一汁一菜の読書歳時記8  2008年1月〜

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目次  
 読書歳時記1  2000年4月〜2001年3月へ(45冊)
 読書歳時記2  2001年4月〜2002年3月へ(41冊)
 読書歳時記3  2002年4月〜2003年12月へ(13冊)
 読書歳時記4  2004年1月〜2004年12月へ(27冊)
 
読書歳時記5  2005年1月〜2005年12月へ(71冊)
 読書歳時記6  2006年1月〜2006年12月へ(71冊)
 読書歳時記7  2007年1月〜2007年12月へ(52冊)


2008年1月 顔/横山秀夫  □日本に恋するロシア映画  □こちら北国、山の中  □写真集−反テロ戦争の犠牲者たち
         □
私はあきらめない  □今ここが危ない日本の農業  □Q&A自治体アウトソーシングの新段階
         □
北朝鮮は、今  □ラットマン
   
2月  アメリカ下層教育現場  カラスの親指  ヨンエの誓い  □半透明  頭脳勝負  臨場  陰の季節
    3月  □ルポ 貧困大陸アメリカ  孤村のともし火  □生きること 老いること  □私はレンタルお姉さん
       
 □スクリーンの向こう側  チチンプイプイ  将棋界の真相


 

22  将棋界の真相 読了 2008.3.19 (今年22冊目)

    田中寅彦著 河出書房新社 2004.11.20発行 222頁 1500円+税
○将棋指しは普段何をしているのか
○将棋界を10倍楽しむ法
○羽生鉄板時代の秘密
○プロ棋士、愉快な天才たち
○素晴らしいゲーム、日本の将棋
○プロ棋士VS電脳棋士
○将棋界はいずこへ
○「これだけは言っておきたい」

 棋士・田中寅彦氏が将棋界についてまとめて書いた本です。
 私が読んで楽しかったのは「羽生鉄板時代の秘密」。羽生世代と呼ばれる1970年前後生まれ人たちが群雄割拠している現在の将棋界を語っています。

 羽生善治・森内俊之・佐藤康光・丸山忠久・藤井猛・深浦康市・鈴木大介・三浦弘行ら。すごいメンバーです。ほとんどのタイトル戦はこれらの人たちの中で争われています。なぜ、この世代だけが飛びぬけているのか。

 オジサン世代はどこへ行ったのか(青野照市・島朗・高橋道雄・田中寅彦)。唯一の例外は谷川浩司。ポスト羽生世代としては、渡辺明くらいまで若返る必要があると。

 この辺の人物考察は楽しい。

推薦度★★☆☆☆

 

21  チチンプイプイ 読了 2008.3.15 (今年21冊目)

    宮部みゆき・室井滋 著 文芸春秋社 2000.4.20発行 296頁 1190円+税
 〇ひらけ〜ゴマ! 〇ツルカメツルカメ 〇くわばらくわばら 〇ビビディバビディブー
 〇カゴメカゴメ 〇だるまさんがころんだ 〇アブラカタブラ 〇ずいずいずっころばし

 作家の宮部みゆきさんと女優・歌手の室井滋さんの対談集です。雑誌「オール読物」などに掲載されたものが一冊の本になりました。飾らない会話の中から、お二人の性格や趣向、暮らし向きなどが伝わってきて一気に読むことができます。

 宮部さんは東京・深川の生まれ、育ちでそこから川を渡って西の都心へ出ることさえ嫌う、根っからの下町びいきです。板金屋やクリーニング屋やが住む近くにあることが普通で住む家ばかり並んでいると違和感を覚えるとのこと。旅も嫌いで2泊が限度。家が好きにできて一番いい。

 それなら、宮部ミステリーはどこから生まれるのか。生活のちょっとしたこと、小耳にはさんだこと、見たことがヒントになっているといいます。作家をドキュメンタリー型と妄想型に分類すると、妄想型に属するとのこと。従って、ちょっとしたことがヒントとなって頭の中で次々世界が広がっていって物語が出来上がってしまうらしい。取材が余りいらないタイプ。深川を余り出なくてもよいタイプ。と自分を分析しています。面白い話です。

推薦度★★★☆☆

 

20  スクリーンの向こう側/戸田奈津子 読了 2008.3.13 (今年20冊目)

    戸田奈津子著 WOWOW 2006.4.12発行 191頁 1500円+税
 〇男とおんな 〇闘う男たち 〇人生いろいろ 〇アメリカの影
 〇監督たちの業 〇笑いもいろいろ

 雑誌BSfanに2000年より連載されたものが一冊の本になりました。アメリカ映画の字幕翻訳の第一人者である戸田奈津子さんが映画やその字幕翻訳や俳優や監督の思い出などについて綴ったエッセー集です。

