命  令  書
 
    再審査申立人                      本四海峡バス株式会社
                                     代表者 代表取締役社長  川真田 常男

    再審査被申立人                    全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
                                     代表者 支部執行委員長  馬越 輝光





 中労委平成12年(不再)第40号事件(初審兵庫地労委平成11年(不)第5号事件)について、当委員会は、平成14年1月9日第1346回公益委員会議において、会長公益委員山口浩一郎、公益委員小野旭、同岡部晃三、同西田典之、同諏訪康雄、同菊池信男、同横溝正子、同落合誠一、同若林之矩、同曽田多賀、同林紀子、同上村直子出席し、合議の上、次のとおり命令する。

                          主    文
本件再審査申立を棄却する。
                     理     由
第1 事案の概要
1 本件は、再審査申立人本四海峡バス株式会社(以下「会社」という。)の従業員のうち運転士及び整備士58名全員が、会社とユニオン・ショップ協定を締結している申立外全日本海員組合(以下「海員組合」という。)を脱退して全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)に加入したところ、会社が、海員組合から組合員を脱退させた首謀者として除名処分とされた中田良治、日野隆文及び板谷節雄(以下「中田ら3名」という。)を、ユニオン・ショップ協定に基づく措置要請を受けて解雇したため、再審査被申立人全日本港湾労働組合関西地方神戸支部(以下「全港湾神戸支部」という。)から、平成11年8月9日付けで、解雇撤回等の要求を議題とする団体交渉を申し入れられた(以下「8.9団交申入れ」という。)が、会社がこれに応じなかったことが不当労働行為であるとして、同年9月20日に救済申立のあった事件である。
2 初審兵庫県地方労働委員会(以下「兵庫地労委」という。)は、平成12年6月20日、上記申立てが不当労働行為にあたるとして、会社に対して、全港湾神戸支部から同11年8月9日付けで申入れのあった解雇撤回要求等を議題とする団体交渉に誠意をもって応じることを命じ、誓約文の掲示に係る救済申立てを棄却した。
 会社は、これを不服として、同12年7月4日、再審査を申し立てた。
第2 当委員会の認定した事実

