兵庫県地労委平成15年(不)第5号

             命 令 書

申立人   全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
        代表者 支部執行委員長   馬 越 輝 光

 同     中 田 良 治、日 野 隆 文、板 谷 節 雄


被申立人  本四海峡バス株式会社
        代表者 代表取締役社長   川 真 田 常 男

 同      全日本海員組合
        代表者 組合長         井 出 本  榮
 上記当事者間の兵庫県地労委平成15年(不)第5号本四海峡バス不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、公益委員会議における合議の結果、次のとおり命令する。
主  文
  1.  被申立人本四海峡バス株式会社は、申立人中田良治、同日野隆文及び同板谷節雄に対して行った平成15年3月14日付け各自宅待機処置を取り消し、同人らを原職に復帰させるとともに、同人らに対し、同年2月28日から原職に復帰させるまでの間、同人らの解雇前3か月間の平均賃金を基準に算定した本来支払われるべき賃金と既に支払われた賃金の額との差額を算定し、その差額に年5分の割合による金員を加算して、各人に支払わなければならない。

  2.  被申立人本四海峡バス株式会社は、申立人全日本港湾労働組合関西地方神戸支部が平成15年3月3日に申し入れた申立人中田良治、同日野隆文及び同板谷節雄の原職への復帰の条件を議題とする団体交渉について、誠意をもって応じなければならない。

  3.  申立人らの被申立人本四海峡バス株式会社に対するその余の申立てを棄却する。

  4.  申立人らの被申立人全日本海員組合に対する申立てを却下する。
理  由
第1 事案の概要及び請求する救済の内容の要旨
 1. 事案の概要
 本件は、@被申立人本四海峡バス株式会社(以下「会社」という。)が、会社内に分会を結成した申立人全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)関西地方神戸支部(以下「神戸支部」という。)の組合員中田良治、同日野隆文及び同板谷節雄(以下「中田ら3名」という。また、各申立人組合員の表示については姓のみで表す。)に対して自宅待機を命じ、基準内賃金のみを支給し、賃金を減額したことが不利益取扱い及び支配介入に、A会社が中田ら3名の原職への復帰の条件を議題とする団体交渉に応じないことが団体交渉拒否に、B全日本海員組合(以下「海員組合」という。)が会社と共同して中田ら3名の原職への復帰を妨害したことが支配介入にそれぞれ該当するとして、救済を申し立てた事案である。
 2. 請求する救済の内容の要旨
(1) 会社は、中田ら3名に対し、平成15年3月14日に行った同年2月28日以降の自宅待機処置を取り消し、速やかに原職に復帰させるとともに、同各処置がなかったならば同人らが受けるはずであった賃金相当額と既に支払った賃金の額との差額を算定し、その差額に年6分の割合による金員を付加して支払うこと。

(2) 会社は、全港湾神戸支部が平成15年3月3日に申し入れた中田ら3名の原職への復帰の条件を議題とする団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)に速やかに応じること。

(3) 海員組合は、会社と共同して中田ら3名の原職復帰を妨害して、もって全港湾神戸支部の活動に対して支配介入を行わないこと。

(4) 陳謝・誓約文の手交及び掲示。

第2 本件の争点
  1.  海員組合は使用者に該当するか。

  2.  会社が、中田ら3名に対して自宅待機を命じ、基準内賃金のみを支給し、賃金を減額したことは、不利益取扱い及び支配介入に該当するか。また、会社の行った上記措置が、海員組合の支配介入に該当するか。

  3.  中田ら3名の原職への復帰条件を議題とする全港湾神戸支部の折衝における会社の対応は、団体交渉拒否に該当するか。

第3 当事者の主張
 1. 申立人らの主張
(1) 海員組合の使用者性について(争点1)
 海員組合は、会社の設立に協力するなど、会社設立当初から会社と密接な関係にあること、海員組合が、会社の労務管理を掌握するために、海員組合の元役員2名を会社に送り込んだこと、平成12年には、会社の過半数の株式を所有して筆頭株主となったこと、同株式に基づいて、海員組合関西地方支部長代行であったTNを代表取締役専務に就任させ、上記元役員2名を常務取締役に就任させたこと、従業員の採用という労務管理上の重要事項について、会社に対して諾否の自由を有していること、会社が海員組合の所有する建物内に本社機能を移転したこと等の事実から、海員組合は、会社設立の経緯においても、人的、物的、資本的関係においても、さらには、現実の労務管理の面においても、実質的に会社を管理又は支配しており、雇用主ではないが、会社に対する実質的な影響力及び支配力にかんがみると、労働組合法第7条にいう使用者に当たることは明らかである。