 紹介されている映画は全部で37本。それが映画の内容にあわせて目次のように分類されています。
 
 例えば、「男とおんな」の項目では、恋におちたシェークスピア/恋に落ちて/イングリッシュ・ペイジェント/ジョーブラックをよろしく/ローズ家の戦争 というふうに。

 そして、紹介の最後の部分では、翻訳で印象に残ったセリフが上げられています。
 例えば、「僕は本当にくだらない男で、取るに足らない人生だった。でも美しい人生だった」(ケビン・スペーシーの言葉 アメリカン・ビューティより)

 「もしこの手紙が届いたら覚えててください。愛しています。私は生きてます」(ゴールドバーグが妹の手紙を読む−カラーパープルより)

 余興。では次のセリフが出てくる映画の題名を当ててください。

〇「そう、生かしておいて私自身への戒めにするの。『危険は常に身近にある』と」
〇「アメリカのロケットもロシアのロケットも、部品は全部台湾製だ」
〇「おれだって生きたい。家族を持ち静かに生きたい。神にもそれを願った。だが、自由がなきゃ無だ」
〇「じゃあ、やっぱりここは天国かもしれないな」
〇「そしてかれは生まれて初めて旅立った。『夢の生まれる所』へ」
〇「子どもが私のすべて。愛する子どもたちに会うなと言われる事は、息をしないで生きてゆけと命令されるのと同じです」

 候補の映画の題名一覧。

〇「ブレイブ・ハート」
〇「アルマゲドン」
〇「ミセス・ダウト」
〇「A・I」
〇「エリザベス」
〇「フィールドオブドリームズ」

 こうして遊ぶのも楽しいものです。(解答は次書く本の感想の中に書きます)

推薦度★★★☆☆

 

19  わたしはレンタルお姉さん 読了 2008.3.10 (今年19冊目)

    川上佳美著 二見書房 2007.2.5発行 189頁 1200円+税
〇私が出会ったニートの素顔 〇ニートとその親たち 〇人を癒すことのできる仕事 〇楽な気持ちで生きようよ

 ちょっとドキっとするタイトルの本ですが、ニート問題に取り組んでいる「NPO法人ニュースタート事務局」に参加している著者の活動記です。高級ラウンジのホステスからの転身という職歴を持っています。現在の活動の拠点は神戸とのこと。

 ニートの家族の依頼を受けて、ニートの話し相手になったり外へ出かけるきっかけをつくったり寮生活に誘ったりする仕事です。

 彼女に寄るとニートの人たちは、純粋で潔癖症で一人完結している人が多いといいます。家族とも口を利かなくなった歴10年とか、相当な事例も出てきます。もっと気楽に生きようよ、と働きかけるのが役目。大変な仕事です。

推薦度★★☆☆☆

 

18  生きること 老いること 読了 2008.3.8(土) (今年18冊目)

    吉行あぐり・新藤兼人対談集 朝日新聞社 2003.3.30発行 127頁 1000円+税
〇老いのある暮らし
〇人生、それぞれに
〇日々を支えるもの
〇やがて来る日のこと

 対談集。
 吉行あぐりさんは1907年生まれ。対談時(2002年)に95歳。15歳で作家吉行ケイスケと結婚。美容院を開設。今でも続けている。淳之介・理恵(芥川賞作家)、和子(女優)の3人の子ども。自伝がテレビ小説『あぐり』の原作となる。
 新藤兼人さんは1912年生まれで90歳。シナリオライター・映画監督。これまで47本の映画を世に送り出している。最新作は『ふくろう』。

 95歳と90歳の対談集。それだけでもすごい。歩んできた道を淡々と語る話は内容があります。現在も現役で、努力されている姿には頭が下がる思いです。新藤兼人さんに「未だお若い」といえる人は吉行あぐりさん位しかいないでしょう。一気に読みました。

推薦度★★★☆☆

 

17  孤村のともし火 読了 2008.3.7(金) (今年17冊目)

    海野金一郎著 桂書房 2006.4.29発行 166頁 1260円
○孤村のともし火(s55年 「飛騨の夜明け」所収)
○山之村診療記(s17年「ひだびと」所収)
○杣が池物語(s18年「ひだびと」所収)
○飛騨の民間療法(同上)
○熊の「い」の話(同上)
○付「飛騨のあちこち」

著者の略歴
1903年仙台近郊の農村生まれ 1927年東北帝国大学卒 1939年〜飛騨医療利用組合連合会 久美愛病院外科 1945年〜仙台へ

 本書は「海野金一郎氏のご子息の許しを得て編集した」とあります。著者が医師として活躍していた昭和10年代に遠く飛騨の辺境の地を訪ねた折の紀行記と沢山の写真が納められています。紀行文は大変誠実・丁寧に当時の状況が綴られていて、目の前に昭和17年当時の飛騨の状況が広がってくるようです。大変興味深く読むことができました。

