一汁一菜の読書歳時記No1   00年4月〜01年3月

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2000年 3月
現代<死語>ノートU夫と妻沈まぬ太陽1アフリカ篇 
2000年 4月
福祉立国への挑戦おすぎのいい映画を見なさい3沈まぬ太陽2アフリカ篇
                 □
へたも絵のうち沈まぬ太陽3御巣鷹山篇
2000年 5月
おすぎのいい映画を見なさい2インターネット術語集銀行革命・勝ち残るのは誰か
2000年 6月
心を癒す シネマセラピー東京都の外形標準課税はなぜ正当なのか
                
おしゃべりなランナー
                
淀川長治、黒澤明を語る。小さな農場主の日記川田龍平とこの国の人権を考える
                  
家族と生きる意味
2000年 7月
NPOはやわかりQ&A生活習慣病を防ぐ 週末の心優しい映画たち
2000年 8月
科学事件 行政評価の時代東京国税局査察部
2000年 9月
戦後文学放浪記 誰のための公共事業か介護保険とボランティア
2000年10月
ハリーポッターと賢者の石
2000年11月
有田あや 絵更紗抄映画をマクラに企業と人間どうする日本の政治
                □
映画を読む河上肇
2000年12月
映画で平和を考える
2001年  1月
だから、あなたも生きぬいて国会議員悪問だらけの大学入試
2001年 2月
新パソコン入門かんにんな……化学に魅せられて自分の国を問い続けて
2001年 3月学力が危ない未来への記憶(上未来への記憶(下)  

 
45   未来への記憶(下)    河合隼雄著   岩波新書   2001年1月19日発行 680円  2001.3.30読了

 はしがき
 T 家族の中で-丹波篠山の思い出-
 U 自由と混迷-教師に、そして心理学への開眼-
 V 人間の深層へ-臨床心理学への傾倒-
 
 
臨床心理学をめざす人へ★★★☆☆    伝記物語として読む★★★☆☆   推薦度★★★☆☆

 余りよく知らなかったのですが、河合隼雄さんは臨床心理学の日本の第一人者として著名な方である、ということが家族から聞いて知りました。本書は、本人の話を口実筆記したものです。全くの話し言葉で書かれています。その分論文調と比較して読みやすく出来ています。岩波新書で「語り調」で書かれたのははじめての経験ではないか、と思います。 
 
はしがき
 T 家族の中で-丹波篠山の思い出-
 U 自由と混迷-教師に、そして心理学への開眼-
 V 人間の深層へ-臨床心理学への傾倒-
 
 家が歯医者で兄弟が皆優秀の家に生まれた筆者が、思いつくままに少年時代と青年時代を語っています。神戸工専から、京大理学部で数学を選択。迷いながら、高校教師をめざして奈良の育英学園で3年間教鞭をとり、その間結婚も。その頃ロールシャッハ試験の研究を始め、アメリカへ研究に出かけるところまでが上巻です。口語調の読み物として深く考えずに読んでしまいましたが、河合さんがどんな人かということのアウトラインはわかるようになっています。

 臨床心理学をめざす人へ★★★☆☆    伝記物語として読む★★★☆☆   推薦度★★★☆☆

 本書は、今回の教育指導要領改訂に対する警告の書です。「日本の教育の現状からしてよくなるどころかとんでもない学力低下がより進行する」と警告しています。 
 
序章
 第1章 教育の原点をもとめて(対談)
 第2章 「学力低下」とは何か
 第3章 新学習指導要領と学力低下
 第4章 教育現場から(対談)
 第5章 これからの教育をどうするか(対談)

 大学生に基礎学力がないことが大きな問題になって、その視点から小・中・高の教育のあり方を考えた場合に、一つは高校入試と大学入試で2回に渡って「試験」の勉強が強制される問題と、その結果、基礎的な学力を身につけさせるための学習時間の絶対量が不足しがちであることが指摘されています。そこに「総合的な学習」時間を入れることによって、いよいよ時間がなくなり、「読み書きそろばん」と言われる最も大切な生活力の部分が身につかなくなる危険性を警告しています。英語も大切かもしれないが、小学校に入れればその分、時間がなくなることにも注目すべきとしています。

ノートを取ってしっかり読むべき本だと思います。

現代教育への警告★★★★☆    納得できる部分が多い★★★★☆   推薦度★★★☆☆

42   自分の国を問い続けて    雀善愛(チェ・ソンエ)著   岩波ブックレット    2000年12月20日発行 440円  2001.2.24 読了

 雀善愛(チェ・ソンエ)さんは北九州出身のピアニスト。在日韓国人3世で、学校も日本、友人も日本人で韓国語は話せない。日本における差別の象徴と言われた指紋押捺制度が1999年全廃されました。半世紀もかかったと彼女。「法律の壁は本当に厚く、その法を動かしている人の心は私の想像よりもはるかに固く閉ざされていた。」とも言っています。そんな彼女の心からのメッセージと思って読みました。
 
はじめに
 差別問題への目覚め−指紋押捺拒否の波紋
 日本は私の国、母国
 たった一人のための法改正

 歴史の流れの中で
 おわりに
★指紋押捺制度の歴史
1952年、サンフランシスコ講和条約が発効して、それまで日韓併合により日本国籍にされていた韓国・朝鮮人は、外国人とみなされて外国人登録法が発令された。指紋押捺制度はその3年後に導入。はじめは両手10指全ての指紋がとられた。3年ごとの更新。何度かの改正ののち左手人差し指のみの登録となる。主な改正。○1982年 年齢が14才から16才へ。期間が3年から5年へ。○1985年 黒インクを無色透明に。回転指紋を平面指紋に。○1987年 指紋は原則生涯1回のみとなる。○1992年 永住者のみ指紋押捺廃止。○1999年 制度全廃(2000年施行)。

 雀善愛さんは1981年、21才の更新時に指紋押捺を拒否。北九州市に告発され、1983年福岡地裁小倉支部に起訴されました。そして1985年5月判決「有罪判決(罰金1万円)」。二審、1986年に控訴棄却。最高裁上告中に天皇死去による「恩赦」扱いが出たが「拒否」しました。1986年アメリカへ留学。その時、指紋押捺拒否者には海外へ行った場合の再入国申請を不許可にするとした法務省に対し取り消し訴訟を起こしながらの出国となりました。そして2年後に帰国。その時は永住者ではなく「新規入国者」(在留期間は180日間、その更新となる)になってしまう。永住権の確認訴訟を提起。1998年最高裁で全面敗訴の判決。永住権はもどらなかった。1998年金大中大統領訪日の前日、指紋押捺制度全廃のニュース流れる。1999年外国人登録法改正の審議の中で、雀さんの永住権問題が取り上げられ、2000年4月永住者となる。
大変な歴史を歩んできた人ということが分かると思います。その間の裁判での陳述がたくさん収録されています。肩を張ったキヨいもなく、当然のことをそのまま主張するのにこれだけの勇気と持続力と精神力がいるということ。

押捺制度について考える★★★★☆  雀善愛さんの生活信条が分かる★★★★☆ 推薦度★★★★☆

41   化学に魅せられて    白川英樹著 岩波新書    2001年1月19日発行 700円  2001.2.21 読了

 ノーベル化学賞を受賞して一躍有名となった化学者の、受賞の講演やこれまでの対談などが綴られています。内容としては相当に専門的(化学方面には疎いためか?)になっているように思えるのですが、化学の世界では常識的なことを普通にしゃべっているだけ、となるかも知れません。


