾秀介著 新潮社 2007.2.25発行 268頁 1600円+税

 「新潮ケータイ文庫」に2006.3.20〜9.13の間、配信されたものが今回刊行されました。全く気になることはありませんが全部で37に細かく区切って表題が付いています。

 今度の主人公は探偵社を興している俺(三梨)という一人称で書かれています。ある楽器会社の内部調査を依頼されて、調査が進むうちに相手側に殺人事件が起こり、巻き込まれてしまう。俺と新たに雇い入れた冬絵と探偵社の唯一の社員と探偵社のあるボロアパート住人の面々とが織りなす楽しくも哀しいやりとりの数々。
 表題に象徴されるミステリーに織り込まれたテーマは内緒です。主人公「俺」の主張として物語全体を貫いていると思います。

 ハードボイルド調ながらライトな書き方で、本格ミステリーではないかもしれませんが、読み進むうちに、実は隠しているテーマがあるんだよ、と語り始める構成です。最後まで、楽しく読むことができました。及第。


推薦度★★★★☆


ワルシャワの早い風 読了         2007.2.7 (8/50/年)

田代貢著 サンライズ印刷出版部 2002.10.20発行 160頁 1300円


著者の略歴 1943名古屋市生 私立大学で経済学の教鞭 近江文学同人 近江八幡市在住

 経済学部教授がウイークエンドライターとして執筆した短編集。7編が収められています。

○表題作

 ポーランド・ワルシャワの大学で教鞭をとるために出かけた主人公がある商社マンと出会う。彼が勤める商社のポーランド開拓のため夫婦子ども共にワルシャワに来たが、妻がピアノに打ち込んで帰国することなく別れてしまった話を聞く。


○光る芝生

 アメリカ・ヒューストンの大学に客員教授として渡った主人公を大学の同僚が迎えてくれた。彼は3人の子どもを育てていた。妻が蒸発して論文どころではなくなっていた。


○サマースクール
 アメリカフロリダ州の大学の客員教授である主人公は、同僚の教授の勧めである女性と会う。


○キャンバス・ポリティクス
 教授昇格のための業績審査をする教授会で、ある教授が出した意見をめぐって。


○夜の帳
 ゼミの教授と付き合い始めた女子学生は妊娠して‥‥。


○サザンクロスの分かれ

 オーストラリアのメルボルンの大学で集中講義するために訪れた主人公は15年前の彼女に会う。彼女が語ったアメリカでの生活。

○一枚の葉書
 同窓会に出ることにした主人公が30年ぶりに村を訪れる。子ども時代はいい思いではない。その中の1人が気になっていた。

 ざっと紹介しました。いずれの短編もテーマが男女の恋愛に傾いている気がしないでもありませんでしたが、簡潔な文章で、教授の立場から、教授会やそのポストへの昇格、アメリカで雑誌に論文を掲載する意義や実力主義が徹底している様子などの事情を窺い知ることができました。

追伸
 田代貢はペンネームで、本名は岡地勝二さん。龍谷大学経済学部教授。経歴を読むと、子どもの頃の赤貧の生活、定時制高校へ、アメリカへの留学、博士号はアメリカで、など生い立ちが今回発表された小説の下地になっています(毎日新聞2006.2.16より)。

推薦度★★☆☆☆


田舎村長人生記 -栄村の四季とともに- 読了      2007.2.5 (7/50/年)
高橋彦芳著 本の泉社 2003.6.25発行 199頁 1500円+税

○まえがき ○信越の谷・地域を心に刻む ○地域開発・自然と人間と経済 ○戦後の村・食料難と開拓近代を生む ○社会教育の学習活動・二つの近代化 ○雪害とたたかう・自然と文明 ○人間疎外の克服・都市と農村の交流 ○実践的住民自治・自由知恵と行動 ○地域の自立をめざして・住民の連帯で築く地域 ○平成の市町村を斬る・小さくても輝く自治体