 岐阜県白川村に加須賀地区という所があって、そこに昭和17年当時数世帯が暮らしていました。その集落に行く道は開けておらず、川沿いや山頂やの獣道みちみたいな所を難儀して進んで到達します。著者は医師として昭和16年と17年にその集落を訪れています。その時の様子を綴ったのが「孤村のともし火」です。合掌造りの家が普通に存在していてそこに生活がありました。山仕事に出かける90歳の老人の写真など写真撮影もされています。この集落の住民は昭和50年代に全員村を出たとあります。大変貴重な記録だと思いました。

 印象深かったエピソードとしては、4歳の子どもさんが病気でなくなった時「無医村」であるため「死亡診断書」が出ません。埋葬許可がでません。冬の集落は孤立していて、子どもを背負って医者のところへ行って書いてもらうことも、医者に来てもらうことも出来ません。結局、春が訪れるまで、川の川原に仮安置する以外にありませんでした。両親はそのことですっかり消耗したとのことです。本当に切ない話でした。

推薦度★★★☆☆

 

16  ルポ・貧困大国アメリカ 読了 2008.3.5 (今年16冊目)
 
    堤 未果著 岩波新書 1112 2008.1.22発行 207頁 700円+税
○プロローグ ○貧困が生み出す肥満国民 ○民営化による国内難民と自由化による経済難民 ○一度の病気で貧困層に転落する人々 ○出口をふさがれる若者たち ○世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」 ○エピローグ

(読書感想をコラムにまとめました)

 読み進むうちに強烈な印象を残す本に出会いました。『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書)です。

 ジャーナリストである著者が現地アメリカの肉声を通して深化する二極化現象の現状を報告しています。キイワードは国家の「民営化」。大変説得力があります。

 ハリケーン・カトリーナによって千名以上の死者を出し、生き残った市民の半数が帰還できていない現状は自然災害ではなく人災だと告発しています。

 それは連邦緊急事態管理庁が予算削減と業務民営化により非常時に機能しなかったことによるといいます。復興予算も民間委託され復興は全く進んでいません。

 さらにサブプライムローンは、アフリカ系やヒスパニック系などの経済的弱者を食いものにした貧困ビジネスのひとつといいます。

 甘い言葉で購入した家のローンの高金利が払えず家を差し押さえられ追い出された彼らに残ったのは膨大な借金と二度と這い上がれないだろうという絶望でした。

 患者は世界一高額な医療費を払い医師は過重労働の連続で民間保険会社だけが肥え太る医療の実態や、若者を軍隊に追いやる高額な教育費、はてはイラク戦争自体が民営化されている実態なども明らかにしています。

 日本でも進んでいる市場主義への警鐘の一冊です。

推薦度 ★★★★☆

 

15  陰の季節/横山秀夫 読了 2008.2.28 (今年15冊目)

    横山秀夫著 文春文庫 2001.10.10発行 247頁 448円+税

 ○ 陰の季節
 ○ 地の声
 ○ 黒い線
 ○ 鞄

 ミステリー作家・横山秀夫氏の短編集です。4編が収録されています。
 『陰の季節』は松本清張賞を受賞したとあります。警察を退職後天下りしたポストは順に譲ることで成り立っているのですが、ある時、時期が来ても辞任しないという元幹部が現れて、ポストを準備する人事部が右往左往する話。組織と個人とポストと官僚機構の腹の探りあいです。

 『地の声』は県警の生活安全課長に対する匿名のタレこみを捜査する過程で出てくる警察内部のどろどろした人事をめぐる駆け引きを追っています。

 『黒い線』は似顔絵を描くのが上手い鑑識課の女性警察官が犯人逮捕のお手柄のあと失踪してその真相を追っています。瑞穂警察管は、その後『顔』の連作ものの元になった話のようです。

 『鞄』は県警の議会対策を担当する警官が爆弾質問すると情報が入り内容を探るためにあの手この手を使う話です。

 4話とも警察探偵小説とはいえ警察の内部をえぐる話ばかりです。その点が全く新たしい分野かも。官僚組織の内部に組みする個人が猜疑心の塊ばかりの人で構成されていて面白い。

推薦度★★★☆☆

 

14  臨場/横山秀夫 読了 2008.2.21(木) (今年14冊目)

