TatteYahh! - 00/08/30
持ち上げたら重そうな木枠の本棚が立ち並んでいる。そのひとつの影に身を潜め僕は息を殺していた。ブーツの足音が場所に不似合いだ。高い場所にある本を取るための梯子がまるで天国に通じているかのように見える。後ずさりしようとして僕はうっかり尻餅をついた。敵は痺れを切らしてとうとう掃射し始め、10pある鉄板でも貫通する機銃がスパンッ!スパンッ!と本棚に穴を開けてゆく。その一発が左足太股を剔り、僕は深い溜息を吐いた。不思議に痛みはなく、死の恐怖だけが僕を締め上げてゆく。本棚の上で傍観しているもう一人の僕が敵部隊の見事な陣形を見ると死の恐怖は更に膨れていった。彼らは表情を崩さず本棚からバラバラと落ち続ける本を競技射撃のように撃ち抜いている。体中に銃弾を浴びた僕は引きつった呼吸でそれでも生きようとしていた。頭を撃ち抜かれたはずなのにまだ死なない。そして斥候として様子を窺いに来た兵士が僕を発見し、彼は目を背けた。僕は後ろポケットに潜ませてあったハンドガンの銃口を彼に向けた。
TatteYahh! - 00/08/26
PCを始めてかれこれ何年かが過ぎた。PC的神経回路が構築されていく中で、僕は画像は凄い、そう思うようになった。テキストのサイズは非常に小さい。なのに人はそれ理解するのに努力を要する。対して画像はファイルサイズが、つまりは情報量が大きいのに人間は一目でそれを理解する。曰く、一見は百聞にしかず。画像という呼び方が適当でないならば、イメージと言い換えても良い。
それでも、僕は文章が好きだ。何故ならば言葉は生きているからだ。僕が何かひとつ単語を言う。すると君はイメージを思い浮かべる。彼はそれとはまた少し違ったイメージかもしれない。彼女は更に違うかもしれない。そして、言葉は個人それぞれに最適化されている。
TatteYahh! - 00/08/05
とりあえずクーラーをつけよう。つけた。夏の暑い午後にクーラーをつけて自由な時間を過ごすってのは究極の贅沢だよね。頭の隅で電気代のことを考えさえしなかったら。ふぅ。 エニウェイ、クーラーが部屋を冷却する間に大学の部室の暑さを思い出した。お酒を発酵できそうな暑さだった。窓はひとつだったし、狭かったし、ペットボトルが机の上いっぱいに散乱していた。僕が授業をさぼって掃除した。そのあとで連絡ノートに嫌味じゃない程度に掃除したよって書こうとして、変な文章を書き残したな。そういうことを思い出した。
TatteYahh! - 00/08/04
「ねぇ」しばらく間があった。「ぼく喋れるん知ってた?」びっくり仰天した。飼い犬のプーがついに化けの皮を剥がしたのだ。暑いのか床にぺたーっと敷物みたいになったまま上目遣いでぼくを見ている。「あのさぁ、ぼくが気持ちよぅ寝てるときに鼻の穴指でふさぐのやめてくれへんかな?ひたいに半額シール貼ったりさ、あれぼく嫌やねん。剥がそうとしても足短いやろ?めっちゃ困んねん。なんでぼくこんな足短いんやろ?」おいおい、困ったな。ぼくは飼い犬に向かって真面目に返事するのも変だと思って、言葉を詰まらせていた。「言うとくけどママにばらさんといてな。喋れるん内緒やで。あ、そうそう家族おるときにぼくを羽交い締めにするんもやめてほしいな。つい『やめろよ!』って喋ってまいそうになんねん。」「うん、それは分かった・・。」ぼくは返事した。
しばらく沈黙があって、プーは言った。「なぁなぁ、首のとこ痒いねん。かいてよ。」「図々しいなぁ、自分でかけよ」するとプーはせわしく首を後ろ足でシャッシャとかいた。「クーラーつけへん?」プーはクーラーを理解しているらしい。「こう暑いとやってられへんわ、なぁなぁつけようよ」ぼくはクーラーをつけた。
部屋を閉め切ってしばらくしてから涼しくなった。「散歩行くとき通るあの角の黒い犬おるやん?アイツ生意気やな。」そんなこと言われても。「アイツ繋がれてる前にうんこしたいな。」好きにしろよ。「今日は散歩誰が連れていってくれるん?」さぁな成り行き次第やな。ぼくが連れていってやろうか?「すまんな、親父歩くん遅うて困んねん。よっしゃ、頑張って行こら。」うん。
TatteYahh! - 00/08/03
ついさっきの話。
コーヒーを煎れようとコンロに火を点け、湯沸かしを見つめていた。しばらくしてジジジジジジと湯が沸く音がし始め、砂男が現れた。今度の奴はムチャクチャ小さかった。小さいくせに僕を観察していた。今にも甲高い声で「コンニチハッ!」と言いそうだった。理由はいくつかあったのだけれど、とにかく僕は眠らないと決めていたから抵抗を試みた。コーヒーもそのために煎れるようなものだった。砂男はふとした瞬間に目の前から消えた。 湯沸かしから白い蒸気がシュッシュと吹き出した。やはり早起きが過ぎたのか(今日は午前3時に目を醒ました。)火を止めずに蒸気を眺めていた。すると蒸気のなかに砂男が楽しそうに泳いでいた。はちきれんばかりの笑顔だった。「こっちへ来なよ」と言いたそうだった。熱くないのかなとは何故か思わなかった。ということにしておいて、ぼくも蒸気に手を差し伸べてみた。軽い火傷をして頭が冴え渡った。おお!いまならタイムマシンを発明できるかも!