著者の略歴 1928年生 1955年栄村職員 1988年栄村村長

 著者は「小さくても輝く自治体」フォーラムの呼びかけ人の1人として、その第一回フォーラムを栄村で開催した村長さんです。時々の村や日本の状勢をおりまぜながら、自らが生まれてから現在に至るまで歩んで来た道を紹介しています。
  職員として社会教育を担当して公民館結婚式を作り上げたこと、企画課長の時代に都市農村の交流の場として「ふるさとの家」を開いたことなどが語られています。興味深い話です


 とりわけ著者が1988年村長に立候補する際に掲げたスローガンが素晴らしい。
・住民の持っている知恵や技術を生かし、育てることを大切にする住民自治の村政
・約束やきまりを守り、誰にも親切で公正な村政
・常に政策を明瞭に示し、住民生活の向上に責任を持つ村政
・住民がふるさとの自然と文化に誇りを持ち、交流や物づくりなど明るく活動することを大切にする村政
・高齢化、結婚難、就労、健康問題などの生活不安に真剣に取り組む温かみのある村政
住民の顔が見えるようなスローガンです。


 村長に就任してから上記のスローガンが政策として具体化されています。例えば、水田の圃場整備を田圃の実情に応じて対応する補助金に頼らない独自方式によって安く作っていったこと、道路の拡張と舗装についても独自方式で雪上車が入る幅にしていったこと、栄村振興公社を設立して3億円の売上まできたが村での調達率が7割で村経済に役立っていること、除雪の村直接管理やヘルパー養成に力をいれたこと、などなど。

 村長としての信念・哲学・姿勢・目線が飾ることなく自然に語られています。

推薦度★★★★☆


生活保護物語−「落とし穴社会」半世紀の現実から− 読了  2007.1.31 (6/50/年)

浦田克巳著 日本機関紙出版センター 2007.1.10発行 167頁 1,238円+税

○はじめに(私の偶然) ○貧乏の落とし穴、いろいろ ○何でも「まかせなさい」生活保護 ○セーフティーネットは何重にも必要 ○自立について ○便像の責任・貧乏の資格 ○貧乏のない社会へ ○福祉事務所を去って ○おわりに

著者の略歴 1941生 1960年大阪市役所就職 2002年3月退職(その間、生活保護27年、市民相談8年、市税等の滞納整理8年経験)

 タイトルのとおり、筆者が27年の間生活保護ケースワーカーの仕事についた体験で得た生活保護についての思いを綴った体験・エッセー集です。
 生活保護に行き着くにはいろいろなパターンがあると、ケースを種々紹介しています。エネルギー対策による離職、戦争による強制連行、結核、交通事故、冷害、公害喘息、被爆など。
 そして、その各々についての救済政策がしっかりしていればいいのですが、どれもザルとなっているため、最後の「セーヒティーネット」である生活保護に行き着くことになる事情が語られています。
 そして、その生活保護行政が度重なる「適正化」政策によって、「トコトン」貧乏であることを要求するようになっていることを告発しています。

 北九州市で起こった市民の餓死事件を契機に生活保護行政の内容と担い手が注目されています。行政内部においてケースワーカーとして奮闘してきた著者の思いのたけを聞く思いで読みました。


推薦度★★★☆☆


映画学(奥田均)−活動写真に魅せられ51年− 読了     2007.1.21 (5/50/年)

奥田均著 学術図書出版社 2006.5.20発行 148頁 1700円+税


著者の略歴 新聞記者・映画評論家を経て、現在、関西外国語大学短期大学部講師。

○小津安二郎(芸術のことは自分に従う) ○わが心に残る時代劇を俳優・監督たち ○大阪とキャンバスのある枚方、映画の降るさと・京阪神三都物語 ○キネマ旬報ベストテンでみる映像の世紀 ○私の指定席−映画評論家の見た映画人列伝 ○枚方市と映画、田中絹代と鍵屋

 映画にまつわる評論・エッセー集です。51年とあるので、70歳台の人が半世紀を振り返って映画を語っているのか、と思いきや、著者は現在51歳のようです。同世代より少し下の世代。「活動写真」と書いて「エイガ」と読ませているのも、誤解をした遠因です。