    横山秀夫著 光文社 2004.4.20発行 320頁 1700円+税

 横山秀夫さんの短編集。収録されているのは、
 〇 赤い名刺
 〇 眼前の密室
 〇 鉢植えの女
 〇 銭
 〇 声
 〇 真夜中の調書
 〇 黒星
 〇 17年前
の8本の短編です。
 いずれも『小説宝石』に掲載されたものが一冊になりました。

 場面設定が各々違う形で、どの短編にも検死官倉石が登場します。事件が起こって自殺なのか他殺なのかを検分する検死官・倉石の明晰な分析力と強烈な個性が物語を引っ張って最後には一挙に解決まで駆け上ります。同僚の視点で、部下の視点で、女性警官の視点で、犯罪者の視点で、いろいろな角度から物語が展開します。そのポイントとなる所には必ず倉石が顔を出します。

 横山さんの小説は疑うことから全てが始まっています。組織と個人の軋轢が必ずといって良いほど登場します。個人が組織の中にあって常に相手の出方を読み裏を読み相手を疑って自分の行動を決めていくという作業を繰り返しています。その辺が重いと思う人と面白いと思う人に分かれるのかも知れません。私は面白いと思います。ただし、。別の作家を回ってきて彼を読んでまた別の作家に回っていくという、螺旋状のような読み方がいいのかも知れません。

推薦度★★★☆☆

 

13  頭脳勝負−将棋の世界− 読了 2008.2.15(金) (今年13冊目)

    渡辺明著 ちくま新書688 2007.11.10発行 222頁 700円+税


○はじめに ○頭脳だけでは勝てない ○プロとは何か ○将棋というゲーム ○激闘! 付録ルール解説/さらに将棋を楽しむために/詰め将棋

 1984年生まれ、24歳の将棋棋士・渡辺明さんが著した、将棋世界の魅力について説明した将棋の入門書です。将棋上達のノウハウ書ではありませんが、プロ棋士が盤上で闘っているときの心境や集中力の持ち方、作戦、日頃の研究などとともに、これまで余り触れられることのなかったプロ棋士の世界がどういう資金で成り立っているか、給与は幾ら位か、プロとアマの実力差、コンピューターソフトとの実力差などにも触れています。

 渡辺さんは『渡辺明ブログ』を作成してほぼ毎日更新していて、平均アクセス数が15,000回/日だそうです。凄いと思います(私のこのブログで平均1,000回/日です)。コンピューターソフトと初めて正式対戦した時は一日で50万回のアクセスがあったとか。
 
 初心者用に付録が付いていて、駒の進み方などのルールを解説しています。

 大変平易な言葉で将棋の魅力を知ってもらおうと一生懸命語っている所に好感がもてます。

推薦度 ★★★☆☆
 

 

12 半透明/徳永英明 読了 2008.2.7(木) (今年12冊目)

  佐伯 明著 幻冬舎 2006.3.27発行 131頁 1429円+税
○プロローグ ○第1章〜第5章 ○エピローグ ○あとがき

著者の略歴 1960年国立市生 音楽文化ライター
徳永英明氏の略歴 1961年柳川市生 シンガーソングライター


 シンガーソングライター徳永英明さんへのインタビュー集。とはいえインタビューを通じて徳永さんの半生を、著者の感性で再生するという特徴をもっています。
 タイトル「半透明」とは、徳永さんが『ボーカリスト』を出した時、女性シンガーに歌われた曲ばかりを選曲したことで、軸足が女性にあった曲のオリジナリティの性(さが)を半透明化するという偉業をなし得たと佐伯氏が評価したところに由来しているといいます。
 『ボーカリスト』(2005年)以降の徳永英明しか知らない私にとっては、1986年1月にファーストアルバムを出し、20年来のシンガーであることを初めて知りました。お父さんの転勤で中学校の時、伊丹市に転校し「田舎者」とのイジメに遭っています。「もやもや病」という難病で音楽活動を中止することを余儀なくされたこともあった。

 彼の平坦でない半生の蓄積があって今の彼と彼の歌声を生んでいることがよく分かってきます。
 歌手の中に友達がいるとしたら「尾崎豊」かな、という言葉が大変印象的でした。

推薦度★★☆☆☆

 

 
11  ヨンエの誓い 読了  2008.2.6(水) (今年11冊目)

  イ・ヨンエ著 NHK出版協会 2006.9.30発行 221頁 1500円+税
 
〇プロローグ 〇チャングムという旋風 〇酸素のように 〇波乱の宮廷料理人編 〇すばらしき共演者たち(宮廷調理人編) 〇怒涛の医女編 〇すばらしき共演者たち(医女編) 〇アジアに吹いた熱風 〇イ・ヨンエの誓い 〇あとがき

