一汁一菜の読書歳時記9  2009年1月〜

 読書歳時記の目次へ  メニューへ戻る

目次  
 読書歳時記1  2000年4月〜2001年3月へ(45冊)
 読書歳時記2  2001年4月〜2002年3月へ(41冊)
 読書歳時記3  2002年4月〜2003年12月へ(13冊)
 読書歳時記4  2004年1月〜2004年12月へ(27冊)
 
読書歳時記5  2005年1月〜2005年12月へ(71冊)
 読書歳時記6  2006年1月〜2006年12月へ(71冊)
 読書歳時記7  2007年1月〜2007年12月へ(52冊)
 読書歳時記8  2008年1月〜


2009年1月 トカゲの尻尾  □告白  □字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ  □生活環境主義で行こう!
         □
野菜の手帖
   
2月  マルクスの使い道  鬼の跫(あし)音


 

7 鬼の跫(あし)音/道尾秀介 読了 2009.2.11 (2009-7冊目)

  道尾秀介著 角川書店 2009.1.31発行 228頁 1400円+税
〇鈴虫 〇ケモノ 〇よいぎつね 〇箱詰めの文字 〇冬の鬼 〇悪意の顔Photo

道尾さんの初めての短編集です。いずれも野生時代に掲載された短編に加筆して収録したとあります。

本人の言では、今回の短編小説は私が書きたいものを自由に書かせてもらった。短編でしか表現できない世界を各々違った形で書いたつもりとのこと。道尾秀介さんは短編も上手な作家だと思います。

彼の作品には干支が登場します。今回は鬼門=丑と寅の間をあらわすということで「丑寅」が登場していることになります。鬼門というマイナスのエネルギーが今回の小説群を貫いています。心の中に生まれた鬼が心の闇がいつまでも心を覆って離れない大変怖い物語ばかりです。

登場人物の紹介
鈴虫‥‥私(大学生) S(大学生) 杏子(大学生)
ケモノ‥‥僕(予備校生) S(無期懲役囚)  Y(Sの父の妻)
よいぎつね‥‥私(高校生) S(同級生) 髪の長い女
箱詰めの文字‥‥僕(小説家) S(高校時代の同級生) 青年
冬の鬼‥‥私(社長の娘) S(私のいとおしい夫)
悪意の顔‥‥僕(小学生) S(同級生) 女の人

どの物語にもSが登場します。皆異なっていますが主人公の相手となり物語の核心を司る人物です。全く異なったタイプの短編がSという登場人物を通して1本の線に連なるという趣向があるような気がします。そのSが何をあらわすかは、読んだ読者が判断することですが。

一気に読み終えました。なかなかの快作です。

 

6 マルクスの使いみち/松尾匡他 読了 2009.2.8 (今年6冊目)

  稲葉振一郎・松尾匡・吉原直毅著 大田出版 2006.3.15発行 237頁 1800円+税
Photo〇はじめに 〇「解体と再生」その後 〇搾取と不平等 〇公正と正義 〇「たたかいの朝」 〇地上の自由へ 〇氷ばかりつかんで 〇あとがきにかえて

大変難しい本でした。読んでいても半分も頭の中に入ってきません。それでもテーマに興味があって読みました。知りたかったのは、マルクス経済学の動向、日本の経済学界の中でどういう位置を占めているか、ということ。大学卒業後、その手の情報は全く入ってきませんし、大学時代は大変華やかだったマルクス経済学がどうも今は全く影もないように思われるので、かっての研究者たちはどこへ行ったのか、何をテーマに何を研究しているのか、ということ。

この本は近代経済学の立場からマルクス経済学が提起した問題を再生するというテーマで書かれています。問題提起はいいけれども、マルクス経済学自体でそれを解明するには無理があるので、解体・再生の作業が必要だという立場です。

近代経済学の中に沢山の流れ、考え方があって、その辺の整理をしながら読まないとどの辺の議論なのか、全体像を見失いそうです。

「ヘタレインテリ」の知的興味を刺激してくれる本です。

推薦度(経済学専攻者へ) ★★★☆☆

 

5 野菜の手帖 読了 2009.2.8 (2009-5冊目)