第1章 「学ぶ」ということ(イーサイエンスのホームページから・筑波大学フレッシュマンセミナー・つくばスチューデンツ)
第2章 ポリアセチレン薄膜の発見(ノーベル化学賞受賞記念講演)
第3章 電気を通すプラスティック(東京電力「イリューム」1990年)
第4章 導電性高分子から何がみえるか(村上陽一郎インタビュー 科学技術を先導する30人 1990年)
第5章 現代の錬金術(「科学」 2000年)

 内容を理解することは大変なことのように思えました。最低、ノートぐらいは取って読まないと何が言われているのかが理解できない。化学の素養が必要です。ホントに。

白川さんは超真面目人間であることが分かる★★★★☆  化学の勉強になる★★★★☆ 推薦度★★★☆☆

40   かんにんな……    仁科克子著  光文社    1996年4月30日発行 1,300円  2001.2.16 読了

 現在朝の連続テレビ小説『オードリー』に、晋八役で出演している俳優が川谷拓三さんに非常によく似ているので、つい興味を持っていたところ、別の番組で彼の名前が「川谷 貴」で川谷拓三さんの長男であることが分かって一人納得したところです。そんな時に、この本を図書館で見つけて、一気に読みました。
第1章 ガン宣告と告知
第2章 死と向かい合わせの日々
第3章 似た者同士の恋
第4章 夢、そして波乱の結婚生活
第5章 さよなら、拓ボン
第6章 やさしさに包まれて
 川谷拓三(かわたにたくぞう)さん  昭和16年7月21日生まれ、俳優を志して15才で京都へ。氷屋での丁稚奉公を経て、18才で東映入り。長い下積み生活のあと、『仁義なき戦い』で抜てき。個性的なキャラクターが人気となる。テレビドラマ『前略おふくろ様』『黄金の日々』で確固たる地位を築く。平成7年12月22日他界。

『オードリー』に出てくる大京映画の大部屋俳優が活躍する場面が最初の方にありましたが、丁度、川谷さんがいた京都・太秦があのようだったのではないか、とダブって読みました。そこで生まれた長男の貴さんにとってもこの『オードリー』には特別の思い入れがあるに違いないと思いました。奥さんの克子さんも同じ大部屋女優で、そこで知り合い、結ばれたとありました。奥さんのお母さんは有名な女優・お父さんは監督という「映画一家」です。

 貴くんの家のことが分かる★★★☆☆  拓三さんの人間性を知る★★★★☆ 推薦度★★★☆☆

39   新パソコン入門    石田晴久著   岩波新書     2000年11月20日発行 700円  2001.2.8 読了

 読み始めてから読み終わるのに1か月ほどかかった本。電車の中で読む習慣があって、特に出勤途上である朝は良く集中できます。そうして、線を引きながら読んだのですが、毎日とはいかず、新聞を読んだり、「日経パソコン」をめっくたり、「住民と自治」を拾い読みしたり、と何かと浮気が多くて、この本ばかりに集中することがなかった分だけ、読了が遅くなっていまいました。

第1章 パソコンで何ができるか
第2章 ディジタルは二進形
第3章 シリコン・バレー生まれのパソコン
第4章 パソコンのハードウエア
第5章 基本ソフトウエア
第6章 応用スフとウエア
第7章 インターネット端末
第8章 パソコンの将来 
 

 知識としては断片的しか残っていませんが、線を引いてある所をたどっていくと、内容が浮かんできます。パソコンに使用する基礎的な用語がほとんど出てきて説明があるところが親切といえば、やはり入門書だからということになると思います。特に、ハードウエア・補助記憶装置や周辺機器の性能を単位の段階から説明しているので、じっくり読んでいくと、よく理解できるように思います。今度はノートを取りながら読んでみようか、と思っています。

 パソコンの基礎がよく分かる★★★★☆  解説が丁寧★★★★☆ 推薦度★★★☆☆

38   悪問だらけの大学入試    丹羽健夫著    集英社新書     2000年12月20日発行 660円  2001.1.17 読了

 長男がこの20日・21日に大学入試センター試験を受験することもあって、書棚で見つけた時にタイトルに引かれて思わず手にとった書籍。読んでみて、なかなか説得力のある内容でした。著者は1936年生まれだから64歳で河合塾の現役の指導者。よく聞く全国進学情報センターの所長とのこと。
第1章 悪問だらけの大学入試
第2章 大学入試問題つくります
第3章 大学生の学力低下問題・鍵は入試問題に
第4章 できる子は本当にできて できない子は本当にできないのか
第5章 後発大学は東大に勝てるか
第6章 予備校ララバイ
第7章 学校という国の装置は存続できるか

 河合塾が大学の入試問題つくりを請け負いますと発言して話題を呼んだことがありますが、この本は今の受験生・大学・入試問題の各々現状を見る時、そうした試みも必要だと今の現状を憂いています。特に、大学に教養部が廃止されて、高校教育に熟達した先生がなくなる中で、入試方式の多様化によって沢山の入試問題作成の実務を負う大学の先生の激務からして「悪問」の可能性は大いにある、という議論は説得力がありました。また、その悪問が高校生や予備校生を痛め、教育をゆがめてしまうと著者は言います。それなら我らのプロにお任せを、という訳。中に、名物講師が出てきますが、その一人に岐阜県・恵那市出身の人がいて、市会議員選挙に立候補したり、愛知万博の海上の森反対運動をしたりしていることが紹介されていて、大変に懐かしい地名を聞いた思いでした。

 実際に問題を解くと判る★★★★☆  塾はよく研究している★★★★☆ 推薦度★★★☆☆ 

37  国会議員    上田耕一郎 著     平凡社新書          1999年5月20日発行  680円        2001.1.13 読了

 著者の上田耕一郎氏は24年間参議院議員を務めた政治家。その経験を踏まえて国会議員の役割を事例を上げながら具体的に解説しています。

 内容を概括するために目次から拾うと、国会議員とは何か、国会議員になるということ 総理を指定しチェックする 政治の構造的腐敗をつく 法律をつくる 調査と質問そして民主主義 議員活動あれこれ 国会議員活動に期待されるもの の項目となっています。

 日本共産党の議員らしく国会での質問は念入りに調査して厳しく追及するという姿勢をずっと貫いてきたことが行間からきっちりと読み取れます。国民の代表たらんとする、私利私欲のなさが、すがすがしい読後感を運んできてくれます。KSDとそこにつるんだ自民党議員の誘導質問など、爪の垢を煎じて飲んだらよいと思う。 国民の代表たらんとしています。

★★★★☆  権限も大きい分責任も重い★★★★☆ 推薦度★★★★☆

 

36    だから、あなたも生きぬいて     大平 光代 著     講談社   2000年2月22日発行1,400円   2001.1.10 読了

 この本についてコラムを書きましたので、転載します。

 謹賀新年。今年もよろしくお付き合いのほどを▼さて、昨年のノンフィクションの部ベストセラー1位は『だから、あなたも生きぬいて』(大平光代著 講談社 ¥1400)でした。著者は1965年、兵庫県生まれ。転校した中学校でイジメに遭い割腹自殺を図ります。一命をとりとめますが、暴走族の道に。16才で暴力団組長と結婚、背中に刺青を入れます。そして六年間「極道の世界」に。ホステスだった22才の時にのちに養父となる人に出会います▼養父の強い勧めもあって、一日300円の生活費で資格取得に向けて猛勉強を開始した彼女を支えたもの。それは、中卒だからと馬鹿にした人たちや中学時代にいじめた人たちを見返してやりたいという復讐心でした、と彼女は言います。そして「宅地建物取引主任者」に見事合格し、「やればできるんや」と思えるようになった、と。二年後には「司法書士」に合格。そして29才の時に最難関「司法試験」に一度で合格します▼その大平さんは今、「ローマは一日にしてならず」と自分に言い聞かせながら、朝四時から六時の二時間外国語を勉強中とか。飽くなき向上心です▼「困難な中に喜び見つけて」と彼女。正月らしいテーマ(M)