 第5章に綴られた映画エッセイ27本は、「全大阪映画サークル協議会機関紙」に載せた記事とのこと。懐かしい機関紙です。
 確かB4版2枚4ページの機関紙でした。確か1970年頃から1985年頃まで職場の映画サークルを通じて購入、毎月読んでいました。年末になると、その年に封切りされた映画一覧表と観た映画・ベストテンを選ぶ表が送られてきて、今年は映画を何本鑑賞できたか、どの映画が印象に残ったか、確認していた覚えがあります。

 関西外国語大学は枚方市にキャンバスがあるところから、枚方にまつわる映画の話題で、講演記録が載っています。身近な話題で、興味深く読みました。

推薦度★★☆☆☆


生きざま死にざま 三国連太郎 読了     2007.1.19 (4/50/年)

三国連太郎著 KKロングセラーズ H18.4.1発行 223頁 1400円+税

○プロローグ ○虚偽のプロフィール ○迷いに迷って今 ○被差別 ○放浪・戦争体験 ○虚・実のはざまで ○被差別民が創造してきた芸能 ○旅、そして再生 ○そして仏に至る道を歩む ○女性というもの ○家という概念 ○死ぬまで求道したい

 「スーさん」の半生記(半世紀)自叙伝です。
 戦後まもなく銀座でスカウトされて映画デヴューしたときに「大阪大学工学部卒業、水泳と柔道が得意」というニセのプロフィールが発表されたことが、随分と本人を苦しめていたようです。実は、中学中退であることを、朝日ジャーナル編集長との対談で明らかにして、新たな「三国連太郎」の出発になった、と書かれています。
 家を飛び出して放浪し、中国・韓国等に渡って、従軍もして、敗戦を迎え、食うために何でもした戦後の生活の中で、たまたま歩いていた銀座でスカウトされての映画出演だった、としても「ウソ」は本人をずっと苦しめていたようです。

 親鸞の教えに傾倒していて、研究も深く、求道の話、親鸞の説く現世と浄土の話が沢山出てきます。

 映画監督としては『白い道−親鸞』という作品があります。

 生い立ちの所は非常に興味深く読みました。仏教の話はちょっとわからない感じでしたが、映画や役に対する考えは「はっきりものを言う」態度を取っている、とよく分かりました。

 1923年生まれの83歳。いつまでも「スーさん」で頑張って欲しいと思います。


推薦度★★☆☆☆
 


先を読む頭脳(羽生善冶) 読了    2007.1.17 (3/50/年)

羽生善冶・伊藤毅志・松原仁著 新潮社 2006.8.25発行 217頁 1300円+


著者の略歴 羽生善治(棋士・94年7冠達成)伊藤毅志(認知心理学研究) 松原仁(人工知能研究)

○はじめに ○「先を読む頭脳」を育む ○効果の上がる勉強法
 ○先を読むための思考法 ○勝利を導く発想 ○ゲームとしての将棋とコンピューター ○あとがき

 大変刺激的な本です。先に羽生さんが各々のテーマについて内的心情も含めて語っています。棋士が自分を客観的に分析して語るということは余りしない中で、羽生さんは気持ちよく心の動きまで含めて自分を客観的に観察して報告してくれています。それだけでも非常に貴重な発言だと思います。棋士がこれだけ率直に、対戦の心構えや日頃の準備、休みの過ごし方、対戦に臨む気持ちの持ち方、戦法の研究、などについて語ってる本があるでしょうか。人との駆け引きを重視する大山名人では絶対に実現しなかった企画だと思います。

 本書は、そうした羽生さんの発言に対して、人工知能の側面と認知心理学の側面とで、学者の2人が羽生さんを分析しています。これもまた面白い。

 認知科学と人工頭脳との違いは、鳥のように飛びたいと思うとき、鳥のしなやかな羽ばたきのメカニズムを調べるのが認知科学的アプローチであり、ジェットエンジンを開発して空を飛ぶのが人工頭脳的アプローチだ、と説明がありました。なるほど、です。

 将棋を解説すると『二人完全情報確定ゼロ和ゲーム』であると。完全情報とは手が全て明かされている・確定とは不確定要素なし・ゼロ和とは勝敗が明確な・ゲームというわけです。

