大気の進化・・・雪玉が作った?地球の大気
参考 : 窒素、アンモニア、ソリン
ニュー・ホライズンズは、NASA が2006年に打ち上げた、冥王星を含む太陽系外縁天体の探査を行う、無人探査機です。
2015年1月15日、冥王星の観測を開始しました・・・これから色々なことがわかってきますね。
冥王星の大気の組成も、地球の大気と同様に、主に窒素で、その他メタンや一酸化炭素もあります。
窒素が主成分である大気を持つ太陽系の天体は、
他に、タイタン(土星の衛星)、トリトン(海王星の衛星)、準惑星のエリス?等があります。
タイタンの大気には、98.4%の窒素と、1.4%のメタン、0.1から0.2%の水素が含まれています。
トリトンの大気には、99.9%窒素が含まれています。
特にタイタンの地表気圧は、地球の約1.45倍もあります・・・驚きですね。
ちなみに、タイタンの大気には、ソリンと推定される物質があり、
多環芳香族炭化水素のような、複雑な分子を形成する元になっていると考えられています。
さて、なぜ窒素が多いのでしょうか?
太陽から遠いから?
太陽から遠い所に位置する、天王星型惑星は、巨大氷惑星とも呼ばれ、
メタン・アンモニアを含む氷や、液体の水を主体とした巨大な惑星です・・・内部に水があるのですね。
天王星の大気には、水素が83%、ヘリウムが15%、メタンが2%含まれています。
海王星の大気には、水素が84%、ヘリウムが12%含まれ、メタンも含まれています・・・
これらの大気組成は、窒素はまれで、
木星(水素が81%、ヘリウムが17%)や土星(水素が93%、ヘリウムが5%)に似ていますね・・・
これらは、非常に巨大であるため、軽い水素やヘリウムが宇宙空間に逃げなかったからでしょうか?
氷といえば、太古の地球は、雪玉(スノーボール)になったことがありますが、
地球の大気に窒素が多いことと何か関係するのでしょうか?
地球が誕生した46億年前頃の原始大気は、主にヘリウムと水素からなり、高温・高圧でした。
これは現在の太陽の大気と似た成分です。
また、水蒸気も含まれていて、その温室効果が原始地球を高温高圧に保っていたという説もあります。
しかし、これらの軽い成分は、原始太陽の強力な太陽風によって、
数千万年のうちにほとんどが吹き飛ばされてしまったと考えられています。
太陽風は、太陽の成長とともに次第に弱くなりました。
この頃には、地表の温度が低下したことで地殻ができ、地殻上で多くの火山が盛んに噴火を繰り返していました。
この噴火にともなって、二酸化炭素とアンモニアが大量に放出されたようです。
水蒸気と多少の窒素も含まれていましたが、酸素は存在しませんでした。
この原始大気は、現在の金星の大気に近いものと考えられており、
100気圧程度と、高濃度の二酸化炭素による温室効果によって、地球が冷えるのを防いでいたと考えられています。
43 - 40億年前頃に、原始大気に含まれていた水蒸気が、雨として降り注いで、海洋が誕生したとされます。
初期の海洋は、原始大気に含まれていた亜硫酸や塩酸を溶かしこんでいたため、酸性でしたが、
陸地にある金属イオンが、雨とともに流れ込んで中和されたと考えられています。
海洋が中和されると、二酸化炭素が溶解できるようになるため、
原始大気の半分とも推定される大量の二酸化炭素が吸収されました。
酸素は、水蒸気が紫外線を受けて、光解離することで生成されてはいましたが、
鉄等の酸化によりすぐに吸収されたため、大気中にはほとんど残らなかったようです。
超大陸が誕生すると、氷河を形成したり、スノーボールアース(全地球凍結)となったりすることもあります。
27億年前の地層から、ストロマトライトの化石が見つかっています。
この化石は、光合成を行うシアノバクテリアと考えられています。
この時期に大規模な火山活動があり、初めて大陸と呼べる陸地が形成されたようです。
尚、シアノバクテリアが光合成を行うためには、光の届く浅い海底が必要であり、
シアノバクテリアの誕生と大陸の形成とは関連があると考えられています。
光合成を行う生物が誕生すると、酸素が発生して、大気中の酸素濃度が増加します。