 とても感動的です★★★★☆  強い信念が伝わってきます★★★★☆  勇気が沸いてきます★★★☆            推薦度★★★★☆ 

35   映画で平和を考える(母と子で見る)    上田 精一 著    草の根出版会    2000年9月1日発行  2,200円2000.12.15読了 

 シリーズについて 「母と子で見る」愛と平和の図書館シリーズもすでに50冊を数えています。母が子供と一緒に読んで考えるということで、挿絵がふんだんに使ってあって読みやすく理解がしやすいのと、それでいて内容が深く豊富であるのとで、なかなかものと思って、今までも気が付く限り読んできました。 

 この本の著者は上田精一氏。熊本の先生で、日本作文の会、映画センターなどの分野で活動されている。「映画好き少年」がそのまま大人になったようだ、と自己紹介されるように、教育に映画を取り入れていこうという姿勢で一貫しています。自らの教育実践、熊本での上映運動、平和遺跡を訪ねる旅の話、「チンパオの子牛」の映画が成立するいきさつ、演劇の教育実践など、ともに歩んだ道が綴られています。

 紹介されている映画は沢山あります。列挙すると、「戦争と人間」、「ひめゆりの塔」「猫は生きている」「ライアンツーリーのうた」「川上哲治物語背番号16」「はだしのゲン」「ボクちゃんの戦場」「チンパオの子牛」「戦争と青春」などです。巻末には平和関係の映画リストがアニメも含めて紹介されています
映画上映の情熱が伝わってくる★★★★☆  映画は授業で十分通用する★★★★☆  写真が豊富★★★☆
推薦度★★★★☆

 

34  河上肇(21世紀に生きる思想)  鈴加藤周一・井上ひさし・杉原四郎・一海知義 著   かもがわ出版   2000年10月20日発行  1,800円    2000.11.23読了

 本の成り立ち 河上肇生誕120周年にあたる1999年に関西の「河上肇記念会」が3つの行事を取り組んだ、講演・対談の記録です。筆者の紹介 一海知義氏-中国文学者・河上肇の漢詩研究の第一人者。 杉原四郎氏-経済学者・河上肇の経済学の最高の研究者。 加藤周一氏-現代日本の知性を代表する評論家・思想家。井上ひさし氏-小説家・戯曲家。

 全体の構成は以下のとおりでした。
 序 河上肇点描-生誕120年に寄せて(一海知義氏) 第一部 河上肇、または手作りの思想(加藤周一氏) 第二部 河上肇と島崎藤村(井上ひさし氏) 第三部 河上肇を語る(杉原四郎氏・一海知義氏) あとがき

〇どれも興味深く読みましたが、個人的には加藤周一氏の講演が最も興味を惹かれました。特に思想(イデオロギー)を道具化しないということ。洋服のように着替えられる思想ではなく、手作りの思想が河上肇にあったという指摘は鋭いと思う。
〇ゼミの恩師の名前も対談で出てきました。戦後すぐの京大で「戦争協力問題」の教授会が開かれた時に追及の中心の一人で自らも京大を去ったとありました。

 河上肇を知るのに役立つ★★★★☆  何れも第一人者の話★★★★☆  話なので読みやすい★★★☆
推薦度★★★★☆

 

33  続・映画を読む    鈴木陽子 著    西田書店    2000年3月6日発行  1,300円    2000.11.18読了

 著者の紹介 1966年から横浜・汐見台に住み、団地新聞『潮見台ニュース』を編集・執筆や、団地内の読書施設『潮見台文庫』の設立、運営にたずさわる。以後、図書館問題・女性問題に関心をもつ。

 ここに収められたコラムは『女性ニュース』(全国婦人新聞社)に掲載されたものとあります。この新聞自身は知りませんが、女性から見た映画評という観点は掲載場所からしても、貫かれているのが納得できる内容です。

 取り上げられている38本の映画は、いわゆるハリウッド映画は少数で、イランやインドやイギリスやフランスなどの余り見たことのない映画が多い。紹介の仕方も見開き2ページで1本の映画の紹介で、そこにコラムとともにスチール写真が一枚、映画の監督・脚本・キャストの紹介、テーマに関連する著名人からの本の内容の引用という構成。なかなか味がある構成です。

 映画の紹介の仕方がしゃれている★★★★☆  コラムの切れ★★★☆☆
 推薦度★★☆☆☆
 

32   どうする日本の政治     石川真澄・田中秀征・山口二郎    岩波ブックレット  2000年10月20日発行  440円  2000.11.15読了

 「企業と人間」と一緒に図書館で借りてきましたので、連続して読みました。

 3人のうち、石川さんは1933年生で現在桜美林大学教授だそうです。私の意見に最も近い意見で、納得しながら読みました。特に、専攻の選挙学を駆使して、小選挙区制導入の大義といわれた「お金のかからない選挙」は消え、「政権交代が可能な状況」は逆に政権交代をなくしてしまったことを実証した部分は非常に説得力がありました。

 それと森政権が認証されない理由を最初の成立から説くところもよく分かりました。今の課題は憲法改悪に必要な議員を生み出さないこと、と指摘されています。 

小選挙区制は民意が最も反映されない★★★★☆  比例代表制なら政権交代可能★★★★☆  推薦度★★★☆☆ 

31  企業と人間   佐高信・小倉寛太郎   岩波ブックレット   2000年10月20日発行  440円   2000.11.13読了

この本についてコラムを書きましたので転載します。 

小説『沈まぬ太陽』(山崎豊子作 全五巻 新潮社)読まれましたか。日本航空を舞台に企業と労働組合、労働者と経営者を正面から捉えた、昨年〜今年のベストセラー大作です。その物語の主人公・恩地元のモデルとされているのが小倉寛太郎(ひろたろう)さんです▼一九三〇年生まれ、東大法学部卒。五七年日本航空入社。六一年〜六三年日航労組委員長。すぐにカラチ・テヘラン・ナイロビと十年近く海外勤務。「現代の流刑の徒」と報じられる。その間に労働組合分裂。八五年の御巣鷹山墜落事故後、会長室部長に抜てきされる。九〇年定年退職。現在東アフリカ研究家・自然写真家。その小倉寛太郎と評論家の佐高信さんとの対談集を読みました(『企業と人間』岩波書店)▼印象に残った小倉さんの発言。「労働組合の第一の任務は組合員の生活向上、権利の擁護でしょうが、今の時代、第二の任務というのをみんなはっきり認識したほうがいい。企業のいいかげんな経営、安全を無視した経営、そういう経営に対する監視役という役割。労使関係というのは常にある程度の緊張関係を保たなければいけない」▼実践に裏打ちされた労働組合が果たす社会的役割の指摘です(M)2000.11.15掲載

 小倉さんがよく分かる★★★★☆  意見に説得力がある★★★★☆  推薦度★★★☆☆ 

30   映画をマクラに    上野 瞭 者    解放出版社    1999年7月20日発行  1,600円    2000.11.10読了

 同志社女子大学名誉教授で72歳の著者の映画評というのが気になって図書館で借りた本です。内容は40本の映画が自分流の解釈で紹介されています。なかなか味わいのある紹介です。そのうち26本が見た映画でしたので、案外ポピュラーなものを選んで批評しているようです。作品の出所がwowowというのも結構あって、微笑みました。