 女優イ・ヨンエさんがNHKのインタビューに答えたものが本になりました。NHKの「スタジオパークからこんにちは」に出演したことが縁で、本書が生まれたとのこと。300項目を越える質問に答える形でインタビューを受けたとあります。

 前に、『とても大切な愛』というエッセー集を読みましたので、今回が2冊目となります。

 今、NHKBSで『チャングムの誓い−完全版−』が放送されていて、52作まで放送されました。あと2回の放送で完結です。毎週一回見ていましたので、ちょうど一年かかって見終わることになります。

 その『大長吟』(日本では「チャングムの誓い」)が撮影された時のエピソードや共演者の印象、韓国での撮影風景、イ・ヨンエさんの思い入れ、時々思ったこと、などが素直な言葉で綴られています。1971年生まれの37歳ということになりますが、読んでいくと容姿・心意気とも韓国きっての大女優であることが納得できます。

 韓国で『大長吟』が放送されたのは週2回のペースだったとのこと。70分のドラマを週に2本撮影するというその撮影スケジュールはどう考えても相当ハードであったことが予想できます。

 インタビュー時の写真がふんだんに挿入されていて、一気に読めます。

推薦度★★★☆☆

 

11  カラスの親指 読了 2008.7.30( 水)(今年38冊目)
    

    道尾秀介著 講談社 2008.7.22発行 424頁 1700円+税
20080731hon1 武沢は自らの借金から一時取立て屋をしていた過去を持っています。入川鉄巳は鍵の修繕で武沢と出会います。二人は過去から逃げながら今は詐欺で食べている身の上。同業のよしみで一緒に暮らすことになりました。そんな時、一人の少女のスリ現場に出くわして助けることになり、彼女もアパートに転がり込んできます。奇妙な三人の同居生活が始まります。そこにも武沢の過去が迫ってきて‥‥。

 道尾秀介さんの最新作です。小説現代特別増刊号「メフィスト」に2007.9〜2008.4まで連載されたものとあります。今回初めて読みました。
 詐欺師の「家族」の物語。「家族」と言っても他人同士ですが、生業が同じ詐欺師という共通項があることで寄り集まっています。奇妙な集団です。武沢(タケ)と入川鉄巳(テツ)の中年二人組の掛け合いで話は進んでいきます。タケは多重債務の過去を持っています。それが生活に尾を引いています。一人の少女と出会います。その少女とタケの過去が一点で交わって‥‥。
 話の進行には伏線があって、出会いの必然性が次々と解き明かされていく部分は「え!」といいながら読むことができて、大変楽しい。道尾流の挨拶に応えられますか。
 こんな映画があってもいいな、と思いました。

推薦度★★★★☆

 

10  アメリカ下層教育現場 読了 2008.2.1(金)(今年10冊目)

    林壮一著 光文社新書332 2008.1.20発行 259頁 740円+税

著者の略歴 1969年生 東京経済大学卒 ジュニアライト級プロテスト合格 週刊誌記者を経て現在ノンフィクション・ライター。著書「マイノリティの拳」(新潮社)他

○プロローグ ○体当たり ○壁 ○チャレンジ ○ユース・メンタリング ○突然の別れ

 アメリカ・ネバタ州、リノ市(人口38万人の州第3の都市)にある「レインシャドウ・コミュニティ・ハイスクール」という高校で臨時講師で雇われた著者が「日本文化」という科目の講義を一日2コマ受け持った体験を綴った本です。ノンフィクション作家らしく、自らの行動の範囲内で見た聞いた感じたことをストレートに綴ってあります。講義は2ヶ月余の短いものでしたが、アメリカ下層社会に生きる若者たちの実情をよく映していて、読んでいくうちにアメリカ学歴社会・人種社会のありようが良く分かってきます。映画「フリーダム・ライターズ」とダブル部分が少なからずある気がしました。そのあと、1対1でサポートにあたる「ビッグ・ブラザース」制度というボランティア制度で一人の小学生をサポートする体験談も綴られています。

 全体を通して浮かび上がるのはアメリカの人種社会・学歴社会です。高校卒業単位を得ることがその後の就職にいかに大切かということ。今はアルバイト的に働けても学歴や資格のないものは結局そのままで一生を終えなければならないという現実。彼が受け持ったのは州でも最も低学力の子ども達を集めたハイスクールとのこと。1年生の19名を受け持ちながらその後復学して頑張っている子はいるものの4年制高校を卒業したのは1名だったと言う事実がなんとも過酷な現実です。

推薦度★★★☆☆

 

9  ラットマン/道尾秀介 読了 2008.1.29(火) (今年9冊目)

