平成15年8月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 早稲田 浩
平成15年(行コ)第94号 救済命令取消請求控訴審事件
(原審・東京地方裁判所平成14年(行ウ)第68号)
口頭弁論終結日 平成15年7月7日
                        判         決
  控訴人                            本四海峡バス株式会社
                                     代表者 代表取締役  川真田常男



  被控訴人                          中央労働委員会
                                     代表者 会長  山口 浩一郎

  被控訴人補助参加人                  全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
                                     代表者 支部執行委員長  馬越 輝光
                        主         文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、補助参加によって生じたものも含め、控訴人の負担とする。
                       事 実 及 び 理 由
(以下略語は原判決に準ずる。)

第1 控訴の趣旨
  1. 原判決を取り消す。
  2. 被控訴人が中労委平成12年(不再)第40号について、平成14年1月9日付けでした命令を取り消す。
  3. 控訴費用は、第1、第2審とも、被控訴人の負担とし、補助参加費用は、第1、第2審とも、補助参加人の負担とする。
第2 事案の概要
  1. 事案の概要
 被控訴人は、全日本海員組合(海員組合)との間において、従業員のうち運転手及び整備士(運転士等)について、海員組合に加入しない者又は組合員の資格を失った者を引き続き運転士等として雇用しないこと等を内容とす労働協約(本件協約)を締結したところ、控訴人の従業員である運転士等58名が海員組合を脱退して補助参加人に加入したため、中心となる3名に解雇を通告した(本件解雇)。これに対して補助参加人から団体交渉の申し入れがされたが、控訴人がこれを拒否したため、補助参加人が救済を申し立て(本件救済申立て)、兵庫県地方労働委員会(兵庫地労委)が控訴人の団体交渉拒否は不当労働行為に当たるとして救済命令をした(初審命令)。そこで、控訴人は、被控訴人に再審査の申立てをしたが、被控訴人がこれを棄却する旨の命令をした(本件命令)ことから、本件命令の取消しを求めて本件訴えを提起し、補助参加人が被控訴人に補助参加したものである。
 原審は、控訴人は正当な理由なく団体交渉を拒んでおり不当労働行為に当たるから、本件命令は適法であるとして、控訴人の請求を棄却したため、控訴人が控訴した。
  1. 前提事実等及び争点
 次のとおり当審における控訴人の主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第2の1及び2のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決3頁10行目の「(乙5)」を「(乙57)」に、同4頁8行目の「甲19」を「乙19」に、同5頁17行目の「対しの」を「対し」に、同9頁14行目の「11回」を「多数回」に、それぞれ改める。)。
(1) 控訴人が、海員組合等による長い架橋闘争を経て誕生した会社であることは、衆人が認めるところである。控訴人は、一般の営利会社ではなく、本州四国連絡橋の建設に伴う一般旅客定期航路事業等に関する特別措置法(本四特別措置法)に基づき、離職者対策の一助として設立された特殊な会社であり、海員組合が平成12年5月時点で発行済み株式の54%を保有し、平成10年4月の営業開始時におけるバス運転士は、明石海峡大橋の開通に伴って影響を受ける一般旅客定期航路事業者十数社に勤務していた元船員で、全員が海員組合の組合員であり、海員組合の組合員であることを前提に控訴人に採用された者である。海員組合が、本四特別措置法の制定及び控訴人の設立に果たした役割は大きかったことから、控訴人は、海員組合との間で、クローズド・ショップ制を定めた本件協約を締結したものである。現在でも離職した約400名が控訴人への雇用を希望しており、今後の欠員の補充についても、海員組合の協力が不可欠である。
 最高裁昭和24年4月23日判決(刑集3巻5号592頁)は、クローズド・ショップ制の限定を設けた場合に組合が組合員を除名した時は、別段の事情がない限り、使用者は被除名者を解雇すべき義務があるとして、その有効性を認めており、上記のような控訴人設立の経緯及び控訴人の特殊な性格に照らすと、本件協定の解釈、適用について、ユニオン・ショップ協定に関する判例の一般理論を適用するのは妥当ではなく、クローズド・ショップ協定の締結組合を脱退し、他の組合に加入した者の団結権は、控訴人内においては否定されるべきである。
(2) ユニオン・ショップ協定に関する最高裁昭和50年4月25日判決(民集29巻4号456頁)及び同平成元年12月14日判決(民集43巻12号2051頁)の解釈は、ユニオン・ショップ協定の機能を不当に軽視するものであって、正当ではない。労組法7条1項但書は、ユニオン・ショップ協定を有効とするものであり、労働者の団結する権利(積極的団結権)が団結しないことの自由(消極的団結権)よりも高次元の権利であることを認めるとともに、ユニオン・ショップ協定を締結している労働者の団結権(団結における権利)の労働者個人の持つ団結権(団結への権利)に対する優位を保障したものである。ユニオン・ショップ協定は、憲法28条の精神に合致し、労組法が明文を持って認めた団結強制の一手段であり、その機能を重視すれば、被除名者あるいは理由なく脱退した者に対する解雇は、基本的に有効になし得ると解すべきである。