(2) 不利益扱い及び支配介入について(争点2)
ア 中田ら3名が会社従業員としての地位を有することは裁判で確定したにもかかわらず、会社が、中田ら3名に対して、理由を示すことなく自宅待機を命じたうえ、勤務していないことを理由として、基準内賃金しか支給せず、同人らの賃金を大幅に減額したことは、中田ら3名が全港湾神戸支部本四海峡バス分会(以下「分会」という。)の幹部役員であることを理由とする不利益取扱いであるとともに、分会の弱体化を意図した支配介入に該当する。

イ 海員組合が、中田ら3名を職場に復帰させないと表明し続けている事実から、自宅待機を会社と共同して命じ、全港湾神戸支部の活動に対する支配介入を行っていることは明らかである。

(3) 団体交渉拒否について(争点3)
 会社は、全港湾神戸支部の団体交渉開催要求に応じるかのような対応を取っているが、実際には交渉の場において口頭で会社の方針を一方的に通告しているに過ぎない。しかも、全港湾神戸支部が会社の回答内容に沿った労働協約の締結を求めると、会社と全港湾神戸支部の間に労使関係はないとして、これを拒否している。また、会社は、中田ら3名の処遇について海員組合に一任しており、全港湾と海員組合との協議の結果に従うと表明している。以上のことから、会社が全港湾神戸支部との団体交渉を実質的に拒否していることは、明らかである。

 2. 被申立人らの主張
(1) 海員組合使用者性について(争点3)
 海員組合は、次のとおり主張する。
 海員組合は、資産面において、会社に対して本社事務所を賃貸している以外には何らの関係も有しておらず、会社従業員の賃金、労働時間等の労働条件は、会社と海員組合の交渉により決定されており、海員組合には使用者として会社従業員の労働条件を決定する権限はない。また、会社の経営は、全て会社が独自に行っており、海員組合は何ら関与していない。さらに、海員組合は、会社従業員の労働条件の改善めために、会社と対立する立場を保ち、団体交渉を行い、従業員の利益を実現してきている。
 以上のとおり、申立人らが主張するように、海員組合が、現実の労務管理の面においても、実質的に会社を管理または支配しているという事実は一切なく、海員組合は会社従業員の使用者には当たらない。

(2) 不利益扱い及び支配介入について(争点2)
ア 会社は、次のとおり主張する。
 運行便数の減少により会社の運転士は余剰状態にあり、中田ら3名は明らかな余剰人員となっており、会社の経営上、中田ら3名を勤務させる業務上の必要性がない。
 また、中田ら3名が失った賃金額とは、労務に服することによってはじめて生ずる賃金であって、中田ら3名は就労していないのであるから、就労を前提とする賃金が支払われないのは当然である。会社は、中田ら3名に対して、労働契約に基づく賃金を支払っており、何らの差別待遇も行っていない。
 したがって、会社には中田ら3名を勤務させる業務上の必要性がなく、会社の行った自宅待機措置は不当労働行為には当たらない。

イ 海員組合は次のとおり主張する。
 会社従業員の就労は、従業員と会社の間の契約上の義務履行の問題であって、海員組合は会社従業員の就労について何ら関係を有しない。海員組合は会社従業員らの労働条件の決定権や労働者に対する指揮命令権を有していないから、海員組合が、中田ら3名を職場復帰させないと表明するはずもないし、仮に一組合員が感情的な発言を行ったとしても、それは海員組合の行為ではない。

(3) 団体交渉拒否について(争点3)
 会社は、次のとおり主張する。
 会社は、全港湾神戸支部と何回も交渉を行っているが、交渉は双方の主張に大きな隔たりがあり、平行線のまま推移しており、このことをもって団体交渉拒否とする申立人らの主張は失当である。
第4 認定した事実
 1 当事者
(1) 全港湾神戸支部
 全港湾神戸支部は、港湾産業及びこれに関連する事業の労働者で組織する労働組合であり、審問終結時の組合員数は319名である。
 会社には、分会があり、分会員数は42名である。中田ら3名は分会の役員を務めている。