 人間と人工頭脳との関係は、囲碁がアマチュア初段レベル、将棋がアマチュア5段レベル、チェスが人間のトッププレーヤーまで来たといいます。

 羽生さんは将棋界の第一人者として神に最も近いプレーヤーです。自分の思考を客観的に捉える能力(メタ認知)と、それを理路整然と説明する能力 (自己説明能力)に大変優れていることは、本書を読めば一目瞭然と理解できます。そのことが将棋に強いことの秘密でもある、と解説にありました。

 勝負の世界で生きているわけですから、自分の思考をオープンにするのに躊躇があるはずですが、本書ではそれは感じられません。それだけに、「羽生さんの言葉」は、非常に沢山のヒントを含んでいると思います。将棋に興味のある方はもちろん、トッププレーヤーに興味のある方は、必読書です。

推薦度★★★★☆


日本共産党(筆坂秀世) 読了   2007.1.11 (2/50冊/年)

新潮社新書 2006.4.20発行 191頁 680円+税

 著者は、日本共産党の元参議院議員。議員任期中に女性に対するセクシャル・ハラスメント事件を起こして議員を辞職、その後共産党を離れた人です。本のなかで「政策委員長でナンバー4」と自らを紹介しているとおり、最高幹部の1人であることは間違いなく、そういう経歴を持つ人が、政党を離れたあと、40年余に渡って共に歩んできた政党に対して、どんな主張を展開するのか、という興味があって、読みました。

 全体として、中央の幹部しか知りえない「日本共産党の内幕」や「日本共産党の否定的側面」と著者が思う諸点を取り上げて、そうした状態になっているのは「ナンバー1」が悪いからだ、という論調で進んでいます。「ナンバー1」に対する敵対心が露骨。

 しかし、私はこういう話はどうもついていきにくい気がします。なぜなら、ナンバー4ということは、仮に30万人の党員がいて、それがナンバー順に並んだとして前から4番目が著者、その後に299,996人がいるのです。どう見てもその政党の最高幹部=「全ての責任を取る立場」に属すると思います。そうした自分の立場を棚上げしておいて、全て「ナンバー1」のせいにするのは何としても聞きにくい。一人独裁に見立てているみたい。

 しかも、意見対立から離れたのではなく、女性に対するセクシャル・ハラスメントが原因だとしたら、触れている内容はいつからそう思っていたのか、気になります。まさか政策委員長の時だったとしたら「自己否定」ですし、無責任、天に唾する行為では。

 興味があって読みましたが、余り後味がいいものではありませんでした。 


推薦度★☆☆☆☆


映画をたずねて−井上ひさし対談集− (1/50/年)   2007.1.3 

井上ひさし著 ちくま文庫 2006.11.10発行 323頁 780円+税

○ゴジラと七人の侍(本多猪四郎、黒澤明、山田洋次)○渥美清と美空ひばり(山田洋次、渥美清、小沢昭一、関敬六、澤島忠)
○市川昆・松山善三(和田誠、高峰秀子)

 劇作家井上ひさしさんが各々の雑誌に掲載した対談集のうち、映画を全体テーマにして、ちくま文庫が編集した本です。
 いろいろ語られていますが、浅草界隈で活躍していた頃の渥美清さんと友達関敬六さん、新米の進行係で井上ひさしさんがいた、という話は大変興味深く読みました。
 劇場の幕間に間を持たせるために渥美清さんが舞台に上がって話始めると、これが面白い。5分が20分となっても誰も「引っ込め」とは言わない。そうした間を埋める役者は渥美清さんをおいてなかった、といいます。
 元々は、間を埋めるために関敬六さんなどを相手に今で言うコントをやるのが本業でした。関敬六・谷幹とトリオを結成していた時期もあるとのことです。しかし、肺病を病んで2年間療養生活を送ったことが渥美さんの転機になったようで、コンビを解散して、新しい道を模索し始めた時に「夢であいましょう」に出演する話が舞い込んで、浅草からテレビ界へ進出することになったのです。
 他にも、黒澤明さんや高峰秀子さんなどとの対談も載っています。映画を作る人と劇作家という視点で話がスタートしてもいろいろ寄り道して楽しい読み物です。


推薦度★★★☆☆

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