PassionateBlue2.4 バトルロワイヤル

  「・・・・・・一体どうしたんだ?」
 煌はいぶかしげな表情で誠と由良を見た。二人とも背中を向けて座っていて、テレビの画面はスーパーマリオのデモ画面が流れている。コントローラは無造作に置かれたままだった。真面目な顔で煌は由良の肩にそっと手を置いた。
 「由良・・・誠に何されたんだ」
 「おいテメー、人聞きの悪いこと言うなよ、オレが何したっていうんだっての。大体、のっけからオレが加害者由良が被害者っつー図を決めてかかるのは問題アリだぜ。兄弟喧嘩してたら無条件に兄貴を叱るのと同じだ!理不尽ってもんだろ」
 「まぁ一理あるが、俺は無条件に兄だけを叱ったりしない、喧嘩両成敗主義だ。おまえと由良なら当然無条件に由良を庇うがな」
  「いいのよ、煌くん。確かに今のは誠くんが正論だわ」
 由良は行儀よく正座して誠に向き直る。暫く誠の背中を見つめて、そのまま話を始める。誠はあぐらをかいて腕組をしたまま、微動だにしない。
 「そもそも、わたしたちは仲良くゲームしていたの。でも何故か話は料理のことになって、誠くんがわたしに料理が出来ないのはヤバいとか言い出したのよ。わたしフランスで暮らしていた頃ママのお手伝いとか結構やってたから出来るもんって言ったら、自称するヤツ程大したことないとか憎たらしいこと言うのよ。誠くんだってボーイスカウトでカレー作る位が関の山でしょうって」
 「おまえは知らないだろうが、オレはそれからちょびっと料理に目覚めたんだよ。煌も食ったことあるよな?オレ様の手料理をよ」
 「・・・焼き飯だろ?それくらいなら俺にも作れる」
 「あ!?テメー、チャーハンを甘く見やがったな?あんなに奥が深いもんはないんだぜ、中国四千年の神秘だぞ」
 「じゃあ俺がジャッヂしてやるから、それぞれの得意料理を作ってみればいいだろ」
 煌の提案に、誠は初めて振り向いた。がすぐ思案する。確かにいい案だが、審判に問題があると思ったのだろう。上目遣いに煌を見る。
 「俺を疑うなら他にも何人か連れてくればいい」
 「きゃああ!面白そうだね〜!料理の鉄人みたいだわ!!煌くんが"アレキュイジーヌ!"って鹿賀さんみたいに叫ぶのね?素敵」
 「いや、それは遠慮する」
 煌は真顔で手を顔の前で振った。由良の料理の鉄人病が再発してしまったらしい。かつてフレンチの鉄人坂井宏行の大ファンで、何度も店に通ってサインを手に入れたことがあるのだ。由良は先刻までの拗ねた表情が嘘みたいに目が輝いている。すっかり料理の鉄人モードに切り替わっているようだ。
 「じゃあ唯ちゃん連れてきていい?前からわたしの手料理食べさせてあげたかったの」
 「いいぜ、審査員は顔の広いおまえに任せる。ジャッヂの方法も美食アカデミー方式でいいよな」
 「じゃあ今日のテーマを決めましょう!煌くん、何がいい?」
 二人は煌に詰め寄る。なんだかスゴイとこに発展してしまったと、煌は改めて思った。どうやら料理の鉄人をろくに知らないのは自分だけであるらしい。それにテーマといきなり言われても困る。美食アカデミーなんて言葉も初耳だ。
  「別に今日じゃなくても・・・」
  「ううん、ゼンは急げなのよ」
  「あ、由良おまえ今食膳のゼンと善人のゼンをかけただろ」
  誠は由良の額を何度か指で突付いた。由良は嬉しそうに笑っている。煌は密かに溜め息を吐いた。時々この二人のペースについて行けないことがある。
  「じゃあ唯ちゃんに連絡してる間に考えてね?食材でも料理名でもいいから」
  由良は鞄から携帯電話を取り出して耳に当てる。坂崎唯はすぐに掴まったらしく、事情を説明していた。由良の表情からすると相手はすんなりと了解したらしい。今日は金曜日で明日の授業がない為、遅くなっても大丈夫なので、由良にとってこれ以上ない絶好の料理対決日和なのである。
  「はい!煌くん、テーマを発表してくださいっ!」
  誠は珍しく難しい顔をして、煌に注目する。由良は反対に子どものように輝いた笑顔。煌は観念したように思いついたものを挙げる。
  「シーフード対決」
  「きゃあ〜楽しい〜!!ねぇやっぱりアレキュイジーヌって」
  「言わない!」
 語尾を強く煌は告げた。唇をすぼめて由良は拗ねた振りをしたが、そんなことに左右される煌ではないことは由良が一番知っている。由良は元気よく立ち上がって、誠に握手を求めた。お互い不敵な笑みを浮かべて、がっちりと手を握り合う。
  「さぁ誠くん、お買い物行きましょう!!」
  「おぅ!」
  煌のことなど頭にないように二人は走って部屋を出て行った。ここで対決するつもりだろうか?煌は仕方がないので部屋を掃除することにした。何人呼んだのかは知らないが、綺麗に片付けておいて不足はないだろう。
  暫くして何をそんなに買い込んだのか、大量の材料を抱えて戻ってきた。余り大きくない冷蔵庫はすぐ一杯になってしまう。すぐ二人は自分のパソコンを取り出し、何やら調べ始めた。無我夢中、自分のことだけで手一杯な様子なので、煌は邪魔しないように席を外してTVゲームをすることにした。
  「煌くん、投票用紙作ってくれる?こういうの5枚」