読んで映画が面白くなる★★★★☆  批評が鋭い★★☆☆☆  推薦度★★★☆☆ 

29   有田あや 絵更紗抄    有田正三 編者    丸善(株) 出版サービスセンター    2000年10月15日発行  2,858円   2000.11.5読了

 大学時代のゼミの恩師である有田正三(滋賀大学名誉教授)先生が奥さんである有田あやさんを突然亡くされたのが、1991年4月2日のことでした。有田あやさんは、「絵更紗」という分野では非常に著名な方で、沢山の作品を残されています。その中から、32点を厳選されて有田先生の解説付で、このたび丸善(株)から作品集を出版されました。

 「絵更紗」とは布地の模様で、独特の味わいのある色とかたちが形づくられています。以下はその解説です。

         絵 更 紗 について
 「絵更紗」は耳なれない言葉であるが、「さらさ」という言葉は広く知られている。 「さらさ」は、近世初期、異国からもたらされた染色品の一つである。わが国では、木綿布に文様熟めされたものを「さらさ」とよぴならわされてきたが、「さらさ」の語源についてはまだ確かな根拠が与えられていない。(新村出著:南蛮広記に詳細が考証されている) 
 「さらさ」は近世以降、もてはやされた染色品であり、産地の名をつけて、砂室さらさ(シャムさらさ)、インドさらさ、ジャワさらさ、ペルシャさらさ、オランダさらさなどと呼ばれ、一連の文様染の木線布がわが国に影響を与えて、各地方でもつくられ、「和さらさ」の名でよばれている。 これらの「さらさ」は茶人、趣味人の間で愛好され、ふとん柄などとして庶民にも親しまれた。直接的ではないにしろ、江戸中期に始まる友禅染に何らか影響を与えたとみることができる。 ところが、明治になり西欧文化が流入し文様が図案とよばれるようになり、あるものは抽象化が強まり、あるものは具象的になりすぎ、さらさ文様のもつ野趣や人間的情感が薄れてしまった。
 こうした情況を憂慮するとともに、古渡さらさの雅味を求め、「和さらさ」を再興すべく、故元井三門里氏が大正11年10月、京都に「更紗画塾」を創設した。その後、各地で講習会を開き更紗の指導にあたり、大正14年、更紗画塾を「絵更紗画塾」と改め「絵更紗」という名称が成立した。(昭和6年京都西郊長岡の地に移り、「絵更紗画林」と改称) 
 同氏は「従来実用を主となしたものはおおむね芸術性に乏しく、芸術性をもったものはとかく実用を欠く、という一般的見解は、絵更紗においては全くその訂正を余儀なくされるに至る」という心情の下に高雅な美を染色芸術に導入することによって、日常生活の場の実化を心ざしたものである。したがって、絵更紗は日常的な品々、茶碗の絵付け、婦人の着物から帯、羽織、ハンドバッグ、男子のネクタイまで、また、屏風やふすま、壁掛、敷物などとして室内を飾り、和風の茶室にも絵更紗は違和感をあたえず、モダンな洋室にも調和しうる。その秘密は、技法的には多くの色かずではなく、三原色のみを用いながら、顔色の派手さをおさえること、生硬な線をきらい、生きた描線によって表現すること、などがあげられるが、根源的には、日本の伝統的美的感情の上に、精神的探さを追求する態度のうちに育成されうるものであろう。       《京都府立総合資料棺の資料より》 

 

28   ハリーポッターと賢者の石   J・ K  ローリング著    静山社    1999年12月8日発行  462ページ 1900円    2000.10.24読了

掲載コラムより

庁内ニュースに載った職員厚生会が購入した新着図書の中に『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』がありました。なかなかお目が高い▼活字の大きなルビ付きの四六〇頁もある分厚い本を電車の中で広げると、回りの注目を浴びますが、物語の魅力が勝って夢中になります。何が面白いのか。ずばり親も子も楽しめるファンタジーのイメージの豊かさだと思う。登場人物の顔・匂い・声・色・動きが目の前で本当に展開されているように浮かんできます。作者J・K・ローリングさんはイギリス生まれで三五才のシングル・マザー。彼女が最初に書き終えたのが第七巻の最終章だったとか、着想から執筆まで五年を費やした地道な調査が元になっているとか、一九九七年に出版された第一巻は一杯のコーヒーの注文で幼い子供が眠っている間コーヒー店の片隅で書き続けたとかのエピソードは伝説化しています▼快調のハリー・ポッター・シリーズですが、日本では二巻まで翻訳されています。本国イギリスでは四巻目が発売されて瞬く間のベストセラー、今や二八カ国語に訳され一四〇カ国で読者を持っています。▼「ハリー・ポッター」の名前くらい覚えておくと子どもと会話できます

ベストセラー度★★★★★  面白い内容★★★★☆ 続けて読みたい★★★★☆ 推薦度★★★★☆ 

27   介護保険とボランティア     巡 静一著    かもがわブックレット    2000年8月10日発行  63ページ 571円    2000.9.24読了

 著者は大阪ボランティア協会の理事で、古くからボランティアに関わってきて、大阪の協会設立に関わったボランティアの草分け的存在の人です。

 筆者は、介護保険導入の背景を @超高齢社会の到来、A家庭の福祉力。教育力の低下 の2点を指摘して、「介護の社会化」(介護を広く社会的に支えようとするもの)と捉えています。そこでは「退職後の20年間地域社会を中心にして暮らす」地域社会の支えあいの活動の重要性を説きます。

 福祉の担い手として、著者の概念として「自助」(本人・家庭の頑張り)−「公助」(行政サービス・介護保険)−「共助」(地域住民ボランティア)−「償助」(有償サービス)の4つのポイントを紹介しています。ボランティアの位置の明確化のためです。特に、共助と公助の役割分担を強調しています。ボランティアを行政の肩代わりさせることはよくないが、介護保険の平等性・公平性に重点が置かれるのは公設の必然性とするとき、ボランティア無くして介護は成り立たないと言います。 

関心の高いテーマ★★★★☆  内容がよく分かった★★★☆☆ 説得力がある★★★☆☆  推薦度★★★☆☆ 

26    誰のための公共事業か    高橋ユリカ著    岩波ブックレット    2000年8月18日発行  63ページ 440円    2000.9.23読了

 ー熊本・川辺川ダム利水裁判と農民ーと副題があるとおり、裁判に関わる農民たちの証言をもとに公共事業のあり方を問うルポルタージュです。九州のことなので、この本に出会うまでは『川辺川ダム』計画と『国営川辺川土地改良事業』に関することは全く知りませんでした。ダム事業費が2,650億円の巨費、土地改良事業も国部分だけで400億円の巨費。日本一の水質を保つ川辺川にダムをつくり、そこから西に15.1km、東に11.7kmの広きに渡って管を敷設しようとする計画。農民が希望して採択された事業となっているとのこと。流域の農民の過半数が参加して裁判闘争になっています。まさしく「農民が反対する農民のための事業」です。

 公共事業の批判に対して先ず建設省が「川辺川ダム事業審議会」を1995年9月に発足。翌年の8月にはダム事業継続が答申されています。一方の農水省モ1998年3月に大型公共事業の「再評価システム」を閣議決定、九州農政局は1998年に第三者機関を設置して、同11月には「事業推進」を答申しています。結局再評価システムは、結局のところ、事業推進のお墨付き機関に成り下がっています。