   道尾秀介著 光文社 2008.1.25発行 290頁 1600円+税

 姫川亮は30歳。学生時代の仲間3人と一緒にアマチュアロックバンドを組みギターを担当して14年になる。ドラムを担当していたひかりが途中で妹の桂に変わった以外はずっと続いている。ブースを借りて練習している。ひかりはそのブースを手伝っている。亮の姉と父はすでに他界して母とも疎遠となり亮は一人。ひかりと付き合っている。営業が思わしくなくやがて閉めるというそのブースでひかりの身に「事故」が起きる。亮の中では、姉が亡くなった23年前の「事故」とシンクロするのだった‥‥。


 「ようこそ。ここが、青春の終わりだ。」本のカバーのタイトルコピーです。言い得ています。亮と仲間たちの青春とそれからの別れ。

 ‥‥何を願い、どんな代償を支払えば、人は過ちを犯さずに生きていけるのか。いったい何を祈れば立ち止まれるのか。過ちと正しさが、そっくり同じ顔をしているのであれば、誰がそれを見分けられるというのだ。‥‥。

 この作品に込められた著者からのメッセージです。この道尾ワールドを十二分に味わいください。ミステリーとしての面白さとともに小説としての完成度も高くじっくり味わいながら読むことができました。ミステリ大賞を受賞した「シャドウ」に匹敵する意欲作だと思いました。

推薦度★★★★☆

 

8  北朝鮮は、いま 読了 2008.1.29(火) (今年8冊目)

   北朝鮮研究学会編 岩波新書1107 2007.12.20発行 226頁 740円+税

目次 ○日本の読者の皆さんへ ○北朝鮮の実像を知るために ○政治・外交編 ○経済編 ○社会・文化編 

 日本ではほとんど知られていない北朝鮮の実像に迫ろうという本です。アメリカが「悪の枢軸」と規定して、日本には「拉致」問題やテポドン問題があって政治と外交の話ばかりが先行しています。いい印象は全くといっていいほどありません。

 昭和30年代の映画「キューポラのある街」に北朝鮮へ帰国する家族の話が出てきます。「パッチギ!」にも1970年代に北朝鮮へ帰国する話が出てきます。その後の情報が全くない中で、あの頃帰国した人たちは今どんな暮らしをしているのか、と心配になります。
 本書は北朝鮮の実像に迫ろうという意欲的な本です。政治や外交ばかりでなく経済や社会・文化にも及んでいます。

 1996年設立の韓国の学会が編集者でその道の第一人者が著述しているといいます。
 政治・外交では
パワーエリート・主体思想・先軍政治・後継者・核開発・政治体制・外交

 経済では
経済改革・経済特区・配給制・貿易拡大・経済管理システム・中国依存・朝日関係・改革開放・貿易構造

 社会・文化では
文学・都市化・医療・犯罪・価値意識・テレビ・映画・新世代・女性・映画


 各テーマについて各々執筆者がいます。どれも知りたいテーマばかりです。ただし、韓国とはいえ情報がドンドンと入手できる状況ではありません。少ない情報から分析しています。

 興味があったのは社会・文化の所です。テレビの普及率が11.5人に一台で、放送は午後5時から10時30分まで。映画は年間40本位公開されている。国境付近では携帯電話の使用が禁止されている。女性は家父長制の支配が強く母・妻・嫁として従順なスーパーウーマンが期待されているが食糧難以降生計の主な担い手として経済の主体として職業を持ってきている。等々。興味は尽きません。

推薦度★★★☆☆

 

7  Q&A自治体アウトソーシングの新段階 読了 2008.1.26 (今年7冊目)

   同研究会編 自治体研究社 2007.1.30発行 192頁 1909円+税

目次 ○自治体はねらわれている ○市場化テスト ○指定管理者制度 ○PFI ○地方独立行政法人 ○公営企業法全部適用・構造改革特区・任期付公務員制度・労働者派遣・有償ボランティア ○個別分野でのアウトソーシング

 自治体の行政サービスをアウトソーシング(外部的民間化)するための法的ツール(道具)について、その仕組みと問題点をQ&A方式で綴った本です
 2005年5月に「市場化テスト法」が成立してアウトソーシングは新たな段階に入ったという認識のもとで、こうした手法をもちいることで地方自治体の様相を劇的に変化させつつあるがそれは住民に幸せをもたらすのか、という問題意識をもって、各々のツールの具体的内容を解説、問題点を指摘しています。