 1 当事者等
(1) 会社は、肩書き地に本社を置き、一般乗合旅客自動車運送事業を主たる業務としており、初審審問終結時の従業員は、運転士及び整備士(以下「運転士等という。)64名を含め100名である。
 なお、会社は、明石海峡大橋の供用に伴う影響により事業規模の縮小等を余儀なくされる一般旅客定期航路事業者(以下「関係船会社」という。)が共同出資し、新規事業の開拓及び船員等の離職者の雇用確保を目的として、平成7年に設立されたものであり、同10年4月の開業開始時の従業員は83名で、このうち運転士等の大部分は、関係船会社に勤務していた船員等を会社が雇用したものである。
(2) 全港湾神戸支部は、港湾産業及びこれに関連する事業の労働者で組織する労働組合で、本件再審査審問終結時の組合員は、321名である。
(3) 海員組合は、海上労働者を主体とする全国組織の労働組合で、本件再審査審問終結時、会社の発行済株式総数の約55%を保有している。
 2 海員組合脱退から全港湾加入までの経緯
(1) 平成10年6月26日、会社と海員組合とは、運転士等に限定して、その効力を同年4月1日からとするユニオン・ショップ制を定める労働協約を締結していた。
(2) 平成11年7月13日、運転士等2名は、全港湾神戸支部の事務所を訪れ、全港湾神戸支部の池内則行書記長(以下「池内書記長」という。)らに対し、当時加入していた海員組合の協約闘争及び一時金闘争における会社に対する対応への不満、海員組合内部の情報が会社に筒抜けになることへの不信感などから、運転士等58名全員が海員組合を脱退する意思を固めたので、脱退後、全港湾に受け入れて欲しい旨申し入れた。これに対し、池内書記長は、運転士等の意思を再確認するために運転士等の間で相談を重ねることを勧め、また、全港湾としては海員組合との協力関係もあるので、運転士等を受け入れるとの即答はできない旨回答した。
 同月22日、運転士等4、5名が、再度全港湾神戸支部の事務所を訪れ、池内書記長らに対し、相談の結果、運転士等全員の意思は変わらず、海員組合を脱退するので全港湾に受け入れて欲しい旨を強く要望した。
(3) 平成11年7月30日、運転士等58名全員が、「私達一同は貴組合の活動方針に対し賛同できず、これ以上貴組合に留まる事は出来ませんので、ここに本書を以って脱退するこ事を届出致します。」と記載した脱退届に連名で署名して、これを海員組合に提出し、同日、全港湾に加入した。
 同日、池内書記長は、海員組合関西地方支部藤丸副支部長と面会し、運転士等の海員組合脱退及び全港湾への加入と、併せて分会結成を8月9日と予定しているので、その間の海員組合への復帰オルグは認める旨を伝えた。
(4) 平成11年8月6日、海員組合関西地方支部長は、海員組合組合長に対し、運転士等58名の脱退届に関して調査を行った結果、中田ら3名が本件脱退届提出の首謀者であると認定したので、脱退届に関して一部書類に不備はあるものの同人らの組合脱退承認を要請する旨の文書を提出した。また、同日、海員組合沿海・港湾局長は、海員組合組合長に対し、中田ら3名の除名処分を要請する旨の文書を提出した。
 同日、海員組合組合長は、上記の要請を受けて中央執行委員会を開催し、同委員会は中田ら3名の除名処分を決定した。
 これを受けて、海員組合関西地方支部長は、会社に対し、同日付け文書で、同処分を通知するとともに、労働協約第4条(ユニオン・ショップ制)に基づき中田ら3名の措置を要請した。また、中田ら3名に対しては、8月10日付けの組合統制違反処分決定通知書で、同月6日付け除名処分を通知した。 
(5) 平成11年8月9日、全港湾に加盟した運転士等が、全日本港湾労働組合関西地方神戸支部本四海峡バス分会(以下「分会」という。)を結成し、分会長に中田、副分会長に日野及び分会書記長に板谷ほかの分会役員を選出した。 
 3 8.9団交申入れ等
(1) 平成11年8月9日朝、会社は、中田ら3名に対し、海員組合からユニオン・ショップ協定に基づく措置要請を受けたことを理由に同日付けで解雇する旨、文書で通告した。
 同日午後1時ころ、全港湾神戸支部は、会社に対し、分会結成の通告と組合活動についての協定事項、労働条件についての緊急要求事項及び中田ら3名あての解雇通知の撤回を交渉事項(以下「8.9団交申入れ事項」という。)とする団体交渉の申入れをするため、会社の事務所を訪れた。しかし、事務所入り口の社名プレートには白い紙が貼られ、ドアには「締切り」と書いた紙が貼られて、事務所は閉鎖されており、会社の電話は営業を終了した旨のテープが流れるのみで、全港湾神戸支部は、会社との連絡を取ることができなかった。
 そこで、翌10日、全港湾神戸支部は、会社に手渡すことのできなかった、分会役員と分会員全員の名前を記載した「ご通知」、団体交渉の申入れを兼ねた「組合結成通告書」等の書面を配達証明付き書留郵便で会社に送付した。しかし、会社は、同日中にこれを受領したものの何ら返答をしなかった。
(2) 平成11年8月13日、全港湾神戸支部は、兵庫地労委に対し、会社を被申請人として団体交渉開催を申請事項とするあっせん申請をした。
(3) 平成11年8月18日、中田ら3名は、同人らの解雇問題について、神戸地方裁判所(以下「神戸地裁」という。)に、会社に対して地位保全及び賃金仮払いの仮処分を求める申立てをした。
 また、全港湾神戸支部は、同地裁に、会社に対して団体交渉を求める仮の地位を定める仮処分を求める申立てをした。
(4) 平成11年8月23日、会社が上記(2)のあっせんに応じないとの態度を示したため、あっせんは打ち切られた。そこで、同日、神戸支部は、会社に対し、再度、8.9団交申入れ事項の開催を求める「団体交渉開催要求書」を内容証明郵便で送付した。しかし、会社は、翌日にこれを受領したものの何ら返答をしなかった。