 2000.9.8にはこの利水裁判での一審判決が出ているとのこと。早速調べる必要があります。 

関心の高いテーマ★★★★☆  内容がよく分かった★★★★☆ よく調べている★★★☆☆  推薦度★★★☆☆ 

25    戦後文学放浪記    安岡章太郎著    岩波新書    2000年6月20日発行 213ページ 660円    2000.9.15読了

 著者は1920年生まれである。80歳。「戦中文学」、「第3の新人」時代と呼ばれていたらしい。昭和28年に芥川賞を受賞しています(「悪い仲間」と「陰気な愉しみ」)。何れも未読。吉行淳之介や遠藤周作などと同時代だそうです。というのはこの頃の文学もその歴史も全く疎いから分からないことだらけです。その意味でこの本が新鮮でした。全てが初耳だから。
 著者の作品は残念ながら一つも読んでいません。ただ、この本の中で、著者が一個の作品を仕上げるのにどれだけの調査と気遣いをしているか、が書かれていて、特に晩年の作品の一字へのこだわりが凄いところを知ると、文学者の作品が偉く見えてきます。
 それと、この本自体がなるほど文学者の文章だな、という感じで、岩波新書は概して教養書として解説文章が多い中で、今までの岩波新書とは違った味わいがあります。文章に引き込まれるところがあります。そんなんで、関心の余りないテーマの文章でも結局最後まで読みました。吉行淳之介との交流の辺が面白い。

関心の高いテーマ★☆☆☆☆  面白く読めた★★☆☆☆ 文章が上手★★★★☆  推薦度★★☆☆☆ 

24    東京国税局査察部    立石勝規著   岩波新書    1999年2月22日発行 217ページ 660円   2000.8.22読了

 著者はジャーナリストで現毎日新聞論説副委員長の肩書きが示す通り、事件を追ったジャーナリストの立場から、日本で起こった巨大事件のうち8つを取り上げて、調査部の動きと相手の動き、それにジャーナリストが如何に記事にしたかの3つの観点から事件を追っています。特に私はルノワール絵画事件に興味があったので、そこから入って読み終えました。

関心の高いテーマ★★★★☆  面白く読めた★★★★☆   推薦度★★★☆☆ 

23   行政評価の時代   上山信一著    NTT出版    1998年3月30日発行 194ページ 2.300円    2000.8.16読了

 当世流行となっている感がする『行政評価』について、最初に取り上げた上山氏の著作と言うことで関心があって読みました
 構成は 1海外事例に見る行政評価のインパクト 2評価の成否を決する6つの条件 3日本への導入プロセス 4行政評価をテコとする日本の行革戦略 5実践ガイド
 特にアメリカオレゴン州の例とイギリスの例を引いています。
 行政評価という手法はあくまでも「道具」であって、それ自身によって解決手法が出てくる玉手箱ではない、ということに注意する必要があります。やり方がもとになる考え方や思想を規制してしまうのは本末転倒だと思うからです。
 無駄の多い公共事業にメスを入れる意味で行政再評価を、というのと、行政評価によって効果から行政を見ようといったときの行革手段としての行政評価とは、温度差が随分とあるような気がするのだが、今はどうも一緒くたです。なんでも全部をまとめて行政評価と呼んでしまってはいけない、ということ。

関心の高いテーマ★★★☆☆  一応参考になった★★★☆☆   推薦度★★☆☆☆ 

22   科学事件   柴田鉄治著    岩波新書   2000年3月27日発行 194ページ 660円   2000.8.6読了

 ここに取り上げられているのは7つの最近の科学に関する事件です。いずれも身近な事件ばかり。

 @脳死・臓器移植 A薬害エイズ B体外受精 C原子力 D水俣病 E大地震 Fクローン牛 の7テーマ。著者は朝日新聞社の元科学部長。振り返り検証する場合に、学会がどう対応したか、行政がどう対応したか、報道がどう対応したかの3つの側面からおっているのも本書の特徴。特に3番目の報道がどう報道したか、を自戒も含めて書いてあるのはジャーナリストならではだと思う。

 興味深かったのは、薬害エイズ(行政が何もしなかったことが罪に問われた初めての事件)水俣病(学会はどう総括しているのかという批判) 脳死移植での最初のつまずきに対する学会の反省はあるか、大地震での予防予知の可能性に対する警鐘の指摘など。

 どのテーマもコンパクトにまとめられていてよく分かります。 

どれも関心の高いテーマ★★★★☆  コンパクトなまとめ★★★★☆   推薦度★★★☆☆ 

21  週末の心優しい映画たち    秋元 康著    ぴあ    2000年3月25日発行 223ページ 1300円    2000.7.26読了

 非常に読みやすい本で、映画のスチールとビデオカバーの写真もちゃんとあって、コメントが軽快で、楽しめます。

 著者の秋元康氏は、いままで知りませんでしたが、ついこの前封切りされた『川の流れのように』(森光子主演)の監督をした人で、美空ひばりの名歌となった同名の歌の作詞者ということです。

 週末は一年に52回あるということで、全部で52本の映画を紹介してくれます。いずれも週末に家のテレビでビデオを借りてきてみる映画ということで、ビデオが手に入る映画が推薦されています。その映画の選び方に著者の好みが出るのですが、出来るだけ広く取ろうとはしています。

 52本のうち数えてみたら、29本を鑑賞していました。5割5分くらいか。未見で本を読んでみたくなった映画をあげると、『ミッドナイト・エキスプレス1978米』『スティング1973米』『隣人は静かに笑う1998米』『ワイルドシングス1998米』の4本です。

見たい映画を探せます★★★★☆  コメントが軽快★★★★☆   推薦度★★★☆☆ 

20  生活習慣病を防ぐ   香川靖雄著   岩波新書679    2000年6月20日発行 217ページ 700円    2000.7.18読了


 週一コラムにこの本の読書感想を書いたので以下にコラムを引用します。

この六月に岩波新書から『生活習慣病を防ぐ』という本が出ています。脳出血・脳梗塞・心筋梗塞・糖尿病合併症・痛風などの疾病は生活習慣が大きな要因といわれています。その生活習慣病とはどういう病気かから始まって、増加の一途をたどる現状と第一次予防が不可欠であること、激痛発作後命を取り留めての治療方針の実例、一次予防の実践のしかたまで、説得力を持って語られています。印象に残った点を以下に▼@いずれも無自覚な沈黙の病気であるため疾病確立期まで数十年の間全く自覚症状のない場合が多い。従ってその進行度合いは定期的な検査によって知る以外にないこと。その指標が肥満度・高血圧・高脂血・高血糖・骨粗しょう・高尿酸血などであること。従って検査値とその推移から自らの不健康度合いを診断することになる。各々の数値の具体的な説明もあってよく分かります。A食生活、運動、睡眠、喫煙、飲酒などについてそのあり方を個人思想として確立する必要を説いています。B人に寿命はあるわけだから出来るだけ長く健康寿命を保ち、生活の質を落とさないで済むようにすることが健康目標となること▼自己責任とはこのことだと思いました(M)(2000.7.19掲載)

19  NPOはやわかりQ&A   辻元清美他   岩波ブックレット   2000年6月20日発行 63ページ 440円   2000.7.15読了


 日本にNPOに関する法律が出来て注目されるようになったが、その内容について解りやすく説明している。著者が高槻から小選挙区で当選した議員だったこともあって手にした本である。