(2) 会社
 会社は、一般乗合旅客自動車運送事業を主たる業務としており、審問終結時の従業員数は、運転士及び整備士(以下「運転士等」という。)を含め116名である。
 なお、会社は、明石海峡大橋の供用に伴い事業規模の縮小等を余儀なくされる一般旅客定期航路事業者(以下「関係船会社」という。)が共同出資し、新規事業の開拓及び船員等の離職者の雇用確保を目的として、平成7年に設立されたものであり、会社の運転士等の大部分は、関係船会社に勤務していた船員であった者を会社が雇用したものである。

(3)海員組合
 海員組合は、海上労働者を中心とする全国組織の労働組合であり、審問終結時の組合員数は約29,000名である。
 2. 分会の結成と当時の労使関係
(1) ユニオン・ショップ協定
 海員組合と関係船会社が会社設立に力を合わせて取り組んだ経緯から、会社と海員組合との間にはユニオン・ショップ協定が締結されている。また、平成11年7月30日までは、会社の従業員である運転士等58名全員が、海員組合に所属していた。

(2) 分会の結成
 平成11年7月30日、海員組合の運営のあり方に不満を持った運転士等58名が、海員組合に連名で脱退届を提出し、同日、全港湾神戸支部に加入し、同年8月9日、分会を結成し、分会長中田、副分会長日野及び分会書記長板谷外、分会役員を選出した。