  中村浩編著 講談社 2002.4.15発行 206頁 1400円+税
Photo〇はじめに 〇野菜の世界 〇遥かなるベジタブル・ロード 〇バイオテクノロジーまでの道 〇野菜たちの素顔 〇野菜の漬物 〇暮らしと野菜

中心的に読んだのは「野菜たちの素顔」の所。野菜を果菜類・葉茎菜類・根菜類に分けて、代表的な野菜を紹介しています。ちょうど、我が家の畑と比較をしながら読むことができました。

果菜類‥‥44種類
〇栽培している野菜
(イチゴ・インゲン豆・枝豆・エンドウ・オクラ・カボチャ・キュウリ・スイートコーン・ズッキーニ・そら豆・とうがらし・冬瓜・トマト・ナス・なた豆・にがうり・パプリカ・ピーマン)18種類
〇未だの野菜
(シカク豆・シロウリ・スイカ・パパイヤ・ハヤトウリ・フジ豆・糸瓜・メロン・ユウガオ・食用ホウズキ)10種類

葉茎菜類‥‥96種類
〇栽培している野菜
(カリフラワ・キャベツ・小松菜・サニーレタス・サラダ菜・シイタケ・紫蘇・春菊・セロリ・玉ねぎ・ちんげん菜・にら・にんにく・ねぎ・白菜・バシル・ブロッコリー・ほうれん草・ミョウガ・モロヘイヤ・ラッキョウ・ルッコラ・レタス・ナバナ)25種類
〇未だの野菜
(アサツキ・アシタバ・アスパラガス・ウド・カイワレ大根・コールラビ・シャロット・ジュンサイ・セリ・ゼンマイ・筍・タデ・タラノメ・チコリ・ノザワナ・フキ・マッシュルーム・松茸・三つ葉・メキャベツ・モヤシ・リーキ・ワラビ)23種類

根菜類‥‥27種類
〇栽培している野菜
(カブ・ゴボウ・サツマイモ・里芋・ジャガイモ・ショウガ・大根・ビーツ・人参・ヤーコン・山ごぼう・山の芋・ラディッシュ)13種類
〇未だの野菜
(百合根・レンコン・わさび)3種類

こうして集計すると56種類の野菜については栽培していることになります。それでも、36種類の野菜については未だ挑戦できる余地があるということです。まだまだ、楽しむことができることがわかりました。

推薦度(家庭菜園愛好家の方へ)★★★☆☆

 

 生活環境主義で行こう!/嘉田由紀子 読了 2009.1.23(金) (2009-4冊目)

  嘉田由紀子語り/古谷桂信構成 岩波ジュニア新書594 2008.5.29発行 208頁 780円+税
Photo〇はじめに 〇びわ湖との出会い 〇びわ湖の調査を始める 〇生活環境主義の誕生 〇住民自身が地域を調べる 〇人とびわ湖のかかわりを見せる博物館 〇生活環境主義による治水対策 〇びわ湖の恵みを受け継ぐために 〇びわ湖は地球環境の小さな窓 〇あとがき

滋賀県知事である嘉田さんがびわ湖への想いと生活環境主義という考え方を切り開いた実践の歩みを熱く語っている本です。全国の知事の中で、具体的な地域で生活している生身の県民をこれほどまで具体的に名前を上げて語ることのできる知事はいるでしょうか。学生時代以降貫いてきた「フィールドワーク」の姿勢が何度もびわ湖周辺の地域調査に入って生活環境主義という考え方にまで成熟していった調査が今の知事の中に脈々と生きていることが分かりました。

推薦度(滋賀県の方へ)★★★★☆

 

3 字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ 読了 2009.1.16(金)(2009-3冊目)

  
太田直子著 光文社新書292 2007.2.20発行 219頁 700円+税
Photo外国映画の字幕にまつわる話を大変興味深く読むことが出来る本です。全部で25の話に分かれていて大変読みやすい構成になっています。外国映画を観る方法は二つあって字幕付きか吹き替えかですが、あなたはどちら派ですか。私は字幕派です。

字幕はセリフの「要約翻訳」です。喋るスピードと読むスピードとは違いがあるためセリフを縮めて要旨を伝えるのが「字幕」というわけです。一秒の場面に4文字以内が基準だとあります。従って、直訳ではない言葉が必須となります。一文字に賭ける字幕屋の心意気が伝わってきます。