 NPOの活躍する分野としては、保険・医療・福祉分野が最も多く、次いで環境保全、文化・芸術・スポーツ、町づくり、子どもの健全育成、国際協力など、幅広い。
一般にNPOという時に、@NPO法による非営利法人、Aボランティア団体や市民活動団体、B全ての営利を目的としない公益法人(宗教法人・社会福祉法人・財団法人・医療法人などを含む)、C営利団体以外の全ての団体(自治会・農協・生協・共済組合などを含む)の4通りの使い方がある、と言う説明はなるほど!と納得した。
NPOに関するホームページの紹介もあった。〇市民活動を支える制度をつくる会(http://c-s.vcom.or.jp)、〇日本NPOセンター(http://www.jca.apc/org/jnpoc/)、経済企画庁(http://www.epa.go.jp/)、〇NHKボランティアネット(http://nhk/or.jp/nhknet/)、など。

なかなか親切な本で、あとは主なNPO組織のホームページアドレス、NPOに関する文献集なども揃っています。

読んでNPOのことが良く理解できる★★★★☆  色々な角度からの資料提供があり使える★★★★☆   推薦度★★★★☆

18   家族と生きる意味   工藤律子    JULA出版局   2000年4月28日発行 72ページ 700円  2000.6.29読了
工事中! 
17  川田龍平とこの国の人権を考える   川田龍平と人権アクティビストの会   かもがわブックレット   1998年1月25日発行 62ページ 571円   2000.6.28読了


 電車の通勤時間に一気に読み終えた本。HIV訴訟の最中、『人権アクティビティーの会』発足にあたって川田龍平さんが寄せたあいさつと、お母さんの川田悦子さん、増田れい子さん、佐高信さん3人のトークが載っています。

 ミドリ十字は例の731部隊関係者が設立したこと、エイズ予防薬を当のミドリ十字が販売し始めたこと、人権は事実を見つめ明らかにし行動することによって初めて見えてくること、人権と特権を一緒にすることはないのであってミドリ十字社長にも人権があるという主張はことを人権一般に解消することによって結局彼を免罪することになること、などいろいろ刺激的な議論が展開されています。

読みながら考えることができる★★★★☆  納得できる内容★★★★☆   推薦度★★★★☆ 

16  小さな農場主の日記   玉村豊男著    講談社新書    2000.6.23読了


  タイトルからすると、サラリーマンか何かの職業から農業にトラバーユして一から農業を始めた人が、その実感の日々を綴っている日記だろうど想像します。少なくとも私はそういう想像の上でこの本を手にとって読む気になったのです。

 結論からいうと、見事に裏切られました。年齢としては53歳で予想よりも若いのですが、本人はエッセイストで画家で、東京で店を持ち、日本全国、講演や取材、仕事で回っている人。いわゆる有名人でした。農場をやっているのは確かですが、人を雇って「経営」しているのです。それで小さな農場主と、主がついているのです。普通は個人事業主を想像するのですが、この場合は、経営者。多少、土にまみれているのは確かですが、全国を駆けめぐっていて農業を維持することは非常に難しいと思う。 おさわり程度の農業体験?。

 本人が自分の力で農業を切り開いている、そうした農場での苦労話中心の日記という内容を期待して見事に裏切られた本でした。エッセイや食の話なら、そのタイトルで書いて欲しい。読まないから。

楽しんで読める★☆☆☆☆  タイトルに偽り★★★★☆   推薦度☆☆☆☆☆

 

15   淀川長治、黒澤明を語る。    淀川長治    河出書房新社   1999年6月15日発行 253P  \1600   2000.6.20(火)読了


 黒澤明との対談集が中心になっていて、直接本人から『黒澤映画』について聴けるという意味で、非常に楽しいし、解説者の語る『黒澤映画』とはまた違った味が十分に出ています。こっちの方が断然いい。拾いものをした、読んで得したな、と思う本です。

 対談は1952年の「ロサンゼルスでの羅生門の反響」から、「サヨナラ、サヨナラ黒澤明さん」の1998年まで、実に48年間が包含された対談集です。最初の方の対談は特に、第一回作品である姿三四郎や羅生門、虎の尾を踏む男達、醜聞などの初期の作品の当時の評価や、監督の思いなどがよく伝わってきて、大変に興味深い。最近のベルリンやカンヌなどで受賞した日本映画に対する評価と比較すると、当時のベネチアにおける羅生門に対する評価がアメリカとヨーロッパの両方で本当に凄かったのだ、とつくづく思います。

 黒澤監督は生涯に30本の映画を撮りました。映画の危機が言われるようになってからは、本当に寡作で、5年に1本の割でしか撮っていません。日本の文化状況が監督の才能を放置したことが大変残念でなりません。
 30作品を列挙します。
 姿三四郎 一番美しく 続姿三四郎 虎の尾を踏む男達 我が青春に悔いなし 素晴らしき日曜日 酔いどれ天使 静かなる決闘 野良犬 醜聞 羅生門 白痴 生きる 七人の侍 生きものの記録 蜘蛛巣城 どん底 隠し砦の三悪人 悪い奴ほどよく眠る 用心棒 椿三十郎 天国と地獄 赤ひげ どですかでん デルス・ウザーラ 影武者 乱 夢 八月の狂詩曲 まあだだよ
 どうですか。堂々たるものでしょう。

 黒澤明の口から語られている言葉の中で印象に残った言葉。「映画は球形、あるいは多面体のようなものだ。どの面からも観察できる。高級な鑑賞は高級なりの切り口で語り、鑑賞できるし、一方、入門者はまた入門者なりの楽しみ方が当然にできるというふうに。」
 的を得た言葉。そのとおりと思う。

 楽しんで読める★★★★☆  黒澤映画がよく分かる★★★★☆   推薦度★★★★☆ 

14   おしゃべりなランナー    増田明美    リヨン社    1997年12月25日発行 226P  \1500   2000.6.14(水)読了 


 著作というよりも、口頭筆記の散文がちりばめられれている本。非常に早く読むことが出来るのが特徴で、朝の通勤電車の中で3日間で読了しました。30分間で70ページくらい。

 著者は自我が強烈に強いことが行間に出ています。マラソンランナーとしては素質の一つかも知れないが社会人としてはとても及第点はもらえないと思う。大学を中退して、アメリカの大学へ留学するくだりは何かことが簡単に運びすぎて、有名人だから、と思ってしまう。この辺は未だ甘いと思う。

 もう少し、著者の人となりが背伸びしたものでなく、自然体であってほしいとおもうことしきりの本です。

  早く読める★★★★☆  散文的★★★★☆   推薦度★☆☆☆☆ 


13東京都の外形標準課税はなぜ正当なのか 青木宗明・神田誠司 地方自治ジャーナル 2000年4月10日発行 112P  \1000  2000.6.8(木)読了

 非常にタイムリーな企画の本だったので、思わず手にとって読むことになった本です。

 本の資料編のところに日本銀行協会と東京都主税局との論争が両者の主張を並べる形で紹介されていてよく分かります。著者は外形課税が正当であるという立場から、安定した財源であること、応益原則の課税であること、地方自治・分権と財政基盤の強化は表裏一体、等の点を上げて論陣を張っています。法人事業税とはどんなものかについても概説があります。

  理解が進む★★★★☆  論点の整理が上手★★★★☆   推薦度★★★☆☆ 

12  心を癒す シネマセラピー  近藤 裕  海拓舎  2000年3月3日発行 190P  \1400  2000.6.4(日)読了

 著者は昭和3年生まれのサイコセラピスト(心理療法士)です。プロ以外の映画解説では今まで読んだ中では最も高齢者だと言うことで、映画に関する感性が私と一緒かどうかということの興味もあって手にした書物です。

 取り上げられている映画は全部で9本。『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』『タイタニック』『マイ・ライフ』『陽のあたる教室』『フォレストガンプ/一期一会』『晩秋』『マイルーム』『ドクター』『シャイン』。晩秋とドクター以外は見ている映画で内容を確認しながらよむことが出来ました。

