それは全くもって青天の霹靂であった。
「はぁ〜、疲れた疲れた。今日もよく働いた〜っと・・・・」
執務疲れで凝った首を回しながら、は今、12宮の階段を下りきった。
ここからあとほんの少し歩けば自宅に着く。
「今日の晩ご飯は何にしようかな・・・・」
夕食の献立などを考えながら、は歩き慣れた道を辿った。
12宮の住人達との楽しい晩餐も大好きだが、やはり自宅で一人のんびり過ごすのが一番落ち着く。
早く帰って服を着替え、一息つきたい。
そんな思いが、の足を早めていた。
ところが。
「あれ!?」
そこにある筈の我が家がない。
いや、正確に言えばある事はあるのだが。
「何これーーー!?」
はバッグを取り落とし、そこに駆け寄った。
そう。
そこにあったのは、今朝まで自宅だった建物の、変わり果てた無残な姿であった。
「ほう、これはまた随分酷い事になっていますね。」
「うむ。正に木っ端微塵だな。」
の家の惨状を見たムウとシャカは、至って冷静に感想を述べ。
「呑気に言わないでよ!あぁぁ、私の家が・・・・」
「危ないよ、。ガラスの破片で怪我をする。」
半泣きで力なく残骸を摘み上げるを、アフロディーテがやんわりと止める。
この3人をはじめ、既にこの場には黄金聖闘士達が勢揃いしていた。
この有様に動転したは、まず一番近くの白羊宮に駆け込んだ。
そして事の次第を聞いたムウは、残りの黄金聖闘士達を現場に集結させたのである。
かくして、黄金聖闘士+で、緊急対策会議が始められる事になったのだが。
「私の家〜・・・・・」
突然の事にショックを受けているは、未だ立ち直れていない。
がっくりと肩を落とし、すっかりしょげ返ってしまっているのである。
余りの気落ち振りを不憫に思ったアイオリアとアルデバランは、の肩を叩いて励ました。
「災難だったな、。」
「あまり気を落とすな。家ぐらい、すぐに建て直してやるから。」
「うう・・・・、ありがとう・・・・。」
彼らのストレートな慰めと励ましが、やけに心に染みる。
は涙ぐみそうになるのを堪えて礼を言った。
「それにしても見事な壊れっぷりだな。」
「うむ。半端な壊れ方が何とも絶妙だ。」
「そうなのよ〜〜!!」
ミロとカミュの分析に、は激しく同意した。
家自体の形は辛うじて保たれているのに、その機能は完全に失っている。
壁が大きく割れ、ガラスは粉微塵になり、ぱらぱらと材木の破片が不規則に降ってくる有様なのだ。
今にも崩れ落ちそうで落ちない、そんな微妙でタチの悪い状態が、却って厄介であった。
いっそ完全に倒壊していれば良いものを、こんな状態では中の物を発掘しに行くのも危険である。
だがそれはあくまでが行う場合の事であって、こんな状態でも平気の平左な連中がここには沢山居る。
その内の何人かが今、の代わりに当座の荷物を取りに行っていた。
「いつまでピーピー言ってんだよ!ほら、取って来てやったぜ。」
「取り敢えず言われたものは取ってきた。これだけあればしばらく大丈夫だろう。」
そんな危険地帯から出て来たデスマスクとカノンは、にいくつかの荷物を差し出した。
ひとまず着替えと必需品である最低限の日用品ぐらいだが、今はこれ以上欲しても仕方ない。
無事で残っているかどうかも怪しいし、たとえ発掘したところでそれを収める家がないのだから。
「うん・・・・、ありがとう。」
は礼を言ってそれらを受け取った。
しかし。
「やっ・・・!」
「あん?何だよ?」
「・・・・何でもない。」
一瞬文句を言いかけたが、頼んでやって貰った手前、は渋々黙り込んだ。
差し出された衣類の塊には、憚る事なく下着が堂々と混じっていたのである。
せめて見えないように隠してくれれば良いものを、やはり男は男、こういう事には気が利かない。
だが今は流石に文句を言える立場でないと踏み、はこっそりバッグにそれらを押し込めた。
そんな事をしていると、事情聴集に出掛けていたサガとシュラが戻ってきた。
「待たせたな。」
「事情が分かったぞ。」
「本当!?」
収穫を得て戻ってきた二人に、は詰め寄った。
「どうだったの!?」
「どうやら聖闘士達の訓練の巻き添えを喰ったようだ。」
「実行犯が誰かは遂に分からず終いだったが、訓練をしていた連中の技が逸れてお前の家に当たったらしい。」
「そっか・・・・。」
「気の毒だが、奴らも悪気があってやった訳ではないから、許してやってくれんか?お前の家は、このサガが責任を持って一日も早く元通りにする。」
「俺からも頼む、。」
「うん・・・・。」
後輩を思う二人に頼み込まれ、は頷いた。
「とすると、あとは当面のの住まいじゃな。」
童虎の発言で、ようやく緊急対策会議の本題に入る事となった。
いくら彼らが人並み外れた力を持っていたとしても、流石に一晩で家を建て、一切合財を元の状態に戻す事は出来ない。
少なくとも数日の間、家なき子状態になってしまうのは免れなかった。
それからしばらく、あーでもないこーでもないと、白熱した議論が展開された。
その結果、出た案は。
「さあ。誰の宮にするか、が選ぶのじゃ。」
は童虎に決断を迫られた。
聞いての通り、当面の居候先を自分で選ばなければならない。
長く無人の人馬宮はとても住める状態ではないし、誰かに宮を明け渡して貰う事も不可能らしい。
そうしてやれば良いとの声も上がったが、各宮の守護を仰せつかっている彼らとしては、やはりそれは無理だと結論を出したのである。
尤も、それはあくまで『大義名分』であって、真の狙いは別の点にある連中が多々居たのであるが。
それはの与り知らぬ事であった。
「さあ、。」
「う・・・・ん・・・・・・」
各宮の住人達がずらりと並ぶ前に立たされ、は悩みに悩んだ。
散々迷ったその挙句、がゆっくりと歩み寄った人物は・・・・・