さらに、二酸化炭素が生物の体内に炭素として蓄積されるようになり(炭素固定)、
長い時間をかけて、過剰な炭素は、化石燃料、生物の殻からできる石灰岩等の堆積岩といった形で固定されます。
大気中の酸素は、初期生物の大量絶滅と、更なる進化を導いたようです。
24億年前から21億年前頃の原生代初期に、最も古い氷河期(ヒューロニアン氷期)があった可能性があります。
約10億〜7億年前に、ロディニア大陸があり、全地球凍結が起きたという説があります。
また、エディアカラ生物群が、この大陸の周辺で進化したようです。
7億5千万年前から氷河期(スターティアン氷期(〜7億年前)と、マリノア氷期(〜6.4億年前))となり、
この時、全地球凍結となったとされます。
植物が現れて以降は、酸素が著しく増え、二酸化炭素は大きく減少します。
また、酸素は紫外線に反応し、オゾンとなりました。
酸素濃度が低かった頃は地表にまで及んでいたオゾン層は、
濃度の上昇とともに高度が高くなり、現在と同じ成層圏まで移動しました。
これにより地表では紫外線が減少し、生物が上陸する環境が整えられました。
冥王星の大気
冥王星は、太陽系外縁天体内のサブグループ(冥王星型天体)に属す、準惑星に区分される天体です。
2006年までは、太陽系第9惑星とされていました。
冥王星が、
太陽に近づくと、主に窒素、メタン、一酸化炭素の希薄な気体が冥王星を包み、
表面にある固体の窒素や一酸化炭素の氷との間で、平衡状態になります。
太陽から離れると、大気の大部分は凝固し、地表へと降下します。
冥王星が再び太陽へ近づいていくと、冥王星の固体表面の温度が上昇し、固体窒素が昇華して気体となります。
この昇華する窒素は、冷却効果を持ち、反温室効果をもたらします。
冥王星の大気圧は、地球の約70万分の1の、0.15 Paと考えられていますが、
2002年に行われた分析結果によると、大気圧は、従来の2倍の0.3 Paと推定されました。
これに対する仮説として、冥王星の南極が1987年に120年ぶりに影から出たため、窒素が極冠から昇華したという説があります。
冥王星の表面は、非常に不均一です。
冥王星の表面のうち、カロンに向いた側はメタンの氷が多く、
反対側は窒素と一酸化炭素の氷が多いです。
表面温度は、平均 44 K( 33 - 55 K )です。
タイタンは、土星の衛星で、太陽系の衛星で唯一、発達した大気圏を持っています。
公転周期と自転周期は共に、15日 22時間 41分です。
直径は、約5150kmと、惑星である水星よりも大きいです。
タイタンの地表気圧は、地球の約1.45倍です。
大気の質量は、地球の約1.19倍で、面積当たりでは、約7.3倍となります。
タイタンの大気は、975kmの高さまで存在します。
成層圏の大気の組成は、98.4%の窒素と、1.4%のメタン、0.1から0.2%の水素です。
メタン以外の炭化水素、その他の気体も痕跡量存在します。
炭化水素は、大気上層で、太陽の紫外線によるメタンの分解によって生成し、橙色のスモッグを形成していると考えられています。
タイタンの電離圏で、水素の約1万倍の質量を持つ陰イオンが発見されました。
その構造は不明ですが、ソリンと考えられ、
多環芳香族炭化水素のような、複雑な分子を形成する元になっていると考えられています。
太陽のエネルギーは、タイタンの大気中の全メタンを、5000万年以内に、複雑な炭化水素に変換しているとされます。
これは、メタンが補給されるか、タイタンの内部で生成されていることを意味します。
タイタンの大気が、一酸化炭素の1000倍以上のメタンを含むため、
彗星(メタンよりも一酸化炭素を多く含みます)の衝突によるものではないようです。
太陽系に豊富に含まれる水素やネオンを持たないため、
タイタンが形成の過程で、初期の土星の大気を降着させた可能性もないと考えられます。
タイタンの大気中のメタンは、タイタン内部から、氷の火山の噴火等で放出されたものとする説が有力のようです。
タイタン自体は磁場を持たず、太陽風に直接さらされています。
太陽風は、大気上層の分子の一部をイオン化し、運び去ります。
時々土星の磁場の中に入りますが、これは、むしろ大気の喪失を引き起こす反応を強めるようです。