 総論のところでは、
 アウトソーシングを進める考え方は、自治体の住民を主権者とみるのではなく顧客・消費者とみて、人件費はコストと把握してコストを削減して価格に見合った品質のサービスの提供をめざすという考え方(ニューパブリックマネジメント)が理論的支柱となっています。
 ツール全体としては、いままで公務員によって担われてきた領域を民間の不安定雇用労働者に代替することを意味し、自治体リストラと雇用の劣化によって、行政自らが雇用流動化の尖兵となっていることを批判しています。また、公共施設が営利追求の手段となることで住民は専ら利用者の位置になり(サービスを購入できる資力が必要で主権者ではない)成果が住民に還元されるわけではありません。これらは自治体の財政危機につけ込む形で進行しており、一度自治体が管理運営のノウハウを失うと回復は容易なことではないことを警鐘しています。

 各々の法的ツールについての解説は省略しますが、大変丁寧に解説されていて、課題に当面している職員や住民にとっては必読の書といえると思います。

推薦度★★★☆☆

 

6  今、ここがあぶない日本の農業  読了 2008.1.19(土) (今年6冊目)

   白石雅也(愛媛大学農学部教授)著 筑波書房ブックレット 2006.3.30発行 64頁 750円+税
 愛媛新聞の文化欄に掲載されたものがベースになっているとのこと。28本の文章からなっています。テーマは食材の変遷・地域特産物・農村の変化・農業再生の可能性など。

  印象に残ったのは、@ビニールハウスと暖房機と電球 A冷蔵・氷温保存の発達 B外国からの輸入 などの手段で食材が確保されるようになった結果、旬の味がなくなってきたこと。

 日本の自給率カロリーベースで40%は、@世界人口の伸び(61億→83億)A耕作地の砂漠化 A新規耕作地の枯渇 B干ばつ・寒害 C生産国の偏り(米・豪・加・仏・アルゼンチン)などの理由で日本が掲げる45%目標は画餅に近いこと。

 一文づつほぼ独立していますので、気楽に読めました。

 輸入野菜の所は丁寧に読みました。趣味が家庭菜園ですので食の安全は第一条件です。玉ねぎ/レタス/グリーンアスパラ(米)、キャベツ/人参/ にんにく/牛蒡/蓮根/生姜/ブロッコリー(中国・台湾)、南瓜(ニュージーランド)が主な輸入先とのこと。とにかく、要注意です。生産地と生産者の開示が最も大切です。

推薦度★★☆☆☆。

 

5  わたしはあきらめない/中村玉緒 読了 2008.1.18(金) (今年5冊目)

   中村玉緒著 KTC中央出版 2003.8.14発行 95頁 1400円+税
もくじ 〇コミカル 〇大菩薩峠 〇勝新太郎 〇無念 〇女優

 中村玉緒と長島一茂・竹内陶子(NHKアナウンサー)の対談集です。中村玉緒さんの半生を追いながら、その時々の話題を語ってもらう企画で進んでいます。

 中村玉緒さんは、お父さんが歌舞伎の中村雁次郎、中村扇雀は兄、長谷川一夫は叔父さんで、市川雷蔵さんは幼馴染み、といいます。そして、勝新太郎と20歳で結婚。大映三羽ガラスと繋がるすごい人脈です。女優・中村玉緒としては映画『大菩薩峠』でブルーリボン賞助演女優賞を獲得したとのこと。勲章です。

 結婚後は女優を辞めて主婦業に。「勝プロダクション」を立ち上げ映画にのめりこむ勝新太郎を支えてきました。しかし、プロダクションは倒産の憂き目に。「モハメド・アリ」のドキュメンタリーを撮影したのがきっかけらしい。

 その後、明石家さんまさんとのやりとりの妙からバラエティに進出して役者に復帰。NHK「すずらん」に出演したりして女優としての今の中村玉緒さんがあります。その間に、ガンで勝新太郎さんは亡くなりました。

 気さくな会話でドンドン話は進んでいきます。写真も沢山取り入れてあって一気に読めます。

推薦度★★☆☆☆

 

4  写真集−反テロ戦争の犠牲者たち 読了 2008.1.15 (今年4冊目)

   広河隆一著 岩波書店 2003.7.4発行 78頁 1700円+税

著者の略歴 1943年生 67年イスラエルに渡る 70年帰国。フォトジャーナリスト。ベイルート虐殺事件でよみうり写真大賞 チェルノブイリとスリーマイル島原発事故で講談社出版文化賞など。

目次 1 アフガニスタン 2 レバノンの戦場 3 パレスチナ 〇あとがき

 フォトジャーナリスト・広河隆一氏が撮影した現地写真集です。9.11後アメリカが仕掛けたアフガニスタンへの攻撃、イスラエル軍の侵攻によって破壊されたレバノンの首都ベイルートの街、イスラエル軍とパレスチナ の3つの国を取材しています。いすれも著者自らが命懸けで取材してきたことが後半の解説文を読めばわかります。