(3) 補助参加人は、平成11年8月9日付け組合結成通告書(乙23)において、控訴人に対し、団体交渉事項として、補助参加人との間でユニオン・ショップ協定を締結することを求めているが、これは控訴人の存立趣旨を損なう事項であり、これに全く応じることができないことは一見して明らか事項であり、控訴人が、上記事項に関し補助参加人との団体交渉に応じなかったことには、やむを得ない事情がある。
(4) 補助参加人がその所属組合員であると主張している控訴人の従業員につき、海員組合からの脱退の意思が明確になっているとは認められないし、補助参加人への加入手続きが行なわれているとは認め難い。これらの者が個別に書面で脱退届を出すという手間を拒んでいるのは、真に補助参加人に加入する意思はなく、様子を窺い、中田らに従っているだけである。したがって、上記の者らが明確な態度を示さないのに、控訴人が、補助参加人の組合員として求めてきている団体交渉を受け入れないことには、正当な理由がある。
(5) 本件命令において、交渉事項とされた中田ら3名の解雇問題については、平成15年2月27日判決確定により既に解決済みである。
(6) 控訴人は、初審命令後、補助参加人からの申し入れを受け、多数回にわたって折衝(交渉)を実施し、対処できる部分は対処してきたのであり、実質的には団体交渉を行ってきている。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所も、本件命令は適法であり、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであると判断する。その理由は、次のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか、原判決の「事実及び理由」第3に説示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決12頁3行目の「民法90条により」を「民法90条を適用の上、解雇権の濫用として」に、同24行目の「神戸地労委」を「兵庫地労委」に、同13頁11行目の「11回」を「多数回」に、それぞれ改める。)。
  1. 控訴人は上記第2の2(1)及び(2)のとおり主張する。
 まず、ユニオン・ショップ協定は、労働者が労働組合の組合員たる資格を取得せず、又はこれを失った場合に、使用者をして当該労働者との雇用関係を終了させることにより間接的に労働組合の組織の拡大強化を図ろうとするものであるが、一方において、労働者には、自らの団結権を行使するため労働組合を選択する自由があり、また、ユニオン・ショップ協定を締結している労働組合の団結権と同様、同協定を締結していない他の労働組合の団結権も等しく尊重されるべきであるから、ユニオン・ショップ協定が、労働者の労働組合選択の自由及び他の労働組合の団結権を侵害する場合には、民法90条により無効と解すべきである(上記平成元年最高裁判決参照)。
 次に、原判決が説示するとおり、本件協約をクローズド・ショップ制を定めた協定と解することはできず(控訴人が当審で提出する甲第74号証、同第75号証によっても、上記認定は左右されない。)、また、この点を措くとしても、クローズド・ショップ協定締結組合が存する会社であっても、労働者の労働組合選択の自由及び他の労働組合の団結権は等しく尊重されなければならないから、クローズド・ショップ協定締結組合を脱退し、他の労働組合に加入した者の団結権を否定することは許されないというべきである。
 そして、会社内に2つの労働組合が併存する場合、会社側がユニオン・ショップ協定又はクローズド・ショップ協定を締結した組合とのみ団体交渉を行い、他の労働組合との団体交渉を拒否することは、他の労働組合の団体交渉権を侵害するとともに、これに所属する労働者に対する差別待遇となることは明らかである。本件において、補助参加人に所属する中田ら3名に対する解雇が無効であり、控訴人内に2つの労働組合が併存しており、控訴人が補助参加人との団体交渉を拒否したのであるから、これが不当労働行為に当たることはいうまでもない。この点に関し控訴人は、会社設立の経緯、会社の特殊な性格等を主張するが、本件における不当労働行為性を否定すべき事由には当たらない(控訴人が引用する昭和24年最高裁判決の判示部分は、除名された組合員が他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した場合に関するものではなく、本件に適切でない。)。
 したがって、同(1)及び(2)の主張は採用できない。
  1.  控訴人は、同(3)のとおり主張するが、使用者において、交渉事項に関し労働組合の申し入れに応じる意思のないことが明らかであるとしても、これをもって団体交渉を拒む正当な理由とすることはできないから、同主張は採用できない。
  1. 控訴人は、同(4)のとおり主張する。
 しかし、原判示のとおり、本件脱退届につき、各署名者の脱退意思に疑義を抱くべき事由は認められず、各署名者の脱退意思は少なくともその大多数において明確であると認められるから、同主張は採用できない。
  1. 控訴人は、同(5)及び(6)のとおり主張する。
 しかし、本件命令後に事情が変更したとしても、これにより本件命令が違法となるものではない。また、原判示のとおり、初審命令後本件命令までの間における控訴人の補助参加人に対する面接、折衝などは、補助参加人との間で一定の労使間合意の形成に向けた協議を行う意思もって行われていたものではなく、およそ団体交渉と認めることはできない。
 したがって、これらの主張は、採用できない。
  1.  その他控訴人は、当審において、るる主張するが、本件命令は適法であるとする上記判断を左右するものではない。
 よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第11民事部
                                裁判長裁判官       大 藤   敏
                                    裁判官        高 野  芳久
                                    裁判官        戸 田   久


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