(3) 中田ら3名の解雇と団体交渉の申入れ
 平成11年8月6日、海員組合が、前記海員組合脱退の中心的な役割を担ったとして、中田ら3名を除名処分に処し、同日、会社に対して、ユニオン・ショップ協定に基づき解雇するように要請したところ、会社は、これを受けて、同月9日、中田ら3名を解雇し、同人らに解雇を通知した。
 そこで、全港湾神戸支部が、翌10日に分会結成通知書及び中田ら3名に対する解雇撤回申入書を、同月23日に団体交渉申入書を会社に送付したところ、会社はこれを受領したが、返答しなかった。
 なお、中田ら3名の解雇時の所属は、中田及び日野が洲本営業所、板谷が大磯営業所であった。
 3. 過去の不当労働行為救済申立ての経過
 平成11年9月20日、全港湾神戸支部は、当委員会に対し、前項(3)記載の団体交渉拒否を理由として不当労働行為救済申立てを行い[平成11年(不)第5号事件]、これに対し、当委員会は、平成12年6月20日、団体交渉応諾を命ずる救済命令を発した。
 上記命令に対する会社の再審査申立ては棄却され、さらに、会社が提起した再審査命令取消訴訟については第1審第2審とも棄却され、平成16年2月26日、最高裁判所は、会社による上告及び上告受理申立てに対し[最高裁平成15年(行ツ)第289号事件、最高裁平成15年(行ヒ)第308号事件]、上告棄却及び上告不受理の決定をした。
 4. 会社と海員組合の関係
(1) 会社と海員組合との労使協定により、会社の運転士として採用募集する者は、全て海員組合の組合員又は海員組合が認めた者でなければならないものと定められている。
(2) 海員組合は、平成12年3月31日、会社の株式の約55パーセントを所有して筆頭株主となった。
(3) 会社は、同年4月上旬、本社機能を海員組合の所有する建物内に移転した。
(4) 同年4月27日に開催された会社の臨時株主総会及び取締役会において、海員組合関西地方支部長代行であったTNが代表取締役専務取締役に、海員組合元執行部員であったID及びIUが常務取締役にそれぞれ選出された。
(5) なお、前記の同年6月20日に発せられた平成11年(不)第5号事件命令を受けて開催された全港湾神戸支部と会社との間の交渉では、海員組合のあくまで争うとの方針の下で、会社としては主体的な判断ができず、当事者能力がないと、会社の代表者らが発言する場面もあった。
 5. 賃金制度
 会社の運転士に支給される貸金は、基本給、勤務地手当、扶養手当、技能手当及び事務兼務手当からなる基準内賃金と日当及び職務手当(ともに業務のため出勤した日に応じて支給する)、宿泊手当、通勤手当、乗務員手当(走行距離に応じて支給する)及び割増賃金からなる基準外賃金をもって構成されている。
 6. 中田ら3名の原職への復帰の条件に関する折衝等の経過
(1) 中田ら3名は、神戸地方裁判所に対し、会社を被告として、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求める訴えを提起したところ[神戸地裁平成12年(ワ)第505号事件]、同地裁は、中田ら3名の請求を認容する判決を行った。これに対し、会社は、大阪高等裁判所に控訴を提起したが[大阪高裁平成13年(ネ)第3600号事件]、同高裁も控訴を棄却したため、さらに、会社が上告及び上告受理申立てを行ったところ[最高裁平成14年(オ)第1698号事件、最高裁平成14年(受)第1727号事件]、平成15年2月27日、最高裁判所は、上告棄却及び上告不受理の決定をした。
(2) 平成15年3月1日、上記(1)の最高裁判所の決定が、中田ら3名あてに送達された。同月3日、全港湾神戸支部の役員ら及び中田ら3名が会社の本社事務所に赴き、同人らの原職への復帰の条件を議題とする本件団体交渉の開催を申し入れたところ、常務取締役TK(以下「TK常務」という。)は、会社としての対応方針を同月14日に回答する旨答えた。
(3) 3月4日、TK常務は、全港湾神戸支部に対し、中田ら3名に関する3月14日までの処遇について、有給による自宅待機の扱いで賃金を支払うが、出勤は要しないものとする旨述べた。
(4) 同日、海員組合は、組合ニュースを会社各営業所に配布し、その中で上記(1)の最高裁判所の決定があった後も中田ら3名を職場復帰させず、会社内における分会の存在を認めないとする既定方針を堅持することを表明した。
(5) 3月14日の折衝において、TK常務は、全港湾神戸支部に対し、中田ら3名の従業員としての地位の確定を踏まえ、団体交渉を開催していること、同年2月28日以降の中田ら3名の処遇については従業員としての地位は認めるが、出勤はさせず、同人らに対し基準内賃金を支払うことなどを回答した。これに対し、全港湾神戸支部が、中田ら3名に対する上記措置の根拠について質したところ、TK常務は、中田ら3名に対する措置は会社の判断によるものであると答え、その根拠を明らかにしなかった。
 また、全港湾神戸支部が、中田ら3名の会社従業員としての地位の確認等を内容とする労働協約の締結を申し入れたところ、TK常務は、全港湾神戸支部と会社の間には労使関係が確立していないことを理由として、上記労働協約の締結を拒否した。
 さらに、TK常務は、全港湾神戸支部と会社の労使関係の確立に関する問題については、海員組合に対し、全港湾との協議により解決するよう依頼しているので、この問題については、全港湾神戸支部も全港湾に一任するよう求めたため、交渉は決裂した。
(6) 3月17日、全港湾神戸支部の組合員らが会社本社事務所を訪れ、TK常務に対し、中田ら3名の同年2月28日以降の賃金として示された額が、前記(3)の回答内容と異なる旨指摘したところ、TK常務は、同人らが会社都合による自宅待機中であることに基づき、同人らに対し、基準内賃金を支払うものであると説明した。