  由良は手近な紙に表を書いた。これをパソコンで作れと言っているのである。余りの気合っぷりに煌は驚きを隠せない。由良は全然構わないで、また作業に戻った。5時を少し過ぎて、ゲスト審査員がやって来た。由良の友達の唯、その彼氏の仁、転校生のファランと留学生のシャオユウ。唯と由良とファランが、仁と誠と煌とシャオユウがそれぞれクラスメイトだ。ファランはオレンジに染めた派手な髪を無造作にかきながら、部屋を無遠慮に見回した。
  「何?カワイイ娘と料理が食べられるって言うから来たのに、女も料理もまだじゃん」
 「アンタ馬鹿でしょ?かわいい娘の料理って言ったのに、都合よく解釈し過ぎ!」
 シャオユウが大袈裟に溜め息を吐いて肩を竦めた。痛いところを突かれて、咄嗟にファランは反論できなくて黙りこむ。笑いながら由良がリヴィングに通してお茶をいれた。
  「じゃじゃ〜ん!由良対誠くんの料理対決にようこそっ!キッチンが一つしかないから、お互いがお互いを手伝いあって、料理します!先攻が誠くんで後攻がわたしで〜す。今日のテーマはシーフード!じゃあちょっくら作りますのでもう暫く待っていてくださいね〜!」
  由良は上機嫌で宣言すると、制服の上から赤いエプロンを着けた。唯がそれを誉めると由良はバレリーナのように何度も回ってみせる。ファランが手を叩いて声援を送った。
  「カノジョ俺と同じクラスだよな?デートしようぜデート」
  「あらごめんなさい!わたし煌くんとラヴラヴなの」
  「誰?煌くんって」
  「俺」
  煌は不機嫌そうに低い声で呟いた。ファランは煌を何秒か見つめると、いきなり手を差し出した。煌は眉根に皺を寄せたままファランを凝視する。
  「今日からライバルだ、よろしく」
  「余計なことするなバカ」
  仁が短い溜め息を吐いてその手を払う。ファランはさして気にした様子もなく、TVゲームの方に目をやってコントローラを手に取る。
  「何のゲーム?どうやってやるんだ」
  「あたしもやるぅ」
  勝手にテレビをつけて、ファランとシャオユウはゲームをし始めた。由良は誠と料理に入る。唯と仁は二人で何やら話しをしているので、煌は見るともなしにキッチンの作業を見ていた。二人ともお世辞にも手際がいいとは言えないが、そこそこのものを作っているように見える。材料に助けられている部分は否めないが。
  先攻の誠の料理がテーブルに並ぶ。蟹チャーハンと、帆立ときのこの海鮮スープの二品。食べている間に由良の料理に取り掛かる。海老とカリフラワーのグラタン、ひらめのムニエルだ。出し終えてから冷めてしまったが由良は誠の中華料理に箸をつけた。
  「わぁあ!誠くんすごいねぇ、超美味しー」
  「へっへっへ、そうだろそうだろう?もっと言ってくれ」
  誠は本当に嬉しそうなのを隠すように大きくガッツポーズしてみせる。自分でも中々の出来栄えだと思っている。久しぶりにキッチンに立った割には上出来だ。
  全員が料理を食べ終えて、ジャッヂに入る。由良はそわそわと落ち着かない様子で皿を下げた。誠と洗い物をしている間に煌が集計する。最高20点で評価し、5人合計100点満点で争う。煌はパソコンで、実際テレビの画面に出るような表を作った。誰が何点をつけて、合計が何点であるというのが一目でわかるようになっている。由良も誠も神妙な面持ちで煌を見つめる。冷蔵庫に張り出された点数を見て、思わず顔を見合わせた。結果はオール20点で、二人ともが満点だったのだ。
  「わー、嬉しーっありがとー」
  由良は満面の笑みで一礼してみせる。誠も満更でない様子だ、口元には笑みが上っている。
  「良かった〜喜んでもらえて!」
  「今度は俺だけに作ってよ、もっと特別なやつ」
  ファランが由良の手を取って、急接近して微笑んだ。煌が怖い顔をして由良を奪還する。ファランは反省した様子もなく由良にウィンクした。とんでもない男を連れてきたものだと、煌は溜め息を吐く。
  その後由良がいれたコーヒーでブレイクして、4人は部屋へ帰っていった。由良は満足そうに、いつまでもにこにこしている。
  「なんか嬉しいね、ふふっ。今日はいい夢見られそう」
  「前言撤回。悪かったな、マジで美味かったぜ」
  誠は手を差し出して握手する。実際言い過ぎたと思っていたが、意地っ張りの性格が幸いして中々素直に謝ることができなかったのだ。やっと謝罪の言葉を口にできたという雰囲気だ。由良は笑みを浮かべたまま誠を見つめる。
  「今、煌くんが羨ましいって思ったでしょ?こーんな美味しい手料理食べられて!」
  「は?おまえそりゃ自意識過剰ってもんだぜ」
  「いいのよ、わたしには判ってるんだもん」
  由良はひとしきり言いたいことを言うと、冷めかけたコーヒーを飲んだ。仕方がないので誠はそういうことにしておいてやることにした。何が判ってるんだか。おかしくなって誠は肩を竦めて煌を見る。煌も少し笑った。



File2.0  時の扉
File2.1  幼馴染み
File2.2  高校生。
File2.3  大事なこと、信じているもの。
File2.4  バトルロワイヤル
File2.5  青春X3!
File2.6  When we were green.
File2.7  つりにゆこう
File2.8  空が青い日
巻末付録(ミニデータベース)
公式HPより抜粋記事
言い訳ついでにあとがき




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