それから、この文章を書くことを思いついて、ちょっと脚色を考えていた。砂男は形のないものから現れる。とか、水って心理学では性欲と結びついているんだよな。とか、砂男の形をした水を登場させてみようか。とか、いろいろ考えている内に頭がボーっとしてきた。どうやら夢だったらしい。
TatteYahh! - 00/07/29
「いつのまに、夏になったんだろう?」そう言って、彼はけむりをはいた。網戸には虫がへばりついていた。その無防備な腹が脈打つのが見て取れた。虫は彼の概念に侵入する。チクチクと、そうカフカ的に!そこが日常からの脱出口。彼は思った。エッシャーの騙し絵のようにだまされたい。
ところで、日記でも書いてみる。今日もバイト、明日もバイトな日々、夏休みだからって急にやめるんじゃねーよ、高校生!と愚痴も言いたくなる。代わりを埋めるのは俺らなんだからさぁ。。と、えーっと、そうそうバイトは6時間以上勤務から休憩がついてくる。もれなく当たる。ぼくも今日休憩があった。バイトの時間帯がちょうど飯時を含んでいて、休憩に入る前にはもうはらへりぼんぱくきんとんうんだった。でもバイトにきてそこで金を使うのは何か変な気がしないでもない。で、焼きそばとおにぎりとお茶(缶)を購入。車の中で1時間を過ごす。寝不足のせいか、ぼくはシートを倒すと安眠モードにはいった。駐車場に人気はなく、車内はぼくが喫った煙草のけむりで充満している。BGMはソニックユースでぼくには子守歌にきこえた。あぁ、これが幸せなのか。そう思った。寝過ごした。
TatteYahh! - 00/07/20
ぼくはコーヒーを煎れに席を立つ。どうしてコーヒーでお茶じゃないかというのは理由があったけれど、教えてあげない。台所までの短い道のりではぼくは何も考えない。階段は上るときより下りるときのほうが足に負担がかかるんだよな、なんて考えながら階段を上り下りはしない。本当のところを言うと実は考えている。でもそんなことはばらさない。そういう一連の事柄から推察するに、偉人はえらかった。偉人と書くのだからえらくないと困る。そこで新事実!活動家の偉人を別として、その他偉人はあまり動かなかったと言い切ってしまおう。それは動くと自分の考えに集中できないからである。どう?いろいろな法則を見いだした人なんだから、きっとずっと座って修行のように考えていたに違いない。でしょ?でもインドの修行僧は考えていない。考えるのは無心と全く逆だから。無心って何?お答えしよう。それは何も考えていない状態である。でも本当は考えているんだけど、考えていないことにしている状態である。今日は暑いな、とか思っている状態である。実際のところ世界の法則はこういったところで収束する。
TatteYahh! - 00/07/06
人生は、長い。水の循環よりも・・。それは果てしのない夜だ。そこにあるのは、ただ自由という名の暇と持て余す孤独にちがいない。きみなら、わかるだろう? そう、そこにあるのは耐えきれない放棄の、死への憧憬、衝動、必然的に植えつけられた自虐、これからも続く繰り返し、くりかえし続く、反復。きみは、きみ自身から逃げることはできないのだよ。 その顔、その体、その声、きみに付随する全て癖、過去、傷跡、両親、培った哲学、全て そう、きみに話したいことがあるんだ。 これから話すことは誰にもいってはいけない。夢の中でも・・。もちろん、私を除いて。話の最期にきみにひとつ質問する。その答えを私に是非教えてほしいんだ。それからあとは、きみのためにも、私のためにも、このことは出来うるかぎり頭のすみに押しやってほしい。 では、
彼はそう御大層な前置きをしてから、付け加えた。 もちろん、これから話すことは真実だ。結局夢だったなんてお粗末な結末もなければ、教訓もない。君が感じたことを素直に受け止めてほしい。 彼は、いや、彼女だったか・・。まぁ、そんなことはどうでもいい。そいつは大きな人生の岐路に立っていた。もっとも大切な一瞬の出来事だ。思案している時間など蟻の羽音ほどもない。そしてそれは、右か左か、そういった単純なものだ。単純であるべきことだ。そいつはそこで何を選んだと思う?話が前後するが、つまりはそれを君に尋ねたいわけだ。君なら何を選ぶか、どこに向かうか、やるかやらないか。 そいつは一番はじめに目に付いた項目を選んだ。それがどれだけ大きな選択か気付いていない風だった。わたしはそれについて少なからず考えたよ。そいつの選択が、そうあるべき妥当なものであったか。けれど、わたしには関係のないことなんだ。関係のないことなんだけれど、考えざるを得なかった。そして、答えは勿論なかった。そんなものはない。あるとすれば、それはわたしの答えで、そいつには関係ないことだ。 君が一番気になっているのはそいつは具体的にどのような選択肢をとったか?だろう?言うよ、でもそう急かすな。彼の選・・。