タイタンの自転の方向に沿った、西から東向きへの大気循環も、発見されています。
2004年、カッシーニによる観測でも、タイタンは金星と同様に、地表よりも速く大気が回転しているようです。
土星の距離では、太陽の日射量や太陽風の流束が小さすぎ、
地球型惑星では揮発性を示す原子や分子は、3つ全ての相で蓄積します。
タイタンの地表温度も非常に低く、約94Kです。
その結果、大気の成分となる物質の質量分率は、地球よりも大きくなります。
タイタンの質量の約50%がケイ酸塩で、
残りの主な物質は、水とアンモニア水和物です。
タイタンのアンモニアは、アンモニア水和物の質量の約8%です。
タイタンの窒素の起源は、降着したクラスレート(包摂化合物)からの脱ガス化ではなく、
降着し脱ガスしたアンモニアが光分解したものと考えられています。
窒素がクラスレートから放出されると、太陽系の原初同位体アルゴン36と38も大気中に存在するはずですが、
どちらもほとんど検出されていません。
タイタンの初期の大気喪失は、窒素14と窒素15の天然存在比で推定できます。
軽い窒素14は、光分解と加熱の下で大気上層から逃げやすいためです。
これによると、初期の大気は1.5倍から100倍もより多くの窒素分子を含んでいたと考えられています。
窒素分子がタイタンの大気の98%を占めるため、
天然存在比は、大気の多くが長い時間を経過するうちに失われたことを示しています。
タイタンの大気の喪失は、主に重力が弱いことと、太陽風による光分解によるという説があります。
大気喪失の大部分は、降着から5000万年以内に起こり、高エネルギーの軽い原子が大気を運び去ったという説もあります。
一方、地表の大気圧は、未だ地球の1.5倍近くあり、揮発成分の割合は地球や火星よりも多いです。
木星の衛星、カリストやガニメデは、構造的にタイタンと近いですが、これらの大気がタイタンほど濃くない理由は不明です。
原始木星系は、重力が大きく、太陽に近いため温度が高く、
カリストやガニメデへのアンモニアの降着は少なかったという説があります。
海王星の衛星です。
トリトンの大気は、上空800kmまで広がっています。
もともとトリトンは厚い大気を持つと考えられています。
1989年時点で、地表での気圧はわずか14マイクロバールで、地球の約7万分の1です。
トリトンの大気の成分は、99.9%窒素で、
その他、メタン( 0.1% )や一酸化炭素もあります。 ソリン
アルゴンとネオンが存在する可能性も示されています。
更に、大気上層には、メタンの光分解で生成した、水素原子や水素分子も含まれますが、これらはすぐに宇宙空間に出ます。
窒素に対するメタンの量は、
2001年に至点に達したことによるトリトンの温暖化のため、1986年と比べて4倍から5倍に増加しています。
最も可能性の高い温度は、1989年時点で38 ± 1 Kです。
1990年代になると、トリトンの温暖化により、気温は約1K上昇しました。
太陽によって加熱されたトリトンの地表付近での対流によって、高度約8kmまでは対流圏が形成されています。
対流圏では、気温は高度とともに低下し、対流圏界面で最低の約36Kに達します。
トリトンの大気では、対流圏と熱圏からの熱が放射冷却と釣り合う層である、成層圏は存在しません。
対流圏の上には、熱圏(8から850km)と、外気圏(850km以上)があります。
熱圏では、気温は高度とともに上昇し、300kmで一定の約95Kに達します。
上層大気は、トリトンの弱い重力のため、常に宇宙空間に漏れています。
その速さは、1秒当たり、約0.3kgに相当する約1×1025個の窒素分子です。
固体窒素の粒子は、地表から数km上空の対流圏内で雲を形成します。
その上では、地表から約30kmの高度まで、もやが広がっています。
これらは、太陽や恒星からの紫外線がメタンに作用して生成される、炭化水素やニトリルと考えられています。
1989年、ボイジャー2号は、地表付近で東方向または北東方向に約5から15m/sの速度で吹く風を発見しました。
この風は、南極冠からの固体窒素の昇華に関連していると考えられています。