(5) 平成11年9月中旬ころ、全港湾神戸支部は、分会員43名が各人別に作成した海員組合の組合費のチェック・オフを中止して全港湾の組合費のチェック・オフを求める文書を会社に郵送した。
 なお、このころまでに、14名の分会員が、海員組合の復活オルグにより全港湾を脱退し、海員組合に復帰していた。
(6) 平成11年9月20日、全港湾神戸支部は、兵庫地労委に対し、同年8月9日付けで申し入れた団体交渉の応諾及び誓約文の掲示を求めて本件救済申立てをした。
 4 本件初審申立て後の経過
(1) 平成11年10月12日、会社は事務所を再開した。
 同日、全港湾神戸支部が8.9団交申入れ事項の団体交渉の開催を求めて上記事務所を訪れたところ、ドアは「許可無く立ち入りを禁止します」と書いた紙が貼られて施錠され、それまでになかったインターホンが設置されていた。
 全港湾神戸支部は、インターホンで会社に面会を求めたが応答がなかったため、事務所前にいた本店支配人のID(以下「ID支配人」という。)及び同副支配人のIU(現常務取締役。以下「IU副支配人」という。)に「団体交渉を設定すべく、協議したい」旨申し入れた。しかし、両名は、「組合結成の通告や団交の申入れが来ていることは承知しているが、会社と労使関係を持つ海員組合が組合員の脱退を認めていないので、全港湾を認めるわけにはいかない。労使関係は持てない。」旨返答し、全港湾神戸支部が持参した分会役員と分会員計44名全員の名前を記載した「ご通知」及び団体交渉申入書の受取を拒否した。
 翌日、全港湾神戸支部が、同書面を配達証明郵便で会社に送付したところ、会社は、この書面を未開封のまま返送した。
 なお、ID支配人及びIU副支配人は、海員組合の元組合員であったが、平成11年10月1日、会社に労務担当社員として採用された。
(2) 平成11年10月12日から15日まで、全港湾神戸支部は、団体交渉申入れのため連日会社の事務所を訪れた。
 このうち13日、14日の両日には会社の従業員である分会員数名が同行し、事務所前で対応するID支配人及びIU副支配人に対し、全港湾の組合員である旨を主張したが、ID支配人は、「海員組合が脱退を認めていない以上、皆さんは海員組合の組合員です。」旨返答し、同人らが全港湾の組合員であることを認めなかった。
(3) 平成11年10月15日、会社は、全港湾神戸支部の団体交渉申入れに対して、22日に検討の上回答すると答えた。
 同月22日及び25日、上記の会社回答を受けて、全港湾神戸支部と会社の間で事務折衝が行われた。しかし、会社が、中田ら3名の解雇問題について解雇を撤回する意思がなく団体交渉を実施しても無駄であること及び海員組合が中田ら3名以外の組合員の脱退を認めていない以上、会社従業員の中に全港湾の組合員がいるとの認識を持っていないので、団体交渉には応じられないとの主張に終始したため、結局、事務折衝は物別れに終わった。
 なお、会社は、この事務折衝に先立ち、平成11年10月22日付けで、「海員組合が脱退を認めていない状態の中で、会社が脱退を認めることは労使関係のルールからいってできません。」などと記載した『全港湾支部との関係について』と題する文書を従業員の自宅に郵送していた。
(4) 平成12年1月31日、神戸地裁は、中田ら3名に係る地位保全等仮処分命令申立事件について、同申立を容認し、会社に賃金仮払いを命じた。
 同年3月14日、同地裁は、全港湾神戸支部の団体交渉を求める地位保全仮処分申立事件について、同申立てを容認した。
(5) 平成12年6月20日、兵庫地労委は、本件救済申立てについて、会社に対して8.9団交申入れに応じるよう命じる一部救済命令(以下「地労委命令」という。)を発したところ、同年7月4日、会社はこれを不服として当委員会に再審査を申し立てたことは、前記1の2記載のとおりである。
(6) 平成12年6月30日、会社は、全港湾神戸支部からの「地労委命令に従い、団体交渉を設定せよ」との申入れに対し、折衝の名目で話し合いに応じた。この席上、会社は、「会社には問題を解決する当事者能力がない」などとして、団体交渉には応じられない旨回答した。
 同日以降、本件再審査結審時までに、両当事者間で、十数回の折衝が行われている。
 この折衝について、本件再審査第1回審問において、TN代表取締役専務(以下「TN専務」という。)は、「団体交渉は開催されるものなのかどうかの判断をするための意見交換をしている段階」、「団体交渉そのものではない」旨証言している。
(7) 平成12年7月31日、全港湾神戸支部は、会社及び海員組合に対し、地労委命令の受入れ等を議題とする団体交渉を申し入れた。
(8) 会社は、全港湾神戸支部に対し、同年8月29日付け「回答メモ」で、8.9団交申入れ事項について「従業員に全港湾組合員が存在するとの認識はない。したがって、全港湾とは労使関係にないので、協定を拒否する」、「中田ら3名の解雇撤回の意思はない」旨、回答した。
 これに関連して、本件再審査第1回審問において、TN専務及びIU副支配人は、「会社の従業員の中に全港湾の組合員はいない」旨、同じくIU副支配人は、「会社と全港湾には労使関係はなく、組合員がない全港湾と協定を締結する意味はない」旨証言している。
 その後、会社と全港湾神戸支部との間には、8.9団交申入れ事項を含め、いかなる労使間協定も締結されていない。
(9) 平成13年10月1日、神戸地裁は、中田ら3名に係る労働契約上の地位確認等請求事件について、同人らの地位確認と会社に毎月の賃金の支払いを命じる判決を言い渡し、また、全港湾神戸支部及び全日本港湾労働組合関西地方本部の団体交渉を求める地位確認請求事件事件について、全港湾神戸支部らの団体交渉を求め得る地位にあることを確認する判決を言い渡した。
第3 当委員会の判断