字幕には句読点を使わずスペースや改行で示す、混ぜ書きは読みにくい、禁止用語にまつわる話、行間を読む話、非英語圏の映画の字幕をどう作るかという話など、興味深い話でした。

一本の映画を一週間で字幕原稿をつくるというスピードにはびっくりしました。映画の舞台となる世界は全差万別でその世界特有の専門の言葉があります。浅く広い知識が必要です。それをこなしながら1週間とは何とも短い。大変な職業です。作者にして既に1000本の字幕を担当したとか。

推薦度(映画好きな人へ)★★★☆☆

 

 

2 告白 読了 2009.1.10 (今年2冊目)

  
湊かなえ著 双葉社 2008.8.10発行 268頁 1400円+税
〇聖職者 〇殉教者 〇慈愛者 〇求道者 〇信奉者 〇伝道者Photo

学校の教師が終業式の日「今日で教師を辞める」と語り出します。自分の生い立ちやめざしたものを語ったのち一人娘を「事故」で亡くしたことが引き金になっていると。そして、娘の死は「事故ではなく殺人であり犯人はこのクラスにいる」と衝撃的な発言。クラスは凍りつきます。‥‥。

評判となっている本です。さっそく購入して読了しました。
教師の思いも寄らない「告白」で始まる衝撃的な物語です。語り言葉で淡々と話しているように見えますが内容はとてつもなく重い話。6章に分かれていて、視点が変わっています。教師と中学生の三人と中学生の母親と。人の行為にはいずれもその人なりの訳がありそれが本人にとって正しいこと。それが日々ぶつかっている。視点を変えることでそうした行為の必然性が浮かび上がってきます。
「殺人」をテーマにした展開は目が離せません。一気に読む以外に最後に到達する方法はありません。そして、深いため息をつく事になります。

推薦度(ミステリー好きに)★★★★☆

 

1  トカゲの尻尾 読了 2009.1.1 (今年1冊目)

    
野上照代著 文芸春秋社 2007.12.15発行 255頁 1800円+税
一部 インタビュー さらば、黄金の日々よPhoto
〇焼け野原の青春 〇映画黄金期にすべりこむ 〇忍び寄る不協和音 〇不死鳥は飛ぶ 〇映画『母べい』の原風景 
二部 エッセイ集 落ち葉の掃き寄せ
〇三鷹町下連雀 〇「下戸の酒」 〇井伏先生とスニーカー 〇「赤ひげ」後のクロサワとミフネ 〇「静かな生活」垣間見録 〇たそがれせい清兵衛」の撮影現場を訪ねて 〇「明日へのチケット」のためにキアロスタミの家を訪ねた
野上照代 自筆年譜 あとがき

著者の略歴 1927年生 黒澤プロダクションの元マネージャー 「羅生門」以来、「白痴」以外の全ての作品に関わる 1984年「父へのレクイエム」発表 映画「母べえ」の原作となる

 黒澤映画を製作現場から語ることの出来る数少ない証人の一人が貴重な記録を残した本です。「蜥蜴の尻っぽ」とは、著者によると「この世を去るに当り事実を残すことの何らかの役に立つかもしれない」思いから付けられたタイトルです。

 映画「赤ひげ」までの順調な黒澤映画がハリウッドの「暴走機関車」を途中で降板した当りから苦悩が始まりその後「デルスウラーザ」で復活するまで谷間の期間があったことをこの本で初めて知りました。不死鳥のように甦って「影武者」など晩年には再度大きな足跡を残しています。野上さんはその辺を身近に見ていました。「赤ひげ」後黒澤作品に三船敏郎が出演することはありませんでしたが、その辺の事情についても身近な野上さんが推測しています。
 映画のスクリプターの仕事で映画界に入って日本映画の黄金期・黄昏期を体験してきた証言は大変貴重なものです。
 「母べえ」の原作となった「父へのレクイエム」という作品ですが、「母べえ」の次女が野上さんです。山田洋次監督の映画つくりの特徴が黒澤監督との比較で大変よく分かります。
 貴重な証言集でした。

推薦度(黒澤映画を知りたい人へ)★★★★☆

 

読書歳時記の目次へ    トップへ戻る

トップ家族新聞トピックスデータ高槻市読書映画家庭菜園ソフトボールジョギングコラム日記写真集リンク集