一汁一菜の読書歳時記7  2007年1月〜

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インデックス

2007年1月
映画をたずねて  日本共産党  □先を読む頭脳  □生きざま死にざま三国連太郎  □映画学


 

5   映画学−活動写真に魅せられ51年−     2007.1.21   推薦度★★☆☆☆
 
  
 奥田均著 学術図書出版社 2006.5.20発行 148頁 1700円+税

   著者の略歴 新聞記者・映画評論家を経て、現在、関西外国語大学短期大学部講師。

   ○小津安二郎(芸術のことは自分に従う) ○わが心に残る時代劇を俳優・監督たち
   ○大阪とキャンバスのある枚方、映画の降るさと・京阪神三都物語
   ○キネマ旬報ベストテンでみる映像の世紀 ○私の指定席−映画評論家の見た映画人列伝
   ○枚方市と映画、田中絹代と鍵屋
  
 映画にまつわる評論・エッセー集です。51年とあるので、70歳台の人が半世紀を振り返って映画を語っているのか、と思いきや、著者は現在51歳のようです。同世代より少し下の世代。「活動写真」と書いて「エイガ」と読ませているのも、誤解をした遠因です。

 第5章に綴られた映画エッセイ27本は、「全大阪映画サークル協議会機関紙」に載せた記事とのこと。懐かしい機関紙です。
 確かB4版2枚4ページの機関紙でした。確か1970年頃から1985年頃まで職場の映画サークルを通じて購入、毎月読んでいました。年末になると、その年に封切りされた映画一覧表と観た映画・ベストテンを選ぶ表が送られてきて、今年は映画を何本鑑賞できたか、どの映画が印象に残ったか、確認していた覚えがあります。

 関西外国語大学は枚方市にキャンバスがあるところから、枚方にまつわる映画の話題で、講演記録が載っています。身近な話題で、興味深く読みました。
 
 
4   生きざま死にざま 三国連太郎 2007.1.19   推薦度★★☆☆☆
    
    三国連太郎著 KKロングセラーズ H18.4.1発行 223頁 1400円+税

    ○プロローグ ○虚偽のプロフィール ○迷いに迷って今 ○被差別 ○放浪・戦争体験
    ○虚・実のはざまで ○被差別民が創造してきた芸能 ○旅、そして再生
    ○そして仏に至る道を歩む ○女性というもの ○家という概念 ○死ぬまで求道したい
 

 「スーさん」の半生記(半世紀)自叙伝です。

 戦後まもなく銀座でスカウトされて映画デヴューしたときに「大阪大学工学部卒業、水泳と柔道が得意」というニセのプロフィールが発表されたことが、随分と本人を苦しめていたようです。実は、中学中退であることを、朝日ジャーナル編集長との対談で明らかにして、新たな「三国連太郎」の出発になった、と書かれています。

 家を飛び出して放浪し、中国・韓国等に渡って、従軍もして、敗戦を迎え、食うために何でもした戦後の生活の中で、たまたま歩いていた銀座でスカウトされての映画出演だった、としても「ウソ」は本人をずっと苦しめていたようです。

 親鸞の教えに傾倒していて、研究も深く、求道の話、親鸞の説く現世と浄土の話が沢山出てきます。

 映画監督としては『白い道−親鸞』という作品があります。

 生い立ちの所は非常に興味深く読みました。仏教の話はちょっとわからない感じでしたが、映画や役に対する考えは「はっきりものを言う」態度を取っている、とよく分かりました。

 1923年生まれの83歳。いつまでも「スーさん」で頑張って欲しいと思います。 
 
 
3   先を読む頭脳     2007.1.17   推薦度★★★☆☆
 
  
 羽生善冶・伊藤毅志・松原仁著 新潮社 2006.8.25発行 217頁 1300円+税

   ○はじめに ○「先を読む頭脳」を育む ○効果の上がる勉強法 ○先を読むための思考法
   ○勝利を導く発想 ○ゲームとしての将棋とコンピューター ○あとがき

 
 
 大変刺激的な本です。先に羽生さんが各々のテーマについて内的心情も含めて語っています。棋士が自分を客観的に分析して語るということは余りしない中で、羽生さんは気持ちよく心の動きまで含めて自分を客観的に観察して報告してくれています。それだけでも非常に貴重な発言だと思います。棋士がこれだけ率直に、対戦の心構えや日頃の準備、休みの過ごし方、対戦に臨む気持ちの持ち方、戦法の研究、などについて語ってる本があるでしょうか。人との駆け引きを重視する大山名人では絶対に実現しなかった企画だと思います。