 写真集の表紙の写真は、ベイルートに侵攻して動くもの全てに反応して照準を合わせるイスラエル兵士です。

 廃墟と化した街、難民キャンプで未来の無い生活を送る住民など、写真が語る真実は重く読者を捕らえます。

推薦度★★★☆☆

 

3 こちら北国、山の中(農家の嫁の事件簿) 読了 2008.1.11(金) (今年3冊目)

  三上亜希子著 小学館 2006.7.20発行 159頁 1200円+税

著者の略歴 1973年埼玉県生まれ 筑波大学大学院環境科学研究科修了 99年岩手県岩泉町に移住 同町釜津田の農家に嫁ぐ 3世代6人暮らし

○はじめに ○我が家周辺 ○春の章 ○夏の章 ○秋の章 ○冬の章 全編イラスト付き

 略歴にあるとおり、埼玉県のサラリーマンの娘さんが大学の研究で訪れた岩泉町が気に入って卒業後移り住み、農家に嫁いで、家業である牛の飼育・わさびの栽培などの農業とともに暮らす歳時記です。大変興味深く読みました。

 盛岡から北東方面へ車で1.5時間の山の中にあります。山の幸がやはり凄い。天然シメジが収穫できています(我が家では50年前の小学校低学年の時に山で収穫した覚えがあります。今は全くありません)。マイタケは収穫経験なしです。丘わさびの栽培に興味が惹かれました。二年弱で、直径4cm、長さ20cmのわさびが収穫できるのは凄いことです。真似したいと真剣に思いましたが、水分があって日陰である適当な畑がなくて、残念です。

 平易でウイットの利いた文章と愉快な図解イラストで「田舎の暮らし」が非常に良く分かるように紹介されています。お勧め本です。

推薦度★★★☆☆ 

 

2 日本に恋するロシア映画 読了 2008.1.10(木) (今年2冊目)

  杉浦かおり著 ユーラシアブックレット101 2007.2.20発行 64頁 600円+税

 ロシアの3人の映画監督を紹介している本です。ソクーロフ(1951年生)ズギャギンツェフ(1964年生)ロゴシュキン(1949年生)の3人です。知らない映画監督です。

 昨年日本で公開された『太陽』は昭和天皇を主人公にした映画として話題となりました。ロシアのソクーロク監督がなぜ日本の昭和天皇の映画を撮ったのか。封切時に疑問でした。この本によると、昭和天皇が1945年、戦争の拡大を止めるべく「ポツダム宣言」を受託する勇気を持ったからこそ、ソクーロフのお父さんは戦死することなく帰還し彼が生まれたということ。その視点で描かれているということです。ヒトラーを描いた「モレク神」レーニンを描いた「牡牛座−レーニンの肖像」と並ぶ三部作に並ぶ1作とのこと。
 
 ズギャギンツェフは、「父、帰る」という映画で鮮烈なデビューを果たした新鋭の監督と紹介されています。余分な解説を排した圧倒的な自然美で、日常の一部分、銀幕の前を通り過ぎる物語として描いていると解説されています。カットの積み重ねのイメージとしては「HANA−BI」に似ているとのこと。

 ロゴシュキンの「ククーシュカ」(2002年)という映画が紹介されています。サーミの女性とフィンランド人とロシア人の不思議な物語。互いに言葉が分からず、行き違いを重ねながら救ってくれた女性に共感を覚えていく物語。「トンマッコルへようこそ」(2005年)と似たイメージです。

 黒澤明や小津安二郎などの日本映画の影響を受けている監督が多くいて、俳句の世界や石庭の世界、武士道に造詣があると聞くと身近に感じられるから不思議です。

推薦度★★★☆☆

 

1 顔/横山秀夫 読了 2008.10.11(金) (今年1冊目)

  横山秀夫著 徳間書店 2002.10.31発行 285頁 1600円+税

 同一の主人公による短編集。収録されているのは
 ○ 魔女狩り
 ○ 決別の春
 ○ 疑惑のデッサン
 ○ 共犯者
 ○ 心の銃口

 の5編です。

 主人公は、平野瑞穂。女警察官。最初は鑑識課に配属。被害者などの情報を元に似顔絵を作成する専門官だった。写真を見ての似顔絵を強制されて休職。今は広報に配属されている。その広報課に居ながら遭遇する事件の謎を追う物語です。

 警察ものを得意とする横山氏。女であることで警察の中で差別されていること、組織防衛のための汚い手口など、組織と個人、組織と女などの視点で相手の心のうちを容赦なく読み込んで、不信感を募らせていく物語です。人を疑うことで成り立っている世界。面白く読みました。

推薦度★★★☆☆

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