対流圏の風は、μmの大きさの物体を巻き上げることが可能です。
大気中を約8km上昇し、対流圏界面に達すると、風の方向が変化します。
原子番号7の窒素族元素です。
一般に窒素という場合は、窒素の単体である窒素分子( N2 )を指すことが多いです。
窒素分子は、地球大気に最も多く含まれる気体で、空気の約78.08 %を占めます。
窒素原子( N )は、生物にとって非常に重要で、アミノ酸やタンパク質、核酸塩基等、あらゆる所に含まれます。
ただし、ほとんどの生物は大気中の窒素分子を利用することができず、
微生物等が窒素固定によって作り出す窒素化合物を摂取することで、体内に窒素原子を取り込んでいます。
窒素分子( N2 )は、常温常圧で無色無臭の気体として存在します。
融点、-210℃ ( -63.15 K )。
沸点、-195.8℃ ( -77.35 K )。
常温常圧下では、極めて不活性です。
窒素化合物には、アンモニアや硝酸のような無機化合物から、
各種ニトロ化合物や複素環式化合物等の有機化合物まで、非常に多くの種類があります。
分子式が NH3 で表される無機化合物です。
最も基礎的な窒素源です。
窒素原子上の孤立電子対の働きにより、金属錯体の配位子(アンミン)となります。
共役酸 ( NH4+ ) は、アンモニウムイオン、
共役塩基 ( NH2- ) は、アミドイオンです。
水に非常によく溶け、水溶液は塩基性を示します。
様々な酸と反応して、対応するアンモニウム塩を生成します。
有機反応において求核剤としてふるまい、アミンやアミド等を生成します。
アンモニアは液化しやすく、20℃では、0.857 MPaで液化します。
液体アンモニアの性質は、水と似ており、様々な物質を溶解します。
蒸発潜熱は、1268 J g-1( 0℃ )で、水に次いで大きいです。
液体アンモニアに溶解した金属ナトリウムは、有機反応に利用されます。
酸素中では燃焼し、窒素酸化物が発生します。
水素と窒素を、鉄触媒存在下 20 MPa、500℃ で反応させると、アンモニアが生成します(ハーバー・ボッシュ法)。
メタンやエタン等の単純な有機化合物に、恒星からの紫外線が作用して生成する共重合分子です。
ソリンは、カール・セーガンが、タイタンの大気を模した、ユーリー-ミラーの実験を行って得た、分類の難しい物質を記述するために作った用語です。
特定の化合物を指す言葉ではありませんが、惑星等の表面の赤っぽい有機化合物を表します。
ソリンは、今日の地球上では自然に生成しませんが、
太陽系内で、地球より外側の、氷でできた低温の天体の表面には豊富に存在します。
タイタンとトリトンの大気には、窒素とメタンの含量が多いので、
これらの衛星のソリンは、窒素が豊富な有機化合物で形成されています。
これらの大気由来の物質は、水とメタンやエタン等の有機化合物でできたクラスレートに、紫外線が照射されて生成する、アイスソリンとは区別されます。
彗星やケンタウルス族、その他の氷衛星の表面には、ソリンやアイスソリンが豊富に堆積しています。
ソリンは、HR 4796Aのような、若い恒星の原始惑星系円盤からも見つかっています。
HR 4796Aは、地球から約220光年離れた所にある連星系で、約800万歳です。
初期の地球は、ソリンの豊富な彗星から、生命の誕生に必要な最初の有機化合物が供給された、という説もあります。
理論的なモデルでは、窒素やメタンの分子が、放射光からのエネルギーを持った粒子により、電離、イオン化して、
エチレン、エタン、アセチレン、シアン化水素や、その他の小分子や陽イオンを形成します。
更に、ベンゼンやその他の有機化合物を形成して、これらが重合し、エアロゾルとなり、凝固して天体の表面に沈着するとされます。
ソリンは、紫外線の照射から、惑星の表面を守る働きも果たします。
地上で合成したソリンを用いた実験によると、
多くの土壌細菌は、ソリンを唯一の炭素源及びエネルギー源として利用し、生育することができたようです。
また、それらの細菌は、ソリンに含まれる窒素も利用することができます。
独立栄養生物が進化するまでは、ソリンは、従属栄養生物の最初の食糧であった可能性もあるようです。