 1 会社の主張
(1) 会社は、従業員中に全港湾の組合員が存在しているとは認識していない。すなわち、全港湾の組合員であると主張する従業員(以下「運転士ら」という。)は、海員組合に対して手続きが定める脱退届を個別に提出していない以上、脱退の意思を明確に表示しているとはいえず、したがって、必然的に、重複して組合に加入することを認めていない全港湾に加入する適正な手続きも取られていないことになる。よって、現時点では同人らが真に全港湾の組合員であるとは認められないのであって、従業員中には全港湾の組合員が存在しないこととなるから、運転士らが全港湾の組合員であるとして求めている団体交渉に応じないことには正当な理由がある。
(2) 会社は、中田ら3名の解雇問題について撤回の意思がないことを明確にしており、そのことは会社のみならず、被解雇者の中田ら3名自身も認識して、団体交渉等による解決は不可能と判断したからこそ解雇無効を法的に争っている。また、全港湾神戸支部も、最近の事務折衝においては、同問題を積極的に取り上げてはおらず、現時点では同問題を団体交渉事項とは考えていないと見受けられる。
 そもそも、中田ら3名の解雇問題は、ユニオン・ショップ協定に関する労働組合間の見解の相違によって発生した紛争であり、労働組合間の紛争が解決しなければ解決し得ない事項である。その意味で会社は処分権を有しないのであり、したがって、同解雇問題は団体交渉事項ではない。
(3) 中田ら3名の解雇問題以外の交渉事項については、初審命令交付後、会社は全港湾神戸支部からの申入れによる交渉を拒否したことはなく、全港湾神戸支部が求めている団体交渉事項については既に団体交渉が行われている。
 また、全港湾神戸支部が団体交渉を求めている労働条件に関しては、要求している以上の条件で既に実施しているものもあり、就業規則に明記されているものも多い。これらの労働条件に関して全港湾神戸支部から不服申立てを受けたことは一切なく、現時点で、全港湾神戸支部が団体交渉を行う実益は認められない。
 2 よって、以下判断する。
(1) 前記第2の3の(1)、(4)及び同4の(1)ないし(3)認定のとおり、会社は、全港湾神戸支部からの8.9団交申入れに対して、団体交渉申入書を受領しながら何ら返答せず、あるいは団体交渉申入書の受領自体を拒否するなどして、一貫して団体交渉に応じていない。
イ 会社は、団体交渉拒否の理由として、従業員中に全港湾の組合員が存在するとは認められない旨主張するので、この点について検討する。
 まず、運転士らの海員組合脱退から分会結成までの経緯等についてみると、前記第2の2の(3)、(5)及び3の(1)認定のとおり、平成11年7月30日、運転士らは、海員組合に対し連名で署名した脱退届を提出したうえで、同日全港湾に加入し、その後、同年8月9日、分会を結成して分会役員を選出していること、翌10日に全港湾神戸支部は、会社に対し、分会結成を通告する書面や分会役員ほか分会員全員の名前を記載した書面を送付していることが認められる。さらに、同3の(5)及び同4の(2)認定のとおり、全港湾神戸支部は、分会員である運転士らが各人別に作成した、海員組合の組合費のチェック・オフの中止及び全港湾の組合費のチェック・オフの実施を求める文書を郵送していること、数名の運転士らが全港湾の組合員として全港湾神戸支部の団体交渉申入れに同行していることが認められる。
 これらのことからすれば、運転士らは、海員組合を脱退し、全港湾に加入して分会を結成し、その分会員として活動していることは明らかであるから、従業員中に全港湾の組合員が存在するとは認められないとの会社主張は採用できない。
ロ 次に、会社が、運転士らが全港湾の組合員とは認められない根拠として主張している、運転士らの海員組合からの脱退手続きが適正ではないので全港湾への加入手続きも適正でないとの点について検討する。
 前記第2の2の(3)認定のとおり、運転士等58名は、連名の組合脱退届を海員組合に提出しているのであって、各人が脱退の意思を明確にしたものと認められる。このように、各組合員から組合脱退の意思が組合に対して明確に表示されたと認められる場合には、組合の手続きが定める個別の脱退届を提出していないからといって、組合脱退の効力が否定されるもではない。そして、同2の(3)認定のとおり、運転士らは、海員組合に連名の脱退届を提出した日に全港湾に加入したのであるから、全港湾への加入手続きは適正に行われたものと認められる。したがって、上記会社の主張は採用できない。