 どの解説も映画の要約をしながら登場人物の心の有り様や心理、気持ちの高揚などを興味深く述べています。私的な主人公への傾斜度からいうと、『グット・ウィル』『陽の当たる教室』『シャイン』がベスト3です。 

  楽しめ度★★★★☆  映画がよく分かる★★★★☆   推薦度★★★☆☆ 


5月

11  銀行革命 勝ち残るのは誰か  小原由紀子  講談社現代新書  2000年4月20日発行 186P  \640  2000.529(月)読了

 著者は1960年生まれの若手である。金融アナリストという職業にかっていた人である。 彼女はこの10年の銀行の歩みをともに観察してきて、今後予想される「激動」の5年間へ、銀行(メガバンク)に対して警鐘を鳴らしているのが本書である。論旨は明快ではっきりしている。

 目次は以下のとおりである。序 銀行の概念が変わる 1章 国産メガバンク誕生の背景 2章 金融不安は終わっていない 3章 米銀の再編と日本の再編 4章国産メガバンクは成功するか 5章 既存銀行を揺さぶる「コンビニバンキング」 6章 電子マネーは金融をどう変えるか あとがき

 論旨の大要は、みずほ・住友/さくら・三和/東海/あさひ・東京三菱の4大メガバンクは市場圧力と金融行政当局と銀行当事者の思惑の3つが重なって生まれたものだ。銀行は99年から2002年までの4年間にあと5兆5000億円の不良債権処理が必要とされているが、著者の試算では16兆円となり、約3倍になる。米国の場合、1976年頃から約15年かけてリストラを実施して小売りサービス業へ転換を図ってきたが、日本は2〜3年の短期間が求められている、それは可能か。そして、今新しい波がある。異業種の銀行業への参入であり、コンビニバンキングの広がりであり、ICカード・電子マネーの登場である。銀行が生き残りためには思い切った対応が迫られている。

 銀行業がどうなっていくか、確かに先行き不透明だが、はっきりしているのは、お金の流れが激変するということ。リアルネットではコンビニのATMが中心となって登場するだろうし、バーシャルネットでは、電子商取引と電子マネーが将来を大きく変える可能性を持っている。そうした中で銀行業の将来を占うのは難しい。著者はアメリカを例に、小売サービス業への転換を説く。

  主張の明快さ★★★★☆  突っ込み具合と時事性★★★★☆   推薦度★★★☆☆ 

10  インターネット術語集  矢野直明  岩波新書  2000年4月20日発行 217P  \650  2000.516(火)読了

 (週一コラムに読後感想を載せましたので転記します) 

異動して一カ月半を過ぎた人、少しは仕事に慣れてきましたか。前任者のレベルにまでは早く達したいとの気持ちを大切に、無理なく努力を▼さて、最近読んだ本の中で『インターネット術語集』(岩波新書)は骨太でした。術語(言葉)を説明しながら、その対象となっている今のインターネットが織りなす情報化社会を「サイバースペース」と名付け、現実空間とサイバースペースとの相互交流が現実世界そのものを変化させていると捉えています。そのサイバースペースの世界の威力、光と陰などを、少し難解ではあるけれども、技術問題も含めて突っ込んで説明しています。じっくり解読しながら読む本です。かって『インターネット』『同U』(村井純・岩波新書)を読んでその世界の魅力に触れた思いがしたものですが、この本も魅力が多い▼情報関係の書物は私の場合、著者の年齢を重視しています。自分より上だと土俵が同じ気がして安心。余り下に離れていると不安です。著者の矢野直明氏は一九四二年生まれで『ASAHIパソコン』の初代編集長です。専門家でも技術者でもない編集者というのがミソ▼チャレンジの意味では、研修所の通信教育講座を受講するのも一考です。今日が締め切りとか(M)2000.5.17掲載 

主張の明快さ★★★★☆  突っ込み具合と時事性★★★★☆   推薦度★★★★☆ 

9  おすぎのいい映画を見なさい2  おすぎ  芳賀書店  1998年12月25日発行 217P  \1,200   2000.5.1(月)読了

 この本の3が意外と(?)面白かったので、2を図書館から借りてきて読了しました。彼(彼女?)の映画評は必ず今の自分の状態から入って行きます。今週の殺人的スケジュールとか、風邪をひいてしまったこととか、そして話題の映画評へ。そこで取り上げる映画はその時期で、最もよいと思った映画か、話題となっている映画のようで、批判よりも良いところを見つけて評価する文章を多くしています。丁度覚えている程度の古さの映画で随分と参考になります。

 評論の対象となっている映画は、フォレストガンプ・告発・レオン・クイズショウ・サスペリーナ・フォーウエディング・トウルーライズ・ペリカン文書・シンドラーのリスト・ピアノレッスン・さらば我が愛・めぐり逢えたら・クリフハンガー・リバーランズスルーイット・ボデーガード・ユニバーサルソルジャー・エイリアン3・シティオブジョイ・などです。読んで見たいと思うでしょう。   

面白さ★★★★☆  主張の明快さ★★★☆☆  意見の一致度★★★★☆  推薦度★★★☆☆ 

3月

1.現代<死語>ノートU 小林信彦 岩波書店 新書 2000.1.20発行  227P  \700 2000.3.2(木)読了

  あとがきによると雑誌『世界』に連載されたもので、1955年〜1976年までを扱った『現代<死語>ノート』の続編にあたる。1977年から1999年まで、丁度私が結婚した年から現在までを扱っている。ボーナスで1945年から1955年までも載っていて、二冊で戦後55年を網羅していることになる。著者が<死語><半死半生語>と判断する単語が約400紹介されている。そして関連する人名がざっと450名。それだけでもスゴイのにその言葉の解説が歯切れが良くて面白い。現代に近いところだということもあって、全体の約9割くらいは聞いただけで単語の意味が分かった。 時代の中で言葉が流行し、それがいつの間にか消えていったのが沢山あるのに驚いた。作者はメモなどして覚えていたのだろうか。選択の眼が鋭い。例題を以下に。冬彦さん(1992)、カウチポテト族(1987) 、ティラミス(1990)、ジベタリアン(1999)、ランバダ(1990)など。すぐには思い出せないのは横文字が多い。作者の時流に対する批評が明確で、気軽に読める一冊です。

 面白さ★★★☆☆  難易度★☆☆☆☆  主張の明快さ★★★☆☆  推薦度★★★☆☆ 


2. 夫と妻 永 六輔  岩波新書   2000.1.20発行. 206P. \660 2000/3/6(日)読了

 永六輔さんの岩波新書『大往生』が大ヒットして、シリーズのようにその後『二度目の大往生』『職人』『芸人』『商人』と発売されて、いずれもよく読まれているようです。今回は『夫と妻』『親と子』が発売されました。夫と妻のほうの感想ですが、非常に気楽に一気に読むことができました。永六輔さんは常に旅人であり、ストーリーテラーであると思う。その口調がそのまま綴られた本です。その中で印象的だったのは、辛淑玉さん、中山千夏さんとの対談、それに淡谷のり子さんのエピソード、お寺での説法でした。永さんのように旅暮らしをしている夫を永さんの奥さんはどう見ているのだろう、という関心があったが、それに応えてくれたのが「あとがき」の部分。奥さんの幸せは掃除と読書というのがいい。本に書くに当たって、ごく普通に生きている奥さんという当たり前の評価が良いのであって、特別扱いして欲しくないと念を押された様子が書かれています