(7) 3月20日、海員組合が開催した会社徳島営業所の組合集会において、同組合執行部員は、今後も中田ら3名を職場復帰させることはないと表明した。
(8) 3月22日、会社から中田ら3名に対し、同人らの3月支給分の給与について、同人らの解雇時の基準内賃金に基づき算定した内容の給与明細書が送達された。同明細によると、中田ら3名の賃金は、解雇以前に比べて約41パーセントないし約48パーセントの大幅な減額となった。
(9) 3月25日、中田ら3名は、TK常務に対し、同人らに対する解雇処分を取り消すよう求め、自宅待機措置及び平成15年3月支給分賃金として平成11年度の基準内賃金相当額のみを支給したことについて就業規則上の根拠を質したところ、TK常務は、解雇処分の取消しについては前記(1)の最高裁判所決定に従っており、自宅待機措置については会社の経営及び業務上の必要性から会社が決定したもので、上記措置に基づいて労働契約上の賃金を支払った旨回答した。
(10) 4月4日の折衝において、TK常務は、全港湾神戸支部と会社の間に労使関係が確立していないことを理由として、労働協約の締結を拒み、全港湾神戸支部との労使関係の確立の問題については全港湾と海員組合の協議に委ねているとして、全港湾神戸支部との協議を拒否した。
 5月7日及び6月27日に開催された各折衝において、TK常務は、4月4日の折衝と同様の主張を繰り返した。
(11) 中田ら3名が、神戸地方裁判所に対し、会社を被告として、解雇期間中の賃金等のべ−ス・アップ分及び賞与の未払い分の支払いを求めて提起した事件[神戸地裁平成14年(ワ)第2221号事件]について、7月10日、同裁判所は、中田ら3名の請求を認容する判決を行った。会社は、上記判決に従って解雇期間中の未払い賃金等を支払い、平成15年7月分以降の賃金及び同年夏季賞与については、べ−ス・アップ分を加えた基準内賃金に基づき支払うとともに、すでに解雇時の基準内賃金で支払っていた同年3月分から6月分までの賃金について、差額分を7月25日に支払った。
 7. 中田ら3名に対する解雇後における会社採用状況等
(1) 中田ら3名の解雇後の平成11年から同14年にかけて、会社は計23名の運転士を採用し、その間の退職者は2名であった。
(2) また、中田ら3名が所属していた営業所等における平成15年3月から9月までの休日出勤の各月当り平均日数は、大磯営業所が約27日、徳島営業所が約58日、大阪支所が約8日であった。また、大磯営業所においては、上記期間、他の営業所から各月当り平均約14名の勤務人員の応援を受けていた。
第5 判断
 1. 海員組合の使用者性について(争点1)
 労働組合法第7条にいう使用者は、本来、労働契約上の雇用主を意味するが、それ以外の者でも、実質的に雇用主と同視できる程度に労働条件に関して現実的かつ具体的な支配力を有する者については、これを同条にいう使用者に含むものと解される。これを本件についてみると、@海員組合は会社の設立に協力したこと[第4の2の(1)]、A海員組合は会社の発行済株式総数の過半数を保有し、会社が本社機能を海員組合の所有する建物に移したこと[第4の4の(2)、(3)]、B元組合役員が代表取締役専務及び常務取締役に就任していること[第4の4の(4)]などの事実を総合して判断すると、海員組合が会社の経営面に対してある程度の影響力を有していることは否定できないところである。
 しかしながら、上記諸事情は、明石海峡大橋が建設されたことに伴う組合員の離職者救済のため、海員組合が会社の設立に関与したことから生じた事情であり、かつ、会社内において分会が結成されたために、組合間対立が激化したことから生じた事情であって、いずれも、海員組合が労働者の労働条件を直接に決定したり、労働者を直接指揮監督していたことをうかがわせるに足る事情ではない。
 また、申立人らは、会社と全港湾神戸支部との間の折衝において、会社の代表者らが会社は主体的な判断ができないと発言したこと[第4の4の(5)]をもって、海員組合の使用者性を裏付ける根拠である旨主張するが、この発言は、全港湾神戸支部と海員組合との組合間の対立、抗争の中で発生した言葉のやりとりにすぎず、その発言があったからといって、直ちに海員組合が会社と同視できる程度に労働者を支配していたということはできない。
 そして、会社と海員組合との労使協定により、会社の運転士として採用募集する応募者は海員組合の組合員等でなければならないと定められていること[第4の4の(1)]も、会社設立時の経緯から、海員組合の組合員等を優先的に会社従業員として採用するよう働きかけるものであって、このことも、申立人らの主張するように、海員組合が会社従業員の採用の決定権を有していると認めるべき事情ではない。
 以上検討したとおり、本件諸事情の下においては、いまだ海員組合が雇用主と同視できる程度に労働者の労働条件について現実的かつ具体的に支配力を及ぼしていたものと認めることはできないので、海員組合は、労働組合法第7条にいう使用者とは認められない。
 よって、申立人らの海員組合に対する申立てについては、これを却下する。
 2. 不利益扱い及び支配介入の有無について(争点2)
(1) 自宅待機措置の合理性
 会社は、中田ら3名に対する自宅待機措置の根拠として、人員に余剰を生じていたことを主張しているが、中田ら3名の解雇後、会社が新たに運転士を採用していることや、平成15年3月から9月にかけての中田ら3名の所属していた部署における従業員の休日出勤や他の営業所からの応援の状況[第4の1の(2)、7]をみる限り、人員に余剰を生じていたものとは認められない。
 よって、本件自宅待機措置は合理的な理由を欠くものであるといわざるを得ない。