 本書は、そうした羽生さんの発言に対して、人工知能の側面と認知心理学の側面とで、学者の2人が羽生さんを分析しています。これもまた面白い。

 認知科学と人工頭脳との違いは、鳥のように飛びたいと思うとき、鳥のしなやかな羽ばたきのメカニズムを調べるのが認知科学的アプローチであり、ジェットエンジンを開発して空を飛ぶのが人工頭脳的アプローチだ、と説明がありました。なるほど、です。

 将棋を解説すると『二人完全情報確定ゼロ和ゲーム』であると。完全情報とは手が全て明かされている・確定とは不確定要素なし・ゼロ和とは勝敗が明確な・ゲームというわけです。

 人間と人工頭脳との関係は、囲碁がアマチュア初段レベル、将棋がアマチュア5段レベル、チェスが人間のトッププレーヤーまで来たといいます。

 羽生さんは将棋界の第一人者として神に最も近いプレーヤーです。自分の思考を客観的に捉える能力(メタ認知)と、それを理路整然と説明する能力 (自己説明能力)に大変優れていることは、本書を読めば一目瞭然と理解できます。そのことが将棋に強いことの秘密でもある、と解説にありました。

 勝負の世界で生きているわけですから、自分の思考をオープンにするのに躊躇があるはずですが、本書ではそれは感じられません。それだけに、「羽生さんの言葉」は、非常に沢山のヒントを含んでいると思います。将棋に興味のある方はもちろん、トッププレーヤーに興味のある方は、必読書です。
 
 
2   日本共産党 2007.1.3   推薦度★☆☆☆☆
 
  
 筆坂秀世著 新潮社新書 2006.4.20発行 191頁 680円+税 

 
 著者は、日本共産党の元参議院議員。議員任期中に女性に対するセクシャル・ハラスメント事件を起こして議員を辞職、その後共産党を離れた人です。本のなかで「政策委員長でナンバー4」と自らを紹介しているとおり、最高幹部の1人であることは間違いなく、そういう経歴を持つ人が、政党を離れたあと、40年余に渡って共に歩んできた政党に対して、どんな主張を展開するのか、という興味があって、読みました。

 全体として、中央の幹部しか知りえない「日本共産党の内幕」や「日本共産党の否定的側面」と著者が思う諸点を取り上げて、そうした状態になっているのは「ナンバー1」が悪いからだ、という論調で進んでいます。「ナンバー1」に対する敵対心が露骨。

 しかし、私はこういう話はどうもついていきにくい気がします。なぜなら、ナンバー4ということは、仮に30万人の党員がいて、それがナンバー順に並んだとして前から4番目が著者、その後に299,996人がいるのです。どう見てもその政党の最高幹部=「全ての責任を取る立場」に属すると思います。そうした自分の立場を棚上げしておいて、全て「ナンバー1」のせいにするのは何としても聞きにくい。一人独裁に見立てているみたい。

 しかも、意見対立から離れたのではなく、女性に対するセクシャル・ハラスメントが原因だとしたら、触れている内容はいつからそう思っていたのか、気になります。まさか政策委員長の時だったとしたら「自己否定」ですし、無責任、天に唾する行為では。

 興味があって読みましたが、余り後味がいいものではありませんでした。 
 
 
1   映画をたずねて−井上ひさし対談集− 2007.1.3   推薦度★★★☆☆
 
  
 井上ひさし著 ちくま文庫 2006.11.10発行 323頁 780円+税

   ○ゴジラと七人の侍(本多猪四郎、黒澤明、山田洋次)○渥美清と美空ひばり(山田洋次、渥美清、
    小沢昭一、関敬六、澤島忠)○市川昆・松山善三(和田誠、高峰秀子) 

 
劇作家井上ひさしさんが各々の雑誌に掲載した対談集のうち、映画を全体テーマにして、ちくま文庫が編集した本です。

 いろいろ語られていますが、浅草界隈で活躍していた頃の渥美清さんと友達関敬六さん、新米の進行係で井上ひさしさんがいた、という話は大変興味深く読みました。
 劇場の幕間に間を持たせるために渥美清さんが舞台に上がって話始めると、これが面白い。5分が20分となっても誰も「引っ込め」とは言わない。そうした間を埋める役者は渥美清さんをおいてなかった、といいます。

 元々は、間を埋めるために関敬六さんなどを相手に今で言うコントをやるのが本業でした。関敬六・谷幹とトリオを結成していた時期もあるとのことです。しかし、肺病を病んで2年間療養生活を送ったことが渥美さんの転機になったようで、コンビを解散して、新しい道を模索し始めた時に「夢であいましょう」に出演する話が舞い込んで、浅草からテレビ界へ進出することになったのです。

 他にも、黒澤明さんや高峰秀子さんなどとの対談も載っています。映画を作る人と劇作家という視点で話がスタートしてもいろいろ寄り道して楽しい読み物です。
 

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