面白さ★★★★☆  難易度★☆☆☆☆  主張の明快さ★★★☆☆  推薦度★★★☆☆


3. 沈まぬ太陽1アフリカ篇 山崎 豊子 新潮社  1999.5.25発行. 302P. \1,600 2000/3/18(土)読了

  待望の『沈まぬ太陽』が手に入りました。1〜5まで楽しみに読んでいきます。今日は先ず1のアフリカ篇上。某大学からエリートで半官半民の航空会社に就職した主人公恩地元は、たまたま労働組合の委員長になる。一期の約束で引き受け、正義感から賃金と待遇の改善を求めて団体交渉を進めていく。それが2期になり、ストライキを打つまでになると、会社側はパキスタンのカラチへの勤務を命ずる。2年で帰る慣習は破られ、次はイランのテヘランへ。会社側のこれでもか、の仕打ちと闘う主人公。

週刊誌に連載されている間、某航空会社は機内にその週刊誌を置かなかったという話がついているまで、綿密な取材で書かれた骨太の大河小説である。昨年のベストセラーを遅ればせながら読み進んでいるところです。

面白さ★★★★☆  物語性★★★★☆  エンターテイメント★★★☆☆  推薦度★★★★☆


4月
4.福祉立国への挑戦  浅野史郎 本の森 2000.2.8発行. 310P. \1,700 2000/4/1(土)読了

 著者は今が二期目の宮城県知事です。1948年仙台生まれで、東大法学部から厚生省入りしたキャリアが、職を投げうって無所属で知事選挙に立候補、見事に当選を果たしたという筋書きがあって、厚生省の老人福祉課長補佐だったことろから「障害福祉の仕事はライフワーク」だから本のタイトル通りになったということ。本の内容は「現代社会保険」という月刊誌に書いた随筆と、「福祉新聞」に連載した随筆とを集めたとはしがきにあります。 いずれも方の凝らない読み物です。気さくな人柄がよく出ています。ジョギング知事らしく、都道府県駅伝の最終ランナーは各県の知事が走ることに規約を変えたらどうかという提案もあります。県の情報公開でトップを走っているのも宮城県だと思う。仙台オンブズマンの活動も全国的に有名だが。

飾らない言葉で書かれた本音に好感が持てました。

面白さ★★★☆☆  物語性★★★☆☆  主張の明快さ★★★★☆  推薦度★★★☆☆


5.おすぎのいい映画を見なさい3 おすぎ 芳賀書店 1998.12.25発行.218P. \1,200 2000/4/6(木)読了

 映画評論家の映画解説を読むのも好きで今までは淀川長治さんの本が多かった。今回はおすぎさん。登場する映画が1995年から1998年なので、未だちょっと前に見た映画、ということでよく思い出すことができます。彼は1945年生まれで、50才半ば。評論も少し古い映画との比較が多くなったりして丸くなって来ています。マディソン郡の橋・shall we ダンス?・セブン・ベイブ・いつか晴れた日に・ツイスター・ゴースト/ニューヨークの幻・ザファン・シャイン・イングリッシュペイジェント・目撃・ロストワールド・もののけ姫・コンエアー・タイタニック・スポーン・フェイスオフ・ビヨンドサイレンス・モンタナの風に吹かれて・プライベイトライアン・ジョーブラックをよろしくなど。対象となっている映画のタイトルを聞いただけでも一度は読んでみたいと思いませんか。通勤電車の中で一気に読みました。彼の映画を見る目が楽しい。気楽に読めてウンウンと納得できます。

面白さ★★★★☆  物語性★★☆☆☆  主張の明快さ★★★★☆  推薦度★★★★☆


6.沈まぬ太陽2アフリカ篇 山崎 豊子 新潮社  1999.6.25発行. 357P. \1,700 2000/4/12(水)読了

 テヘランへ飛ばされた恩地元の次の就任地はアフリカ・ケニヤのナイロビだった。度重なる僻地でのたらい回し。爆発しそうになるが狩りをすることで気持ちを抑える。辞表は相手の思うツボ。第2組合の結成と第1組合員への差別待遇が知らされるが、第1組合員の頑張りに応える為にも負けられないと、決意を新たにする。このナイロビの日本人一人の事務所で4年4ヶ月を迎える。会社の拡大路線は安全軽視につながり、事故が連続して発生する。あたかも御鷹巣山の惨劇の序曲のように。経営者の組合敵視の不当労働行為は国会で取り上げられ、テレビのニュースとなり、都労委での証人尋問となるに及んで、ついに恩地は本社勤務のテレックスを受け取る。実に9年4ヶ月ぶりの日本であった。

 非常に迫力ある筆致で丁寧にディテイルされた中を恩地が苦悩と固い意志に揺れながら過ごすアフリカ篇でした。余り早く読み進むのではなく、ゆっくりと味わいながら読んでいます。第2組合の結成と第1組合敵視、経営者の動きとマッチした生臭い話が臆面もなく語られるところがこの小説のスゴイところです。取材に裏付けされているのか、説得力があります。次は、3篇・御巣鷹巣です。

面白さ★★★★☆  物語性★★★★☆  エンターテイメント★★★☆☆  推薦度★★★★☆


.へたも絵のうち 熊谷 守一 平凡社  2000.2.15発行. 228P. \1,100 2000/4/15(日)読了

 日本経済新聞の最終ページに『私の履歴書』という欄があります。各界の著名人が連載自伝を掲載しています。この『へたも絵のうち』は昭和46年(1972年)にこの欄に連載されたとありました。随分と長く続いているのだな、と先ずは感心。最近では『笠智衆』さんのが印象に残っています。

 画家の熊谷守一さんは明治13年(1880年)に岐阜県恵那郡付知村生まれである、というところに興味を持ちました。随分と前になりますが、岐阜県の中津川市を車で走っていたとき、確か『郷土の画家・熊谷守一記念館』という看板を見かけて、ああ、こんなところから画家がでているんだ、と発見したことがありました。その画家がこの本に取り上げられていたということ。付知村生まれとはいえ、岐阜市の初代市長の3男であったからこそ、当時の東京美術学校へんぼ入学ができたと思う。

 絵そのままに自然に生きた画家が恵那地方から輩出された、ということだけでも嬉しい。(編集長も実は恵那市出身なのです。)

面白さ★★★☆☆  人物度★★★★☆  絵の楽しさ★★★★☆  推薦度★★★☆☆


.沈まぬ太陽3御巣鷹山篇 山崎 豊子 新潮社  1999.7.30発行. 374P. \1,700 2000/4/19(水)読了

 第3篇は、日本航空が起こした最大の航空機事故であるジャンボ747機が群馬県の御巣鷹山に衝突炎上して520名もの命を奪った事故に取材してドキュメント風に展開しています。

 遭難・捜索・発見・救出・弔い・その後と、アフリカから帰国して名ばかりの部長職だった恩地は『お客様係』として、遺族の世話係に任じられ、群馬・大阪と帰宅できない日々を過ごす。恩地の感情はまっすぐで曇りがない。経営陣の対応との比較。圧巻はそれにも増して、やっぱり、圧倒的な520名という数である。描いても描いても尽くせない一人ひとりの思いを群像風に追っていく筆致で迫っています。『起こりべくして起きた人災か』という問いは、重く全体を覆っています。

 補償問題の交渉を任せられる恩地たちが直接遺族と接して発せられる言葉に、「安全運航」という絶対的な信頼を裏切った絶望感が込められています。二度と起こさないようにするための確認を求める遺族。組合が4つに分裂させられていることも少しだけ触れられています。 社長以下の経営陣の交代で、再建をめざす物語はいよいよ佳境に入っていきます。

  物語性★★★★☆  エンターテイメント★★★☆☆  推薦度★★★★☆


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