(2) 不当労働行為の成否
 分会結成以降、分会役員である中田ら3名の解雇及びその解雇をめぐる中田ら3名と会社との間の最高裁判所に至るまでの裁判所での係争や会社が全港湾神戸支部との労使関係の確立を頑に認めないことに起因する団体交渉拒否をめぐる全港湾神戸支部と会社との間の労働委員会や裁判所での長年の係争などから、会社と全港湾神戸支部及び分会との間には、分会結成以降、厳しい対立・緊張関係が継続していること[第4の2、3、6]、中田ら3名は、分会結成の中心的存在であり、分会結成時には分会長等の分会役員に選出され、それ以降解雇されてからも、分会役員を務め、分会活動の中心的役割を担ってきていること[第4の1の(1)、2の(2)]及び上記(1)で判断したとおり、中田ら3名に対する自宅待機措置及びそれに伴う賃金減額措置について、合理的理由は認められないことなどの事実を併せ考えると、本件自宅待機措置及びそれに伴う賃金減額措置は、会社が分会の結成及び組合活動を嫌悪して行った不利益取扱いであるとともに、分会の弱体化を意図してなされた全港湾神戸支部に対する支配介入行為に当たるというべきである。
 
 3. 団体交渉拒否の有無について(争点3) 

会社は、平成15年3月3日、全港湾神戸支部からの本件団体交渉の申入れを受け、その後数回にわたって全港湾神戸支部との折衝を行ったことが認められる[第4の6]。そこで、このような折衝をもって団体交渉を行ったといえるかどうかについて検討する。
 まず、折衝における会社の姿勢をみるに、全港湾の存在を認め、団体交渉を行うとしながらも、会社と全港湾神戸支部の間には労使関係が確立していないとして、実質的に全港湾神戸支部を団体交渉の相手方として認めず、合意が成立したとしても協定書の作成については拒否するとの立場をとっている[第4の6の(5)、(10)]のであるから、このような姿勢で臨んでいる折衝を団体交渉と認めることはできない。
 また、折衝の内容をみても、本件団体交渉の申入れ事項については、会社の方針を繰り返し示すだけで、自宅待機措置の理由や基準内賃金のみを支給することについての根拠を一切説明しておらず[第4の6の(5)、(6)、(9)]、これをもって実質的な団体交渉が行われたものと認めることはできない。

第6 救済方法
  1.  自宅待機措置に伴う賃金減額措置の救済に当たっては、自宅待機措置がなかった場合に受けるはずであった賃金と既に支払われた賃金の額との差額を算定する必要があるが、中田ら3名の賃金が毎月一定していなかったこと、及び同人らが自宅待機を命じられたときは過去に受けた解雇処分により既に就労していなかったことを勘案し、中田ら3名の解雇前3か月間の平均賃金を基準にこれを算定するものとする。
     また、中田ら3名が自宅待機を命じられたのは、平成15年3月14日であるが、同年2月28日から同年3月13日までの間、会社が3名の処遇について検討するに際し、事実上、自宅待機の取扱いをしていることから、バック・ペイの開始時期は同年2月28日とすることとする。
     なお、申立人らは、バック・ペイへの年6分の割合による金員の付加を求めるが、これについては、年5分の割合による金員を付加して支払うよう命ずることが相当であると判断する。

  2.  申立人らは、本件救済の方法として、陳謝文の手交及び掲示をも求めているが、主文の程度をもって相当であると考える。
第7 法律上の根拠
 以上の認定した事実及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第27条並びに労働委員会規則第34条及び第43条の規定を適用して、主文のとおり命令する。
平成16年11月2日
                             兵庫県地方労働委員会
                                       会 長    安 藤 猪 平 次
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