ハ なお、前記第2の4の(1)ないし(3)の認定からすると、会社が全港湾の組合員の存在を認めない理由には、「会社と労使関係を持つ海員組合が組合員の脱退を認めていないので、全港湾を認めるわけにはいかない」との趣旨もあると思われる。しかし、このことが団体交渉を拒否する正当な理由に当たらないことはいうまでもない。
 よって、会社が8.9団交申入れに応じないことは正当な理由を欠くものであり、会社の上記1の(1)の主張は採用できない。
(2) 次に、中田ら3名の解雇問題については同人らも全港湾神戸支部も団体交渉事項とは考えていない、あるいは、同問題については会社には処分権がないのであるから団体交渉事項とはいえない旨の会社の主張について検討する。
 前記第2の3の(3)、4の(4)及び(9)認定のとおり、中田ら3名は、解雇問題について民事訴訟を提起している。しかし、裁判等の司法手続と団体交渉とは、労使間の紛争の解決手段として、その目的や機能を異にするもにであるから、中田ら3名が民事訴訟を提起することによって、団体交渉を行う実益が失われるものではない。他に、会社から、全港湾神戸支部らが同問題を団体交渉事項と考えていないとする格別の疎明はない。よって、この点に関する会社の主張は採用できない。
 また、同2の(4)及び3の(1)認定の経緯を経て、会社は、中田ら3名に解雇通告を行っている。海員組合からユニオン・ショップ協定に基づく措置を要請されたものであっても、同人らの解雇を決定し、通告したのは会社自身であり、同人らの解雇撤回等についても、その対応は会社自身が判断すべき事柄であって、同問題について処分権を有していないとの会社の主張は認められない。ユニオン・ショップ協定に基づく中田ら3名の解雇の効力について、会社と全港湾神戸支部及び中田ら3名の間で争いがあるとしても、全港湾神戸支部が解雇問題の解決のために団体交渉を申し入れているのであるから、会社は同問題について誠実に交渉に応ずるべきであり、解雇撤回の意思がないからといいって、同問題について会社の団体交渉義務がなくなるものではない。
 したがって、中田ら3名の解雇問題は団体交渉事項には当たらないとの上記1の(2)の主張は採用できない。
(3) さらに、会社は、中田ら3名の解雇問題以外の団体交渉事項については既に団体交渉が行われているなどと主張しているが、初審命令交付後においても会社が団体交渉に応じた事実は認められない。
 また、前記第2の4の(6)で認定した会社と全港湾神戸支部との折衝についてみるに、会社は、その折衝においても問題解決の当事者能力がない旨発言しているほか、全港湾神戸支部と一定の合意形成に向けて協議がなされたと認めるに足りる格別の疎明はなく、団体交渉開催のための事務折衝の域を出ないものといわざるを得ない。
 なお、この点については、再審査の審問において、TN専務が、「団体交渉は開催されるものなのかどうかの判断をするための意見交換をしている段階」、「団体交渉そのものではない」旨発言していることからも明らかである。
 以上のことからすれば、会社が上記折衝を団体交渉と認識していたとは解しがたく、また、同4の(8)認定の平成12年8月29日付け回答メモ、第1回審問におけるTN専務及びIU副支配人の証言、及び会社の上記1の(1)の主張によれば、会社が、従業員中に全港湾の組合員の存在を認めていないことは明らかであり、このような姿勢で臨んでいる折衝を団体交渉と認めることは到底できない。
 したがって、団体交渉を行ったとする会社の主張は採用できず、また、ほかに団体交渉を行う実益が失われたと認めるべき疎明はない。
 以上のとおりであるので、会社は、中田ら3名の解雇問題を交渉事項に含む8.9団交申入れについて正当な理由なく拒否しているのであるから、これを労働組合法第7条第2項に該当する不当労働行為であると判断した初審命令は相当であり、会社の再審査申立てには理由がない。

 よって、労働組合法第25条及び第27条並びに労働委員会規則第55条の規定に基づき、主文のとおり命令する。

   平成14年1月9日

                                         中央労働委員会
                                            会長   山 口  浩 一 郎


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