そこで電話がプツリと切れた。僕はそっと受話器を戻し、再び体を横たえた。しばらく時計のカチカチという音に耳を澄ませていたが、電話はかかってこなかった。それから砂男が現れて、僕の目の前に砂を撒いていった。 人生は、短い。花の散るごとく・・。それは刹那の夢幻だ。しかしそこにあるのは、素晴らしい生命の躍動、星の輝き・・
いっこくどう - 00/07/04
(・o・) あれ
(^o^) 声が
(・o・) 遅れて
(^o^) 聞こえて
(・o・) 来るよ
TatteYahh! - 00/07/04
僕の部屋は下界を360度見下ろすことが出来る。空は暗く、その一面を黒い雲が覆い尽くしていて下界は仄かにオレンジ色に染まっている。僕はただ何をするでもなく下を見下ろしていた。所々でオレンジ色の光が蛍の尻のように強くなったり弱くなったりした。床はさすがにガラスではなく、真下は見ることが出来なかった。僕はふと真下を覗き見てみたいなと思った。
展望台のような僕の部屋では実のところ何も為されていなかった。つまり展望台でも管制塔でも灯台でもなくてそこは僕の部屋だった。そんなに高い建物を非常に私的な理由で建てて良いものなのかと僕はよく思うけれど、実際僕はそれを建ててそこに住んでいたのだからどうにか巧くやったのだろう。僕は高くて見晴らしの良い所が異常に好きなのだ。工場のように見えるところは総てこの建物を維持するための発電器やなんかで占められていてエレベーターの階数表示も一階と最上階を示す[1]と[2]しかなかった。
馬鹿は高いところが好きというのが本当なら僕ほどの馬鹿はいないだろう。僕は一度高山病に罹ったことさえあった。人工建造物の極致といった観の僕の部屋にもしかし所々ガタがきていた。風の強い日には部屋がぐらぐらと揺れたし、ガラス窓は鈍く曇っていた。部屋の揺れるギィーと鳴る音に僕の心臓は否応なく鼓動を速め、下界の光を滲ませるガラスは僕を憂鬱にした。しかし部屋を維持するのに精一杯で僕はそこまで手を回すことが出来なかった。
僕にとって最上の喜びは一日中部屋に籠もり下界の変化をカメラで克明に記録することだった。朝日が昇り町が照らし出されていく瞬間などには僕の胸の内に抑えきれない感情がこみ上げた。そうやって僕は身も心も新たにするという作業を繰り返してきた。リセット、リセット!
裏通りの暗闇に紛れて彼女は曲がり角を折れた。一拍おいて吸い込まれるようにして影が消える瞬間を彼はなんとかとらえた。彼は頭から血を流していた。血が目に入り視界が定まらなかった。見失うまいと彼女の背に目を凝らしつつ、自分が嗅覚が退化したヒトという動物であることを悔やんだ。と同時に、先回りして待ち伏せすることを思いつき、俊足の肉食獣のように諦めの早いフリをして減速した。彼は彼女を待ち伏せながら、興奮していた。草食獣を待ち伏せる肉食獣もきっと同じ興奮をおぼえているにちがいない。これが本能って奴なんだと彼は思った。突然目の前に飛び出してきた猫を避けて力一杯ハンドルを切ったそのときから、彼は孤独となった。意識しないで頭にやった手に血がベットリとついてきたとき、はじめて彼は死んだのかもしれないと思った。彼は夢の中で死ぬことを経験済みだったから、きっとこれも夢なんだろうとまず思った。しかし夢ではなかった。という感覚の夢を見ることもあった。幾重にも重なりうる。だから彼はもう敢えて夢かどうかなんて確認しなかった。いつも通りの僕の行動パターンでいいやと思った。夢だと分かったからって無茶のできる性格ではない。死ぬとこんなに寒気がするなんて夢では経験しなかった。温度はまさにエネルギーなんだ。ボーっとする頭の中でそういう曖昧な確信を得た。温度が下がり、時が止まって彼はただひとり取り残された。彼女はそんな彼の前に現れた。それを僕は観察していた。